養命酒
養命酒(ようめいしゅ)は、養命酒製造株式会社が製造販売する薬用酒で、同社の登録商標(第520137号ほか)である。第2類医薬品(>滋養強壮保健薬>薬用酒)「薬用養命酒(やくようようめいしゅ)」として、薬局やドラッグストア等で販売されている[注 1]。アルコール分14vol%を含有する。
材料と製法
以下に挙げる14種類の生薬により、滋養強壮の効能を持つとされている[1]。
- 桂皮(けいひ) - 4500 (ミリグラム/リットル (mg/L))[2]
- 紅花(こうか) - 200 (mg/L)[2]
- 地黄(じおう) - 1000 (mg/L)[2]
- 芍薬(しゃくやく) - 1000 (mg/L)[3]
- 丁子(ちょうじ) - 400 (mg/L)[3]
- 杜仲(とちゅう) - 300 (mg/L)[3]
- 人参(にんじん)(高麗人参) - 1000 (mg/L)[3]
- 防風(ぼうふう) - 1600 (mg/L)[3]
- 鬱金(うこん) - 600 (mg/L)[2]
- 益母草(やくもそう)(メハジキの葉茎) - 800 (mg/L)[3]
- 淫羊藿(いんようかく) - 1900 (mg/L)[2]
- 烏樟(うしょう) - 9900 (mg/L)[2]
- 肉蓯蓉(にくじゅよう) - 800 (mg/L)[3]
- 反鼻(はんぴ) - 200 (mg/L)[3]
上記の生薬を、日局規定のチンキ剤製法に準じて味醂[注 2]に冷浸して作られる。他にアルコール、ブドウ糖、カラメルが添加されている(先に挙げた味醂も添加物扱い)。
効能
血行を促進するため手術や出産直後などで出血中の場合と、アルコールを含有するため飲用後の乗物・機械類の運転操作を行う場合の服用は禁忌とされている[注 3]。
なお、未成年の服用については、食生活の向上による虚弱児童の減少と飲酒に対する意識の変化を踏まえ、現在は推奨されていない。かつて小児にも設定されていた用法・用量は現在成人のみとなっており、20歳未満[注 4]の場合には服用できないこととされている[注 5]。
歴史
養命酒は、日本産の薬用酒である[4]。製造元に残る伝承によれば、慶長年間、信州伊那郡大草領(現在の長野県上伊那郡中川村大草)に住んでいた庄屋の塩沢宗閑翁が、雪の中で倒れていた老人を助けた。この老人が塩沢の元を去るときに、礼として薬用酒の製法を教えてくれたものが養命酒の起源だという[5]。1602年、「養命酒」の名で製造開始。1603年には徳川家康に献上[5]され、そのときに「飛龍」の印を使うことが許されたという[6]。日本初の商標ともいわれている[6]。赤穂浪士が養命酒を飲んでいた記録があるほか、1774年刊行の小説、『異国奇談和荘兵衛』に養命酒が登場している。長らく塩沢家で製造されてきたが、1923年には塩沢貞雄が株式会社天龍舘を設立、会社組織になった。
1930年に東京で本格的に養命酒を売り出した当初は全く売れなかった。進出に先立ち試飲した東京の酒類販売業者たちからは「こんなものが売れるものか」と大笑いされたという。しかし地道な宣伝活動を継続して行った結果、33年後の1963年の東京での売り上げは発売開始初年度の約80倍にまで膨らんでいた[7]。世界にも知られるようになったのは、山本五十六海軍大将が養命酒の愛飲家で、ロンドン海軍軍縮会議に参加する若槻禮次郎全権大使に同行した際に持っていったのがきっかけと言われている。その後、中国やマレーシア、シンガポール、ブラジルなどに輸出するようになる。タイ王国では、味・効能とも非常によく似たヤーストゥリーが現在[いつ?]も販売されている。
戦後の一時期、虚弱体質の子供向けの滋養強壮薬としても普及した。少年少女向け漫画雑誌に広告を載せた[8][9]ほか、自動車のおもちゃなどを付けて販売した時期もあった。また2009年末までは、酒類販売業者において酒類(>リキュール類>薬味酒)としての「養命酒」も販売されていた。「薬用養命酒」とはパッケージのデザインが異なっていたが、中身は両者とも同じであった。しかし酒系市場における売り上げが減少の一途をたどったことから、販売が打ち切られている[注 6]。
イメージキャラクター・CM出演者
- 坪井研二(1965年 - 1983年頃)
- 加藤芳郎
- 山本學(1980年代 - 1990年代)
- 大和田獏 (1982年)
- みのもんた (1988年)
- 柳家小三治 (1987年)
- 木の葉のこ (1988年)
- 藤田まこと (1992年 - 2001年)
- 赤木春恵(1993年)
- 三田村邦彦(1994年 - 1995年)
- 立川志の輔 (1996年)
- 草笛光子 (2000年)
- 平淑恵 (2000年)
- 森野文子 (2000年)
- 高橋由美子 (2003年)
- 本上まなみ(2006年)
- 原田美枝子(2007年)
- ゴルゴ13(2013年)
- 中嶋朋子(2016年)
- 唐橋ユミ(2016年)
- 藤井隆・乙葉夫婦 (2017年 - 2020年)
- 草刈正雄(2020年現在)[10]
脚注
- ^ 医薬品のため、酒税法・二十歳未満ノ者ノ飲酒ノ禁止ニ関スル法律上の「酒類」には該当しない。
- ^ 自社製であり、「家醸本みりん」の名で市販されている。
- ^ 養命酒製造の公式ホームページにある『「薬用養命酒」に関するよくあるお問合わせ』の「飲んで運転すると飲酒運転になりますか?」によれば、『「薬用養命酒」は医薬品ですが、アルコール分が14%も含まれています。飲酒運転は法律で禁じられていますので、運転前の服用はお控えください。』の旨が掲載されている。
- ^ 令和4年(2022年)4月1日から、民法上の成人年齢は満18歳以上に変更されるが、飲酒可能年齢は当面満20歳以上とすることが予想される。
- ^ 養命酒製造の公式ホームページにある『「薬用養命酒」に関するよくあるお問い合わせ(養命酒製造)』の「未成年が飲んでも大丈夫?」によれば、『「薬用養命酒」にはアルコール分が14パーセント(日本酒やワイン程度)含まれていますので、20歳未満の場合には服用できません。』の旨が記載されている。
- ^ 後継商品として、2010年3月からリキュール「ハーブの恵み」が販売されているが、原酒もハーブも「養命酒」とは異なる。
出典
- ^ 養命集 養命酒製造株式会社
- ^ a b c d e f 田多井 吉之介 『酒と飲みものの健康学』 p.70 大修館書店 1983年9月10日発行 ISBN 4-469-16357-0
- ^ a b c d e f g h 田多井 吉之介 『酒と飲みものの健康学』 p.71 大修館書店 1983年9月10日発行 ISBN 4-469-16357-0
- ^ 田多井 吉之介 『酒と飲みものの健康学』 p.73 大修館書店 1983年9月10日発行 ISBN 4-469-16357-0
- ^ a b 中川村 発行『中川村誌』下巻 近代・現代編/民俗編(2005年),p191-192
- ^ a b 日本家庭薬協会
- ^ 朝日新聞・昭和38年7月11日新聞広告記述
- ^ まぼろしチャンネル・第13回「通販広告の手法としてのマンガ」の巻
- ^ 『ニッポン・ロングセラー考Vol.65 養命酒』COMZINE2008年10月号
- ^ "『薬用養命酒』の新プロモーションに草刈正雄さんを起用。2020年7月1日より、新CM「希望の朝」篇が地上波で放映開始!" (Press release). PR TIMES. 2020-7-1. 2020-7-1閲覧。
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関連項目
- 保命酒 - 広島県福山市鞆町名産の薬味酒(リキュール)。医薬品ではないが養命酒と同様の製法によっている。
- 陶陶酒 - 養命酒・保命酒と並ぶ代表的な薬味酒・薬用酒。
- 黄帝酒 - 薬用酒。佐藤製薬から発売。
- 中沢臨川 - 文芸評論家。塩沢家の出身。
- 塩沢幸一 - 海軍大将。塩沢家の出身で、中沢臨川の弟。同期の山本五十六からは「おい養命酒」と呼ばれていた。