ズメイ

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ズメイ(Zmey)は東欧中欧を代表する空想上のドラゴンである。地域によって性格は全く異なる。また西洋のドラゴン=悪と言う図式が一般には流通している模様だが、ズメイには守護竜としての性格の強いドラゴンも多い。[1]なお、ズメイとは「」や「」という意味である。

東欧・中欧のズメイ伝承[編集]

ブルガリアヴァルナ市のドラゴン像

この竜は人間とよく似た性質を持っている。たとえば、ブルガリアなどの伝説では、ドラゴンには雌雄があり、人間同様の外見の差異が認められる。農耕神としては全く違う性質を持っている。

メスのドラゴンは、人類を憎んでおり、天候を荒らしたり作物を枯らしたりして、兄弟であるオスのドラゴンといつも喧嘩をしているとされる。それに対してオスのドラゴンは、人を愛し、作物を守るとされている。炎と水は、ブルガリアのドラゴンの神格を表すのによく使われ、メスのドラゴンはの特質、オスのドラゴンはの特質とされることが多い。スラヴ神話の火神スヴァローグと戦う伝承も残されている。

リュブリャナには多数のズメイ像があり、橋によくズメイの彫刻がある。翡翠(エメラルド)色のドラゴンである。そのため「竜の橋」と言われ親しまれている。なお、ブルガリアのドラゴンは3つ首で表現されるズメイ伝承が多い。ブルガリア、スロベニアの竜(ズメイ)は守護の性格が強い。

マケドニア共和国クロアチア、 ブルガリア、ボスニアセルビアモンテネグロでは竜をズマイ(zmaj), ズメイ(zmej)と呼ぶ。ルーマニアではズメウ(zmeu)と呼ばれ3つ首以上の多頭竜で邪悪な竜で炎を吐く。ただし、ルーマニアのズメウ竜人も「ズメウ」と呼ばれる。[2]セルビアではアジュダヤ(aždaja)、ボスニアではアジュダハ(aždaha)とも呼ばれる。善悪に係らず人間と義兄弟の契りを交わす部分や竜王として人間と暮らす部分も特徴といえよう。

ジルニトラ(Zirnitra)はズメイではなく古くからの東欧伝承の神である。黒竜の姿である。魔法神でもあるという。

ポーランドでズメイではなくスモーク(smok)と呼ばれる竜は、邪悪で残虐無比である。ズメイ伝承とは異なる。[3]

ロシア・ベラルーシ・ウクライナのズメイ伝承[編集]

Zmey Gorynych(ズメイ・ゴルイニチ) ヴィクトル・ヴァスネツォフ

ルーシロシアベラルーシウクライナ)では、ズメイ(ドラゴン)は悪の存在である。通常3つ首以上で表現され、火と毒を噴く。右の絵のように退治されるべき存在である。伝承の代表格は絵に登場するように「ドブルイニャ・ニキーイッチとズメイ・ゴルイニチの話」である。勇者ドブルイニャに殺されかけたにも係らず懇願して命を救ってもらったのにもかかわらず、逃げる途中に姫をさらうという卑怯者の竜である。それどころか一般人をさらって洞窟に閉じ込めているという悪竜の典型である。竜を退治してもロシアの大地は竜の血を吸うことは望まないため「汝、母なる大地よ、口を開けて竜の血を吸い込んでおくれ」[4]といってようやく竜の血を吸い込んでくれたという場面まである。なお、ロシア伝承にも竜王が存在する。[5]ロシア叙事詩「ブィリーナ」で登場する「トゥガーリン・ズメエヴィチ」は勇者アリョーシャに退治される悪役または怪物である。悪役の場合、ズメイは人名にも使われていることになる。

ただし、ヨーロッパ=ロシアのカザンではズメイではなく、ユラン (ロシアの伝承)(またはジラント)と呼ばれる。またチュヴァシ竜(Chuvash dragon)伝承もある。ロシアの竜伝承すべてが邪悪ではない。ただしズメイと呼ばれるものはスラブ系ロシア民族は一般的には邪悪とみなしている。ユランもロシア人側伝承では悪のドラゴンで退治されている(今でこそジラントは国民に愛されている竜であるが)。この部分こそが中欧とのズメイ伝承との大きな違いである。ロシア・ベラルーシ・ウクライナで竜を肯定的に見るのは主にテュルク系などの東方出身の民族である。

関連項目[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 詳細はドラゴンの「神話学におけるドラゴン」項目を参照のこと。
  2. ^ 直野敦・住谷春也「ルーマニアの民話」恒文社1980、「勇士アゲラン」p.143より。
  3. ^ ヴァヴェルの竜参照の事。
  4. ^ 渡辺節子「ロシアの民話1」恒文社1980、P44より。
  5. ^ 中村善和編訳「アファナーシェフ ロシア民話集(下)」岩波書店(岩波文庫)1987,pp136-153.「竜王と賢女ワシリーサ」より。

参考文献[編集]

  • 中村喜和編訳『「ロシア英雄物語」語り継がれた《ブィリーナ》の勇士たち』 平凡社、1994.
  • フェリクス・ギラン編、小海永二訳「ロシアの神話」青土社1993.
  • 中村喜和編訳 『ロシア英雄叙事詩 ブィリーナ』 平凡社1992.
  • 中村善和編訳「アファナーシェフ ロシア民話集(下)」岩波書店(岩波文庫)1987.
  • 渡辺節子「ロシアの民話1」恒文社1980.
  • 栗原成郎、田中一生共訳編「ユーゴスラビアの民話 1」恒文社 1980.
  • 池田雅之、岩崎悦子、粂栄美子共訳編「ハンガリーの民話」恒文社 1980.
  • 直野敦・住谷春也「ルーマニアの民話」恒文社1980.