ウイングシャトル

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ウイングシャトル
北ウイング先端駅に停車中のウイングシャトル
北ウイング先端駅に停車中のウイングシャトル
基本情報
所在地 関西国際空港
運行範囲 本館駅(本館ターミナルビル) - ウイング先端駅(545 m)
種類 案内軌条式鉄道AGT
開業 1994年9月4日
運営者 関西エアポート
詳細情報
路線数 2
駅数 6
電化方式 三相交流600V, 60Hz
最高速度 35 km/h
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ウイングシャトル(通称:シャトル)は、関西国際空港第1旅客ターミナルの旅客ターミナルビルと南北ウイング間を移動するための新交通システム(AGT)である[1]。あくまでもエレベーターエスカレーター同様、昇降機(水平式エレベータ)扱いで、日本の鉄道事業法軌道法による鉄道・軌道には含まれない[1]

路線[編集]

路線上面図(南ウイング)

ウイングシャトルは、ターミナルビルの北ウイングを走る路線と、南ウイングを走る路線の2系統がある。

旅客ターミナルビル3階・出国審査場通過後の、国際線トランジットエリア左右にある「本館駅」を起点とし、ウイング中央部ゲートの最寄りとなる「中間駅」と、ウイングのもっとも端の最寄である「先端駅」の3駅がある。「本館駅」と「先端駅」の間はそれぞれ545mとなっている。

信号保安システムは、一般的なAGTシステム同様にATCATOを使用している[2]日本信号が運行制御装置、駅ATO車上装置、ATC/TD地上・車上装置等を製造している[2]

途中、本館駅を出てすぐに車両基地があり、ここで車両の整備・修理・洗車が行われる。本館駅と中間駅の間には行き違い線があり、ここですれ違う。このため、この区間に入る際、一旦減速する。早朝や深夜帯は、この行き違い線に1編成ずつ留置されることがある。

車両基地への入出庫時には可動式の分岐器を使用するが、通常の運行に使用する行き違い線では、車両側に分岐輪を設置する「車上分岐方式」を採用しており、無人運行中は分岐器の操作は不要となっている[2]

駅の構造[編集]

新交通システムで見られるホームドア式となっている。どの駅もCIQの関係上、出発側と到着側をガラスで仕切られた構造となっている。

車両[編集]

ウイングシャトル
走行中のウイングシャトル
基本情報
製造所 新潟鐵工所
製造年 1994年・1999年
製造数 3両編成9本(27両)
運用開始 1994年9月4日
主要諸元
編成 3両編成(全電動車)
軌間 1,700 mm
電気方式 三相交流600V, 60Hz
最高運転速度 35 km/h
設計最高速度 40 km/h
起動加速度 3.0 km/h/s
減速度(常用) 4.0 km/h/s
減速度(非常) 6.0 km/h/s
編成定員 243人
車両定員 先頭車82人(座席4人)
中間車79人(座席4人)
車両重量 各車10.8 t
全長 先頭車 9,575 mm
中間車 9,000 mm
全幅 2,670 mm
全高 3,300 mm
車体 ステンレス
台車 1軸ステアリング台車
側方案内4輪ステアリング方式
空気ばね付平行リンク式ユニット台車
主電動機 直流分巻電動機
東洋電機製造製TDK8822-A形)
主電動機出力 70 kW
駆動方式 直角カルダン駆動方式
歯車比 1:6.833
制御方式 サイリスタ位相制御
(東洋電機製造製) 1C3M制御
制動装置 回生ブレーキ併用電気指令式ブレーキ
保安ブレーキ駐車ブレーキ(基礎ブレーキは空油変換式ディスクブレーキ
保安装置 ATCATO
備考 出典[1]。鉄道事業法による正式な鉄道ではない。
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車両デザインは、旅客ターミナルとともにイタリア建築家レンゾ・ピアノによるもので、空港周辺の環境に調和するデザインとしたものである[1]。車両は建物内移動設備のため建築基準法に基づいて製造されている[1]。車体は軽量ステンレス製であり、空港ターミナルビル内の動くものは「赤色」を基調とするため、車体カラーリングはそれに合わせている[1]

3両1編成で、南北両ウイングに4編成ずつ(北ウイング:01 - 04編成、南ウイング:05 - 08編成)、後述の整備時用の予備編成として1編成(09編成)が配置されている。すべて新潟トランシス(旧:新潟鐵工所)製である。CIQの関係上、車両は出発客専用の1両(両ウイング中央寄り)と、到着客専用(同じく先端寄り)の2両という構成になっている。各々の間は仕切り戸で区切られており、通常は閉鎖されている。前面には非常扉が設けられている。

車内

車内の座席は折りたたみ式となっており、1両あたり4席となっている。車内中央部には手すりがある。バリアフリーのため、先頭車には車椅子スペースとして固定金具を備えている[1]。側面の客用ドアは1,600 mm幅として、多客時に対応している[1]。ドア上にはLEDによる位置表示灯が備えられており、到着する前に到着駅のランプが点灯する。ドアチャイムの音は、JR東日本キハ100系気動車と同じ音である。各車両には非常通報装置を備えている[1]

空調装置は室外機を床下に、室内機を車内妻天井部に設置したセパレート方式で、容量は12.21 kW(10,500 kcal/h)である[1]

機器[編集]

制御方式はサイリスタ位相制御である[3]。1両に搭載した制御装置(RG710-A-M形主制御器)で、各車両に1基ずつ搭載する主電動機(直流分巻電動機・TDK8822-A形)を直列で制御する「1C3M制御」方式である[3]。全電動車だが、各車2軸のうち本館駅寄り1軸のみ主電動機を装備している[1]。サイリスタ位相制御装置、主電動機、補助電源装置、集電装置などの電気品は、東洋電機製造が担当している[3]

補助電源装置は三相交流550V,60Hzを単相交流100Vに変換する三相変圧器(3kVA)と直流100Vに変換する整流装置(5kW)から構成される[3]。このほか、M1車に単相交流100V(定電圧)を出力する補助変圧器(750W)があるほか[3]、各車両に空調装置専用の補助変圧器を搭載している[1]

先頭車最前部には入れ換え用の簡易運転台があり、無人運転時にはカバーで防護されている[1]。簡易運転台には簡易形マスコン(15km/h走行用の簡易定速走行機能付)、列車無線ハンドセット、速度計、圧力計、各種表示灯、ドア開閉ボタンなどを備えている[1][3]

本線上では無人運転を行うが、車両基地への入れ換え運転(出入庫)は手動運転を行う[2]

運用[編集]

すべて最高時速35kmの無人自動運転で、航空機の到着・出発時刻に併せ、最短2分間隔、最長で6分間隔の運行となっている[1]。深夜帯は運転を取りやめたり、各駅に備え付けの呼び出しボタンを押すことによって、車両をホームに呼び出し、乗車する形となっている(デマンド運行[2]

無料で乗車できるが、誰もが乗車できるものではなく、関西国際空港第1ターミナル発の国際線に搭乗する、または海外から第1ターミナルに到着した乗客、もしくは第1ターミナル発着便を利用する形で関西国際空港を経由し第三国へ乗り継ぐ乗客・乗員、および空港関係職員が乗車できる。

各ウイングとも海側(第2滑走路寄り)が先端駅行き、陸地側(第1滑走路寄り)が中間駅行きとなっている。路線の構造上、先端駅行きは非常時をのぞいて中間駅は通過し、中間駅行きは先端駅に行くことはない

なお2021年より行われている第1ターミナルのリノベーション工事に伴い、本館駅 - 先端駅間、若しくは本館駅 - 中間駅間の運行が長期間休止となることがある。

予備編成[編集]

1999年に、運行しているウイングシャトルを長期間整備する際の編成不足を補えるよう、1編成増備された。使用しないときは、本館駅出てすぐの車両基地もしくは先端駅(陸地側)に留置される。

仕様は最初に投入された8編成と同様だが、南北両ウイングで使用できるよう、ドア上の駅名表示が差し替えられる構造である。

南北両ウイングへは深夜帯に一度地上に降ろし、陸送され軌道上に吊り上げる。

編成[編集]

 
← 先端駅
本館駅(本館ターミナルビル)
車種 M1 M2 M3
用途 到着専用 出発専用
搭載機器 TA,CP
ATC、ATO
APU,CP,BT Cont,PT
SR
凡例 
  • Cont:制御装置、APU:補助電源装置、TA:補助変圧器(定電圧)、CP:空気圧縮機、BT:蓄電池
  • PT:集電装置、SR:列車無線と無線アンテナ
  • ATC、ATO:保安装置と自動列車運転装置

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 日本鉄道車輌工業会『車両技術』206号(1995年2月)「関西国際空港AGTシステム「ウイングシャトル」の車両」pp.72 - 87。
  2. ^ a b c d e 日本信号「日本信号技報」第19号(1995年1月)『関西国際空港旅客輸送システム』pp.11 - 20。
  3. ^ a b c d e f 東洋電機製造『東洋電機技報』第90号(1995年1月)「最近の中量軌道新交通システム向車両用電気品について」pp.15 - 21。

参考文献[編集]

  • 日本信号「日本信号技報」第19号(1995年1月)『関西国際空港旅客輸送システム』
  • 東洋電機製造『東洋電機技報』第90号(1995年1月)「最近の中量軌道新交通システム向車両用電気品について」
  • 日本鉄道車輌工業会『車両技術』206号(1995年2月)「関西国際空港AGTシステム「ウイングシャトル」の車両」

関連項目[編集]

外部リンク[編集]