つや姫

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つや姫 パッケージ

つや姫(つやひめ)は、イネ)の栽培品種の1つである。日本山形県で誕生した。山形県では「雪若丸」とともに、「はえぬき」「どまんなか」に代わる新ブランド米として、県を上げて全国にアピールしている。2009年平成21年)に公募と県民投票により「つや姫」と命名され[1]、2019年(令和元年)にはデビュー10周年記念イベントが開催された[1]

概要[編集]

1998年に山形県立農業試験場庄内支場(現:山形県農業総合研究センター水田農業試験場)で、「東北164号」を父、「山形70号」を母として交配が行われ、27粒の種子を採種した。その後、世代促進を行った後代を選抜・育成し、2005年雑種第9代に「山形97号」の地方番号を付与し、奨励品種決定調査等の各種試験に供試した。

2008年に山形県で奨励品種に指定採用されて以降は、以下の県において奨励品種指定が行われた。

採用年度 県名
2008年 山形県[2]
2009年 宮城県[3]
2011年 大分県[4]
2012年 島根県[5]
長崎県[6]

ブランド米への展開[編集]

山形県では全国的な知名度を上げるため、他県での作付けを促すとともに流通ロットの確保を図り、長期的には全国ブランド銘柄米並みのシェアを目指す戦略展開を行った。

種子の譲渡条件として、高品質の確保と産地拡大を狙うため、山形県内では県が認定した農家に限定し、他都道府県に対しては奨励品種への採用を前提とした。ただし大分県は試験段階から種子の譲渡を受けている。

山形県の戦略[編集]

ブランドロゴ
ブランドロゴ

2007年度(平成19年度)、2010年10月のデビューに向けた3ヵ年戦略を策定し、ブランド化戦略を具体的に展開するため、山形県農林水産部県産米ブランド推進課により「山形97号(つや姫)ブランド化戦略実施本部」が設置された[7][1]

2007年度に全国で適応性試験を実施した結果、2009年には宮城県で本品種が奨励品種として採用された[2][3]

2008年度(平成20年度)には名称の公募と決定が行われ[1]、2009年度(平成21年度)には、ロゴマークキャッチフレーズ、米袋デザインを決定し[1][8]、山形県と東京都でプレデビューイベントを開催[1]。本格販売に向けて試験的な販売が行われた。

ロゴマーク等のデザインには、アートディレクター佐野研二郎をブランドデザイナーに起用し、ロゴには米どころ山形と日本(日の丸)で「新しい和」をイメージする以下の3要素を織り込んだ。

  • 米の「※」という記号
  • に囲まれた山形の大地
  • 朝日(日の丸=日本)

2010年度(平成22年度)には本格デビューとして[1]、山形県内および全国でデビューイベントを開催した[1]。同年産の生産者2,573名が認定され[9]、良食味・高品質米を確保するため、食味の指標である玄米粗タンパク質含有率による出荷基準が新たに設定された(出荷基準:6.4%以下(水分15%換算))[10]

名称決定までの経緯[編集]

全国公募→県民投票を経て「つや姫」と命名
全国公募→県民投票を経て「つや姫」と命名
モンテディオ山形公式ユニフォームの「つや姫」ロゴ
モンテディオ山形公式ユニフォームの「つや姫」ロゴ

全国から応募のあった34,206点の名称の中から、最終的に7点に絞られた後、県民投票が実施された[1]

  • 1位:「山形97号」
  • 2位:「出羽穂の香」
  • 3位:「つや姫」

この結果を踏まえ「山形97号ブランド化戦略実施本部」では、商品特性が伝わりやすいことや首都圏等在住の女性からの評価が高いことなどから、2009年2月23日に名称を「つや姫」に決定した[11][12]。また名称決定には、他県(当初は特に宮城県)での奨励品種採用を推進するため「山形・出羽国」が前面に出る名称を避けることも考慮された。

商標登録[編集]

「つや姫」の品種登録出願が2009年4月22日付けで公表され、同年8月21日付けで商標登録が行われた。

商標登録は中国香港台湾でも行われた[13]

宣伝広告[編集]

2009年度から日本プロサッカーリーグ(Jリーグ)に加盟するモンテディオ山形ユニフォームに「つや姫」のロゴが掲出されている[14][15]。2014年まで胸部、2015年から背中部に掲出。山形県と山形県農業協同組合中央会(JAグループ山形)の共同スポンサード

品種特性[編集]

「つや姫(山形97号)」と「コシヒカリ」 つや姫は草丈が短く倒れにくい
「つや姫(山形97号)」と「コシヒカリ」
つや姫は草丈が短く倒れにくい
収穫前
収穫前
精米後
精米後
  • 出穂期・成熟期ともコシヒカリ並で、山形県では晩生に属する[16]
  • 収穫時期はコシヒカリと同じ。
  • 稈長(稲の背丈)はコシヒカリより短く、耐倒伏性はコシヒカリより強いやや強[2][16]
  • 単位収穫量はコシヒカリよりやや少ない[2][16]
  • いもち病真性抵抗性導入遺伝子は「Pii,Pik」。葉いもち抵抗性は穂いもち抵抗性は(強)、障害型耐冷性・穂発芽性はともにである[16]
  • 玄米千粒重はコシヒカリと同じ22g程度[16]
  • 玄米光沢があり、白未熟粒の発生が少なく高品質であり、炊飯米の外観と味が優れコシヒカリ以上の極良食味である[16]
  • 財団法人日本穀物検定協会におけるランキングでは、2008年・2009年産米[20]とも、参考品種ながら特Aにランクした。
  • 2010年夏の記録的猛暑では、一等米比率が全国平均で63%(新潟県ではコシヒカリ17%、県全体で19%)と過去最低となったが、山形県産つや姫は一等米比率98%(県全体で76%)で国内品種の最高値であった。高温耐性は予想されていたが山形県としても想定外の好成績で、気候温暖化による高温障害が相次ぐ西日本各県の注目を集めている[21]

生育特性[編集]

一例として、山形県での栽培時期を示す。

祖先品種[編集]

種苗法違反・育成者権侵害問題[編集]

前述のとおり、山形県はつや姫を戦略的品種として重視し、種子の譲渡には県の許可が必要である。奨励品種に導入した各県にも同様の措置を求めている。

2012年7月に山形県の通報により、山形県警種苗法違反(育成者権の侵害)の疑いで、愛知県農業男性を逮捕した。男性は密かに手に入れた種籾を栽培し、以前より個人ウェブサイト上でその譲渡を喧伝していた。DNA鑑定でつや姫と確認されたことから逮捕につながった[22]

山形県では2005年にもサクランボ種苗の海外持ち出し事件で、オーストラリアの生産販売業者に訴訟を起こしている(2007年和解)。

こうした事件は山形県に限らず頻発しており、付加価値を高めた農業品種育成を進めている日本国内の各県や農業団体にとっての大きな問題となっている。 

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i 「つや姫」10年の歩み|「つや姫」デビュー10周年記念”. つや姫10周年特設サイト. 2020年11月7日閲覧。
  2. ^ a b c d 水稲品種「つや姫」の奨励品種の指定について(2009年9月18日アーカイブ) - 国立国会図書館Web Archiving Project
  3. ^ a b 宮城県が「つや姫」を奨励品種に指定 県外初、品質など高く評価”. 山形新聞 (2009年9月24日). 2009年10月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年5月28日閲覧。
  4. ^ “【山形】つや姫、全国で育つ 2011年から大分で栽培、島根も視野”. 朝日新聞. (2011年2月5日). オリジナルの2012年7月13日時点におけるアーカイブ。. https://archive.is/W1v1 
  5. ^ コシヒカリの代替品種「つや姫」有力 山陰中央新報2010年11月24日
  6. ^ 「つや姫」本格栽培 高温に強い県産早期米 西日本新聞2012年5月25日
  7. ^ 山形県の新しいお米「つや姫」のブランド化を目指して”. 先進政策バンク. 全国知事会. 2010年5月28日閲覧。
  8. ^ 「つや姫」の米袋デザイン決定 首都圏の消費者に好評”. 山形新聞 (2009年8月28日). 2009年8月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年5月28日閲覧。
  9. ^ 2,573名の生産者に認定証を交付” (2010年2月25日). 2010年5月28日閲覧。
  10. ^ 「つや姫」出荷基準基本方針”. 山形県. 2010年5月28日閲覧。[リンク切れ]
  11. ^ 県産米新品種、名称は「つや姫」に 今秋から試験販売、アピール”. 山形新聞 (2009年2月23日). 2009年2月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年5月28日閲覧。
  12. ^ 「つや姫」に決定 コメ新品種「山形97号」/山形”. 農材ドットコム (2009年2月24日). 2010年5月28日閲覧。
  13. ^ 中国などで商標登録申請”. つや姫元年. 朝日新聞 (2010年3月2日). 2010年9月5日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年5月28日閲覧。
  14. ^ モンテディオ山形 2009シーズンユニフォームスポンサーについて”. Sports Yamagata 21 (2009年3月3日). 2010年5月28日閲覧。
  15. ^ モンテディオ山形 2010シーズンユニフォームについて”. Sports Yamagata 21 (2010年2月19日). 2010年5月28日閲覧。
  16. ^ a b c d e f g 晩成・短稈・良食味・高品質の水稲新品種「つや姫」の育成” (PDF). 東北農業研究センター (2009年6月22日). 2012年3月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年5月28日閲覧。
  17. ^ つや姫の食味特性”. 2010年5月28日閲覧。
  18. ^ 炊飯米の多面的物性評価による水稲新品種「つや姫」の食味解析”. 東北農業研究センター. 2010年5月28日閲覧。
  19. ^ 「はえぬき」の失敗から学ぶ“数の力”戦略”. コメも政権交代!? “打倒コシヒカリ”狙う「大物ルーキー」の戦略. 日経BP (2010年2月26日). 2010年5月28日閲覧。[リンク切れ]
  20. ^ 特Aは前年と同数 Bランクはなし コメの食味ランキング決まる”. 農政・農協ニュース. 社団法人 農協協会 (2010年2月17日). 2010年5月28日閲覧。
  21. ^ “猛暑追い風に!山形の新ブランド米「つや姫」、10万分の1が産んだ救世主”. 産経ニュース. (2010年12月30日). オリジナルの2011年1月2日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20110102091205/http://sankei.jp.msn.com/science/science/101230/scn1012301801000-n1.htm 
  22. ^ 「つや姫」種もみ、無断販売 種苗法違反容疑で愛知の農家逮捕・山形署と県警 山形新聞2012年7月13日[リンク切れ]

参考文献[編集]

  • 五十嵐佳子『つや姫 10万分の1の米』角川学芸出版角川フォレスタ)、2012年3月9日。ISBN 978-4-046537775

関連項目[編集]

外部リンク[編集]