モデル (自然科学)

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天動説のモデル
ラザフォードの原子模型をモチーフとしたアメリカ原子力委員会の記章
生態ピラミッドのモデル

自然科学におけるモデルは、理論を説明するための簡単で具体的なもの。特に幾何学的な図形を用いた概念や物体。解釈とモデルは、おおよそ、1対1で対応する。ある解釈に対して、それを具体的に示すモデルがある。

天文学では、「天動説」及び「地動説」という理論があり、それを図形的に示したモデルがあった。ヨハネス・ケプラー正多面体(プラトン立体)を用いた太陽系モデルを示した。

原子構造理論では、古典論を前提とした「核の周りを回る電子」というモデルがあった(長岡半太郎ラザフォード)。このモデルはボーアの原子模型を経て、量子力学を用いた現在のモデルとして完成された。(原子模型を参照のこと)

定量的な解析のために数学を応用したモデルを数理モデルという。また確率論統計学を応用した統計モデルもある。これらは自然科学のみならず社会科学経済学社会学など)や人文科学心理学計量文献学など)でも用いられる。

生物学医学の研究では上記のようなモデルのほかに、生物を利用したモデルが用いられる。例えば実験動物を用いた疾病モデルなどがある。生物学では生命現象一般に関する研究のために単純で実験しやすい生物が用いられ、これらはモデル生物と呼ばれる。

学問とモデル

解釈・モデルは、複数ある状態からひとつへと収束することもあれば、逆にひとつの解釈しかなかった状態から複数が並立する状態に移行することもある。モデルの盛衰にはさまざまなパターンがある。

例えば、もとは学者も含めてほとんど全ての人々が地球中心説(=天動説)という考え方をしていたが、やがて太陽中心説(=地動説)が現れ、それぞれのモデルを支持する人がいる状態となったが、現代ではほとんどの人が太陽中心説を支持する、という状況になっている。

また、「複数の解釈のどれもが(ある意味で)正しい」ということもありうる。例えば、電子はある面では粒子のような振る舞いをし、ある面ではのような振る舞いをすることが、現在では知られている。

「モデル」と「近似」

「モデル」(model)と「近似」(approximation)は、ほぼ同義語として使われる場合がある。

例:自由電子モデル ⇔ 自由電子近似(「自由電子」の項参照)

分類

大野[1]はモデルという言葉の使い方を、次の相互排除的でない3つに大別した。

  1. 現実のある側面(ある現象)の数理的本質を捉えることを目的としたもの。現実はモデルより込み入ったものとなる。比喩的に言えば、現実とモデルの対応は準同型あるいは縮約的になる。イジングモデル原子の惑星モデルワインバーグ=サラムモデルなど。
  2. のある側面のあらゆる記述を与えることで実際の系の代わりになる数理的あるいは実体的な系。現象を観測した時に得られるデータを信号を見たときに、その信号を効率よく生み出せる信号源として現象を整理するためのモデルである。信号のデータ圧縮を目指しているとみることができ、現象の理解を目指していないしその本質の数学的表現を追求するという意識も希薄となる。これも現実との対応は全体としては準同型的あるいは射影的である。発電所等プラントのプロセスモデルin silicoの発生系・細胞生化学的系、シミュレーションなど。
  3. 抽象的な概念をより具体的に表現したもの。上記2つが記述の道具であるのに対し、これは論証の道具としてのモデルであると言ってもよい。上記の2つと違い、現実とどう対応させるかという問題は存在しない。数理論理学ではしばしばこの意味で用いられる。双曲幾何学のポアンカレ円板モデルチューリングマシン(「計算する」ことに対するモデル)など。

脚注

  1. ^ 大野克嗣『非線形な世界』東京大学出版会、2009年、185-188頁。ISBN 978-4-13-063352-9 

関連項目

自然科学以外の分野のモデルについてはモデル (曖昧さ回避)のページを参照のこと。

外部リンク

  • Models in Science - 科学で使われるモデルについて。スタンフォード哲学百科事典。