地上権

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地上権(ちじょうけん)とは、民法に規定された用益物権の一つで、工作物または竹木を所有するためなどの目的で、他人の土地を使用する権利のこと(第265条)である。

以下において、民法の条文に言及するときは、条文の番号のみを記述する。

目次

[編集] 総説

[編集] 地上権の目的

民法では工作物や竹木の所有が地上権の目的として挙げられている(268条)。耕作や牧畜を目的とする場合には、永小作権(270条)を設定すべきであるから、地上権を設定することはできない。

[編集] 地上権の趣旨

地租改正により、一物一権主義が原則となり、従来認められてきた上土権などの下位所有権の存続が困難となったため、それに代わる権利として永小作権地役権などとともに法定の用益物権として規定された。ただし、多くの場合、土地の利用権の設定は賃貸借契約によってなされるのが普通であり、地上権が用いられるのは例外的な場合に留まる。

[編集] 地上権の効力

[編集] 地上権者の権利

  • 土地使用権
地上権者は目的の範囲内で土地を使用する権利を有する(265条)。地上権者間あるいは地上権者と土地所有者との関係については原則として相隣関係の規定が準用される(第267条)。
  • 地上権の処分権
土地賃借権とは異なり、地上権者は土地所有権者の承諾なしに地上権を第三者に賃貸あるいは譲渡できる。

[編集] 地上権者の義務

  • 地代支払義務
地上権が有償である場合には地上権者は土地所有者に地代を支払う義務を負う。地代が定期払いの場合には274条から第276条までの規定が準用され、また、その性質に反しない限り賃貸借に関する規定が準用される(266条)。

[編集] 地上権の存続期間

  • 地上権者は設定行為に地上権の存続期間が定められておらず別段の慣習もないときには、いつでもその権利を放棄することができる(第268条1項本文)。ただし、地代支払義務がある場合には1年前に予告するか、または、期限の到来していない1年分の地代を支払わなければならない(第268条1項但書)。
  • 地上権者が268条1項の規定によりその権利を放棄しないときは、裁判所は、当事者の請求により20年以上50年以下の期間で工作物や竹木の種類及び状況その他地上権の設定当時の事情を考慮してその存続期間を定める(第268条2項)。

[編集] 地上権の終了

地上権者は地上権消滅時時に土地を原状に回復して土地上の工作物及び竹木を収去することができる(第269条1項本文)。ただし、土地所有者が時価相当額を提供して土地上の工作物や竹木を買い取る旨を通知したときには、地上権者は正当な理由がなければこれを拒むことができない(第269条1項但書)。この場合に269条1項の規定と異なる慣習があるときには慣習による(第269条2項)。

[編集] 区分地上権

地下や土地上の空間の一定の範囲を目的として設定される地上権を区分地上権という。地下に設定される地下権と、土地上の空間に設定される空中権がある。

[編集] 地下権

地下は、工作物を所有するため、上下の範囲を定めて地上権の目的とすることができ、この場合においては、設定行為で、地上権の行使のためにその土地の使用に制限を加えることができる(269条の2第1項)。第三者がその土地の使用又は収益をする権利を有している場合にも、その権利又はこれを目的とする権利を有するすべての者の承諾があることを条件に設定可能である(第269条の2第2項)。

[編集] 空中権

空中権(くうちゅうけん)とは、土地の上の空間を目的とする地上権の俗称である。民法第269条の2で規定される。建物には、容積率が設定してあるため地域によって定められている制限を超える延べ床面積の建物を建設することができない。しかし隣接している建物が容積率を持て余している(もしくは欲している)場合に、空中権を設定し売買することで、事実上容積率を売買することが可能である。

英米諸国では、鉄道駅のプラットホーム上の容積率を駅舎や近隣土地の上に移して超高層ビルを建てる例(例えばニューヨークのグランド・セントラル駅の横にメットライフビルを建てた例)、高速道路の上の容積率を隣接地に移す例などがある。また歴史的建築を保存する際、建て替えができず頭上の容積率を生かすことのできない歴史的建築の所有者は、容積率以上の大きなビルを建てたい近隣の土地の所有者などに容積率を売ることができるようになっている。

[編集] 法定地上権

法定地上権(ほうていちじょうけん)とは、同一の所有者に属する土地・建物について抵当権の実行または強制競売が行われた結果土地と建物の所有者が異なることとなったとき、法律の規定により発生する地上権のこと(388条民事執行法第81条・国税徴収法第127条)。法定地上権が認められる時には、土地の評価の6~7割の部分が法定地上権の部分として土地の評価から減額され、建物の評価に加算される。

不動産競売の場合、土地・建物(法定地上権付)の競売であっても超過競売になると法定地上権付の建物だけ競売で売却されることとなる(61条但書、民事執行法第73条)。ただし、所有者の同意があれば同時に売却はできる。超過競売というのは、競売申立債権者の債権と執行費用が申し立てられた数個の不動産の一部で弁済可能な場合には全部を競売で売却すると過剰であるとして一部の売却しか認めない。

本来、不動産の購入を希望する者は、土地付きの建物を求めるのが通常である。しかし、この売り方ではなかなか売却されず、その結果、競売価格が下がり、競売申立債権者を害することが頻繁にある。その結果、所有者にも大きな損害を与える(本来なら余剰があり、配当されるべきものが、配当されなくなるなど)ことがある。理論的に言えば、超過競売はいけないといえるかもしれないが、現実的には庶民感覚とずれているともいえる。

第三者に対抗するためには、地上権設定登記第177条)または建物の登記(借地借家法10条)を備える必要がある。

土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める(388条)。

土地及びその上にある建物が債務者の所有に属する場合において、その土地又は建物の差押えがあり、その売却により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権を設定したものとみなす。この場合においては、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める(民事執行法第81条)。これは不動産に対する強制執行の規定で、不動産担保権の実行に準用されている(民事執行法第188条)。

[編集] 学説

土地及び建物に共同抵当権が設定された後、その建物が取り壊され新築された場合に、新建物に法定地上権が成立するかどうかに関する学説は以下の通り。

  • 個別価値考慮説:成立するとする。
    土地と建物を、別々に価値を評価する。
    建物の担保価値には、法定地上権の成立が、前提となっている。
  • 全体価値考慮説:成立しないとする。判例の立場。
    共同抵当をした土地と建物のを、全体として価値を評価する。
#抵当権設定後の建物の再築を参照。

[編集] 判例

[編集] 土地と建物が同一の所有に属すること

〔大連判大12.12.14〕
土地と建物を所有する者が土地に抵当権を設定した後に建物を第三者に売り渡した場合にも、本条(民法388条)の適用がある(法定地上権が成立する)。
〔大判昭14.7.26〕
借地人が借地上の建物に一番抵当権を設定した後に土地の所有権を取得し、建物に二番抵当権を設定した場合には、法定地上権が成立する。
〔最判昭44.2.14〕
借地人が借地上の建物に抵当権を設定した後、土地所有者がその建物の所有権を取得した場合、抵当権設定当時に土地及び地上建物が各別の所有者に属する限り、抵当権の実行による競売の際に右土地建物が同一の所有者に帰していても、法定地上権は成立しない。
〔最判昭48.9.18〕
土地及び地上建物が同一所有者に属する場合に、土地のみに抵当権が設定され、これが実行されたときは、抵当権設定当時建物につき前主その他の者の所有名義の登記がされたままであっても、法定地上権が成立する。
〔最判平2.1.22〕
土地を目的とする一番抵当権設定当時、土地と建物の所有者が異なっていた場合は、土地と建物が同一の所有となった後に次順位以下の抵当権が設定されても、一番抵当権がまだ消滅していない場合は、法定地上権は成立しない(競売により消滅する抵当権が複数存在する場合に、その中の最先順位を基準として同一所有者要件の充足を考えるべきである)。
〔最判平19.7.6〕
土地を目的とする先順位の甲抵当権が消滅した後に後順位の乙抵当権が実行された場合において、土地と地上建物が甲抵当権の設定時には同一の所有者に属していなかったとしても乙抵当権の設定時に同一の所有者に属していたときは法定地上権が成立する。

[編集] 共有関係と法定地上権

〔最判昭29.12.23〕
土地の共有者甲・乙の一人甲が、他の共有者乙の同意を得て、その地上に単独で建物を所有している場合に、その共有者甲の土地の持分権に設定された抵当権が実行されても、他の共有者乙の持分権の上にまで法定地上権が成立するものではない。
〔最判昭44.11.4〕
土地の共有者甲・乙の一人甲が、予め他の共有者乙の同意を得て、その地上に単独で建物を所有している場合に、その共有者甲の建物に設定された抵当権が実行されたときは、法定地上権が成立する。
〔最判昭46.12.21〕
建物の共有者甲・乙の一人甲がその敷地たる土地を単独で所有する場合に、その土地に設定された抵当権が実行されたときは、建物共有者全員のために法定地上権が成立する。
〔最判平6.4.7〕
土地及びその上にある建物が甲乙の共有に属する場合において、土地についての甲の持分が強制競売によって売却され、丙がその持分を取得しても、民事執行法八一条の規定に基づく地上権は成立しない。
〔最判平6.12.20〕
地上建物の共有者のうちの一人甲の債務を担保するために、共有者の全員がそれぞれ持分に抵当権(共同抵当)を設定した場合、甲を含む共有者たちに属する土地について法定地上権は成立しない。

[編集] 共同担保の競売

〔大判明38.9.29〕
土地・建物が共同担保で、土地だけが競売されたときにも、法定地上権は成立する。
〔大判昭6.10.29〕
土地・建物が共同担保で、建物だけが競売されたときにも、法定地上権は成立する。
〔最判昭37.9.4〕
一 同一の所有者に属する土地及びその上に存する建物が同時に抵当権の目的となつた場合においても、民法第三八八条の適用がある。

   二 前項の場合には、国税徴収法(改正前のもの)に基づく滞納処分による公売のなされたときにも、民法第三八八条を類推適用すべきである。

[編集] 抵当権設定後の建物の築造

〔最判昭36.2.10〕
土地に対する抵当権の設定当時既に土地所有者甲が地上建物の建築に着手しており、抵当権者乙が予め地上建物の築造を承認していた場合でも、その抵当権は更地としての評価に基づいて設定されたものであり、地上建物には完成次第乙のために抵当権を設定することが約定されていた等の事情の下では、法定地上権の成立を認めることは出来ない。
〔最判昭47.11.2〕
土地の先順位抵当権設定当時その地上に建物はなく、後順位抵当権設定当時には建物が建築されていた場合には、後順位抵当権者の申立により土地の競売がなされても、法定地上権は成立しない。
〔最判昭52.10.11〕
土地に抵当権が設定された当時、地上にあった木造建物が取り壊されて堅固建物の築造が予定されており、抵当権者が、右土地が堅固建物の敷地となることを前提として土地の担保評価をしていた場合は、競売の結果、堅固建物の所有を目的とする法定地上権が成立する。
〔福岡地裁第5民事部判平9.6.11〕
土地に抵当権が設定された後に、右土地上に建物が建築された場合において、抵当権者が右土地を更地として評価したうえ抵当権を設定したとの事情があるときは、建築建物のために法定地上権は成立しない。

[編集] 抵当権設定後の建物の再築

〔大判昭10.8.10〕
土地及びその地上の建物が同一の所有者に属し、土地に抵当権が設定された場合、競売前に建物が朽廃したときは格別であるが、建物所有者がこれを取り壊して新しい建物を右土地に再築したときは、旧建物と同一の範囲で新建物のために法定地上権が成立する。
〔大判昭13.5.25〕
甲所有の土地・建物に抵当権が設定された後、建物が焼失し、甲の妻が建物を再築した場合は、旧建物と同一の範囲で新建物のために法定地上権が成立する。
〔東京地裁執行部の見解平4.6.8〕
従来の判例(同一所有者の土地・建物に共同抵当権の設定を受けて融資を受けた後に建物が取り壊され新たな建物が建築され、その後に土地抵当権が実行された場合には、旧建物と同一の範囲内において新建物のための法定地上権が成立する。)の見解を改め、「土地及びその上に存在する建物(旧建物)について、共同抵当権の設定を受けた者がいる場合に、その後旧建物が滅失して同じ土地上に新たな建物(新建物)が建築された場合、旧建物に法定地上権が成立する要件があったときでも、その法定地上権は新建物には成立しない。」例外的に、「新建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新建物が建築された時点での土地の抵当権者が新建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定登記を受けたとき(中略)には、新建物についての法定地上権が成立するものと解釈するのが相当である」とする見解を打ち出した。この後、この見解を支持する裁判例が多くなった。
〔最判平9.2.14〕
土地および地上建物に共同抵当権が設定された後、建物が取り壊され、新建物が建築された場合、新建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新建物の抵当権者が土地と同順位の設定を受けたとき等特段の事情のない限り、新建物のために法定地上権は成立しない。
〔最判平9.6.5〕
土地・建物に共同抵当権設定後に旧建物を取り壊し、新建物が建築され、同順位の共同抵当権の設定を受けたが、新建物に追加設定の抵当権に優先する国税があり、競売事件で交付要求がされた場合には、法定地上権は成立しない。(これを、法定地上権が成立するとすれば、土地の評価は法定地上権割合を控除したものとなり、抵当権者に不利益をもたらし、不合理である。上記〔最判平9.2.14〕の特段の場合でも、新建物に設定された抵当権に優先する債権(国税)が存在する時は、法定地上権は成立しない。)
〔大阪高裁判平9.6.13〕
土地・建物に共同抵当権設定後に旧建物を取り壊し、新建物が建築された場合、根抵当権者が、根抵当権設定の際、右建物が近日中に取り壊され、新建物が建築されることを了解していたとしても、新建物のための法定地上権は成立しない。
〔最判平10.7.3〕
土地・建物に共同抵当権設定後に旧建物を取り壊し、新建物が建築された場合には、新建物の所有者が土地の所有者と同一であり、かつ、新建物が建築された時点での土地の抵当権者が新建物について土地の抵当権と同順位の共同抵当権の設定を受けたなどの特段の事情のない限り、新建物のために法定地上権は成立しない。
〔東京地裁判平10.10.9〕
土地・建物に共同根抵当権設定後に旧建物を取り壊し、新建物が建築された場合、根抵当権者が、旧建物を取り壊しの際、旧建物の根抵当権設定契約が解除されたことが認められ、また、そのことなどにより、根抵当権者が旧建物の取壊しを承諾していたと認められるとしても、そのことをもってして、根抵当権が設定されていないその後に建築された建物のために法定地上権の成立が認められるべき特段の事情があるとまでは到底いえない。

[編集] 抵当権設定後の建物の移転

〔最判昭44.4.18〕
土地に対する抵当権設定後建物が同一土地内において移転された場合、この移転が従前の建物に必要な範囲であれば、その範囲において、法定地上権が生ずる。

[編集] その他

〔最判昭53.9.29〕
土地及び地上建物の所有者が、建物に抵当権を設定した当時、土地の所有権移転登記を経由していなくても、本条(民法388条)の適用がある(法定地上権が成立する)。

[編集] 関連項目