エチゾラム

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エチゾラム
Etizolam Formula V1.svg
Etizolam3d.png
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
胎児危険度分類
  •  ?
法的規制
投与方法 経口
薬物動態データ
生物学的利用能 93%
代謝 肝臓
半減期 約6時間
排泄 腎臓
識別
CAS番号
(MeSH)
40054-69-1
ATCコード N05BA19
PubChem CID: 3307
DrugBank ?
KEGG D01514
化学的データ
化学式 C17H15ClN4S
分子量 342.8

エチゾラム
形状 白色または微黄色結晶
融点 145–149 °C
デパス 1mg錠
Etilaam 1mg錠
(小さいため写真では分かり難いが割線が入っている)

エチゾラム: etizolam)は、チエノジアゼピン系に属する抗不安薬であり、ベンゾジアゼピン系と同様の作用を持つ。睡眠導入剤としての適応も持つ。エチゾラムは多くの後発医薬品が存在する。日本国内の先発品における商品名はデパス。日本国外では、DepasSedekopan等の商品名で販売される。乱用はあるが、用いられている国が少ないため国際条約である向精神薬に関する条約による指定はない[1]

米国では一部の州でスケジュールI指定されている。

他のベンゾジアゼピンを含めても、日本の乱用症例において3位がエチゾラムである[2]。日本の麻薬及び向精神薬取締法における向精神薬に指定して規制管理すべきと主張する者もいる[3]。長期間用いた場合には、他のベンゾジアゼピン同様に離脱症状に注意が必要である。エチゾラムを10倍量誤投与し、植物状態となった事例は、日本薬剤師会[4]、日本病院薬剤師会[5]、厚生労働省による事故防止の検討会[6]でもとりあげられており、事故防止に重要である。

作用機序[編集]

分類上、ベンゾジアゼピン系抗不安薬とよく似た化学構造と作用機序を有するため、チエノジアゼピン系の薬剤は上記の薬剤郡内に分類される。薬効、薬理についても、シナプス後細胞側に存在するGABAA受容体に結合することによりCl-イオンを透過させやすくし、神経細胞の膜電位を負の方向に過分極(活動電位の閾値に到達させる方向とは逆方向)させることで神経細胞全体としては興奮が起こりにくくなり、脳神経活動全体に対して抑制的に働く。

説明図
ベンゾジアゼピン作用機序と神経の活動電位

GABAA受容体は3種類のサブユニットα、β、γが複数ずつ組み合わされて構成されたイオンチャネル共役型受容体であり、そのたんぱく質のモチーフは4回膜貫通型の膜たんぱく質型に分類される。そしてGABAA受容体の存在する組織の部位によってサブユニット構成が異なることが知られている。GABAがGABAA受容体に結合することでCl-イオンチャンネルが開くが、ベンゾジアゼピン結合部位はGABA結合部位とは異なりアロステリック的にGABAの作用を増強するように働く。また、ベンゾジアゼピン類はγサブユニットと関係が深いことが研究により判明している。

GABAA受容体は小脳などを含めた広く脳全体に分布しているが、特にベンゾジアゼピン類に感受性を持つGABAA受容体が多いのは視床下部および大脳辺縁系、特に扁桃核である。これらの部位においてチエノジアゼピン系抗不安薬もGABA作用を増強し神経伝達に対して抑制作用を示すことで、不安・緊張などの情動異常を改善する。それ故、中枢神経の他の部位が関与する機能、例えば高次脳機能等に対しては抑制作用が少ない。また、ベンゾジアゼピン系抗不安薬と同様に、睡眠導入および筋弛緩作用も併せ持つ。そして、大量では呼吸抑制を引き起こす。

薬理[編集]

エチゾラムはジアゼパムに比べ、強い力価(重量あたりの薬理作用強度)を持つ。すなわち、薬理実験ではベンゾジアゼピンの5 - 6倍の作用を示し、1/4程度の量で作用が期待される。そして、作用発現および持続が短時間(6時間以内)であるという特徴を持ち、服用後約3時間(食後30分経口)で最高血中濃度に到達する。

抗不安薬としては他のマイナートランキライザーと大同小異であるが、作用が強い分だけ連用後の退薬症状(いわゆる禁断症状)が出やすい。すなわち、強い作用と持続が短いという特性から不眠の際に利用される睡眠導入剤の補助(単独での処方ではなく、例えば、トリアゾラムに追加されるなど)として利用される場面が多い。また筋弛緩作用も強いため、肩こりなどの症状にも処方される場合がある。

適応[編集]

  1. 神経症心身症うつ病における不安緊張睡眠障害
  2. 統合失調症における睡眠障害
  3. 神経症・心身症における軽度のうつ
  4. 頸椎症、腰痛症、筋収縮性頭痛における筋緊張

用量[編集]

  • 神経症、うつ病 - 成人に1日3mgを3回に分けて、経口投与する。
  • 心身症、頚椎症、腰痛症、筋収縮性頭痛 - 成人に1日1.5mgを3回に分けて、経口投与する。
  • 睡眠障害 - 成人に1日1 - 3mgを就寝前に1回、経口投与する。

いずれの場合にも、年齢、症状により適宜増減する。体内に残存しやすい高齢者は1日1.5mgまでとする。

  • 併用注意
    • 中枢神経抑制剤 - 両薬剤が相加的に作用を発現する。
    • MAO阻害剤 - 同剤は肝臓でのエチゾラム代謝を競争的に阻害するため、作用強度が増大したり持続時間の延長がみられることがある。
    • フルボキサミン - 同剤は肝臓でのエチゾラム代謝を競争的に阻害するため、作用強度が増大したり持続時間の延長がみられることがある。

これらの薬剤と併用する場合は、投与量を適宜減量する必要がある。

物性[編集]

エチゾラム開環体の構造式
  • 融点 146 - 149℃
  • デパス及びそのジェネリック製品では、フィルムコート錠となっているが、腸溶錠ではない。エチゾラムは、pH4.0以下の酸性水溶液(胃液)では開環体へと変化し効力が減弱するが、アルカリ性の小腸に達すると再び閉環体に戻り、活性を持って小腸で吸収される。アルカリ水溶液中では37℃で4時間は安定である。
  • 光分解性を有することが知られている。

一般的注意[編集]

眠気、注意力、集中力、反射運動能力等の低下が起こることがあるので、自動車や機器の操作運転は従事しない。自分の判断で勝手に服用を中止したりしない。アルコールとの併用は神経抑制作用とアルコールの酩酊作用を増強するため危険。

使用禁忌[編集]

  1. 急性狭隅角緑内障の患者
  2. 重症筋無力症の患者

慎重投与[編集]

  1. 心障害、肝障害、腎障害のある患者
  2. 脳に器質的障害のある患者(作用が強く現れる)
  3. 小児および高齢者
  4. 中等あるいは重篤な呼吸障害を持つ患者

副作用[編集]

  • 精神神経系副作用
    ときに眠気、ふらつき、めまい、歩行失調、頭痛・頭重、言語障害、また、まれに不眠感、興奮、焦燥、振戦、眼症状(霧視、調節障害)が現れることがある。
    統合失調症等の患者で逆に刺激興奮、錯乱等が現れることがある。
  • 依存性
    大量連用により、まれに薬物依存を生じることがある。
    また、大量投与または連用中における投与量の急激な減少ないし中止により、まれにけいれん発作、ときにせん妄、振戦、不眠、不安、幻覚、妄想等の禁断症状が現れることがある。
  • 肝機能障害
    黄疸あるいは血清中の酵素指標の上昇など肝機能障害を示すことがある。
  • 長期間の使用では眼瞼痙攣[7]

また、以下の少数の副作用が報告されている。

  • 呼吸抑制、炭酸ガスナルコーシス
    呼吸抑制が現れることがある。中等あるいは重篤な呼吸障害を持つ患者では炭酸ガスナルコーシスが現れることがある。
  • 悪性症候群
    発熱、強度の筋強剛、嚥下困難、頻脈、血圧の変動、発汗、白血球の増加、血清CK(CPK)の上昇等、悪性症候群の症状が現れることがある。
  • 横紋筋融解症
    筋肉痛、脱力感、CK(CPK)値上昇、血中および尿中ミオグロビン上昇など横紋筋融解症が現れることがある。
  • 間質性肺炎
    発熱、咳嗽、呼吸困難、肺音の異常(捻髪音)等、間質性肺炎の症状が現れることがある。この薬剤に対するアレルギー反応が原因と考えられている。
  • 遠心性環状紅斑 skin lesions [8]

過剰摂取[編集]

エチゾラムの過剰摂取による自殺の例があり、過剰摂取が致命的となる可能性がある証拠が存在する[9]

エチゾラム0.5mgのところを、誤って5mgを誤投与したため呼吸停止し、植物状態となり、業務上過失傷害の疑いで捜査となった例があり[10]、慎重に使いたい。この事例は、日本薬剤師会[4]、日本病院薬剤師会[5]、厚生労働省による事故防止の検討会[6]でも事故の事例として取り上げられており、重要である。

乱用[編集]

エチゾラムは乱用の可能性がある薬物である。エチゾラムは霊長類での実験にて、バルビツール酸の作用に影響を与えることが示されている。[11]

世界保健機関の薬物依存専門委員会は、エチゾラムの乱用の可能性を中等度と評価しているが、用いられている国が少なく国際的には乱用が問題となっておらず、向精神薬に関する条約におけるスケジュールの指定は行われていない[1]。ベンゾジアゼピンと非ベンゾジアゼピン系を含めた日本の乱用症例において、3位がエチゾラムであり、乱用リスクの高い薬剤に同定されている[2]。規制管理下になく、30日分を超える処方が行われ、119人の処方実態の調査では38.7%の人が重複処方を受けていたため、麻薬及び向精神薬取締法における向精神薬に指定し、規制管理することが必要だと主張されている[3]

耐性と依存、離脱[編集]

他のベンゾジアゼピンと同様、突然または急速な断薬によって反跳性不眠などのベンゾジアゼピン離脱症候群が起こる[12]。まれに断薬時に悪性症候群を起こすケースがある[13]

ベンゾジアゼピン系薬物でも、短時間作用で高力価の薬剤によるものにおいて離脱症状が起こりやすく、エチゾラムはそういった薬剤である[14]

商品名[編集]

デパスが先発品である。錠剤型のデパス錠0.25mg、デパス錠0.5mg、デパス錠1mg、また散剤のデパス細粒1%(10mg/g)が存在する。後発品には、アロファルム、エチゾラム「トーワ」、エチセダン、エチゾラム「EMEC」、エチゾラン、エチドラール、カプセーフ、グペリース、サイラゼパム、セデコパン(エチゾラム「JG」)、デゾラム、デムナット、ノンネルブ、パルギン、メディピース、モーズン(エチゾラム「TCK」)などがある。エチドラール、セデコパン(エチゾラム「JG」)は、細粒1%の商品も存在する。国外には、エチラームなどがある。

近年、後発品については、エチゾラム「JG」(長生堂製薬製造、日本ジェネリック販売)やエチゾラム「TCK」(辰巳化学製造、各メーカー販売)のように、旧来の名称から「エチゾラム+メーカー略号」に変更する動きがみられる。

日本での経緯[編集]

エチゾラムは、吉冨製薬(現・田辺三菱製薬)が開発し、商品名デパスとして1983年9月に承認され、1984年3月に発売された。多くの後発医薬品が存在し、日本国外でもDepas、Sedekopan等の商品名で販売されている(アメリカ合衆国、カナダでは未認可である)。

  • 承認年月日 1983年9月21日
  • 薬価基準収載日 1984年3月17日

脚注[編集]

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  1. ^ a b 世界保健機関 (1989) (pdf). WHO Expert Committee on Drug Dependence - Twenty-sixth Report / WHO Technical Report Series 787 (Report). World Health Organization. pp. 10-11. ISBN 92-4-120787-6. http://whqlibdoc.who.int/trs/WHO_TRS_787.pdf. 
  2. ^ a b 松本俊彦「処方薬乱用・依存からみた今日の精神科薬物治療の課題:ベンゾジアゼピンを中心に」、『臨床精神薬理』第16巻第6号、2013年6月10日、 803-812頁。
  3. ^ a b Shimane T, Matsumoto T, Wada K (October 2012). “Prevention of overlapping prescriptions of psychotropic drugs by community pharmacists”. 日本アルコール・薬物医学会雑誌 47 (5): 202–10. PMID 23393998. 
  4. ^ a b 日本薬剤師会 (pdf). 全国統一調剤事故防止研修:患者さんの命と健康を守るために (Report). http://www.nichiyaku.or.jp/anzen/pdf/kensyu.pdf 2015年3月1日閲覧。. 
  5. ^ a b 「新体制期」『日本病院薬剤師会創立50周年 日本病院薬剤師会の歴史』 日本病院薬剤師会、2005年、119頁。 平成17年度事業報告 (PDF) によれば、『日病薬誌』平成17年2月~平成18年1月に連載された。
  6. ^ a b 主任研究者、齋藤壽一 (2005-03-30) (pdf). 平成17年度厚生労働科学研究費補助金 特別研究事業 処方せんの記載方法に関する医療安全対策の検討 報告書 (Report). http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/dl/s0525-3e.pdf 2015年3月1日閲覧。. . 第1回 内服薬処方せんの記載方法の在り方に関する検討会 議事次第. (2009-05-25). http://www.mhlw.go.jp/shingi/2009/05/s0525-3.html における資料。
  7. ^ Wakakura M, Tsubouchi T, Inouye J (March 2004). “Etizolam and benzodiazepine induced blepharospasm”. J. Neurol. Neurosurg. Psychiatr. 75 (3): 506-7. doi:10.1136/jnnp.2003.019869. PMC 1738986. PMID 14966178. http://www.pubmedcentral.nih.gov/articlerender.fcgi?tool=pmcentrez&artid=1738986. 
  8. ^ Kuroda K, Yabunami H, Hisanaga Y (January 2002). “Etizolam-induced superficial erythema annulare centrifugum”. Clin. Exp. Dermatol. 27 (1): 34-6. doi:10.1046/j.0307-6938.2001.00943.x. PMID 11952667. 
  9. ^ Nakamae T, Shinozuka T, Sasaki C, et al. (November 2008). “Case report: Etizolam and its major metabolites in two unnatural death cases”. Forensic Sci. Int. 182 (1-3): e1-6. doi:10.1016/j.forsciint.2008.08.012. PMID 18976871. 
  10. ^ 『読売新聞』2000年6月3日朝刊39面。
  11. ^ Woolverton WL, Nader MA (December 1995). “Effects of several benzodiazepines, alone and in combination with flumazenil, in rhesus monkeys trained to discriminate pentobarbital from saline”. Psychopharmacology (Berl.) 122 (3): 230-6. doi:10.1007/BF02246544. PMID 8748392. 
  12. ^ Hirase M, Ishida T, Kamei C (November 2008). “Rebound insomnia induced by abrupt withdrawal of hypnotics in sleep-disturbed rats”. Eur. J. Pharmacol. 597 (1-3): 46-50. doi:10.1016/j.ejphar.2008.08.024. PMID 18789918. 
  13. ^ Kawajiri M, Ohyagi Y, Furuya H, et al. (February 2002). “A patient with Parkinson's disease complicated by hypothyroidism who developed malignant syndrome after discontinuation of etizolam” (Japanese). Rinsho Shinkeigaku 42 (2): 136-9. PMID 12424963. 
  14. ^ 戸田克広「ベンゾジアゼピンによる副作用と常用量依存」、『臨床精神薬理』第16巻第6号、2013年6月10日、 867-878頁。

参考文献[編集]

  • 読んでやめる精神の薬

浜 六郎

関連項目[編集]

外部リンク[編集]