レヴィアタン

レヴィアタン(ヘブライ語: לִוְיָתָן Livyatan, 発音: リヴヤタン, ラテン語: Leviathan, 英語発音: [liˈvaiəθən] リヴァイアサン, 日本語慣用表記: レビヤタン[1])は、旧約聖書に登場する海中の聖獣[2]。悪魔と見られることもある。
「ねじれた」「渦を巻いた」という意味のヘブライ語が語源。原義から転じて、単に大きな生き物を意味する言葉でもある。
旧約聖書[編集]
旧約聖書(『ヨブ記』『詩編』『イザヤ書』など)で、海中に住む巨大な聖獣として記述されている。
神が天地創造の5日目に造りだした存在で、同じく神に造られたベヒモスと二頭一対(ジズも含めれば三頭一鼎)を成すとされている(レヴィアタンが海、ベヒモスが陸、ジズが空を意味する)。ベヒモスが最高の獣と記されるのに対し、レヴィアタンは最強の獣と記され、その硬い鱗と巨大さから、いかなる武器も通用しないとされる。世界の終末には、ベヒモス(およびジズ)と共に、食物として供されることになるらしい。
『ヨブ記』41章によれば、レヴィアタンはその巨大さゆえ海を泳ぐときには波が逆巻くほどで、口から炎を、鼻から煙を吹く。口には鋭く巨大な歯が生えている。体には全体に強固な鎧をおもわせる鱗があり、この鱗であらゆる武器を跳ね返してしまう。この海の獣はギラギラと光る眼で獲物を探しながら海面を泳いでいる。本来はつがいで存在していたが、あまりにも危険なために繁殖せぬよう、雄は殺されてしまい雌だけしかいない。その代わり、雌は不死身である。また、ベヒモスを雄とし、対に当たるレヴィアタンを雌とする考えもある。[3]
図像[編集]
その姿は、伝統的には巨大なクジラや、ワニなどの水陸両生の爬虫類で描かれるが、後世には海蛇や(それに近い形での)竜などといった形でも描かれている。
他の神話の怪物との混同[編集]
『イザヤ書』に登場する海の怪物ラハブと同一視されることもあり、この場合、カナン伝説と同じ起源を持つのではないかとされる(海の神ヤムや七つの頭をもつ海の怪物リタン)。同時にバビロニア神話に登場するティアマトとの類似性が挙げられる。
また、ユダヤ教の伝説では、アダムを女の姿で、イヴを男の姿で誘惑した両性具有のドラゴンだと考えられていた。
悪魔としてのレヴィアタン[編集]
中世以降はサタンなどと同じ悪魔(堕天使)としても見られるようになった。
基本的には、海または水を司るとされ、一般的に想起されるような悪魔の外観を持つ場合もある。元のレヴィアタンが何物の攻撃も通さない様に、どんな悪魔祓いも通用しないとされている。大嘘つきで、人にとりつくこともでき、それを追い払うのは非常に難しいとされた。 特に女性にとりつこうとする。
悪魔学では、水から生まれた悪魔とされる。コラン・ド・プランシーの『地獄の辞典』に拠れば地獄の海軍大提督を務めており、また、悪魔の9階級においてはサタン、ベルゼブブに次ぐ第3位の地位を持つ強大な魔神とされる。
グリモワールの術士アブラメリンの聖なる魔術の書では、サタン、ルシファー、ベリアル、そしてレヴィアタンを最高四大君主とし、下位のベルゼブブの上位に相当する。
キリスト教の七つの大罪では、嫉妬を司る悪魔とされている。また、嫉妬は動物で表された場合は蛇となり、レヴィアタンが海蛇として描かれる外観と一致する。
また、かつては天使であり、天使であった頃の位階は、最高位の熾天使である[4]。
大航海時代[編集]
大航海時代のヨーロッパの船乗りにとっては、レヴィアタンは船の周りをぐるぐる泳いで渦巻きをつくり、船を一飲みにしてしまうクジラのような巨大生物だと伝わる。
象徴・命名[編集]
近代以降は、海または水中の怪獣あるいは擬人化や、それを想起させるような物(戦艦・潜水艦)の名称や代名詞的な存在として、小説やゲームなどの創作物に登場するようになる。現実の例としても、イギリス海軍の艦名に用いられている。
特殊な例としては、トマス・ホッブズの『リヴァイアサン』がある。ホッブズはこの著作の中で、社会契約によって形成された理想な国家(コモンウェルス)のことを「大怪物」としてのレヴィアタン(リヴァイアサン)になぞらえており、同時に、それは怪物というよりも、「人間に平和と防衛を保障する「地上の神」と言うべきだろう」とも述べている[5]。
2010年、南米ペルーで見つかった1300万年前に生息していたとみられる新種のマッコウクジラの仲間には、レヴィアタンにちなんで「リヴィアタン・メルビレイ(Livyatan melvillei)」という学名が付けられた(メルビレイの部分は『白鯨』の作者ハーマン・メルヴィルから採られている)。