経済安全保障

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経済安全保障(けいざいあんぜんほしょう、: Economic security)とは、国家経済活動国民生活に対する脅威を取り除き、一国の経済体制社会生活の安定を維持するために、エネルギー資源食料などの安定供給を確保するための措置を講じることである[1]。一国の経済システムが安全に活動できる条件として、国民全体の生存に必要な最低限の生活必需品の生産量、輸出入量の規模およびそれを保障する条件、ある特定時点の生活水準の維持に必要な輸出入量の条件など、各種の水準が設けられている[2]

個人の経済安全保障の構成要素[編集]

アメリカにおいては、子供の経済安全保障は、家族や団体の収入レベルと雇用の安定によって示される[3]。50歳以上の人々の経済的安全保障は、社会保障給付年金・貯蓄、収入・雇用、および健康保険の加入状況で示される[4]

1972年、アリゾナ州議会は、「子供・大人・家族の、安全・幸福・自給自足」を促進することを使命とする、経済安全保障局を設立した。この部門は、雇用安定委員会、州公共福祉局、職業リハビリテーション局、州経済機会局、徒弟制度評議会、州労働計画局によって従前は管理されていた、州政府の活動を統合したものである。1974年には、州精神遅滞局(下院法案2213により発達障害局に改称)が、同局に統合された。同局設立は、管理負担・サービス・支出の重複を減らして、人々への直接サービスの統合を提供することを目的としていた。2007年1月に、家族支援プログラムである、ファミリーコネクションが統合された[5]

ミネソタ州経済安全保障局は、1977年に雇用サービスおよび職業リハビリテーション局、知事人事局、および貧困対策プログラムを管理する経済機会局の3つの部門が統合して設立されたものである。1985年に、州の視覚障害者サービスが同局に統合された。2003年、ミネソタ州経済安全保障局とミネソタ州貿易経済開発局が合併し、ミネソタ州雇用経済開発局が設立された[6]

国家の経済安全保障[編集]

経済安全保障とは、政治国際関係の文脈では、国民国家が自らの選択した政策に従って、国民経済を望ましい形で発展させることができる能力である。歴史的に、民族の征服は、略奪、新たな資源の獲得、征服された民族の経済の管理による貿易の拡大を通じて、征服者を富ませてきた。多国間協定・相互依存性・天然資源の安定供給などを特徴とする今日の複雑な国際貿易システムのもとにおいては、軍事政策と同様、経済安全保障は国家安全保障の重要な部分を成すものと言っても過言ではない[7]

経済的安全保障は、特に2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件以降、アメリカ外交政策における石油地政学において、国際関係の重要な決定要因として提言されてきた[8]

カナダ[編集]

カナダにおいては、国家全体の経済安全保障に対する脅威は、「経済的利益のために、専有情報や技術などの経済情報への不正アクセスを取得するための、外国政府による違法、秘密、または強制的な活動」である、経済スパイと見なされている[9]

日本[編集]

日本においても、国家安全保障会議をサポートする国家安全保障局に新たに「経済班」が2020年4月に設置されるなど、経済安全保障の観点からの政策提案が見られるようになり[10]自民党は「経済安全保障一括推進法案」の策定に向けた準備を進めている[7][11]

2021年10月発足の岸田政権において経済安全保障担当大臣が新設され、小林鷹之が任命された[12]。2021年11月19日に総理官邸で第1回経済安全保障推進会議が開催された[13]。2021年11月26日に経済安全保障法制に関する有識者会議第1回が開催された[14]

2022年2月25日に経済安全保障推進法案が閣議決定された[15]

2022年5月11日に経済安全保障推進法案が参議院本会議で可決、成立した[16]

その他[編集]

経済的安定と経済機会の間にはトレードオフの関係があると広く信じられている[17]

脚注[編集]

出典[編集]

  1. ^ デジタル大辞泉. “経済安全保障”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2023年2月3日閲覧。
  2. ^ ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典. “経済セキュリティ”. コトバンク. 株式会社DIGITALIO. 2023年2月3日閲覧。
  3. ^ Childstats.gov - America's Children: Key National Indicators of Well-Being 2007 - Economic Circumstances
  4. ^ Beyond 50: Summary Tables and Charts”. 2008年10月11日時点のオリジナルよりアーカイブ。2007年10月24日閲覧。
  5. ^ About DES
  6. ^ DEED History
  7. ^ a b 新たな「防衛力」 経済安全保障とは何か”. NHK政治マガジン. 日本放送協会 (2020年10月21日). 2020年11月29日閲覧。
  8. ^ Rupert, Mark (2007). International Relations Theory. Oxford: Oxford University Press 
  9. ^ Backgrounder No. 6: Economic Security Archived 2011-10-05 at the Wayback Machine.
  10. ^ 中村直貴 (2020年10月1日). “経済安全保障 -概念の再定義と一貫した政策体系の構築に向けて-”. 立法と調査 事項別索引(外交・防衛). 調査室作成資料. 参議院. 2020年11月29日閲覧。
  11. ^ “自民、経済安保推進法の制定求める 年末までに政府に提言”. Mainichi Daily News. (2020年10月16日). https://mainichi.jp/articles/20201016/k00/00m/010/192000c 2020年11月30日閲覧。 
  12. ^ “「職責の重み受け止め全力」 小林鷹之経済安保相”. 産経新聞. (2021年10月4日). https://www.sankei.com/article/20211004-FC5FLSSKPFK7TPS5J2YGIQUYRU/ 2021年10月31日閲覧。 
  13. ^ 令和3年11月19日 経済安全保障推進会議 | 令和3年 | 総理の一日 | ニュース”. 首相官邸ホームページ. 2021年11月28日閲覧。
  14. ^ 経済安全保障法制に関する有識者会議|内閣官房ホームページ”. www.cas.go.jp. 2021年11月28日閲覧。
  15. ^ 経済安保推進法案を閣議決定 重要物資の安定供給確保、罰則も”. 時事ドットコム. 時事通信社 (2022年2月25日). 2022年3月9日閲覧。
  16. ^ 経済安保推進法が成立 23年から施行、供給網を強化”. 日本経済新聞 (2022年5月11日). 2022年5月16日閲覧。
  17. ^ Mankiw (2012). Principles of Economics (6 ed.). South-Western Cengage Learning. p. 547. https://archive.org/details/principleseconom00mank_831 

関連項目[編集]

外部リンク[編集]