占有権

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占有権(せんゆうけん)とは、物を事実上支配する状態(占有)そのものを法律要件として生ずる物権である。

  • 民法について以下では、条数のみ記載する。

目次

[編集] 総説

占有権は、物に対する事実上の支配を社会の秩序維持のために保護することを目的とし、占有を正当づける権利たる所有権地上権質権賃借権等の本権と区別され、仮の権利ともいわれる。

占有権の取得は自己のためにする意思をもって物を所持することによって生じる(180条)。

占有者は適法な実質的権利をもつと推定され、占有訴権によって外部からの侵害を排除できる(占有権における占有訴権は、本権における物権的請求権に対応する)。

歴史的にはローマ法ゲルマン法の両方に由来しており、このことが占有権という概念を複雑なものにしている。

[編集] 占有の態様

[編集] 自主占有と他主占有

占有は、占有している人がどのような意思をもって物を所持しているかにより、自主占有と他主占有に大別される。

  • 自主占有:所有の意思で物を所持する場合
所有権の取得時効は所有の意思をもってする自主占有でなければ認められない(162条163条)。
  • 他主占有:所有の意思がなく物を所持する場合(他人の物を預かったり、借りたりする場合)
他主占有から自主占有に占有の性質を変更するには、その占有者が自己に占有をさせた者に対して所有の意思があることを表示し、または新権原により更に所有の意思をもって占有を始めたものと認められなければならない(185条)。相続が同条にいう新権原として認められるかどうか、という論点で特に問題になる。

[編集] 自己占有と代理占有

  • 自己占有(直接占有):占有者本人は、他人のために一時占有する権利義務を持ち物を所持している占有。
    • 例:質権者・賃借人・受寄者等。
  • 代理占有(間接占有):本人が他人(占有代理人・占有補助者・占有機関などと呼ぶ)の直接占有を通じて取得する占有(181条)。本人にとっては自主占有であるが、占有代理人にとっては他主占有にすぎない(ただし、判例は占有代理人には本人のためにする意思と自己のためにする意思が併存していてもよいとする)。
    • 例:賃貸人・寄託者等。
    • 代理占有権の消滅事由(204条

[編集] 善意占有と悪意占有

善意占有
本権に基づかない占有のうち、占有者が本権があると誤信して占有している場合
占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ公然と占有をするものと推定される(186条1項)。
悪意占有
本権に基づかない占有のうち、占有者が本権に基づかないことを知り、または本権の有無について疑いを有しながら占有している場合
悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、有益費の償還について相当の期限を許与することができる(196条)。

※本権に基づく占有には善意占有と悪意占有の区別はないことに注意を要する。

[編集] 占有の態様・継続についての推定

  • 占有者は、所有の意思をもって、善意で、平穏に、かつ公然と占有をするものと推定される(186条1項)。
  • 前後の両時点において占有をした証拠があるときは、占有は、その間継続したものと推定される(186条2項)。

[編集] 占有の移転とその承継

[編集] 占有の移転

占有の移転を、引渡しという。民法第二編第二章には、引渡しの方法として、以下の方法が規定されている。

その他、相続合併によって占有が移転することもある(ただし185条の規制に服する)。

[編集] 占有の承継

占有者の承継人は、自己の占有のみを主張するか、あるいは自己の占有に前の占有者の占有を併せて主張するかを選択することができる(187条1項)。ただし、前の占有者の占有を併せて主張する場合には、前の占有者の占有における瑕疵をも承継する(187条2項)。

これらは時効取得の要件充足に役立つものである。

[編集] 占有権の効力

[編集] 本権の推定

占有者が占有物について行使する権利は、適法に有するものと推定される(188条)。

[編集] 善意占有者の果実収取権と悪意占有者の果実の償還

善意占有者は果実収取権を有する(189条1項)。
悪意占有者は果実を返還し、既に消費し過失によって損傷し、または収取を怠った果実の対価を償還しなければならない(190条1項)。瑕疵ある占有者(暴行もしくは強迫または隠匿によって占有をしている者)も悪意占有者と同様である(190条2項)。

善意占有者が本権の訴えにおいて敗訴したときは訴え提起時から悪意の占有者とみなされ、提訴後に得た果実の返還をしなければならない(189条2項)。

[編集] 費用償還請求権

占有者は占有物の回復者に対して、占有物の保存のために支出した必要費や改良のために支出した有益費などの償還を請求できる(196条1項本文、2項本文)。
必要費は、占有者が果実を取得したときは占有者の負担になる(196条1項但書)。
有益費は、支出した金額又は増価額を、回復者の選択に応じて請求できるが、悪意占有者からの有益費の償還については、回復者の請求により家庭裁判所はその償還について相当の期限の許与することができる(196条2項但書)。

[編集] 占有者の損害賠償

占有物が占有者の帰責事由により滅失・損傷した場合には、悪意占有者の場合にはその損害の全部を、善意占有者の場合には現存利益の限度で賠償する義務を負う(191条本文)。ただし、所有の意思のない他主占有の場合には善意占有者であっても全部の賠償を要する(191条但書)。

[編集] 即時取得

占有者が占有物たる動産を取引行為によって平穏・公然・善意・無過失に取得した場合には即時取得する(192条)。即時取得は原始取得であるから前主のもとで付着していた他物権等は消滅する(詳細については即時取得の項目参照)。

[編集] 占有訴権

占有訴権(せんゆうそけん)とは、占有物に侵害があった場合、占有者が占有権の効力としてこれを排除することを請求しうる権利のことをいう。以下の3つの訴えがある。所有権など本権の効力として認められている物権的請求権の内容にそれぞれ対応する。

  • 占有保持の訴え(198条
占有者がその占有を妨害されたときは、占有保持の訴えにより、その妨害の停止及び損害の賠償を請求することができる。
占有保持の訴えは、妨害の存する間又はその消滅した後1年以内に提起しなければならない。ただし、工事により占有物に損害を生じた場合において、その工事に着手した時から1年を経過し、又はその工事が完成したときは、これを提起することができない(201条1項)。
  • 占有保全の訴え(199条
占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる。
占有保全の訴えは、妨害の危険の存する間は、提起することができる。この場合において、工事により占有物に損害を生ずるおそれがあるときは、工事に着手した時から一年を経過し、又はその工事が完成したときは、これを提起することができない。 (201条2項)。
  • 占有回収の訴え(200条
占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。
占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができないが、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、できる。
占有回収の訴えは、占有を奪われた時から1年以内に提起しなければならない(201条3項)。

本権の訴え(物権的請求権)との関係(202条

  1. 占有の訴えは本権の訴えを妨げず、また、本権の訴えは占有の訴えを妨げない。
  2. 占有の訴えについては、本権に関する理由に基づいて裁判をすることができない。

なお、占有回収の訴えの提起は占有権の消滅の阻却事由となる(203条ただし書)。

[編集] 占有権の消滅

  • 占有権は物権一般の消滅原因のほか203条で定める場合に消滅する。
  1. 占有者が占有の意思を放棄した場合
  2. 占有者が占有物の所持を失った場合(占有者が占有回収の訴えを提起したときを除く)
  • 代理占有権の消滅については204条1項に規定がある。
  1. 本人が代理人に占有をさせる意思を放棄した場合
  2. 代理人が本人に対して以後自己または第三者のために占有物を所持する意思を表示した場合
  3. 代理人が占有物の所持を失った場合

※占有権は代理権の消滅のみによっては消滅しない(204条2項)。

[編集] 準占有

準占有とは、自己のためにする意思をもって物以外の財産権の行使をすることをいい、この場合にも、占有権の規定が準用される(205条)。

[編集] 関連項目