ナンテン
ナンテン | ||||||||||||||||||||||||
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分類(APG III) | ||||||||||||||||||||||||
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学名 | ||||||||||||||||||||||||
Nandina domestica Thunb. (1781)[1] | ||||||||||||||||||||||||
和名 | ||||||||||||||||||||||||
ナンテン(南天) | ||||||||||||||||||||||||
英名 | ||||||||||||||||||||||||
heavenly bamboo | ||||||||||||||||||||||||
栽培品種 | ||||||||||||||||||||||||
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ナンテン(南天[2]、学名: Nandina domestica)は、メギ科ナンテン属の常緑低木で、1属1種の植物である[3]。 中国原産[4]で、日本には江戸期以前に伝わった。庭木として植えられ、冬に赤くて丸い実をつける。乾燥させた実は南天実(なんてんじつ)として咳止め伝統医薬とされる。
名称[編集]
和名ナンテンの由来は、中国語の音読み[4][5]。 漢名(中国植物名)は、冬に目立つ赤い果実から灯火を連想して南天燭、また葉や幹の姿が竹に似ることから南天竹(なんてんちく)[1][6](南天竺)と名付けられた。
南天の花は、仲夏の季語。実は三冬の季語。
分布・生育地[編集]
茨城県以西の本州・四国・九州[7][2]の暖地、山地渓間に自生(古くに渡来した栽培種が野生化したものだとされている)し、観賞用に庭木としてや玄関前などに植えられるなど[6]、栽培されている[8]。
山口県萩市川上の「川上のユズおよびナンテン自生地」は、国の天然記念物(1941年指定)[10]。
特徴[編集]
常緑広葉樹の低木[8]。樹高は1 - 3メートル (m) ぐらい[4][9]、高いもので4 - 5 mほどになり、株立ちとなる。幹は叢生し、幹の先端にだけ葉が集まって付く独特の姿をしている[8]。樹皮は褐色で縦に溝がある[2]。
葉は互生し、3回3出羽状複葉で[9]、小葉は広披針形で先端が少し突きだし、葉身は革質で深い緑色、ややつやがあり、葉縁は全縁。葉柄の基部は膨らみ、茎を抱く[8]。羽軸、小羽軸に関節があり、園芸種では形や色に変化がある[8]。冬に葉が赤くなる品種もある[2]。
花期は初夏(5 - 6月)ごろ[7]、茎の先端の葉の間から、円錐花序を上に伸ばし、6弁の白い花を多数つける[4][8]。雄しべは黄色で6本、中央の雌しべには柱頭に紅色が差す[3]。
果期は晩秋から初冬にかけて(11 - 12月)。ふつう赤朱色、ときに白色で、小球形の果実をつける[4][8]。果実は初冬に熟し[7][9]、果皮は薄く、破けやすい[8]。実の白いものはシロミノナンテンという園芸種で、これもよく栽培されている[9]。果実は鳥に食べられることで、種子が遠くに運ばれて分布を広げる[3]。
冬芽は赤褐色で鞘状の葉柄基部に包まれているため、ほぼ直接見ることは出来ない[2]。春になると、この葉柄基部が膨らんで、葉芽や花芽を伸ばしてくる[2]。
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樹型、株立ちする
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上部の幹
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上部の幹と葉
利用[編集]
庭木として、常緑の葉と赤い果実の色彩が妙で、冬の庭園に彩りを与える[2]。園芸種も豊富にある[7]。生け花の花材としても用いられる。
乾燥させた実は薬用として用いられ[9]、南天実(なんてんじつ)として咳止め伝統医薬とされる。成分はドメスチン、イソコリジン。和薬(局方外生薬規格)で漢方薬ではない。
平らに広がった複葉全体の感じが見栄えすることから、料理のあしらい、掻敷(かいしき)に好まれる[5]。
読みを「難転」「難を転じる」と解釈して縁起木とされるが木材として流通することは少なく、箸、茶入れ、棗など工芸品レベルにとどまる。 まれに大きく育った幹を床柱として使うことがあり、鹿苑寺(金閣寺)の茶室、柴又帝釈天の大客殿などで見られる。
栽培[編集]
寒冷地以外は露地植えできるため、庭先などでよく見かける。繁殖は挿し木で増やすことができ、春の萌芽前に挿すか、梅雨時期に株分けを行う[8]。
江戸時代に様々な葉変わり品種が選び出された園芸種が盛んに栽培された[5]。古典園芸植物として現在も錦糸南天など一部が保存栽培されている。白い果実をつけるシロミナンテンは薬用に喜ばれ希少価値がある[8]。
オタフクナンテン(葉がやや円形なのでオカメナンテンとも)は、葉が鮮やかなに紅葉しやすく実がつかないのが特徴で、高さも50cm程度しか伸びないことから庭園や街路樹としてよく用いられる。
薬用・実用[編集]
葉は、南天葉(なんてんよう)[4]または南天竹葉(なんてんちくよう)という生薬で[6]、健胃、解熱、鎮咳などの作用がある。葉に含まれるシアン化水素は猛毒であるが、含有量はわずかであるために危険性は殆どなく、食品の防腐に役立つ。このため、彩りも兼ねて弁当などに入れる。熊本県旧飽田町(現熊本市)では、すり潰したナンテンの葉の汁を濾したものを小麦粉の生地に加えた麺料理「しるかえ」[11]を作る[12]。もっとも、これは薬用でなく、食あたりの「難を転ずる」というまじないの意味との説もあり[13]、当初から、殺菌効果があると分かって赤飯に添えられたり、厠(手洗い)の近くに植えられたのかは定かではない。
実は、南天実(なんてんじつ)[4]または南天竹子(なんてんちくし)といい[6]、11 - 12月から翌2月にかけて実が成熟したときに、果穂ごと切り取って採取し、天日で乾燥して脱粒する[4][8]。果実に含まれる成分としては、アルカロイドであるヒゲナミン・イソコリジン・ドメスチン(domesticine)・プロトピン・ナンテニン(nantenine:o- methyldomesticine)・ナンジニン(nandinine)・メチルドメスチンや[4]、配糖体のナンジノシド(nandinoside)などの他、種子には脂肪油のリノール酸・オレイン酸・フィトステロールや、プロトピン、フマリン酸などが知られている[4]。鎮咳作用をもつドメスチンは、温血動物に対して多量に摂取すると、大脳、呼吸中枢の麻痺作用があり、知覚や運動神経にも強い麻痺を引き起こすため[4]、素人が安易に試すのは危険である。また、近年の研究でナンテニンに気管平滑筋を弛緩させる作用があることが分かった[14]。また、ナンジノシドは抗アレルギー作用を持ち、これを元にして人工的に合成されたトラニラストが抗アレルギー薬及びケロイドの治療薬として実用化されている[15]。脂肪油のリノール酸は、コレステロールの血管への沈着を防ぎ、動脈硬化の予防に役立つ[4]。赤い実も白い実も成分は同じで、薬効は変わらない[4]。
知覚神経の局所麻酔、運動神経の麻痺作用があることから、鎮咳に有効とされていて、民間療法では、咳、百日咳、二日酔いに南天の実1日量3 - 10グラムを、水400 - 500 ㏄で半量なるまで煎じ、3回に分けて服用する用法が知られている[6][8]。ただし、ぜんそくの咳には南天実だけでは止められないので、専門医の指導で漢方薬を用いる必要がある[4]。のどの渇き、黄色い痰の出る人に良いと言われているが、ナンテンは毒性も併せ持つため用量に注意が必要となり、また身体が冷える人への服用は禁忌とされている[6]。扁桃炎や口内炎、のどの痛みには、うがい薬代わりに南天葉1日量10グラムを、水600 ccで煎じた液でうがいに用いる[4]。湿疹には、葉を50グラムほどを布袋に入れて、浴湯料として風呂に入れる[6]。かつて、民間では船酔いにナンテンの葉を噛んでいた[8]。
- 毒成分
- ナンテニン、ナンジニン、メチルドメスチシン、プロトピン、イソコリジン、ドメスチシン、リノリン酸、オレイン酸
- 毒部位
- 全株、葉、樹皮、実、新芽
- 毒症状
- 痙攣、神経麻痺、呼吸麻痺
文化[編集]
「ナンテン」を「難転」すなわち「難を転ずる」とみて、縁起の良い木とされた[7]。 花言葉も「福をなす」[3]である。
縁起物として[編集]
「(難を転じて)福をもたらす、(災い転じて)福となす」と続けて、福寿草や葉牡丹と一緒に鉢植え(根を張るように)にしたものを、正月の飾り花として床の間に飾る[3]習慣や、安産祈願の贈りものとされていた。 赤い色にも縁起が良く厄除けの力があると信じられ、江戸後期から慶事に用いるようになった[16]という。
江戸期の百科事典『和漢三才図会』には「南天を庭に植えれば火災を避けられる」とあり、赤い実が逆に「火災除け」として玄関前に[16]庭木として、縁起木として鬼門または裏鬼門に、あるいは便所のそばに「南天手水」と称し葉で手を清めるため植えられた[16][3]。
南天の箸を使うと病気にならないという言い伝えや[7]、贈答用の赤飯にナンテンの生葉を載せているのも、難転の縁起からきている[8]。 床にナンテンを敷いて妊婦の安産を祈願したり、武士が出陣前に床に差して、戦の勝利を祈願するためにも使われた[3]。
その他[編集]
- 活け花などでは、ナンテンの実は長持ちし最後まで枝に残っている。このことから一部地方では、酒席に最後まで残って飲み続け、なかなか席を立とうとしない人々のことを「ナンテン組」という[17]。
- 1962年(昭和37年)2月20日発売の6円普通切手の意匠になった。
脚注[編集]
- ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Nandina domestica Thunb. ナンテン(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年3月25日閲覧。
- ^ a b c d e f g 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 225.
- ^ a b c d e f g 田中潔 2011, p. 27.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n o 田中孝治 1995, p. 152.
- ^ a b c 田中潔 2011, p. 26.
- ^ a b c d e f g 貝津好孝 1995, p. 106.
- ^ a b c d e f g 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 114.
- ^ a b c d e f g h i j k l m n 馬場篤 1996, p. 84.
- ^ a b c d e f 菱山忠三郎 2003, p. 56.
- ^ 文化庁. “国指定文化財等データベース:主情報詳細”. 国指定文化財等データベース. 2011年11月22日閲覧。
- ^ https://www.youtube.com/watch?v=oI30J_C4-wc
- ^ 日本の食生活全集43 聞き書 熊本の食 P.198, pp. 211 - 212 農文協刊 1987年 ISBN 4-540-87031-9
- ^ 北村・村田(1979)、p.173
- ^ Muneo Tsukiyama; et al. (2007). “The Extract from Nandina domestica THUNBERG Inhibits Histamine- and Serotonin-Induced Contraction in Isolated Guinea Pig Trachea”. Biological & pharmaceutical bulletin (The Pharmaceutical Society of Japan) 30 (11): 2063 - 2068. doi:10.1248/bpb.30.2063. ISSN 0918-6158. NAID 110006473483 .
- ^ リザベン(トラニラスト)、病院でもらった薬の値段
- ^ a b c 常盤薬品「南天研究所~南天豆知識~」
- ^ 岩貞好「土佐の風土と食べもの」(『調理科学』4巻4号、1971年)223頁
参考文献[編集]
- 貝津好孝『日本の薬草』小学館〈小学館のフィールド・ガイドシリーズ〉、1995年7月20日、106頁。ISBN 4-09-208016-6。
- 北村四郎・村田源『原色日本植物図鑑・木本編II』保育社、1979年。
- 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『樹皮と冬芽:四季を通じて樹木を観察する 431種』誠文堂新光社〈ネイチャーウォチングガイドブック〉、2014年10月10日、225頁。ISBN 978-4-416-61438-9。
- 田中潔『知っておきたい100の木:日本の暮らしを支える樹木たち』主婦の友社〈主婦の友ベストBOOKS〉、2011年7月31日、26 - 27頁。ISBN 978-4-07-278497-6。
- 田中孝治『効きめと使い方がひと目でわかる 薬草健康法』講談社〈ベストライフ〉、1995年2月15日、152頁。ISBN 4-06-195372-9。
- 馬場篤『薬草500種-栽培から効用まで』大貫茂(写真)、誠文堂新光社、1996年9月27日、84頁。ISBN 4-416-49618-4。
- 菱山忠三郎『ポケット判 身近な樹木』主婦の友社、2003年6月1日、56頁。ISBN 4-07-238428-3。
- 平野隆久監修 永岡書店編『樹木ガイドブック』永岡書店、1997年5月10日、114頁。ISBN 4-522-21557-6。
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- 茂木透写真『樹に咲く花 離弁花2』高橋秀男・勝山輝男監修、山と溪谷社〈山溪ハンディ図鑑〉、2000年、144 - 145頁。ISBN 4-635-07004-2。
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
- "Nandina domestica Thunb" (英語). Integrated Taxonomic Information System. 2011年11月22日閲覧。 (英語)
- "Nandina domestica". National Center for Biotechnology Information(NCBI) (英語). (英語)
- "Nandina domestica" - Encyclopedia of Life (英語)
- 波田善夫. “ナンテン”. 植物雑学事典. 岡山理科大学. 2011年11月22日閲覧。
- いがりまさし. “ナンテン”. 植物図鑑・撮れたてドットコム. 2011年11月22日閲覧。