女性器切除

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女性器切除(じょせいきせつじょ、Female Genital Mutilation、略称FGM;「女性性器切除」とも表記する)あるいは女子割礼(じょしかつれい、Female Circumcision)とは、主にアフリカを中心に行われる風習であり、女性器の一部を切除あるい切開する行為のことであり成人儀礼のひとつ。女性器切除とはこの風習に対して虐待であると批判する人々が使う呼称であり、一方で批判の文脈とは独立に、男性器の包皮切除を行う男子割礼と同等の儀礼であると考える文脈では女子割礼の語が主に使われる。

概要[編集]

歴史的に見てFGMは2,000年もの間、赤道沿いの広い地域のアフリカで行われてきた。現在ではアフリカの28カ国で、主に生後1週間から初潮前の少女に行われる。アフリカの人口増加に伴い、以前より多くの少女達が性器切除を施されている。

欧米においては、この慣習の存在する地域から移民した人々の間においてもFGMが広く行われていることが昨今の調査で明らかになり、それに対して法的な規制を制定するも増えてきている。

ムスタファ・アキオル:イスラムにおける信仰と伝統の対立

目的[編集]

  • 大人の女性への通過儀礼
  • 結婚の条件とされている。
  • 結婚まで純潔・処女性を保てると信じられている。
  • 女性の外性器を取り去り性感を失わせることで、女性の性欲をコントロールできると信じられている。
  • ソマリアでは、「女性は二本の足の間に悪い物をつけて生まれた」と言われており、陰部封鎖させる。

手術方法[編集]

  • 一般に土地の伝統的助産婦によって、剃刀ナイフ、鋭いなどが使われ、母親親族の女性に押さえ付けられて行われる。
  • 不衛生な状況下でたいていは麻酔や鎮痛剤無しで行われることが多いが、エジプトなどでは医療関係者が行っていることが分かり問題となった。
  • 止血などが用いられることもある。

名称[編集]

女子割礼、女性性器変質あるいは女性性器の切れ込み (Female Genital Cutting) 等、この風習を呼び表すために様々な言葉が用いられてきた。そんな中、1990年に開催されたインター・アフリカン・コミッティ(IAC)の総会において、今後は女性器切除(Female Genital Mutilation)という名称を用いることが決定された。これは、「割礼」という表現がFGMの本質である性器の切除という事実を正確に伝達するものではないばかりか、むしろ、その非人道性を曖昧にしてしまう点を改善しようとするものである。現在このFGMという呼称はEUアフリカ連合等で正式に採用されている。

分布[編集]

アフリカにおけるFGMの分布と比率

Fgm map.gif

2011年世界におけるFGM分布図

定義と分類[編集]

国際会議などでは、WHO(国際保健機構)の定義を使うことで同意されている。

タイプ1:クリトリデクトミー(clitoridectomy)
クリトリスの一部または全部の切除。
タイプ2:エクシジョン (excision)
クリトリス切除と小陰唇の一部または全部の切除。地域によっては出産を楽にするためとしてさらにが切除されるが、実際には逆に困難にしてしまう可能性が高い。伝統的に成年に達した際の儀式として行われるが、最近では若年化が進み、もっと幼い少女に行われる。FGMを受ける少女のうち、タイプ1とこのタイプを合わせて約85%である。
タイプ3:陰部封鎖(ファラオリック割礼、infibulation)
外性器(クリトリス、小陰唇、大陰唇)の一部または全部の切除および膣の入り口の縫合による膣口の狭小化または封鎖。その際尿月経を出すための小さな穴を残し、少女の両をしっかり縛って数週間傷が治るまで固定する。主に4歳から8歳の少女に行われ、こちらも若年化が進んでおり、生後数日に行なわれた例もある。FGMを受ける少女のうち、約15%がこのタイプになる。
タイプ4:その他の施術(タイプ1-3に属さないもの)
その他、治療を目的とせず、文化的理由のもとに、女性外性器の一部あるいは全部を削除し、あるいは女性の生殖器官を意図的に傷つける行為のすべて。

性器切除に伴う体への弊害[編集]

  • 先述の施術方法で行われることが多いため、大量出血、施術中の激痛、回復まで続く痛み、様々な感染症などを引き起こす。また、手術中のショック意識不明や死亡に至る場合もある。
  • 後遺症としては排尿痛失禁、性交時の激痛、性行為への恐怖、月経困難症難産による死亡、HIV感染の危険性などが挙げられる。
  • 痛みを恐れて排尿しなかったために逆に一回の排尿量が増えるため、尿が傷口を刺激し、さらに痛みを増すという。
  • 陰部封鎖の場合、結婚初夜にが縫い閉じられた陰部を切り開く部族がいる。自力で花嫁の陰部を開いて性交を果たせなければ面目を失うという。

国際的世論と廃絶[編集]

  • 国際社会において、特に1970年代頃から著しい女性虐待であるとして非難の声が強く上がっていた。対する当事国では、そうしたプレッシャーは自国の文化を否定するものとして、文化相対主義的論議が起こった。しかし昨今では国際的世論アフリカ連合内からの廃絶の声とが手を取り合った動きが活発化し始めている。2003年7月11日にはモザンビークの首都マプトにおいて、女性器切除の含めたあらゆる性暴力性差別を禁じ、男女同権を定めた、人及び人民の権利に関するアフリカ憲章に関するマプト議定書 (Maputo Protocolが採択された。(2011年現在署名46カ国、批准28カ国)
  • 最近の動向では、西アフリカの指導者や、ケニアでは性器切除を禁止しているものの、その後まったく実効が上がっていない。
  • FGM廃絶の国際運動を行っているワリス・ディリー1999年発表したデータによると年間に200万人、日間に5500人近い少女が性器切除を受け、性器切除された女性は1億3000万人以上で、累計では13億人にも達すると推定している。
  • 女性器切除廃止のための女性団体、La Palabre(ラ・パラーブル)が設立された。同団体の欧州メンバーとして性器切除、性的暴力や強制結婚を綴った自伝「切除されて」の著者であるキャディ・コイタがいる。

事件[編集]

文献[編集]

  • ドキュメント女子割礼(著:内海夏子 2003年 集英社新書 ISBN 4087202089
  • イヴの隠れた顔 アラブ世界の女たち 著:ナワル・エル・サーダウィ 訳:村上真弓 未来社 新装版1994年
  • 女子割礼 因習に呪縛される女性の性と人権 著:フラン・ホスケン 訳:鳥居千代香 明石書店1993年
  • 砂漠の女デイリー 著:ワリス・デイリー 訳:武者圭子 草思社1999年
  • 岡真理「「同じ女」であるとは何を意味するのか フェミニズムの脱構築に向けて」江原由美子編『性・暴力・ネーション』勁草書房1998年
  • 喜びの秘密 著:アリス・ウォーカー 訳:柳沢由実子 集英社1995年
  • ファウジーヤの叫び 著:ファウジーヤ・カシンジャ 訳:大野晶子 ヴィレジブックス(文庫)2001年
  • 切除されて(著:キャディ 訳:松本百合子 2007年 ヴィレッジブックス ISBN 9784789730976
  • 暴力の義務 著:ヤンボ・ウォロゲム 訳:岡谷公二 新潮社1970年
  • クレール・ブリセ「WHOの会議で明るみに出た三千万アフリカ女性の性の悲劇」間庭恭人訳『週刊朝日』1979年3月30日号 朝日新聞社
  • 環境正義と平和 著:戸田清 法律文化社2009年 190-195頁


関連項目[編集]

外部リンク[編集]