白鳥の湖

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『白鳥の湖』をデザインしたロシアの郵便切手
『白鳥の湖』の一場面。中央はニーナ・アナニアシヴィリ
音楽・音声外部リンク
全曲を試聴する
Tchaikovsky:Swan Lake - キーロフ・バレエ(現・マリインスキー・バレエ)による舞踊《音楽演奏に関する具体的記述無し》。Warner Classics公式YouTube。
音楽・音声外部リンク
抜粋を試聴する
Tchaikovsky:Swan Lake[注 1] - バス・ウィーヘルス(Bas Wiegers)指揮北オランダ交響楽団(Noord Nederlands Orkest)による演奏。AVROTROS Klassiek公式YouTube。

白鳥の湖』(はくちょうのみずうみ、 ロシア語: Лебединое озеро)は、ピョートル・チャイコフスキーによって作曲されたバレエ音楽、およびそれを用いたクラシックバレエ作品。『眠れる森の美女』、『くるみ割り人形』と共に3大バレエと言われる。日本では当初、『白鳥湖(はくちょうこ)』と呼ばれ、今でも内々の会話では略称で「はくちょうこ」と呼ぶバレエ団も少なくない[注 2][4]

概要[編集]

作品番号[編集]

  • Op.20(組曲版は Op.20a)

初演[編集]

蘇演[編集]

日本初演[編集]

楽器編成[編集]

ピッコロフルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、コルネット2、トランペット2、トロンボーン3、チューバティンパニ(4個)、大太鼓小太鼓タンブリンシンバルカスタネットタムタムトライアングルグロッケンシュピールハープ弦五部

演奏時間[編集]

全曲版は約2時間半(各55分、30分、45分、20分、23分)、組曲版は約23分。

作品の背景[編集]

ヨハン・カール・アウグスト・ムゼーウス
リヒャルト・ワーグナー

ドイツの作家ヨハン・カール・アウグスト・ムゼーウスによる童話『奪われたヴェール』を元に構想が練られ、1875年、ボリショイ劇場の依頼により作曲。1876年に完成した。バレエが作られたのはロシアだが、物語の舞台は『くるみ割り人形』と同じくドイツである。

チャイコフスキーにとって初めてのバレエ音楽であるが、初演当時は踊り手、振付師、指揮者に恵まれず、評価を得られなかった。それでもしばらくは再演されていたが、衣装・舞台装置の破損などからいつしかお蔵入りとなり、その後作曲者の書斎に埋もれていた。しかし、プティパとその弟子イワノフによって改造がなされ、チャイコフスキーの没後2年目の1895年に蘇演された。

『禁問の動機』と『白鳥のテーマ』

ワーグナーローエングリン』第1幕第3場より[5]
(禁問の動機)

{
#(set-default-paper-size "a7")
#(set-global-staff-size 15)
\key aes \major
\once \omit Score.MetronomeMark
\tempo 4 = 84
\override Score.SpacingSpanner #'common-shortest-duration = #(ly:make-moment 1 8)
\relative c'' {ees2-> aes,8-> bes8-> ces8.-> ees16-> ees2-> aes,4 r4 ees'2 aes,8-> bes8-> ces8.-> ees16-> ees2-> aes,4 r8. aes16 ces4.. ces16 fes4.. ges16 ees2~ees8 des8 ces8 des8 ees2. bes4 c2 }\bar "|"
}

『白鳥の湖』第2幕第10曲『情景』より[6]
(白鳥のテーマ)

{
#(set-default-paper-size "a7")
#(set-global-staff-size 15)
\key d \major
\once \omit Score.MetronomeMark
\tempo 4 = 84
\override Score.SpacingSpanner #'common-shortest-duration = #(ly:make-moment 1 8)
\relative c'' {fis2 b,8( cis8 d8 e8) fis4.( d8) fis4.( d8) fis4.( b,8) d8( b8 g8 d'8) b2~b8 e8( d8 cis8) fis2 b,8( cis8 d8 e8) fis4.( d8) fis4.( d8) fis4.( b,8) d8( b8 g8 d'8) b2.}\bar "|"
}

本作品にはワーグナーオペラローエングリン』(1850年初演)からの影響が指摘されている[7][8]。両作品で白鳥が象徴的な意味を持つこと[7]、『ローエングリン』の第1幕第3場で現れる「禁問の動機」と『白鳥の湖』の「白鳥のテーマ」との類似性[8](右図の譜例と試聴用サウンドファイル参照)、そしてチャイコフスキーがワーグナー作品の中で『ローエングリン』を特に高く評価していたこと[7]が根拠として挙げられている。

あらすじ[編集]

オデット(白鳥)役を演じるゼナイダ・ヤノウスキー《左側;英国ロイヤル・バレエ団

おおまかには以下に示すとおり。ただし、振付家や使用する版(後記参照)によって異なることが多く、また下記のうち序奏部は省かれることも多く、更にラストもハッピーエンドとなるか悲劇で終わるか等、さまざまである。

序奏[編集]

オデットが花畑で花を摘んでいると悪魔ロットバルトが現れ白鳥に変えてしまう。

第1幕[編集]

王宮の前庭

今日はジークフリート王子の21歳の誕生日。お城の前庭には王子の友人が集まり祝福の踊りを踊っている。そこへ王子の母が現われ、明日の王宮の舞踏会で花嫁を選ぶように言われる。まだ結婚したくない王子は物思いにふけり友人達と共に白鳥が住む湖へ狩りに向かう。

第2幕[編集]

静かな湖のほとり

白鳥たちが泳いでいるところへ月の光が出ると、たちまち娘たちの姿に変わっていった。その中でひときわ美しいオデット姫に王子は惹きつけられる。彼女は夜だけ人間の姿に戻ることができ、この呪いを解くただ一つの方法は、まだ誰も愛したことのない男性に愛を誓ってもらうこと。それを知った王子は明日の舞踏会に来るようオデットに言う。

第3幕[編集]

王宮の舞踏会

世界各国の踊りが繰り広げられているところへ、悪魔の娘オディールが現われる。王子は彼女を花嫁として選ぶが、それは悪魔が魔法を使ってオデットのように似せていた者であり、その様子を見ていたオデットは、王子の偽りを白鳥達に伝えるため湖へ走り去る。悪魔に騙されたことに気づいた王子は嘆き、急いでオデットのもとへ向かう。

第4幕[編集]

もとの湖のほとり

破られた愛の誓いを嘆くオデットに王子は許しを請う。そこへ現われた悪魔に王子はかなわぬまでもと跳びかかった。激しい戦いの末、王子は悪魔を討ち破るが、白鳥たちの呪いは解けない。絶望した王子とオデットは湖に身を投げて来世で結ばれる。

メッセレル版以降、オデットの呪いが解けてハッピーエンドで終わる演出も出てきたが、原典とは異なる。

主要曲[編集]

バレエ『白鳥の湖』より









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音楽・音声外部リンク
組曲版の全曲を試聴する
P. I. Tchaikovsky 'Swan Lake' Suite - イム・ホンジョン(林憲政;Hun-Joung Lim)指揮コリアン・シンフォニー・オーケストラによる演奏。コリアン・シンフォニー・オーケストラ公式YouTube。
TCHAIKOVSKY - Swan Lake Suite Op.20 - イウリアン・ルス(Iulian Rusu)指揮アジア・フィルハーモニー管弦楽団による演奏。Busan Maru International Music Festival公式YouTube。
Pyotr Tchaikovsky - Swan Lake suite Op.20a - Sylwia Anna Janiak指揮Symphony Orchestra of the Feliks Nowowiejski Music School in Gdanskによる演奏。Akademia Filmu i Telewizji (映像制作者)公式YouTube。
Tchaikovsky - Swan Lake suite《追加有り》 - Maciej Niesiołowski指揮Symphony Orchestra of the Karol Szymanowski Music School in Warsawによる演奏。Akademia Filmu i Telewizji (映像制作者)公式YouTube。
音楽・音声外部リンク
組曲版第2曲「ワルツ」(第1幕から)
P. Tchaikovsky:Swan Lake Suite, Valse - ダリウシュ・ミクルスキ(Dariusz Mikulski)指揮タイ・フィルハーモニック管弦楽団による演奏。指揮者自身の公式YouTube。
Tchaikovsky:Swan Lake Waltz - ニコラス・クラウゼ(Nicolas Krauze)指揮ONE Symphony Orchestraによる演奏。指揮者自身の公式YouTube。
  1. 序奏
  2. ワルツ〔第1幕〕
  3. 情景〔第2幕〕
  4. 四羽の白鳥の踊り〔第2幕〕
  5. 王子とオデットのグラン・アダージョ〔第2幕〕
  6. ハンガリーの踊り(チャールダーシュ)〔第3幕〕
  7. ナポリの踊り〔第3幕〕
  8. スペインの踊り〔第3幕〕
  9. 終曲〔第4幕〕

など

ハープの短い序奏のあと、オーボエがソロで主旋律を吹く「情景」(第2幕・第10曲、第14曲)が、本作品を代表する曲として、特によく知られている。

演奏会用組曲としてしばしば演奏される。曲目についてはチャイコフスキー没後の1900年に、出版社のユルゲンソンが

  1. 情景〔第2幕〕
  2. ワルツ〔第1幕〕
  3. 四羽の白鳥の踊り〔第2幕〕
  4. 王子とオデットのグラン・アダージョ〔第2幕〕
  5. ハンガリーの踊り(チャールダーシュ)〔第3幕〕
  6. 終曲〔第4幕〕

を取り出して出版した組曲版のセレクト以外にも、指揮者によってはまた別の曲を加えた形で演奏される。

チャイコフスキー本人も、1882年には「出来が良いものと考えた曲を選んで組曲を作る」という意思をユルゲンソン宛の手紙で表明していたが、その中では具体的な曲を挙げることはしていない。その後実際にチャイコフスキーがその作業に取り組んだか、またユルゲンソンの組曲版の選択に彼の意思が反映されているのかなどの具体的な証拠は残されていない。

なおクロード・ドビュッシーはその少年時代、チャイコフスキーのパトロンだったナジェジダ・フォン・メックのお抱えピアニストを務め、その際にこの『白鳥の湖』組曲のピアノ連弾版を編曲して、フォン・メック夫人の子供たちと共に演奏した。

たくさんの版[編集]

1895年の蘇演以降、多くの演出家によって様々な版が作られた。多くはプティパ=イワノフ版をもとに改訂を施したものだが、ストーリー、登場人物、曲順などは版によってはかなり異なる。ただし白鳥たちの登場する第2幕はプティパ=イワノフ版が決定的な影響力を持っており、イワノフの振付がほとんど原形のまま見られる版が多い。

など

一人二役[編集]

通常オデット(白鳥)とオディール(黒鳥)は同じバレリーナが演じる。見た目ではオデットとオディールでは衣装(オデット=白、オディール=黒)が違うが二人の性格は正反対であり、全く性格の違う2つの役を一人で踊り分けるのはバレリーナにとって大変なことである。オデット/オディール役は32回連続のフェッテ(黒鳥のパ・ド・ドゥ)など超技巧も含まれて、優雅さと演技力、表現力、技術、体力、スピードすべてに高いレベルが要求される役である。

プティパ版初演時、マリインスキー・バレエ団(キーロフ・バレエ団)のプリマピエリーナ・レニャーニが両方踊ったのが定着した。

物語の最後[編集]

版によって様々だが大きく2つに分けられる。一つは、王子とオデットがともに死んでしまう悲劇的な最後。もう一つは、オデットの魔法が解け王子と2人で幸せに暮らすというハッピーエンド。

初版やプティパ版は悲劇で終わっており、2人は永遠の世界へ旅立っていく(昇天する)。もっとも、悪魔や魔法が実在する世界においては、これも一種のハッピーエンドとして捉えることも可能である。現世で解決するハッピーエンドは1937年のメッセレル版で採用され、ソ連を中心に広まった。

「白鳥」のモデルについて[編集]

SwansCygnus olor.jpg

タイトルの通り、ハクチョウが「白鳥」のモデルであると思われがちだが、大阪音楽大学学長の西岡信雄は本作の白鳥のモデルについて、「ハクチョウはダンスを踊ることはできない。白鳥のモデルは求愛のダンスを踊るツルであり、タンチョウが存在する日本と違って白いツルがいなかったヨーロッパだったので、ツルのダンスにハクチョウの白いイメージをあわせたのではないか」という意見を述べ、実際にツルの求愛のダンスと本作のダンスの刻むリズムが同じであるとの研究成果を述べた。[9]

その他[編集]

  • プティパによる蘇演に際し…
    • 第1幕のグラン・パ・ド・ドゥの第3幕の王子とオディールのグラン・パ・ド・ドゥへの転用
    • 第2幕の白鳥たちの踊りの曲順の変更
    • 第3幕から婚約者の姫たちのパ・ド・シスの省略
    • 第4幕へのチャイコフスキーのピアノ曲を管弦楽編曲した曲の挿入

 などの曲の構成変更が行われている。そのため、全曲版のCDと実際に舞台に使われている音楽とで構成が異なる場合があるので注意が必要である。

  • 中国には、広州軍政治部戦士雑技団によるアクロバット・バレエの『白鳥の湖』があり、1999年から日本を含む世界各地で公演している[10]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ YouTube内当該動画掲載ページ内に記載されているキャプション(英語)によると、この演奏が行われた公演は子供向けに開催されたもので、演奏自体はナレーションを伴う形で行われた《ナレーターは地元オランダの女優、ハデヴィック・ミニス(Hadewych Minis)が務めた》。当該動画は、ナレーション部分は省き、音楽演奏部分のみ抜粋して制作されている。なお、ナレーション付で当作品が演奏されたケースとしては、ナクソスからスロヴァキア放送交響楽団の演奏によるものでリリースされているのが確認できるほか、日本国内でも東京シティ・バレエ団が2018年5月に同団が活動本拠としている江東区内で開いた公演に於いて実施している《東京シティ・バレエ団のケースでは、ナレーションのみならず台詞も入れていた》[1][2][3]
  2. ^ 『白鳥の湖』という呼称を最初に使ったのは、小牧正英といわれる。

出典[編集]

  1. ^ チャイコフスキー:バレエ音楽「白鳥の湖」(子供のためのナレーション入り)”. ナクソス・ミュージック・ライブラリー. ナクソス・ジャパン. 2018年10月9日閲覧。
  2. ^ ”セリフ付き”バレエ「白鳥の湖」”. SCHEDULE. 東京シティ・バレエ団 (2018年5月27日). 2018年10月9日閲覧。
  3. ^ 結城美穂子(エディター/音楽・舞踊ライター) (2018年9月10日). “50周年を迎えた東京シティ・バレエ団の「バレエ・フォー・エヴリワン」の精神と芸術性~東京シティ・バレエ団バレエ・コンサート「ティアラ バレエ デイズ」「みにくい白鳥(アヒル)の子」/「CITY BALLET SALON vol.7」”. CLASSICA JAPAN. https://www.classica-jp.com/event/5119/ 2018年10月9日閲覧。 
  4. ^ 日本バレエ史の伝説【小牧正英】 2011年5月5日閲覧。
  5. ^ Richard Wagner (comp.), Theodor Uhlig (arr.) (ca. 1852). Lohengrin (Piano Reduction). Breitkopf & Härtel. p. 41.  (Online version at IMSLP, retrieved on 2018-10-09)
  6. ^ Pyotr Tchaikovsky (1895). “Acte II No.10 - Scène”. Le Lac des cygnes. P. Jurgenson. pp. 223-224.  (Online version at IMSLP, retrieved on 2018-10-09)
  7. ^ a b c Laura Jacobs (2006-09-30). Landscape With Moving Figures: A Decade on Dance. Dance and Movement Press, Rosen Publishing Group. p. 64. ISBN 978-1597910019. https://books.google.co.jp/books?id=HqZEj7G2kZMC&pg=PA64&dq=lohengrin&hl=ja#v=onepage&q=lohengrin 2018年10月9日閲覧。. 
  8. ^ a b Thérèse Hurley (2007-06-07). “Opening the door to a fairy-tale world: Tchaikovsky's ballet music”. In Marion Kant (Ed.). The Cambridge Companion to Ballet. Cambridge University Press. p. 166. ISBN 978-0521539869. https://books.google.co.jp/books?id=9U7tO1u6nU4C&pg=PA166&dq=lohengrin&hl=ja#v=onepage&q=lohengrin 2018年10月9日閲覧。. 
  9. ^ 日本経済新聞2003/05/19付朝刊 40ページ(文化欄) 『白鳥の湖、モデルはツル』西岡信雄
  10. ^ The "Swan Couple" conferred First Class Meritenglish.chinamil.com.cn 2006-06-15

関連項目[編集]

外部リンク[編集]