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{{生物分類表
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|ドメイン = '''古細菌''' [[:species:Archaea|Archaea]]<br />&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;<sup>[[カール・ウーズ|Woese]] ''et al.'' [[1990年|1990]]</sup>
|ドメイン = '''古細菌''' [[:species:Archaea|Archaea]]
|学名 = Archaea <small>Woese ''et al.'', 1990<ref name="PNAS1990" /></small>
|下位分類名 = 下位分類([[門 (分類学)|門]]){{#tag:ref|ドメインの本来の下位分類である界は明確ではない。一応Woeseによってユリアーキオータ界とクレンアーキオータ界の2界に大別されている<ref name="ref1">{{ cite journal | author = Woese CR, Kandler O, Wheelis ML | date = 1990 | title = Towards a natural system of organisms: proposal for the domains Archaea, Bacteria, and Eucarya | journal = Proc Natl Acad Sci U S A | volume = 87 | issue = 12 | pages = 4576&ndash;9 | id = PMID 2112744 }}</ref>(1996年にはBarnsらによってコルアーキオータ界が追加<ref>{{ cite journal | author = Barns, S. M., Delwiche, C. F., Palmer, J. D., Pace, N. R. | date = 1996 | title = Perspectives on archaeal diversity, thermophily and monophyly from environmental rRNA sequences | journal = Proc Natl Acad Sci U S A | volume = 93 | issue = 17 | pages = 9188&ndash;9193 | id = PMID 8799176 }}</ref>。ナノアーキオータも界として扱う文献が存在する<ref name="ref18">{{ cite journal | author = Waters, E., Hohn, M. J., Ahel, I., Graham, D. E., Adams, M. D,, Barnstead, M., Beeson, K. Y., Bibbs, L., Bolanos, R., Keller, M., Kretz, K., Lin, X., Mathur, E., Ni, J., Podar, M., Richardson, T., Sutton, G. G., Simon, M., Soll, D., Stetter, K. O., Short, J. M., Noordewier, M. | date = 2003 | title = The genome of ''Nanoarchaeum equitans'': insights into early archaeal evolution and derived parasitism | journal = Proc Natl Acad Sci U S A | volume = 100 | issue = 22 | pages = 12984&ndash;8 | id = PMID 14566062 }}</ref>。一方、門は[[国際細菌命名規約]]中では定められていない(正式な学名ではない)ものの、Bergey's Manual 2ndは、Domain Archaeaの下にPhylum EuryarchaeotaとPhylum Crenarchaeotaを置いており、この2門については広く認められているといって良い。また、タウムアーキオータも記載種はないもののほぼ受け入れられている。他の3門については広く認められたものではなく、分類は流動的である。ナノアーキオータはユリアーキオータに含まれるとする説が有力で、アイグアーキオータもタウムアーキオータに含まれる可能性がある。|group="注"}}
|下位分類名 = 下位分類([[門 (分類学)|門]]){{#tag:ref|ドメインの本来の下位分類である界は明確ではない。一応Woeseによってユーリ古細菌界とクレン古細菌界の2界に大別されている<ref name="PNAS1990">{{ cite journal | author = Woese, C.R., ''et al.'' | date = 1990 | title = Towards a natural system of organisms: proposal for the domains Archaea, Bacteria, and Eucarya | journal = Proc. Natl. Acad. Sci. U S A | volume = 87 | issue = 12 | pages = 4576&ndash;9 | id = PMID 2112744 }}</ref>ほか、クレン古細菌界を代替するものとしてプロテオ古細菌界が提案されている<ref name = "pmid25527841" />。一方、門は[[国際原核生物命名規約]]中では定められていない(正式な学名ではない)ものの、Bergey's Manual 2ndは、Domain Archaeaの下にPhylum Euryarchaeota(ユーリ古細菌門)とPhylum Crenarchaeota(クレン古細菌門)を置いており、この2門については広く認められているといって良い。また、タウム古細菌門も記載種を含んでいる。本来は全て正式な学名では無いが、前述の記載種を含む3門のみ引用符で囲んでいない。その他の門は記載種を含まず、多くの場合はゲノム情報をもとに提案された分類である。ここでは門以上の分類群や[[クレード]]についても記載した。|group="注"}}
|下位分類 =
|下位分類 =
* [[ユリアーキオータ門]](
* "古細菌"
** [[ユーリ古細菌]]門
* [[クレンアーキオータ門]](界)
* "[[プロテオ古細菌界]]"
* [[タウムアーキオータ|タウムアーキオータ門]]<ref name="ref14">{{ cite journal | author = Brochier-Armanet, C., Boussau, B., Gribaldo, S., Forterre, P. | date = 2008 | title = Mesophilic crenarchaeota: proposal for a third archaeal phylum, the Thaumarchaeota | journal = Nature Reviews Microbiology | volume = 6 | issue = 3 | pages = 245&ndash;52 | id = PMID 18274537 }}</ref>
** "TACK上門"{{#tag:ref|ラテン語名としては、[[トーマス・キャバリエ=スミス]]による、フィル古細菌(Filarchaeota。ESCRT-IIIフィラメントを持つことから<ref name="CSHPR2014">{{ cite journal | author = Cavalier-Smith, T. | date = 2014 | title = The neomuran revolution and phagotrophic origin of eukaryotes and cilia in the light of intracellular coevolution and a revised tree of life | journal = Cold Spring Harb. Perspect. Biol. | volume = 6 | issue = 9 | pages = | id = PMID 25183828 | doi = 10.1101/cshperspect.a016006 }}</ref>)があるが、既にトーマス・キャバリエ=スミス本人も使用していない。|group="注"}}
* 他8候補門([[#古細菌の分類]])
*** [[クレン古細菌]]門
*** [[タウム古細菌]]門
*** "[[コル古細菌]]門"
*** "[[バテュ古細菌]]門"
** "[[アスガルド古細菌]]上門"
*** "[[ロキ古細菌]]門"
*** "[[ヘイムダル古細菌]]門"
*** "トール古細菌門"
*** "オーディン古細菌門"
* "[[DPANN群|DPANN]]上門"
** "[[ナノ古細菌]]門"
** "[[ナノ好塩古細菌]]門"
** "[[パルウ古細菌]]門"
** "ディアペロトリテス門"
** "アエニグム古細菌門"
(詳細は[[#未培養系統を含む系統概観|#系統概観]]を参照)
}}
}}


'''古細菌'''(こさいきん、'''アーキア'''、<small>[[ラテン語]]</small>:archaea/'''アルカエア'''、<small>単数形</small>:archaeum, archaeon)は、[[生物の分類]]の一つで[[エーテル型脂質#古細菌エーテル型脂質|''sn''-グリセロール1-リン酸のイソプレノイドエーテル]](他生物は''sn''-[[グセロール3-リン酸]]の脂肪酸エステルより構成される[[細胞膜]]に特徴付けられる生物群またはそこに含まれる[[生物]]のことである。古"細菌"と付けられてはいるが、[[細菌|細菌]](バクテリア)とは異なる系統に属してる。このため始原菌(げんきん)や後生細(こうせいさいきん)という呼称が提案されたが現在では細菌などの意味を含まない {{Sname|Archaea}} を音写してアーキアと呼ぶことなっている{{要出典|date=2016年9月}}
'''古細菌'''(こさいきん、'''アーキア'''、<small>[[ラテン語]]</small>:'''archaea'''/'''アルカエア'''、<small>単数形</small>:archaeum, archaeon)は、[[生物]]の主要な系統の一つである。[[細菌]](バクテ[[真核生物]](ユーカリオタ)と共に、生物界を3分している。古細菌は形態や称こそ[[細菌]]と類似するが、細菌とは異なる系統に属しており、その生態機構や[[遺伝子]]も全く異なる。非常に多様な生物を含むがその代表例とて[[高度好塩]][[メタン]]、[[好熱]]などが知られている。


古細菌を特徴づけるものは幾つかあるが、最も確実なものは[[リボソームRNA]]配列と[[細胞膜]][[脂質]]である。特に細胞膜脂質は、古細菌以外の全ての生物が''sn''-[[グリセロール3-リン酸]]の脂肪酸エステルを使用しているのに対し、古細菌は[[エーテル型脂質#古細菌エーテル型脂質|''sn''-グリセロール1-リン酸のイソプレノイドエーテル]]より構成される[[細胞膜]]を持つことで区別できる。
細胞形態はほとんど細菌と同一であり、細菌の一系統と考えられていた時期もある。しかし[[リボソームRNA|rRNA]]から得られる進化的な近縁性は細菌と[[真核生物]]の間ほども離れており、現在の[[生物の分類|生物分類]]上では独立した[[ドメイン (分類学)|ドメイン]]が与えられている。一般には、[[メタン菌]]・[[高度好塩菌]]・好熱好酸菌・超[[好熱菌]]など、極限環境に生息する[[生物]]として認知されている。

これまでに様々な名称が提案されてきたが、現在[[日本語]]では「'''古細菌'''」または「'''アーキア'''」が使用されることが多い。「'''始原菌'''」<ref>{{cite journal | 和書 | author = 山岸明彦 | title = 生命の進化と古細菌 | journal = 蛋白質核酸酵素 | volume = 54 | issue= 2 | pages = 108-113 | year = 2009 | pmid = }}</ref><ref>[[#石野, 跡見2017|石野, 跡見2017]]、195頁。</ref>(しげんきん)も使われる。中国語では、「'''古菌'''」ないし「'''古生菌'''」が使用される。

*※「古細菌」という名称は、「菌」や「細菌」を含むが、狭義の菌類(真菌)や狭義の[[細菌]](真正細菌)とは異なる。分類学上の菌(Fungi)、[[細菌]](Bacteria)、古細菌(Archaea)は、それぞれ別々の系統の生物であり、分類学上は菌類が真核生物ドメインに含まれ、細菌が細菌ドメイン、古細菌が古細菌ドメインを構成している。また、ラテン語名である「Archaea」という名称も、1854年に[[アゴダチグモ科]]の化石種に与えられているが、古細菌と直接の関係はない。


== 概要 ==
== 概要 ==
=== ドメイン ===
[[ファイル:Phylogenetic Tree of Life-ja.png|thumb|450px|全[[生物]]を対象にした進化[[系統樹]]の1例。薄紫の枝が古細菌。扇形の中心で、枝が集束している部分が全生物の[[共通祖先]]。細菌(左側の灰色部分;バクテリア)と古細菌が系統的に離れた存在であることが示されている。]]
[[ファイル:Phylogenetic Tree of Prokaryota-ja.png|thumb|550px|全[[生物]]を対象にした進化[[系統樹]]の1例<ref name = "Cell2018">{{cite journal | author = Castelle, C.J., Banfield, J.F. | title = Major New Microbial Groups Expand Diversity and Alter our Understanding of the Tree of Life | journal = Cell | date = 2018 | pages = 1181-1197 | doi = 10.1016/j.cell.2018.02.016 | url = | volume = 172 | issue = 6 | pmid = 29522741 }}</ref>。扇の中心部分を起点に、生物が大きく細菌と古細菌の2系統に分かれていることが分かる]]
古細菌は、[[生物]]を基本的な[[遺伝]]の仕組みや生化学的性質を元に大きく[[生物の分類|分類]]する3[[ドメイン (分類学)|ドメイン]]説において、[[真核生物]]ドメイン([[植物]]、[[動物]]、[[菌類|真菌]])、[[細菌]]ドメイン([[大腸菌]]や[[藍藻]]などの普通の細菌)と並んで全生物界を三分する「古細菌ドメイン」を構成する生物グループである。これまでによく知られている古細菌の例としては、高[[塩化ナトリウム|NaCl]]濃度の環境に生育する[[高度好塩菌]]や、[[温泉]]や[[熱水噴出孔]]などに見られる[[好熱菌]]などがあり、われわれから見れば極めて過酷な環境にも分布している。
[[ファイル:3ドメインの説明.png|thumb|350px|細菌、古細菌、真核生物の関係について、上の図を簡略化したもの。]]
[[生物学]]では、[[生物]]を互いに近縁な物同士グループ分けしている。例えば、[[イヌ]]であれば[[オオカミ]]という種に属し、オオカミという種は[[イヌ属]]に、イヌ属は[[イヌ科]]、イヌ科は[[ネコ目]]にといった風な具合である。下から[[種 (分類学)|種]]、[[属 (分類学)|属]]、[[科 (分類学)|科]]、[[目 (分類学)|目]]、[[綱 (分類学)|綱]]、[[門 (分類学)|門]]、[[界 (分類学)|界]]、[[ドメイン (分類学)|ドメイン]]などが設定されており、上位の階級になるにしたがって大きなグループとなる。古細菌は、ドメインという生物の分類学上、最上位で他の生物と区別されている。


ドメインの階級で分類されているのは、「[[細菌]]」、「[[古細菌]]」、「[[真核生物]]」の3分類群である。この3つで、全ての生物を3つに分けている。それぞれ以下のような生物が含まれている
形態的には細菌と同じ[[原核生物]]に属し、[[細胞]]の大きさ、[[細胞核]]を持たないことなどの点で共通する。このため長らく細菌と同じグループ([[モネラ界]])として扱われて来た。しかし分子レベルでの研究が進むにつれ、その違いが明らかになってきている。
* 細菌([[大腸菌]]、[[枯草菌]]、[[乳酸菌]]、[[藍藻|藍色細菌]]など)
* 古細菌([[メタン菌]]、[[高度好塩菌]]、超[[好熱菌]]など)
* 真核生物([[植物]]、[[動物]]、[[菌類|真菌]]、[[アメーバ]]、[[ゾウリムシ]]など)
ドメインでの分類は、基本的な[[遺伝]]の仕組みや生化学的性質を元に行われている。例えば、[[植物]]と[[動物]]は見た目は大きく異なるが、[[細胞]]レベルで見ると[[DNA複製]]のメカニズムや[[細胞膜]]の主成分などは共通性が高い。逆に言えば、ドメインが異なる生物同士は、ある程度異なっている。


たとえば、古細菌とその他の生物(特に細菌)の間には、以下のような違いが知られている。
たとえば、古細菌とその他の生物の間には、以下の1,2ような違いが知られている。
#[[細胞膜]]を構成する脂質の構造が[[対掌体]]の関係にある。具体的には、細菌を含むその他の生物グリセロール骨格の''sn''-1、''sn''-2位に炭化水素鎖が結合するのに対し、古細菌は例外なく炭化水素鎖が ''sn''-2、''sn''-3 位に結合する。
#[[細胞膜]]を構成する脂質の構造が[[対掌体]]の関係にある。具体的には、細菌及び真核生物では、細胞膜のグリセロール骨格の''sn''-1、''sn''-2位に炭化水素鎖が結合するのに対し、古細菌は例外なく炭化水素鎖が ''sn''-2、''sn''-3 位に結合する。簡単に言えば、立体構造が反転しているということである。
#細胞膜中の脂質に[[脂肪酸]][[残基]]が一切含まれず、[[グリセロール]]にイソプレノイドアルコールが[[エーテル結合]]した脂質骨格を持つ。細菌を含むその他の生物の細胞膜にはグリセロールに脂肪酸が[[エステル結合]]したリン脂質が含まれている。
#細胞膜中の脂質に[[脂肪酸]][[残基]]が一切含まれず、[[グリセロール]]にイソプレノイドアルコールが[[エーテル結合]]した脂質骨格を持つ。細菌及び真核生物の細胞膜にはグリセロールに脂肪酸が[[エステル結合]]したリン脂質が使用されている。
#細菌の細胞壁はムレイン([[ペプチドグリカン]])であり、[[N-アセチルムラミン酸|''N''-アセチルムラミン酸]]、D-アミノ酸を含むのに対し、多くの古細菌の細胞壁は糖タンパク質であり、''N''-アセチルムラミン酸、D-アミノ酸を持たない。
これらの違いに加え、進化系統的にはむしろ細菌よりも真核生物に近縁で、[[DNA複製|DNAの複製]]や[[タンパク質]]合成系といった生命の基幹部分の機構が真核生物に類似している。このような生化学的差異、系統学的位置が明らかになるに従い独立のドメインとして扱われるようになった。


また、古細菌と細菌の間の違いも以下のようなものがある
古細菌についての研究は、[[病原性]]がないこと<ref>2015年に古細菌による人体への病原性が示唆された。[http://nn.neurology.org/content/2/5/e143 "New type of encephalomyelitis responsive to trimethoprim/sulfamethoxazole treatment in Japan", Neurology, Vol.2,No.5 (Oct 01, 2015), ]</ref>や、知られたのが遅かったことなどから細菌に比べ立ち遅れた。その生体システムは未だ不明な点が多いが、[[原始生命体]]や[[真核生物]]の起源、あるいは有用[[酵素]]の利用・[[メタン発酵]]などと関連して研究が進められている。
#細菌の細胞壁はムレイン([[ペプチドグリカン]])であり、[[N-アセチルムラミン酸|''N''-アセチルムラミン酸]]、D-アミノ酸を含むのに対し、多くの古細菌の細胞壁はタンパク質であり、''N''-アセチルムラミン酸、D-アミノ酸を持たない。
#生命の基幹部分の1つともいえるDNA複製に関与する酵素群が、古細菌と細菌は全く異なる(古細菌と真核生物は類似する)。

古細菌と真核生物の違いについてもいくつか列記する(古細菌と細菌は共通する)
#真核生物は[[細胞核]]や[[ミトコンドリア]]などの[[細胞小器官]]を持つ。古細菌と細菌は原核生物であり、細胞小器官を持たない。
#真核生物は[[エンドサイトーシス]]による細胞内への取り込み機構がある。古細菌と細菌にはそのような機能はない。

これらの違いに加え、進化的にも差が大きい。真核生物内部の分類群である植物と動物が分かれたのは精々10-15億年前、動物と[[菌類]]に至っては6-9億年前のことだが、古細菌と細菌の共通祖先は35-42億年前、地球史上でもごく初期に遡る可能性が高い。古細菌から真核生物が分かれたのは20-30億年前のことだが、真核生物は非常に特殊化しており、もはや同じ生物とは言い難い。以上のような生化学的差異、進化系統学的位置の違いによりドメインが定義されている。

=== 含まれる生物 ===
古細菌ドメインは更に、[[クレン古細菌]]、[[タウム古細菌]]、[[ユーリ古細菌]]に分けられている。詳細は後述([[#古細菌の分類]])するが、概要を述べる。それぞれ以下のような生物を含む
*[[クレン古細菌]]門 - 陸上の[[温泉]]などにいる好熱好酸菌、80℃以上の高温を好み海底熱水噴出孔などにいる超[[好熱菌]]
*[[タウム古細菌]]門 - 中温性の[[亜硝酸菌|亜硝酸古細菌]]
*[[ユーリ古細菌]]門 - [[塩湖]]や[[塩田]]など非常に高い塩濃度を好む[[高度好塩菌]]、嫌気環境で[[メタン]]を生成する[[メタン菌]]、 超好熱菌、好熱好酸菌

タウム古細菌以外は[[ヒト]]から見れば極端な環境に生息している。ヒトに身近なのは[[腸内細菌|腸内常在微生物叢]]の一部を占め、嫌気性の沼などにもいるメタン菌や、窒素循環に関連する亜硝酸古細菌程度(タウム古細菌に含まれる)である。これ以外にも様々な生物が含まれるとみられるが、培養が難しく研究が進んでいない。[[2018年]]時点で正式に記載されている古細菌は約550種である。


== 呼称 ==
== 呼称 ==
古細菌という呼称は6界説を提唱した[[カール・ウーズ]]らが名づけたアーキバクテリア (Archaebacteria) の[[翻訳]]である。Archaebacteria自体は、メタン菌が太古の[[地球の大気|地球大気]]の主要構成成分と考えられていた[[二酸化炭素]]と[[水素]]の混合[[気体]]を基質として生育するため、Archae([[ギリシア語]]:αρχαία/太古・始原) + Bacteria(細菌)と名づけられたことに由来する<ref name="ref7">{{cite journal | author = Woese, C. R., Fox, G. E. | year = 1977
古細菌という呼称は6界説を提唱した[[カール・ウーズ]]らが名づけたArchaebacteriaの[[翻訳]]である。Archaebacteria自体は、[[メタン菌]]が太古の[[地球の大気|地球大気]]の主要構成成分と考えられていた[[二酸化炭素]]と[[水素]]の混合[[気体]]を基質として生育するため、Archae([[ギリシア語]]:αρχαία/太古・始原) + Bacteria(小さな棒)と名づけられたことに由来する<ref name="PNAS1977">{{cite journal | author = Woese, C. R., Fox, G. E. | year = 1977 | title = Phylogenetic structure of the prokaryotic domain: the primary kingdoms | journal = Proc. Natl. Acad. Sci. U S A | volume = 74 | issue = 11 | pages = 5088&ndash;90 | id = PMID 270744 }}</ref>。
| title = Phylogenetic structure of the prokaryotic domain: the primary kingdoms | journal = Proc Natl Acad Sci U S A | volume = 74 | issue = 11 | pages = 5088&ndash;90 | id = PMID 270744 }}</ref>。


しかし1980年代に入ると、アーキバクテリア (Archaebacteria)が細菌よりもむしろ真核生物に近いことが明らかになり、それ程広くは使われなかったが後生細菌 (Metabacteria; メタバクテリア) という用語が提唱された<ref>{{cite journal | author = Hori, H., Osawa, S. | year = 1987 | title = Origin and evolution of organisms as deduced from 5S ribosomal RNA sequences | journal = Mol Biol Evol | volume = 4 | issue = 5 | pages = 445&ndash;72 | id = PMID 2452957 }}</ref>。
1980年代に入ると、古細菌 (Archaebacteria)が真正細菌よりもむしろ[[真核生物]]に近いことが明らかになり、それ程広くは使われなかったが後生細菌 (Metabacteria; メタバクテリア) という用語が提唱された<ref>{{cite journal | author = Hori, H., Osawa, S. | year = 1987 | title = Origin and evolution of organisms as deduced from 5S ribosomal RNA sequences | journal = Mol. Biol. Evol. | volume = 4 | issue = 5 | pages = 445&ndash;72 | id = PMID 2452957 }}</ref>。


1990年になると6界説の提唱者であるウーズ3ドメイン説を発表した。この際、これまでArchaebacteriaと呼ばれてきた生物群に対して、Archaeaという名称が与えられ、細菌と区別するためにbacteriaが外された<ref name="ref1" />。以後英語圏ではArchaeaが定着した。日本でもこれに対応して細菌が外され、始原菌という和名が提唱された。しかしながら始原菌という用語はそれ程広まることはなかった。現在、最も一般に使用されるのは古細菌またはアーキアで、一部の研究者の間では始原菌、後生細菌、ラテン語に由来するアルカエア(アルケア){{#tag:ref|[[ラテン語]]をそのまま仮名転写するとアルカエア。アルケアは[[中世ラテン語]]に近い|group="注"}}といった呼び方もされる。古い文献の中にはMendosicutes(メンドシクテス)<ref group="注">"Mendosicutes <small>Gibbons & Murray 1978</small>"。1984年発行のBergey's Manualなどでこの表現が見られる。ここでは原核生物界を構成する4つの門の一つとして位置づけられていた。</ref>や古バクテリア類といった表現もみられる。英語ではArchaebacteriaよりArchaeaが使われることが多くなったので、Archaeaの和訳として古細菌の使用は不適切であると考える研究者が多く、アーキアと呼ばれることがより多くなってきている{{要出典|date=2016年9月}}。なお、[[中国語]]でも当初は古細菌と呼ばれていたが、「Domain Archaea」に対して「古菌域」という漢字名が使用されている<ref>张丽梅, 贺纪正.一个新的古菌类群—奇古菌门 (Thaumarchaeota). 微生物学报, 2012,54(4): 411-421. </ref>
[[1990年]]になるとウーズ3ドメイン説を発表した。この際、これまでArchaebacteriaと呼ばれてきた生物群に対して、Archaeaという名称が与えられ、[[細菌]]と区別するためにbacteriaが外された<ref name="PNAS1990" />。以後英語圏ではArchaeaが定着した。日本でもこれに対応して細菌が外され、始原菌という和名が提唱された。しかしながら始原菌という用語はそれ程定着しなかった。現在、最も一般に使用されるのは古細菌または[[英語]]読みのアーキア(まれにアーケア)で、一部の研究者の間では始原菌、[[ラテン語]]に由来するアルカエア(アルケア)<ref>[[#長野2003|長野2003]]、91頁。</ref>{{#tag:ref|[[ラテン語]]をそのまま仮名転写するとアルカエア。アルケアは[[中世ラテン語]]に近い|group="注"}}といった呼び方もされる。


このほかの呼称としては、Mendosicutes(メンドシクテス)<ref group="注">"Mendosicutes <small>Gibbons & Murray 1978</small>"。[[1984年]]発行のBergey's Manualなどでこの表現が見られる。ここでは[[原核生物]]界を構成する4つの門の一つとして位置づけられていた。</ref>や古バクテリア類、後生細菌といった表現もみられる。いずれも古い用語であり、使用頻度は下がっている。英語圏でもまだArchaeabacteriaは使用されており、特に著名な研究者である[[トーマス・キャバリエ=スミス]]らがこの語を用いている<ref name="CSHPR2014" />{{#tag:ref|トーマス・キャバリエ=スミスは近年Archaeabacteriaを使用しているが、Metabacteria(後生細菌)の方が適切であるとも主張している<ref name = "CSHPB2002">{{cite journal | author = Cavalier-Smith, T. | year = 2002 | title = The neomuran origin of archaebacteria, the negibacterial root of the universal tree and bacterial megaclassification | journal = Cold Spring Harb Perspect Biol. | volume = 52 | issue = | pages = 7-76 | doi = 10.1099/00207713-52-1-7 }}</ref>|group="注"}}。2分岐説([[エオサイト説]])において、アーキア(Archaea)を真核生物を含む範囲に拡張する場合、原核生物のみを指して古細菌と便宜上呼称する場合もある<ref name ="古賀1998_29">[[#古賀1998|古賀1998]]、29頁。</ref><ref>[http://kagakubar.com/evolution/34.html 進化の歴史 - 細胞核の起源](長谷川政美)</ref>。
また、古細菌ドメインの下位[[タクソン]]である[[ユリアーキオータ門|ユリアーキオータ門(界)]]、[[クレンアーキオータ門|クレンアーキオータ門(界)]]はそれぞれ、ユーリ古細菌、クレン古細菌と訳された<ref>[http://www.genome.jp/kegg-bin/get_htext?htext=jp08601.keg&filedir=&hier=2 KEGG 生物種(2009年10月30日閲覧)]</ref>。


なお、[[中国語]]でも当初は古細菌と呼ばれていたが、「Archaea」に対しては、「古菌」<ref>张丽梅, 贺纪正.一个新的古菌类群—奇古菌门 (Thaumarchaeota). 微生物学报, 2012,54(4): 411-421. </ref>や「古生菌」<ref>{{Cite web|author = |url = https://read01.com/A0PjEM.html#.W7X4x-RRcdU |title = Science子刊:在深海中,病毒对古生菌进行大屠杀|work = |publisher = 壹讀/READ01|language = 中国語|accessdate = 2018年10月4日}}</ref>という漢字名が広く使用されている。
== 発見と研究の歴史==

古細菌発見の歴史は細菌発見の歴史に並行している。今日知られているような枠組みが完成する以前は、高度好塩菌、メタン菌、好熱菌それぞれ別々の枠組みで研究が進められていた。古細菌という枠組みができたのは[[1977年]]以降である。
また、古細菌ドメインの下位[[タクソン]]であるEuryarchaeota、Crenarchaeota、Thaumarchaeotaはそれぞれ、[[ユーリ古細菌]]、[[クレン古細菌]]、[[タウム古細菌]]と訳される<ref>[http://www.genome.jp/kegg-bin/get_htext?htext=jp08601.keg&filedir=&hier=2 KEGG 生物種(2018年10月03日閲覧)]</ref>。

== 発見史 ==
古細菌(archaebacteria)発見の歴史は[[細菌]](eubacteria)発見の歴史に並行している。今日知られているような枠組みが完成する以前は、[[高度好塩菌]]、[[メタン菌]]、[[好熱菌]]それぞれ別々の枠組みで研究が進められていた。古細菌という枠組みができたのは[[1977年]]以降である。


=== 発見 ===
=== 発見 ===
[[1674年]]、[[アントニ・ファン・レーウェンフック]]が[[微生物]]を発見して以来、徐々に研究が進んでいた。[[1868年]]には微生物の働きにより[[メタン]]が発生することを初めて確認し、1880年代には高度好塩菌の研究が始まった。これ以前にも[[沼]]などからメタンが発生することや[[塩田]]が赤く染まることは知られていたが、微生物によるものとは考えられていなかった<ref>菌の生物学』pp. 1-4</ref>
[[1674年]]、[[アントニ・ファン・レーウェンフック]]が[[微生物]]を発見して以来、徐々に研究が進んでいた。[[1868年]]には微生物の働きにより[[メタン]]が発生することを初めて確認し、1880年代には高度好塩菌の研究が始まった。これ以前にも[[沼]]などから[[メタン]]が発生すること、塩蔵の食品や[[塩田]]が赤く染まることは知られていたが、微生物によるものとは考えられていなかった<ref>[[#賀1998|古賀1998]]、1-4頁。</ref>。[[明]]朝の[[本草綱目]]にも、天日塩の製造過程で塩水が赤く染まることが記述されている<ref>{{ cite journal | 和書 | author = 亀倉正博 | date = 2007 | title = 「塩と好塩」-其1- | journal =極限環境微生物学会誌 | volume = 6 | issue = 1 | pages = 4-10 | doi = doi.org/10.3118/jjse.6.4 }}</ref>


[[20世紀]]に入ると、[[1922年]]に高度好塩菌の分離が始まり、{{snamei|Pseudomonas salinaria}}(後の{{snamei|Halobacterium salinarum}})と名づけられた。翌年{{snamei|Serattia}}に移され、その後も{{snamei|Pseudomonas}}に戻されるなど分類は混乱した。[[1974年]]にようやくハロバクテリウム科にまとめられた。一方、メタン菌は存在することは分かっていたものの、[[酸素]]を極端に嫌う生物であり、[[1936年]]にやっと培養に成功し、[[1947年]]には{{snamei|Methanobacterium formicicum}}と{{snamei|Methanosarcina barkeri}}が分離された。<ref>細菌の生物学』pp. 4-5</ref>
[[20世紀]]に入ると、[[1922年]]に高度好塩菌の分離が始まり、{{snamei|Pseudomonas salinaria}}(後の{{snamei|Halobacterium salinarum}})と名づけられた。翌年{{snamei|Serattia}}に移され、その後も{{snamei|Pseudomonas}}に戻されるなど分類は混乱した。[[1974年]]にようやくハロバクテリウム科にまとめられた。一方、メタン菌は存在することは分かっていたものの、[[酸素]]を極端に嫌う生物であり、[[1936年]]にやっと[[培養]]に成功し、[[1947年]]には{{snamei|Methanobacterium formicicum}}と{{snamei|Methanosarcina barkeri}}が分離された。<ref>[[#賀1998|古賀1998]]、4-5頁。</ref>


既に1930年頃には原核生物と真核生物の違いが認識されており、原核生物帝([[1937年]])次いで[[五界説]][[モネラ界]]([[1956年]])が提唱された。高度好塩菌とメタン菌には明らかに[[細胞核|核]]がなく、以後モネラ界の枠組みに含まれることとなった。
既に1930年頃には[[原核生物]][[真核生物]]の違いが認識されており、原核生物帝([[1937年]])次いで[[五界説]][[モネラ界]]([[1969年]])が提唱された<ref>[[#長野2003|長野2003]]、88-89頁。</ref>。高度好塩菌とメタン菌には明らかに[[細胞核|核]]がなく、以後モネラ界の枠組みに含まれることとなった。


一方、好熱性の古細菌<ref group="注">好熱性の細菌は20世紀前半に好熱性の“{{snamei|Bacillus}}”(後の{{snamei|Geobacillus}})などが発見されていた。また、{{snamei|Thermoplasma}}よりも少し前の1969年には、[[イエローストーン国立公園]]より、高度好熱性の細菌{{snamei|Thermus aquaticus}}(至適生育温度72{{℃}})が報告されている</ref>は少し遅れ、[[1970年]]に[[炭鉱]]の[[ボタ山]]から好熱好酸菌{{snamei|Thermoplasma acidophilum}}が発見された。この生物は細胞壁を欠くことから[[マイコプラズマ]]の仲間とされた。[[1972年]]には[[イエローストーン国立公園]]より好熱好酸菌{{snamei|Sulfolobus acidocaldarius}}が発見されたが、これらは別々に少し変わった生物だとして知られているに過ぎなかった。当時、メタン菌、高度好塩、{{snamei|Thermoplasma}}、{{snamei|Sulfolobus}}はそれぞれ別々の門や群に分類されていた<ref group="注">Archaeabacteria提唱後に出版された文献であるが、『五つの王国』([[リン・マーギュリス]]著)や、古いBergey's Manual中では、いわゆる古細菌類が様々な細菌グループの中に散らばって分類されている。({{snamei|Thermoplasma}}がマイコプラズマ類、高度好塩菌がグラム陰性好気性細菌群(シュードモナス門)、{{snamei|Sulfolobus}}が化学合成細菌門など。)</ref>。
一方、好熱性の古細菌{{#tag:ref|好熱性の細菌は20世紀前半に好熱性の“{{snamei|Bacillus}}”(後の{{snamei|Geobacillus}})などが発見されていた。また、{{snamei|Thermoplasma}}よりも少し前の1969年には、[[イエローストーン国立公園]]より、高度好熱性の細菌{{snamei|Thermus aquaticus}}(至適生育温度72{{℃}})が報告されている<ref name = "JB1969">{{ cite journal | author = Brock, T.D., ''et al.'' | date = 1969 | title = Thermus aquaticus gen. n. and sp. n., a nonsporulating extreme thermophile | journal = J. Bacteriol. | volume = 98 | issue = 1 | pages = 289-97 | id = PMID 5781580 }}</ref>|group="注"}}は少し遅れ、[[1970年]]に[[炭鉱]]の[[ボタ山]]から好熱好酸菌{{snamei|Thermoplasma acidophilum}}が発見された<ref name = "Science1970">{{ cite journal | author = Darland, G., ''et al.'' | date = 1970 | title = A thermophilic, acidophilic mycoplasma isolated from a coal refuse pile | journal = Science | volume = 170 | issue = 3965 | pages = 1416-8 | id = PMID 5481857 }}</ref>。この生物は細胞壁を欠くことから[[マイコプラズマ]]の仲間とされた<ref name = "Science1970" />。[[1972年]]には[[イエローストーン国立公園]]より好熱好酸菌{{snamei|Sulfolobus acidocaldarius}}が発見された<ref name = "AM1972">{{ cite journal | author = Brock, T.D., ''et al.'' | date = 1972 | title = Sulfolobus: a new genus of sulfur-oxidizing bacteria living at low pH and high temperature | journal = Arch. Mikrobiol. | volume = 84 | issue = 1 | pages = 54-68 | id = PMID 4559703 }}</ref>が、これらは別々に少し変わった生物だとして知られているに過ぎなかった。当時、メタン菌、高度好塩、{{snamei|Thermoplasma}}、{{snamei|Sulfolobus}}はそれぞれ別々の門や群に分類されていた<ref group="注">Archaeabacteria提唱後に出版された文献であるが、『五つの王国』([[リン・マーギュリス]]著)や、古いBergey's Manual中では、いわゆる古細菌類が様々な細菌グループの中に散らばって分類されている。({{snamei|Thermoplasma}}が[[マイコプラズマ]]類、高度好塩菌が[[グラム陰性菌|グラム陰性]]好気性細菌群(シュードモナス門)、{{snamei|Sulfolobus}}が化学合成細菌門など。)</ref>。


しかし、1960年頃から他の生物とは性質が異なるという報告もされ始めている。今日知られている古細菌の特徴の一つである[[エーテル型脂質]]は、[[1962年]]に高度好塩菌{{snamei|Halobacterium salinarum}} ({{snamei|Halobacter cutirubrum}})より発見され<!--{{ cite journal | author = Sehgal, S.N., Kates, M., Gibbons, N.E.| date = 1962 | title = Lipids of Halobacterium cutirubrum | journal = Can J Biochem Physiol | volume = 40 | pages = 69-81 | id = PMID 13910279 }}-->、[[1972年]]には好熱菌{{snamei|Thermoplasma acidophilum}}も、やはり同じ脂質を持つことが判明した<ref>{{ cite journal | author = Langworthy, T.A., Smith, P.F., Mayberry, W.R. | date = 1972 | title = Lipids of Thermoplasma acidophilum | journal = J Bacteriol | volume = 112 | issue = 3 | pages = 1193-200 | id = PMID 4344918 }}</ref>。<ref>細菌の生物学』p. 6</ref> ペプチドグリカン細胞壁を持たないという報告も1970年代にはいくつか出されている<ref>{{ cite journal | author = Brock, T. D., Brock, K. M., Belly, R. T., Weiss, R. L. | date = 1972 | title = ''Sulfolobus'': a new genus of sulfur-oxidizing bacteria living at low pH and high temperature | journal = Arch. Mikrobiol. | volume = 84 | pages = 54–68 | id = PMID 4559703 | doi = 10.1007/BF00408082}}</ref><ref name="ref7" />。
しかし、[[1960年]]頃から他の生物とは性質が異なるという報告もされ始めている。今日知られている古細菌の特徴の一つである[[エーテル型脂質]]は、[[1962年]]に高度好塩菌{{snamei|Halobacterium salinarum}} ({{snamei|Halobacter cutirubrum}}{{#tag:ref|"Halobacter cutirubrum"は''Halobacterium salinarum''に統合されており、現在は無効名|group="注"}})より発見され<ref>{{ cite journal | author = Sehgal, S.N., ''et al.'' | date = 1962 | title = Lipids of ''Halobacterium cutirubrum'' | journal = Can J Biochem Physiol | volume = 40 | pages = 69-81 | id = PMID 13910279 }}</ref>、[[1972年]]には好熱菌{{snamei|Thermoplasma acidophilum}}も、やはり同じ脂質を持つことが判明した<ref>{{ cite journal | author = Langworthy, T.A., ''et al.'' | date = 1972 | title = Lipids of ''Thermoplasma acidophilum'' | journal = J Bacteriol | volume = 112 | issue = 3 | pages = 1193-200 | id = PMID 4344918 }}</ref>。<ref>[[#賀1998|古賀1998]]、6頁。</ref> [[ペプチドグリカン]]細胞壁を持たないという報告も1970年代にはいくつか出されている<ref>{{ cite journal | author = Brock, T. D., ''et al.'' | date = 1972 | title = ''Sulfolobus'': a new genus of sulfur-oxidizing bacteria living at low pH and high temperature | journal = Arch. Mikrobiol. | volume = 84 | pages = 54–68 | id = PMID 4559703 | doi = 10.1007/BF00408082}}</ref><ref name="PNAS1977" />。


=== 定義 ===
=== 定義 ===
[[ファイル:PhylogeneticTree.png|thumb|340px|ウーズによる16S rRNAを基にした系統樹]]
[[ファイル:PhylogeneticTree.png|thumb|340px|ウーズによる16S rRNAを基にした系統樹]]
[[File:Carl Woese, Ralph Wolfe, Otto Kandler, in 1981 on the 2299 m high Hochiss Mt., Archiv Fam. Kandler.jpg|thumb|340px|左が[[カール・ウーズ]]、真ん中がラルフ・ウォルフ、右がオットー・カンドラー。1981年]]
これらの生物を他の原核生物と区別した最初の人物は、[[イリノイ大学]]の[[カール・ウーズ]]である。彼は、互いに近縁な生物はタンパク質のアミノ酸配列や塩基配列が似ているという[[ライナス・ポーリング]]らの研究に影響を受け、1960年代後半から16S rRNA配列を用いて生物の分類を始めていた<ref group="注">16S rRNAは細胞中に大量に存在するため、[[ポリメラーゼ連鎖反応|PCR]]が開発されていない当時でも配列の比較が可能だった。ただし、当時はRNA配列の全長を決定するのが困難だったため、16S rRNAをいくつかの小断片に切断し、対応する配列と一致する塩基の割合を比較することによって系統解析を行っている(オリゴヌクレオチドカタログ法)。</ref>。[[1976年]]、ウーズは同僚のウォルフからメタン菌のコロニーの提供を受け、そのrRNA配列が他の原核生物と大きく異なるという結果を得た。ウーズらはさらに研究を続け、翌[[1977年]]、この結果を元に原核生物を古細菌界({{sname|Archaebacteria}}。メタン菌)と真正細菌界({{sname|Eubacteria}}。その他の細菌)に分けるべきと主張した<ref name="ref7" />。<ref>『地中生命の脅威』 pp. 83-92</ref>
これらの生物を他の原核生物と区別した最初の人物は、[[イリノイ大学]]の[[カール・ウーズ]]である。

1960年代、互いに近縁な[[生物]]は[[タンパク質]]の[[アミノ酸]]配列や塩基配列が似ているという理論を背景にした[[分子時計]]や[[中立進化説]]<ref>{{ cite journal | author = Kimura, M. | date = 1968 | title = Evolutionary rate at the molecular level | journal = Nature | volume = 217 | issue = 5129 | pages = 624-6 | id = PMID 5637732 }}</ref>が提唱され、生物の[[系統解析]]が開始されようとしていた。[[原核生物]]では、DNA-23S rRNA分子交雑法<ref>{{cite journal | authors = DOI, R.H., IGARASHI, R.T. | title = Conservation of Ribosomal and Messenger Ribonucleic Acid Cistrons in ''Bacillus'' Species | journal = J. Bacteriol. | volume = 90 | issue = | pages = 384-90 | date = March 1965 | pmid = 14329452 | doi = 10.1016/0022-5193(65)90083-4 }}</ref><ref>{{cite journal | authors = De Smedt, J., De Ley, J., | title = Intra- and Intergeneric Similarities of Agrobacterium Ribosomal Ribonucleic Acid Cistrons | journal = Int. J. Syst. Bacteria | volume = 27 | issue = | pages = 222-240| date = 1977 | pmid = | doi = }}</ref>、5S rRNA塩基配列などといった方法が取られ始めていた{{#tag:ref|例えば、日本では1968年の東京大学の高橋による、DNA-23S rRNAハイブリッド法を用いたBacillusに関する研究がある<ref>{{ cite journal | author = Takahashi, H., ''et al.'' | date = 1969 | title = Conserved portion in bacterial ribosomal RNA | journal = J. Gen. Appl. Microbiol. | volume = 15 | issue = 2 | pages = 209-216 | doi = 10.2323/jgam.15.209 }}</ref>。|group="注"}}。

この流れの中で、ウーズらも、[[ライナス・ポーリング]]らの研究<ref name="JTB1965">{{cite journal | authors = Zuckerkandl, E., Pauling, L. | title = Molecules as documents of evolutionary history | journal = Journal of Theoretical Biology | volume = 8 | issue = 2 | pages = 357–66 | date = March 1965 | pmid = 5876245 | doi = 10.1016/0022-5193(65)90083-4 }}</ref>に影響を受け、1960年代後半から16S rRNAを用いて生物の分類を始めていた<ref>[[#長野2003|長野2003]]、83-84頁。</ref>。彼が考案・使用した方法は、16S rRNAをいくつかの小断片に切断し、対応する配列と一致する塩基の割合を比較するポリヌクレオチドカタログ法{{#tag:ref|16S rRNAは細胞中に大量に存在するため、[[ポリメラーゼ連鎖反応|PCR]]が開発されていない当時でも配列の比較が可能だった。ただし、当時はRNA配列の全長を決定するのが困難だったため、16S rRNAをいくつかの小断片に切断し、対応する配列と一致する塩基の割合を比較することによって系統解析を行っていた<ref name = "長野2003_85-86">[[#長野2003|長野2003]]、85-86頁。</ref>|group="注"}}というものだった<ref name = "長野2003_85-86" />。

様々な生物の[[リボソームRNA|rRNA]]を比較する中で、[[1976年]]、ウーズは同僚のウォルフ{{#tag:ref|ラルフ・ウォルフ。当時、ウーズと同じ[[イリノイ大学]]の同じ階でメタン菌の研究をしていた。''Methanothermobacter wolfeii''、''Methanobacterium wolfei''といったメタン菌に献名されている。なお、提供を受けたメタン菌は、''Methanobacterium thermoautorophicum''(現''Methanothermobacter thermautotrophicus'')、''Methanobacterium ruminantium'' M-1(現''Methanobrevibacter ruminantium'')、''Methanobacterium'' sp. JR-1(後に''Methanogenium cariaci''として記載)、''Methanosarcina barkeri''の4つ。|group="注"}}から[[メタン菌]]の[[コロニー]]の提供を受け、その[[リボソームRNA|rRNA]]が他の原核生物と大きく異なるという結果を得た<ref>[[#長野2003|長野2003]]、91-92頁。</ref>。ウーズらはさらに研究を続け、翌[[1977年]]、この結果を元に原核生物を古細菌界({{sname|Archaebacteria}}。メタン菌)と真正細菌界({{sname|Eubacteria}}。その他の細菌)に分けるべきと主張した<ref name="PNAS1977" />。


この時点で古細菌界はメタン菌のみを含むものであったが、1978年にメタン菌からエーテル型脂質が発見<ref>{{ cite journal | author = Makula, R.A., Singer, M. E. | date = 1978 | title = Ether-containing lipids of methanogenic bacteria | journal = Biochem Biophys Res Commun | volume = 82 | issue = 2 | pages = 716&ndash;22 | id = PMID 666868 }}</ref><ref>{{ cite journal | author = Tornabene, T.G., Wolfe, R.S., Balch, W.E., Holzer, G., Fox, G.E., Oro, J. | date = 1978 | title = Phytanyl-glycerol ethers and squalenes in the archaebacterium ''Methanobacterium thermoautotrophicum'' | journal = J Mol Evol | volume = 11 | issue = 3 | pages = 259&ndash;66 | id = PMID 691077}}</ref>され、古細菌の特徴の一つとして、エーテル脂質を持つ可能性が出てきた。これは、既にエーテル脂質を持つ事が知られていた高度好塩菌及び好熱菌の一部も古細菌界に含まれることを示唆した。同年、rRNA系統解析が行われ、高度好塩菌と好熱菌の一部も古細菌界に属すことが支持された<ref>{{ cite journal | author = Woese, C. R., Magrum, L. J., Fox, G. E. | date = 1978 | title = Archaebacteria | journal = J Mol Evol | volume = 11 | issue = 3 | pages = 245&ndash;51 | id = PMID 691075 }}</ref>。しかしながら、通常の細菌と形態の殆ど変わらない生物を塩基配列データのみで分類することに抵抗は大きく、古細菌界という分類群が受け入れられるには時間がかかった。
この時点で古細菌界はメタン菌のみを含むものであったが、[[1978年]]にメタン菌から[[エーテル型脂質]]が発見<ref>{{ cite journal | author = Makula, R.A., Singer, M. E. | date = 1978 | title = Ether-containing lipids of methanogenic bacteria | journal = Biochem. Biophys. Res. Commun. | volume = 82 | issue = 2 | pages = 716&ndash;22 | id = PMID 666868 }}</ref><ref>{{ cite journal | author = Tornabene, T.G., ''et al.'' | date = 1978 | title = Phytanyl-glycerol ethers and squalenes in the archaebacterium ''Methanobacterium thermoautotrophicum'' | journal = J. Mol. Evol. | volume = 11 | issue = 3 | pages = 259&ndash;66 | id = PMID 691077}}</ref>され、古細菌の特徴の一つとして、エーテル脂質を持つ可能性が出てきた。これは、既にエーテル脂質を持つ事が知られていた高度好塩菌及び好熱菌の一部も古細菌界に含まれることを示唆した。同年、rRNA系統解析が行われ、高度好塩菌と好熱菌の一部も古細菌界に属すことが支持された<ref>{{ cite journal | author = Woese, C. R., ''et al.'' | date = 1978 | title = Archaebacteria | journal = J Mol Evol | volume = 11 | issue = 3 | pages = 245&ndash;51 | id = PMID 691075 }}</ref>。しかしながら、通常の細菌と形態の殆ど変わらない生物を塩基配列データのみで分類することに抵抗は大きく、古細菌界という分類群が受け入れられるには時間がかかった。分割に反対する研究者もいた<ref>{{ cite journal | author = Mayr, E. | date = 1998 | title = Two empires or three? | journal = Proc. Natl. Acad. Sci. U S A | volume = 95 | issue = 17 | pages = 9720-3 | id = PMID 9707542 }}</ref><ref>{{ cite journal | author = Sapp, J. | date = 2007 | title = The structure of microbial evolutionary theory. | journal = Stud. Hist. Philos. Biol. Biomed. Sci. | volume = 38 | issue = 4 | pages = 780-95 | id = PMID 18053933 | doi = 10.1016/j.shpsc.2007.09.011 }}</ref>


1980年代以降、古細菌の研究が活発になり、この時期真正細菌と古細菌の差異を示す研究が蓄積された。それと共に古細菌という概念も受け入れられ始めた。1982年、それまでの常識を打ち破る110℃で増殖する古細菌が発見され<ref>{{ cite journal | author = Stetter, K. O. | date = 1982 | title = Ultrathin mycelia-forming organisms from submarine volcanic areas having an optimum growth temperature of 105 °C | journal = Nature | volume = 300 | pages = 258 - 260 | doi = doi:doi:10.1038/300258a0 }}</ref>、古細菌研究をさらに活発化させた。
1980年代以降、古細菌の研究が活発になり、この時期真正細菌と古細菌の差異を示す研究が蓄積された。それと共に古細菌という概念も受け入れられ始めた。[[1982年]]、それまでの常識を打ち破る110℃で増殖する古細菌が発見され<ref>{{ cite journal | author = Stetter, K. O. | date = 1982 | title = Ultrathin mycelia-forming organisms from submarine volcanic areas having an optimum growth temperature of 105 °C | journal = Nature | volume = 300 | pages = 258 - 260 | doi = doi:doi:10.1038/300258a0 }}</ref>、古細菌研究をさらに活発化させた。


[[1989年]]には共通祖先以前に重複した遺伝子を用いることによって古細菌が細菌よりも真核生物に近いことが報告された{{#tag:ref|この当時描かれていた系統樹は、全生物を対象にしたため外群が設定できず、それぞれの生物から[[系統樹]]が一点に収束する無根系統樹しか描けなかった。これでは、古細菌が細菌、真核生物何れに近縁なのか、何れとも近縁ではないのかといった情報を得ることができない。Lakeや堀は、それぞれ独自に5S rRNAから得られる無根系統樹を折り曲げて共通祖先を作ったが、根本的な解決とはならなかった(両者が描く系統樹は違っていた)。これを解決したのが、ゴガルテンら、岩部らの研究で、両者はそれぞれ独自に共通祖先以前に重複した遺伝子を選び出し、その一方を外群として用いることにより、系統樹に根をつけることに成功した。これにより得られた系統樹は、共通祖先がまず細菌と古細菌類に分岐したこと、その後古細菌と真核生物の分岐が起きたことを支持するものであった。<ref name="ref4">{{ cite journal | author = Gogarten, J.P., Kibak, H., Dittrich, P., Taiz, L., Bowman, E.J., Bowman, B.J., Manolson, M.F., Poole, R.J., Date, T., Oshima, T., ''et al.'' | date = 1989 | title = Evolution of the vacuolar H+-ATPase: implications for the origin of eukaryotes | journal = Proc Natl Acad Sci U S A | volume = 86 | issue = 27 | pages = 6661&ndash;5 | id = PMID 2528146 }}</ref><ref name="ref5">{{ cite journal | author = Iwabe, N., Kuma, K., Hasegawa, M., Osawa, S., Miyata, T. | date = 1989 | title = Evolutionary relationship of archaebacteria, eubacteria, and eukaryotes inferred from phylogenetic trees of duplicated genes | journal = Proc Natl Acad Sci U S A | volume = 86 | issue = 23 | pages = 9355&ndash;9 | id = PMID 2531898 }}</ref>|group="注"}}。ウーズはこの説を採用し、[[1990年]]には全生物を真核生物ドメイン、古細菌ドメイン、細菌ドメインの3つのグループに大別する3ドメイン説を提唱した<ref name="ref1" />。
[[1989年]]には[[共通祖先]]以前に重複した遺伝子を用いることによって古細菌が真正細菌よりも真核生物に近いことが報告された{{#tag:ref|この当時描かれていた系統樹は、全生物を対象にしたため外群が設定できず、それぞれの生物から[[系統樹]]が一点に収束する無根系統樹しか描けなかった。これでは、古細菌が真正細菌、真核生物何れに近縁なのか、何れとも近縁ではないのかといった情報を得ることができない。Lakeや堀は、それぞれ独自に5S rRNAから得られる無根系統樹を折り曲げて共通祖先を作ったが、根本的な解決とはならなかった(両者が描く系統樹は違っていた)。これを解決したのが、岩部らの研究で、両者はそれぞれ独自に共通祖先以前に重複した遺伝子を選び出し、その一方を外群として用いることにより、系統樹に根をつけることに成功した。これにより得られた系統樹は、共通祖先がまず真正細菌と古細菌類に分岐したこと、その後古細菌と真核生物の分岐が起きたことを支持するものであった。<ref name="PNAS1989">{{ cite journal | author = Iwabe, N., ''et al.'' | date = 1989 | title = Evolutionary relationship of archaebacteria, eubacteria, and eukaryotes inferred from phylogenetic trees of duplicated genes | journal = Proc. Natl. Acad. Sci. U S A | volume = 86 | issue = 23 | pages = 9355&ndash;9 | id = PMID 2531898 }}</ref><ref name="PNAS1989_2">{{ cite journal | author = Gogarten, J.P., ''et al.'' | date = 1989 | title = Evolution of the vacuolar H+-ATPase: implications for the origin of eukaryotes | journal = Proc. Natl. Acad. Sci. U S A | volume = 86 | issue = 27 | pages = 6661&ndash;5 | id = PMID 2528146 }}</ref>|group="注"}}。ウーズはこの説を採用し、[[1990年]]には全生物を真核生物ドメイン、古細菌ドメイン、細菌ドメインの3つのグループに大別する3ドメイン説を提唱した<ref name="PNAS1990" />。


1996年には、超好熱性のメタン菌{{snamei|Methanocaldcoccus (Methanococcus) jannaschii}}の全ゲノムが解読された<ref>{{cite journal | author = Bult, C.J., ''et al.'' | year = 1996 | title = Complete genome sequence of the methanogenic archaeon, ''Methanococcus jannaschii'' | journal = Science | volume = 273 | issue = 5278 | pages = 1058–1073 | id = PMID 868808 | doi = doi:10.1126/science.273.5278.1058}}</ref>。これは古細菌として初めて、全生物の中でも4番目の解析例である。先行して解読されていた[[インフルエンザ菌]]、[[マイコプラズマ|{{snamei|Mycoplasma genitalium}}]]、[[出芽酵母]]との比較により、代謝系の遺伝子は細菌にやや類似、転写・複製・翻訳に関連する遺伝子は真核生物に類似するが、細菌と類似の遺伝子はか11〜17%しか見つからず、半分以上の遺伝子はどちらにも見つからない新規の遺伝子であった。これは古細菌が、他の生物とは大きく異なることを裏付けるものであった<ref>『生命 最初の30億年』 p.44</ref>。これらの結果を受け、今日大方の微生物学者に古細菌ドメインという分類群は受け入れられている。
[[1996年]]には、超好熱性のメタン菌{{snamei|Methanocaldcoccus jannaschii}}の全ゲノムが解読された<ref name = "Science1996">{{cite journal | author = Bult, C.J., ''et al.'' | year = 1996 | title = Complete genome sequence of the methanogenic archaeon, ''Methanococcus jannaschii'' | journal = Science | volume = 273 | issue = 5278 | pages = 1058–1073 | id = PMID 868808 | doi = doi:10.1126/science.273.5278.1058}}</ref>{{#tag:ref|旧名''Methanococcus jannaschii''。2002年に''Methanocaldcoccus''属に変更となった<ref>{{ cite journal | author = No authors | date = 2002 | title = Validation of publication of new names and new combinations previously effectively published outside the IJSEM. International Journal of Systematic and Evolutionary Microbiology | jounal = Int. J. Syst. Evol. Microbiol. | volume = 52 | issue = | pages = 685-90 | id = PMID 12054225 | doi = 10.1099/00207713-52-3-685 }}</ref>。|group="注"}}。これは古細菌として初めて、全生物の中でも4番目の解析例である<ref>[[#石野, 跡見2017|石野, 跡見2017]]、5頁。</ref>{{#tag:ref|同年に''Synechocystis'' sp. PCC6803の解析が行われており<ref>{{ cite journal | author = Kaneko, T., ''et al.'' | date = 1996 | title = ''Sequence analysis of the genome of the unicellular cyanobacterium ''Synechocystis'' sp. strain PCC6803. II. Sequence determination of the entire genome and assignment of potential protein-coding regions| jounal = DNA Res. | volume = 3 | issue = 3 | pages = 109-36 | id = PMID 8905231 }}</ref>、こちらの方が先行している可能性がある。その場合5番目。|group="注"}}。先行して解読されていた[[インフルエンザ菌]]、[[マイコプラズマ|{{snamei|Mycoplasma genitalium}}]]、[[出芽酵母]]との比較により、代謝系の[[遺伝子]][[細菌]]にやや類似、転写・複製・翻訳に関連する遺伝子は真核生物に類似するが、細菌と類似の遺伝子はわずか11〜17%しか見つからず、半分以上の遺伝子はどちらにも見つからない新規の遺伝子であった<ref name = "Science1996" />。これは古細菌が、他の生物とは大きく異なることを裏付けるものであった<ref>[[#斉藤2007|斉藤2007]]、44頁。</ref>。これらの結果を受け、今日大方の微生物学者に古細菌ドメインという分類群は受け入れられている。


== 生 ==
== 生息環境 ==
=== 生息環境 ===
=== 極限環境 ===
[[File:Salt ponds SF Bay (dro!d).jpg|thumb|240px|right|高度好塩古細菌によって赤く着色した[[サンフランシスコ湾]]の[[塩田]]]]
[[画像:BlackSmoker.jpg|240px|thumb|right|[[東太平洋海嶺]]の[[ブラックスモーカー]]]]
[[画像:Rio tinto river CarolStoker NASA Ames Research Center.jpg|thumb|240px|強い酸性を帯びた坑廃水]]
[[画像:Rio tinto river CarolStoker NASA Ames Research Center.jpg|thumb|240px|強い酸性を帯びた坑廃水]]
古細菌は[[生物圏]]の広い範囲に分布し、最大で地球上の総[[バイオマス]]の20%を占めるとも言われている<ref>{{Cite web|author=Todd Lowe|date=2009|url=http://www.jgi.doe.gov/sequencing/why/archaeal.html|title=Why Sequence Archaeal transcriptomes?|publisher=米国エネルギー省共同ゲノム研究所|language=英語|accessdate=2009年11月2日}}</ref>。純粋[[培養]]が可能な古細菌の多くは[[極限環境微生物]]あるいは非常に強い嫌気度を要求する[[メタン菌]]であり、このため歴史的に極端な環境に分布すると考えられてきた<ref>{{cite journal | author = Valentine, D. L. | title = Adaptations to energy stress dictate the ecology and evolution of the Archaea | journal = Nat. Rev. Microbiol. | volume = 5 | issue = 4 | pages = 316&ndash;23 | year = 2007 | pmid = 17334387 | doi = 10.1038/nrmicro1619}}</ref>。実際、20世紀末までに医療分野や通常の土壌・水系から古細菌が分離されることは、一部のメタン菌を除き殆ど無かった。その一方で、[[間欠泉]]や[[ブラックスモーカー]]、[[油田]]、[[塩田]]、[[塩湖]]、強酸、強アルカリ環境から比較的容易に古細菌が発見されてきた歴史がある<ref>{{cite journal | author = Pikuta, E. V., ''et al.'' | title = Microbial extremophiles at the limits of life | journal = Crit. Rev. Microbiol. | volume = 33 | issue = 3 | pages = 183&ndash;209 | year = 2007 | pmid = 17653987 | doi = 10.1080/10408410701451948}}</ref>。
[[画像:San Francisco Bay Salt Ponds.jpg|thumb|240px|right|高度好塩古細菌によって赤く着色した塩田]]
古細菌は[[生物圏]]の広い範囲に分布し、最大で地球上の総[[バイオマス]]の20%を占めるとも言われている<ref>{{Cite web|author=Todd Lowe|date=2009|url=http://www.jgi.doe.gov/sequencing/why/archaeal.html|title=Why Sequence Archaeal transcriptomes?|publisher=米国エネルギー省共同ゲノム研究所|language=英語|accessdate=2009年11月2日}}</ref>。純粋[[培養]]が可能な古細菌の多くは[[極限環境微生物]]あるいは非常に強い嫌気度を要求する[[メタン菌]]であり、このため歴史的に極端な環境に分布すると考えられてきた<ref>{{cite journal |author=Valentine DL |title=Adaptations to energy stress dictate the ecology and evolution of the Archaea |journal=Nat. Rev. Microbiol. |volume=5 |issue=4 |pages=316&ndash;23 |year=2007 |pmid=17334387 |doi=10.1038/nrmicro1619}}</ref>。現に、100{{℃}}を超える高温で活動する古細菌が[[間欠泉]]や[[ブラックスモーカー]]、[[油田]]から発見された。また、高い塩濃度や強酸、強アルカリ、非常に低温の環境からも比較的容易に古細菌を発見することができる。


一般に、極限環境に生息する古細菌は3つの生理的なグループ、[[高度好塩菌]]、超好熱菌、好熱好酸菌へと区分することができる。{{snamei|Halobacterium}}属を含む高度好塩菌は、20-25%NaCl濃度で盛んに増殖し、[[塩湖]]など非常に塩濃度の高い環境に生息する。一方、[[好熱菌]][[温泉]]など45{{℃}}以上の環境でよく活動する。うち80{{}}以上に至適生育温度を持つものを菌と呼ぶ。[[メタノピュルス・カンドレリ|{{snamei|Methanopyrus kandleri}}]] Strain 116は、全生物中最も高温で生育する生物としてれ、122{{℃}}増殖が可能と報告され<ref>{{cite journal | author = Takai K, Nakamura K, Toki T, Tsunogai U, Miyazaki M, Miyazaki J, Hirayama H, Nakagawa S, Nunoura T, Horikoshi K | title = Cell proliferation at 122°C and isotopically heavy CH4 production by a hyperthermophilic methanogen under high-pressure cultivation | journal = Proc Natl Acad Sci U S A | year = 2008 | volume = 105 | issue = | pages = 10949-54 | doi = 10.1073/pnas.0712334105}}</ref>。温泉や陸上硫黄孔火山、海底熱水噴出孔などの多様な熱水系生息する。
これらの極限環境に生息する古細菌は、大まかに[[高度好塩菌]]、超好熱菌、好熱好酸菌へと区分することができる。{{snamei|Halobacterium}}属を含む高度好塩菌は、20-25%の[[塩化ナトリウム|NaCl]]濃度で盛んに増殖し、[[塩湖]]など非常に塩濃度の高い環境に生息する。[[アフリカ]][[中国]]の塩湖の中にはpHが10を超えるものもあり、このような環境からは、好アルカリ性高度好塩菌が分離されている。有名なもとして、pH12で増殖できる高度好塩菌{{snamei|Natronobacterium gregoryi}}がある。高好塩菌は特別な培養装置必要とせず、基本的には培地に塩を加えるだけで良いので{{#tag:ref|あくまで相対的な話である。嫌気培養装置や高温培養装置を必要としない点では有利だが、培地管理は"通常の"細菌に比べれば難しく(水分が少し飛ぶだけで塩が析出したりする)、また寒天培地上でコロニー形成する高度は少数派言われている。[[ハロクアドラトゥム・ワルスビイ|''Haloquadratum walsbyi'']]は、発見して20年以上純粋培養きなかっ|group="注"}}、[[2018年]]現在記載種は250種近く達してい。これは古細菌ドメインの半数近い


[[好熱菌]]は[[温泉]]など45{{℃}}以上の環境でよく活動するものをいう。このうち80{{℃}}以上に至適生育温度を持つものを超好熱菌と呼ぶ。[[メタノピュルス・カンドレリ|{{snamei|Methanopyrus kandleri}}]] Strain 116は、全生物中最も高温で生育する生物として知られ、122{{℃}}で増殖が可能と報告された<ref name = "PNAS2008">{{cite journal | author = Takai, K., ''et al.'' | title = Cell proliferation at 122°C and isotopically heavy CH4 production by a hyperthermophilic methanogen under high-pressure cultivation | journal = Proc. Natl. Acad. Sci. U S A | year = 2008 | volume = 105 | issue = | pages = 10949-54 | doi = 10.1073/pnas.0712334105}}</ref>。このほか[[ピュロコックス属|''Pyrococcus'']]、[[ピュロディクティウム属|''Pyrodictium'']]などがあり、[[温泉]]や陸上硫黄孔、[[火山]]、[[海底]][[熱水噴出孔]]などの多様な熱水系に生息する。嫌気性のものが多いが、偏性好気性の超好熱菌も[[アエロピュルム・ペルニクス|''Aeropyrum pernix'']]、[[スルフリオコックス・トコダイイ|''Sulfurisphaera tokodaii'']]など幾つかいる(後者は好酸性も兼ねる)。
これ以外の極限環境古細菌は、強酸またはアルカリ環境に分布する<ref>{{cite journal |author=Pikuta EV, Hoover RB, Tang J |title=Microbial extremophiles at the limits of life |journal=Crit. Rev. Microbiol. |volume=33 |issue=3 |pages=183&ndash;209 |year=2007 |pmid=17653987 |doi=10.1080/10408410701451948}}</ref>。強酸を好む好熱好酸菌は、スルフォロブス目やテルモプラズマ綱に代表され、温泉や硫気孔、[[ボタ山]]などから発見される。アルカリ性の塩湖には高度好塩好アルカリ菌が生息する。これらの極端な例としては、pH-0.06(1.2M[[硫酸]]溶液下に相当)で増殖する好熱好酸菌[[ピクロフィルス属|{{snamei|Picrophilus}}]]<ref>{{ cite journal | author = Schleper C, Puehler G, Holz I, Gambacorta A, Janekovic D, Santarius U, Klenk HP, Zillig W | date = 1995 | title = Picrophilus gen. nov., fam. nov.: a novel aerobic, heterotrophic, thermoacidophilic genus and family comprising archaea capable of growth around pH 0 | journal = J. Bacteriol. | volume = 177 | pages = 7050&ndash;7059 | id = PMID 8522509}}</ref>、pH12で増殖できる高度好塩菌{{snamei|Natronobacterium gregoryi}}<ref group="注">[[2001年]]までは最も強アルカリで増殖できる生物であったが、現在は[[アルカリフィルス・トランスヴァーレンシス|{{snamei|Alkaliphilus transvaalensis}}]](pH12.5。[[フィルミクテス門]])に更新されている。</ref>などが知られる。


[[硫黄]]分を含む熱泉では、硫黄が酸化されてしばしば強い酸性になる。強酸を好む好熱好酸菌は、[[スルフォロブス目]]や[[テルモプラズマ目]]に代表され、温泉や硫気孔、[[ボタ山]]などから発見される。初期に発見されたものとしては[[スルフォロブス属|''Sulfolobus'']]や[[テルモプラズマ属|''Thermoplasma'']]などがある。好酸菌の極端な例としては、pH-0.06(1.2M[[硫酸]]溶液下に相当)で増殖する好熱好酸菌[[ピクロフィルス属|{{snamei|Picrophilus}}]]<ref>{{ cite journal | author = Schleper, C., ''et al.'' | date = 1995 | title = ''Picrophilus'' gen. nov., fam. nov.: a novel aerobic, heterotrophic, thermoacidophilic genus and family comprising archaea capable of growth around pH 0 | journal = J. Bacteriol. | volume = 177 | pages = 7050&ndash;7059 | id = PMID 8522509}}</ref>がいる。''Stygiolobus azoricus''を除き、大半が偏性好気性か通性嫌気性である。
なお、極限環境微生物と古細菌はしばしば混同して使われることがあるが、必ずしも全てが古細菌というわけではない。また、超好熱菌、好熱好酸菌などといった菌群は表現型による区分であり、系統による分類と一致するとは限らない。高度好塩菌はハロバクテリウム綱、好熱好酸菌は[[テルモプラズマ綱]]及び[[スルフォロブス目]]にほぼ一致するが、超好熱菌は古細菌ドメインの広い分類範囲に存在し、少数ではあるが古細菌以外にも超好熱性を示す生物が知られている。


なお、極限環境微生物と古細菌は、しばしば混同して使われることがあるが、必ずしも全てが古細菌というわけではない。極限環境で生育する細菌も多数存在しており、少数ではあるが超好熱性の細菌も知られている{{#tag:ref|超好熱性の細菌は、''Aquifex aeolicus''(至適増殖温度85℃)、''Thermotoga martima''(至適増殖温度80℃)などが知られる|group="注"}}。とはいえ、やはり細菌は医療細菌や常在細菌の存在感が大きく、古細菌ほどは極限環境微生物の割合は多くない。
一方で、近年いくつかの研究が、極限環境だけでなく、より温和な環境にも古細菌が存在することを示している。例えば[[極地]]の海、湖などの冷たい環境において古細菌の遺伝子が高頻度で検出されている<ref>{{cite journal |author=López-García P, López-López A, Moreira D, Rodríguez-Valera F |title=Diversity of free-living prokaryotes from a deep-sea site at the Antarctic Polar Front |journal=FEMS Microbiol. Ecol. |volume=36 |issue=2–3 |pages=193&ndash;202 |year=2001 |month=July |pmid=11451524}}</ref>。[[湿原]]や[[下水]]、[[海洋]]、[[土壌]]など一般的な条件にも古細菌は存在する<ref>{{cite journal |author=DeLong EF |title=Everything in moderation: archaea as 'non-extremophiles' |journal=Curr. Opin. Genet. Dev. |volume=8 |issue=6 |pages=649–54 |year=1998 |pmid=9914204 |doi=10.1016/S0959-437X(98)80032-4}}</ref>。これら環境古細菌の多くは、[[メタゲノム]]、脂質解析といった手法を用いることにより明らかにされつつある。


また、超好熱菌、好熱好酸菌などの菌群は表現型による区分であり、系統による分類と一致するとは限らない。高度好塩菌はハロバクテリウム綱、好熱好酸菌は[[テルモプラズマ目]]及び[[スルフォロブス目]]にほぼ一致するが、超好熱菌は古細菌ドメインの広い分類範囲に存在し、むしろ超好熱菌のいない目の方が少数派である。また、場合によっては複数条件で極限環境微生物と言えるものもあり、[[メタノナトロナルカエウム・テルモピルム|''Methanonatronarchaeum thermophilum'']]などは、好熱性・好アルカリ性かつ強い好塩性のメタン菌である<ref name="IJSEM2018_2">{{ cite journal | author = Sorokin, D.Y., ''et al.'' | date = 2018 | title = ''Methanonatronarchaeum thermophilum'' gen. nov., sp. nov. and ''Candidatus'' Methanohalarchaeum thermophilum', extremely halo(natrono)philic methyl-reducing methanogens from hypersaline lakes comprising a new euryarchaeal class ''Methanonatronarchaeia'' classis nov. | journal = Int. J. Syst. Evol. Microbiol. | volume = 68 | issue = 7 | pages = 2199-2208 | pmid = 29781801 | doi = 10.1099/ijsem.0.002810 }}</ref>。
一般的な海洋においては、[[細胞]]数当たりで[[微生物]]の約20%を古細菌が占めるという<ref>{{cite journal |author=DeLong EF, Pace NR |title=Environmental diversity of bacteria and archaea |journal=Syst. Biol. |volume=50 |issue=4 |pages=470&ndash;8 |year=2001 |pmid=12116647 |doi=10.1080/106351501750435040}}</ref>。これらの古細菌はより重要であると言える。[[2005年]]に純粋培養が報告された[[ニトロソプミルス・マリティムス|{{snamei|Nitrosopumilus martimus}}]]を含むいくつかの海洋性クレンアーキオータ([[タウムアーキオータ]])は[[アンモニア]]酸化作用を持ち、これら生物が海洋の炭素・窒素サイクルに重要かもしれないことを示している<ref name="ref17">{{ cite journal | author = Konneke M, Bernhard AE, de la Torre JR, Walker CB, Waterbury JB, Stahl DA | date = 2005 | title = Isolation of an autotrophic ammonia-oxidizing marine archaeon | journal = Nature | volume = 437 | pages = 543&ndash;546 | id = PMID 16177789}}</ref>。別の系統に属す古細菌(海洋性ユリアーキオータMarine group II)は、[[バクテリオロドプシン|高度好塩菌型ロドプシン]]を持つため[[光合成]]を行うとの報告もあるが、これはまだ実証されていない<ref>{{ cite journal | author = Frigaard, N. U., Martinez, A., Mincer, T. J., DeLong, E. F. | date = 2006 | title = Proteorhodopsin lateral gene transfer between marine planktonic Bacteria and Archaea | journal = Nature | volume = 439 | issue = 7078 | pages = 847-50 | id = PMID 16482157 | doi = doi:10.1038/nature04435}}</ref>。


各生育・生存パラメータにおける代表種と限界値は以下のとおりである
また、膨大な数の古細菌が海底の堆積物の中から見つかっている。[[2008年]]には、海底1m以深の沈澱物中に存在する生物の大部分を古細菌が占めるという報告がなされた<ref>{{cite journal |author=Teske A, Sørensen KB |title=Uncultured archaea in deep marine subsurface sediments: have we caught them all? |journal=ISME J |volume=2 |issue=1 |pages=3&ndash;18 |year=2008 |month=January |pmid=18180743 |doi=10.1038/ismej.2007.90}}</ref><ref>{{cite journal |author=Lipp JS, Morono Y, Inagaki F, Hinrichs KU |title=Significant contribution of Archaea to extant biomass in marine subsurface sediments |journal=Nature |volume= 454|issue= 7207|pages= 991|year=2008 |month=July |pmid=18641632 |doi=10.1038/nature07174}}</ref>。
*高温:[[メタノピュルス・カンドレリ|''Methanopyrus kandleri'']] 122℃{{#tag:ref|全生物1位。130℃でも耐える。タイプ株であるAV19株の限界生育温度は110℃で、この記録はStrain116株による。また、常温では116℃での増殖が限界で、122℃で増殖させるには200-400気圧に加圧する必要がある<ref name = "PNAS2008" />。細菌の最高増殖記録は''Aquifex aeolicus''の95℃なので、高温適応の点では古細菌が圧倒的である。|group="注"}}
*アルカリ性:[[ナトロノバクテリウム・グレゴリイー|''Natronobacterium gregoryi'']] pH12<ref group="注">全生物3位。[[2001年]]までは最も強アルカリで増殖できる生物であったが、現在は[[アルカリフィルス・トランスヴァーレンシス|{{snamei|Alkaliphilus transvaalensis}}]](pH12.5。[[フィルミクテス門]])に更新されている。飽和塩濃度でも増殖できる高度好塩菌を兼ねる。</ref>
*酸性:[[ピクロフィルス属|''Picrophilus oshimae'']] pH-0.06(マイナス0.06)<ref>{{cite journal | author = Schleper, C., ''et al.'' | year = 1995 | title = ''Picrophilus'' gen. nov., fam. nov.: a novel aerobic, heterotrophic, thermoacidophilic genus and family comprising archaea capable of growth around pH 0 | journal = J. Bacteriol. | volume = 177 | issue = | pages =7050–7059 | pmc = | doi = | pmid = 8522509 }}</ref><ref group="注">全生物1位。同属の''P. torridus''や近縁の''Ferroplasma acidiphilum''もほぼ同じpHで生育可能</ref>
*高[[塩化ナトリウム|NaCl]]濃度:''Halobacterium salinarum''など  飽和濃度<ref group="注">全生物1位。近縁な古細菌にも同濃度で増殖できるものがいる。</ref>
*高圧力:[[ピュロコックス・ヤヤノシイ|''Pyrococcus yayanosii'']] 1200[[標準気圧|気圧]]<ref group="注">全生物1位。なお増殖温度も全生物6位。</ref>
*[[放射線]]:''Thermococcus gammatolerans'' 30000グレイのガンマ線を照射しても一部は生き残る([[セシウム137|Cs137]]線源)<ref>{{cite journal | author = Jolivet, E., ''et al.'' | year = 2003 | title = ''Thermococcus gammatolerans'' sp. nov., a hyperthermophilic archaeon from a deep-sea hydrothermal vent that resists ionizing radiation | journal = Int. J. Syst. Evol. Microbiol. | volume = 53 | issue = | pages = 847-51 | pmc = | doi = 10.1099/ijs.0.02503-0 | pmid = 12807211 }}</ref><ref group="注">D37(37%が生き残る限界線量)の比較では、細菌である[[ルブロバクテル・ラディオトレランス|''Rubrobacter radiotolerans'']]の方が上回っている。</ref>


そのほかにも、超好熱かつ好酸性の''Sulfurisphaera ohwakuensis''(限界温度92℃、限界pH1)、超好熱かつ好アルカリ性の''Thermococcus alkaliphilus''(限界温度90℃、限界pH10.5)などがある。
なお、メタン菌は[[水田]]、湖沼、[[動物]]の消化器官など、嫌気環境に限ればかなり広い範囲に分布しており、メタン菌そのものは極限環境微生物に含めないことが多い。ただし、増殖には[[酸化還元電位]]にして-0.33Vの非常に強い嫌気環境が必要である。


=== 物質循における役割 ===
=== 嫌気 ===
[[ファイル:Rice fields Chiang Mai.jpg|240px|thumb|[[タイ王国]] [[チェンマイ県]]の[[水田]]]]
古細菌は、かつてメタン生成を除き地球上の物質循環への影響は限定的と考えられてきた。しかし、難培養性の古細菌の研究が進むにつれ、[[生物地球化学的循環|地球規模の物質循環]]への寄与が無視できないものであることが明らかとなってきている。全体として見た場合、環境中の古細菌は、[[炭素]]や[[窒素]]、[[硫黄]]における物質循環の一部を構成している。
嫌気性の古細菌は、偏性嫌気性が約260種、通性嫌気性が約10種となっている。なお、偏性好気性の古細菌は約270種で、おおむね古細菌の半分が好気性、半分が嫌気性ということになる。


嫌気性の古細菌で代表的なものは、[[メタン菌]](メタン生成菌)である。約160種が記載されている。これは代謝の結果[[メタン]]を生成する微生物の総称であるが、このような代謝を起こす生物は古細菌以外に知られていない。強い嫌気度を要求し、[[水素]]や[[酢酸]]などを代謝する為、それらが豊富な環境に分布する。例えば[[海底]][[熱水噴出孔]]などでは、地球科学的または付近に生息する[[微生物]]によって[[水素]]が発生しており、それらを餌にメタン菌が大量に存在している。これらは同時に超好熱性も備えている。[[メタノピュルス・カンドレリ|''Methanopyrus kandleri'']]、[[メタノカルドコックス・ヤンナスキイ|''Methanocaldococcus jannaschii'']]、[[メタノテルムス属|''Methanothermus fervidus'']]などがある。
近年注目されているのは[[窒素循環]]への関与である。以前からメタン菌や好熱菌など一部の古細菌が[[窒素固定]]や硝酸塩呼吸を行うことは知られていたが、これらに加え、2005年には硝化反応を行う古細菌が発見された<ref name="ref17" />。[[メタゲノム]]解析は、アンモニアモノオキシゲナーゼを有すクレンアーキオータ(あるいは[[タウムアーキオータ]])が、海洋、土壌何れにおいてもアンモニア酸化細菌を遥かに上回ることまで示している<ref>{{cite journal |author=Francis CA, Beman JM, Kuypers MM |title=New processes and players in the nitrogen cycle: the microbial ecology of anaerobic and archaeal ammonia oxidation |journal=ISME J |volume=1 |issue=1 |pages=19–27 |year=2007 |month=May |pmid=18043610 |doi=10.1038/ismej.2007.8}}</ref><ref>{{cite journal |author=Leininger S, Urich T, Schloter M, ''et al.'' |title=Archaea predominate among ammonia-oxidizing prokaryotes in soils |journal=Nature |volume=442 |issue=7104 |pages=806&ndash;9 |year=2006 |month=August |pmid=16915287 |doi=10.1038/nature04983}}</ref>。これにより、アンモニア酸化は細菌が行うというこれまでの常識が崩されつつある。[[亜硝酸]]はその後別の細菌によって[[硝酸]]に酸化され、[[植物]]など他の生物によって利用される。この過程に古細菌が関与するという報告はない。


[[水田]]や湖沼、海洋堆積物の中も微生物の働きによって酸素が消費され、水素や[[有機酸]]・[[アルコール]]などが発生しており、それらをメタン菌が消費している。[[海洋]]では[[メタノコックス綱]]<ref name = "IA2017_26">[[#石野, 跡見2017|石野, 跡見2017]]、26頁。</ref>、淡水系では[[メタノバクテリウム綱]]や[[メタノミクロビウム綱]]が主にみられる<ref name = "IA2017_26" />。動物の消化器官や発酵槽などでも[[メタノバクテリウム綱]]や[[メタノミクロビウム綱]]が生息している<ref name = "IA2017_27">[[#石野, 跡見2017|石野, 跡見2017]]、27頁。</ref>。メタン発酵槽には好熱性のものや[[メタノサエタ属|''Methanosaeta'']]が多い<ref name = "IA2017_27" />。
また、[[硫黄循環]]においては、[[鉱物]]から硫黄を遊離する過程で古細菌が働く。例えば[[スルフォロブス属|{{snamei|Sulfolobus}}]]は単体硫黄を酸化することによって増殖する。この活動によって生成する硫酸が[[環境]]汚染を引き起こすことがあるが<ref>{{Cite journal | author = Baker, B. J., Banfield, J. F. | year = 2003 | title = Microbial communities in acid mine drainage | journal = FEMS Microbiology Ecology | volume = 44 | issue = 2 | pages = 139–152 | doi = 10.1016/S0168-6496(03)00028-X | url = http://www.blackwell-synergy.com/doi/abs/10.1016/S0168-6496(03)00028-X | pmid = 19719632 }}{{リンク切れ|date=2017年9月 |bot=InternetArchiveBot }}</ref>、硫黄循環においては、硫黄を植物に利用できる形に変化させるという点において重要である。ただし、この反応は細菌の一部も同様に起こすことができる。


メタン菌はかなり広い範囲に分布しており、メタン菌そのものは極限環境微生物に含めないことが多い。ただし、増殖には[[酸化還元電位]]にして-0.33Vの非常に強い嫌気環境が必要である。
メタン菌は炭素循環において独特の地位を占める。これら古細菌が持つ[[水素]]や[[有機酸]]をメタンとして除去する能力は、嫌気条件での有機物代謝の最終段階を担っている。この過程は「[[メタン菌]]」において詳しい。


メタン菌以外では、未培養系統であるが、冷湧水帯堆積物や海洋堆積物に、ANME I-IIIと呼ばれる嫌気的メタン酸化菌が存在する<ref>{{cite journal | author = Christa Schleper | title = Diversity of Uncultivated Archaea: Perspectives From Microbial Ecology and Metagenomics | journal = Archaea: Evolution, Physiology, and Molecular Biology | volume = | issue = | pages = 39-50 | year = 2007 | pmid = | doi = 10.1002/9780470750865.ch4 }}</ref>。この他にも、膨大な数の古細菌が海底の堆積物の中から見つかっている。[[2008年]]には、海底1m以深の沈澱物中に存在する生物の大部分を古細菌が占めるという報告がなされた<ref>{{cite journal | author = Teske, A., Sørensen, K. B. | title = Uncultured archaea in deep marine subsurface sediments: have we caught them all? | journal = ISME J. | volume = 2 | issue = 1 | pages = 3&ndash;18 | year = 2008 | pmid = 18180743 | doi = 10.1038/ismej.2007.90}}</ref><ref>{{cite journal | author = Lipp, J. S., ''et al.'' | title = Significant contribution of Archaea to extant biomass in marine subsurface sediments | journal = Nature | volume = 454 | issue= 7207 | pages = 991 | year = 2008 | pmid = 18641632 | doi = 10.1038/nature07174}}</ref>。これらは殆ど培養されておらず、不明な点が多い。
しかしながら、メタンの温室効果は[[二酸化炭素]]の21倍強く、[[地球温暖化]]寄与率は18%に達する<ref>{{cite web | title= EDGAR 3.2 Fast Track 2000 | url= http://www.mnp.nl/edgar/model/v32ft2000edgar/ | accessdate= 2008-06-26 }}</ref>。メタン菌は地球上におけるメタン放出量の少なくとも2/3以上を占めると考えられている。[[水田]]や[[反芻動物]]から放出されるメタンも、元を辿ればほぼ全てがメタン菌由来である。なお、古細菌の中には、硫酸還元細菌と共生し、嫌気条件下でメタンを[[硫化水素]]と二酸化炭素に分解する系統も存在する<ref>{{ cite journal | author = Boetius A, Ravenschlag K, Schubert CJ, Rickert D, Widdel F, Gieseke A, Amann R, Jørgensen BB, Witte U, Pfannkuche O | date = 2000 | title = A marine microbial consortium apparently mediating anaerobic oxidation of methane | journal = Nature | volume = 407 | issue = 6804 | pages = 623-6 | id = PMID 11034209 | doi = 10.1038/35036572 }}</ref>。


なお、前述の超好熱菌は、偏性好気性の''Aeropyrum''、''Sulfolobus''、''Sulfurococcus''、通性嫌気性の''Acidianus''、''Pyrolobus''、''Pyrobaculum aerophilum''を除いて大半が偏性嫌気性である。
=== 他生物との関係 ===
他の生物との関係は、相利[[共生]]か片利共生のどちらかである。2009年現在、病原性の古細菌は知られていない<ref>{{cite journal |author=Eckburg P, Lepp P, Relman D |title=Archaea and their potential role in human disease |journal=Infect Immun |volume=71 |issue=2 |pages=591&ndash;6 |year=2003 |pmid=12540534 |doi=10.1128/IAI.71.2.591-596.2003 |pmc=145348}}</ref><ref>{{cite journal |author=Cavicchioli R, Curmi P, Saunders N, Thomas T |title=Pathogenic archaea: do they exist? |journal=Bioessays |volume=25 |issue=11 |pages=1119&ndash;28 |year=2003 |pmid=14579252 |doi=10.1002/bies.10354}}</ref>。寄生の例としては、[[ナノアルカエウム・エクゥィタンス|{{snamei|Nanoarchaeum equitans}}]]が、別の古細菌[[イグニコックス属|{{snamei|Ignicoccus hospitalis}}]]との共存下のみで増殖する例がある。


=== より温和な環境 ===
メタン菌と[[原虫]]の相互作用は相利共生として理解されている。これは、[[反芻動物]]や[[白アリ]]の[[消化器官]]で[[セルロース]]を分解するために働く<ref>{{cite journal |author=Chaban B, Ng SY, Jarrell KF |title=Archaeal habitats—from the extreme to the ordinary |journal=Can. J. Microbiol. |volume=52 |issue=2 |pages=73&ndash;116 |year=2006 |month=February |pmid=16541146 |doi=10.1139/w05-147}}</ref>。原虫は嫌気条件でエネルギーを得るためにセルロースを代謝し、その過程で廃棄物として水素を放出する。メタン菌はこの水素の除去を行い、原虫は効率的なエネルギー生産を可能とする<ref>{{cite journal |author=Schink B |title=Energetics of syntrophic cooperation in methanogenic degradation |journal=Microbiol. Mol. Biol. Rev. |volume=61 |issue=2 |pages=262&ndash;80 |year=1997 |month=June |pmid=9184013 |pmc=232610 }}</ref>。有機酸や水素を放出する嫌気性細菌との間にも同様の共生関係が成り立つ。この関係はいくつかの原虫、[[菌類]]でより進展しており、例えば{{snamei|Plagiopyla frontata}}、{{snamei|Nyctotherus ovalis}}などは[[細胞]]内に共生メタン菌を保有する<ref>{{cite journal | author = Lange, M., Westermann, P., Ahring, B.K. | year = 2005 | title = Archaea in protozoa and metazoa |journal=Applied Microbiology and Biotechnology | volume = 66 | issue = 5 | pages = 465&ndash;474 | doi = 10.1007/s00253-004-1790-4 | pmid = 15630514 }}</ref><ref>{{cite journal |author=van Hoek AH, van Alen TA, Sprakel VS, ''et al.'' |title=Multiple acquisition of methanogenic archaeal symbionts by anaerobic ciliates |journal=Mol. Biol. Evol. |volume=17 |issue=2 |pages=251&ndash;8 |date=February 1, 2000 |pmid=10677847 |url=http://mbe.oxfordjournals.org/cgi/pmidlookup?view=long&pmid=10677847}}</ref>。
[[ファイル:Axinella polypoides by Line1.jpg|240px|thumb|right|海綿の1種(アキシネラ)内部に多数の''[[Candidatus]]'' "[[ケナルカエウム・シュンビオスム|Cenarchaeum symbiosum]]"([[タウム古細菌]])を共生させている]]
一方で、近年いくつかの研究が、極限環境や嫌気環境だけでなく、より温和な環境にもメタン菌以外の古細菌も存在することを示している。例えば[[極地]]の[[海]]、[[湖]]などの冷たい環境において古細菌の遺伝子が高頻度で検出されている<ref>{{cite journal | author = López-García, P., ''et al.'' | title = Diversity of free-living prokaryotes from a deep-sea site at the Antarctic Polar Front | journal = FEMS Microbiol. Ecol. | volume = 36 | issue = 2–3 | pages = 193&ndash;202 | year = 2001 | pmid = 11451524}}</ref>。一般的な海洋においても、[[細胞]]数当たりで[[微生物]]の約20%を古細菌が占めるという<ref>{{cite journal | author = DeLong, E. F., Pace, N. R. | title = Environmental diversity of bacteria and archaea | journal = Syst. Biol. | volume = 50 | issue = 4 | pages = 470&ndash;8 | year = 2001 | pmid = 12116647 | doi = 10.1080/106351501750435040}}</ref>。[[湿原]]や[[下水]]、[[海洋]]、[[土壌]]などにも古細菌は存在する<ref>{{cite journal |author= DeLong, E. F. | title = Everything in moderation: archaea as 'non-extremophiles' | journal = Curr. Opin. Genet. Dev. | volume = 8 | issue = 6 | pages = 649–54 | year = 1998 | pmid = 9914204 | doi = 10.1016/S0959-437X(98)80032-4}}</ref>。これら環境古細菌の多くは、[[メタゲノム]]、脂質解析といった手法を用いることにより明らかにされつつある。


特に以前中温性クレン古細菌(Mesophilic Crenarchaeota)と呼ばれ、現在[[タウム古細菌]]<ref name="NRM2008">{{ cite journal | author = Brochier-Armanet, C., ''et al.'' | date = 2008 | title = Mesophilic crenarchaeota: proposal for a third archaeal phylum, the Thaumarchaeota | journal = Nature Reviews Microbiology | volume = 6 | issue = 3 | pages = 245&ndash;52 | id = PMID 18274537 | doi =10.1038/nrmicro1852 }}</ref>と呼ばれるグループは、[[2000年]]以降急速に進展した分野である。[[2005年]]に初めて[[ニトロソプミルス・マリティムス|{{snamei|Nitrosopumilus martimus}}]]純粋培養に成功し<ref name="N2005">{{ cite journal | author = Konneke, M., ''et al.'' | date = 2005 | title = Isolation of an autotrophic ammonia-oxidizing marine archaeon | journal = Nature | volume = 437 | pages = 543&ndash;546 | id = PMID 16177789}}</ref>、2014年には[[ニトロソスパエラ・ウィエンネンシス|''Nitrososphaera viennensis'']]が記載<ref name="IJSEM2014">{{ cite journal | author = Stieglmeier, M., ''et al.'' | date = 2014 | title = ''Nitrososphaera viennensis'' gen. nov., sp. nov., an aerobic and mesophilic, ammonia-oxidizing archaeon from soil and a member of the archaeal phylum Thaumarchaeota | journal = Int. J. Syst. Evol. Microbiol. | volume = 64 | pages = 2738-52 | doi = 10.1099/ijs.0.063172-0 | id = PMID 24907263 }}</ref>された。2018年には記載種の数は6種となっている。分離源は[[水族館]]のフィルターや[[海水]]、[[畑]]の土といった"通常の"環境で、生育温度も25~42℃と低く、pH、塩濃度といった他の生育パラメータも極端な数字ではない<ref name="IJSEM2014" /><ref name="IJSEM2017">{{ cite journal | author = Qin, W., ''et al.'' | date = 2017 | title = ''Nitrosopumilus maritimus'' gen. nov., sp. nov., ''Nitrosopumilus cobalaminigenes'' sp. nov., ''Nitrosopumilus oxyclinae'' sp. nov., and ''Nitrosopumilus ureiphilus'' sp. nov., four marine ammonia-oxidizing archaea of the phylum Thaumarchaeota | journal = Int. J. Syst. Evol. Microbiol. | volume = 67 | issue = 12 | pages = 5067-5079 | doi = 10.1099/ijsem.0.002416 | id = PMID 29034851 }}</ref><ref name="IJSEM2018">{{ cite journal | author = Jung, M.Y., ''et al.'' | date = 2018 | title = ''Nitrosarchaeum koreense'' gen. nov., sp. nov., an aerobic and mesophilic, ammonia-oxidizing archaeon member of the phylum Thaumarchaeota isolated from agricultural soil | journal = Int. J. Syst. Evol. Microbiol. | volume = | issue = | pages = 3084-3095 | doi = 10.1099/ijsem.0.002926 | id = PMID 30124400 }}</ref>。
より大きな生物との同様の関係は、[[海綿]]{{snamei|Axinella mexicana}}とクレンアーキオータ(またはThaumarchaeota)[[ケナルカエウム・シュンビオスム|{{snamei|Cenarchaeum symbiosum}}]]の関係が報告されている<ref>{{cite journal |author= Preston, C. M., Wu, K. Y., Molinski, T. F., DeLong, E. F. |year=1996 |title=A psychrophilic crenarchaeon inhabits a marine sponge: Cenarchaeum symbiosum gen. nov., sp. nov |journal=Proc Natl Acad Sci USA |volume=93 |issue=13 |pages=6241–6 |pmc=39006 |doi =10.1073/pnas.93.13.6241 |pmid =8692799 }}</ref>。


タウム古細菌以外の系統は培養に成功していないが、環境DNAサンプルとして多数存在し、代表的なものとして海洋の[[有光層]]に多いMarine group IIと呼ばれるグループが知られている<ref>{{cite journal | author = Mincer, T.J. ''et al.'' | title = Quantitative distribution of presumptive archaeal and bacterial nitrifiers in Monterey Bay and the North Pacific Subtropical Gyre | journal = Environ. Microbiol. | volume = 9 | issue = 5 | pages = 1162-75 | year = 2007 | pmid = 17472632 | doi = 10.1111/j.1462-2920.2007.01239.x }}</ref>。
人間の体内で最も一般的なのは[[メタノブレウィバクテル属|{{snamei|Methanobrevibacter smithii}}]]というメタン菌である<ref>{{cite journal |author=Eckburg PB, Bik EM, Bernstein CN, ''et al.'' |title=Diversity of the human intestinal microbial flora |journal=Science |volume=308 |issue=5728 |pages=1635–8 |year=2005 |month=June |pmid=15831718 |pmc=1395357 |doi=10.1126/science.1110591 }}</ref>。このメタン菌を保有する[[マウス]]は体重増加が報告されており<ref>{{ cite journal | author = Samuel BS, Hansen EE, Manchester JK, Coutinho PM, Henrissat B, Fulton R, Latreille P, Kim K, Wilson RK, Gordon JI | date = 2007 | title = Genomic and metabolic adaptations of ''Methanobrevibacter smithii'' to the human gut | journal = Proc Natl Acad Sci U S A | volume = 104 | issue = 25 | pages = 10643&ndash;8 | id = PMID 17563350 }}</ref>、人間の双利共生菌の可能性もある。一方、[[口|口腔]]内に存在する{{snamei|Methanobrevibacter oralis}}については、[[歯周病]]との弱い関連性が指摘されている<ref>{{ cite journal | author = Vianna ME, Conrads G, Gomes BP, Horz HP | date = 2006 | title = Identification and quantification of archaea involved in primary endodontic infections | journal = J Clin Microbiol | volume = 44 | issue = 4 | pages = 1274&ndash;82 | id = PMID 16597851 }}</ref>。


== 物質・エネルギー循環における役割 ==
== 細胞の構造 ==
古細菌は、かつてメタン生成を除き、地球上の[[生物地球化学的循環|物質循環]]への影響は限定的と考えられてきた。しかし、難培養性の古細菌の研究が進むにつれ、[[生物地球化学的循環|地球規模の物質循環]]への寄与が無視できないものであることが明らかとなってきている。全体として見た場合、環境中の古細菌は、[[炭素]]や[[窒素]]、[[硫黄]]における物質循環の一部を構成している。
[[画像:Prokaryote cell diagram.svg|320px|thumb|原核生物の基本的な構造。細胞膜の外側には細胞壁がある。膜につつまれた[[細胞小器官]]は存在せず、内容物は混ざっている]]
古細菌の細胞形態は細菌と似ている。大きさは0.5から数マイクロメートル程度であり、形も丸いものから糸状まであるが、殆どが[[球菌]]から[[桿菌]]の範囲に収まっている。例外として、高度好塩菌の中に三角形や四角形の薄片といった形を持つものがある<ref>{{ cite journal | author = Burns, D. G., Janssen, P. H., Itoh, T., Kamekura, M., Li, Z., Jensen, G., Rodríguez-Valera, F., Bolhuis, H., Dyall-Smith, M. L. | date = 2007 | title = ''Haloquadratum walsbyi'' gen. nov., sp. nov., the square haloarchaeon of Walsby, isolated from saltern crystallizers in Australia and Spain | journal = Int J Syst Evol Microbiol | volume = 57 | pages = 387-92 | doi = 10.1099/ijs.0.64690-0 }}</ref>。大きさは最大の球菌で直径10数μm程度である<ref>『古細菌の生物学』p. 79</ref>。細菌のような強固な細胞壁を持たないために、一部の種は定まった形を持たず、[[アメーバ]]のような形になることもできる<ref>{{cite journal |author=Golyshina OV, Pivovarova TA, Karavaiko GI, ''et al.''|title=''Ferroplasma acidiphilum'' gen. nov., sp. nov., an acidophilic, autotrophic, ferrous-iron-oxidizing, cell-wall-lacking, mesophilic member of the ''Ferroplasmaceae'' fam. nov., comprising a distinct lineage of the Archaea |journal=Int. J. Syst. Evol. Microbiol. |volume=50 Pt 3 |pages=997&ndash;1006 |date=May 1, 2000 |pmid=10843038 |issue=3}}</ref>。また複数の細胞が集合して大規模な融合細胞を形成するものも存在する。この例としては{{snamei|Thermococcus coalescens}}が知られている<ref>{{cite journal |author=Kuwabara T, Minaba M, Iwayama Y, ''et al.'' |title=''Thermococcus coalescens'' sp. nov., a cell-fusing hyperthermophilic archaeon from Suiyo Seamount |journal=Int. J. Syst. Evol. Microbiol. |volume=55 |issue=Pt 6 |pages=2507&ndash;14 |year=2005 |month=November |pmid=16280518 |doi=10.1099/ijs.0.63432-0 |last12=Kamekura |first12=M}}</ref>。


近年注目されているのは[[窒素循環]]への関与である。以前からメタン生成菌や好熱菌など一部の古細菌が[[窒素固定]]や硝酸塩呼吸を行うことは知られていたが、これらに加え、[[2005年]]に[[タウム古細菌]]が[[アンモニア]]酸化を行うことが発見された<ref name = "IJSEM2017" />。[[メタゲノム]]解析は、アンモニアモノオキシゲナーゼを有すタウム古細菌(亜硝酸古細菌)が、海洋、土壌何れにおいてもアンモニア酸化細菌を遥かに上回ることまで示している<ref>{{cite journal |author = Francis CA, ''et al.'' | title = New processes and players in the nitrogen cycle: the microbial ecology of anaerobic and archaeal ammonia oxidation | journal = ISME J. | volume = 1 | issue = 1 | pages = 19–27 | year = 2007 | pmid = 18043610 | doi = 10.1038/ismej.2007.8}}</ref><ref>{{cite journal | author = Leininger, S., ''et al.'' | title = Archaea predominate among ammonia-oxidizing prokaryotes in soils | journal = Nature | volume = 442 | issue = 7104 | pages = 806&ndash;9 | year = 2006 | pmid = 16915287 | doi = 10.1038/nature04983}}</ref>。これにより、アンモニア酸化は細菌が行うというこれまでの常識が崩された。農業用土壌では、アンモニア酸化細菌と古細菌は、アンモニア濃度やpH、土壌深度等に応じて住み分けを行っているようである<ref>{{cite journal | 和書 |author = 森本晶 他 | title = 硝化を担う微生物の多様性と機能 | journal = 化学と生物 | volume = 49 | issue = 9 | pages = 639-644 | year = 2011 | pmid = | doi = 10.1271/kagakutoseibutsu.49.639 }}</ref>。[[亜硝酸]]はその後別の細菌によって[[硝酸]]に酸化され、[[植物]]など他の生物によって利用される。この過程に古細菌が関与するという報告はない。亜硝酸古細菌はまた、[[温室効果ガス]]である[[一酸化二窒素]]を放出する<ref>[[#石野, 跡見2017|石野, 跡見2017]]、36頁。</ref>。一方で、亜硝酸古細菌はメタンの酸化分解を行うという報告もある。
一般的には、円盤形や球に近い不定型、太い棒状、糸状などの形が多い。


また、[[硫黄循環]]においては、[[鉱物]]から[[硫黄]]を遊離する過程で古細菌が働く。例えば[[スルフォロブス属|{{snamei|Sulfolobus}}]]は単体硫黄を酸化することによって増殖する。この活動によって生成する硫酸が[[環境]]汚染を引き起こすことがあるが<ref>{{Cite journal | author = Baker, B. J., Banfield, J. F. | year = 2003 | title = Microbial communities in acid mine drainage | journal = FEMS Microbiology Ecology | volume = 44 | issue = 2 | pages = 139–152 | doi = 10.1016/S0168-6496(03)00028-X | pmid = 19719632 }}</ref>、硫黄循環においては、硫黄を[[植物]]に利用できる形に変化させるという点において重要である。ただし、この反応は細菌の一部も同様に起こすことができる。
古細菌は原核生物であるため、通常細胞内の膜系を発達させず、細胞内の目立つ構造物と言えばDNAとリボソーム、ガス泡くらいである。これらを含む細胞質を細胞膜がつつみ、その外側を細胞壁が覆う。一般に細胞壁は細菌よりも薄く、機械的強度も弱い。細胞表面には、鞭毛や線毛、繊維状の付属構造を持つ場合がある。なお、細胞内の膜系に関しては、[[テルモプラズマ属|{{snamei|Thermoplasma}}]]や[[イグニコックス属|{{snamei|Ignicoccus}}]]といった例外も存在する<ref>『古細菌の生物学』pp. 35-36</ref><ref>{{ cite journal | author = Huber H, Burggraf S, Mayer T, Wyschkony I, Rachel R, Stetter KO. | date = 2000 | title = ''Ignicoccus'' gen. nov., a novel genus of hyperthermophilic, chemolithoautotrophic Archaea, represented by two new species, ''Ignicoccus islandicus'' sp. nov. and ''Ignicoccus pacificus'' sp. nov. | journal = Int J Syst Evol Microbiol | volume = 50 | pages = 2093&ndash;100 | id = PMID 11155984 }}</ref>。


メタン生成菌は炭素循環において独特の地位を占める。これらの古細菌が持つ[[水素]]や[[有機酸]]をメタンとして除去する能力は、嫌気条件での有機物代謝の最終段階を担っている。この過程は「[[メタン菌]]」において詳しい。[[天然ガス]]や[[メタンハイドレート]]も、その生成にはメタン菌が関与している。
細胞よりも高次の構造も乏しく、殆どの種は単独か原始的な群体を持つに過ぎない。[[メタノサルキナ属|{{snamei|Methanosarcina}}]]は接着物質を使用し、小荷物様の群体を形成する。メタン菌の中には、シースと呼ばれる鞘の中に複数の細胞が鎖のようにつながった形態をとるものがある。シート形成や網目状のネットワークを形成するものもある<ref>{{cite journal |author=Nickell S, Hegerl R, Baumeister W, Rachel R |title=''Pyrodictium cannulae'' enter the periplasmic space but do not enter the cytoplasm, as revealed by cryo-electron tomography |journal=J. Struct. Biol. |volume=141 |issue=1 |pages=34&ndash;42|year=2003|pmid=12576018 |doi=10.1016/S1047-8477(02)00581-6}}</ref><ref>{{cite journal |author=Horn C, Paulmann B, Kerlen G, Junker N, Huber H |title=In vivo observation of cell division of anaerobic hyperthermophiles by using a high-intensity dark-field microscope |journal=J. Bacteriol. |volume=181 |issue=16 |pages=5114&ndash;8 |date=Aug 15, 1999 |pmid=10438790 |url=http://jb.asm.org/cgi/pmidlookup?view=long&pmid=10438790 |pmc=94007}}</ref>。


しかしながら、メタンの温室効果は[[二酸化炭素]]の21倍強く、[[地球温暖化]]寄与率は18%に達する<ref>{{cite web | title= EDGAR 3.2 Fast Track 2000 | url= http://www.mnp.nl/edgar/model/v32ft2000edgar/ | accessdate= 2008-06-26 }}</ref>。メタン菌は地球上におけるメタン放出量の少なくとも2/3以上を占めると考えられている。[[水田]]や[[反芻動物]]から放出されるメタンも、元を辿ればほぼ全てがメタン生成菌由来である。なお、古細菌の中には、硫酸還元細菌と共生し、嫌気条件下でメタンを[[硫化水素]]と二酸化炭素に分解する系統も存在する<ref>{{ cite journal | author = Boetius, A., ''et al.'' | date = 2000 | title = A marine microbial consortium apparently mediating anaerobic oxidation of methane | journal = Nature | volume = 407 | issue = 6804 | pages = 623-6 | id = PMID 11034209 | doi = 10.1038/35036572 }}</ref>。
いずれにせよその形態は原核生物の範疇を超えるものではなく、そのため個性に乏しく形態により古細菌を特徴づけるのは困難である。古細菌を特徴付けているのは、ほとんどが分子生物学的知見による。

[[2015年]]には、[[植物プランクトン]]にとって重要な[[補因子]]である、海洋の[[シアノコバラミン|ビタミンB12]]生産の大部分をタウム古細菌が担うと報告された<ref name="ISME2015">{{ cite journal | author = Doxey, A. C., ''et al.'' | date = 2015 | title = Aquatic metagenomes implicate Thaumarchaeota in global cobalamin production | journal = ISME J. | volume = 9 | issue = 2 | pages = 461-71 | doi = 10.1038/ismej.2014.142 | id = PMID 25126756 }}</ref>。

一部の古細菌は光エネルギーの利用も行うようである。[[バクテリオクロロフィル]]を使った光合成は知られていないものの{{#tag:ref|1例のみだが、未培養系統の古細菌MCG-A(Bathyarchaeota class 6)からバクテリオクロロフィルa合成酵素を含む配列が報告されている<ref name = "ISMEJ2009">{{ cite journal | author = Meng, J., ''et al.'' | date = 2009 | title = An uncultivated crenarchaeota contains functional bacteriochlorophyll a synthase | journal = ISME J. | volume = 3 | issue = 1 | pages = 106-16 | doi = 10.1038/ismej.2008.85 | id = PMID 18830277 }}</ref>。このar-bchG(古細菌型バクテリオクロロフィルa合成酵素)は、細菌の持つバクテリオクロロフィルa合成酵素とは系統的に離れており、最も同一性の高い''Rhodospirillum rubrum''との比較でも27%しか一致しない。大腸菌で発現させた実験によると、実際にこの遺伝子は機能するようである。|group="注"}}、高度好塩菌やMarine group IIが保有する、[[バクテリオロドプシン]]やプロテオロドプシンは、光駆動プロトンポンプの機能を持つ<ref name="Nature2006">{{ cite journal | author = Frigaard, N.U., ''et al.'' | date = 2006 | title = Proteorhodopsin lateral gene transfer between marine planktonic Bacteria and Archaea | journal = Nature | volume = 439 | issue = 7078 | pages = 847-50 | doi = 10.1038/nature04435 | id = PMID 16482157 }}</ref><ref>[[#石野, 跡見2017|石野, 跡見2017]]、38頁。</ref>。地球上における光エネルギーの利用は[[バクテリオクロロフィル]]を含む[[クロロフィル]]型が主だと考えられてきたが、細菌を含めたプロテオロドプシンによるエネルギー生産量はその1割にも達すると見積もられており<ref>「[https://news.mynavi.jp/article/20120217-a086/ プロテオロドプシン型のエネルギー生産量は予想外に大きい - 東大海洋研]」マイナビニュース2012年2月17日</ref>、古細菌Marine group IIもその一部を占める。ただしこれらは炭素固定を行わない光従属栄養生物と考えられる。

== 他生物との関係 ==
[[File:武佐岳と牛 - Mount Musa with cows - panoramio.jpg|thumb|300px|牛などの[[反芻動物]]の消化器官には大量のメタン菌が存在しており、メタンを生成している。]]
他の生物との関係は、相利[[共生]]か片利共生のどちらかである。病原性の古細菌は確実なものは知られていない<ref>{{cite journal | author = Eckburg P, ''et al.'' | title = Archaea and their potential role in human disease | journal = Infect. Immun. | volume = 71 | issue = 2 | pages = 591&ndash;6 | year = 2003 | pmid = 12540534 | doi = 10.1128/IAI.71.2.591-596.2003 | pmc = 145348}}</ref><ref>{{ cite journal | author = Cavicchioli, R., ''et al.'' | title = Pathogenic archaea: do they exist? | journal = Bioessays | volume = 25 | issue = 11 | pages = 1119&ndash;28 | year = 2003 | pmid = 14579252 | doi = 10.1002/bies.10354 }}</ref>{{#tag:ref|古細菌を病気の直接の原因とする報告は殆どない。[[感染症]]と関係が深い細菌とは対照的である。僅かに、特殊な[[脳脊髄炎]]の患者から、未知の古細菌DNA配列が多数検出された例がある<ref>[http://www.nikkei.com/article/DGXLASDG13H7K_T10C15A8000000/ 「古細菌」感染で脳脊髄炎 認知症患者、ウイルス・細菌とは別] 日本経済新聞 2018年10月7日</ref>が、この1例のみしか報告が無く、培養もできなかったことから確定していない。|group="注"}}。寄生の例としては、"[[Candidatus|''Ca.'']] [[ナノアルカエウム・エクゥィタンス|Nanoarchaeum equitans]]"が、別の古細菌[[イグニコックス属|{{snamei|Ignicoccus hospitalis}}]]との共存下のみで増殖する例がある<ref name="Nature2002">{{ cite journal | author = Huber, H., ''et al.'' | date = 2002 | title = A new phylum of Archaea represented by a nanosized hyperthermophilic symbiont | journal = Nature | volume = 417 | issue = 6884 | pages = 63&ndash;7 | id = PMID 11986665 }}</ref>。

[[メタン菌]]と[[原虫]]の相互作用は相利共生として理解されている。これは、[[反芻動物]]や[[白アリ]]の[[消化器官]]で[[セルロース]]を分解するために働く<ref>{{cite journal | author = Chaban B, ''et al.'' | title = Archaeal habitats—from the extreme to the ordinary | journal = Can. J. Microbiol. | volume = 52 | issue = 2 | pages = 73&ndash;116 | year = 2006 | pmid = 16541146 | doi = 10.1139/w05-147}}</ref>。原虫は嫌気条件でエネルギーを得るためにセルロースを代謝し、その過程で廃棄物として[[水素]]を放出する。水素が蓄積すると原虫は増殖が阻害される。メタン菌はこの水素の除去を行い、原虫は効率的なエネルギー生産を可能とする<ref>{{cite journal | author = Schink, B. | title = Energetics of syntrophic cooperation in methanogenic degradation | journal = Microbiol. Mol. Biol. Rev. | volume = 61 | issue = 2 | pages = 262&ndash;80 | year = 1997 | pmid = 9184013 | pmc = 232610 }}</ref>。有機酸や水素を放出する嫌気性細菌との間にも同様の共生関係が成り立つ。この関係は古細菌同士でも可能で、メタン菌である[[メタノピュルス・カンドレリ|''Methanopyrus kandleri'']]が存在すると、水素を放出する[[ピュロコックス・フリオスス|''Pyrococcus furiosus'']]は''M. kandleri''に付着してバイオフィルムを形成する<ref>{{cite journal | author = Schopf, S., ''et al.'' | title = An archaeal bi-species biofilm formed by ''Pyrococcus furiosus'' and ''Methanopyrus kandleri'' | journal = Arch. Microbiol. | volume = 190 | issue = 3 | pages = 371-7 | year = 2008 | pmid = 18438643 | doi = 10.1007/s00203-008-0371-9 }}</ref>。こういった関係はいくつかの原虫、[[菌類]]でより進展しており、例えば{{snamei|Plagiopyla frontata}}、{{snamei|Nyctotherus ovalis}}などは[[細胞]]内に共生メタン菌を保有する<ref>{{cite journal | author = Lange, M., ''et al.'' | year = 2005 | title = Archaea in protozoa and metazoa | journal = Applied Microbiology and Biotechnology | volume = 66 | issue = 5 | pages = 465&ndash;474 | doi = 10.1007/s00253-004-1790-4 | pmid = 15630514 }}</ref><ref>{{cite journal | author = van Hoek, A. H., ''et al.'' | title = Multiple acquisition of methanogenic archaeal symbionts by anaerobic ciliates | journal = Mol. Biol. Evol. | volume = 17 | issue = 2 |pages = 251&ndash;8 | date = 2000 | pmid = 10677847 }}</ref>。

[[ヒト]]の体内で最も一般的なのは[[メタノブレウィバクテル属|{{snamei|Methanobrevibacter smithii}}]]というメタン菌である<ref>{{cite journal | author = Eckburg, P. B., ''et al.'' | title = Diversity of the human intestinal microbial flora | journal = Science | volume = 308 | issue = 5728 | pages = 1635–8 | year = 2005 | pmid = 15831718 | pmc = 1395357 | doi = 10.1126/science.1110591 }}</ref>。このメタン菌を保有する[[マウス]]は体重増加が報告されており<ref>{{ cite journal | author = Samuel, B.S., ''et al.'' | date = 2007 | title = Genomic and metabolic adaptations of ''Methanobrevibacter smithii'' to the human gut | journal = Proc. Natl. Acad. Sci. U S A | volume = 104 | issue = 25 | pages = 10643&ndash;8 | id = PMID 17563350 }}</ref>、栄養吸収や肥満に関係している可能性がある。[[高齢者]]に多い<ref name="APMIS2012">{{ cite journal | author = Dridi, B., ''et al.''| date = 2012 | title = Age‐related prevalence of ''Methanomassiliicoccus luminyensis'' in the human gut microbiome | journal = APMIS | volume = 120 | pages = 10 | page = 773-7 | pmid = 22958284 | doi = 10.1111/j.1600-0463.2012.02899.x }}</ref>[[メタノマッシリイコックス・ルミニュエンシス|''Methanomassiliicoccus luminyensis'']]は、有害な[[メチルアミン]]を無害なメタンに分解する<ref name="GM2014">{{ cite journal | author = Brugère, J. F., ''et al.''| date = 2014 | title = Archaebiotics: proposed therapeutic use of archaea to prevent trimethylaminuria and cardiovascular disease. | journal = Gut Microbes. | volume = 5 | issue = 1 | pages = 5-10 | doi = 10.4161/gmic.26749 }}</ref>。一方、[[口|口腔]]内に存在する{{snamei|Methanobrevibacter oralis}}については、免疫応答に関与することで[[歯周病]]を悪化させる危険因子であるとされている<ref>{{ cite journal | author = Vianna, M. E., ''et al.'' | date = 2006 | title = Identification and quantification of archaea involved in primary endodontic infections | journal = J. Clin. Microbiol. | volume = 44 | issue = 4 | pages = 1274&ndash;82 | id = PMID 16597851 }}</ref><ref>{{ cite journal | 和書 | author = 山部こころ 他 | date = 2010 | title = メタン生成古細菌は歯周病の病原因子? | journal = 日本歯周病学会会誌 | volume = 48 | issue = 7 | pages = 463-470 | doi = 10.1271/kagakutoseibutsu.48.463 }}</ref><ref>{{ cite journal | 和書 | author = 前田博史 | date = 2012 | title = プラークを再考する : メタン生成古細菌と歯周病 | journal = 日本歯周病学会会誌 | volume = 54 | issue = 3 | pages = 238-244 | doi = 10.2329/perio.54.238 }}</ref>。メタン菌はヒトにとって、有益でも有害でもありうる<ref>{{ cite journal | author = Chaudhary, P.P., ''et al.'' | date = 2018 | title = Methanogens in humans: potentially beneficial or harmful for health | journal = Appl. Microbiol. Biotechnol. | volume = 102 | issue = 7 | pages = 3095-3104 | id = PMID 29497795 | doi = 10.1007/s00253-018-8871-2 }}</ref>。

メタン菌以外では、[[海綿]]{{snamei|Axinella mexicana}}と[[タウム古細菌]]"''[[Candidatus|Ca.]]'' [[ケナルカエウム・シュンビオスム|Cenarchaeum symbiosum]]"の関係が報告されている<ref>{{cite journal |author= Preston, C. M., ''et al.'' | year = 1996 | title = A psychrophilic crenarchaeon inhabits a marine sponge: ''Cenarchaeum symbiosum'' gen. nov., sp. nov | journal = Proc. Natl. Acad. Sci. USA | volume = 93 | issue = 13 | pages = 6241–6 | pmc = 39006 | doi =10.1073/pnas.93.13.6241 | pmid = 8692799 }}</ref>。

=== ヒトによる利用 ===
[[File:2013-05-03 Fotoflug Leer Papenburg DSCF7514.jpg|thumb|300px|[[ドイツ]]の[[バイオガス]]製造プラント]]
汚水処理施設や[[バイオガス]]の製造において、メタン菌によるメタン発酵が行われている。また、[[味噌]]や[[醤油]]、[[キムチ]]<ref>{{cite journal | author = 李宗勲 | title = 韓国キムチにおける乳酸菌研究の進展 | journal = ミルクサイエンス | volume = 58 | issue = 3 | pages = 153-159 | year = 2009 | pmid = | doi = 10.11465/milk.58.153 }}</ref>から{{snamei|Halococcus}}に代表される高度好塩菌が検出されることがある{{#tag:ref|これらの食品は塩濃度が低すぎるため、使用した食塩由来のコンタミの可能性もある。|group="注"}}。この他菌体を直接利用するものはあまりないが、好熱好酸菌は[[硫化水素]]や金属の処理目的に研究されている<ref>[http://www.nite.go.jp/nbrc/genome/project/annotation/analyzed/st7.html 独立行政法人製品評価技術基盤機構ゲノム解析部門(NGAC) - 好熱好酸性古細菌 (Sulfolobus tokodaii strain7T (= NBRC 100140T))]</ref><ref>{{cite journal | author = Norris, P. R., ''et al.'' | title = Acidophiles in bioreactor mineral processing | journal = Extremophiles | volume = 4 | issue = 2 | pages = 71–6 | year = 2000 | pmid = 10805560 | doi = 10.1007/s007920050139}}</ref>。

一方、新しい遺伝子資源としても注目を集めてきた<ref>{{ cite journal | author = Schiraldi, C., ''et al.'' | title = Perspectives on biotechnological applications of archaea | journal = Archaea | volume = 1 |issue = 2 | pages = 75–86 | year = 2002 | PMID = 15803645 }}</ref>。[[ピュロコックス・フリオスス|{{snamei|Pyrococcus furiosus}}]]や{{snamei|Thermococcus kodakaraensis}}などに由来する[[DNAポリメラーゼ]](Pfuポリメラーゼ、KODポリメラーゼ)は、[[Taqポリメラーゼ]](細菌{{snamei|Thermus aquaticus}}由来)に比べ複製正確性が高く、[[ポリメラーゼ連鎖反応|PCR]]になくてはならない酵素の一つである<ref>[http://www.toyobo.co.jp/seihin/xr/lifescience/products/product/pcr/archives/2006/09/kod_dna_polymease.html KOD DNA polymease]</ref>。タンパク質が結晶化しやすく、真核生物のホモログあるいは新規酵素を多数持つことから、タンパク質の構造研究にもしばしば使用される<ref>{{cite journal |author=Jenney, F. E., Adams, M. W. |title=The impact of extremophiles on structural genomics (and vice versa) |journal=Extremophiles |volume=12 |issue=1 |pages=39–50 |year=2008 |month=January |pmid=17563834 |doi=10.1007/s00792-007-0087-9}}</ref>。これまでのところあまり実用化されていないが、[[CRISPR]]/Cas{{#tag:ref|なお、現在[[ゲノム編集]]に利用されているCRISPR/Cas9は細菌由来である|group="注"}}や[[抗生物質]]<ref>{{ cite journal | author = Schiraldi, C., ''et al.'' | title = Halocins and sulfolobicins: the emerging story of archaeal protein and peptide antibiotics | journal = J. Ind. Microbiol. Biotechnol. | volume = 28 |issue = 1 | pages = 23-31 | year = 2002 | PMID = 11938468 | doi = 10.1038/sj/jim/7000190 }}</ref>など未利用の遺伝子資源も存在する。

== 細胞の形態・構造 ==
[[ファイル:Thermococcus gammatolerans.jpg|thumb|250px|典型的な超好熱菌{{snamei|Thermococcus gammatolerans}}の電子顕微鏡写真]]
[[File:古細菌の細胞模式図.png|250px|thumb|古細菌の基本的な構造(モデルは上の''Thermococcus gammatolerans'')。[[細胞膜]]の外側には[[細胞壁]]がある。膜につつまれた[[細胞小器官]]は存在せず、内容物は混ざっている。色は区別のための着色で、実際のものとは異なる。]]
古細菌の外観は細菌と似ている。0.5から数マイクロメートル程度の大きさを有し、[[球菌]]、[[桿菌]]またはディスク状など様々な形が見られる。大きさは最大の球菌で直径10数μm程度である<ref>[[#古賀1998|古賀1998]]、79頁。</ref>。

珍しい形として、[[ハロクアドラトゥム・ワルスビイ|''Haloquadratum walsbyi'']]は、極薄の四角形の紙片状<ref>{{ cite journal | author = Burns, D. G., ''et al.'' | date = 2007 | title = ''Haloquadratum walsbyi'' gen. nov., sp. nov., the square haloarchaeon of Walsby, isolated from saltern crystallizers in Australia and Spain | journal = Int J Syst Evol Microbiol | volume = 57 | pages = 387-92 | doi = 10.1099/ijs.0.64690-0 }}</ref>、高度好塩菌には他に三角菌(''Haloarcula japonica '')もいる。
[[テルモフィルム・ペンデンス|''Thermofilum pendens'']]は極細の針状(最大長~100μm)、[[テルモプラズマ属|''Thermoplasma'']]や[[フェロプラズマ属|''Ferroplasma'']]は、強固な細胞壁を持たないために、一部の種は定まった形を持たず、[[アメーバ]]のような形になることもできる<ref>{{cite journal | author = Golyshina, O. V., ''et al.''| title = ''Ferroplasma acidiphilum'' gen. nov., sp. nov., an acidophilic, autotrophic, ferrous-iron-oxidizing, cell-wall-lacking, mesophilic member of the ''Ferroplasmaceae'' fam. nov., comprising a distinct lineage of the Archaea | journal = Int. J. Syst. Evol. Microbiol. | volume = 50 Pt 3 | pages = 997&ndash;1006 | date = 2000 | pmid = 10843038 | issue = 3}}</ref>。また複数の細胞が集合して大規模な融合細胞を形成するものも存在する。この例としては{{snamei|Thermococcus coalescens}}が知られている<ref>{{cite journal | author = Kuwabara, T., ''et al.'' | title = ''Thermococcus coalescens'' sp. nov., a cell-fusing hyperthermophilic archaeon from Suiyo Seamount |journal=Int. J. Syst. Evol. Microbiol. | volume = 55 | issue = Pt 6 | pages = 2507&ndash;14 | year = 2005 | pmid = 16280518 | doi = 10.1099/ijs.0.63432-0 }}</ref>。

古細菌は[[原核生物]]であるため、通常細胞内の膜系を発達させず、細胞内の目立つ構造物と言えば[[デオキシリボ核酸|DNA]]と[[リボソーム]]、[[ガス泡]]、[[ポリヒドロキシ酪酸|PHB]]の顆粒くらいである。これらを含む[[細胞質]]を[[細胞膜]]がつつみ、その外側を[[細胞壁]]が覆う。一般に細胞壁は細菌よりも薄く、機械的強度も弱い。細胞表面には、[[鞭毛]]や[[線毛]]、繊維状の付属構造を持つ場合がある。なお、細胞内の膜系に関しては、[[テルモプラズマ属|{{snamei|Thermoplasma}}]]や[[イグニコックス属|{{snamei|Ignicoccus}}]]といった例外も存在する<ref>[[#古賀1998|古賀1998]]、35-36頁。</ref><ref>{{ cite journal | author = Huber H, ''et al.'' | date = 2000 | title = ''Ignicoccus'' gen. nov., a novel genus of hyperthermophilic, chemolithoautotrophic Archaea, represented by two new species, ''Ignicoccus islandicus'' sp. nov. and ''Ignicoccus pacificus'' sp. nov. | journal = Int. J. Syst. Evol. Microbiol. | volume = 50 | pages = 2093&ndash;100 | id = PMID 11155984 }}</ref>。''Ignicoccus''は、外細胞膜と内細胞膜、その間の巨大な疑似[[ペリプラズム]]に特徴づけられる。外側の膜に[[ATP合成酵素]]があり、疑似ペリプラズムにおいてもATPが利用可能な点で、[[グラム陰性菌|グラム陰性細菌]]と異なる<ref>{{cite journal |author = Küper, U., ''et al.'' | title = Energized outer membrane and spatial separation of metabolic processes in the hyperthermophilic Archaeon ''Ignicoccus hospitalis'' | journal= Proc. Natl. Acad. Sci. U S A | year = 2010 | volume= 107 | issue = 7 | page = 3152-6 | doi = 10.1073/pnas.0911711107 }}</ref>。内部はフィラメントや網構造が非常に入り組んで観察される<ref>{{cite journal | author = Heimerl, T., ''et al.''| title = A Complex Endomembrane System in the Archaeon ''Ignicoccus hospitalis'' Tapped by ''Nanoarchaeum equitans'' | journal = Front. Microbiol. | year = 2017 | volume = 8 | doi = 10.3389/fmicb.2017.01072}}</ref>。

細胞よりも高次の構造も乏しく、殆どの種は単独か原始的な群体を持つに過ぎない。[[メタノサルキナ属|{{snamei|Methanosarcina}}]]は接着物質を使用し、小荷物様の群体を形成する。他のメタン菌の中には、シースと呼ばれる鞘の中に複数の細胞が鎖のようにつながった形態をとるものがある。シート形成や網目状のネットワークを形成するものもある<ref>{{cite journal | author = Nickell, S., ''et al.'' | title = ''Pyrodictium cannulae'' enter the periplasmic space but do not enter the cytoplasm, as revealed by cryo-electron tomography | journal = J. Struct. Biol. | volume = 141 | issue = 1 | pages = 34&ndash;42 | year = 2003 | pmid = 12576018 | doi = 10.1016/S1047-8477(02)00581-6}}</ref><ref>{{cite journal | author = Horn, C., ''et al.'' | title = In vivo observation of cell division of anaerobic hyperthermophiles by using a high-intensity dark-field microscope | journal = J. Bacteriol. | volume = 181 | issue = 16 | pages = 5114&ndash;8 | date = 1999 | pmid = 10438790 | pmc = 94007}}</ref>。

何れにせよその形態は原核生物の範疇を超えるものではなく、そのため個性に乏しく形態により古細菌を特徴づけるのは困難である。古細菌を特徴付けているのは、ほとんどが分子生物学的知見による。


=== 細胞壁 ===
=== 細胞壁 ===
古細菌の[[細胞壁]]は一般的に[[タンパク質]]性の[[S層]]である<ref name = "FM2014">{{ cite journal | author = Klingl, A. | date = 2014 | title = S-layer and cytoplasmic membrane – exceptions from the typical archaeal cell wall with a focus on double membranes | journal = Front. Microbiol. | volume = 5 | issue = | pages = | doi = 10.3389/fmicb.2014.00624 | pmid = 25505452 }}</ref>。S層は多くの[[細菌]]にも認められるが、細菌と異なり[[ペプチドグリカン]]を持たず、S層そのものが細胞壁になっているという点で異なる。古細菌のS層は熱に対して極めて安定だが、細菌の細胞壁と異なり[[浸透圧]]変化に脆弱で機械的[[強度]]も弱いものが多い<ref>[[#古賀1998|古賀1998]]、262-264頁。</ref>。
[[ファイル:Thermococcus gammatolerans.jpg|thumb|250px|{{snamei|Thermococcus gammatolerans}}の電子顕微鏡写真。鞭毛が見える]]
[[細胞壁]]の素材は細菌ではペプチドグリカンであるが、古細菌の細胞壁は一般的にタンパク質性の[[S層]]である。S層は多くの細菌にも認められるが、細菌と異なりS層そのものが細胞壁になっているという点で異なる。古細菌のS層は熱に対して極めて安定だが、細菌の細胞壁と異なり[[浸透圧]]変化に脆弱で機械的[[強度]]も弱いものが多い。<ref>『古細菌の生物学』pp. 262-264</ref>


この他[[メタノバクテリウム綱]][[シュードムレイン]]と呼ばれる糖ペプチドを持つ。こちらもムラミン酸を欠くという点で細菌の細胞壁と区別できる。何れもその合成系の違いから細菌の細胞壁合成を阻害する[[β-ラクム系抗生物質]]、グリコペプチド系抗生物質には何れも非感受性を示す。一般的な傾向として、グラ染色でS層が陰性に、シュードムレインが陽性染色され<ref>『古細菌の生物学』pp. 258-261</ref>
[[メタノバクテリウム綱]]は、[[シュードムレイン]]と呼ばれる糖ペプチドを持つ<ref name = "FM2014" />。これはペプチドグリカンの一種ではあるが、ムラミン酸やdアミノ酸を欠くという点で細菌の細胞壁と区別できる。''[[ノピュルス・カンドレリ|Methanopyrus kandleri]]''''[[メタノテルス属|Methanothermus]]''は、シュードムレインの外側更にS層がある<ref name = "FM2014" />


S層もシュードムレインも、その合成系の違いから、細菌の細胞壁合成を阻害する[[β-ラクタム系抗生物質]]、グリコペプチド系抗生物質は効果が無い。一般的な傾向として、[[グラム染色]]ではS層が陰性に、シュードムレインが陽性に染色される。<ref>[[#古賀1998|古賀1998]]、258-261頁。</ref>
この他にシース({{snamei|Methanospirillus}}、{{snamei|Methanosaeta}})、メタノコンドロイチン<ref>{{ cite journal | author = Kreisl P, and Kandler O | date = 1986 | title = Chemical structure of the cell wall polymer of ''Methanosarcina'' | journal = System Appl Microbiol | volume = 7 | issue = 2-3 | pages = 293&ndash;9}}</ref>({{snamei|Methanosarcina}})、多糖類([[ハロコックス属|{{snamei|Halococcus}}]])、グルタミニルグリカン({{snamei|Natronococcus}})などがある。また、[[テルモプラズマ綱]]や、[[イグニコックス属|{{snamei|Ignicoccus}}]]は細胞壁を持たないことで知られている。<ref>『古細菌の生物学』pp. 261-262,264-265</ref>

その他の細胞表層構造としては、シース({{snamei|Methanospirillus}}、{{snamei|Methanosaeta}})、メタノコンドロイチン<ref>{{ cite journal | author = Kreisl, P., Kandler, O. | date = 1986 | title = Chemical structure of the cell wall polymer of ''Methanosarcina'' | journal = System Appl. Microbiol. | volume = 7 | issue = 2-3 | pages = 293&ndash;9}}</ref>({{snamei|Methanosarcina}})、多糖類([[ハロコックス属|{{snamei|Halococcus}}]])、グルタミニルグリカン({{snamei|Natronococcus}})などがある<ref name = "FM2014" />。また、[[テルモプラズマ綱]]は細胞壁が無い。

多くの古細菌は[[グラム陽性菌|グラム陽性細菌]]同様外膜を持たないが、[[イグニコックス属|{{snamei|Ignicoccus}}]]及び[[メタノマッシリイコックス・ルミニュエンシス|''Methanomassiliicoccus luminyensis'']]、未培養系統である[[ARMAN]]<ref name = "FM2014" />は外膜(または外細胞膜)を持つ<ref>[[#古賀1998|古賀1998]]、261-262, 264-265頁。</ref>。これらは系統的に離れていて、進化的な意義は不明である。


=== べん毛 ===
=== べん毛 ===
基部のモーターにより鞭を回転させ、細胞の移動を可能とする器官である。細菌の[[鞭毛|べん毛]]に似るが、よく見るとやや細く、また、構成するタンパク質にも相同性はない。むしろType IV 線毛との共通点が多い。一方、細菌の鞭毛はType III 分泌システムとの共通点が多く、両者は異なる起源を持つと考えられている。細菌は鞭毛の駆動力として水素イオン濃度差を利用するが、こちらは[[アデノシン三リン酸|ATP]]の[[加水分解]]により駆動するようである。<ref>{{cite web | author = Matzke, N. J. | date = 2006年9月5日(アップデータ) | url = http://www.talkdesign.org/faqs/flagellum.html | title = Evolution in (brownian) space: a model for the origin of the bacterial flagellum | language = 英語 | accessdate = 2008年4月5日}}</ref><ref>{{ cite journal | author = Ng SY, Chaban B, Jarrell KF | date = 2006 | title = Archaeal flagella, bacterial flagella and type IV pili: a comparison of genes and posttranslational modifications | journal = J Mol Microbiol Biotechnol | volume = 11 | issue = 3-5 | pages = 167&ndash;91 | id = PMID 16983194 }}</ref><ref>{{ cite journal | author = Metlina AL | date = 2004 | title = Bacterial and archaeal flagella as prokaryotic motility organelles | journal = Biochemistry (Mosc) | volume = 69 | issue = 11 | pages = 1203&ndash;12 | id = PMID 15627373 }}</ref>
基部のモーターにより鞭を回転させ、[[細胞]]の移動を可能とする器官である。直径10-15nm、全長10-15μm。細菌の[[鞭毛|べん毛]]に似るが、よく見るとやや細く、また、構成するタンパク質にも相同性はない。むしろ古細菌自身やグラム陰性細菌が持つIV型[[線毛]]との共通点が多い。一方、細菌の鞭毛は[[III分泌装置]]との共通点が多く、両者は異なる起源を持つと考えられている。
鞭毛の繊維部分は根元にユニットが追加される形で伸長する{{#tag:ref|細菌の鞭毛は、鞭毛の中を通って先端から構築されるが、古細菌の鞭毛は細いためそのようなことができない|group="注"}}。また、細菌は鞭毛の駆動力として[[水素イオン]]濃度差を利用するが、こちらは[[アデノシン三リン酸|ATP]]の[[加水分解]]により駆動する。エネルギー変換効率はほぼ100%の高効率を達成してい細菌に比べて著しく低く、6~10%程度と見積もられている<ref>{{ cite journal | author = Kinosita, Y., ''et al.'' | date = 2016 | title = Direct observation of rotation and steps of the archaellum in the swimming halophilic archaeon ''Halobacterium salinarum'' | journal = Nat. Microbiol. | volume = 1 | issue = | pages = | id = PMID 27564999 | doi = 10.1038/nmicrobiol.2016.148 }}</ref>。<ref>{{cite web | author = Matzke, N. J. | date = 2006年9月5日(アップデータ) | url = http://www.talkdesign.org/faqs/flagellum.html | title = Evolution in (brownian) space: a model for the origin of the bacterial flagellum | language = 英語 | accessdate = 2008年4月5日}}</ref><ref>{{ cite journal | author = Ng, S. Y., ''et al.'' | date = 2006 | title = Archaeal flagella, bacterial flagella and type IV pili: a comparison of genes and posttranslational modifications | journal = J. Mol. Microbiol. Biotechnol. | volume = 11 | issue = 3-5 | pages = 167&ndash;91 | id = PMID 16983194 }}</ref><ref>{{ cite journal | author = Metlina, A. L. | date = 2004 | title = Bacterial and archaeal flagella as prokaryotic motility organelles | journal = Biochemistry (Mosc) | volume = 69 | issue = 11 | pages = 1203&ndash;12 | id = PMID 15627373 }}</ref>
[[Image:Archaea membrane.svg|250px|thumb|古細菌とその他の生物の極性脂質の違い。1-4, 10は古細菌細胞膜脂質の代表例2,3-ジフィタニル-''sn''-グリセロール1-リン酸、5-9はそのほかの生物の細胞膜脂質]]
[[Image:Archaea membrane.svg|250px|thumb|古細菌とその他の生物の極性脂質の違い。1-4, 10は古細菌細胞膜脂質の代表例2,3-ジフィタニル-''sn''-グリセロール1-リン酸、5-9はそのほかの生物の細胞膜脂質]]


=== 細胞膜 ===
=== 細胞膜 ===
[[細胞膜]]を構成する[[脂質]]は、古細菌とその他の生物を区別する最大の特徴である。真核生物や細菌は''sn''-[[グリセロール3-リン酸]]の''sn''-1位、2位<ref group="注">「''sn''-」とは[[立体特異的番号付け]]を用いた時につける接頭辞である。[[DL表記法]]で表記すると、細菌や真核生物の''sn''-グリセロール3-リン酸は{{small|L}}-グリセロール3-リン酸または{{small|D}}-グリセロール1-リン酸、古細菌の''sn''-グリセロール1-リン酸は{{small|L}}-グリセロール1-リン酸または{{small|D}}-グリセロール3-リン酸となる。</ref>に[[脂肪酸]]が[[エステル結合]]しているが(図5-8参照)、古細菌はこれと鏡像体の関係にある脂質を持ち、''sn''-[[グリセロール1-リン酸]]の''sn''-2位、3位に[[イソプレノイド]]アルコールが[[エーテル結合]]している(図1-4参照)。[[エーテル結合]]を含む脂質や環状脂質自体は超好熱細菌{{snamei|Aquifex}}、{{snamei|Thermodesulfobacterium}}などからも見つかっているが、[[グリセロール]]骨格部分の[[立体構造]]は例外なく古細菌特有のものである。<ref>細菌の生物学』pp. 265-266</ref>
[[細胞膜]]を構成する[[脂質]]は、古細菌とその他の生物を区別する最大の特徴である。[[真核生物]][[細菌]]は''sn''-[[グリセロール3-リン酸]]の''sn''-1位、2位<ref group="注">「''sn''-」とは[[立体特異的番号付け]]を用いた時につける接頭辞である。[[DL表記法]]で表記すると、細菌や真核生物の''sn''-グリセロール3-リン酸は{{small|L}}-グリセロール3-リン酸または{{small|D}}-グリセロール1-リン酸、古細菌の''sn''-グリセロール1-リン酸は{{small|L}}-グリセロール1-リン酸または{{small|D}}-グリセロール3-リン酸となる。</ref>に[[脂肪酸]]が[[エステル結合]]しているが(図5-8参照)、古細菌はこれと鏡像体の関係にある脂質を持ち、''sn''-[[グリセロール1-リン酸]]の''sn''-2位、3位に[[イソプレノイド]]アルコールが[[エーテル結合]]している(図1-4参照)。[[エーテル結合]]を含む脂質や環状脂質自体は超好熱細菌{{snamei|Aquifex}}、{{snamei|Thermodesulfobacterium}}などからも見つかっているが、[[グリセロール]]骨格部分の[[立体構造]]は例外なく古細菌特有のものである。<ref>[[#賀1998|古賀1998]]、265-266頁。</ref>


[[炭化水素]]鎖は多くの場合、C20(稀にC25)イソプレノイドのみからなる。[[脂肪酸]]は存在しない。不飽和型も稀である。一部の古細菌の細胞膜には、炭化水素鎖が向かい合って結合した形のテトラエーテル型脂質や、炭化水素鎖の途中で架橋、あるいは環状構造を有す物も存在する(図10参照)。細胞膜上には[[ATP合成酵素]]や[[電子伝達体]](その他[[メタン生成経路]]や[[バクテリオロドプシン]]なども)などの酵素類が偏在しており、古細菌の代謝の主要な場である。膜上にはこの他に各種輸送体や各種[[センサー]]などが存在する。<ref>細菌の生物学』pp. 214, 265-272</ref>
[[炭化水素]]鎖は多くの場合、C20(稀にC25)[[イソプレノイド]]のみからなる。[[脂肪酸]]は存在しない。不飽和型も稀である。一部の古細菌の細胞膜には、炭化水素鎖が向かい合って結合した形のテトラエーテル型脂質や、炭化水素鎖の途中で架橋、あるいは環状構造を有す物も存在する(図10参照)。細胞膜上には[[ATP合成酵素]]や[[電子伝達体]](その他[[メタン生成経路]]や[[バクテリオロドプシン]]なども)などの酵素類が偏在しており、古細菌の代謝の主要な場である。膜上にはこの他に各種輸送体や各種[[センサー]]などが存在する。<ref>[[#賀1998|古賀1998]]、214, 265-272頁。</ref>


=== 細胞質 ===
=== 細胞質 ===
内部含まれる酵素や低分子種や生育環境により異。DNA、エネルギー貯蔵用の[[ポリヒドロキシ酪酸]]の顆粒、70Sリボソーム、高度好塩菌などが持つ浮力調整用のガス胞などが比較的目立つ。
[[細胞質]]目立つ構造[[デオキシリボ核酸|DNA]]、エネルギー貯蔵用の[[ポリヒドロキシ酪酸]]の顆粒、[[リボソーム]]、高度好塩菌などが持つ浮力調整用の[[ガス胞]]などが比較的目立つ程度である


[[細胞骨格]]については、{{snamei|Thermoplasma}}が細胞壁がないにもかかわらず様々な形をとることから、発見時より何らかの形で細胞骨格が存在することが推測されていた<ref>{{ cite journal | author = Hixon WG, Searcy DG | date = 1993 | title = Cytoskeleton in the archaebacterium ''Thermoplasma acidophilum''? Viscosity increase in soluble extracts | journal = Biosystems | volume = 29 | issue = 2-3 | pages = 151&ndash;60 | id = PMID 8374067 }}</ref>。1990年代後半より、[[アクチン]]に類似するタンパク質が''Thermoplasma''やクレンアーキオータより報告されている<ref>{{ cite journal | author = Hara F, Yamashiro K, Nemoto N, Ohta Y, Yokobori S, Yasunaga T, Hisanaga S, Yamagishi A | date = 2007 | title = An actin homolog of the archaeon ''Thermoplasma acidophilum'' that retains the ancient characteristics of eukaryotic actin | journal = J Bacteriol | volume = 189 | issue = 5 | pages = 2039&ndash;45 | id = PMID 17189356 }}</ref>
[[細胞骨格]]については、{{snamei|Thermoplasma}}が細胞壁がないにもかかわらず様々な形をとることから、発見時より何らかの形で細胞骨格が存在することが推測されていた<ref>{{ cite journal | author = Hixon, W. G., Searcy, D. G. | date = 1993 | title = Cytoskeleton in the archaebacterium ''Thermoplasma acidophilum''? Viscosity increase in soluble extracts | journal = Biosystems | volume = 29 | issue = 2-3 | pages = 151&ndash;60 | id = PMID 8374067 }}</ref>。これは細菌の[[MreB]]に類似した蛋白質が使われている。


一方、[[クレン古細菌]]からは[[アクチン]]に類似するタンパク質が報告されている。[[ロキ古細菌]]から発見されたアクチンは、[[ヒト]]アクチンと58-60%の同一性を持ち、[[プロフィリン]]は[[ウサギ]]アクチンと相互作用を起こすことができる<ref>{{cite web | author = | publisher = AASJ | work = 論文ウォッチ | date = 2018年10月9日 | url = http://aasj.jp/news/watch/9050 | title = 古細菌、アルケアから真核生物進化の機能的進化研究 | language = | accessdate = 2018年10月9日}}</ref><ref>{{ cite journal | author = Akıl, C., ''et al.'' | date = 2018 | title = Genomes of Asgard archaea encode profilins that regulate actin | journal = Nature | volume = | issue = | pages = | id = PMID 30283132 | doi = 10.1038/s41586-018-0548-6 }}</ref>。この系統やタウム古細菌からは[[チューブリン]]に近い[[遺伝子]]も報告されているが、実態は良く分かっていない<ref name="Nature2017">{{Cite journal | author = Zaremba-Niedzwiedzka, K., ''et al.'' | date = 2017 | title = Asgard archaea illuminate the origin of eukaryotic cellular complexity | journal = Nature | volume= 541 | issue = 7637 | pages = 353–358 | doi = 10.1038/nature21031 }}</ref>。
== 遺伝子と遺伝子発現 ==
=== DNA ===
1996年に{{snamei|Methanocaldococcus jannaschii}}の全ゲノムが解読されて以来、2009年までに50種以上の古細菌についてゲノムの解析が行われた。ゲノムサイズは1.3 - 6 Mbp(Mbp=100万[[塩基対]])と細菌と比較してもやや小さく、[[メタノテルムス属|{{snamei|Methanothermus fervidus}}]]のゲノムは124万3342bpしかない<ref>{{cite web | author = KEGG: 生命システム情報統合データベース | authorlink = KEGG | date = 20 | url = http://www.genome.jp/kegg-bin/show_organism?org=mfv | title = Methanothermus fervidus | language = 英語/一部日本語 | accessdate = 2013年11月16日}}</ref>。完全独立生物を送るものとしては最小である。さらに{{snamei|Ignicoccus hospitalis}}という古細菌に共生している“{{snamei|Nanoarchaeum equitans}}”に至っては宿主に完全に依存しているとはいえ、49万885bpというきわめて小さなゲノムを持つ<ref name="ref18" />。これまでに解析された古細菌のうち最大のゲノムを持つのは{{snamei|Methanosarcina acetivorans}}(575万1492bp)である<ref>{{ cite journal |author = Galagan JE, Nusbaum C, Roy A, Endrizzi MG, Macdonald P, FitzHugh W, Calvo S, Engels R, Smirnov S, Atnoor D, Brown A, Allen N, Naylor J, Stange-Thomann N, DeArellano K, Johnson R, Linton L, McEwan P, McKernan K, Talamas J, Tirrell A, Ye W, Zimmer A, Barber RD, Cann I, Graham DE, Grahame DA, Guss AM, Hedderich R, Ingram-Smith C, Kuettner HC, Krzycki JA, Leigh JA, Li W, Liu J, Mukhopadhyay B, Reeve JN, Smith K, Springer TA, Umayam LA, White O, White RH, Conway de Macario E, Ferry JG, Jarrell KF, Jing H, Macario AJ, Paulsen I, Pritchett M, Sowers KR, Swanson RV, Zinder SH, Lander E, Metcalf WW, Birren B |date = 2002 |title = The genome of M. acetivorans reveals extensive metabolic and physiological diversity |journal = Genome Res |volume = 12 |issue = 4 |pages = 532&ndash;42 |id = PMID 11932238 }}</ref>{{#tag:ref|全配列の決定までには至っていないものの、海洋性の古細菌の中にさらに大きなゲノム (7Mbp程度) を持つ種が存在する可能性もある。<ref>[http://genomesonline.org/GOLD_CARDS/Gi04648.html ]</ref>|group="注"}}。[[ゲノム]]は好熱菌では1分子のことが多いが、高度好塩菌や一部のメタン菌は副ゲノムや[[プラスミド]]を所持する場合もある。各古細菌のゲノムサイズは[[ゲノム配列が決定された古細菌の一覧]]にリストしている。


== DNAと遺伝子発現 ==
DNAの構造は細菌に類似しており、環状のDNAを持ち、それが凝集して核様態を形成している。ただし、DNAに結合し凝縮させるタンパク質は、一般的に古細菌型[[ヒストン]]である<ref>{{ cite journal | author = Musgrave DR, Sandman KM, Reeve JN | date = 1991 | title = DNA binding by the archaeal histone HMf results in positive supercoiling | journal = Proc Natl Acad Sci U S A | volume = 88 | issue = 23 | pages = 10397&ndash;401 | id = PMID 1660135 }}</ref><ref>{{ cite journal | author = Fahrner RL, Cascio D, Lake JA, Slesarev A | date = 2001 | title = An ancestral nuclear protein assembly: crystal structure of the ''Methanopyrus kandleri'' histone | journal = Protein Sci | volume = 10 | issue = 10 | pages = 2002&ndash;7 | id = PMID 11567091 }}</ref>。DNAがヒストン様タンパクに巻きついた[[ヌクレオソーム]]も観察されているが、真核生物ほど強固ではなく、結合様式も異なる。その他各種DNA結合タンパクが存在する。[[テルモプラズマ綱]]と[[デスルフロコックス目]]、[[スルフォロブス目]]はヒストンを持っておらず、それぞれ細菌のHU様タンパクや<ref>{{ cite journal | author = DeLange RJ, Williams LC, Searcy DG | date = 1981 | title = A histone-like protein (HTa) from ''Thermoplasma acidophilum''. II. Complete amino acid sequence | journal = J Biol Chem | volume = 256 | issue = 2 | pages = 905&ndash;11 | id = PMID 7005226 }}</ref>、独自のDNA結合タンパクを所持する<ref>{{ cite journal | author = Luo X, Schwarz-Linek U, Botting CH, Hensel R, Siebers B, White MF | date = 2007 | title = CC1, a novel crenarchaeal DNA binding protein | journal = J Bacteriol | volume = 189 | issue = 2 | pages = 403&ndash;9 | id = PMID 17085561 }}</ref>。
=== DNA ===
[[1996年]]に[[メタノカルドコックス・ヤンナスキイ|{{snamei|Methanocaldococcus jannaschii}}]]の全ゲノムが解読されて以来、[[2018年]]までに250株以上の古細菌について[[ゲノム]]の解析が行われた。ゲノムサイズは1.2 - 6 M[[塩基対|bp]](Mbp=100万[[塩基対]])と[[細菌]]と比較してもやや小さく、[[メタノテルムス属|{{snamei|Methanothermus fervidus}}]]のゲノムは124万3342bpしかない<ref>{{cite web | author = KEGG: 生命システム情報統合データベース | authorlink = KEGG | date = 20 | url = http://www.genome.jp/kegg-bin/show_organism?org=mfv | title = Methanothermus fervidus | language = 英語/一部日本語 | accessdate = 2013年11月16日}}</ref>。完全独立生物を送るものとしては最小である。さらに{{snamei|Ignicoccus hospitalis}}という古細菌に共生している“[[Candidatus|''Ca.'']] [[ナノアルカエウム・エクウィタンス|Nanoarchaeum equitans]]”に至っては宿主に完全に依存しているとはいえ、49万885bpというきわめて小さなゲノムを持つ<ref name="ref18">{{ cite journal | author = Waters, E., ''et al.'' | date = 2003 | title = The genome of ''Nanoarchaeum equitans'': insights into early archaeal evolution and derived parasitism | journal = Proc. Natl. Acad. Sci. U S A | volume = 100 | issue = 22 | pages = 12984&ndash;8 | id = PMID 14566062 }}</ref>。これまでに解析された古細菌のうち、最大のゲノムを持つのは{{snamei|Methanosarcina acetivorans}}(575万1492bp)である<ref>{{ cite journal |author = Galagan JE, ''et al.'' |date = 2002 |title = The genome of ''M. acetivorans'' reveals extensive metabolic and physiological diversity |journal = Genome Res |volume = 12 |issue = 4 |pages = 532&ndash;42 |id = PMID 11932238 }}</ref>{{#tag:ref|これを超えるものとして、未培養系統ではあるが、LC_2([[ヘイムダル古細菌]])の推定ゲノムサイズが6.35Mbp<ref name="Nature2017" />。|group="注"}}。[[ゲノム]]は好熱菌では1分子のことが多いが、高度好塩菌や一部のメタン生成菌は副ゲノムや[[プラスミド]]を所持する例も多い。ゲノムサイズは小さいものの、古細菌のゲノムは[[細菌]]や[[真核生物]]よりも[[コルモゴロフ複雑性|複雑性]]が高いという<ref>{{cite journal | authors = Pratas, D., Pinho, A. | title = On the Approximation of the Kolmogorov Complexity for DNA Sequences | journal = Pattern Recognition and Image Analysis | volume = 10255 | pages = 259–266 | date = 2017 | doi = 10.1007/978-3-319-58838-4_29 }}</ref>。


DNAの構造は細菌に類似しており、環状のDNAを持ち、それが凝集して核様態を形成している。DNA結合タンパクは細菌とは異なり、一般的に古細菌型[[ヒストン]]である<ref>{{ cite journal | author = Musgrave, D. R., ''et al.'' | date = 1991 | title = DNA binding by the archaeal histone HMf results in positive supercoiling | journal = Proc Natl Acad Sci U S A | volume = 88 | issue = 23 | pages = 10397&ndash;401 | id = PMID 1660135 }}</ref><ref>{{ cite journal | author = Fahrner, R. L., ''et al.'' | date = 2001 | title = An ancestral nuclear protein assembly: crystal structure of the ''Methanopyrus kandleri'' histone | journal = Protein Sci. | volume = 10 | issue = 10 | pages = 2002&ndash;7 | id = PMID 11567091 }}</ref>。''Methanothermus fervidus''のヒストンは詳細に観察されていて、真核生物のH3-H4四量体に対応する構造をとる。この四量体におおよそ60bpのDNAが巻き付き、真核生物の[[ヌクレオソーム]]に類似する構造を形成することが報告されている<ref name="PNAS1997">{{cite journal | author = Pereira, S.L., ''et al. | title = Archaeal nucleosomes | journal = Proc. Natl. Acad. Sci. USA. | volume = 94 | pages = 12633-12637 | year = 1997 | pmid = 9356501 }}</ref><ref name="Science2017">{{cite journal | author = Mattiroli, F., ''et al.'' | title = Structure of histone-based chromatin in Archaea | journal = Science | volume = 357 | pages = 609-612 | year = 2017 | pmid = 28798133 | doi = 10.1126/science.aaj1849. }}</ref>{{#tag:ref|真核生物ではヒストンH2A、H2Bが追加され、八量体になっている。1周期のDNAはおおよそ147bp<ref name="Science2017" />。|group="注"}}。ただし古細菌型ヒストンは、三次構造レベルでは真核生物ヒストンによく似ているものの、翻訳後修飾を受けるという報告は無く、N末側テールに相当する領域も欠く{{#tag:ref|[[ヘイムダル古細菌]]からN末テイルを持つヒストン相同配列が発見されているが、まだ研究されておらず、翻訳後修飾を受ける証拠はない<ref name="Science2017" />。|group="注"}}。
[[DNA複製]]機構の全容はまだ解明されていないが、多くの古細菌は[[アフィジコリン|アフィディコリン]]により増殖阻害を受け、真核生物と同じくBファミリー[[DNAポリメラーゼ]]を[[DNA複製]]に用いる(ユリアーキオータはDファミリーDNAポリメラーゼも使用する)。この他にも真核生物の複製系酵素のホモログが多数見つかっている<ref>{{ cite journal | author = Barry ER, Bell SD | date = 2006 | title = DNA replication in the archaea | journal = Microbiol Mol Biol Rev | volume = 70 | issue = 4 | pages = 876&ndash;87 | id = PMID 17158702}}</ref><ref>{{ cite journal | author = Robinson NP, Bell SD | date = 2005 | title = Origins of DNA replication in the three domains of life | journal = FEBS J | volume = 272 | issue = 15 | pages = 3757&ndash;66 | id = PMID 16045748 }}</ref>。[[岡崎フラグメント]]の長さは真核生物と同様短いが<ref>{{ cite journal | author = Matsunaga F, Norais C, Forterre P, Myllykallio H | date = 2003 | title = Identification of short 'eukaryotic' Okazaki fragments synthesized from a prokaryotic replication origin | journal = EMBO Rep | volume = 4 | issue = 2 | pages = 154&ndash;8 | id = PMID 12612604 }}</ref>、複製速度は細菌同様速い。DNAそのものは細菌と同じく環状2本鎖にもかかわらず、複製開始地点が複数存在する場合もある<ref>{{ cite journal | author = Robinson NP, Dionne I, Lundgren M, Marsh VL, Bernander R, Bell SD | date = 2004 | title = Identification of two origins of replication in the single chromosome of the archaeon Sulfolobus solfataricus | journal = CELL | volume = 161 | issue = 1 | pages = 25&ndash;38 | id = PMID 14718164 }}</ref>。一般に、古細菌のDNA複製機構は、真核生物のそれの祖先型とみられている<ref name=ref19>{{cite journal |author=Bernander R |title=Archaea and the cell cycle |journal=Mol. Microbiol. |volume=29 |issue=4 |pages=955&ndash;61 |year=1998 |pmid=9767564 |doi=10.1046/j.1365-2958.1998.00956.x}}</ref>。<ref>{{ cite journal | 和書 | author = 石野園子, 石野良純 | date = 2009 | title = アーキアのDNAトランスアクション--その共通性と多様性 | journal = 蛋白質核酸酵素 | volume = 54 | issue = 2 | pages = 141&ndash;147}}</ref>

その他各種DNA結合タンパクが存在する。[[テルモプラズマ綱]]と[[デスルフロコックス目]]、[[スルフォロブス目]]はヒストンを持っておらず、それぞれ細菌のHU様タンパクや<ref>{{ cite journal | author = DeLange, R. J., ''et al.'' | date = 1981 | title = A histone-like protein (HTa) from ''Thermoplasma acidophilum''. II. Complete amino acid sequence | journal = J. Biol. Chem. | volume = 256 | issue = 2 | pages = 905&ndash;11 | id = PMID 7005226 }}</ref>、独自のAlbaタンパクを使用する<ref>{{ cite journal | author = Luo, X., ''et al.'' | date = 2007 | title = CC1, a novel crenarchaeal DNA binding protein | journal = J. Bacteriol. | volume = 189 | issue = 2 | pages = 403&ndash;9 | id = PMID 17085561 }}</ref>。

[[DNA複製]]は、細菌と真核生物で使用している酵素群に全く相同性が無く、両者の起源は異なると推定されている。一方、古細菌は真核生物のDNA複製に近いようで、真核生物の複製系酵素のホモログが多数見つかっている<ref>{{ cite journal | author = Barry, E. R., Bell, S. D. | date = 2006 | title = DNA replication in the archaea | journal = Microbiol Mol Biol Rev | volume = 70 | issue = 4 | pages = 876&ndash;87 | id = PMID 17158702}}</ref><ref>{{ cite journal | author = Robinson, N. P., Bell, S. D. | date = 2005 | title = Origins of DNA replication in the three domains of life | journal = FEBS J | volume = 272 | issue = 15 | pages = 3757&ndash;66 | id = PMID 16045748 }}</ref>。

実際に複製を担うDNAポリメラーゼは、真核生物が使用しているBファミリー[[DNAポリメラーゼ]](以下PolB)と、古細菌独自のDファミリーDNAポリメラーゼ(以下PolD)である<ref name="石野跡見79-81" />。このどちらか、または両方が複製に使用されている{{#tag:ref|高度好塩菌''Halobacterium salinarum'' NRC-1ではアフィジコリンによって増殖阻害を受けること(アフィジコリンはBファミリーDNAポリメラーゼの活性を阻害する)、PolB、PolDのどちらの破壊株も得られないことからともに複製に必須と考えられた<ref name="石野跡見79-81">[[#石野, 跡見2017|石野, 跡見2017]]、79-81頁。</ref>。''Pyrococcus''や''Methanococcus''は、PolBの破壊株は得られるが、PolDは破壊出来ない<ref name="石野跡見79-81" />。一方、[[クレン古細菌]]はPolDを欠き、複数のPolBを保有する<ref name="石野跡見79-81" />。|group="注"}}。[[岡崎フラグメント]]の長さは真核生物と同様短いが<ref>{{ cite journal | author = Matsunaga, F., ''et al.'' | date = 2003 | title = Identification of short 'eukaryotic' Okazaki fragments synthesized from a prokaryotic replication origin | journal = EMBO Rep | volume = 4 | issue = 2 | pages = 154&ndash;8 | id = PMID 12612604 }}</ref>、複製速度は細菌同様速い。DNAそのものは細菌と同じく環状2本鎖にもかかわらず、複製開始地点が複数存在する場合もある<ref>{{ cite journal | author = Robinson, N.P., ''et al.'' | date = 2004 | title = Identification of two origins of replication in the single chromosome of the archaeon ''Sulfolobus solfataricus'' | journal = CELL | volume = 161 | issue = 1 | pages = 25&ndash;38 | id = PMID 14718164 }}</ref>。一般に、古細菌のDNA複製機構は、真核生物のそれの祖先型とみられている<ref name=ref19>{{cite journal | author = Bernander, R. | title = Archaea and the cell cycle | journal = Mol. Microbiol. | volume = 29 | issue = 4 | pages = 955&ndash;61 | year = 1998 | pmid = 9767564 | doi = 10.1046/j.1365-2958.1998.00956.x}}</ref>。<ref>{{cite journal | 和書 | author = 石野園子, 石野良純 | title = アーキアのDNAトランスアクション--その共通性と多様性 | journal = 蛋白質核酸酵素 | volume = 54 | issue= 2 | pages = 141-147 | year = 2009 | pmid = }}</ref>

また、古細菌に感染する[[ウイルス]]も多数発見されている。多くは二本鎖DNAウイルスで、形態はかなり多様性に富んでいる。海洋環境でのウイルスによる感染の影響は細菌よりも古細菌の方が大きく、ウイルスによって死滅させられた古細菌から、炭素換算で年間3~5億トンもの[[バイオマス]]が供給されていると見積もられている<ref>{{ cite journal | author = Danovaro, R., ''et al.'' | date = 2016 | title = Virus-mediated archaeal hecatomb in the deep seafloor | journal = Sci. Adv. | volume = 2 | issue = | pages = | id = | doi = 10.1126/sciadv.1600492 }}</ref>。ウイルスに対しての獲得免疫システムとして[[CRISPR]]/Casシステムがあり、古細菌の84%にCRISPRが存在すると推定される<ref name="石野跡見170">[[#石野, 跡見2017|石野, 跡見2017]]、170頁。</ref>{{#tag:ref|2014年8月現在。全ゲノムが解読されている古細菌150種中。一方、細菌の45%にも存在する。<ref name="石野跡見170" />|group="注"}}。


=== タンパク質の合成 ===
=== タンパク質の合成 ===
DNAからタンパク質が合成される際は、まず[[RNAポリメラーゼ]]がDNA配列に従い[[伝令RNA|mRNA]]を合成([[転写 (生物学)|転写]])し、さらにリボソームでmRNA配列に従ってタンパク質に[[翻訳 (生物学)|翻訳]]される。この過程はあらゆる生物において共通しているが、真核生物、細菌で微妙に異なる。全体としてみた場合、古細菌のタンパク質翻訳機構は細菌と類似する点もあるが、分子構造はやや真核生物と類似している<ref>細菌の生物学』pp. 140-141, 153-54</ref>。
[[デオキシリボ核酸|DNA]]から[[タンパク質]]が合成される際は、まず[[RNAポリメラーゼ]]がDNA配列に従い[[伝令RNA|mRNA]]を合成([[転写 (生物学)|転写]])し、さらに[[リボソーム]][[伝令RNA|mRNA配列]]に従ってタンパク質に[[翻訳 (生物学)|翻訳]]される。この過程はあらゆる生物において共通しているが、真核生物、細菌でタンパク質合成機構が微妙に異なる。全体としてみた場合、古細菌のタンパク質合成機構は細菌と類似する点もあるが、分子構造は真核生物([[真核生物の翻訳]]参照)と類似している<ref>[[#賀1998|古賀1998]]、140-141, 153-154頁。</ref>。


具体的にはmRNAはスプライシングを基本的に受けないという点で細菌に、翻訳開始アミノ酸がメチオニンであること、リボソームがストレプトマイシンやキロマイシンによって阻害を受けず、ジフテリア毒素によって阻害を受けることなどの点で真核生物に似ている<ref group="注">リボソームをターゲットとする抗生物質に対する感受性は各古細菌間によって多様性が大きい。ジフテリア毒素(真核生物)やアニソマイシン(真核生物)はほぼ感受性、キロマイシン(細菌)やストレプトマイシン(細菌)にはほぼ非感受性であるが、クロラムフェニコール(細菌)やパルボマイシン(細菌)、シクロヘキシミド(真核生物)に対する応答は種によってかなり差がある。真核生物、細菌両方のEF-2に作用するフシジン酸に対する応答も一定しない。なお、ジフテリア毒素は、ほぼ全ての古細菌が感受性を示すため、かつて古細菌と細菌を区別する手っ取り早い手段の一つとして使われていた。</ref>。転写機構は真核生物のRNAポリメラーゼIIによる転写機構とく似ている{{#tag:ref|RNAポリメラーゼ自体914のサブユニットより構成され、特にクレンアーキオータの物が真核生物のRNAポリメラーゼIIとよく似ている<ref>『古細菌の生物学』p. 126</ref><!--<ref>{{cite journal | author = Korkhin Y, Unligil UM, Littlefield O, Nelson PJ, Stuart DI, Sigler PB, Bell SD, Abrescia NG | year = 2009 | title = Evolution of Complex RNA Polymerases: The Complete Archaeal RNA Polymerase Structure | journal = PLoS Biol | volume = 7 | issue = 5 | pages = e1000102 | id = PMID 19419240 | doi = 10.1371/journal.pbio.1000102}}</ref>-->。転写機構もRNAポリメラーゼIIによる転写機構と良く似ており<ref name="ref19"/>、いくつかのサブユニットが見つかっていないものの、[[転写開始前複合体]]により転写が開始されると考えられている。|group="注"}}。リボソームは3つのRNAと70種弱のタンパク質より成り、RNAは細菌に、タンパク質は真核生物にやや近い{{#tag:ref|リボソームの大きさは細菌と同様70S(50S+30S)。rRNAは16S、5S、23Sの3つで、真核生物の5.8Sに相当する配列は23Sに組み込まれている。また、一般に16S rRNAには[[シャイン・ダルガノ配列]]が認められる。タンパク質はユリアーキオータで58〜63、クレンアーキオータで66〜68の構成。その内67種については真核生物に対応するrタンパクが存在する(細菌と共通するのは34しかない)<ref name="ref16">{{cite journal | author = Lecompte, O., Ripp, R., Thierry, J.C., Moras, D., and Poch, O. | year = 2002 | title = Comparative analysis of ribosomal proteins in complete genomes: An example of reductive evolution at the domain scale | journal = Nucleic Acids Research | volume = 30 | pages = 5382–5390 | id = PMID 12490706 }}</ref>。|group="注"}}。
転写機構は真核生物の[[RNAポリメラーゼ]]IIによる転写機構とく似ていて、立体構造も酷似する{{#tag:ref|RNAポリメラーゼは1113のサブユニットより構成され、真核生物のRNAポリメラーゼII(古細菌と共通する12のサブユニットより構成)とよく似ている細菌ではサブユニット数は5で、いくつかサブユニットが省かれている。<ref name="石野跡見100-101">[[#石野, 跡見2017|石野, 跡見2017]]、100-101頁。</ref><!--<ref>{{cite journal | author = Korkhin, Y., ''et al.'' | year = 2009 | title = Evolution of Complex RNA Polymerases: The Complete Archaeal RNA Polymerase Structure | journal = PLoS Biol. | volume = 7 | issue = 5 | pages = e1000102 | id = PMID 19419240 | doi = 10.1371/journal.pbio.1000102}}</ref>-->。転写機構もRNAポリメラーゼIIと良く似ており<ref name="ref19"/>、[[転写開始前複合体]](真核生物よりもサブユニット数が少ない)により転写が開始されると考えられている。|group="注"}}。[[リボソーム]]は3つのRNAと70種弱のタンパク質より成り、RNAはやや細菌に、タンパク質は真核生物に近い{{#tag:ref|リボソームの大きさは細菌と同様70S(50S+30S)。rRNAは16S、5S、23Sの3つで、真核生物の5.8Sに相当する配列は23Sに組み込まれている。また、一般に16S rRNAには[[シャイン・ダルガノ配列]]が認められる。タンパク質はユ古細菌で58〜63、クレン古細菌で66〜68の構成。その内67種については真核生物に対応するrタンパクが存在する(細菌と共通するのは33~34しかない)<ref name="NAR2002">{{cite journal | author = Lecompte, O., ''et al.'' | year = 2002 | title = Comparative analysis of ribosomal proteins in complete genomes: An example of reductive evolution at the domain scale | journal = Nucleic Acids Research | volume = 30 | pages = 5382–5390 | id = PMID 12490706 }}</ref>。|group="注"}}。翻訳開始アミノ酸は[[メチオニン]]で、リボソームが[[ストレプトマイシン]]や[[キロマイシン]]によって阻害を受けず、[[ジフテリア毒素]]によって阻害を受けることなどの点で真核生物に似ている{{#tag:ref|ジフテリア毒素(真核生物)や[[アニソマイシン]](真核生物)はほぼ感受性、キロマイシン(細菌)やストレプトマイシン(細菌)にはほぼ非感受性であるが、例外として[[クロラムフェニコール]](細菌)は効果がある。クロラムフェニコールは''Methanosphaera stadtmanae''には良く効くが、''Methanobrevibacter''や''Methanomassiliicoccus''は中程度の耐性を持ち、''Sulfolobus''や''Halobacterium''にはあまり効かない<ref>{{cite journal | author = Dridi, B., ''et al.'' | year = 2011 | title = The antimicrobial resistance pattern of cultured human methanogens reflects the unique phylogenetic position of archaea | journal = J. Antimicrob. Chemother. | volume = 66 | issue = 9 | pages = 2038-44 | id = PMID 21680581 | doi = 10.1093/jac/dkr251 }}</ref>。リボソームをターゲットとする[[抗生物質]]に対する感受性は各古細菌種によって多様性が大きい。なお、ジフテリア毒素は、ほぼ全ての古細菌が感受性を示すため、かつて古細菌と細菌を区別する手っ取り早い手段の一つとして使われていた。|group="注"}}。
: ''詳細は[[転写 (生物学)]]、[[翻訳 (生物学)]]を参照''
: ''詳細は[[転写 (生物学)]]、[[翻訳 (生物学)]]を参照''


== 中央代謝 ==
== 中央代謝 ==
古細菌の[[クエン酸回路|TCA回路]]は他の生物とほぼ同じである。好気性の古細菌や一部の嫌気性クレンアーキオータは完全なTCA回路を備えており<ref name="ref15" />、反応は通常の好気性細菌や真核生物と同様に進行する。残りの嫌気性菌はTCA回路を部分的にしか備えておらず、[[炭酸固定]]などに利用している。<ref>細菌の生物学』pp. 176-180</ref>
古細菌の[[クエン酸回路|TCA回路]]は他の生物とほぼ同じである。好気性の古細菌や一部の嫌気性クレン古細菌は完全なTCA回路を備えており<ref name="ref15" />、反応は通常の好気性細菌や真核生物と同様に進行する。残りの嫌気性菌はTCA回路を部分的にしか備えておらず、[[炭酸固定]]などに利用している。<ref>[[#賀1998|古賀1998]]、176-180頁。</ref>

[[解糖系]]は各古細菌種によってED経路(エントナー-ドウドロフ経路)、EM経路(エムデン-マイヤーホフ経路)何れかが存在する。こちらは他生物といくつか相違が見られる。いくつかの[[メタン菌]]や[[テルモコックス綱]]からはEM経路に関係する[[酵素]]が見つかっているが、ADP依存性グルコキナーゼやADP依存性ホスホフルクトキナーゼ、ホスホエノールピルビン酸シンターゼなど特異な酵素が関与するため、変形EM経路と呼ばれている<ref>{{ cite journal | 和書 | author = 大島敏久, 櫻庭春彦 | date = 2009 | title = 超好熱性アーキアのユニークな糖代謝系 | journal = 蛋白質核酸酵素 | volume = 54 | issue = 2 | pages = 134&ndash;140}}</ref><ref name="ref15">{{ cite journal | 和書 | author = 跡見晴幸, 福居俊昭, 金井保, 今中忠行 | date = 2009 | title = アーキアのゲノムからみえるもの | journal = 蛋白質核酸酵素 | volume = 54 | issue = 2 | pages = 120&ndash;126}}</ref>
{{#tag:ref|[[テルモコックス綱]]古細菌では、細菌や真核生物が糖のリン酸化にATPを消費するところ、ADPを消費する形態になっている。また、グリセルアルデヒド3-リン酸から3-ホスホグリセリン酸への経路が、フェレドキシンオキシドレダクターゼ、または非リン酸化グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼでバイパスされている。この反応では還元型フェレドキシンないし、NADPHが得られるが、ホスホグリセリン酸キナーゼによるATP合成が起こらないため、後者では通常型EM経路よりも[[アデノシン三リン酸|ATP]]の生成が1分子少ない。最終段階のホスホエノールピルビン酸からピルビン酸への変換の際、通常型EM経路と異なりホスホエノールピルビン酸シンターゼが働き、[[アデニル酸|AMP]]と[[ピロリン酸]]からATPが生成される。これらの形態は、熱に弱い反応中間体を経ないことで高温に適応していると考えられる。<ref>[[#石野, 跡見2017|石野, 跡見2017]]、132-133頁。</ref>|group="注"}}。

一方、好気性の古細菌の多くは、好気性の細菌の一部に見られるエントナー-ドウドロフ経路(ED経路)に似る経路を使用する<ref name="ref15" />。高度好塩菌では、一部の経路がリン酸化せずに進行するため、部分リン酸化ED経路と言う。テルモプラズマ目の非リン酸化経路では、反応の末端である2-ホスホグリセリン酸に至るまでリン酸化を伴わず、更にグリセルアルデヒドからグリセリン酸までの反応が、グリセルアルデヒドデヒドロゲナーゼによってバイパスされるため、系全体の収支としてATPは生成しない。<ref>[[#石野, 跡見2017|石野, 跡見2017]]、134-135頁。</ref><ref>[[#古賀1998|古賀1998]]、178頁。</ref>

[[ペントースリン酸経路]]はあまり見られず、リブロースモノリン酸経路を用いる種が多い<ref>[[#石野, 跡見2017|石野, 跡見2017]]、137頁。</ref>。[[炭素固定]]を行う種では、炭素固定経路は各古細菌種によって様々なものが使用されている。古細菌特有の経路として、''[[イグニコックス属|Ignicoccus]]''などがジカルボン酸/4-ヒドロキシ酪回路酸を用いている<ref>{{ cite journal | author = Huber, H., ''et al.'' | date = 2008 | title = A dicarboxylate/4-hydroxybutyrate autotrophic carbon assimilation cycle in the hyperthermophilic Archaeum Ignicoccus hospitalis | journal = Proc Natl Acad Sci U S A | volume = 105 | issue = 22 | pages = 7851-6 | doi = 10.1073/pnas.0801043105 }}</ref>。

== 繁殖・細胞分裂 ==
古細菌は基本的に細菌と同様、単純な二分裂によって増殖(繁殖)する。出芽により増殖する[[テルモプロテウス目]]など一部を除くと、分裂後も殆ど同じ[[クローン]]が2体できるだけである。[[胞子]]や[[芽胞]]の形成も確認されていない。最適条件での増殖速度は{{snamei|Methanocaldococcus}}や{{snamei|Pyrococcus}}で約30分、{{snamei|Methanosaeta}}など遅いものだと数日を要する。


分裂に伴う細胞膜の切断やDNAの分配は細菌に似ていると言われている。{{snamei|Methanocaldococcus jannaschii}}を始めとしたユーリ古細菌のゲノム上には[[FtsZ]]、MinDなどが存在し、細菌と同様、Zリングの収縮で細胞を分裂させると考えられている。
[[解糖系]]は各古細菌種によってED経路(エントナー-ドウドロフ経路)、EM経路(エムデン-マイヤーホフ経路)何れかが存在する。こちらは他生物といくつか相違が見られる。いくつかの[[メタン菌]]や[[テルモコックス綱]]からはEM経路に関係する[[酵素]]が見つかっているが、ADP依存性グルコキナーゼやADP依存性ホスホフルクトキナーゼ、ホスホエノールピルビン酸シンターゼなど特異な酵素が関与するため、変形EM経路と呼ばれている<ref>{{ cite journal | 和書 | author = 大島敏久, 櫻庭春彦 | date = 2009 | title = 超好熱性アーキアのユニークな糖代謝系 | journal = 蛋白質核酸酵素 | volume = 54 | issue = 2 | pages = 134&ndash;140}}</ref><ref name="ref15">{{ cite journal | 和書 | author = 跡見晴幸, 福居俊昭, 金井保, 今中忠行 | date = 2009 | title = アーキアのゲノムからみえるもの | journal = 蛋白質核酸酵素 | volume = 54 | issue = 2 | pages = 120&ndash;126}}</ref>。一方、クレンアーキオータの多くは、好気性の細菌の一部に見られるエントナー-ドウドロフ経路(ED経路)に似る経路を使用する<ref name="ref15" />。こちらはグルコースのリン酸化を伴わないため非リン酸化経路、変形ED経路と言う。高度好塩菌もED経路を持つが、一部の経路がリン酸化せずに進行するため、部分リン酸化ED経路と呼ばれている。<ref>『古細菌の生物学』p. 178</ref>


一方でクレン古細菌からはFtsZが見つからず、分裂機構は長い間全く不明であった。[[2008年]]に[[真核生物]]の[[エンドソーム]]選別輸送複合体(ESCRT複合体)に相当するタンパク質が細胞分裂に関与するという報告がなされている<ref>{{cite journal | author = Samson, R. Y., ''et al.'' | title = A role for the ESCRT system in cell division in archaea | journal = Science | year = 2008 | pages = 1710-3 | volume = 322 | issue = 5908 | id = PMID 19008417 | doi = 10.1126/science.1165322 }}</ref><ref>{{cite journal | author = Lindås, A.C., ''et al.'' | title = A unique cell division machinery in the Archaea | journal = Proc. Natl. Acad. Sci. U S A | year = 2008 | pages = 18942-6 | volume = 105 | issue = 45 | doi = 10.1073/pnas.0809467105 | id = PMID 18987308 }}</ref><ref>{{cite journal | author = Cann, I. K. | title = Cell sorting protein homologs reveal an unusual diversity in archaeal cell division | journal = Proc Natl Acad Sci U S A | year = 2008 | pages = 18653-4 | volume = 105 | issue = 45 | doi = 10.1073/pnas.0810505106 | id = PMID 19033202 }}</ref><ref>{{cite journal | 和書 | author = 帯田孝之 | title = 古細菌にも存在するエンドソーム選別輸送複合体(ESCRT) | journal = 化学と生物 | year = 2009 | pages = 742-743 | volume = 47 | issue = 11 | id = | doi = 10.1271/kagakutoseibutsu.47.742 }}</ref>。[[タウム古細菌]]も同様の機構を持ち、[[アスガルド古細菌]]ではさらに多くのESCRT複合体関連遺伝子が見つかっている<ref name="Nature2017" />。一方で、[[テルモプロテウス目]]のゲノムからは、FtsZもESCRT複合体も見つからず、[[アクチン]]に類似するタンパク質を用いた細胞分裂機構を持つと予想されている<ref>[[#石野, 跡見2017|石野, 跡見2017]]、87頁。</ref>。
== 増殖(細胞分裂) ==
古細菌に[[有性生殖]]は知られておらず、細菌と同様、単純な二分裂によって増殖(繁殖)する。[[胞子]]や[[芽胞]]の形成も確認されていない。出芽により増殖する[[テルモプロテウス目]]など一部を除くと、分裂後も殆ど同じ[[クローン]]が2体できるだけである。最適条件での増殖速度は{{snamei|Methanocaldococcus}}や{{snamei|Pyrococcus}}で約30分、{{snamei|Methanosaeta}}など遅いものだと数日を要する。


有性生殖は存在しないが、特殊な例として、''Haloferax volcanii''における細胞間架橋構造の形成がある<ref name = "Science1989">{{cite journal | author = Rosenshine, I., ''et al.'' | title = The mechanism of DNA transfer in the mating system of an archaebacterium | journal = Science | year = 1989 | pages = 1387-9 | volume = 245 | issue = 4924 | doi = | id = PMID 2818746 }}</ref>。細菌の接合は[[プラスミド]]を移行させる現象であるが、この例ではプラスミドや細胞質は移行せず、ゲノムDNAのみが移行する点で異なる<ref name = "Science1989" />。[[スルフォロブス目]]の例では、UV照射や薬剤暴露によるDNA損傷によって細胞凝集が誘導され、染色体の組み換えが起こる<ref>{{cite journal | author = Fröls, S., ''et al.'' | title = UV-inducible cellular aggregation of the hyperthermophilic archaeon Sulfolobus solfataricus is mediated by pili formation | journal = Mol. Microbiol. | year = 2008 | pages = 938-52 | volume = 70 | issue = 4 | id = PMID 18990182 | doi = 10.1111/j.1365-2958.2008.06459.x }}</ref><ref>{{cite journal | author = Fröls, S., ''et al.'' | title = Reactions to UV damage in the model archaeon Sulfolobus solfataricus | journal = Biochem. Soc. Trans. | year = 2011 | pages = 36-41 | volume = 37 | issue = | doi = 10.1042/BST0370036 | id = PMID 19143598 }}</ref>。それ以外のストレスによっては誘導されず、プラスミドも関与しないなどといった点で細菌の接合とは異なる。また、繊毛を失った株は凝集できず{{#tag:ref|片方が繊毛を持っていれば組み換えは起こるようである。両方が繊毛を失った場合は組み換えが起こらない|group="注"}}、UV照射に対する生存性が低下する<ref name="MM2011">{{cite journal | author = Ajon, M., ''et al.'' | title = UV-inducible DNA exchange in hyperthermophilic archaea mediated by type IV pili | journal = Mol. Microbiol. | year = 2011 | pages = 807-17 | volume = 82 | issue = 4 | doi = 10.1111/j.1365-2958.2011.07861.x | id = PMID 21999488 }}</ref>。細胞融合性を持つ''Ferroplasma acidarmanus''でも激しいゲノム組み換えが見られる<ref name="Geneticus2007">{{cite journal | author = Eppley, J.M., ''et al.'' | title = Genetic exchange across a species boundary in the archaeal genus ferroplasma | journal = Genetics | year = 2007 | pages = 407-16 | volume = 177 | issue = 1 | doi = 10.1534/genetics.107.072892 | id = PMID 17603112 }}</ref>。いずれも組み換えはプラスミドでは無くゲノムDNAに制御されている。
分裂に伴う細胞膜の切断やDNAの分配は細菌に似ていると言われている。{{snamei|Methanocaldococcus jannaschii}}を始めとしたユリアーキオータのゲノム上には[[FtsZ]]、MinDなどが存在し、細菌と同様、Zリングの収縮で細胞を分裂させると考えられている。


''Sulfolobus''ではゲノムの交換は種特異的であり、''Ferroplasma acidarmanus''も進化距離の違いにより組み換え率が急速に低下する{{#tag:ref|''Ferroplasma acidarmanus''と''Ferroplasma'' type II(16S rRNA配列99.2%)の間にも組み換えは起こるが、''Ferroplasma acidarmanus''同士よりもはるかに少ない組み換えしか見られない|group="注"}}<ref name="MM2011" /><ref name="Geneticus2007" />。これは古細菌における種の概念を示している可能性がある<ref name="MM2011" /><ref name="Geneticus2007" />。
一方でクレンアーキオータからはFtsZが見つからず、分裂機構は長い間全く不明であった。2008年に真核生物の[[エンドソーム]]選別輸送複合体(ESCRT複合体)に相当するタンパク質が細胞分裂に関与する(Cdv細胞分裂機構)という報告がなされている<ref>{{cite journal | author = Samson, R. Y., Obita, T., Freund, S. M., Williams, R. L., Bell, S. D. | title = A role for the ESCRT system in cell division in archaea | journal = Science | year = 2008 | pages = 1710-3 | volume = 322 | issue = 5908 | id = PMID 19008417 | doi = 10.1126/science.1165322 }}</ref><ref>{{cite journal | author = Lindås, A.C., Karlsson, E.A., Lindgren, M.T., Ettema, T.J., Bernander, R. | title = A unique cell division machinery in the Archaea | journal = Proc Natl Acad Sci U S A | year = 2008 | pages = 18942-6 | volume = 105 | issue = 45 | doi = 10.1073/pnas.0809467105 | id = PMID 18987308 }}</ref><ref>{{cite journal | author = Cann, I.K. | title = Cell sorting protein homologs reveal an unusual diversity in archaeal cell division | journal = Proc Natl Acad Sci U S A | year = 2008 | pages = 18653-4 | volume = 105 | issue = 45 | doi = 10.1073/pnas.0810505106 | id = PMID 19033202 }}</ref>。タウムアーキオータも同様の機構を使用するとみられるが、FtsZも保有している。


== 他生物との違いまとめ ==
== 他生物との違いまとめ ==
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![[細菌]]
![[細菌]]
!'''古細菌'''
!'''古細菌'''
![[真核生物]]<ref group="2">ここでは、真核生物の細胞小器官のうち、細菌に由来することがほぼ確実であるミトコンドリアや葉緑体、及びそこで働く機構やタンパク質、tRNA、リボソームなどは除く。これらは細菌の特徴を一部残している。</ref>
![[真核生物]]<ref group="2">ここでは、真核生物の細胞小器官のうち、細菌に由来することがほぼ確実である[[ミトコンドリア]][[葉緑体]]、及びそこで働く機構や[[タンパク質]][[転移RNA|tRNA]][[リボソーム]]などは除く。これらは細菌の特徴を一部残している。</ref>
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!rowspan="9"|細<br />胞<br />構<br />造
!rowspan="9"|細<br />胞<br />構<br />造
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![[細胞]]の移動
![[細胞]]の移動
|[[鞭毛]]([[フラジェリン]])、滑走<ref group="2">線毛や匍匐、アクチンロケットなどによって移動することを言う。</ref>
|[[鞭毛#細菌鞭毛|細菌型鞭毛]]、滑走<ref group="2">線毛や匍匐、アクチンロケットなどによって移動することを言う。</ref>
|鞭毛<ref group="2">細菌の鞭毛とは構造が異なるが、鞭毛を回転させ推進するという点では同じである。</ref>
|[[鞭毛#古細菌鞭毛|古細菌型鞭毛]]<ref group="2">鞭毛を回転させ推進するという点では細菌と同じである。ただし細菌の鞭毛とは構造が全く異なる。[[#鞭毛]]参照</ref>
|鞭毛([[チューブリン]])、形状変化
|鞭毛([[チューブリン]])、形状変化
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!組織化
!組織化
|[[単細胞生物|単細胞]]、稀に[[群体]]<ref group="2">粘液細菌や一部の藍藻、放線菌の中には、相当高度な群体を形成するものがある。</ref>
|[[単細胞生物|単細胞]]、稀に[[群体]]<ref group="2">粘液細菌や一部の[[藍藻]][[放線菌]]の中には、相当高度な群体を形成するものがある。</ref>
|('''細菌と同様''')<ref group="2">稀に融合体(多核巨大細胞)を形成する種が存在する。群体についても細菌と同様広く見られる。</ref>
|('''細菌と同様''')<ref group="2">稀に融合体(多核巨大細胞)を形成する種が存在する。群体についても細菌と同様広く見られる。</ref>
|単細胞、群体、[[多核体]]、[[多細胞生物|多細胞]]
|単細胞、群体、[[多核体]]、[[多細胞生物|多細胞]]
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![[細胞分裂]]
![[細胞分裂]]
|Zリング
|Zリング
|ESCRT複合体<ref group="2">[[プロテオ古細菌界|プロテオ古細菌]]([[クレン古細菌]]、[[タウム古細菌]]、[[アスガルド古細菌]]など)</ref>、Zリング<ref group="2">[[ユーリ古細菌]]など</ref>、出芽<ref group="2">[[テルモプロテウス目]]のみ</ref>
|Cdv細胞分裂機構、Zリング<ref group="2">ユリアーキオータのみ</ref>
|アクチンミオシン収縮環
|アクチンミオシン収縮環
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![[細胞小器官]]
![[細胞小器官]]
|無し<ref group="2">例外は[[チラコイド]]、[[メソソーム]]、稀にだがDNAを囲む膜を持つもの ({{snamei|Planctomyces}}) もいる。</ref>
|無し<ref group="2">例外は[[チラコイド]]などがある。稀にだがDNAを囲む膜を持つもの ({{snamei|Planctomyces}}) もいる。</ref>
|('''細菌と同様''')
|('''細菌と同様''')
|[[細胞核]]、[[ミトコンドリア]]など多数
|[[細胞核]]、[[ミトコンドリア]]など多数
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![[細胞質]]
![[細胞質]]
|[[細胞骨格]]は限定的<ref group="2">[[MreB]]など今日では多数の細胞骨格が見つかっている。ただし真核生物ほど多様な機能は持たない。[[原核生物の細胞骨格]]参照。</ref>
|[[細胞骨格]]は限定的<ref group="2">[[MreB]]など今日では多数の細胞骨格が見つかっている。ただし真核生物ほど多様な機能は持たない。[[原核生物の細胞骨格]]参照。</ref>
|('''細菌と同様''')<ref group="2">クレンアーキオータからはクレンアクチンが見つかっている。ユリアキオータから発見された例は少ないが、テルモプラズマからMreBの報告がある</ref>
|('''細菌と同様''')<ref group="2">[[クレン古細菌]]からはクレンアクチンが見つかっている。[[ユーリ古細菌]]から発見された例は少ないが、テルモプラズマからMreBの報告がある。チューブリンホモログも存在(オーディン古細菌、[[タウム古細菌]])</ref>
|細胞骨格を持ち[[原形質流動]]有り
|細胞骨格を持ち[[原形質流動]]有り
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225行目: 340行目:
!rowspan="12"|核<br />酸<br />/<br />蛋<br />白<br />質<br />関<br />係
!rowspan="12"|核<br />酸<br />/<br />蛋<br />白<br />質<br />関<br />係
![[デオキシリボ核酸|DNA]]
![[デオキシリボ核酸|DNA]]
|環状<ref group="2">放線菌、スピロヘータの一部は直鎖状のDNAを持つ。</ref>
|環状<ref group="2">放線菌、[[スピロヘータ]]の一部は直鎖状のDNAを持つ。</ref>
|('''細菌と同様''')
|('''細菌と同様''')
|直線状
|直線状
231行目: 346行目:
!DNA結合タンパク
!DNA結合タンパク
|HUタンパク
|HUタンパク
|&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;古細菌型ヒストン<ref group="2">クレンアーキオータはテルモプロテウス目のみヒストンを持つ</ref>
|&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;古細菌型ヒストン<ref group="2">クレン古細菌[[テルモプロテウス目]]のみヒストンを持つ</ref>
|[[ヒストン]]
|[[ヒストン]]
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241行目: 356行目:
!DNA複製酵素
!DNA複製酵素
|ファミリーC
|ファミリーC
|&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;ファミリーB及びD<ref group="2">クレンキオータはB単独。</ref>
|&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;ファミリーB及びD<ref group="2">クレン古細菌はファミリDを持たない。</ref>
|ファミリーB
|ファミリーB
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255行目: 370行目:
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![[RNAポリメラーゼ]]
![[RNAポリメラーゼ]]
|単純<ref group="2">サブユニット数は[[大腸菌]]で5</ref>
|単純
|&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;('''真核生物と同様''')<ref group="2">サブユニット数は914</ref>
|&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;('''真核生物と同様''')<ref group="2">サブユニット数は1113</ref>
|複雑<ref group="2">基本的なサブユニット数は12</ref>
|複雑<ref group="2">基本的なサブユニット数は12(RNAポリメラーゼII)。古細菌と全てが共通する</ref>
|-
|-
![[伝令RNA|mRNA]]
![[伝令RNA|mRNA]]
|修飾を受けない{{#tag:ref|稀に存在するイントロンは[[自己スプライシング]]型であり、真核生物特有の[[スプライソソーム]]型は存在しない<ref name="ref8">{{ cite journal | 和書 | author = 渡邊洋一, 横堀伸一, 河原林裕 | date = 2002 | title = 原核生物遺伝子のイントロン | journal = 蛋白質核酸酵素 | volume = 47 | issue = 7 | pages = 833&ndash;836}}</ref>。|group="2"}}
|修飾を受けない{{#tag:ref|稀に存在するイントロンは[[自己スプライシング]]型であり、真核生物特有の[[スプライソソーム]]型は存在しない<ref name="ref8">{{ cite journal | 和書 | author = 渡邊洋一, 横堀伸一, 河原林裕 | date = 2002 | title = 原核生物遺伝子のイントロン - 古細菌蛋白質遺伝子のイントロンの発見 | journal = 蛋白質核酸酵素 | volume = 47 | issue = 7 | pages = 833&ndash;836}}</ref>。|group="2"}}
|('''細菌と同様''')<ref group="2">rRNAやtRNAには広くイントロンが知られているが、mRNAにイントロンが含まれている非常稀である。</ref>
|('''細菌と同様'''){{#tag:ref|rRNAやtRNAには広くイントロンが知られているが、mRNAにイントロンが含まれている少ない。スプライソソーム型は存在せず、細菌見られ自己スプライシング型も1例(''Methanosarcina acetivorans'')しかない代わりに古細菌のみに存在する酵素が触媒するイントロンがある<ref name="ref8" />。|group="2"}}
|キャップ構造付加、イントロン除去
|キャップ構造付加、スプライソソーム型[[イントロン]]
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![[リボソーム]]
![[リボソーム]]
|50S+30S<br />[[ストレプトマイシン]]感受性
|50S+30S<br />[[ストレプトマイシン]]感受性
|('''細菌と同様''')<br />  ('''真核生物と同様'''){{#tag:ref|RNAは細菌、タンパク質は真核生物にやや類似<ref name="ref16" />。抗生物質感受性はどちらかと言えば真核生物寄りだが、個々の種、抗生物質の種類によって差が大きい。|group="2"}}
|('''細菌と同様''')<br />  ('''真核生物と同様'''){{#tag:ref|RNAは細菌、タンパク質は真核生物にやや類似。rRNAは細菌と同様5S、16S、26S。タンパク質(68個)は殆ど全てのサブユニットが真核生物と一致(67個)する一方、細菌とは34個しか一致しない。<ref name="NAR2002" />。抗生物質感受性はどちらかと言えば真核生物寄りだが、個々の種、抗生物質の種類によって差が大きい。|group="2"}}
|60S+40S<br />[[ジフテリア]]毒素感受性
|60S+40S<br />[[ジフテリア]]毒素感受性
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|-
275行目: 390行目:
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![[転移RNA|t-RNA]]
![[転移RNA|t-RNA]]
|イントロン無し<ref group="2">tRNAのイントロンは少数見つかっているが、全て自己スプライシング型。古細菌と真核生物にある酵素触媒型は殆どない。</ref>
|イントロン無し
|&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;('''真核生物と同様''')
|&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;('''真核生物と同様''')
|[[イントロン]]有
|[[イントロン]]有
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!ATP依存性[[プロテアーゼ]]
!ATP依存性[[プロテアーゼ]]
|FtsHなど<ref group="2">そのほかLon、Clp、HslVUなど。[[放線菌]]目のみプロテアソームも持つ。</ref>
|FtsHなど<ref group="2">そのほかLon、Clp、HslVUなど。[[放線菌]]目のみプロテアソームも持つ(他の放線菌綱は持たない)。</ref>
|&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;('''真核生物と同様''')
|&nbsp;&nbsp;&nbsp;&nbsp;('''真核生物と同様''')
|[[プロテアソーム]]
|[[プロテアソーム]]
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{{Reflist|group=2}}
{{Reflist|group=2}}


== 古細菌の起源と系統的位 ==
== 古細菌の起源と系統的位 ==
[[File:重複遺伝子から推定される生物の関係.png|thumb|right|400px|岩部らの論文<ref name="PNAS1989" />の概略。全生物を対象にした系統樹では外群が設定できないため、無根系統樹しか得られない。EF-Tu/1α、EF-G/2を使用しても、それぞれ単独では無根系統樹になる。しかし、この2つの遺伝子は元々は1つの遺伝子が重複し、その後別々に進化したことが分かっており、互いに相手を外群として使用することで系統解析が可能である。それにより、共通祖先は最初細菌と古細菌(+真核生物)に別れたことが分かった。<br />(1):EF-Tu/1α、EF-G/2それぞれの無根系統樹<br />(2):EF-Tu/1α、EF-G/2を合わせた系統樹<br />(3):互いに相手を外群として折り曲げた系統樹]]
[[File:Eocyte hypothesis.png|400px|thumb|左:古細菌を単系統とする説(3ドメイン説)、右:[[エオサイト説]]。エオサイト説では、真核生物の祖先をクレンアーキオータ(エオサイト)とし、古細菌が単系統とならない。なお、エオサイトと真核生物を含むクレードをKaryotesと呼ぶ。]]
: ''[[共通祖先]]、[[原始生命体]]、[[生命の起源]]なども参照''
: ''[[共通祖先]]、[[原始生命体]]、[[生命の起源]]なども参照''
1977年、古細菌が系統的に他生物とは大きく異なることが示されたが、細菌、真核生物との関係は現在でも頻繁に議論されており、最終的な合意は得られていない。大方支持されているのは、[[共通祖先]]がまず細菌と古細菌に進化し、その後古細菌か古細菌に近縁な生物から真核生物の本体が進化したとする仮説である。これは共通祖先以前に2種類に分かれた遺伝子(重複遺伝子)により得られる系統樹<ref name="ref4" /><ref name="ref5" />により明らかにされた。3ドメイン説では真核生物と古細菌は姉妹群と仮定している。


[[地球]]の歴史は45憶4000万年前までさかのぼる<ref>{{cite journal | author = Wilde, S. A., ''et al.''| title = Evidence from detrital zircons for the existence of continental crust and oceans on the Earth 4.4 Gyr ago | journal= Earth and Planetary Science Letters | date = 1980 | volume = 47 | issue= 3 | pages = 370–382 | doi=10.1016/0012-821X(80)90024-2 }}</ref>。また、[[海洋]]もおそらく44億年前までには形成された<ref>{{cite journal | author = Manhesa, G., ''et al.''| title = Lead isotope study of basic-ultrabasic layered complexes: Speculations about the age of the earth and primitive mantle characteristics | journal= Earth and Planetary Science Letters | date = 2001 | volume = 409 | issue= 6817 | pages = 175-8 | pmid = 11196637 | doi= 10.1038/35051550 }}</ref>。
[[エオサイト説]]<ref>{{ cite journal | author = Katoh K, Kuma K, Miyata T | date = 2001 | title = Genetic algorithm-based maximum-likelihood analysis for molecular phylogeny | journal = J Mol Evol | volume = 53 | issue = 4-5 | pages = 477&ndash;84 | id = PMID 11675608 }}</ref><ref>{{ cite journal | author = Battistuzzi FU, Feijao A, Hedges SB | date = 2004 | title = A genomic timescale of prokaryote evolution: insights into the origin of methanogenesis, phototrophy, and the colonization of land | journal = BMC Evol Biol | volume = 4 | issue = 44 | id = PMID 15535883 }}</ref><ref>{{ cite journal | author = Baldauf, S. L., Palmer, J. D., Doolittle, W.F. | date = 1996 | title = The root of the universal tree and the origin of eukaryotes based on elongation factor phylogeny | journal = Proc Natl Acad Sci U S A | volume = 93 | issue = 15 | pages = 7749-54 | id = PMID 8755547 }}</ref>も知られている。これは真核生物は古細菌の1系統とするもので、クレンアーキオータないしタウムアーキオータが真核生物の起源となったというものである。


生命の起源は不明であるが、[[西オーストラリア州]]ジャックヒルズから見つかった41億年前に形成された[[ジルコン]]から、異常に同位体比率の偏った[[炭素]]が発見されており、生命活動の痕跡の可能性が指摘されている{{#tag:ref|生物は、物質を代謝する際に特定の[[同位体]]を好むことがよくあるため、炭素や[[硫黄]]の[[同位体]]比率が大きくずれた分子は生命活動の証拠となりうる(ただし、非生物的に同様の物質が形成されることもあるため慎重に検討する必要がある)。37憶7000万年前(42億8000万年前)の[[熱水噴出孔]]で形成されたと考えられる岩石からも同様の痕跡が見つかっている<ref>{{cite journal | author = Dodd, M. S., ''et al.'' | title = Evidence for early life in Earth's oldest hydrothermal vent precipitates | journal = Nature | volume = 543 | issue = 7643 | date = 2017 | doi = 10.1038/nature21377 | pmid = 28252057 }}</ref>|group="注"}}<ref>{{cite journal | author = Bell, E. A., ''et al.''| title = Potentially biogenic carbon preserved in a 4.1 billion-year-old zircon | journal = Proc. Natl. Acad. Sci. U S A | date = 2015 | volume = 112 | issue= 47 | pages = 14518-21 | doi = 10.1073/pnas.1517557112 | pmid = 26483481 }}</ref>。起源が38億年より遡る場合、[[後期重爆撃期]]との関係も重要になる。少なくとも35億年前まで<ref>{{ cite web | last = Timmer | first = John | title = 3.5 billion year old organic deposits show signs of life | url = https://arstechnica.com/science/2012/09/3-5-billion-year-old-organic-deposts-show-signs-of-life/ | date= 2012年9月4日 | work = Ars Technica | access-date = 2018年10月10日 }}</ref>、そしておそらくそれよりももっと以前から生命は存在していたと考えられている。
この他[[ネオムラ|ネオムラ説]]<ref>{{ cite journal | author = Cavalier-Smith T | date = 2002 | title = The neomuran origin of archaebacteria, the negibacterial root of the universal tree and bacterial megaclassification | journal = Int J Syst Evol Microbiol | volume = 52 | issue = Pt 1 | pages = 7&ndash;76 | id = PMID 11837318 }}</ref>、ABC仮説などが提案されている<ref>{{ cite journal | author = Poole, A. M., Penny, D. | date = 2007 | title = Evaluating hypotheses for the origin of eukaryotes | journal = Bioessays | volume = 29 | issue = 1 | pages = 74-84 | id = PMID 17187354 }}</ref>。


なお、古細菌の出現時期は真核生物の系統的関係にもよるが、真核生物の祖先を含む広い意味での古細菌の起源は非常いと見積もられる。[[化石]]だけで判断できなものの、分子化石{{#tag:ref|岩石中ら発見される分子の中には、生物が生きていた痕跡とみられるものが含まれいることがある。例えば27億年前の地層からC36-39程度ジフィタンが発見されているが、こは古細菌脂質変性したものと考えることできる<ref>{{ cite journal | author = Ventura, G.T., Kenig, F., Reddy, C.M., Schieber, J., Frysinger, G.S., Nelson, R.K., Dinel, E., Gaines, R.B., Schaeffer, P. | date = 2007 | title = Molecular evidence of Late Archean archaea and the presence of a subsurface hydrothermal biosphere | journal = Proc Natl Acad Sci U S A | volume = 104 | issue = 36 | pages = 14260-5 | id = PMID 17726114 | doi = 10.1073/pnas.0610903104 }}</ref>。また生物は、物質を代謝する際に特定の[[同位体]]を好むことがよくあるため、炭素や硫黄の同位体比率が大きくずれた分子は生命活動の証拠となりうる(ただし、非生物的に同様の物質が形成されることもある)。35億年前の地層から、異常にC13の比率が低いメタンが発見されており、メタン菌が当時存在していた可能性が指摘されている。<ref>{{ cite journal | author = Ueno Y, Yamada K, Yoshida N, Maruyama S & Isozaki Y | date = 2006 | title = Evidence from fluid inclusions for microbial methanogenesis in the early Archaean era | journal = Nature | volume = 440 | issue = 7083 | pages = 516&ndash;519 | id = PMID 16554816 }}</ref>|group=""}}や系統樹から得られる情報<ref>{{ cite journal | author = Feng DF, Cho G, Doolittle RF | date = 1997 | title = Determining divergence times with a protein clock: update and reevaluation | journal = Proc Natl Acad Sci U S A | volume = 94 | issue = 24 | pages = 13028&ndash;33 | id = PMID 9371794 }}</ref>によ推定から35-41億年前に既登場していた可能性がある
地球上に誕生した生命が[[細菌]][[古細菌]]分かれた理由につても不明なころが多い。[[共通祖先]]が別れて古細菌が出現した時期についてはいくつ説が出されていて例えば35億年前の地層から異常に[[炭素13|C13]]比率が低い[[メタン]]が発見されており、[[メタン菌]]当時存在していたつまりの時期までには古細菌が出現ていたと考えることできる<ref>{{ cite journal | author = Ueno, Y., ''et al.'' | date = 2006 | title = Evidence from fluid inclusions for microbial methanogenesis in the early Archaean era | journal = Nature | volume = 440 | issue = 7083 | pages = 516&ndash;519 | id = PMID 16554816 }}</ref>。[[系統解析]]からの推定では、38億年前<ref>{{ cite journal | author = Feng, D. F., ''et al.'' | date = 1997 | title = Determining divergence times with a protein clock: update and reevaluation | journal = Proc. Natl. Acad. Sci. U S A | volume = 94 | issue = 24 | pages = 13028&ndash;33 | id = PMID 9371794 }}</ref>、42億年前<ref>{{ cite journal | author = Wolfe, J. M., ''et al.'' | date = 2018 | title = Horizontal gene transfer constrains the timing of methanogen evolution | journal = Nat. Ecol. Evol. | volume = 2 | issue = 5 | pages = 897-903 | id = PMID 29610466 | doi = 10.1038/s41559-018-0513-7 }}</ref>、44億年以前<ref name = "NEM2018">{{ cite journal | author = Betts, H. C., ''et al.'' | date = 2018 | title = Integrated genomic and fossil evidence illuminates life's early evolution and eukaryote origin | journal = Nat. Ecol. Evol. | volume = 2 | issue = | pages = 1556–1562 | id = PMID 30127539 | doi = 10.1038/s41559-018-0644-x }}</ref>、などという数字も出ていあまりも古時代のめ、不確実性が大きい


== 細菌の分類・系統 ==
=== 細菌関係 ===
細菌と古細菌は共通の祖先を有する可能性が高い<ref>{{ cite journal | author = Theobald, D. L. | date = 2010 | title = A formal test of the theory of universal common ancestry | journal = Nature | volume = 465 | issue = 7295 | pages = 219-22 | id = PMID 20463738 | doi = 10.1038/nature09014 }}</ref>。[[デオキシリボ核酸|DNA]]や[[たんぱく質]]が[[脂質二重膜]]よりなる細胞膜につつまれる構造は全生物に共通する。[[コドン]]など基本的な遺伝の仕組みも共通している。一方で、[[細胞膜]]の成分や[[DNA複製]]系は全く異なっており、両者が分かれたのは非常に古いと推定される。
ドメイン古細菌以下の界、門および一部の鋼をリストする。ただし門以上の分類は2010年以降も激しく変化しており流動的である。


[[カール・ウーズ|ウーズ]]が最初に描き出した[[系統樹]]は無根系統樹であり、[[共通祖先]]がどの位置にあるかは確定できないものであった。例えば、[[真核生物]]と[[原核生物]]が最初に分かれた後、原核生物が細菌と古細菌に分かれた、あるいは細菌と古細菌が最初に湧かれた後、細菌から真核生物が進化した、もしくは細菌の中に共通祖先があり、細菌の一系統から古細菌や真核生物が進化した、などの様に様々に解釈できる。この問題は、16S rRNAなどの遺伝子の単純な解析では導き出せないが、共通祖先以前に重複、その後独立して進化した遺伝子を比較することで可能となる。1989年に、H<sup>+</sup>-ATPアーゼ、伸長因子、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼなど共通祖先以前に分かれた遺伝子を用い、共通祖先がまず細菌と古細菌類に分岐したことが明らかになった<ref name="PNAS1989" /><ref name="PNAS1989_2" />。時期的には前述のとおり、30億年よりも遥かに遡る古い時代に起こったと考えられる。
なお、古細菌の命名は[[国際細菌命名規約]]に基づいて行われており、基本的な分類方法は細菌と共通している。原核生物は形態の変化に乏しく無性的に増殖するため、動植物でいう種の基準が適用できず、分類は[[16S rRNA系統解析]]や[[DNA-DNA分子交雑法]]、ゲノム構造に基づく[[average nucleotide identity (ANI)]]などの分子技法などが用いられる。2010年1月現在の記載種は全部で約320種である。[[ユリアーキオータ門]]、[[クレンアーキオータ門]]、[[タウムアーキオータ|タウムアーキオータ門]]以外の門は純粋培養された種を含まず、他の門はDNAサンプルや限られた培養系に基づく。
* "ユリアーキオータ界"/"{{sname|Euryarchaeota}}" 既知の古細菌の80%以上を含む。
** "[[ユリアーキオータ門]]"/"{{sname|Euryarchaeota}}"
*** [[アルカエオグロブス綱]]/{{sname|Archaeoglobi}} - 主に海洋熱水系、油田。超好熱性の硫酸還元菌。
*** [[テルモコックス綱]]/{{sname|Thermococci}} - 海中に分布。従属栄養性の嫌気超好熱菌。
*** [[テルモプラズマ綱]]/{{sname|Thermoplasmata}} - 好熱好酸菌とメタン菌。
*** [[高度好塩菌|ハロバクテリウム綱(高度好塩菌)]]/{{sname|Halobacteria}} - 塩湖などに分布。好気従属栄養性。
*** [[メタノコックス綱]]/{{sname|Methanococci}} - 主に海洋に分布するメタン菌。
*** [[メタノピュルス・カンドレリ|メタノピュルス綱]]/{{sname|Methanopyri}} - 超好熱性のメタン菌{{snamei|Methanopyrus kandleri}}1属1種のみ。増殖温度80-122{{℃}}。
*** [[メタノバクテリウム綱]]/{{sname|Methanobacteria}} - 主に淡水系に分布するメタン菌。
*** "[[メタノミクロビウム綱]]"/"{{sname|Methanomicorobia}}" - メタン菌。未培養系統として嫌気性メタン酸化菌を含む。
* "[[プロテオ古細菌界|プロテオアーキオータ界]]"/"Proteoarchaeota・TACK・"エオサイト界"/"Eocyta" - 真核生物の起源という説がある。
** TACK系統
*** "[[クレンアーキオータ門]]"/"{{sname|Crenarchaeota}}"
*** "[[タウムアーキオータ|タウムアーキオータ門]]"/"{{sname|Thaumarchaeota}}"
*** "[[カルディアルカエウム・スプテッラーネウム|アイグアーキオータ門]]"/{{sname|Aigarchaeota}} - [[ユビキチン]]-[[プロテアソーム]]システムに必要な遺伝子を持つ<ref>{{cite journal |author= Nunoura, T., Takaki, Y., Kakuta, J., Nishi, S., Sugahara, J., Kazama, H., Chee, G.J., Hattori, M., Kanai, A., Atomi, H., Takai, K., Takami, H. |title= Insights into the evolution of Archaea and eukaryotic protein modifier systems revealed by the genome of a novel archaeal group |journal= Nucleic Acids Research |year=2010 |pmid=21169198 |doi= 10.1093/nar/gkq1228 }}</ref>。
*** "[[コルアーキオータ門]]"/"{{sname|Korarchaeota}}" - 環境DNAサンプルと[[集積培養]]系のみ。嫌気従属栄養性の超好熱菌。
*** "[[バチアーキオータ門]]"/"Bathyarchaeota" - [[メタン菌]]の可能性がある。
** ASGARD系統 - 真核生物様の遺伝子を多数持ち、この系統から真核生物が派生したとする説がある<ref>{{cite journal |last1=Spang |first1=Anja |last2=Saw |first2=Jimmy H. |last3=Jørgensen |first3=Steffen L. |last4=Zaremba-Niedzwiedzka |first4=Katarzyna |last5=Martijn |first5=Joran |last6=Lind |first6=Anders E.|last7=van Eijk |first7=Roel|last8=Schleper|first8=Christa|last9=Guy|first9=Lionel|last10=Ettema|first10=Thijs J. G.|title=Complex archaea that bridge the gap between prokaryotes and eukaryotes |journal=Nature|year=2015|issn=0028-0836|doi=10.1038/nature14447}}
</ref>。
*** "[[ロキアーキオータ|ロキアーキオータ門]]"/"Lokiarchaeota"
*** "[[ヘイムダルアーキオータ]]門"/"Heimdalarchaeota"
*** "オーディンアーキオータ門"/"Odinarchaeota"
*** "トールアーキオータ門"/"Torarchaeota"
* [[DPANN群|DPANN系統]](ユリアーキオータに含まれる可能性がある。集積培養や環境DNAのみだが、極端に細胞とゲノムサイズが小さい特徴がある)
** "ディアフェロトリテス門"/"{{sname|Diapherotrites}}" (pMC2A384)
** "[[パルウ古細菌|パルウ古細菌門]]"/"{{sname|Parvarchaeota}}" ([[ARMAN]])
** "アエニグム古細菌門"/"{{sname|Aenigmarchaeota}}" (DSEG)
** "[[ナノ好塩古細菌|ナノ好塩古細菌門]]"/"{{sname|Nanohaloarchaeota}}"
** "[[ナノアーキオータ門|ナノ古細菌門]]"/"{{sname|Nanoarchaeota}}"


これ以外の説としては、共通祖先は現代的な細胞膜やDNA複製の仕組みを持っていなかったとする説もある。アルカリ熱水泉の細孔で生命が誕生したとすれば、透過度の低い細胞膜は必要ではない<ref name = "斉藤2016_148-149">[[#斉藤2016|斉藤2016]]、148-149頁。</ref>。古細菌と細菌はそれぞれ独立に細胞膜やDNA複製の仕組みを獲得し、別々に細孔から脱出したとする<ref name = "斉藤2016_148-149" />。また、[[トーマス・キャバリエ=スミス]]らは、最初に細菌が多様化した後、細菌の一グループである[[放線菌]]の中から真核生物と古細菌の祖先が出現した[[ネオムラ]]説を提唱している<ref name = "CSHPB2002" />。他の細菌との違いは、高温への適応や、細菌間での化学戦の産物であるとする<ref name = "CSHPB2002" />。放線菌は外膜の無い単膜細菌(MD細菌)であり、膜が一重であることが古細菌と共通する。[[Hsp70]]や[[グルタミン合成酵素]] Iなどから得られる系統樹がネオムラ説を支持するという<ref name = "CSHPB2002" />。
== 技術・産業利用 ==
メタン発酵による汚水処理や[[バイオガス]]の製造において、メタン菌は必須のものである。また、[[味噌]]や[[醤油]]から{{snamei|Halobacterium}}に代表される高度好塩菌が検出されることがあり、醗酵や腐敗に関係する。この他菌体を直接利用するものはあまりないが、好熱好酸菌は[[硫化水素]]や金属の処理目的に研究されている<ref>[http://www.nite.go.jp/nbrc/genome/project/annotation/analyzed/st7.html 独立行政法人製品評価技術基盤機構ゲノム解析部門(NGAC) - 好熱好酸性古細菌 (Sulfolobus tokodaii strain7T (= NBRC 100140T))]</ref><ref>{{cite journal |author=Norris PR, Burton NP, Foulis NA |title=Acidophiles in bioreactor mineral processing |journal=Extremophiles |volume=4 |issue=2 |pages=71–6 |year=2000 |pmid=10805560 |doi=10.1007/s007920050139}}</ref>。


=== 真核生物との関係 ===
一方、新しい遺伝子資源としても注目を集めてきた<ref>{{ cite journal |author = Schiraldi C, Giuliano M, De Rosa M | title = Perspectives on biotechnological applications of archaea | journal = Archaea | volume = 1 |issue = 2 | pages = 75–86 | year = 2002 | PMID = 15803645 }}</ref>。[[ピュロコックス・フリオスス|{{snamei|Pyrococcus furiosus}}]]や{{snamei|Thermococcus kodakaraensis}}などに由来する[[DNAポリメラーゼ]](Pfuポリメラーゼ、KODポリメラーゼ)は、[[Taqポリメラーゼ]](細菌{{snamei|Thermus aquaticus}}由来)に比べ複製正確性が高く、[[ポリメラーゼ連鎖反応|PCR]]になくてはならない酵素の一つである<ref>[http://www.toyobo.co.jp/seihin/xr/lifescience/products/product/pcr/archives/2006/09/kod_dna_polymease.html KOD DNA polymease]</ref>。タンパク質が結晶化しやすく、真核生物のホモログあるいは新規酵素を多数持つことから、タンパク質の構造研究にもしばしば使用される<ref>{{cite journal |author=Jenney FE, Adams MW |title=The impact of extremophiles on structural genomics (and vice versa) |journal=Extremophiles |volume=12 |issue=1 |pages=39–50 |year=2008 |month=January |pmid=17563834 |doi=10.1007/s00792-007-0087-9}}</ref>。
[[File:Eocyte hypothesis.png|400px|thumb|左:3ドメイン説、右:[[エオサイト説]]。EF-1の[[インデル]]の比較ではエオサイト説が支持される<ref>{{ cite journal | author = Lake, J. A., ''et al.'' | date = 1992 | title = Origin of the eukaryotic nucleus determined by rate-invariant analysis of rRNA sequences | journal = Science | volume = 257 | issue = 5066 | pages = 74-6 | id = PMID 1621096 | doi = }}</ref>{{#tag:ref|真核生物とクレン古細菌(及びタウム古細菌やアスガルド古細菌などにも)には、EF-1(伸長因子-1)に11アミノ酸残基の挿入がある。3ドメイン説が正しい場合、クレン古細菌と真核生物にそれぞれ独立して同じ位置に同じ長さの配列が挿入されたと考える必要がある。一方、エオサイト説が正しい場合、クレン古細菌と真核生物の祖先に11アミノ酸残基が挿入されたと考えれば、挿入が1回で済みはるかに合理的である。|group="注"}}。]]
[[File:生物の初期系統樹.png|500px|thumb|29遺伝子と化石証拠に基づく系統樹(Holly C. Betts ''et al.'', 2018<ref name = "NEM2018" />)の概観。この系統樹では2分岐説が採用されている。主要系統以外は省略。古細菌の中では最初に分岐した[[DPANN群|DPANN系統]]や、[[コル古細菌]]などは省略した。]]
真核生物と古細菌の関係にも論争がある。真核生物と古細菌は基本的な遺伝の仕組みを共有しており、この2つの生物は細菌よりも密接に関係している。問題となるのは、真核生物はどの古細菌から進化したのか不明な点であった。16S-rRNAは、古細菌が多様化するよりもはるか以前に古細菌と真核生物は分岐したため、特に真核生物に近い古細菌はいないという系統樹を描き出したが、EF-1/EF-2(伸長因子)を使った解析では、クレン古細菌と真核生物が単系統となる系統樹を描き出した<ref>{{ cite journal | author = Baldauf, S. L., ''et al.'' | date = 1996 | title = The root of the universal tree and the origin of eukaryotes based on elongation factor phylogeny | journal = Proc. Natl. Acad. Sci. U S A | volume = 93 | issue = 15 | pages = 7749-54 | id = PMID 8755547 | doi = }}</ref>。


標準的な説(3ドメイン説)では、真核生物と古細菌はそれぞれが単系統であり、互いに姉妹群であるという説を採用している<ref>{{ cite journal | author = Yutin, N., ''et al.'' | date = 2008 | title = The Deep Archaeal Roots of Eukaryotes | journal =Mol. Biol. Evol. | volume = 25 | issue = 8 | pages = 1619-1630 | id = PMID 18463089 | doi = 10.1093/molbev/msn108 }}</ref><ref name="PNAS1990" />。ただし、3ドメイン説の提唱者であるウーズは、3ドメインが分かれる前は遺伝の仕組みが成立していない生物であったとしており(プロゲノート説)、古細菌(または古細菌に近い生物)から真核生物が進化したわけでは無いとしていた<ref>{{ cite journal | author = Woese, C. | date = 1998 | title = The universal ancestor | journal = Proc. Natl. Acad. Sci. U S A | volume = 95 | issue = 12 | pages = 6854-9 | id = PMID 9618502 | doi = }}</ref>。
== 注釈 ==

もう一つの有力な説は、クレン古細菌に近い生物から真核生物が進化したとする2分岐説である<ref>{{ cite journal | author = Cox, C. J., ''et al.'' | date = 2008 | title = The Deep Archaeal Roots of Eukaryotes | journal = Proc. Natl. Acad. Sci. U S A | volume = 105 | issue = 51 | pages = 20356–20361 | id = PMID 19073919 | doi = 10.1073/pnas.0810647105 }}</ref><ref>{{ cite journal | author = Williams, T. A., ''et al.'' | date = 2013 | title = An archaeal origin of eukaryotes supports only two primary domains of life | journal = Nature | volume = 504 | issue = 7479 | pages = 231-6 | id = PMID 24336283 | doi = 10.1038/nature12779}}</ref><ref>{{ cite journal | author = Katoh, K., ''et al.'' | date = 2001 | title = Genetic algorithm-based maximum-likelihood analysis for molecular phylogeny | journal = J. Mol. Evol. | volume = 53 | issue = 4-5 | pages = 477&ndash;84 | id = PMID 11675608 }}</ref><ref>{{ cite journal | author = Battistuzzi, F. U., ''et al.'' | date = 2004 | title = A genomic timescale of prokaryote evolution: insights into the origin of methanogenesis, phototrophy, and the colonization of land | journal = BMC. Evol. Biol. | volume = 4 | issue = 44 | id = PMID 15535883 }}</ref><ref>{{ cite journal | author = Baldauf, S. L., ''et al.'' | date = 1996 | title = The root of the universal tree and the origin of eukaryotes based on elongation factor phylogeny | journal = Proc Natl Acad Sci U S A | volume = 93 | issue = 15 | pages = 7749-54 | id = PMID 8755547 }}</ref>。これは[[1984年]]にレイクが提唱した[[エオサイト説]]<ref>{{ cite journal | author = Lake, J. A., ''et al.'' | date = 1984 | title = Eocytes: a new ribosome structure indicates a kingdom with a close relationship to eukaryotes | journal = Proc. Natl. Acad. Sci. U S A | volume = 81 | issue = 12 | pages = 3786-90 | id = PMID 6587394 | doi = }}</ref><ref>{{ cite journal | author = Lake, J. A., ''et al.'' | date = 1988 | title = Origin of the eukaryotic nucleus determined by rate-invariant analysis of rRNA sequences | journal = Nature | volume = 331 | issue = 6152 | pages = 184-6 | id = PMID 3340165 | doi = 10.1038/331184a0 }}</ref>を原型とし、3ドメイン説よりも古いものである{{#tag:ref|元々のエオサイト説では、生物全体をEubacteria、Archaeabacteria、Eocyte、Eukaryotesの4界に分けた。Archaeabacteriaは後のユーリ古細菌、Eocyteは後のクレン古細菌に相当する。なお、EocyteはのちにTACKなど近縁種を含むように拡張されている<ref name="PT2015">{{ cite journal | author = James A. Lake | date = 2015 | title = Eukaryotic origins | journal = Philos. Trans. R. Soc. Lond. B. Biol. Sci. | volume = 370 | issue = 1678 | doi = 10.1098/rstb.2014.0321 | pmid = 26323753 }}</ref>。|group="注"}}。山岸らも系統樹がどちらであるにせよ、地球上の生物を細菌とアーキア(Crenarchaeota、Euryarchaeota及びUrkaryotes{{#tag:ref|Urkaryotesは真核生物の遺伝子、または真核生物の本体を指している。また、Crenarchaeota、Euryarchaeotaを総称してArchaeabacteriaと呼ぶとした。<ref>{{ cite journal | author = Yamagishi, A., T. Oshima | date = 1995 | title = Retern to dichotomy: Bacteria and Archaea | journal = Chemical evolution: Self-organization of the macromolecules of life | volume = | issue = | pages = 155-158 | id = PMID | doi = | isbn = 978-0937194324 }}</ref>|group="注"}})の2つに分けるべきと主張した<ref>{{ cite journal | author = Yamagishi, A., T. Oshima | date = 1995 | title = Retern to dichotomy: Bacteria and Archaea | journal = Chemical evolution: Self-organization of the macromolecules of life | volume = | issue = | pages = 156 | id = PMID | doi = | isbn = 978-0937194324 }}</ref>。2010年以降、クレン古細菌や近縁な古細菌から[[アクチン]]や[[ESCRT]]、[[ユビキチン]]<ref>{{ cite journal | author = Nunoura, T., ''et al.'' | date = 2011 | title = Insights into the evolution of Archaea and eukaryotic protein modifier systems revealed by the genome of a novel archaeal group | journal = Nucleic Acids Res | volume = 39 | issue = 8 | pages = 3204-23 | id = PMID 21169198 | doi = 10.1093/nar/gkq1228 }}</ref>、[[チューブリン]]<ref>{{ cite journal | author = Ettema, T.J., ''et al.'' | date = 2011 | title = An actin-based cytoskeleton in archaea | journal = Molecular Microbiology | volume = 80 | issue = 4 | pages = 1052–61 | id = PMID 21414041 | doi = 10.1111/j.1365-2958.2011.07635.x }}</ref>など真核生物様の遺伝子が発見されたこと、更に2015年以降[[ロキ古細菌]]をはじめとした[[アスガルド古細菌]]が発見され<ref name="Nature2017" />、この古い説が見直されている。

この他にも、前述([[#細菌との関係]])の「[[ネオムラ|ネオムラ説]]」<ref name = "CSHPB2002" />、RNAを基盤とするクロノサイトという生物に古細菌と細菌が合体した「ABC仮説」<ref>{{ cite journal | author = Poole, A. M., Penny, D. | date = 2007 | title = Evaluating hypotheses for the origin of eukaryotes | journal = Bioessays | volume = 29 | issue = 1 | pages = 74-84 | id = PMID 17187354 }}</ref>、古細菌にウイルスが感染して真核生物になった「[[細胞核ウイルス起源説]]」<ref>武村政春 「[https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsv/66/2/66_135/_pdf 1. 巨大ウイルスの細胞侵入・増殖機構]」『ウイルス 第66巻 第2号』pp.135-146,2016年、141-142頁。</ref>などが提案されている。

== 古細菌の分類 ==
ドメイン古細菌以下の門および鋼、目をリストする。記載種を含む系統に限る。

古細菌の種から綱までの命名は[[国際原核生物命名規約]]に基づいて行われており、基本的な分類方法は細菌と共通している。原核生物は形態の変化に乏しく無性的に増殖するため、動植物でいう種の基準が適用できず、分類は[[16S rRNA系統解析]]や[[DNA-DNA分子交雑法]]、ゲノム構造に基づく[[平均ヌクレオチド一致度]](ANI)といった分子技法が主に用いられる。2018年10月現在の記載種は全部で約550種である。[[ユーリ古細菌]]、[[クレン古細菌]]、[[タウム古細菌]]以外の系統については後述([[#未培養系統を含む系統概観]])する。

=== クレン古細菌 ===
[[File:Urzwerg.jpg|200px|thumb|right|''Ignicoccus hospitalis''(大きい方が''I. hospitalis'')]]
[[ファイル:RT8-4.jpg|200px|thumb|right|"Sulfolobus tengchongensis" RT8-4の電子顕微鏡写真]]
2018年現在64種が記載。ESCRT複合体で分裂する。古細菌固有のDNA複製酵素であるDファミリーDNAポリメラーゼを欠く。[[テルモプロテウス目]]以外は[[ヒストン]]を持たないことが多い。
* "クレン古細菌門"/"Crenarchaeota"
** テルモプロテウス綱/Thermoplotei - 超好熱菌や好熱好酸菌より構成される綱。硫黄やチオ硫酸を代謝して硫酸イオンや硫化水素を生成する種が多い。[[イグニコックス属|''Ignicoccus'']](外膜)を除き、細胞膜は[[S層]]。
*** [[テルモプロテウス目]]/Thermoproteales - ''Thermoproteus''や''Thermofilum''、[[ピュロバクルム属|''Pyrobaculum'']]など。全種が超好熱性の桿菌で、主に陸上の熱水系に分布。通性嫌気性の''Pyrobaculum aerophilum''を除いて、大半は水素や有機物を硫黄を還元して増殖する。クレン古細菌の中では最初に分岐した様で、[[ヒストン]]や[[アクチン]]を持っている。ESCRT複合体を持たず、出芽により増殖する。
*** [[スルフォロブス目]]/Sulfolobales - [[スルフォロブス属|''Sulfolobus'']]や''Acidianus''、''[[メタッロスパエラ属|Metallosphaera]]''など。全種が好熱好酸菌。陸上の[[温泉]]や[[熱水泉]]、[[鉱山]]などの陸上熱水に分布し、クレン古細菌の中では特に好気性菌が多い。''Sulfolobus''の例では、好気条件下硫黄又は有機物を酸化する通性独立栄養生物である。''Acidianus''は、好気条件下であれば硫黄を酸化して硫酸イオンを生成し、嫌気条件であれば水素や有機物で硫黄を還元して硫化水素を生成する。
*** [[デスルフロコックス目]]/Desulfurococcales - 全種が超好熱菌。[[ピュロディクティウム属|''Pyrodictium'']]など極度に高温を好む種を含む。海底熱水噴出孔や陸上の熱水系にも分布する。偏性好気性の''Aeropyrum''や通性嫌気性の[[ピュロロブス・フマリイ|''Pyrolobus fumarii'']]を除き偏性嫌気性。発酵や硫黄還元を行う従属栄養性の種が多い。
*** [[アキディロブス目]]/Acidilobales - 超好熱菌。主に陸上にある弱酸性の熱水系に分布する。嫌気性で有機物を発酵する。
*** [[フェルウィディコックス目]]/Fervidicoccales - 好熱性。嫌気性で発酵する。カムチャッカ半島の温泉から分離された''Fervidicoccus fontis'' 1種のみ。

=== タウム古細菌 ===
2018年現在6種が記載。2008年にクレン古細菌から分けられた系統。同様にESCRT複合体で分裂する。クレン古細菌より低温に適応している。
* "[[タウム古細菌]]門"/"Thaumarchaeota"
** ニトロソスパエラ綱/Nitrososphaeria - 亜硝酸古細菌
*** ニトロソスパエラ目/Nitrososphaerales - 中温性の亜硝酸古細菌。2018年現在、土壌から発見された[[ニトロソスパエラ・ウィエンネンシス|''Nitrososphaera viennensis'']]1種のみが記載されている<ref name="IJSEM2014" />。後述のニトロソプミルス目より[[アンモニア]]濃度の高い環境に適応しており、海洋では堆積物などからの検出例が多い。
*** ニトロソプミルス目/Nitrosopumilales - 中温性の亜硝酸古細菌。水族館のフィルターから発見された[[ニトロソプミルス・マリティムス|''Nitrosopumilus maritimus'']]を代表種とする<ref name="IJSEM2017" />。海水中からの検出例が多いが、土壌性の物もいる<ref name="IJSEM2018" />。

=== ユーリ古細菌 ===
[[File:Methanohalophilus mahii SLP.jpg|200px|thumb|right|''Methanohalophilus mahii''(メタノサルキナ目)の電子顕微鏡写真。]]
[[File:Haloquadratum walsbyi00.jpg|200px|thumb|right|''Haloquadratum walsbyi''(ハロバクテリウム目)の蛍光顕微鏡写真。]]
[[File:Haloferax volcanii.png|200px|thumb|right|''Haloferax volcanii''(ハロフェラクス目)の電子顕微鏡写真。]]
2018年現在約480種が記載。Zリングで分裂する。[[アクチン]]を欠く。細胞内にゲノムを複数コピー持つ。
* "[[ユーリ古細菌|ユーリ古細菌門]]"/"Euryarchaeota"
** [[アルカエオグロブス綱]]/Archaeoglobi - 海洋熱水鉱床、油田などから分離される嫌気性の超好熱菌。硫酸還元菌である[[アルカエオグロブス属|''Archaeoglobus'']]、鉄を酸化する''Ferroglobus''、[[第二鉄]]を還元する''Geoglobus''の3属がある。
** [[テルモプラズマ綱]]/Thermoplasmata - ユーリ古細菌の中では唯一[[ヒストン]]を欠く。
*** [[テルモプラズマ目]]/Thermoplasmatales - 陸上の硫気孔、温泉など。クレン古細菌の[[スルフォロバス目]]と同じく好熱好酸菌だが、それよりも低pHに適応し(好熱性は低い)、大半の種はpH1以下でも増殖できる。[[ピクロフィルス属|''Picrophilus'']]を除いて細胞壁を欠損する。偏性好気性の従属栄養生物が多い。
*** メタノマッシリイコックス目/Methanomassiliicoccales - メタン菌。外膜を持つ。2018年現在[[メタノマッシリイコックス・ルミニュエンシス|''Methanomassiliicoccus luminyensis'']]のみが記載。この種はヒト大腸内で[[メチルアミン]]を分解していると考えられる。
** [[テルモコックス綱]]/Thermococci - 有機物を発酵する嫌気性の従属栄養生物で、海洋熱水系に広くみられる。全種が超好熱性。[[ピュロコックス・フリオスス|''Pyrococcus furiosus'']]は研究の進んでいる古細菌種である。
** [[メタノバクテリウム綱]]/Methanobacteria - [[動物]]の[[消化器官]]、[[熱水泉]]、[[下水]]、[[湖沼]]、その他広い[[淡水]]系に分布する[[メタン菌]]。人体からも[[メタノブレウィバクテル属|''Methanobrevibacter'']]が比較的よく検出される。細胞壁にシュードムレインという構造を持つ。
** [[メタノコックス綱]]/Methanococci - 海底熱水鉱床や海底沈殿物など主に海洋系に分布する[[メタン菌]]。[[メタノカルドコックス・ヤンナスキイ|''Methanocaldococcus jannaschii'']]は最初にゲノムが解析された古細菌である。主に水素+二酸化炭素系でメタンを生成する。
** "[[メタノミクロビウム綱]]"/"Methanomicrobia" - 主に[[水田]]や[[湖沼]]、[[シロアリ]]、[[反芻動物]]の[[消化器官]]などに分布するメタン菌。[[酢酸]]を利用する種が多いが代謝形態は多様性に富む。
*** [[メタノミクロビウム目]]/Methanomicrobiales - 水素+二酸化炭素系のほかに、ギ酸、アルコール+二酸化炭素系でメタンを生成する。
*** [[メタノサルキナ目]]/Methanosarcinales - 酢酸をメタン生成の基質に用いることのできる種が多く、硫化ジメチルを利用できる種もいる。[[バイオガス]]の生産に[[メタノサエタ属|''Methanosaeta'']]、[[メタノサルキナ属|''Methanosarcina'']]が重要。
*** [[メタノケッラ目]]/Methanocellales - 以前Rice Claster Iと呼ばれていたもの。水田や湖水、泥炭地に生息するメタン菌。
** メタノピュルス綱/Methanopyri - 超好熱性のメタン菌。[[メタノピュルス・カンドレリ|''Methanopyrus kandleri'']]1種のみが分離されている。生物の生育限界温度である122℃で増殖するStrain 116を含む。細胞壁はメタノバクテリウム綱と同様シュードムレインであるが、その外側を更に[[S層]]が覆う。
** [[メタノナトロナルカエウム綱]]/Methanonatronarchaeia - シベリアの超塩水ソーダ湖の嫌気性沈殿物より分離された、好塩・好アルカリ・好熱性のメタン菌[[メタノナトロナルカエウム・テルモピルム|''Methanonatronarchaeum thermophilum'']]1種のみ。
** [[高度好塩菌|ハロバクテリウム綱]]/Halobacteria - いわゆる高度好塩菌。2018年現在約250種を含み、記載されている古細菌の約半数を占める。好気従属栄養性で、[[バクテリオロドプシン]]により光エネルギーも利用する。
*** [[ハロバクテリウム目]]/Halobacteriales - よく研究された古細菌である''Halobacterium salinarum'' NRC-1などを含む。
*** [[ハロフェラクス目]]/Haloferacales
*** [[ナトリアルバ目]]/Natrialbales - 比較的好アルカリ性の高度好塩菌が多い<ref>{{ cite journal | author = Gupta, R. S., ''et al.'' | date = 2015 | title = Phylogenomic analyses and molecular signatures for the class ''Halobacteria'' and its two major clades: a proposal for division of the class ''Halobacteria'' into an emended order ''Halobacteriales'' and two new orders, ''Haloferacales'' ord. nov. and ''Natrialbales'' ord. nov., containing the novel families ''Haloferacaceae'' fam. nov. and ''Natrialbaceae'' fam. nov. | journal = Int. J. Syst. Evol. Microbiol. | volume = 65 | issue = | pages = 1050-69 | doi = 10.1099/ijs.0.070136-0 | id = PMID 25428416 }}</ref>。

== 未培養系統を含む系統概観 ==
[[ファイル:古細菌系統樹.png|thumb|300px|古細菌内部の系統樹の一例(Castelle, C.J., Banfield, J.F., 2018<ref name = "Cell2018" />)]]
[[File:Korarchaeota.jpg|200px|thumb|right|"''Ca.'' Korarchaeum cryptofilum"([[コル古細菌]])の電子顕微鏡写真。]]
[[File:25K15pA9Def4sec Arman 4 Box1.png|200px|thumb|right|"''Ca.'' Parvarchaeum acidiphilum"([[パルウ古細菌]])の電子顕微鏡写真。]]
記載種を含む系統は太字で表した。これらの系統については前節と重複する。
* "ユーリ古細菌界"/"{{sname|Euryarchaeota}}"
** "'''[[ユーリ古細菌]]門'''"/"{{sname|Euryarchaeota}}"
*** '''テルモコックス綱'''/Thermococci
*** "メタノマダ"/"Methanomada" = クラスIメタン菌
**** '''[[メタノバクテリウム綱]]'''/Methanobacteria
**** '''[[メタノコックス綱]]'''/Methanococci
**** '''メタノピュルス綱'''/Methanopyri
*** '''アルカエオグロブス綱'''/Archaeoglobi
*** '''テルモプラズマ綱'''/Thermoplasmata
**** Marine Group II - 海洋性。[[有光層]]に多く、プロテオロドプシンを持つものもいる<ref>{{cite journal | author = Frigaard, N. U., ''et al.'' | title = Proteorhodopsin lateral gene transfer between marine planktonic Bacteria and Archaea | journal = Nature | year = 2006 | volume = 439 | issue = 7078 | page = 847-50 | pmid = 16482157 | doi = 10.1038/nature04435 }}</ref>。
*** "ステノス古細菌"/"Stenosarchaea"
**** '''"メタノミクロビウム綱"'''/"Methanomicrobia" = クラスIIメタン菌
***** ANME I-III - 嫌気メタン酸化古細菌。
**** '''メタノナトロナルカエウム綱'''/Methanonatronarchaeia
**** '''ハロバクテリウム綱'''/Halobacteria
* "[[プロテオ古細菌界]]"/"Proteoarchaeota<ref name = "pmid25527841">{{cite journal | author = Petitjean, C., ''et al.'' | title = Rooting the Domain archaea by phylogenomic analysis supports the foundation of the new kingdom proteoarchaeota | journal = Genome. Biol. Evol. | volume = 7 | issue = 1 | pages = 191-204 | year = 2014 | pmid = 25527841 | doi = 10.1093/gbe/evu274 }}</ref>・"エオサイト界"/"Eocyta"<ref name="PT2015" /> - ESCRT複合体で分裂、EF-1(伸長因子-1)に11アミノ酸残基の挿入がある。
** TACK系統<ref name="TM2011" />("フィル古細菌"/"Filarchaeota"<ref name="CSHPR2014" />)
*** "'''[[クレン古細菌]]門'''"/"{{sname|Crenarchaeota}}"
*** "'''[[タウム古細菌]]門'''"/"{{sname|Thaumarchaeota}}"
*** "アイグ古細菌門"/"{{sname|Aigarchaeota}}" - 地下320mの金鉱より発見された[[カルディアルカエウム・スプテッラーネウム|"''Ca.'' Caldiarchaeum subterraneum’"]]。ゲノム情報からは、好気または硝酸呼吸により、水素や一酸化炭素を酸化していると予想されている。[[ユビキチン]]-[[プロテアソーム]]システムに必要な遺伝子を持つ<ref>{{cite journal | author = Nunoura, T., ''et al.'' | title = Insights into the evolution of Archaea and eukaryotic protein modifier systems revealed by the genome of a novel archaeal group | journal = Nucleic Acids Research | year = 2010 | volume = 39 | issue = 8 | page = 3204-23 | pmid = 21169198 | doi = 10.1093/nar/gkq1228 }}</ref>。タウム古細菌に近縁で、タウム古細菌に含めることもある。
*** "[[コル古細菌]]門"/"{{sname|Korarchaeota}}" - 環境DNAサンプルと[[集積培養]]系のみ。環境中での存在量・分布は小さいと考えられる。嫌気従属栄養性の超好熱菌。ユーリ古細菌とクレン古細菌の2大系統以外では最も最初に発見され、当初は古細菌の中で原始的な系統に属すと考えられたが<ref>{{ cite journal | author = Barns, S. M., ''et al.'' | date = 1996 | title = Perspectives on archaeal diversity, thermophily and monophyly from environmental rRNA sequences | journal = Proc Natl Acad Sci U S A | volume = 93 | issue = 17 | pages = 9188&ndash;9193 | id = PMID 8799176 }}</ref>、その後クレン古細菌に近い系統と考えられている<ref name="TM2011">{{ cite journal | author = Lionel Guy, Thijs J.G. Ettema | date = 2011 | title = The archaeal ‘TACK’ superphylum and the origin of eukaryotes | journal = Trends in Microbiology | volume = 19 | issue = 12 | pages = 580-587}}</ref>。集積培養が得られている[[コラルカエウム・クリュプトフィルム|"''Ca.'' Korarchaeum cryptofilum"]]は、嫌気性・超好熱性の従属栄養生物である<ref>{{ cite journal | author = Elkins, J. G., ''et al.'' | date = 2008 | title = A korarchaeal genome reveals insights into the evolution of the Archaea | journal = Proc Natl Acad Sci U S A | volume = 105 | issue = 23 | pages = 8102&ndash;7 | id = PMID 18535141 }}</ref>。
*** "[[バテュ古細菌]]門"/"Bathyarchaeota" - 海底堆積物などで豊富に見つかる系統。未培養だが[[メタン生成]]経路<ref>{{cite journal | author = Evans, P. N., ''et al.'' | title = Methane metabolism in the archaeal phylum Bathyarchaeota revealed by genome-centric metagenomics | journal = Nucleic Acids Research | year = 2015 | volume = 350 | issue = 6259 | page = 434-8 | pmid = 26494757 | doi = 10.1126/science.aac7745 }}</ref>やバクテリオクロロフィルa合成酵素の検出例がある特異な系統<ref name = "ISMEJ2009" />。
** "[[アスガルド古細菌]]"/"Asgardarchaeota"<ref>{{cite journal | author = Da Cunha, V., ''et al.'' | title = Lokiarchaea are close relatives of Euryarchaeota, not bridging the gap between prokaryotes and eukaryotes | journal = PLoS Genet. | year = 2017 | volume = 13 | issue = 6 | pmid = 28604769 | doi = 10.1371/journal.pgen.1006810}}</ref> - 真核生物様の遺伝子を多数持ち、この系統から真核生物が派生したとする説がある<ref name = "Nature2015">{{cite journal | author = Spang, A., ''et al.'' | title = Complex archaea that bridge the gap between prokaryotes and eukaryotes | journal = Nature | year = 2015 | volume = 521 | issue = 7551 | page = 173-179 | doi = 10.1038/nature14447 | pmid = 25945739 }}</ref>。
*** "[[ロキ古細菌]]"/"Lokiarchaeota" - 水素依存性の嫌気性独立栄養生物と予想されている<ref>{{cite journal | author = Sousa, F.L. ''et al.'' | title = Lokiarchaeon is hydrogen dependent | journal = Nat. Microbiol. | year = 2016 | volume = 1 | issue = 16034 | page = | pmid = 27572645 | doi = doi: 10.1038/nmicrobiol.2016.34 }}</ref>。2010年に[[北極海]]ガッケル海嶺のロキの丘から発見された<ref name = "Nature2015" />。発見場所にちなんで"ロキ"古細菌と名付けられたが、これに倣ってアスガルド系統の古細菌には[[北欧神話]]の神の名前が付けられるようになった。
*** "[[ヘイムダル古細菌]]門"/"Heimdalarchaeota" - ゲノム情報よりプロテオロドプシンを持つことから、好気性の光従属栄養生物と予想されている<ref name="BioRxiv2018">{{cite journal | author = Paul-Adrian Bulzu, ''et al.'' | year = 2018 | title = The sunlit microoxic niche of the archaeal eukaryotic ancestor comes to light | url = https://www.biorxiv.org/content/early/2018/08/06/385732 | journal = BioRxiv | pages = 385732 | doi = 10.1101/385732}}</ref>。系統解析では[[真核生物]]を内部に含むことがある。
*** "オーディン古細菌門"/"Odinarchaeota" - チューブリンを持つ可能性がある<ref name="Nature2017"/>。
*** "トール古細菌門"/"Torarchaeota" - 有機物と硫黄に依存する嫌気性の従属栄養生物と予想されている<ref>{{cite journal | author = Seitz, K.W., ''et al.'' | title = Genomic reconstruction of a novel, deeply branched sediment archaeal phylum with pathways for acetogenesis and sulfur reduction | journal = ISME J. | year = 2016 | volume = 10 | issue = 7 | page = 1696-705 | pmid = 26824177 | doi = doi: 10.1038/ismej.2015.233 }}</ref>。
* [[DPANN群|DPANN系統]] - 集積培養や環境DNAのみだが、極端に細胞とゲノムサイズが小さい。古細菌の中でもっとも初期に別れた系統とする系統解析例が多いが、特殊化したユーリ古細菌とする見解もある<ref name = "pmid25527841"/>。
** "ディアペロトリテス門"/"{{sname|Diapherotrites}}" (pMC2A384) - [[明神海丘]]([[伊豆・小笠原弧]])の水深1330mにある[[ブラックスモーカー]]より最初に報告されたもの<ref>{{cite journal | author = Takai, K., Horikoshi, K. | title = Genetic diversity of archaea in deep-sea hydrothermal vent environments | journal = Genetics | year = 2016 | volume = 152 | issue = 4 | page = 1285-97 | pmid = 10430559 | doi = }}</ref>。ホームステーク金山跡の地下水から検出された集団は、ゲノム解析から従属栄養生物と予想されている<ref name = "ISMEJ2015">{{cite journal | author = Youssef, N. H., ''et al.'' | title = Insights into the metabolism, lifestyle and putative evolutionary history of the novel archaeal phylum 'Diapherotrites' | journal = ISME J. | year = 2015 | volume = 9 | issue = 2 | page = 447-60 | pmid = 25083931 | doi = 10.1038/ismej.2014.141 }}</ref>。同時に、ナノ古細菌などと同様の寄生生物から進化した可能性に言及されている<ref name = "ISMEJ2015" />。提案された古細菌門の中では、唯一-archaeotaを語尾に持たない。
** "[[パルウ古細菌|パルウ古細菌門]]"/"{{sname|Parvarchaeota}}" - テルモプラズマ目古細菌に関係(寄生の可能性もある)<ref name = "PNAS2010">{{cite journal | author = Baker, B. J., ''et al.'' | title = Enigmatic, ultrasmall, uncultivated Archaea | journal = Proc. Natl. Acad. Sci. U S A. | year = 2010 | volume = 107 | issue = 19 | page = 8806-11 | pmid = 20421484 | doi = 10.1073/pnas.0914470107 }}</ref>。非常に細胞サイズが小さい特徴がある<ref name = "PNAS2010" />。
** "ミクル古細菌"/"Micrarchaeota" - パルウ古細菌同様テルモプラズマ古細菌に関係し<ref name = "PNAS2010" />、細胞サイズが小さい。細胞サイズの小ささは全生物でもトップクラスで、長さ200 nm×幅60 nm、体積も0.009 μm<sup>3</sup>から0.04 μm<sup>3</sup>しかない<ref>{{cite journal | author = Comolli, L. R., ''et al.'' | title = Three-dimensional analysis of the structure and ecology of a novel, ultra-small archaeon | journal =ISME J. | year = 2009 | volume = 3 | issue = 2 | page = 159-67 | pmid = 18946497 | doi = 10.1038/ismej.2008.99 }}</ref>。ただし系統はやや離れる。
** "アエニグム古細菌門"/"{{sname|Aenigmarchaeota}}" (DSEG) - 深海の熱水噴出孔に存在する系統。
** "[[ナノ好塩古細菌|ナノ好塩古細菌門]]"/"{{sname|Nanohaloarchaeota}}" - 高塩環境に分布する<ref name = "ISMEJ2012">{{cite journal | author = Narasingarao, P., ''et al.'' | title = De novo metagenomic assembly reveals abundant novel major lineage of Archaea in hypersaline microbial communities | journal = ISME J. | year = 2012 | volume = 6 | issue = 1 | page = 81-93 | pmid = 21716304 | doi = 10.1038/ismej.2011.78 }}</ref>。ハロバクテリウム綱とは別系統<ref name = "ISMEJ2012" />。
** "[[ナノ古細菌]]門"/"{{sname|Nanoarchaeota}}" - クレン古細菌に寄生する系統。ゲノムサイズが非常に小さい。最初に発見され、''Ignicoccus hospitalis''に寄生する[[ナノアルカエウム・エクウィタンス|"''Ca.'' Nanoarchaeum equitans"]]は、ゲノムサイズが古細菌最少の49万0885塩基対しかない<ref name="PNAS2003">{{ cite journal | author = Waters, E., ''et al.'' | date = 2003 | title = The genome of ''Nanoarchaeum equitans'': insights into early archaeal evolution and derived parasitism | journal = Proc Natl Acad Sci U S A | volume = 100 | issue = 22 | pages = 12984&ndash;8 | id = PMID 14566062 }}</ref>。

== 脚注 ==
=== 注釈 ===
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{{Wikispecies|Archaea}}
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=== 出典 ===
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== 参考文献 ==
== 参考文献 ==
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<!--現在<ref name="ref19">まで使用-->


=== 参考・関連ウェブサイト ===
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2018年11月29日 (木) 12:16時点における版

古細菌
Halobacterium sp. NRC-1
地質時代
太古代先カンブリア代) - 現代
分類
ドメイン : 古細菌 Archaea
学名
Archaea Woese et al., 1990[1]
下位分類([注 2]

(詳細は#系統概観を参照)

古細菌(こさいきん、アーキアラテン語:archaea/アルカエア単数形:archaeum, archaeon)は、生物の主要な系統の一つである。細菌(バクテリア)、真核生物(ユーカリオタ)と共に、全生物界を3分している。古細菌は形態や名称こそ細菌と類似するが、細菌とは異なる系統に属しており、その生態機構や遺伝子も全く異なる。非常に多様な生物を含むが、その代表例として高度好塩菌メタン菌好熱菌などが良く知られている。

古細菌を特徴づけるものは幾つかあるが、最も確実なものはリボソームRNA配列と細胞膜脂質である。特に細胞膜脂質は、古細菌以外の全ての生物がsn-グリセロール3-リン酸の脂肪酸エステルを使用しているのに対し、古細菌はsn-グリセロール1-リン酸のイソプレノイドエーテルより構成される細胞膜を持つことで区別できる。

これまでに様々な名称が提案されてきたが、現在日本語では「古細菌」または「アーキア」が使用されることが多い。「始原菌[4][5](しげんきん)も使われる。中国語では、「古菌」ないし「古生菌」が使用される。

  • ※「古細菌」という名称は、「菌」や「細菌」を含むが、狭義の菌類(真菌)や狭義の細菌(真正細菌)とは異なる。分類学上の菌(Fungi)、細菌(Bacteria)、古細菌(Archaea)は、それぞれ別々の系統の生物であり、分類学上は菌類が真核生物ドメインに含まれ、細菌が細菌ドメイン、古細菌が古細菌ドメインを構成している。また、ラテン語名である「Archaea」という名称も、1854年にアゴダチグモ科の化石種に与えられているが、古細菌と直接の関係はない。

概要

ドメイン

生物を対象にした進化系統樹の1例[6]。扇の中心部分を起点に、生物が大きく細菌と古細菌の2系統に分かれていることが分かる
細菌、古細菌、真核生物の関係について、上の図を簡略化したもの。

生物学では、生物を互いに近縁な物同士グループ分けしている。例えば、イヌであればオオカミという種に属し、オオカミという種はイヌ属に、イヌ属はイヌ科、イヌ科はネコ目にといった風な具合である。下からドメインなどが設定されており、上位の階級になるにしたがって大きなグループとなる。古細菌は、ドメインという生物の分類学上、最上位で他の生物と区別されている。

ドメインの階級で分類されているのは、「細菌」、「古細菌」、「真核生物」の3分類群である。この3つで、全ての生物を3つに分けている。それぞれ以下のような生物が含まれている

ドメインでの分類は、基本的な遺伝の仕組みや生化学的性質を元に行われている。例えば、植物動物は見た目は大きく異なるが、細胞レベルで見るとDNA複製のメカニズムや細胞膜の主成分などは共通性が高い。逆に言えば、ドメインが異なる生物同士は、ある程度異なっている。

たとえば、古細菌とその他の生物の間には、以下の1,2ような違いが知られている。

  1. 細胞膜を構成する脂質の構造が対掌体の関係にある。具体的には、細菌及び真核生物では、細胞膜のグリセロール骨格のsn-1、sn-2位に炭化水素鎖が結合するのに対し、古細菌は例外なく炭化水素鎖が sn-2、sn-3 位に結合する。簡単に言えば、立体構造が反転しているということである。
  2. 細胞膜中の脂質に脂肪酸残基が一切含まれず、グリセロールにイソプレノイドアルコールがエーテル結合した脂質骨格を持つ。細菌及び真核生物の細胞膜にはグリセロールに脂肪酸がエステル結合したリン脂質が使用されている。

また、古細菌と細菌の間の違いも以下のようなものがある

  1. 細菌の細胞壁はムレイン(ペプチドグリカン)であり、N-アセチルムラミン酸、D-アミノ酸を含むのに対し、多くの古細菌の細胞壁はタンパク質であり、N-アセチルムラミン酸、D-アミノ酸を持たない。
  2. 生命の基幹部分の1つともいえるDNA複製に関与する酵素群が、古細菌と細菌は全く異なる(古細菌と真核生物は類似する)。

古細菌と真核生物の違いについてもいくつか列記する(古細菌と細菌は共通する)

  1. 真核生物は細胞核ミトコンドリアなどの細胞小器官を持つ。古細菌と細菌は原核生物であり、細胞小器官を持たない。
  2. 真核生物はエンドサイトーシスによる細胞内への取り込み機構がある。古細菌と細菌にはそのような機能はない。

これらの違いに加え、進化的にも差が大きい。真核生物内部の分類群である植物と動物が分かれたのは精々10-15億年前、動物と菌類に至っては6-9億年前のことだが、古細菌と細菌の共通祖先は35-42億年前、地球史上でもごく初期に遡る可能性が高い。古細菌から真核生物が分かれたのは20-30億年前のことだが、真核生物は非常に特殊化しており、もはや同じ生物とは言い難い。以上のような生化学的差異、進化系統学的位置の違いによりドメインが定義されている。

含まれる生物

古細菌ドメインは更に、クレン古細菌タウム古細菌ユーリ古細菌に分けられている。詳細は後述(#古細菌の分類)するが、概要を述べる。それぞれ以下のような生物を含む

タウム古細菌以外はヒトから見れば極端な環境に生息している。ヒトに身近なのは腸内常在微生物叢の一部を占め、嫌気性の沼などにもいるメタン菌や、窒素循環に関連する亜硝酸古細菌程度(タウム古細菌に含まれる)である。これ以外にも様々な生物が含まれるとみられるが、培養が難しく研究が進んでいない。2018年時点で正式に記載されている古細菌は約550種である。

呼称

古細菌という呼称は、6界説を提唱したカール・ウーズらが名づけたArchaebacteriaの翻訳である。Archaebacteria自体は、メタン菌が太古の地球大気の主要構成成分と考えられていた二酸化炭素水素の混合気体を基質として生育するため、Archae(ギリシア語:αρχαία/太古・始原) + Bacteria(小さな棒)と名づけられたことに由来する[7]

1980年代に入ると、古細菌 (Archaebacteria)が真正細菌よりもむしろ真核生物に近いことが明らかになり、それ程広くは使われなかったが後生細菌 (Metabacteria; メタバクテリア) という用語が提唱された[8]

1990年になるとウーズは3ドメイン説を発表した。この際、これまでArchaebacteriaと呼ばれてきた生物群に対して、Archaeaという名称が与えられ、細菌と区別するためにbacteriaが外された[1]。以後英語圏ではArchaeaが定着した。日本でもこれに対応して細菌が外され、始原菌という和名が提唱された。しかしながら始原菌という用語はそれ程定着しなかった。現在、最も一般に使用されるのは古細菌、または英語読みのアーキア(まれにアーケア)で、一部の研究者の間では始原菌、ラテン語に由来するアルカエア(アルケア)[9][注 3]といった呼び方もされる。

このほかの呼称としては、Mendosicutes(メンドシクテス)[注 4]や古バクテリア類、後生細菌といった表現もみられる。いずれも古い用語であり、使用頻度は下がっている。英語圏でもまだArchaeabacteriaは使用されており、特に著名な研究者であるトーマス・キャバリエ=スミスらがこの語を用いている[2][注 5]。2分岐説(エオサイト説)において、アーキア(Archaea)を真核生物を含む範囲に拡張する場合、原核生物のみを指して古細菌と便宜上呼称する場合もある[11][12]

なお、中国語でも当初は古細菌と呼ばれていたが、「Archaea」に対しては、「古菌」[13]や「古生菌」[14]という漢字名が広く使用されている。

また、古細菌ドメインの下位タクソンであるEuryarchaeota、Crenarchaeota、Thaumarchaeotaはそれぞれ、ユーリ古細菌クレン古細菌タウム古細菌と訳される[15]

発見史

古細菌(archaebacteria)発見の歴史は細菌(eubacteria)発見の歴史に並行している。今日知られているような枠組みが完成する以前は、高度好塩菌メタン菌好熱菌それぞれ別々の枠組みで研究が進められていた。古細菌という枠組みができたのは1977年以降である。

発見

1674年アントニ・ファン・レーウェンフック微生物を発見して以来、徐々に研究が進んでいた。1868年には微生物の働きによりメタンが発生することを初めて確認し、1880年代には高度好塩菌の研究が始まった。これ以前にもなどからメタンが発生すること、塩蔵の食品や塩田が赤く染まることは知られていたが、微生物によるものとは考えられていなかった[16]朝の本草綱目にも、天日塩の製造過程で塩水が赤く染まることが記述されている[17]

20世紀に入ると、1922年に高度好塩菌の分離が始まり、Pseudomonas salinaria(後のHalobacterium salinarum)と名づけられた。翌年Serattiaに移され、その後もPseudomonasに戻されるなど分類は混乱した。1974年にようやくハロバクテリウム科にまとめられた。一方、メタン菌は存在することは分かっていたものの、酸素を極端に嫌う生物であり、1936年にやっと培養に成功し、1947年にはMethanobacterium formicicumMethanosarcina barkeriが分離された。[18]

既に1930年頃には原核生物真核生物の違いが認識されており、原核生物帝(1937年)次いで五界説モネラ界1969年)が提唱された[19]。高度好塩菌とメタン菌には明らかにがなく、以後モネラ界の枠組みに含まれることとなった。

一方、好熱性の古細菌[注 6]は少し遅れ、1970年炭鉱ボタ山から好熱好酸菌Thermoplasma acidophilumが発見された[21]。この生物は細胞壁を欠くことからマイコプラズマの仲間とされた[21]1972年にはイエローストーン国立公園より好熱好酸菌Sulfolobus acidocaldariusが発見された[22]が、これらは別々に少し変わった生物だとして知られているに過ぎなかった。当時、メタン菌、高度好塩、ThermoplasmaSulfolobusはそれぞれ別々の門や群に分類されていた[注 7]

しかし、1960年頃から他の生物とは性質が異なるという報告もされ始めている。今日知られている古細菌の特徴の一つであるエーテル型脂質は、1962年に高度好塩菌Halobacterium salinarum (Halobacter cutirubrum[注 8])より発見され[23]1972年には好熱菌Thermoplasma acidophilumも、やはり同じ脂質を持つことが判明した[24][25] ペプチドグリカン細胞壁を持たないという報告も1970年代にはいくつか出されている[26][7]

定義

ウーズによる16S rRNAを基にした系統樹
左がカール・ウーズ、真ん中がラルフ・ウォルフ、右がオットー・カンドラー。1981年

これらの生物を他の原核生物と区別した最初の人物は、イリノイ大学カール・ウーズである。

1960年代、互いに近縁な生物タンパク質アミノ酸配列や塩基配列が似ているという理論を背景にした分子時計中立進化説[27]が提唱され、生物の系統解析が開始されようとしていた。原核生物では、DNA-23S rRNA分子交雑法[28][29]、5S rRNA塩基配列などといった方法が取られ始めていた[注 9]

この流れの中で、ウーズらも、ライナス・ポーリングらの研究[31]に影響を受け、1960年代後半から16S rRNAを用いて生物の分類を始めていた[32]。彼が考案・使用した方法は、16S rRNAをいくつかの小断片に切断し、対応する配列と一致する塩基の割合を比較するポリヌクレオチドカタログ法[注 10]というものだった[33]

様々な生物のrRNAを比較する中で、1976年、ウーズは同僚のウォルフ[注 11]からメタン菌コロニーの提供を受け、そのrRNAが他の原核生物と大きく異なるという結果を得た[34]。ウーズらはさらに研究を続け、翌1977年、この結果を元に原核生物を古細菌界(Archaebacteria。メタン菌)と真正細菌界(Eubacteria。その他の細菌)に分けるべきと主張した[7]

この時点で古細菌界はメタン菌のみを含むものであったが、1978年にメタン菌からエーテル型脂質が発見[35][36]され、古細菌の特徴の一つとして、エーテル脂質を持つ可能性が出てきた。これは、既にエーテル脂質を持つ事が知られていた高度好塩菌及び好熱菌の一部も古細菌界に含まれることを示唆した。同年、rRNA系統解析が行われ、高度好塩菌と好熱菌の一部も古細菌界に属すことが支持された[37]。しかしながら、通常の細菌と形態の殆ど変わらない生物を塩基配列データのみで分類することに抵抗は大きく、古細菌界という分類群が受け入れられるには時間がかかった。分割に反対する研究者もいた[38][39]

1980年代以降、古細菌の研究が活発になり、この時期、真正細菌と古細菌の差異を示す研究が蓄積された。それと共に古細菌という概念も受け入れられ始めた。1982年、それまでの常識を打ち破る110℃で増殖する古細菌が発見され[40]、古細菌研究をさらに活発化させた。

1989年には共通祖先以前に重複した遺伝子を用いることによって古細菌が真正細菌よりも真核生物に近いことが報告された[注 12]。ウーズはこの説を採用し、1990年には全生物を真核生物ドメイン、古細菌ドメイン、細菌ドメインの3つのグループに大別する3ドメイン説を提唱した[1]

1996年には、超好熱性のメタン菌Methanocaldcoccus jannaschiiの全ゲノムが解読された[43][注 13]。これは古細菌として初めて、全生物の中でも4番目の解析例である[45][注 14]。先行して解読されていたインフルエンザ菌Mycoplasma genitalium出芽酵母との比較により、代謝系の遺伝子細菌にやや類似、転写・複製・翻訳に関連する遺伝子は真核生物に類似するが、細菌と類似の遺伝子はわずか11〜17%しか見つからず、半分以上の遺伝子はどちらにも見つからない新規の遺伝子であった[43]。これは古細菌が、他の生物とは大きく異なることを裏付けるものであった[47]。これらの結果を受け、今日大方の微生物学者に古細菌ドメインという分類群は受け入れられている。

生息環境

極限環境

高度好塩古細菌によって赤く着色したサンフランシスコ湾塩田
東太平洋海嶺ブラックスモーカー
強い酸性を帯びた坑廃水

古細菌は生物圏の広い範囲に分布し、最大で地球上の総バイオマスの20%を占めるとも言われている[48]。純粋培養が可能な古細菌の多くは極限環境微生物あるいは非常に強い嫌気度を要求するメタン菌であり、このため歴史的に極端な環境に分布すると考えられてきた[49]。実際、20世紀末までに医療分野や通常の土壌・水系から古細菌が分離されることは、一部のメタン菌を除き殆ど無かった。その一方で、間欠泉ブラックスモーカー油田塩田塩湖、強酸、強アルカリ環境から比較的容易に古細菌が発見されてきた歴史がある[50]

これらの極限環境に生息する古細菌は、大まかに高度好塩菌、超好熱菌、好熱好酸菌へと区分することができる。Halobacterium属を含む高度好塩菌は、20-25%のNaCl濃度で盛んに増殖し、塩湖など非常に塩濃度の高い環境に生息する。アフリカ中国の塩湖の中にはpHが10を超えるものもあり、このような環境からは、好アルカリ性高度好塩菌が分離されている。有名なものとして、pH12で増殖できる高度好塩菌Natronobacterium gregoryiがある。高度好塩菌は特別な培養装置を必要とせず、基本的には培地に塩を加えるだけで良いので[注 15]2018年現在記載種は250種近くに達している。これは古細菌ドメインの半数近い。

好熱菌温泉など45°C以上の環境でよく活動するものをいう。このうち80°C以上に至適生育温度を持つものを超好熱菌と呼ぶ。Methanopyrus kandleri Strain 116は、全生物中最も高温で生育する生物として知られ、122°Cで増殖が可能と報告された[51]。このほかPyrococcusPyrodictiumなどがあり、温泉や陸上硫黄孔、火山海底熱水噴出孔などの多様な熱水系に生息する。嫌気性のものが多いが、偏性好気性の超好熱菌もAeropyrum pernixSulfurisphaera tokodaiiなど幾つかいる(後者は好酸性も兼ねる)。

硫黄分を含む熱泉では、硫黄が酸化されてしばしば強い酸性になる。強酸を好む好熱好酸菌は、スルフォロブス目テルモプラズマ目に代表され、温泉や硫気孔、ボタ山などから発見される。初期に発見されたものとしてはSulfolobusThermoplasmaなどがある。好酸菌の極端な例としては、pH-0.06(1.2M硫酸溶液下に相当)で増殖する好熱好酸菌Picrophilus[52]がいる。Stygiolobus azoricusを除き、大半が偏性好気性か通性嫌気性である。

なお、極限環境微生物と古細菌は、しばしば混同して使われることがあるが、必ずしも全てが古細菌というわけではない。極限環境で生育する細菌も多数存在しており、少数ではあるが超好熱性の細菌も知られている[注 16]。とはいえ、やはり細菌は医療細菌や常在細菌の存在感が大きく、古細菌ほどは極限環境微生物の割合は多くない。

また、超好熱菌、好熱好酸菌などの菌群は表現型による区分であり、系統による分類と一致するとは限らない。高度好塩菌はハロバクテリウム綱、好熱好酸菌はテルモプラズマ目及びスルフォロブス目にほぼ一致するが、超好熱菌は古細菌ドメインの広い分類範囲に存在し、むしろ超好熱菌のいない目の方が少数派である。また、場合によっては複数条件で極限環境微生物と言えるものもあり、Methanonatronarchaeum thermophilumなどは、好熱性・好アルカリ性かつ強い好塩性のメタン菌である[53]

各生育・生存パラメータにおける代表種と限界値は以下のとおりである

そのほかにも、超好熱かつ好酸性のSulfurisphaera ohwakuensis(限界温度92℃、限界pH1)、超好熱かつ好アルカリ性のThermococcus alkaliphilus(限界温度90℃、限界pH10.5)などがある。

嫌気環境

タイ王国 チェンマイ県水田

嫌気性の古細菌は、偏性嫌気性が約260種、通性嫌気性が約10種となっている。なお、偏性好気性の古細菌は約270種で、おおむね古細菌の半分が好気性、半分が嫌気性ということになる。

嫌気性の古細菌で代表的なものは、メタン菌(メタン生成菌)である。約160種が記載されている。これは代謝の結果メタンを生成する微生物の総称であるが、このような代謝を起こす生物は古細菌以外に知られていない。強い嫌気度を要求し、水素酢酸などを代謝する為、それらが豊富な環境に分布する。例えば海底熱水噴出孔などでは、地球科学的または付近に生息する微生物によって水素が発生しており、それらを餌にメタン菌が大量に存在している。これらは同時に超好熱性も備えている。Methanopyrus kandleriMethanocaldococcus jannaschiiMethanothermus fervidusなどがある。

水田や湖沼、海洋堆積物の中も微生物の働きによって酸素が消費され、水素や有機酸アルコールなどが発生しており、それらをメタン菌が消費している。海洋ではメタノコックス綱[56]、淡水系ではメタノバクテリウム綱メタノミクロビウム綱が主にみられる[56]。動物の消化器官や発酵槽などでもメタノバクテリウム綱メタノミクロビウム綱が生息している[57]。メタン発酵槽には好熱性のものやMethanosaetaが多い[57]

メタン菌はかなり広い範囲に分布しており、メタン菌そのものは極限環境微生物に含めないことが多い。ただし、増殖には酸化還元電位にして-0.33Vの非常に強い嫌気環境が必要である。

メタン菌以外では、未培養系統であるが、冷湧水帯堆積物や海洋堆積物に、ANME I-IIIと呼ばれる嫌気的メタン酸化菌が存在する[58]。この他にも、膨大な数の古細菌が海底の堆積物の中から見つかっている。2008年には、海底1m以深の沈澱物中に存在する生物の大部分を古細菌が占めるという報告がなされた[59][60]。これらは殆ど培養されておらず、不明な点が多い。

なお、前述の超好熱菌は、偏性好気性のAeropyrumSulfolobusSulfurococcus、通性嫌気性のAcidianusPyrolobusPyrobaculum aerophilumを除いて大半が偏性嫌気性である。

より温和な環境

海綿の1種(アキシネラ)内部に多数のCandidatus "Cenarchaeum symbiosum"(タウム古細菌)を共生させている

一方で、近年いくつかの研究が、極限環境や嫌気環境だけでなく、より温和な環境にもメタン菌以外の古細菌も存在することを示している。例えば極地などの冷たい環境において古細菌の遺伝子が高頻度で検出されている[61]。一般的な海洋においても、細胞数当たりで微生物の約20%を古細菌が占めるという[62]湿原下水海洋土壌などにも古細菌は存在する[63]。これら環境古細菌の多くは、メタゲノム、脂質解析といった手法を用いることにより明らかにされつつある。

特に以前中温性クレン古細菌(Mesophilic Crenarchaeota)と呼ばれ、現在タウム古細菌[64]と呼ばれるグループは、2000年以降急速に進展した分野である。2005年に初めてNitrosopumilus martimus純粋培養に成功し[65]、2014年にはNitrososphaera viennensisが記載[66]された。2018年には記載種の数は6種となっている。分離源は水族館のフィルターや海水の土といった"通常の"環境で、生育温度も25~42℃と低く、pH、塩濃度といった他の生育パラメータも極端な数字ではない[66][67][68]

タウム古細菌以外の系統は培養に成功していないが、環境DNAサンプルとして多数存在し、代表的なものとして海洋の有光層に多いMarine group IIと呼ばれるグループが知られている[69]

物質・エネルギー循環における役割

古細菌は、かつてメタン生成を除き、地球上の物質循環への影響は限定的と考えられてきた。しかし、難培養性の古細菌の研究が進むにつれ、地球規模の物質循環への寄与が無視できないものであることが明らかとなってきている。全体として見た場合、環境中の古細菌は、炭素窒素硫黄における物質循環の一部を構成している。

近年注目されているのは窒素循環への関与である。以前からメタン生成菌や好熱菌など一部の古細菌が窒素固定や硝酸塩呼吸を行うことは知られていたが、これらに加え、2005年タウム古細菌アンモニア酸化を行うことが発見された[67]メタゲノム解析は、アンモニアモノオキシゲナーゼを有すタウム古細菌(亜硝酸古細菌)が、海洋、土壌何れにおいてもアンモニア酸化細菌を遥かに上回ることまで示している[70][71]。これにより、アンモニア酸化は細菌が行うというこれまでの常識が崩された。農業用土壌では、アンモニア酸化細菌と古細菌は、アンモニア濃度やpH、土壌深度等に応じて住み分けを行っているようである[72]亜硝酸はその後別の細菌によって硝酸に酸化され、植物など他の生物によって利用される。この過程に古細菌が関与するという報告はない。亜硝酸古細菌はまた、温室効果ガスである一酸化二窒素を放出する[73]。一方で、亜硝酸古細菌はメタンの酸化分解を行うという報告もある。

また、硫黄循環においては、鉱物から硫黄を遊離する過程で古細菌が働く。例えばSulfolobusは単体硫黄を酸化することによって増殖する。この活動によって生成する硫酸が環境汚染を引き起こすことがあるが[74]、硫黄循環においては、硫黄を植物に利用できる形に変化させるという点において重要である。ただし、この反応は細菌の一部も同様に起こすことができる。

メタン生成菌は炭素循環において独特の地位を占める。これらの古細菌が持つ水素有機酸をメタンとして除去する能力は、嫌気条件での有機物代謝の最終段階を担っている。この過程は「メタン菌」において詳しい。天然ガスメタンハイドレートも、その生成にはメタン菌が関与している。

しかしながら、メタンの温室効果は二酸化炭素の21倍強く、地球温暖化寄与率は18%に達する[75]。メタン菌は地球上におけるメタン放出量の少なくとも2/3以上を占めると考えられている。水田反芻動物から放出されるメタンも、元を辿ればほぼ全てがメタン生成菌由来である。なお、古細菌の中には、硫酸還元細菌と共生し、嫌気条件下でメタンを硫化水素と二酸化炭素に分解する系統も存在する[76]

2015年には、植物プランクトンにとって重要な補因子である、海洋のビタミンB12生産の大部分をタウム古細菌が担うと報告された[77]

一部の古細菌は光エネルギーの利用も行うようである。バクテリオクロロフィルを使った光合成は知られていないものの[注 23]、高度好塩菌やMarine group IIが保有する、バクテリオロドプシンやプロテオロドプシンは、光駆動プロトンポンプの機能を持つ[79][80]。地球上における光エネルギーの利用はバクテリオクロロフィルを含むクロロフィル型が主だと考えられてきたが、細菌を含めたプロテオロドプシンによるエネルギー生産量はその1割にも達すると見積もられており[81]、古細菌Marine group IIもその一部を占める。ただしこれらは炭素固定を行わない光従属栄養生物と考えられる。

他生物との関係

牛などの反芻動物の消化器官には大量のメタン菌が存在しており、メタンを生成している。

他の生物との関係は、相利共生か片利共生のどちらかである。病原性の古細菌は確実なものは知られていない[82][83][注 24]。寄生の例としては、"Ca. Nanoarchaeum equitans"が、別の古細菌Ignicoccus hospitalisとの共存下のみで増殖する例がある[85]

メタン菌原虫の相互作用は相利共生として理解されている。これは、反芻動物白アリ消化器官セルロースを分解するために働く[86]。原虫は嫌気条件でエネルギーを得るためにセルロースを代謝し、その過程で廃棄物として水素を放出する。水素が蓄積すると原虫は増殖が阻害される。メタン菌はこの水素の除去を行い、原虫は効率的なエネルギー生産を可能とする[87]。有機酸や水素を放出する嫌気性細菌との間にも同様の共生関係が成り立つ。この関係は古細菌同士でも可能で、メタン菌であるMethanopyrus kandleriが存在すると、水素を放出するPyrococcus furiosusM. kandleriに付着してバイオフィルムを形成する[88]。こういった関係はいくつかの原虫、菌類でより進展しており、例えばPlagiopyla frontataNyctotherus ovalisなどは細胞内に共生メタン菌を保有する[89][90]

ヒトの体内で最も一般的なのはMethanobrevibacter smithiiというメタン菌である[91]。このメタン菌を保有するマウスは体重増加が報告されており[92]、栄養吸収や肥満に関係している可能性がある。高齢者に多い[93]Methanomassiliicoccus luminyensisは、有害なメチルアミンを無害なメタンに分解する[94]。一方、口腔内に存在するMethanobrevibacter oralisについては、免疫応答に関与することで歯周病を悪化させる危険因子であるとされている[95][96][97]。メタン菌はヒトにとって、有益でも有害でもありうる[98]

メタン菌以外では、海綿Axinella mexicanaタウム古細菌"Ca. Cenarchaeum symbiosum"の関係が報告されている[99]

ヒトによる利用

ドイツバイオガス製造プラント

汚水処理施設やバイオガスの製造において、メタン菌によるメタン発酵が行われている。また、味噌醤油キムチ[100]からHalococcusに代表される高度好塩菌が検出されることがある[注 25]。この他菌体を直接利用するものはあまりないが、好熱好酸菌は硫化水素や金属の処理目的に研究されている[101][102]

一方、新しい遺伝子資源としても注目を集めてきた[103]Pyrococcus furiosusThermococcus kodakaraensisなどに由来するDNAポリメラーゼ(Pfuポリメラーゼ、KODポリメラーゼ)は、Taqポリメラーゼ(細菌Thermus aquaticus由来)に比べ複製正確性が高く、PCRになくてはならない酵素の一つである[104]。タンパク質が結晶化しやすく、真核生物のホモログあるいは新規酵素を多数持つことから、タンパク質の構造研究にもしばしば使用される[105]。これまでのところあまり実用化されていないが、CRISPR/Cas[注 26]抗生物質[106]など未利用の遺伝子資源も存在する。

細胞の形態・構造

典型的な超好熱菌Thermococcus gammatoleransの電子顕微鏡写真
古細菌の基本的な構造(モデルは上のThermococcus gammatolerans)。細胞膜の外側には細胞壁がある。膜につつまれた細胞小器官は存在せず、内容物は混ざっている。色は区別のための着色で、実際のものとは異なる。

古細菌の外観は細菌と似ている。0.5から数マイクロメートル程度の大きさを有し、球菌桿菌またはディスク状など様々な形が見られる。大きさは最大の球菌で直径10数μm程度である[107]

珍しい形として、Haloquadratum walsbyiは、極薄の四角形の紙片状[108]、高度好塩菌には他に三角菌(Haloarcula japonica )もいる。 Thermofilum pendensは極細の針状(最大長~100μm)、ThermoplasmaFerroplasmaは、強固な細胞壁を持たないために、一部の種は定まった形を持たず、アメーバのような形になることもできる[109]。また複数の細胞が集合して大規模な融合細胞を形成するものも存在する。この例としてはThermococcus coalescensが知られている[110]

古細菌は原核生物であるため、通常細胞内の膜系を発達させず、細胞内の目立つ構造物と言えばDNAリボソームガス泡PHBの顆粒くらいである。これらを含む細胞質細胞膜がつつみ、その外側を細胞壁が覆う。一般に細胞壁は細菌よりも薄く、機械的強度も弱い。細胞表面には、鞭毛線毛、繊維状の付属構造を持つ場合がある。なお、細胞内の膜系に関しては、ThermoplasmaIgnicoccusといった例外も存在する[111][112]Ignicoccusは、外細胞膜と内細胞膜、その間の巨大な疑似ペリプラズムに特徴づけられる。外側の膜にATP合成酵素があり、疑似ペリプラズムにおいてもATPが利用可能な点で、グラム陰性細菌と異なる[113]。内部はフィラメントや網構造が非常に入り組んで観察される[114]

細胞よりも高次の構造も乏しく、殆どの種は単独か原始的な群体を持つに過ぎない。Methanosarcinaは接着物質を使用し、小荷物様の群体を形成する。他のメタン菌の中には、シースと呼ばれる鞘の中に複数の細胞が鎖のようにつながった形態をとるものがある。シート形成や網目状のネットワークを形成するものもある[115][116]

何れにせよその形態は原核生物の範疇を超えるものではなく、そのため個性に乏しく形態により古細菌を特徴づけるのは困難である。古細菌を特徴付けているのは、ほとんどが分子生物学的知見による。

細胞壁

古細菌の細胞壁は一般的にタンパク質性のS層である[117]。S層は多くの細菌にも認められるが、細菌と異なりペプチドグリカンを持たず、S層そのものが細胞壁になっているという点で異なる。古細菌のS層は熱に対して極めて安定だが、細菌の細胞壁と異なり浸透圧変化に脆弱で機械的強度も弱いものが多い[118]

メタノバクテリウム綱は、シュードムレインと呼ばれる糖ペプチドを持つ[117]。これはペプチドグリカンの一種ではあるが、ムラミン酸やdアミノ酸を欠くという点で細菌の細胞壁と区別できる。Methanopyrus kandleriMethanothermusは、シュードムレインの外側に更にS層がある[117]

S層もシュードムレインも、その合成系の違いから、細菌の細胞壁合成を阻害するβ-ラクタム系抗生物質、グリコペプチド系抗生物質は効果が無い。一般的な傾向として、グラム染色ではS層が陰性に、シュードムレインが陽性に染色される。[119]

その他の細胞表層構造としては、シース(MethanospirillusMethanosaeta)、メタノコンドロイチン[120]Methanosarcina)、多糖類(Halococcus)、グルタミニルグリカン(Natronococcus)などがある[117]。また、テルモプラズマ綱は細胞壁が無い。

多くの古細菌はグラム陽性細菌同様外膜を持たないが、Ignicoccus及びMethanomassiliicoccus luminyensis、未培養系統であるARMAN[117]は外膜(または外細胞膜)を持つ[121]。これらは系統的に離れていて、進化的な意義は不明である。

べん毛

基部のモーターにより鞭を回転させ、細胞の移動を可能とする器官である。直径10-15nm、全長10-15μm。細菌のべん毛に似るが、よく見るとやや細く、また、構成するタンパク質にも相同性はない。むしろ古細菌自身やグラム陰性細菌が持つIV型線毛との共通点が多い。一方、細菌の鞭毛はIII型分泌装置との共通点が多く、両者は異なる起源を持つと考えられている。

鞭毛の繊維部分は根元にユニットが追加される形で伸長する[注 27]。また、細菌は鞭毛の駆動力として水素イオン濃度差を利用するが、こちらはATP加水分解により駆動する。エネルギー変換効率はほぼ100%の高効率を達成している細菌に比べて著しく低く、6~10%程度と見積もられている[122][123][124][125]

古細菌とその他の生物の極性脂質の違い。1-4, 10は古細菌細胞膜脂質の代表例2,3-ジフィタニル-sn-グリセロール1-リン酸、5-9はそのほかの生物の細胞膜脂質

細胞膜

細胞膜を構成する脂質は、古細菌とその他の生物を区別する最大の特徴である。真核生物細菌sn-グリセロール3-リン酸sn-1位、2位[注 28]脂肪酸エステル結合しているが(図5-8参照)、古細菌はこれと鏡像体の関係にある脂質を持ち、sn-グリセロール1-リン酸sn-2位、3位にイソプレノイドアルコールがエーテル結合している(図1-4参照)。エーテル結合を含む脂質や環状脂質自体は、超好熱細菌AquifexThermodesulfobacteriumなどからも見つかっているが、グリセロール骨格部分の立体構造は例外なく古細菌特有のものである。[126]

炭化水素鎖は多くの場合、C20(稀にC25)イソプレノイドのみからなる。脂肪酸は存在しない。不飽和型も稀である。一部の古細菌の細胞膜には、炭化水素鎖が向かい合って結合した形のテトラエーテル型脂質や、炭化水素鎖の途中で架橋、あるいは環状構造を有す物も存在する(図10参照)。細胞膜上にはATP合成酵素電子伝達体(その他メタン生成経路バクテリオロドプシンなども)などの酵素類が偏在しており、古細菌の代謝の主要な場である。膜上にはこの他に各種輸送体や各種センサーなどが存在する。[127]

細胞質

細胞質に目立つ構造は少ない。DNA、エネルギー貯蔵用のポリヒドロキシ酪酸の顆粒、リボソーム、高度好塩菌などが持つ浮力調整用のガス胞などが比較的目立つ程度である。

細胞骨格については、Thermoplasmaが細胞壁がないにもかかわらず、様々な形をとることから、発見時より何らかの形で細胞骨格が存在することが推測されていた[128]。これは細菌のMreBに類似した蛋白質が使われている。

一方、クレン古細菌からはアクチンに類似するタンパク質が報告されている。ロキ古細菌から発見されたアクチンは、ヒトアクチンと58-60%の同一性を持ち、プロフィリンウサギアクチンと相互作用を起こすことができる[129][130]。この系統やタウム古細菌からはチューブリンに近い遺伝子も報告されているが、実態は良く分かっていない[131]

DNAと遺伝子発現

DNA

1996年Methanocaldococcus jannaschiiの全ゲノムが解読されて以来、2018年までに250株以上の古細菌についてゲノムの解析が行われた。ゲノムサイズは1.2 - 6 Mbp(Mbp=100万塩基対)と細菌と比較してもやや小さく、Methanothermus fervidusのゲノムは124万3342bpしかない[132]。完全独立生物を送るものとしては最小である。さらにIgnicoccus hospitalisという古細菌に共生している“Ca. Nanoarchaeum equitans”に至っては宿主に完全に依存しているとはいえ、49万885bpというきわめて小さなゲノムを持つ[133]。これまでに解析された古細菌のうち、最大のゲノムを持つのはMethanosarcina acetivorans(575万1492bp)である[134][注 29]ゲノムは好熱菌では1分子のことが多いが、高度好塩菌や一部のメタン生成菌は副ゲノムやプラスミドを所持する例も多い。ゲノムサイズは小さいものの、古細菌のゲノムは細菌真核生物よりも複雑性が高いという[135]

DNAの構造は細菌に類似しており、環状のDNAを持ち、それが凝集して核様態を形成している。DNA結合タンパクは細菌とは異なり、一般的に古細菌型ヒストンである[136][137]Methanothermus fervidusのヒストンは詳細に観察されていて、真核生物のH3-H4四量体に対応する構造をとる。この四量体におおよそ60bpのDNAが巻き付き、真核生物のヌクレオソームに類似する構造を形成することが報告されている[138][139][注 30]。ただし古細菌型ヒストンは、三次構造レベルでは真核生物ヒストンによく似ているものの、翻訳後修飾を受けるという報告は無く、N末側テールに相当する領域も欠く[注 31]

その他各種DNA結合タンパクが存在する。テルモプラズマ綱デスルフロコックス目スルフォロブス目はヒストンを持っておらず、それぞれ細菌のHU様タンパクや[140]、独自のAlbaタンパクを使用する[141]

DNA複製は、細菌と真核生物で使用している酵素群に全く相同性が無く、両者の起源は異なると推定されている。一方、古細菌は真核生物のDNA複製に近いようで、真核生物の複製系酵素のホモログが多数見つかっている[142][143]

実際に複製を担うDNAポリメラーゼは、真核生物が使用しているBファミリーDNAポリメラーゼ(以下PolB)と、古細菌独自のDファミリーDNAポリメラーゼ(以下PolD)である[144]。このどちらか、または両方が複製に使用されている[注 32]岡崎フラグメントの長さは真核生物と同様短いが[145]、複製速度は細菌同様速い。DNAそのものは細菌と同じく環状2本鎖にもかかわらず、複製開始地点が複数存在する場合もある[146]。一般に、古細菌のDNA複製機構は、真核生物のそれの祖先型とみられている[147][148]

また、古細菌に感染するウイルスも多数発見されている。多くは二本鎖DNAウイルスで、形態はかなり多様性に富んでいる。海洋環境でのウイルスによる感染の影響は細菌よりも古細菌の方が大きく、ウイルスによって死滅させられた古細菌から、炭素換算で年間3~5億トンものバイオマスが供給されていると見積もられている[149]。ウイルスに対しての獲得免疫システムとしてCRISPR/Casシステムがあり、古細菌の84%にCRISPRが存在すると推定される[150][注 33]

タンパク質の合成

DNAからタンパク質が合成される際は、まずRNAポリメラーゼがDNA配列に従いmRNAを合成(転写)し、さらにリボソームmRNA配列に従ってタンパク質に翻訳される。この過程はあらゆる生物において共通しているが、真核生物、細菌でタンパク質合成機構が微妙に異なる。全体としてみた場合、古細菌のタンパク質合成機構は細菌と類似する点もあるが、分子構造は真核生物(真核生物の翻訳参照)と類似している[151]

転写機構は真核生物のRNAポリメラーゼIIによる転写機構とよく似ていて、立体構造も酷似する[注 34]リボソームは3つのRNAと70種弱のタンパク質より成り、RNAはやや細菌に、タンパク質は真核生物に近い[注 35]。翻訳開始アミノ酸はメチオニンで、リボソームがストレプトマイシンキロマイシンによって阻害を受けず、ジフテリア毒素によって阻害を受けることなどの点で真核生物に似ている[注 36]

詳細は転写 (生物学)翻訳 (生物学)を参照

中央代謝

古細菌のTCA回路は他の生物とほぼ同じである。好気性の古細菌や一部の嫌気性クレン古細菌は完全なTCA回路を備えており[155]、反応は通常の好気性細菌や真核生物と同様に進行する。残りの嫌気性菌はTCA回路を部分的にしか備えておらず、炭酸固定などに利用している。[156]

解糖系は各古細菌種によってED経路(エントナー-ドウドロフ経路)、EM経路(エムデン-マイヤーホフ経路)何れかが存在する。こちらは他生物といくつか相違が見られる。いくつかのメタン菌テルモコックス綱からはEM経路に関係する酵素が見つかっているが、ADP依存性グルコキナーゼやADP依存性ホスホフルクトキナーゼ、ホスホエノールピルビン酸シンターゼなど特異な酵素が関与するため、変形EM経路と呼ばれている[157][155] [注 37]

一方、好気性の古細菌の多くは、好気性の細菌の一部に見られるエントナー-ドウドロフ経路(ED経路)に似る経路を使用する[155]。高度好塩菌では、一部の経路がリン酸化せずに進行するため、部分リン酸化ED経路と言う。テルモプラズマ目の非リン酸化経路では、反応の末端である2-ホスホグリセリン酸に至るまでリン酸化を伴わず、更にグリセルアルデヒドからグリセリン酸までの反応が、グリセルアルデヒドデヒドロゲナーゼによってバイパスされるため、系全体の収支としてATPは生成しない。[159][160]

ペントースリン酸経路はあまり見られず、リブロースモノリン酸経路を用いる種が多い[161]炭素固定を行う種では、炭素固定経路は各古細菌種によって様々なものが使用されている。古細菌特有の経路として、Ignicoccusなどがジカルボン酸/4-ヒドロキシ酪回路酸を用いている[162]

繁殖・細胞分裂

古細菌は基本的に細菌と同様、単純な二分裂によって増殖(繁殖)する。出芽により増殖するテルモプロテウス目など一部を除くと、分裂後も殆ど同じクローンが2体できるだけである。胞子芽胞の形成も確認されていない。最適条件での増殖速度はMethanocaldococcusPyrococcusで約30分、Methanosaetaなど遅いものだと数日を要する。

分裂に伴う細胞膜の切断やDNAの分配は細菌に似ていると言われている。Methanocaldococcus jannaschiiを始めとしたユーリ古細菌のゲノム上にはFtsZ、MinDなどが存在し、細菌と同様、Zリングの収縮で細胞を分裂させると考えられている。

一方でクレン古細菌からはFtsZが見つからず、分裂機構は長い間全く不明であった。2008年真核生物エンドソーム選別輸送複合体(ESCRT複合体)に相当するタンパク質が細胞分裂に関与するという報告がなされている[163][164][165][166]タウム古細菌も同様の機構を持ち、アスガルド古細菌ではさらに多くのESCRT複合体関連遺伝子が見つかっている[131]。一方で、テルモプロテウス目のゲノムからは、FtsZもESCRT複合体も見つからず、アクチンに類似するタンパク質を用いた細胞分裂機構を持つと予想されている[167]

有性生殖は存在しないが、特殊な例として、Haloferax volcaniiにおける細胞間架橋構造の形成がある[168]。細菌の接合はプラスミドを移行させる現象であるが、この例ではプラスミドや細胞質は移行せず、ゲノムDNAのみが移行する点で異なる[168]スルフォロブス目の例では、UV照射や薬剤暴露によるDNA損傷によって細胞凝集が誘導され、染色体の組み換えが起こる[169][170]。それ以外のストレスによっては誘導されず、プラスミドも関与しないなどといった点で細菌の接合とは異なる。また、繊毛を失った株は凝集できず[注 38]、UV照射に対する生存性が低下する[171]。細胞融合性を持つFerroplasma acidarmanusでも激しいゲノム組み換えが見られる[172]。いずれも組み換えはプラスミドでは無くゲノムDNAに制御されている。

Sulfolobusではゲノムの交換は種特異的であり、Ferroplasma acidarmanusも進化距離の違いにより組み換え率が急速に低下する[注 39][171][172]。これは古細菌における種の概念を示している可能性がある[171][172]

他生物との違いまとめ

  細菌 古細菌 真核生物[2 1]



大きさ 1-10 μm 細菌と同様 5-100 μm
細胞の移動 細菌型鞭毛、滑走[2 2] 古細菌型鞭毛[2 3] 鞭毛(チューブリン)、形状変化
組織化 単細胞、稀に群体[2 4] 細菌と同様[2 5] 単細胞、群体、多核体多細胞
細胞分裂 Zリング ESCRT複合体[2 6]、Zリング[2 7]、出芽[2 8] アクチンミオシン収縮環
細胞壁 ペプチドグリカンなど タンパク質など 糖鎖など
細胞膜 エステル型脂質(sn-1,2位)[2 9] エーテル型脂質sn-2,3位) 細菌と同様
細胞小器官 無し[2 10] 細菌と同様 細胞核ミトコンドリアなど多数
細胞質 細胞骨格は限定的[2 11] 細菌と同様[2 12] 細胞骨格を持ち原形質流動有り
エンドサイトーシス 起こさない 細菌と同様 起こす







DNA 環状[2 13] 細菌と同様 直線状
DNA結合タンパク HUタンパク     古細菌型ヒストン[2 14] ヒストン
ゲノムサイズ 小さい 細菌と同様 大きい
DNA複製酵素 ファミリーC     ファミリーB及びD[2 15] ファミリーB
プロモーター プリブノーボックス     (真核生物と同様 TATAボックス
転写開始機構 シグマ因子     (真核生物と同様 転写開始前複合体
RNAポリメラーゼ 単純[2 16]     (真核生物と同様[2 17] 複雑[2 18]
mRNA 修飾を受けない[2 19] 細菌と同様[2 20] キャップ構造付加、スプライソソーム型イントロン
リボソーム 50S+30S
ストレプトマイシン感受性
細菌と同様
  (真核生物と同様[2 21]
60S+40S
ジフテリア毒素感受性
翻訳開始tRNA フォルミルメチオニル-tRNA     (真核生物と同様 メチオニル-tRNA
t-RNA イントロン無し[2 22]     (真核生物と同様 イントロン
ATP依存性プロテアーゼ FtsHなど[2 23]     (真核生物と同様 プロテアソーム
  1. ^ ここでは、真核生物の細胞小器官のうち、細菌に由来することがほぼ確実であるミトコンドリア葉緑体、及びそこで働く機構やタンパク質tRNAリボソームなどは除く。これらは細菌の特徴を一部残している。
  2. ^ 線毛や匍匐、アクチンロケットなどによって移動することを言う。
  3. ^ 鞭毛を回転させ推進するという点では細菌と同じである。ただし細菌の鞭毛とは構造が全く異なる。#鞭毛参照
  4. ^ 粘液細菌や一部の藍藻放線菌の中には、相当高度な群体を形成するものがある。
  5. ^ 稀に融合体(多核巨大細胞)を形成する種が存在する。群体についても細菌と同様広く見られる。
  6. ^ プロテオ古細菌クレン古細菌タウム古細菌アスガルド古細菌など)
  7. ^ ユーリ古細菌など
  8. ^ テルモプロテウス目のみ
  9. ^ 一部の好熱細菌はエーテル結合を含む脂質を持つが、その場合でも炭化水素鎖が結合しているのは1,2位であり、古細菌の脂質とは区別できる。
  10. ^ 例外はチラコイドなどがある。稀にだがDNAを囲む膜を持つもの (Planctomyces) もいる。
  11. ^ MreBなど今日では多数の細胞骨格が見つかっている。ただし真核生物ほど多様な機能は持たない。原核生物の細胞骨格参照。
  12. ^ クレン古細菌からはクレンアクチンが見つかっている。ユーリ古細菌から発見された例は少ないが、テルモプラズマからMreBの報告がある。チューブリンホモログも存在(オーディン古細菌、タウム古細菌
  13. ^ 放線菌、スピロヘータの一部は直鎖状のDNAを持つ。
  14. ^ クレン古細菌はテルモプロテウス目のみヒストンを持つ
  15. ^ クレン古細菌はファミリーDを持たない。
  16. ^ サブユニット数は大腸菌で5
  17. ^ サブユニット数は11〜13
  18. ^ 基本的なサブユニット数は12(RNAポリメラーゼII)。古細菌と全てが共通する
  19. ^ 稀に存在するイントロンは自己スプライシング型であり、真核生物特有のスプライソソーム型は存在しない[173]
  20. ^ rRNAやtRNAには広くイントロンが知られているが、mRNAにイントロンが含まれている例は少ない。スプライソソーム型は存在せず、細菌に見られる自己スプライシング型も1例(Methanosarcina acetivorans)しかない。代わりに古細菌のみに存在する酵素が触媒するイントロンがある[173]
  21. ^ RNAは細菌、タンパク質は真核生物にやや類似。rRNAは細菌と同様5S、16S、26S。タンパク質(68個)は殆ど全てのサブユニットが真核生物と一致(67個)する一方、細菌とは34個しか一致しない。[153]。抗生物質感受性はどちらかと言えば真核生物寄りだが、個々の種、抗生物質の種類によって差が大きい。
  22. ^ tRNAのイントロンは少数見つかっているが、全て自己スプライシング型。古細菌と真核生物にある酵素触媒型は殆どない。
  23. ^ そのほかLon、Clp、HslVUなど。放線菌目のみプロテアソームも持つ(他の放線菌綱は持たない)。

古細菌の起源と系統的位置

岩部らの論文[41]の概略。全生物を対象にした系統樹では外群が設定できないため、無根系統樹しか得られない。EF-Tu/1α、EF-G/2を使用しても、それぞれ単独では無根系統樹になる。しかし、この2つの遺伝子は元々は1つの遺伝子が重複し、その後別々に進化したことが分かっており、互いに相手を外群として使用することで系統解析が可能である。それにより、共通祖先は最初細菌と古細菌(+真核生物)に別れたことが分かった。
(1):EF-Tu/1α、EF-G/2それぞれの無根系統樹
(2):EF-Tu/1α、EF-G/2を合わせた系統樹
(3):互いに相手を外群として折り曲げた系統樹
共通祖先原始生命体生命の起源なども参照

地球の歴史は45憶4000万年前までさかのぼる[174]。また、海洋もおそらく44億年前までには形成された[175]

生命の起源は不明であるが、西オーストラリア州ジャックヒルズから見つかった41億年前に形成されたジルコンから、異常に同位体比率の偏った炭素が発見されており、生命活動の痕跡の可能性が指摘されている[注 40][177]。起源が38億年より遡る場合、後期重爆撃期との関係も重要になる。少なくとも35億年前まで[178]、そしておそらくそれよりももっと以前から生命は存在していたと考えられている。

地球上に誕生した生命が細菌古細菌に分かれた理由についても不明なところが多い。共通祖先が別れて古細菌が出現した時期についてはいくつか説が出されていて、例えば35億年前の地層から異常にC13の比率が低いメタンが発見されており、メタン菌が当時存在していた、つまりこの時期までには古細菌が出現していたと考えることもできる[179]系統解析からの推定では、38億年前[180]、42億年以前[181]、44億年以前[182]、などという数字も出ているが、あまりにも古い時代のため、不確実性が大きい。

細菌との関係

細菌と古細菌は共通の祖先を有する可能性が高い[183]DNAたんぱく質脂質二重膜よりなる細胞膜につつまれる構造は全生物に共通する。コドンなど基本的な遺伝の仕組みも共通している。一方で、細胞膜の成分やDNA複製系は全く異なっており、両者が分かれたのは非常に古いと推定される。

ウーズが最初に描き出した系統樹は無根系統樹であり、共通祖先がどの位置にあるかは確定できないものであった。例えば、真核生物原核生物が最初に分かれた後、原核生物が細菌と古細菌に分かれた、あるいは細菌と古細菌が最初に湧かれた後、細菌から真核生物が進化した、もしくは細菌の中に共通祖先があり、細菌の一系統から古細菌や真核生物が進化した、などの様に様々に解釈できる。この問題は、16S rRNAなどの遺伝子の単純な解析では導き出せないが、共通祖先以前に重複、その後独立して進化した遺伝子を比較することで可能となる。1989年に、H+-ATPアーゼ、伸長因子、リンゴ酸デヒドロゲナーゼ、乳酸デヒドロゲナーゼなど共通祖先以前に分かれた遺伝子を用い、共通祖先がまず細菌と古細菌類に分岐したことが明らかになった[41][42]。時期的には前述のとおり、30億年よりも遥かに遡る古い時代に起こったと考えられる。

これ以外の説としては、共通祖先は現代的な細胞膜やDNA複製の仕組みを持っていなかったとする説もある。アルカリ熱水泉の細孔で生命が誕生したとすれば、透過度の低い細胞膜は必要ではない[184]。古細菌と細菌はそれぞれ独立に細胞膜やDNA複製の仕組みを獲得し、別々に細孔から脱出したとする[184]。また、トーマス・キャバリエ=スミスらは、最初に細菌が多様化した後、細菌の一グループである放線菌の中から真核生物と古細菌の祖先が出現したネオムラ説を提唱している[10]。他の細菌との違いは、高温への適応や、細菌間での化学戦の産物であるとする[10]。放線菌は外膜の無い単膜細菌(MD細菌)であり、膜が一重であることが古細菌と共通する。Hsp70グルタミン合成酵素 Iなどから得られる系統樹がネオムラ説を支持するという[10]

真核生物との関係

左:3ドメイン説、右:エオサイト説。EF-1のインデルの比較ではエオサイト説が支持される[185][注 41]
29遺伝子と化石証拠に基づく系統樹(Holly C. Betts et al., 2018[182])の概観。この系統樹では2分岐説が採用されている。主要系統以外は省略。古細菌の中では最初に分岐したDPANN系統や、コル古細菌などは省略した。

真核生物と古細菌の関係にも論争がある。真核生物と古細菌は基本的な遺伝の仕組みを共有しており、この2つの生物は細菌よりも密接に関係している。問題となるのは、真核生物はどの古細菌から進化したのか不明な点であった。16S-rRNAは、古細菌が多様化するよりもはるか以前に古細菌と真核生物は分岐したため、特に真核生物に近い古細菌はいないという系統樹を描き出したが、EF-1/EF-2(伸長因子)を使った解析では、クレン古細菌と真核生物が単系統となる系統樹を描き出した[186]

標準的な説(3ドメイン説)では、真核生物と古細菌はそれぞれが単系統であり、互いに姉妹群であるという説を採用している[187][1]。ただし、3ドメイン説の提唱者であるウーズは、3ドメインが分かれる前は遺伝の仕組みが成立していない生物であったとしており(プロゲノート説)、古細菌(または古細菌に近い生物)から真核生物が進化したわけでは無いとしていた[188]

もう一つの有力な説は、クレン古細菌に近い生物から真核生物が進化したとする2分岐説である[189][190][191][192][193]。これは1984年にレイクが提唱したエオサイト説[194][195]を原型とし、3ドメイン説よりも古いものである[注 42]。山岸らも系統樹がどちらであるにせよ、地球上の生物を細菌とアーキア(Crenarchaeota、Euryarchaeota及びUrkaryotes[注 43])の2つに分けるべきと主張した[198]。2010年以降、クレン古細菌や近縁な古細菌からアクチンESCRTユビキチン[199]チューブリン[200]など真核生物様の遺伝子が発見されたこと、更に2015年以降ロキ古細菌をはじめとしたアスガルド古細菌が発見され[131]、この古い説が見直されている。

この他にも、前述(#細菌との関係)の「ネオムラ説[10]、RNAを基盤とするクロノサイトという生物に古細菌と細菌が合体した「ABC仮説」[201]、古細菌にウイルスが感染して真核生物になった「細胞核ウイルス起源説[202]などが提案されている。

古細菌の分類

ドメイン古細菌以下の門および鋼、目をリストする。記載種を含む系統に限る。

古細菌の種から綱までの命名は国際原核生物命名規約に基づいて行われており、基本的な分類方法は細菌と共通している。原核生物は形態の変化に乏しく無性的に増殖するため、動植物でいう種の基準が適用できず、分類は16S rRNA系統解析DNA-DNA分子交雑法、ゲノム構造に基づく平均ヌクレオチド一致度(ANI)といった分子技法が主に用いられる。2018年10月現在の記載種は全部で約550種である。ユーリ古細菌クレン古細菌タウム古細菌以外の系統については後述(#未培養系統を含む系統概観)する。

クレン古細菌

Ignicoccus hospitalis(大きい方がI. hospitalis
"Sulfolobus tengchongensis" RT8-4の電子顕微鏡写真

2018年現在64種が記載。ESCRT複合体で分裂する。古細菌固有のDNA複製酵素であるDファミリーDNAポリメラーゼを欠く。テルモプロテウス目以外はヒストンを持たないことが多い。

  • "クレン古細菌門"/"Crenarchaeota"
    • テルモプロテウス綱/Thermoplotei - 超好熱菌や好熱好酸菌より構成される綱。硫黄やチオ硫酸を代謝して硫酸イオンや硫化水素を生成する種が多い。Ignicoccus(外膜)を除き、細胞膜はS層
      • テルモプロテウス目/Thermoproteales - ThermoproteusThermofilumPyrobaculumなど。全種が超好熱性の桿菌で、主に陸上の熱水系に分布。通性嫌気性のPyrobaculum aerophilumを除いて、大半は水素や有機物を硫黄を還元して増殖する。クレン古細菌の中では最初に分岐した様で、ヒストンアクチンを持っている。ESCRT複合体を持たず、出芽により増殖する。
      • スルフォロブス目/Sulfolobales - SulfolobusAcidianusMetallosphaeraなど。全種が好熱好酸菌。陸上の温泉熱水泉鉱山などの陸上熱水に分布し、クレン古細菌の中では特に好気性菌が多い。Sulfolobusの例では、好気条件下硫黄又は有機物を酸化する通性独立栄養生物である。Acidianusは、好気条件下であれば硫黄を酸化して硫酸イオンを生成し、嫌気条件であれば水素や有機物で硫黄を還元して硫化水素を生成する。
      • デスルフロコックス目/Desulfurococcales - 全種が超好熱菌。Pyrodictiumなど極度に高温を好む種を含む。海底熱水噴出孔や陸上の熱水系にも分布する。偏性好気性のAeropyrumや通性嫌気性のPyrolobus fumariiを除き偏性嫌気性。発酵や硫黄還元を行う従属栄養性の種が多い。
      • アキディロブス目/Acidilobales - 超好熱菌。主に陸上にある弱酸性の熱水系に分布する。嫌気性で有機物を発酵する。
      • フェルウィディコックス目/Fervidicoccales - 好熱性。嫌気性で発酵する。カムチャッカ半島の温泉から分離されたFervidicoccus fontis 1種のみ。

タウム古細菌

2018年現在6種が記載。2008年にクレン古細菌から分けられた系統。同様にESCRT複合体で分裂する。クレン古細菌より低温に適応している。

  • "タウム古細菌門"/"Thaumarchaeota"
    • ニトロソスパエラ綱/Nitrososphaeria - 亜硝酸古細菌
      • ニトロソスパエラ目/Nitrososphaerales - 中温性の亜硝酸古細菌。2018年現在、土壌から発見されたNitrososphaera viennensis1種のみが記載されている[66]。後述のニトロソプミルス目よりアンモニア濃度の高い環境に適応しており、海洋では堆積物などからの検出例が多い。
      • ニトロソプミルス目/Nitrosopumilales - 中温性の亜硝酸古細菌。水族館のフィルターから発見されたNitrosopumilus maritimusを代表種とする[67]。海水中からの検出例が多いが、土壌性の物もいる[68]

ユーリ古細菌

Methanohalophilus mahii(メタノサルキナ目)の電子顕微鏡写真。
Haloquadratum walsbyi(ハロバクテリウム目)の蛍光顕微鏡写真。
Haloferax volcanii(ハロフェラクス目)の電子顕微鏡写真。

2018年現在約480種が記載。Zリングで分裂する。アクチンを欠く。細胞内にゲノムを複数コピー持つ。

未培養系統を含む系統概観

古細菌内部の系統樹の一例(Castelle, C.J., Banfield, J.F., 2018[6]
"Ca. Korarchaeum cryptofilum"(コル古細菌)の電子顕微鏡写真。
"Ca. Parvarchaeum acidiphilum"(パルウ古細菌)の電子顕微鏡写真。

記載種を含む系統は太字で表した。これらの系統については前節と重複する。

  • "ユーリ古細菌界"/"Euryarchaeota"
    • "ユーリ古細菌"/"Euryarchaeota"
      • テルモコックス綱/Thermococci
      • "メタノマダ"/"Methanomada" = クラスIメタン菌
      • アルカエオグロブス綱/Archaeoglobi
      • テルモプラズマ綱/Thermoplasmata
        • Marine Group II - 海洋性。有光層に多く、プロテオロドプシンを持つものもいる[204]
      • "ステノス古細菌"/"Stenosarchaea"
        • "メタノミクロビウム綱"/"Methanomicrobia" = クラスIIメタン菌
          • ANME I-III - 嫌気メタン酸化古細菌。
        • メタノナトロナルカエウム綱/Methanonatronarchaeia
        • ハロバクテリウム綱/Halobacteria
  • "プロテオ古細菌界"/"Proteoarchaeota[3]・"エオサイト界"/"Eocyta"[196] - ESCRT複合体で分裂、EF-1(伸長因子-1)に11アミノ酸残基の挿入がある。
    • TACK系統[205]("フィル古細菌"/"Filarchaeota"[2]
      • "クレン古細菌"/"Crenarchaeota"
      • "タウム古細菌"/"Thaumarchaeota"
      • "アイグ古細菌門"/"Aigarchaeota" - 地下320mの金鉱より発見された"Ca. Caldiarchaeum subterraneum’"。ゲノム情報からは、好気または硝酸呼吸により、水素や一酸化炭素を酸化していると予想されている。ユビキチン-プロテアソームシステムに必要な遺伝子を持つ[206]。タウム古細菌に近縁で、タウム古細菌に含めることもある。
      • "コル古細菌門"/"Korarchaeota" - 環境DNAサンプルと集積培養系のみ。環境中での存在量・分布は小さいと考えられる。嫌気従属栄養性の超好熱菌。ユーリ古細菌とクレン古細菌の2大系統以外では最も最初に発見され、当初は古細菌の中で原始的な系統に属すと考えられたが[207]、その後クレン古細菌に近い系統と考えられている[205]。集積培養が得られている"Ca. Korarchaeum cryptofilum"は、嫌気性・超好熱性の従属栄養生物である[208]
      • "バテュ古細菌門"/"Bathyarchaeota" - 海底堆積物などで豊富に見つかる系統。未培養だがメタン生成経路[209]やバクテリオクロロフィルa合成酵素の検出例がある特異な系統[78]
    • "アスガルド古細菌"/"Asgardarchaeota"[210] - 真核生物様の遺伝子を多数持ち、この系統から真核生物が派生したとする説がある[211]
      • "ロキ古細菌"/"Lokiarchaeota" - 水素依存性の嫌気性独立栄養生物と予想されている[212]。2010年に北極海ガッケル海嶺のロキの丘から発見された[211]。発見場所にちなんで"ロキ"古細菌と名付けられたが、これに倣ってアスガルド系統の古細菌には北欧神話の神の名前が付けられるようになった。
      • "ヘイムダル古細菌門"/"Heimdalarchaeota" - ゲノム情報よりプロテオロドプシンを持つことから、好気性の光従属栄養生物と予想されている[213]。系統解析では真核生物を内部に含むことがある。
      • "オーディン古細菌門"/"Odinarchaeota" - チューブリンを持つ可能性がある[131]
      • "トール古細菌門"/"Torarchaeota" - 有機物と硫黄に依存する嫌気性の従属栄養生物と予想されている[214]
  • DPANN系統 - 集積培養や環境DNAのみだが、極端に細胞とゲノムサイズが小さい。古細菌の中でもっとも初期に別れた系統とする系統解析例が多いが、特殊化したユーリ古細菌とする見解もある[3]
    • "ディアペロトリテス門"/"Diapherotrites" (pMC2A384) - 明神海丘伊豆・小笠原弧)の水深1330mにあるブラックスモーカーより最初に報告されたもの[215]。ホームステーク金山跡の地下水から検出された集団は、ゲノム解析から従属栄養生物と予想されている[216]。同時に、ナノ古細菌などと同様の寄生生物から進化した可能性に言及されている[216]。提案された古細菌門の中では、唯一-archaeotaを語尾に持たない。
    • "パルウ古細菌門"/"Parvarchaeota" - テルモプラズマ目古細菌に関係(寄生の可能性もある)[217]。非常に細胞サイズが小さい特徴がある[217]
    • "ミクル古細菌"/"Micrarchaeota" - パルウ古細菌同様テルモプラズマ古細菌に関係し[217]、細胞サイズが小さい。細胞サイズの小ささは全生物でもトップクラスで、長さ200 nm×幅60 nm、体積も0.009 μm3から0.04 μm3しかない[218]。ただし系統はやや離れる。
    • "アエニグム古細菌門"/"Aenigmarchaeota" (DSEG) - 深海の熱水噴出孔に存在する系統。
    • "ナノ好塩古細菌門"/"Nanohaloarchaeota" - 高塩環境に分布する[219]。ハロバクテリウム綱とは別系統[219]
    • "ナノ古細菌門"/"Nanoarchaeota" - クレン古細菌に寄生する系統。ゲノムサイズが非常に小さい。最初に発見され、Ignicoccus hospitalisに寄生する"Ca. Nanoarchaeum equitans"は、ゲノムサイズが古細菌最少の49万0885塩基対しかない[220]

脚注

注釈

  1. ^ ラテン語名としては、トーマス・キャバリエ=スミスによる、フィル古細菌(Filarchaeota。ESCRT-IIIフィラメントを持つことから[2])があるが、既にトーマス・キャバリエ=スミス本人も使用していない。
  2. ^ ドメインの本来の下位分類である界は明確ではない。一応Woeseによってユーリ古細菌界とクレン古細菌界の2界に大別されている[1]ほか、クレン古細菌界を代替するものとしてプロテオ古細菌界が提案されている[3]。一方、門は国際原核生物命名規約中では定められていない(正式な学名ではない)ものの、Bergey's Manual 2ndは、Domain Archaeaの下にPhylum Euryarchaeota(ユーリ古細菌門)とPhylum Crenarchaeota(クレン古細菌門)を置いており、この2門については広く認められているといって良い。また、タウム古細菌門も記載種を含んでいる。本来は全て正式な学名では無いが、前述の記載種を含む3門のみ引用符で囲んでいない。その他の門は記載種を含まず、多くの場合はゲノム情報をもとに提案された分類である。ここでは門以上の分類群やクレードについても記載した。
  3. ^ ラテン語をそのまま仮名転写するとアルカエア。アルケアは中世ラテン語に近い
  4. ^ "Mendosicutes Gibbons & Murray 1978"。1984年発行のBergey's Manualなどでこの表現が見られる。ここでは原核生物界を構成する4つの門の一つとして位置づけられていた。
  5. ^ トーマス・キャバリエ=スミスは近年Archaeabacteriaを使用しているが、Metabacteria(後生細菌)の方が適切であるとも主張している[10]
  6. ^ 好熱性の細菌は20世紀前半に好熱性の“Bacillus”(後のGeobacillus)などが発見されていた。また、Thermoplasmaよりも少し前の1969年には、イエローストーン国立公園より、高度好熱性の細菌Thermus aquaticus(至適生育温度72°C)が報告されている[20]
  7. ^ Archaeabacteria提唱後に出版された文献であるが、『五つの王国』(リン・マーギュリス著)や、古いBergey's Manual中では、いわゆる古細菌類が様々な細菌グループの中に散らばって分類されている。(Thermoplasmaマイコプラズマ類、高度好塩菌がグラム陰性好気性細菌群(シュードモナス門)、Sulfolobusが化学合成細菌門など。)
  8. ^ "Halobacter cutirubrum"はHalobacterium salinarumに統合されており、現在は無効名
  9. ^ 例えば、日本では1968年の東京大学の高橋による、DNA-23S rRNAハイブリッド法を用いたBacillusに関する研究がある[30]
  10. ^ 16S rRNAは細胞中に大量に存在するため、PCRが開発されていない当時でも配列の比較が可能だった。ただし、当時はRNA配列の全長を決定するのが困難だったため、16S rRNAをいくつかの小断片に切断し、対応する配列と一致する塩基の割合を比較することによって系統解析を行っていた[33]
  11. ^ ラルフ・ウォルフ。当時、ウーズと同じイリノイ大学の同じ階でメタン菌の研究をしていた。Methanothermobacter wolfeiiMethanobacterium wolfeiといったメタン菌に献名されている。なお、提供を受けたメタン菌は、Methanobacterium thermoautorophicum(現Methanothermobacter thermautotrophicus)、Methanobacterium ruminantium M-1(現Methanobrevibacter ruminantium)、Methanobacterium sp. JR-1(後にMethanogenium cariaciとして記載)、Methanosarcina barkeriの4つ。
  12. ^ この当時描かれていた系統樹は、全生物を対象にしたため外群が設定できず、それぞれの生物から系統樹が一点に収束する無根系統樹しか描けなかった。これでは、古細菌が真正細菌、真核生物何れに近縁なのか、何れとも近縁ではないのかといった情報を得ることができない。Lakeや堀は、それぞれ独自に5S rRNAから得られる無根系統樹を折り曲げて共通祖先を作ったが、根本的な解決とはならなかった(両者が描く系統樹は違っていた)。これを解決したのが、岩部らの研究で、両者はそれぞれ独自に共通祖先以前に重複した遺伝子を選び出し、その一方を外群として用いることにより、系統樹に根をつけることに成功した。これにより得られた系統樹は、共通祖先がまず真正細菌と古細菌類に分岐したこと、その後古細菌と真核生物の分岐が起きたことを支持するものであった。[41][42]
  13. ^ 旧名Methanococcus jannaschii。2002年にMethanocaldcoccus属に変更となった[44]
  14. ^ 同年にSynechocystis sp. PCC6803の解析が行われており[46]、こちらの方が先行している可能性がある。その場合5番目。
  15. ^ あくまでも相対的な話である。嫌気培養装置や高温培養装置を必要としない点では有利だが、培地の管理は"通常の"細菌に比べれば難しく(水分が少し飛ぶだけで塩が析出したりする)、また寒天培地上でコロニーを形成する高度好塩菌は少数派と言われている。Haloquadratum walsbyiは、発見してから20年以上純粋培養できなかった。
  16. ^ 超好熱性の細菌は、Aquifex aeolicus(至適増殖温度85℃)、Thermotoga martima(至適増殖温度80℃)などが知られる
  17. ^ 全生物1位。130℃でも耐える。タイプ株であるAV19株の限界生育温度は110℃で、この記録はStrain116株による。また、常温では116℃での増殖が限界で、122℃で増殖させるには200-400気圧に加圧する必要がある[51]。細菌の最高増殖記録はAquifex aeolicusの95℃なので、高温適応の点では古細菌が圧倒的である。
  18. ^ 全生物3位。2001年までは最も強アルカリで増殖できる生物であったが、現在はAlkaliphilus transvaalensis(pH12.5。フィルミクテス門)に更新されている。飽和塩濃度でも増殖できる高度好塩菌を兼ねる。
  19. ^ 全生物1位。同属のP. torridusや近縁のFerroplasma acidiphilumもほぼ同じpHで生育可能
  20. ^ 全生物1位。近縁な古細菌にも同濃度で増殖できるものがいる。
  21. ^ 全生物1位。なお増殖温度も全生物6位。
  22. ^ D37(37%が生き残る限界線量)の比較では、細菌であるRubrobacter radiotoleransの方が上回っている。
  23. ^ 1例のみだが、未培養系統の古細菌MCG-A(Bathyarchaeota class 6)からバクテリオクロロフィルa合成酵素を含む配列が報告されている[78]。このar-bchG(古細菌型バクテリオクロロフィルa合成酵素)は、細菌の持つバクテリオクロロフィルa合成酵素とは系統的に離れており、最も同一性の高いRhodospirillum rubrumとの比較でも27%しか一致しない。大腸菌で発現させた実験によると、実際にこの遺伝子は機能するようである。
  24. ^ 古細菌を病気の直接の原因とする報告は殆どない。感染症と関係が深い細菌とは対照的である。僅かに、特殊な脳脊髄炎の患者から、未知の古細菌DNA配列が多数検出された例がある[84]が、この1例のみしか報告が無く、培養もできなかったことから確定していない。
  25. ^ これらの食品は塩濃度が低すぎるため、使用した食塩由来のコンタミの可能性もある。
  26. ^ なお、現在ゲノム編集に利用されているCRISPR/Cas9は細菌由来である
  27. ^ 細菌の鞭毛は、鞭毛の中を通って先端から構築されるが、古細菌の鞭毛は細いためそのようなことができない
  28. ^ sn-」とは立体特異的番号付けを用いた時につける接頭辞である。DL表記法で表記すると、細菌や真核生物のsn-グリセロール3-リン酸はL-グリセロール3-リン酸またはD-グリセロール1-リン酸、古細菌のsn-グリセロール1-リン酸はL-グリセロール1-リン酸またはD-グリセロール3-リン酸となる。
  29. ^ これを超えるものとして、未培養系統ではあるが、LC_2(ヘイムダル古細菌)の推定ゲノムサイズが6.35Mbp[131]
  30. ^ 真核生物ではヒストンH2A、H2Bが追加され、八量体になっている。1周期のDNAはおおよそ147bp[139]
  31. ^ ヘイムダル古細菌からN末テイルを持つヒストン相同配列が発見されているが、まだ研究されておらず、翻訳後修飾を受ける証拠はない[139]
  32. ^ 高度好塩菌Halobacterium salinarum NRC-1ではアフィジコリンによって増殖阻害を受けること(アフィジコリンはBファミリーDNAポリメラーゼの活性を阻害する)、PolB、PolDのどちらの破壊株も得られないことからともに複製に必須と考えられた[144]PyrococcusMethanococcusは、PolBの破壊株は得られるが、PolDは破壊出来ない[144]。一方、クレン古細菌はPolDを欠き、複数のPolBを保有する[144]
  33. ^ 2014年8月現在。全ゲノムが解読されている古細菌150種中。一方、細菌の45%にも存在する。[150]
  34. ^ RNAポリメラーゼは11〜13のサブユニットより構成され、真核生物のRNAポリメラーゼII(古細菌と共通する12のサブユニットより構成)とよく似ている。細菌ではサブユニット数は5で、いくつかのサブユニットが省かれている。[152]。転写機構もRNAポリメラーゼIIと良く似ており[147]転写開始前複合体(真核生物よりもサブユニット数が少ない)により転写が開始されると考えられている。
  35. ^ リボソームの大きさは細菌と同様70S(50S+30S)。rRNAは16S、5S、23Sの3つで、真核生物の5.8Sに相当する配列は23Sに組み込まれている。また、一般に16S rRNAにはシャイン・ダルガノ配列が認められる。タンパク質はユーリ古細菌で58〜63、クレン古細菌で66〜68の構成。その内67種については真核生物に対応するrタンパクが存在する(細菌と共通するのは33~34しかない)[153]
  36. ^ ジフテリア毒素(真核生物)やアニソマイシン(真核生物)はほぼ感受性、キロマイシン(細菌)やストレプトマイシン(細菌)にはほぼ非感受性であるが、例外としてクロラムフェニコール(細菌)は効果がある。クロラムフェニコールはMethanosphaera stadtmanaeには良く効くが、MethanobrevibacterMethanomassiliicoccusは中程度の耐性を持ち、SulfolobusHalobacteriumにはあまり効かない[154]。リボソームをターゲットとする抗生物質に対する感受性は各古細菌種によって多様性が大きい。なお、ジフテリア毒素は、ほぼ全ての古細菌が感受性を示すため、かつて古細菌と細菌を区別する手っ取り早い手段の一つとして使われていた。
  37. ^ テルモコックス綱古細菌では、細菌や真核生物が糖のリン酸化にATPを消費するところ、ADPを消費する形態になっている。また、グリセルアルデヒド3-リン酸から3-ホスホグリセリン酸への経路が、フェレドキシンオキシドレダクターゼ、または非リン酸化グリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼでバイパスされている。この反応では還元型フェレドキシンないし、NADPHが得られるが、ホスホグリセリン酸キナーゼによるATP合成が起こらないため、後者では通常型EM経路よりもATPの生成が1分子少ない。最終段階のホスホエノールピルビン酸からピルビン酸への変換の際、通常型EM経路と異なりホスホエノールピルビン酸シンターゼが働き、AMPピロリン酸からATPが生成される。これらの形態は、熱に弱い反応中間体を経ないことで高温に適応していると考えられる。[158]
  38. ^ 片方が繊毛を持っていれば組み換えは起こるようである。両方が繊毛を失った場合は組み換えが起こらない
  39. ^ Ferroplasma acidarmanusFerroplasma type II(16S rRNA配列99.2%)の間にも組み換えは起こるが、Ferroplasma acidarmanus同士よりもはるかに少ない組み換えしか見られない
  40. ^ 生物は、物質を代謝する際に特定の同位体を好むことがよくあるため、炭素や硫黄同位体比率が大きくずれた分子は生命活動の証拠となりうる(ただし、非生物的に同様の物質が形成されることもあるため慎重に検討する必要がある)。37憶7000万年前(42億8000万年前)の熱水噴出孔で形成されたと考えられる岩石からも同様の痕跡が見つかっている[176]
  41. ^ 真核生物とクレン古細菌(及びタウム古細菌やアスガルド古細菌などにも)には、EF-1(伸長因子-1)に11アミノ酸残基の挿入がある。3ドメイン説が正しい場合、クレン古細菌と真核生物にそれぞれ独立して同じ位置に同じ長さの配列が挿入されたと考える必要がある。一方、エオサイト説が正しい場合、クレン古細菌と真核生物の祖先に11アミノ酸残基が挿入されたと考えれば、挿入が1回で済みはるかに合理的である。
  42. ^ 元々のエオサイト説では、生物全体をEubacteria、Archaeabacteria、Eocyte、Eukaryotesの4界に分けた。Archaeabacteriaは後のユーリ古細菌、Eocyteは後のクレン古細菌に相当する。なお、EocyteはのちにTACKなど近縁種を含むように拡張されている[196]
  43. ^ Urkaryotesは真核生物の遺伝子、または真核生物の本体を指している。また、Crenarchaeota、Euryarchaeotaを総称してArchaeabacteriaと呼ぶとした。[197]

出典

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参考・関連ウェブサイト