賃貸借

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賃貸借(ちんたいしゃく)とは、法律上の言葉で、当事者の一方が他方に対しての使用収益を認め、その対価(賃料)を徴収することを内容とする契約をいう(民法第601条)。

  • 民法は、以下で条数のみ記載する。

目次

[編集] 総説

有料(有償)で、物を貸し借りする契約のことである。典型例としては、賃貸マンションレンタカーレンタルビデオなどがある。農地の賃貸借については小作農を参照のこと。

物の使用収益を認める(貸す)当事者を賃貸人(ちんたいにん、ちんがしにん)・貸主、物の使用収益を認められた(借りる)当事者を賃借人(ちんしゃくにん、ちんがりにん)・借主という。賃借人が賃貸借契約に基づいて目的物を使用収益する権利を賃借権といい、賃貸人がある物を賃貸借契約の目的物とすることを「賃借権を設定する」という。

日本民法においては、第3編「債権」の第2章「契約」の第7節「賃貸借」(第601条から第621条まで)に規定されている。賃貸借契約の法的性質は諾成・有償・双務契約である。

[編集] 特別法などによる賃借権の物権化

日本の民法における賃貸借の規定は、賃貸借契約の対象として不動産動産の両者を想定している。このうち不動産賃借権は地上権永小作権と同様の経済的機能を果たすものではあるが本来的に債権である点で地上権や永小作権とは異なる。営利目的の定型的な賃貸借契約においては当事者間において細かな契約条項が定められることが多いが、民法は土地(宅地農地)の賃借権や建物の賃借権などの不動産賃借権における借主の保護という点で十分ではなかった。このことから日本では民法が制定されて以降、建物の保護に関する法律借地法借家法及びそれらを一本化した借地借家法、また、農地法などの法律、さらには判例によって、物権に類似した効力が与えられるようになった。これを賃借権の物権化という。

具体的には、借地権の存続期間、借地契約の更新、借地権の対抗要件、借家権の対抗要件などを中心とする。

従来、賃借人が借地上の不法占拠者などを排除しようとする場合、債権者代位権423条)を流用して、賃貸人の所有権に基づく物権的妨害排除請求権を、賃借人が代位行使するという法律構成がとられてきた。しかし、判例は、対抗力のある不動産賃借権については、賃借権の物権化を理由として、賃借権そのものに基づく妨害排除請求権を認めることとなった(最高裁昭和30年4月5日判決)。

[編集] 賃貸借の成立

日本の民法は、賃貸借を意思表示の合致により成立する諾成契約として規定している。外国では、契約の際に書面などを要求する要式契約として規定している場合もある。

日本では、不動産を賃貸する際に、賃貸物(特に建物)の引渡しに先立って賃借人の債務、具体的には賃料の支払や後述する原状回復のための費用を担保する目的で、一定額の金銭を賃貸人に寄託(消費寄託)させるのが通例である。この金銭を、敷金(しききん)とか保証金(ほしょうきん)という。

また、賃借人に賃貸借契約締結そのものの対価(謝礼)を支払わせることも多く、この対価を礼金(れいきん)という。契約が成立した際、敷金以外に支払われる金銭のことを総称して、権利金ということもある。

これらと類似したものとして、契約を更新する際に金銭の支払をすることが合意されていることもあり、更新料と呼ばれる。

[編集] 賃貸借の存続期間

[編集] 民法上の賃貸借の存続期間

  • 最短期間
    • 民法上の賃貸借の最短期間に制限はない。
  • 最長期間
    • 民法上の賃貸借の最長期間は20年である(民法第604条)。

※ただし、借地関係や借家関係の最短期間や最長期間については借地借家法が適用され以下のように修正を受ける。

[編集] 借地借家法上の借地権の存続期間

  • 最短期間
    • 借地借家法上の借地権の存続期間は最短で30年以上とされる(借地借家法3条・9条)。
    • 借地権更新後の存続期間は、最短で最初の更新後は20年以上、次回以降の更新後からは10年以上とされる(借地借家法4条)。
  • 最長期間
    • 借地借家法上の借地権の最長期間について制限はない(借地借家法3条・4条)。

[編集] 借地借家法上の借家権の存続期間

  • 最短期間
    • 借家関係の賃貸借の存続期間を1年未満とした場合には期間の定めのないものとみなされる(借地借家法29条1項)。
    • 借家権更新後の存続期間については別段の定めがある(借地借家法26条1項)。
  • 最長期間
    • 借地借家法上の借家権の最長期間について制限はない(借地借家法29条2項)。

[編集] 短期賃貸借

処分につき行為能力の制限を受けた者(被保佐人被補助人など)、又は、処分の権限を有しない者(不在者財産管理人、権限の定めのない代理人など)は、賃貸借をする場合には、以下の期間を超えない範囲でのみ契約をすることができる(602条)。このような短期の賃貸借契約を、短期賃貸借という。

  1. 樹木の栽植又は伐採を目的とする山林の賃貸借 10年
  2. 上記以外の土地の賃貸借 5年
  3. 建物の賃貸借 3年
  4. 動産の賃貸借 6箇月

以前は、短期賃貸借は、その期間の範囲で先に登記された抵当権にも対抗(優先)することができた(旧395条)。しかし、執行妨害で悪用されるなど弊害が目立ったため、現在は、対抗できるとしたのを改め、6ヶ月の明け渡しの猶予期間を認めている(現395条)

[編集] 契約上の義務

賃貸借契約においては、賃貸人と賃借人の双方が、相手に対する義務を負う。したがって、賃貸借契約は有償の双務契約であるといえる。賃貸人の中心的な義務は、賃借人に目的物を使用収益させること(及びそのために必要な措置をとること)であり、賃借人の中心的な義務は賃料の支払である。以下、個別に見ていく。

[編集] 賃貸人の義務

賃貸人は、賃借人に対して、賃貸借契約の目的物となっている物を使用収益させる義務を負っている。つまり、目的物の維持や管理は、賃貸人の義務とされているのである。具体的には、以下のような義務を負っている。

これらに加えて、賃貸借契約は有償契約であるから、559条にある瑕疵担保責任の規定が準用される。よって、賃貸人は、これによる担保責任を負う場合がある。

  • 使用収益をさせる義務
賃貸人が賃借人に対して目的物を使用収益させる義務は、賃貸借契約の本質である。具体的には、賃貸人は、賃借人が目的物を使用するに際して、それを妨害している第三者がいる場合には、これを排除しなければならない、というような形で現れる。
  • 修繕義務(606条1項)
賃貸人には、目的物の使用収益に必要な修繕をする義務がある。例えば、賃貸している家が雨漏りするならば、それを修理するのは賃貸人の義務ということになる。なお、賃貸人が修繕しないことによって、使用収益が不可能であるような場合には、賃料を支払う必要はない、とした裁判例がある。
  • 費用償還義務(608条1項)
賃貸人は、賃借人が支出した必要費および有益費を償還しなければならない、という費用償還義務を負っている。必要費は支出後直ちに、有益費は契約終了後に、支払わなければならない。
必要費とは、目的物を使用収益できる状態を維持するために必要な費用のことをいう。前述した修繕義務を賃貸人が果たさない場合、賃借人が代わりに修繕を施して、その費用を賃貸人に請求するということも、これによって認められることになる。
有益費とは、目的物の改良のために支出した費用をいい、契約の終了時に実費か改良による価値の増加額を賃貸人が償還しなければならない。もしも、賃貸人がこれらの費用を償還しない場合、賃借人は留置権を行使して、建物の明渡しを拒絶できる。

[編集] 賃借人の義務

賃借人は、契約の規定に従って目的物を使用収益する権利を有し、これに対して賃料を支払う義務がある。

また、賃借人は、契約終了時に目的物を原状回復して返還すべき義務を負う(616条597条1項、598条)。

原状回復とは、目的物を契約前の状態に戻すことである。通常の方法で使用収益していた場合以上に目的物が傷んでいたときには、それを修復し、あるいはその分の損害を賠償する義務として現れる(なお、敷金が交付されている場合は、賃貸人は敷金から相殺することができる)。

また、これとは逆に、目的物が契約前よりも物理的に増加している場合も、原状回復の問題である(これは不動産の賃貸借において特に問題となる)。まず、賃借人が持ち込んだ家具のように取り外しが簡単な場合、これらは収去して原状回復する義務が生じる。次に、賃借人が買ってきて貼り替えた壁紙や、賃借人自身が設置したエアコンなどの空調設備のように、それを分離することが困難であったり、経済的に大きな損失となる場合には、それらの物は付合(附合)し、賃貸人の所有物となる。ただし、前述した費用償還の問題が発生する。上記二つの場合のどちらともいえない場合には、賃借人が、収去するか費用償還請求権を行使するか選択することができる。

[編集] 賃料の増減額

賃料は、賃貸借契約に基づき賃借人が賃貸人に支払う利用料である。この支払が賃借人の主たる義務であることは前述したが、賃料の設定、特に事後的な改定については、古来紛争が生じやすい問題である。賃料の条件は、あくまで賃貸借契約の内容に従うが、民法典にも若干の規定がある。

まず、小作関係において、不可抗力によって賃料よりも少ない収穫しか挙げることができなかった場合には、減額請求をすることができ、契約の解除も認められる(609条第610条)。また、賃借物が一部滅失した場合でそのことについて賃借人に過失がないならば、滅失した割合に応じた賃料減額請求をすることができ、その滅失によって賃借した目的を達成できない場合には、契約を解除することもできると規定されている(第611条)。賃料の支払時期も、宅地、建物、動産は月末に、それ以外の土地については年末あるいは収穫期の後に、後払いすることが民法典において定められている(614条)。しかし、前述のように、当事者の合意(契約)が優先するので、先払いにしても問題はない。

なお、農地の賃料減額請求については農地法が、借地(建物所有を目的とする土地賃貸借)・借家(建物賃貸借)の賃料変更については借地借家法が、それぞれ特則を定めている。借地借家法は、地価や相場の変動に応じて賃料の増減請求権を、貸主と借主の双方に与えている。また、同法においては、賃料改定の紛争のうちでも少額の紛争については、まず調停を行うべきとする制度も整備されている。

[編集] 賃借権の対抗力

賃貸人が賃貸借の目的物を譲渡した場合、賃借人は(後述の対抗要件を有しない限り)新所有者に対して賃借権を対抗できない。したがって、新所有者が賃借権を承認しないときは、賃貸借契約は終了する。これがローマ法以来「売買は賃貸借を破る」の法格言によって表されてきた原則である。

[編集] 不動産賃借権の対抗力

抵当権者の同意の登記がある場合は、抵当権者に対抗できる(387条)。

目的物が不動産である場合には、賃借権設定登記することで新所有者に対しても賃借権の存在を対抗でき、継続して賃借することができる(605条)。しかし、賃借権が登記されている土地や建物には、買い手がつかない場合もある。よって、通常の貸主は、賃借権の登記に対して消極的である。そして、賃借人にはその登記を請求する権利がないという裁判例があり、学説の主流もこれに賛成したため、賃借権を登記することで新所有者に対抗することは、事実上困難であった。

そこで、建物の保護に関する法律借地法借家法が制定され、もっと容易に賃借権を新所有者に対抗できるような制度が整備された。その後、これらの規定は借地借家法第10条(借地権の対抗力等)第31条(建物賃貸借の対抗力等)に吸収されている。

なお、賃借権を新所有者にも対抗できる場合、敷金返還債務も新所有者が引き継ぐとした裁判例がある。このため、このことを逆手にとって、強制執行を妨害することが企てられる場合もある。つまり、所有している不動産について差押えを受けそうになった者が、第三者と通謀して、賃貸人にとって非常に不利な賃貸借契約を結んでしまう。具体的には、極めて高額の敷金を差し入れ、極めて低額の賃料を設定し、長期間の賃貸借契約を締結したように仮装するのである。すると、たとえ差押えがされてその不動産が競売に付されて落札されたとしても、もれなくその非常に不利な賃貸借契約が付随してくることになるため、その不動産の買受申出を躊躇させることが期待できるのである。もっとも、このような濫用的賃貸借は、民事執行法の改正や判例の努力等により、現在では少なくなった。

[編集] 動産賃借権の対抗力

動産を目的物とする賃借権は、どのような場合に新所有者に対しても主張できるのか、民法上は明文を欠いている。その動産の引渡しを受けていれば、換言すればその動産を占有していれば、目的物の所有者が代わったとしても、新たな所有者に対して主張することができる。すなわち、引渡し(占有)を解釈上対抗要件とするのが多数説である。

[編集] 転貸借、賃借権の譲渡

賃借人が賃借している目的物を使用収益する必要がなくなった場合には、これをさらに他人へ賃借したり、あるいは賃借権そのものを他者へ譲渡することが考えられる。しかし、乱暴で常識のない人物へ部屋が又貸しされたり、有能で勤勉な小作農から無能で怠惰な小作農へと土地の賃借権が譲渡されるのは、賃貸人として見過ごすわけにはいかない。そこで、日本の民法においては、賃貸人の承諾を得ないでされた転貸や賃借権の譲渡は、賃貸人に対抗できない上、賃貸借契約の解除原因となっている(第612条)。もっとも、賃借権の譲渡を認めるイギリスのような国もあるし、日本でもギュスターヴ・エミール・ボアソナードが起草した旧民法では認められていた(旧民法は法典論争の結果、施行されなかった)。なお、地上権永小作権などは、経済的には賃借権と同様の働きをするものの、物権であるため、自由に譲渡することができる。

以下、転貸借・賃借権の譲渡が無断でされた場合と、賃貸人の承諾を得た場合に分けて説明する。

[編集] 承諾のない場合

賃借人は、賃貸人の承諾がなければ目的物を転貸したり、賃借権を譲渡することはできない。承諾なしに行ったときは、賃貸人は契約を解除することができるが(612条)、賃借人と転借人との契約は有効である。 

ただし、土地の無断転貸が、賃貸人に対する背信行為と認めるに足りない特段の事情がある場合においては、解除権は発生しない、というのが判例である(最高裁昭和28年9月25日・民集7巻9号979頁)。これは、無断譲渡(最高裁39年6月30日判決・民集18巻5号991頁)や借家権についても、同様である。ここでいう特段の事情とは、例えば形式的に賃借人の名義が代わったけれども、実質的に見れば賃借人に変更がない場合など、が挙げられる。

[編集] 承諾がある転貸

賃貸人の承諾を得て行った転貸や賃借権の譲渡は、当然有効であるし、解除原因とならないことも当然である(612条1項参照)。

転貸の場合、転貸を受けた者(転借人)が、賃貸人に対して直接義務を負うことになる(613条1項前段)。したがって、賃貸人は転借人から直接賃料を受け取ることもできる。

民法の一般原則からいえば、転借人が賃料支払義務を負うのは賃借人(転貸人)に対してであって、もとの賃貸人に対してではない。例えば、BがA所有の甲不動産を賃借し、これをCに転貸している場合には、AB間とBC間に賃貸借契約関係はあるが、AC間には契約関係は存在しないから、CはBに対して賃料を支払う義務はあってもAに対して賃料を支払う義務はないということになるはずである。上記の民法の規定は、この原則に対する例外として理解することができる。

この例外は、あくまでも賃貸人の賃料確保のためであって、賃貸人に望外の利益を得させるためのものではないから、賃貸人が転借人に請求できる金額は、賃借料と転借量のうち低い方の金額が限度となる。例えば、上記の例で、AがBに対して賃料月額20万円で甲不動産を賃貸し、BがCに賃料月額30万円で賃貸している場合、AがCに請求できる金額は20万円である。BがCに賃料月額15万円で賃貸している場合、AがCに請求できる金額は15万円である。

なお、転借人が負担する転貸人と賃貸人に対する賃料支払義務は、連帯債権の関係にあるといわれることがある。また、転借人は賃料を賃借人(転貸人)に前払いしている場合であっても、賃貸人に対抗することができない(613条1項後段)。

転貸がされている場合、もとの賃貸借契約が解除されたときに転借人が影響を受けるかどうかが問題となる。
判例によれば、賃貸人と賃借人がもとの賃貸借契約を合意解除した場合でも、特段の事情がない限り、転借人に合意解除の効力を対抗することはできず、転借人は引き続き目的物を使用収益することができる(最高裁昭和37年2月1日判決)。
一方、賃貸人がもとの賃貸借契約を債務不履行によって解除した場合には、転借人は目的物を使用収益する権利を失うとされている(最高裁平成9年2月25日判決・民集51巻2号398頁)。
もっとも、これらの判例には批判も強い。なぜなら、債務不履行に基づく解除原因がある場合であっても、合意解除の体裁をとる場合もあるし、賃貸人と賃借人が通謀して債務不履行による解除を装えば、転借人を容易に追い出すことができるからである。

[編集] 承諾がある賃借権の譲渡

賃借権が譲渡された場合、それまでの賃借人が契約関係から離脱して、従来からの賃貸人と新たな賃借人の間に契約関係が移転する。ただし、敷金の返還請求権は、新たな賃借人(賃借権の譲受人)には移転しないと解されている。

[編集] 借地借家法による修正等

借地借家法が適用される場合、転貸や賃借権の譲渡が比較的容易に認められる場合もある。すなわち、借地契約については、一定の場合、賃貸人の承諾がなくても、裁判所の許可を得れば、転貸や譲渡をすることができる(借地借家法19条20条)。

この規定(特に20条)では、借地上の建物に抵当権が設定されている場合などが想定されている。つまり、抵当権が実行されて借地上の建物が競売にかけられ、買い受けられた場合、建物の所有権とともに土地の賃借権も「従たる権利」(従物の項目を参照)として買受人に移転する。しかし、それは賃借権(借地権)の無断譲渡にほかならず、借地契約の解除原因になってしまうのが原則である。これでは抵当権を設定することが事実上不可能となるため、このような規定が必要になる。

建物賃貸借終了の場合における転借人の保護(借地借家法34条)

[編集] 関連項目