「朝鮮語の呼称問題」の版間の差分
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'''朝鮮語の呼称問題'''(ちょうせんごのこしょうもんだい)とは、[[日本]]における[[朝鮮語]]の呼び名に関する問題である。[[韓国]](大韓民国)が「[[朝鮮語]]」呼称は[[朝鮮民主主義人民共和国]](北朝鮮)にすり寄った表現または[[差別]]表現として[[抗議]]し、また韓国側が要求した「'''韓国語'''」に対して朝鮮民主主義人民共和国側が抗議してきたことが発端である<ref name="uchiyama">{{Cite journal|和書|url=https://doi.org/10.15002/00002829 |author=内山政春 |title=言語名称「朝鮮語」および「韓国語」の言語学的考察 |journal=異文化 論文編 |publisher=法政大学国際文化学部 |date=2004-04 |issue=5 |pages=73-107 |naid=120000993866 |doi=10.15002/00002829 |ISSN=13493256}}</ref>。また、NHKの朝鮮語講座が「[[ハングル]]講座」の名称で開始されたり<ref name="uchiyama"/>、朝鮮語が「ハングル語」と誤解される問題もある<ref name="gokai"/>。 |
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== 関連項目 == |
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2022年4月9日 (土) 13:45時点における版
朝鮮語の呼称問題(ちょうせんごのこしょうもんだい)とは、日本における朝鮮語の呼び名に関する問題である。韓国(大韓民国)が「朝鮮語」呼称は朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)にすり寄った表現または差別表現として抗議し、また韓国側が要求した「韓国語」に対して朝鮮民主主義人民共和国側が抗議してきたことが発端である[1]。また、NHKの朝鮮語講座が「ハングル講座」の名称で開始されたり[1]、朝鮮語が「ハングル語」と誤解される問題もある[2]。
経緯
「朝鮮語」と「韓国語」
大日本帝国による韓国併合以降、第二次世界大戦後に朝鮮半島が独立するまでは、日本では「朝鮮語」という呼称のみが存在した。戦後に朝鮮語を公用語とする朝鮮民主主義人民共和国(北朝鮮)と大韓民国(南朝鮮=韓国)がそれぞれ独立し並立したため、それぞれの公用語を別の名称で呼び始めたことが問題の発端となった。朝鮮民主主義人民共和国は「조선어(チョソノ、朝鮮語)」または「조선말(チョソンマル)」、韓国は「한국어(ハングゴ、韓国語)」または「한국말(ハングンマル)」と呼ぶ。正書法・発音について、韓国・北朝鮮はそれぞれ独自に標準を制定し、辞書の語順や、政治体制の違いなどから語彙・コーパスなどに大きな相違が生じているが、両国の話者たちは「ともに同じひとつの言語」と観念している[注釈 1][要出典]。
日本語で「朝鮮語」と呼ぶのは政治的に中立的でないという意見が主として韓国側から出され、問題化した[1]。韓国人は「韓国語」が正式名称という[2]。
「ハングル」とNHK朝鮮語講座名変更事件
1982年に、日本放送協会が語学番組「朝鮮語講座」を作ろうとした際、在日本朝鮮人総聯合会(朝鮮総聯)が「朝鮮語」、在日本大韓民国民団(民団)が「韓国語」という呼称を用いるように主張したことで対立し、妥協の産物として文字の名称である「ハングル」を用いた『アンニョンハシムニカ 〜ハングル講座〜』という名前が用いられることになった[1][注釈 2]。以降、NHKのテレビやラジオでのハングル講座の中では朝鮮語ないし韓国語という表現は使われず、「ハングル」と呼び換えるか、もしくは「この言語」という表現を用い、言語を直接指す表現を避けるようにしている[注釈 3]。このほか、大学入試センターでの「朝鮮語」呼称に対しても抗議がなされた[1]。
これに対しては、「『한글(ハングル)』とは文字の名称であって決して言語の名称ではないため、朝鮮語という言語を『ハングル』『ハングル語』と呼ぶことは誤っている」という意見が韓国人研究者からも出されている[2]。これは日本語を「カナ」と呼んだり、英語を「ローマ字語(ラテン字語)」と呼ぶようなものだからである[注釈 4][注釈 5]。
現状
1965年(昭和40年)に、大韓民国と国交を回復し、それ以来「大韓民国が朝鮮半島における唯一の政府」としている日本では、韓国との交流が深化するにつれ、韓国国内で用いない「朝鮮語」の呼称ではなく、「韓国語」という表現が増えた。それに合わせ、教育機関で開講される語学としても「韓国語」という呼称が採用されている。ただし、日本においては「朝鮮語」が一般に南北双方の言語を指すのに対し、「韓国語」という呼称が朝鮮民主主義人民共和国で話されている変種のことを指すことはほとんどなく、もっぱら韓国で使用されている変種を指す。一方、民族教育を行う朝鮮大学校・朝鮮学校では、朝鮮民主主義人民共和国だけを正統な朝鮮国家と見なし、韓国のことを「南朝鮮」と呼ぶため、専ら「朝鮮語」という呼称を使用する[3]。
現状としては日本では、朝鮮語が使われてきた地域が歴史的に「朝鮮」半島と呼ばれてきたことから、言語学などの学術および公文書では「朝鮮語」と呼ぶのが標準となっている。李氏朝鮮の頃の朝鮮語は李朝語または中期朝鮮語と言う。学術以外の場においても第二次世界大戦後長らくは「朝鮮語」という呼称が一般的であった。
しかし、朝鮮半島で正式に日本と国交を結んでいるのは韓国だけという事情もあり、「韓国語」も“韓国で用いられる朝鮮語”という意味の一般用語として用いられている。現に、今日の日本社会においては、この言語を「韓国語」と呼ぶことが定着し、「朝鮮語」と呼んだ場合、多くの日本語話者は朝鮮民主主義人民共和国を連想する場合が多い。そのため、「韓国・朝鮮語」のような並記をすることもある[4]。「韓語」という言い方もなされる[4][5]。
批判
日本の言語学者は、日本国での使用にあたっては日本人による日本語の呼称という視点が前提とされるべきであり、「韓国語」のように国家を単位として言語の呼称を設けることは矛盾であると批判している[1]。日本での「朝鮮」呼称が朝鮮半島全体を指すのは、日本語を母語とする話者(日本人)の語感の反映であり、ドイツ語がオーストリアやスイスの言語を含むのと同様に、言語名と国家名(国号)は一致しないのが世界では通常であると指摘されている[1]。また「朝鮮」が差別的な意味あいがあるからといって「朝鮮」という言葉を使うべきでないという理由にはならないという主張もある[1]。
その他の呼称・海外の呼称
「コリア語」
漢字文化圏外では、朝鮮語の呼び名を高麗に由来する "Korean"(英語)、« Coréen »(フランス語)などと呼ぶため、このような問題は起きていない。そのため、最近では日本国内において中立性を保つため、英語の "Korea" を借用することがある[要出典]。その例として、 1985年に「やさしいコリア語入門」(柳尚煕 、呉英元著、評論社)が出版されたり、 在日韓国人や在日朝鮮人を「在日コリアン」と呼んだり、東海大学、大東文化大学、上智大学、帝京大学、文教大学、法政大学などではこの言語を「コリア語」と呼んでいる[6]。ただし前述の通り、学術的には「朝鮮語」が慣用されている[1]。
中国での呼称
中華人民共和国(以下、中国と表記)では1949年の建国当初は朝鮮民主主義人民共和国を「朝鮮半島における唯一の政府」としていたこと、「中国の少数民族のひとつとしての名称」に「朝鮮族」を採用し、延辺州・長白県などに設置された分布する民族区域自治行政体の呼称に「朝鮮族自治州/県」を使用したことから、この言語を「朝鮮語」と呼ぶことが一般的であった。[要出典]今まで、中国の朝鮮族は「朝鮮語文」と「朝鮮語」の教科書を名づけている[7]。教育部の「普通高等学校学部専攻リスト」を継承すると、中国内の各大学は専攻名を朝鮮語学科に設定する場合が多い[8]。しかし、1992年に韓国との国交が樹立され、大学の学部・学科などで韓国式を教えることが始まると、こちらに対しては「韓語」あるいは「韓国語」と呼ぶことが多くなっている[要出典]。 例えば、2009年初頭、北京大学の朝鮮語学科は、朝鮮(韓国)言語文化学科に改称され[9]、1995年には復旦大学外国語文学部に韓国語学科が設置されている[10]。
脚注
注釈
- ^ ドイツ語は、ドイツ・オーストリア・スイスの間で、相当に大きな方言差が見られるが、三ヶ国の言語当局は共同して語彙の共通化や「正書法」の修改訂に取り組んでいる。ルクセンブルクでは、隣接するドイツ語のモーゼル・フランケン方言と極めてよく似たことばが用いられているが、その方言的要素を強調した独自の正書法を制定し、「ドイツ語とは別個の言語であるルクセンブルク語」を主張している。[要出典]
- ^ NHKの語学講座抜本改革により、2008年度からはテレビ(NHK教育テレビ)が『テレビでハングル講座』、ラジオ(NHKラジオ第2)が『まいにちハングル講座』となった。なおハングルを用いた間接表現は、NHKの語学講座のほかにもNHKの国際放送(NHKワールド・ラジオ日本)で用いられている。
- ^ (例)「電話を取るときに使う、日本語の「もしもし」に当たる表現は、この言語では「여보세요(ヨボセヨ)」です」となる。このほかインタビュー等で「한국어(韓国語)」という単語が出てきた場合も、字幕では「ハングル」となる。
- ^ 例えば「『ハングル』能力検定試験」という語学検定試験は、日本における朝鮮語呼称問題の実際を一切知らない人からは「語学ではなく、文字の読み書きの能力だけを判断する試験」だと誤解されかねない[要出典]。
- ^ 言語の本質は音声であり、文字は言語を記録するための記号、すなわち音声を保存する副次的補助手段に過ぎず、言語と文字の関係は任意的、恣意的なので必然的関係がない。韓国語は、ハングル使用以前には吏読、郷札など漢字を使用して表記したし、最近は公共表示板に韓国の地名をローマ字(ラテン文字)で表示した場合が多いが、どの場合も文字が違うだけで、皆同じ韓国語という事実には変わりがない。同様に、もしある外国語をハングルで書いても、それはその外国語が分からない韓国人には理解できない記号のままである[要出典]
出典
- ^ a b c d e f g h i 内山政春「言語名称「朝鮮語」および「韓国語」の言語学的考察」『異文化 論文編』第5号、法政大学国際文化学部、2004年4月、73-107頁、doi:10.15002/00002829、ISSN 13493256、NAID 120000993866。
- ^ a b c 金 廷珉(キム・ジョンミン)「日本語と韓国語、どこが似ている、どこが違う」国立国語研究所、2012.
- ^ “文学歴史学部”. 朝鮮大学校. 2019年11月6日閲覧。
- ^ a b 『日本の学校における韓国朝鮮語教育-大学等と高等学校の現状と課題-』2005年5月発行 日本の学校で開設されている朝鮮語の科目名の呼称調査他結果
- ^ 取扱説明書検索 - パナソニック株式会社
- ^ 東海大学コリア語研究室[リンク切れ]、大東文化大学国際関係学部、上智大学、帝京大学、文教大学、法政大学。2021.4.28閲覧
- ^ “延边州为何使用朝汉两种语言文字?权威说法来了!”. 延辺發布 (2018年11月8日). 2021年5月5日閲覧。
- ^ “朝鲜语专业:韩国语人才的摇篮” [朝鮮語学科:韓国語人材の産室]. 大連外国語大学. 2021年5月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年5月2日閲覧。
- ^ “朝韩语系”. 北京大学. 2021年7月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年2月25日閲覧。
- ^ “韩语语言文学系”. 復旦大学. 2021年2月25日閲覧。