人工光合成

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人工光合成(じんこうこうごうせい、: Artificial photosynthesis)は、文字通り光合成を人為的に行う技術のこと。自然界での光合成は、二酸化炭素と、太陽光などの光エネルギーから化学エネルギーとして炭水化物などを合成するものであるが、広義の人工光合成には太陽電池を含むことがある[1]。自然界での光合成を完全に模倣することは実現していないが、部分的には技術が確立している。

意義[編集]

エネルギー資源化石燃料からの置き換え、また炭酸固定により、地球温暖化の原因と考えられている二酸化炭素の排出量抑制が期待される。従来の太陽電池では電力貯蔵の問題が生じるが、人工光合成では化学エネルギーを生成することにより、エネルギー貯蔵が容易になる。

技術[編集]

光合成は、光エネルギーを化学エネルギーに変換する光化学反応(明反応)と、化学エネルギーから糖を合成するカルビン回路(暗反応)に大別できる。太陽光を集光する「光捕集系」ではクロロゾーム (Chlorosomeの人工的利用が研究されている[2]。「反応中心」では酸化還元因子を組み込んだ合成ペプチドを利用した研究[3]や、自然界でのバクテリオクロロフィルに代え、亜鉛クロリンやフリーベースポルフィリンを用いた研究が行われている[4]。Acr+-Mesを光触媒とし、白金クラスタを用いることによりNADHを電子源とし効率よく水素が発生することが発見された。水素はCO2固定触媒でギ酸として貯蔵することが考えられている。必要に応じてギ酸分解触媒により水素を取り出すことが可能である[4]。二酸化炭素の固定に関しては、合理的な遺伝子操作を施したCO2固定酵素RuBisCOの利用が考えられる[5]

ランタンを1%ほどドープし、表面に酸化ニッケルを塗布したタンタル酸ナトリウムに波長300nm以下の紫外光を当てると水が分解され、酸素と水素を生じる。この反応は量子収率50%を越え、2005年日本国際博覧会にも出展されたが、紫外光しか使えないため実用化には至っていない[6]

ロジウムをドープしたチタン酸ストロンチウムは、可視光線を照射することにより水を還元し水素を発生する光触媒であることが発見され、同様に可視光で酸素を発生するバナジン酸ビスマスと組み合わせることにより、水の分解に成功している。この反応は電子の流れから「Zスキーム」と呼ばれるが、量子収率は約3%、太陽光エネルギーの変換効率は0.1%ほどである[6]

純粋な水の分解ではないが、硫黄還元剤を含む水溶液に、金属の硫化物を触媒として可視光線を照射すると水素を生じる反応も発見されている[6]

歴史と将来展望[編集]

太陽電池の研究は19世紀から始まり、1839年にフランスの物理学者アレクサンドル・エドモン・ベクレル光起電力効果を発見、1884年にはアメリカの科学者チャールズ・フリッツ (Charles Frittsが世界初の太陽電池を製作した。一方光合成の研究は1910年頃から行われ、1956年ルドルフ・マーカスにより電子移動反応理論を発表。1972年には東京大学の本多健一藤嶋昭により、酸化チタン電極を用い、紫外線を照射することにより水を水素酸素に分解する本多-藤嶋効果が発表された。1974年から2000年にかけては、日本の新エネルギー研究プロジェクトであるサンシャイン計画・ニューサンシャイン計画が実行された[1]2011年には、根岸英一らと文部科学省とが人工光合成などの技術革新の具体化を進めることで合意した[7]。2011年4月、大阪市立大学の研究チームは植物での光合成の基となるタンパク質複合体の構造を解明。同じ構造を持つ触媒により、2020年までに二酸化炭素と水からメタノール燃料の製造を行う構想を打ち出している[8]。2011年9月には豊田中央研究所が世界で初めて、水と二酸化炭素と太陽光のみを用いた人工光合成に成功した[9]。特殊な光触媒を用いることで、犠牲薬を添加することなく擬似太陽光での有機物の生成を可能にした[10][11]。2012年7月30日、パナソニック窒化物半導体を利用した人工光合成システムを発表した。光電極側に窒化物半導体を使い、もう一方の金属触媒電極からギ酸を得るものであり、触媒の種類を変えることにより有機物の種類を選択できる[12][13]。2014年9月現在、エネルギー変換効率は0.3%と植物を越えており、今後の研究により実用化の目処である1.0%を達成できる可能性がある[14]。2014年11月20日東芝が変換効率1.5%という世界最高の変換効率を達成する材料を開発したと発表[15][16]。実用化は2020年ごろとしている[15][16]

脚注[編集]

  1. ^ a b 『人工光合成と有機系太陽電池』p18-21「人工光合成の歴史と将来展望」、福住俊一
  2. ^ 『人工光合成と有機系太陽電池』p52-58「光合成アンテナの機能と構造」、民秋均
  3. ^ 『翻訳版人工光合成』p132-152「タンパク質をベースとした人工光合成反応中心」、Reza Rageghifard / Thomas J.Wydzynski
  4. ^ a b 『人工光合成と有機系太陽電池』p63-73「人工光合成システムの開発」、福住俊一
  5. ^ 『翻訳版人工光合成』p255-274「高等植物の葉緑体におけるリブロース1,5-ビスリン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼ」、T.John Andrews / Spencer M.Whitney
  6. ^ a b c 『光と界面がおりなす新しい化学の世界 -光触媒と光エネルギー変換』p20「水素を作る -ソーラー水素」、工藤昭彦
  7. ^ MSN産経ニュース (2011年1月18日). “根岸さん「人工光合成」プロジェクト 文科省に計画を説明” (日本語). 2011年2月26日閲覧。
  8. ^ MSN産経ニュース (2011年4月21日). “大阪市大が人工光合成でメタノール製造 32年までの実用化目指す” (日本語). 2011年4月23日閲覧。
  9. ^ 世界初の「完全」人工光合成に成功 豊田中央研究所
  10. ^ 人工光合成の実証に初めて成功 / 太陽光を利用して水とCO2から有機物を合成 - 豊田中央研究所
  11. ^ Selective CO2 Conversion to Formate Conjugated with H2O Oxidation Utilizing Semiconductor/Complex Hybrid Photocatalysts
  12. ^ 日経エレクトロニクス 中道理 (2012年7月30日). “パナソニック、植物並みの効率の人工光合成を窒化物半導体で実現”. 日本経済新聞. http://www.nikkei.com/article/DGXNASFK30032_Q2A730C1000000/ 2012年7月31日閲覧。 
  13. ^ 窒化物半導体の光電極による人工光合成システムを開発”. パナソニック プレスリリース. 2012年7月31日閲覧。
  14. ^ 光合成、植物超す効率で燃料生成 パナソニックが実証実験へ”. 日本経済新聞. 2014年9月15日閲覧。
  15. ^ a b “東芝 人工光合成、世界最高の変換効率1.5%達成 20年めど実用化”. 日本経済新聞. (2014年11月21日). http://www.nikkei.com/article/DGKKASGG20H2U_Q4A121C1MM8000/ 2014年11月24日閲覧。 
  16. ^ a b “東芝 人工光合成、世界最高の変換効率1.5%達成 20年めど実用化”. 日経BP. (2014年11月21日). http://bizgate.nikkei.co.jp/smartcity/kanren/201411211358.html 2014年11月24日閲覧。 

参考文献[編集]

  • 『人工光合成と有機系太陽電池―最新の技術とその研究開発』 日本化学会編、化学同人社2010年ISBN 978-4-7598-1362-3
  • A.F.Collings / C.Critchley 『翻訳版人工光合成 生物学的基礎から工業技術的応用まで』 河野智謙訳、エヌ・ティー・エス、2008年ISBN 978-4-86043-186-0
  • 『光と界面がおりなす新しい化学の世界 -光触媒と光エネルギー変換』 クバプロ、2008年1月30日、初版。ISBN 978-4-87805-090-92011年4月23日閲覧。

関連項目[編集]

外部リンク[編集]