ズメウ

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ズメウ(Zmeu)とは主に、ルーマニアギリシャなどの東欧民話に出てくるドラゴンまたはドラゴン風の龍人(竜人)である。

概要[編集]

竜人ならば例えば「勇士アゲラン」に出てくるサルコテア竜王、アラム竜王(銅竜王)、アルジンツァン竜王(銀竜王)、アウラール竜王(金竜王)、アゲマント竜王(ダイアモンド竜王)などが代表格である。サルコテア竜王は勇士アゲランの家に忍び込み、食べ物を平らげるという竜王である。アゲランは竜人たちのいる「大地のへそ」へ向かい、退治することとした。サルコテア竜王とサルコテア竜王が支配下においている貴金属に関連する4竜王はすべて竜人である。竜人はアゲランが持つ神通力がある鉄砲に殺されるなど、一般の軍隊の竜人も含めてさほど強くない。サルコテア竜王はアゲランが来る直前はかまどに震えながら隠れていたほどである。しかも勇士アゲランを見ただけでサルコテア竜王は塵となったという。

「勇士ペトレアとイレアナ」に出る竜人は元々7人兄弟だったが、勇士に6人殺された挙句に残りの1人は勇士が竜人のあまりの美しさに惚れ、しまいに勇士はその竜人の家に監禁した。勇士は勇士の母親と監禁した残りの竜人1人と一緒に7人兄弟の竜人から奪い取った立派な家に住むことにした。ある日母親は勇士に頼まれた家の掃除の時に「開けてはならない」といわれた7番目の部屋をこっそり開けてしまった。そこには美しい竜人がいた。竜人と母親は恋に落ち、さっそく2人で仲良く暮らすことを決意した。そのためには共謀して母親が病気ということにして勇士ペトレアを病気が治る薬を取りに行かせるという名目で危険な冒険に3回も出させ、死亡させようとしたが失敗した。次善策として母親は自宅で勇者を縄で罠にはめて腕をもぎ取って動けなくした。母親が嬉しそうに竜人に声を掛けると竜人はさっそく勇者ペトレアの刀を奪い取った。勇者の願いを言う終える前に竜人は復讐を成就すべく奪い取ったその刀でペトレアの首を落とし、さらには飽きたらずペトレアの体をバラバラにした。竜人は勇者の最後の願いどおり、切り刻まれた死体を馬に乗せて「前に行ったところへ行け」と命じた。だが、ペトレアの刻み込まれた死体を馬に載せたが馬は無事に「前に馬がいた」恋人イレアナ宅に到着した。イレアナは魔法の力を持つ「命の水」によってペトレアを復活させた。勇者ペトレアは復讐すべく、母親と竜人が2人で仲良く暮らしていた自宅近くのリンゴの木の上に上って逃げた竜人を無理やり引き摺り下ろして、逆に竜人をバラバラに刻み殺した。母親に対しては勇者ペトレアが鉄のかまどで焼いた竜人の心臓がタイルから飛び出し、目に入り盲目となったという。[1]勇者ペトレアは奪い取った竜人宅を捨て、恋人イレアナと結婚し、仲良く暮らしたという。

補説[編集]

上記2話の話から分かると思われるがルーマニアの竜人はの西欧の竜人の代表格であるメリュジーヌと違い、総じて強くないのが特徴である。愛する勇者の母親を守れなかったり、見ただけで塵となったりする存在である。ただし、ルーマニアでは普通のドラゴンもズメウと呼ばれる。

とはいえ、「勇士ペトレアとイレアナ」の竜人はもはや被害者と言ってもよい。ペトレアは「勇者」と言ってよいのかも疑問符がかなりつくお話といえよう。物語が出てくる竜人は勇者に恋人イレアナがいたことと、勇者の母親と愛し合っていたことを考えると、男性と普通に解釈してよさそうである。[2]「勇士ペトレアとイレアナ」は本当に「民話なのか」という疑問も持つ読者もいるであろうがグリム童話を初め、民話や童話の類はこのように本来はグロテスクな話題で一杯という話が多いのである。子供向けのメルヘンに書き換えられたのは近代以降であって、それまでは民話はあくまでも大人を含む社会全体の無形遺産であることに留意したい。

一方、ルーマニアの「ズメウ」は別の側面を持つズメウ達もいる。それは幽霊や吸血鬼のような存在である。長い炎のような姿だが家に入ると人間に化ける。トランシルヴァニアでは若い少女の姿をしながら羊飼いを誘惑して羊もろとも性交をするという。貞操を守るためにはにんにくとクサノオウと蜜蝋を混ぜたものが有効とされ、ルーマニアの吸血鬼伝承と混在している。ウラド・ドラクル伝説の場にふさわしいズメウともいえよう。[3]

ズメウは黄金の林檎を盗んできた説話もあり、勇者に退治されるという。[4]

ギリシャのズメウは愚か者の大食で40人もの兄弟を持つ。姿は醜くオーガのようであり、ときおり女性を誘拐する山怪として登場する。[5]

「ズメウ」は悪い意味だけに使われるものではない。例えばサッカー選手「デニス・ズメウ」(Denis Zmeu)[6]のように人名にも使われる。またアゲランの両親はアゲランが洗礼後に神の恩恵をさずかったおかげで「9日のうちに99日分も大きくなった」と伝えられている。この時「龍人(ズメウ)とみまちがうばかりに強くなり」と民話は表現している。[7]

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  1. ^ なお、「勇者が母親に尽くしていなかったら竜人の心臓は勇者の目を攻撃する」ことをこの時勇者は宣言している。逆に「母親が子である勇者に尽くしていなかった場合は竜人の心臓は母親の目を攻撃する」ことをここで宣言した。直野敦・住谷春也「ルーマニアの民話」恒文社,1980,「勇士ペトレアとイレアナ」p194より。
  2. ^ 直野敦・住谷春也「ルーマニアの民話」恒文社,1980,「勇士ペトレアとイレアナ」p174など竜人と母親がむつみあっている場面がいたる場所で見られる。p188では「『おれ』があいつをバラバラにしてやるよ」という場面がある。この台詞からしても竜人はおそらく男である。
  3. ^ 「吸血鬼の事典」マシューバンソン著、松田和也訳、青土社,2004,p204.より。
  4. ^ 勇敢なPrâsleaと黄金の林檎 Prâslea the Brave and the Golden Applesより。
  5. ^ 「世界の民話4 東欧 Ⅰ」小沢俊夫・飯豊直男訳、ぎょうせい、1977,pp188-194.「ひげなしと竜人」より。
  6. ^ ただし、デニス・ズメウ氏はルーマニアの隣国であるモルドバ出身である(所属チームはルーマニア1部のFCヴァスルイである)。
  7. ^ 直野敦・住谷春也「ルーマニアの民話」恒文社,1980,「勇士アゲラン」p143より。

参考文献[編集]

  • 直野敦・住谷春也「ルーマニアの民話」恒文社1980,pp141-160.「勇士アゲラン」
  • 直野敦・住谷春也「ルーマニアの民話」恒文社1980,pp171-194.「勇士ペトレアとイレアナ」
  • 小沢俊夫・飯豊直男訳「世界の民話4 東欧 Ⅰ」ぎょうせい1977,pp188-194.「ひげなしと竜人」
  • マシューバンソン著、松田和也訳「吸血鬼の事典」青土社,2004.

関連項目[編集]