焼身自殺

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焼身自殺(Self-immolation)とは、身体を焼くことによって自殺すること。しばしば政治的、あるいは倫理的な抗議として行われる。英語圏の別称であるボンゾ(bonzo)は日本語の「凡僧」からきた言葉。

歴史[編集]

仏教ヒンドゥー教では、焼身自殺はけして禁忌ではなく、何世紀にもわたって行われてきた。特にインドではそうである。サティー、政治的抗議、離婚絶縁などさまざまな理由がある。武勇をほこる文化のあったチャランやラージプートなどでも焼身自殺はなされていた。

キリスト教圏においても、ロシア正教会古儀式派を信じるある村の人間全員が自らを焼き殺すという事件があった。いわゆる「炎の再洗礼」である。17世紀はじめのフランスにおけるイエズス会の記録にも、焼身の例は散見されるが、こちらの場合は通常死を伴うものではなかった。彼らは(腕や腿といった手足など)身体の一部を焼き、十字架にかけられたイエスの苦しみに耐えたことを示そうとしたのである[1]

何人もの僧侶が仏教への弾圧に抗議するため、炎をまとい自殺していった。例えば、ローマ・カトリック式の統治をおこなったゴ・ディン・ジエム政権下の南ベトナムが挙げられる。仏典の注釈をひもとけば、自分自身への暴力を禁じているものはいくつも見出せるにも関わらずだ。法華経の第28品には薬師如来の生が描かれており、その箇所が焼身自殺によってベトナム戦争へ抗議した僧侶や尼僧たちに霊感を働かせたのである。この仏典によれば薬師如来は、彼の直観したの本質を実践するために供養として自らの身体を炎で包む。それは「ダルマの光light of the Dharma」となり200年間ともっていた。ティク・ナット・ハンはこう言う。「菩薩は自らをその光で照らし出します。だからこそ皆がその姿を目にすることができるのです。それは究極の顕現としての不死を目の当たりにする幸運に浴したということなのです」[2]

Self-immolationの語源[編集]

ラテン語を由来とする犠牲(英語: immolate)が「生贄」という本来の意味として用いられることは稀であり、焼身にいたった経緯への言及もされることはなかった。より一般的な英語: self-immolationも自殺のことは意味していたが、その手段は問われなかった。しかしこの「immolate」という言葉はイギリス英語ではたいへんひろく用いられており、自主的なものか強要されたものかを区別せず炎による滅却を表すものだった。この言葉自体はラテン語のimmolatteからきていて、生贄となる犠牲者に葡萄酒モラ・サルサの粉を振り掛けるという聖なる行いを意味するものである[3][4]

この行為はボンゾ(bonzo)とも呼ばれる。仏教僧ティック・クアン・ドックがベトナム政権への抗議として1963年に焼身自殺を行ったことに因んだものだ。この炎をまとったベトナム人の自死が西側マスメディアに「焼身自殺」という言葉とともにマルコム・ブラウンが撮影した写真にて報道されたため、ボンゾは英語圏の人々に広く知られ、また炎との強い連想が生まれるようになった。20世紀半ばまで英語圏の文献では、仏教僧はしばしばボンゾという言葉で表現されていたのだ。とくに東アジアフランス領インドシナの僧侶を指す場合である。この言葉は「凡僧」(日本語)がポルトガル語フランス語を経由して伝わったものだが、現代ではあまり使われなくなっている。

イスラム教[編集]

先述の通り、仏教ヒンドゥー教では昔から行われているが、イスラム教においては禁忌の一つとされる。

チェコスロバキア[編集]

チェコスロバキアの大学生ヤン・パラフ1969年ソ連の侵攻に抗議して、焼身自殺した。

日本[編集]

日本では、1967年11月11日に首相官邸前で、世界に先駆けてアメリカの北爆支持を表明した佐藤栄作首相の訪米に対する抗議行動として焼身自殺を図った由比忠之進がいる。また1969年建国記念の日に、国会議事堂前で世を警め同胞の覚醒を促すと称して焼身自殺した江藤小三郎の例がある。江藤の死は翌年の三島由紀夫自決に大きな影響を与えた。また、政治的抗議の手法として焼身自殺を選んだ者としては、1975年に米軍嘉手納基地前で焼身自殺した船本洲治なども知られている。

チベット[編集]

チベット人の間では、中国共産党による圧制を世界に発信するための、抗議の焼身自殺が相次いでいる。

2009年2月27日から中国共産党に対する抗議の焼身自殺を図るチベット僧侶が起こっている。2012年11月現在80名以上。現在も焼身抗議を図るチベット人が出ている。

脚注[編集]

  1. ^ Coleman, Loren (2004). The Copycat Effect: How the Media and Popular Culture Trigger the Mayhem in Tomorrow's Headlines. New York: Paraview Pocket-Simon and Schuster. ISBN 0-7434-8223-9. 
  2. ^ Nhá̂t Hạnh. (2003). Opening the heart of the cosmos: Insights on the Lotus Sutra. Berkeley, CA: Parallax Press. p. 144.
  3. ^ self-immolation - Definitions from Dictionary.com”. Dictionary.reference.com. 2009年12月2日閲覧。
  4. ^ The Concise Oxford Dictionary, 7th Edition, 1984

参考文献[編集]

  • The Copycat Effect. New York: Paraview Pocket-Simon and Schuster, 2004, ISBN 0743482239

関連項目[編集]