鷲は舞い降りた
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『鷲は舞い降りた』(わしはまいおりた、英:The eagle has landed)は1976年に発表されたジャック・ヒギンズの小説。英米において発売直後からベストセラーとなり当時の連続1位記録を塗り替えた。
「鷲が舞い下りる」とは第二次世界大戦のドイツ空軍の降下猟兵(Fallschirmjäger)が降下に成功した事を指す作戦用語である(あくまで物語上の約束)。1943年9月に成功したムッソリーニ救出作戦を背景として現実の事件や人物を織り込みながら壮大な物語を展開させる「ヒギンズ節」の傑作。翌年の1976年にはマイケル・ケイン、ドナルド・サザーランド、ロバート・デュヴァルらが出演した同名の映画も公開された(映画邦題の表記は「鷲は舞いおりた」)。
1991年には長編50作を記念して、この小説の続編である「鷲は飛び立った」が発表された。
注意:以降の記述で物語・作品・登場人物に関する核心部分が明かされています。
[編集] 物語
イギリスのノーフォークにある田舎町でジャック・ヒギンズは教会の墓地に隠されていた墓石を発見する。そこには「1943年11月6日に戦死せるクルト・シュタイナ中佐とドイツ降下猟兵13名、ここに眠る」と刻まれていた。奇妙な墓銘碑の真実を探す旅を続けたヒギンズはありえない事実にたどり着く。時代は第二次世界大戦まで溯る。
大戦末期、ドイツの敗色が濃厚の中で山頂ホテルに幽閉されていたベニート・ムッソリーニをオットー・スコルツェニーの指揮する空軍降下猟兵部隊と親衛隊特殊部隊が救出した一件はアドルフ・ヒトラーを狂喜させ、宿敵ウィンストン・チャーチルの誘拐を口にさせる。最高権力者の一言だけに作戦課はプランを立てるが肝腎のチャーチルの予定が分らないというお粗末さであり、あくまで絵に描いた餅に過ぎなかった。しかし、英国に潜伏中のスパイがチャーチルが田舎で休暇を過ごす予定があり、日時と宿泊場所を具体的に連絡してくる。ここから偶然が重なる形で幾つかの条件が引き寄せられ、運命の歯車が回り始める。
空からの機動性を生かして実行部隊を輸送するとしても、敵国での潜入活動のため現地のスパイと協力できる工作員が不可欠であり、ベルリンで保護していたアイルランド共和軍(IRA)のリーアム・デブリンに白羽の矢が立てられる。デブリンはいつか来る死を予感しながら祖国アイルランドの独立を夢見ていた。物資の調達も終わり、最後に作戦を指揮する男が指名される。
「非常に頭が良くて、勇気があって、冷静で、卓越した軍人 - そして、ロマンテックな愚か者だ」。名も知らぬユダヤ人の少女を助けた行為はクルト・シュタイナ中佐を自殺同然の特攻作戦へ導く。北海の岸頭を前にして死が訪れるまでの時間も微笑をたたえながら悠然と過ごすシュタイナのもとへハインリヒ・ヒムラーの使者とデブリンが訪れる。
チャーチルの誘拐、不可能ならば射殺という戦争とは関係のない愚かな決断が何も生まないと知りながら、シュタイナ中佐と13人の部下(と1人の狡猾なヒムラーのスパイ)は作戦開始の日を迎えて輸送機から嵐の夜空へ飛び出していく。己の最期まで誇りを失わず空をいく鷲の如く。
1973年の「死にゆく者への祈り A Prayer for the Dying」で注目の的であったヒギンズの名を不滅たらしめた本作には、魅力的なフレーズがある。明晰な君がなぜ行くのかと聞かれたデブリンは「私が最後の冒険者だからだ」とシュタイナに答えている。
[編集] キャラクター
- ドイツ空軍降下猟兵(落下傘部隊)
- クルト・シュタイナ
- この物語の主人公。空軍降下猟兵中佐。ドイツ陸軍少将の父とアメリカ人の母を持ち、若い頃は芸術家を志していたらしいが結局は軍隊に入る。数々の戦いにおいて空挺奇襲任務において伝説的な手腕を発揮し、ロシア戦において、柏葉付騎士鉄十字章を受章してヒトラーでさえも会いたがっていたほどだったが、プラハでユダヤ人少女を助けたことによってチャネル諸島で部下ともども懲罰任務に従事させられる。チャーチル誘拐殺人の件で有能且つイギリス人に見える将校が必要になったので作戦に起用される。「非常に頭が良くて、勇気があって、冷静で、卓越した軍人 - そして、ロマンテックな愚か者だ」という評価の通りの人物で早川書房の冒険小説ガイドブックの主人公ランキングで3位になるなど人気は高い。
- リッター・ノイマン
- シュタイナの片腕を務める若者。階級は空軍降下兵中尉。大学卒業と同時に軍隊に入り、シュタイナと一緒に各地を転戦していた。騎士鉄十字章(Ritterkreuz des Eisernen Kreuzes)の授与が予定されていたがシュタイナにつきあってしまったことによって流れてしまう。シュタイナの代わりに部隊を任せることができる有能な軍人であると同時に戦士の誇りと優しさを忘れていない好青年である。
- ペーター・ゲーリケ
- 階級は大尉。夜間戦闘航空団のパイロットで38機を撃墜したエースパイロットにも関わらず、ヘルマン・ゲーリングの前でスピットファイアが素晴らしいと言ってしまったがために騎士鉄十字章をもらえなかった。戦争になる前は民間の航空会社で輸送機DC-3を操っていた。
- ドイツ国防軍情報部
- マックス・ラードル
- 階級は陸軍砲兵中佐。東部戦線を生き延びて騎士鉄十字章を授与された勇者であったが、片目と左手を失って、ヴィルヘルム・カナリス海軍大将の指揮する国防軍情報部 (Abwehr) で働いていた。そのため30歳であるが10歳以上に老けて見られ、身体のあちこちに負った傷によって寿命が短いことを医者に宣告されていた。バイエルン山中に妻と3人の娘がおり、無意味と知りつつ、家族を守るためにしぶしぶ計画を実行に移していく。
- ジョウアナ・グレイ
- 南アフリカにあったオレンジ自由国出身。ボーア戦争でイギリス軍のために両親と前夫、それに娘を失ったことからイギリスに強い恨みを抱いていた。彼女の身に同情したイギリス人医師と再婚。アフリカで夫の伝道を手伝い、夫の死後は南アフリカのイギリス人官吏の家で住み込みの家庭教師を働いていた。その時、ボーア・ナショナリズムの会合で出会ったハンス・マイアーというドイツ人情報員に官吏の家で手に入れたイギリスの情報を手渡したことが工作員になるきっかけとなる。
- 亡夫のおばが、スタドリ・コンスタブルにある家に移り住むことを条件にその遺産を彼女に受け継がせたので、スタドリ・コンスタブルに移住。そこではレディとして扱われ、風景に魅了されたが、マイアーが国防軍情報部に入っていたことによってイギリス在住の工作員、暗号名「椋鳥」としてドイツのために働くことになる。上流イギリス婦人という顔が効いて、たびたび重要な情報を横流ししていた。その中にチャーチルが地元の有力者の家に逗留するという情報があって、チャーチル誘拐の作戦が一気に現実味を帯びることになる。
- ハーヴィ・プレストン
- 親衛隊が各国からの捕虜軍人を集めて構成した部隊のひとつであるイギリス自由軍所属のイギリス人で階級は少尉。戦争が始まる前は田舎劇団で俳優をしていたがたびたびの詐欺行為によって逮捕を繰り返していた。執行猶予と引き換えに従軍。捕虜になった後にイギリス自由軍に志願した。捕虜仲間の脱走計画をたびたび密告していたなど無定見な人物で一言で言ってしまえば中身のないロクでなしだった。ただ、上流階級の人間に化けるのが上手という特技があって、「イギリス人将校に見える人間がもう一人は必要」というヒムラーの余計な差し出口によって、降下猟兵部隊に加わることになる。イギリス人でありながらナチに寝返り、チャーチル誘拐に加担した彼の存在が、この事件を秘匿させた一つの要因になっている。
- リーアム・デブリン
- IRA の伝説的なテロリスト。父親がイギリスとの戦いで処刑されおり神父をしていた母方の伯父の許で成長した。トリニティ・カレッジに進学しイギリス文学での学位を取って将来は作家になるであろうといわれたが宗教暴動で教会が襲われ、伯父が片目を失明したことによってテロリストの道を選ぶことになる。色々なことがあってドイツに引き取られるがナチズムには反対の立場を取っていたため、大学講師というしがない暮らしを強いられていた。だが、チャーチル誘拐において現地でさまざまな準備をする人間が必要なので彼に白羽の矢が立てられる。
- 「この世というのは神が作った冗談の世界」と考えているが、「それを笑いながら生きてやろう」と考えている人物。イギリス嫌いだが、安易に女子供をテロの標的にすることも嫌っている。早川書房の冒険小説ガイドブックの副主人公ランキングでは2位を取っている。続編の鷲は飛び立ったでは主役を務め、テロリストに薔薇をやショーン・ディロンの一連のシリーズで登場するなど長生きしている。
- 小柄だがタフであり、甘く見た人間は必ず痛い目を見ることになる。非常に優秀な拳銃の使い手。冒険家を引退した後はダブリンのトリニティ・カレッジで文学を教えながら暮らしている。たまに訪ねてくるジャック・ヒギンズをからかうのが楽しみらしい。
- このキャラクターはフランク・ライアンがモデルになっているのではないかという指摘もある。フランク・ライアンは1922年にユニバーシティ・カレッジ・ダブリンの学生からIRAに転身した人物である。アイルランド内戦では反条約派に加わって戦ったがアイルランド自由国軍(条約推進派)に捕らえられ、強制収容所に送られた。1923年に釈放されると一旦大学に戻って学業を終え、1925年からIRAの運動家として活動を開始する。1933年に非常に共産主義色の強いセクトを創設してIRA主流派と対立し、IRAと袂を分かつ。スペイン内戦が勃発するとライアンは反フランコの立場で義勇兵を募り、なんとか80名ほどの義勇兵を集めて国際旅団に参加する(カトリックの力が強いアイルランドでは親フランコの雰囲気が強く、ライアンの活動は深刻な弾圧に遭遇した)。1938年にライアンはムソリーニの派遣したイタリア軍に捕らえられ、ブルゴスの監獄に収容される。しかしアイルランド自由国政府の介入もあり、ライアンは監獄から「脱走」したという名目で、ナチスのAbwehr(情報機関)に身柄を引き渡される。その後ライアンは同じアイルランド人のショーン・ラッセルとともに、Abwehrによる対アイルランド工作の為の人材として利用され、1944年にドレスデンで没している。ライアンはIRAの活動家としてはかなり有名な人物であり、アイルランドの歌手クリスティ・ムーアのヒット曲「Viva La Quinta Brigada」によっても広く知られている。
- スタドリ・コンスタブル村民
- フィリップ・ヴェリカ
- 村の教会の司祭。裕福な家庭に生まれたが信仰の道に入る。従軍司祭として戦争に参加、落下傘降下を果たすが片足を失ってそのまま除隊、田舎で司祭生活を送ることになる。義足が合わないのと中毒になることを恐れてモルヒネを取らないことによって常に痛みに苦しめられているようであったが、傷は肉体よりも精神にあるようだった。よそ者であるデブリンとはそりが合わないが、そのデブリンにはコンプレックス、戦場で勇敢に振舞いたかったのに実戦では臆病風に吹かれてしまい、名誉挽回する機会を永遠に失ってしまったことを恥じている心境を見抜かれていた。
- 妹にパメラ・ヴェリカがいて、同じ村で暮らしている。
- アーサー・シーマー
- 村に住んでいるちんびら。巨漢であるが鼓膜に穴が開いているという理由で徴兵から外れ、勇者として尊敬される機会を失ってしまったことにいらついていた。もっとも選から漏れたのは肉体よりも精神のほうにあるらしい。たびたび婦女暴行事件を起こしていたが常に隠蔽されていた。
- モリー・プライアの家の仕事を手伝っていたが下心があってのことである。たびたび言い寄っていたが彼女に嫌われ、あげくの果てには襲い掛かるが、この時、既に来ていたデブリンに撃退される。
- モリー・プライア
- 村に母親と二人で暮らしている少女。特にとりえのない平凡な少女で、戦争という状況ではあるものの、何の波乱もなくただの一市民として一生を終えるはずだった。そんなある日、村に一人の男がやってくる。沼沢の管理人としてやってきたジョウアナ・グレイの甥と称する皮肉屋なアイルランド人の男。彼女はこの男に恋をし、短くも波乱に満ちた一生に残る体験をすることになる。
- アメリカ軍
- ロバート・E・シャフトゥ
- 村近くに駐屯するアメリカ軍レンジャー部隊の指揮官で階級は大佐。派手好きで自身は有能だと思いこんでおり、戦場から遠く離れた地に配属されていることに不満を覚え、たびたび無人島にある灯台を襲撃するなど悪戯程度の出撃で憂さを晴らす日々を送っていた。実際にはフィリピンで部下たちを残して撤退したという前歴があり、肥大している自意識に能力が追いついていない典型的な無能軍人である。外見は立派だが中身がないのはプレストンと同じであるが、違うのは彼が部隊の指揮官だったということである。彼の行動を不快に思っているのは部下のハリィ・ケインだけではないようで本国への召還命令を受ける。村にやってきたポーランド人空挺部隊が実はドイツの降下猟兵であることを知ったのはその時だった。
- ハリィ・ケイン
- シャフトゥの部下で階級は少佐。シャフトゥのやることを苦々しく思っていた。シャフトゥの出撃にはたまたま居合わせなかったので難を逃れる。その後はシュタイナ達の行動を止める役割を務める。
- その他
- ベン・ガーヴァルド
- バーミンガムの闇商人。この場合はギャングと同義語である。デヴリンがドイツ軍空挺部隊を偽装するために必要なトラックやジープを調達した相手。しかし、色々なことがあってデヴリンに恨みを抱き、襲撃を企てるが意図を読んでいたデブリンに返り討ちにあって重傷を負う。警察に捕まるのを恐れて正規の医療を受けなかったことが原因で死亡するが、この時、膝頭を打ち抜くというIRA式の制裁を加えた事がデヴリンの失策になってしまう。
- ジャック・ロウガン
- ロンドン警視庁のベテラン警部で、大学出のファーガス・グラント警部補を相棒にしている。ベン・ガーヴァルドの死亡事件で、膝頭を打ち抜かれた事からただの事件ではなく、IRA絡みの犯行だと睨み捜査を開始。最終的にはデブリンにまでたどり着く。
- 史実の人物
- ジャック・ヒギンズ
- 作者本人。この物語は作者が世界各地にいる関係者たちを取材して、その内容を小説風にまとめたノンフィクションという体裁をとっている。このため通常、物語といえば作中に書かれた内容は真実として受け止められるが、「鷲が舞い降りた」においては取材対象の人間が嘘をついているという事もありえるので必ずしも真実を書いた物ではなくなっている。この事が次作「鷲は飛び立った」への重大な伏線となってくる。
[編集] 余談
原題の“The Eagle has landed”は1969年にアポロ11号が月面に着陸した際に地球への連絡に使われた言葉でもある(着陸船の名前がEagleだった)。
英語圏では月面着陸を象徴する言葉としてよく知られており、関連の著作や映像作品で題名に用いられている(オンラインショップなどで本項の小説・映画と混同されて誤った商品情報が記載されている場合がある)。


