哀しみのベラドンナ

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哀しみのベラドンナ
監督 山本暎一
脚本 福田善之
製作 虫プロダクション
出演者 長山藍子
仲代達矢
中山千夏
高橋昌也
米倉斉加年
音楽 佐藤允彦
主題歌 「青い鏡のなかで」ほか
配給 日本へラルド映画
公開 日本の旗 1973年6月30日
製作国 日本の旗 日本
言語 日本語
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哀しみのベラドンナ』(かなしみのベラドンナ)は、虫プロダクションが制作した劇場用アニメーション映画である。封切は1973年6月30日。本編画面に表示されるタイトルは、ジュール・ミシュレによる原作『魔女』の原題を冠した『la sorcière 哀しみのベラドンナ』であるが、劇場予告編DVDのパッケージ及びライナーノーツ等には『BELLADONNA 哀しみのベラドンナ』と表記されている。

概要[編集]

千夜一夜物語』『クレオパトラ』と続いた虫プロダクション制作の劇場用成人向けアニメシリーズ「アニメラマ」の成功を受けて制作された劇場用映画である。娯楽性が強かった先の2作とは一線を画し、「アニメロマネスク」なるキャッチフレーズのもと、文芸色を深めたストーリー、耽美的エロティシズムに満ちた作画が展開されている。また、手塚治虫は全くのノータッチである。直接的な性的描写が用いられた場面もいくつかある[1]

『千夜一夜物語』と『クレオパトラ』は、制作進行上の問題から、大量のアニメーターを動員せざるを得ず、絵柄の統一と作画クオリティの保持に難点があった。そこで本作では、長期間を費やして少人数で制作するスタイルが採られ、結果、当初の予定を約10ヵ月オーバーして完成した。

評価[編集]

  • 国内興行では赤字に終わった。またベルリン映画祭公式ホームページ内の1973年度上映作品を紹介したページBerlinale Archive Annual Archives 1973 Yearbookには、同映画祭における上映の際、家族向け作品を期待して来た観客に不興を買ったことが記されている。しかしアートフィルム的な映像表現は、国内外を問わず高い評価を受けている。
  • 2015年に北米で再公開と、米国の映画サイトのIndieWireが報道。傷や破損箇所をCGリストア(修復)し、劇場公開、オンデマンド配信等、リバイバル公開される事が決定。配給はシネリシャス・ピクス社。

独自の作風[編集]

本作は実験的な手法で作られたアニメであり、他の商業アニメ作品にはあまり見られない特色が多々ある。

演出手法[編集]

  • 基本的に、現実的なシーンは静止画で表現し、心象風景を描いたシーンに動きを持たせるという独特な表現コンセプトが設定されている。ただし、そのコンセプトは完璧に貫かれているわけではなく、現実的な場面で動いていたり、幻想的なシーンで静止していることも多々ある。

作画手法[編集]

  • イラストレーター漫画家深井国が全面的に本編用原画を作画。その他、前田庸生や辻伸一ら少数スタッフによる丁寧な作業により進められた。仕上げは主に、紙に描いた絵に水彩で色をつける手法が用いられており、動きのある部分でも、割合的にセル画の使用が少ない。
  • 画面の右から左へと流れるパンニングによって、長大な一枚絵(静止画)を見せるカットが多い。その際、順に画面に登場してくる絵がナレーションの内容と同調するよう、緻密なタイミング計算のもとに描かれている(台詞の録音はプレスコで行なわれた)。
  • イラストレーター/漫画家/アニメーション作家の林静一が参加したシーンでは、撮影台の下に設置したガラスに油彩画を描きながら一コマずつ作画していく、グラスペインティングアニメの手法が採られた。

あらすじ[編集]

教会領主が支配する中世フランスのある村で、若い2人の男女、ジャンとジャンヌが結婚式を挙げた。しかし、貧しい農夫のジャンは領主に貢ぎ物を捧げられなかった。その代償としてジャンヌは領主に処女を奪われ、さらに家来たちにも次々に陵辱される。身も心も傷ついてジャンのもとに帰ったジャンヌの前に、やがて悪魔が現れた。ジャンヌは悪魔に、働き通しで疲れ果てているジャンを助けてくれと懇願する。

ほどなく、ジャンヌが紡いだ糸が高値で売れるようになり、高い税金を納められるようになった。ジャンは村の税取り立て役人に出世するが、貧しい農民たちから戦争のための資金を思うように調達できず、罰として領主に左手首を切り落とされる。するとまたしてもジャンヌの前に悪魔が現れ、力を与えるかわりに魂を渡せと迫りながら、ジャンヌの体を貪っていく。

やがてジャンヌは妖しい魔性を持った金貸しとなり、村の経済を動かすようになったが、彼女の存在を快く思わない領主の奥方や村人たちに、悪魔つきと呼ばれて激しく追い立てられる。酒浸りとなっていたジャンにも見捨てられ、絶望したジャンヌは、逃亡の果てにたどり着いた深い山中で、ついに悪魔と契りを交わして魔女となった。

その後、黒死病が蔓延し、大勢の人々が死んでいった村で、ジャンヌは薬草によってひとりの村人の命を救う。噂が噂を呼んで、村人たちはジャンヌのもとへ集うようになり、夜毎サバトが行なわれた。その影響力が領主の城内にも及ぶに至って、領主はジャンヌを処罰するより味方に引き込んだほうが得策と考え、ジャンを介してジャンヌを城に呼び寄せる。しかしジャンヌは提示されたあらゆる厚遇を拒否したため、領主の怒りを買い、火刑に処されてしまう―。

スタッフ[編集]

声の出演[編集]

音楽[編集]

主題歌[編集]

「青い鏡のなかで」ほか
作詞:中山千夏、作曲:佐藤允彦、歌:中山千夏
「哀しみのベラドンナ」
作詞:阿久悠、作曲:小林亜星、編曲:川口真、歌:橘まゆみ
サントラ盤シネディスク[7]

バージョン違い[編集]

本作には、編集が異なるバージョンがいくつか存在する。なお、ここでの各バージョンの名称は便宜的なもので、一般に浸透している名称ではない。

ダミー納品バージョン
日本へラルド映画と虫プロの間で決められた期限である1972年2月に完成が間に合わなかったこと等から、未完成だった部分を、急遽編成した別動制作班に仕上げさせたバージョン。同年8月、ヘラルド側に納品された。虫プロでは以後もリテイクの名目で制作作業を続行、別動班が作ったパートを本来のスタッフが制作したパートに差し替えて作品を完成させ、同年暮れにヘラルドに再納品した。上記のような経緯を経ているため、最初の納品バージョンは「ダミー」と呼ばれており、当然のことながら、一般に公開されたことはない。
第1回試写会バージョン
正式に完成し、試写会で上映されたバージョン。深い山中で悪魔とジャンヌが契りを交わすシーンの直後に、約5分の実写パートが入る。このパートは、写真家森山大道が撮影したフィルムを前衛的に処理したもの。前半と後半の間の休憩時間に流れる映像という体裁になっており、本編ストーリーとは関係のない内容である。劇場公開時にはカットされたが、DVDのライナーノーツには、このパートを含む英語字幕版フィルムが現存すると記されている。
劇場公開バージョン1
山本によると、日本国内で公開される直前の1973年6月27日にベルリン映画祭で上映した際は、悪魔が高笑いするカットで本編が終わっていた(第1回試写会バージョンも同様だったと思われる)。それが不評だったため、山本は一般公開にあたってこのカットを削除することを決めた。しかし山本の帰国は封切後の同年7月6日だったため、編集作業と上映フィルム差し替えは公開期間中に行なわれたと言われている。
劇場公開バージョン2
悪魔の高笑いを削除、ジャンヌの火刑を俯瞰で捉えた絵がラストカットになり、その後に黒い画面のバックに主題歌が流れて終わるバージョン。テレビ放映の際には、これをさらに短く編集したものが使われる場合があった。
劇場公開バージョン3
1979年リバイバル公開時に、アート好きな女学生等を主な観客層と想定し、新たに山本が、刺激が強いセックスシーンや前衛的なシーンをいくつか削除して編集した。そのため、「女子高生バージョン」または「女子大生バージョン」と呼ばれることもある。ラストシーンも大胆に改変され、ジャンヌの火刑がフランス革命に繋がっていくことを説明するテロップ、女たちの顔がジャンヌの顔に変化するカット、ウジェーヌ・ドラクロワの絵画「民衆を導く自由の女神」のカット等が追加された。また、オープニングのスタッフクレジットも一部改められた。
ビデオソフトバージョン
1986年のVHS/LD発売に際し、劇場公開バージョン3に、削除されたシーン(劇場公開バージョン2に準じる)を再び組み込んだもの。これも編集は山本による。以来、ソフト化および再上映の際は、基本的にこのバージョンが使用されている。

VHS・LD・DVD[編集]

日本国内[編集]

  • 最初のソフト化は株式会社ポニーから発売されたVHS版で、パッケージに記されたタイトルは『長編アニメーションシリーズ 哀しみのベラドンナ la sorciere』。先述の劇場公開バージョン3(女子高生バージョン)が収録されているが、特にその旨の断わり書きはない。発売は1980年代初頭と思われる。
  • 1986年に、ビデオソフトバージョンが収録されたVHSとLDが発売。LDの副音声には、山本暎一、深井国、杉井ギサブロー、富岡厚司による座談会が収録された。
  • 2004年に、『千夜一夜物語』『クレオパトラ』とともに3枚組DVD『虫プロ・アニメラマ DVD-BOX』としてリリースされた(ビデオソフトバージョン)。副音声にはLD版と同じ座談会が入り、さらに特典映像として、予告編と火あぶりシーン特別編集映像が収録されている(2006年に廉価版がリリースされ、さらに3作品とも単体でも発売された)。

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 性器肛門陰毛失禁等を直接的表現で描いたカットが存在するが、特に黒塗り・モザイク等の処理は施されていない。なお、山本監督は本作DVD副音声の座談会で、映倫からカット指示を受けた場面は存在しなかった旨の発言をしている。
  2. ^ 1979年のリバイバル公開版(女子高生バージョン)以降、単に「監督」とクレジット。
  3. ^ 1979年のリバイバル公開版(女子高生バージョン)以降、福田と山本暎一の連名に変更された。
  4. ^ クレジットは「美術」のみだが、深井が行なった作業を一般的なアニメ制作の分担に置き換えると、キャラクターデザイン、ストーリーボード(イメージボード)、原画、作画監督(キャラクター修正)、美術監督、背景色彩設定等、多岐にわたる。
  5. ^ キャラクターの演技(動き)を設定し、各アニメーターに指示する役割。一般に作画監督の仕事と認識される、キャラクター修正等の作業は行なっていない。また、杉井は多量の原画を描いている。
  6. ^ 背景等ではなく、グラフィックなアニメーションパートを手がけている。
  7. ^ 日本国内では、橘まゆみが歌う「哀しみのベラドンナ」がシングル(EP)発売された(B面は「ジャンヌの涙」で作詞・作曲・編曲者はA面と同じ)のみ。映画内で使用された他の曲を含むサウンドトラックLPは、1975年イタリアでのみ発売された。

参考資料[編集]

  • 『虫プロ興亡記 安仁明太の青春』山本暎一 / 新潮社1989年 [ISBN 4 10 373301 2]
  • DVD『哀しみのベラドンナ』副音声座談会、およびライナーノーツ

外部リンク[編集]