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為替レート

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為替レート(かわせレート、: Exchange Rate)とは、通常の外国為替の取引における外貨との交換比率(交換レート)である。為替相場、通貨レート、単にレートとも呼ぶ。基本的に市場で決定される。市場で決定されたレートを MER (Market Exchange Rate) と呼ぶ。

概要

現代における貨幣通貨)は、各国(または複数国が協調して)の政府ないし中央銀行が発行し、当該国の法律などにより裏付けを与えられ通用しているものが一般に用いられているが、その通貨は一般に当該国・地域の外では通用しないため、貿易や資本移動など国境を越える取引においては、当該国・地域で通用する通貨へ交換する必要が生じる。その際、自国・地域と相手国・地域との通貨の交換比率を決定するための概念が為替レートである。ここで注意したいのは、基軸通貨である米ドルに対し固定相場制や変動の緩慢な通貨バスケット制を採用している国が多く存在する事である。米ドルと連動するそれらの国の為替レートを考慮したレートのネットが、変動相場制を採用している国々との正確な現米ドル為替レートとなっているか考慮する必要がある。

一般に、為替レートはその制度いかんに関わらず経済情勢の変化によって変動する。 ある通貨Aに対して、通貨Bの価値が増大した場合、BはAに対して増価したという。また、AはBに対して減価したという。

中央銀行などの介入(為替介入)や固定相場レートの変更などで、為替相場の水準が人為的に変更された場合は、自通貨が増価した場合を切り上げ、減価した場合を切り下げと呼ぶ。

為替レートに対しては、例えば「為替は国力を表すはずだ。少子化で衰退していく国の通貨が上昇するのはおかしい」というような誤解を持たれることがある。為替レートというのは基本的に2つの通貨の交換価値に過ぎず、長期的には購買力平価に沿った動きになる。[1]すなわち、インフレ率が高ければ通貨の価値が下がり、インフレ率が低ければ上がると考えることができる。そして、長期的にはそれが為替レートに反映される、とシンプルに考えればよい。基本的に為替レートは単純にモノとモノとの交換レートに過ぎないため、為替が国力を表したり、成長率が高い通貨が買われ続けたりすると言うのは幻想であると言える。[2]

デフレと低金利の継続する日本は、購買力平価説および金利平価説により、長期平均では名目上の円高が進むのが理論的な期待値である。また円高がデフレ圧力として働く。

近年、「リスク回避の円買い」[3][4][5]となっており、リスク回避的になる時には、全世界の株が下落し、円高となる傾向が強い。逆に「リスク選好的」となる時には、全世界の株が上昇し、円安となる傾向が強い。

円高が進行しているのは準備通貨としての存在感が強まってきたからだという指摘がある。中央銀行(特にアジアの中央銀行)が、ドル中心だった外貨準備の多角化を目指しているためである[3]

為替レートはマネタリーベースと大きく関係している。円高を是正したいなら、円を刷って増やせばよい。円高になると、GDPが減り、株価は下がる。円安になると、GDPが増えて、株価は上がる[6]

金利との関係

為替相場円高になると、海外からの原材料や食料品、石油などの輸入品が値下がりするので、物価が下がる。 物価の下落は金利の低下につながるので、為替相場円高金利の低下につながる。

為替相場円安になると、海外からの原材料や食料品、石油などの輸入品が値上がりし、物価が上昇する。 物価の上昇は金利の上昇につながるので、為替相場円安金利の上昇を引き起こす。

米国の金利が上昇したり日本の金利が下降したりして日米金利差が拡大すると、日本の金融商品に投資するよりも米国の金融商品に投資をする方が有利になるので、円をドルに換えて米国の金融商品を購入しようと円売り・ドル買いが進む。 この結果、日本から米国にお金が流出し、ドル高円安になっていく。

日本の金利が上昇したり米国の金利が下降したりして日米金利差が拡大すると、米国の金融商品に投資するよりも日本の金融商品に投資をする方が有利になるので、ドルを円に換えて日本の金融商品を購入しようとする円買い・ドル売りが進む。 この結果、米国から日本にお金が流入し、円高ドル安になっていく。

短期的には金利の高い国の通貨が上昇しがちである。しかし、金利の高い国はインフレレートが高い国、通貨価値の下落が大きい国であるので、長期的には通貨安となる場合が多い。

このように、金利差が為替レートにおよぼす関係は、短期と長期で逆である[7]

株価との関係

近年、「リスク回避の円買い」[3][4][5]となっており、リスク回避的になる時には、全世界の株が下落し、円高となる傾向が強い。逆に「リスク選考的」となる時には、全世界の株が上昇し、円安となる傾向が強い。

円高においては東証の輸出向け企業の株価は下落することが多い。また、輸出産業の業績が悪化し、輸入産業やその関連企業の業績が好調となる。

  • 輸入するときには今までより安く仕入れる事ができるので、コストが削減できる。
  • 輸出するときには円が高いために買ってもらいにくくなるため、利益が減少する。また海外で製造を行っていても、貿易は基本ドル建てで行っており、海外での利益を円転する時に目減りする。

円安においては東証の輸出向け企業の株価は上昇することが多い。また、輸入産業の業績が悪化し、輸出産業やその関連企業の業績が好調となる。

  • 輸入するときには今までより高く仕入れなくてはならないので、コストが余計に増加する。
  • 輸出するときには円が割安なので買ってもらいやすくなり、利益が増大する。また、貿易は基本ドル建てで行っており、海外での利益を円転する時に増加する。

現代の主な為替政策

為替レートのうち、国際的な金融取引や貿易の決済に利用されることが多いアメリカドル(米ドル)との為替レートは最も重要視されている。2007年には 1米ドルは 95〜125円の比率で交換されていた。日本の為替レートの変遷はを参照のこと。

基準となる通貨とその相手通貨との関係には、変動相場制固定相場制の 2通りの方式が存在する。先進国の通貨の多くは主に変動相場制を採用しており、需要と供給の関係で日々異なる比率で取引される。

一方、特定の通貨との間で為替レートを一定に保つことを「ペッグ」と呼び、米ドルとの固定相場制を維持することは「ドルペッグ」と呼ばれる。 途上国は米ドルとの間で固定相場制を維持する「ドルペッグ」をする傾向が強かったが、近年、東南アジアなど一部の国においては通貨危機への対応を迫られた結果、相次いで変動相場制へ移行した(アジア通貨危機を参照)。また、貿易による経済規模の拡大や米ドルの下落などを受けて固定相場制の維持が難しくなってきた中国中東諸国などでは通貨バスケットへのペッグに切り替える、または切り替えようとする動きが見られる。

欧州では、諸通貨間のレート変動を次第に抑制するとともに、中央銀行業務を欧州中央銀行 (ECB) に統合する、各国政府が協調して一定の財政規律を確保するといった施策により、紆余曲折を経て[8]域内での為替政策の統一を実現し、共通通貨ユーロを誕生させた。ユーロは国境を越える最も強力な固定相場制を実現したことになるが、これは単なる通貨ペッグではなく、経済政策の統一による単一通貨の制定という背景を伴っている[9][10][11]。同じく欧州のスイスではスイス中央銀行が、世界金融危機 (2007年-)以降で欧州とりわけユーロ圏の経済情勢が悪化しているために比較的安全なスイスフランへ逃避資金が流れ込みスイスフランが急騰している状況に対応するため、1ユーロ=1.2スイスフランという防衛ラインを設定し、その水準以上にスイスフラン高になった場合には無制限に外貨を購入しスイスフラン安誘導する決定を2011年9月に下した[12]。スイス中央銀行は大規模かつ継続的フラン安にするよう取り組んでいくとしている。

為替レートと物価

現在の為替レートで各国の賃金水準などを比較した場合に、大きな差が出る場合がある。例えば日本は一人当たり GDP が 37000ドル程度であるが、ベトナムはおよそ 500ドルである。これを単純比較すると日本の賃金水準が 70倍程度高いことになるが、ベトナムは日本よりも物価が安いため、所得が低いからといって購買できる量に 70倍もの差がつくわけではない。こうした実情を踏まえ、物価を考慮した購買力平価で調整した後の一人当たり GDP は日本が 30000ドル、ベトナムが 3000ドル程度となり、その差は 10倍程度になる。

為替レートがこのような物価差を反映しないのは、経済構造と貿易に関係している。

A国とB国があったとする。A国は工業化が進展しており輸出工業の生産性が高い。仮にA国の輸出工業がB国の輸出工業の10倍の生産性を持っていたとする。どちらも国際市場に製品を輸出している場合、一物一価の法則により両国の輸出品価格は同一となる。これにより、A国の輸出工業労働者はB国の輸出工業労働者の10倍の所得を得ることになる。一方でA国の国内サービス業がB国の国内サービス業の2倍の生産性を持っていたとする。A国で輸出工業労働者と国内サービス業労働者の賃金に一物一価の法則が働いた場合、A国のサービス業はB国のサービス業の5倍の料金を取らなくては経営が成り立たなくなる。このため、両国では輸出工業品の価格が同一である一方、サービス料はA国のほうが高い状態が生まれ、A国の物価はB国よりも高くなる。

以上のように、輸出競争力に差があり、非貿易財が存在する場合に、実際の為替レートと購買力平価には差が生まれる。

サービスの価値が違うとの見方もある。例えば、懐中電灯はどこの国で買っても価値が等しいが、東京で散髪することと、ホーチミン市で散髪することは、投入財の価格が違うため価値が異なるという見方である。このとき、価値差が物価に織り込まれている場合は、購買力平価での比較が無意味となる。

また、国際市場における購買力比較では実際の為替レートが有効になるため、購買力平価は当てはまらない。

実質実効為替レート

主要通貨の実質実効為替レートの変遷(1964〜2007年、2000年 = 100)

日本では日本円と米ドルの相場に注目が集まるが(後述)、国際市場への参加者は他にも数多くあり、それぞれが自国通貨を持って変動相場制の下で貿易が行われているため、特定国間の為替レートだけを見ても国際市場における当該通貨の価値を知ることはできない。

外国為替市場における諸通貨の相対的な実力を測るための指標として実効為替レートがあり、これは中央銀行国際決済銀行などが算定し、適宜公表している。

また、為替レートの変動を考えるとき、両国で物価上昇率が異なる場合は、実質的なレートが、名目為替レートとずれてくる。このような物価上昇率の効果を考慮した為替レートを実質為替レートという。

実効為替レートにおいても物価上昇率調整前後の値をそれぞれ算出するのが一般的であり、物価調整前を名目実効為替レート、調整後を実質実効為替レートと呼ぶ[13]

なお、日本銀行の解説[13]にもあるように、実質化(どのようなデフレータを使用するか)、実効化(どのような通貨ウェイトで加重するか)の両面において様々な論点がある。分析しようとする目的に合ったデフレータおよび通貨ウェイトであるかを確認する必要があり、たとえば、企業の競争環境を分析しようとする時にデフレータとして消費者物価指数を用いたり、あるいは貿易額を通貨ウェイトとするのは望ましくない。これは、賃金などの企業のコストと消費者物価指数は乖離していること、アメリカ市場で第三国と競争している時にはドル円ではなく、その第三国の通貨と円の関係が問題になること、などによる。また、ウェイト替えに伴う遡及改訂をどのように行っているかも注意が必要な点であり[14]、現在のウェイトを元に過去を遡及改訂するような統計の場合、過去の値が持つ意味をよく吟味しなければならない。その他にも過去と比較する際には、実質実効為替レート水準の高低をただ比べるだけではなく、経済情勢や経済構造の変化など、様々な留意点がある。

日本における外為実務

両替商の為替レート表示

ニュース新聞等で報道される「1ドル = 110円10銭〜110円20銭」などというレートは、銀行間での外国為替取引を行うときのレートで、銀行間相場と呼ばれるものである。

各銀行は、その日の対顧客(輸出・輸入企業や個人など)については毎営業日の午前9:55分のスポットレートを基に10時頃に仲値[15][16]と呼ばれる基準相場を発表し、銀行間相場が大きく動くことが無い限り、(銀行間相場が細かく動いたとしても)日中はその相場を基に取引を行うことが多い(東京市場では、以前は大手行の当番制で共同して用いるドル円の仲値を定める慣行があったが、現在は異なる)。なお、銀行間での取引は、どの通貨も対(アメリカ)ドルで取引が圧倒的に多く、例えば円とタイバーツなど各国通貨との直接取引きの金額は少ない。このため各国通貨と円の為替レートは、当該通貨の対ドル相場と、ドル円の相場との合成として計算されることが一般的である。

為替レートの表示の仕方は、1ドルが120円という表示の仕方と、1円が1/120ドル=0.00833ドルという表示の仕方がある。ほとんどの通貨では1ドル=120円、あるいは1ドル=700韓国ウォンというように、米ドル1ドルに相当する各国通貨額を使うことが慣例である。例外は、英国ポンドやユーロなどで、1ポンド=1.9ドル、1ユーロ=1.25ドルなどと表示することが慣例となっている。

日本で円と他国通貨の為替レートを考える場合に、1円=○○ドルと表示するのを外貨(ドル)建て、1ドル=○○円と表示するのを、自国通貨(円)建てと言う。アメリカから見れば、1円=○○ドルが自国通貨(ドル)建てであり、1ドル=○○円が外貨(円)建てである。円の為替レートについて、自国通貨建ては邦貨建てと呼ばれることが多い。

外貨預金・外為取引

一般個人が、銀行に外貨預金を依頼する場合、おおよそ数%〜10%程度に相当する手数料分(銀行などで多少異なる;外貨1単位に対して何円という料率が普通)がレートに織り込まれる。そのため、かつて一般的だった「ドル円片道1円」と呼ばれる手数料率(仲値と取引に用いられるレートの差が1ドル当たり1円であることをいう)において、取引相手の銀行の仲値が1ドル=110円だったとすると、外貨預金への預け入れ、払い戻しや、外国送金の取り組み、円貨での受け取りに使われるレートは

  • 円→ドル(TTS)1ドル = 111円
  • ドル→円(TTB)1ドル = 109円

となる。

為替する金額が増えると差も増えてしまう。

(例)

  • 10000円→(100円=1ドル)→100ドル
  • 翌日 100ドル→(105円=1ドル)= 10500円

また、外貨の現金との両替を依頼する場合には、さらにキャッシュハンドリングチャージ(cash handling charge;現金取り扱い手数料)と言われる手数料分が加味される。(顧客からの買取の場合はその分安く、顧客への売却の場合はその分高くなる。)

これは、外貨預金の場合は帳簿上の付け替えでも済むのに対して、両替となると実際に外貨の現金を当該外貨の本国との間でやり取りする必要があり、運送費・保険料その他がかかってしまうことが理由とされている。また上記理由から、外貨硬貨は取り扱わないことが多く、取り扱っている場合でも、紙幣と比べレートが悪くなることか大半である。

その他

仲値ないし銀行間相場と、対顧客相場の乖離が比較的小さいのは、米ドルやユーロである。取引量の少ない通貨では相場の乖離幅(銀行の利幅)が大きくなる傾向がある。

その他、貿易取引に使われるレートや、為替予約と呼ばれる先日付取引に使われるレートは、決済期日までの金利を勘案して定められる。

外貨建てでクレジットカードを使った場合の決済相場は、請求票がカード会社の決済センターに届いた際の相場に、数%程度の手数料を加味した相場であるとされている。従って、国内で両替して海外で現金で支払うよりは、実質の為替レートが有利になる可能性がある。

脚注

  1. ^ ユーロ相場で考える「為替=国力説」の”幻想” 外貨投資の誤解(2)での岡本和久の見解など
  2. ^ ユーロ相場で考える「為替=国力説」の”幻想” 外貨投資の誤解(2)での佐々木融、竹中正治の見解など
  3. ^ a b c リスク回避がもたらす円買い意欲 借金大国の通貨が買われる理由2010.07.14(Wed)Financial Time
  4. ^ a b 「リスク回避の円買い」は健在の模様…2010年02月26日 コラム:MSN マネー
  5. ^ a b 今は昔、「有事のドル買い」2011年3月1日 ウォール・ストリート・ジャーナル 引用エラー: 無効な <ref> タグ; name "wsj"が異なる内容で複数回定義されています
  6. ^ 高橋洋一『日本経済の真相』中経出版
  7. ^ 高金利通貨はずっと上昇する? 外貨投資の誤解(1)での竹中正治の見解など
  8. ^ 『欧州の憂鬱—ドキュメント・EC統合』、日本経済新聞社編、日本経済新聞社、1993年、ISBN 4-532-14178-8
  9. ^ EUにおける通貨統合(外務省)
  10. ^ 『欧州中央銀行の金融政策とユーロ』、田中素香・藤田誠一・春井久志 編、有斐閣、2004年、ISBN 4-641-16206-9
  11. ^ 『欧州中央銀行の金融政策—新たな国際通貨ユーロの登場』、羽森直子、中央経済社、2002年、ISBN 4-502-64610-5
  12. ^ スイス中銀:フラン相場に30年ぶりの上限設定、断固として防衛へ(5) Bloomberg 2011年9月6日
  13. ^ a b 実質実効為替レートについて日本銀行
  14. ^ 「実効為替レート(名目・実質)」の解説日本銀行
  15. ^ 仲値
  16. ^ 仲値

関連項目

10年長期為替チャート

Yahoo!ファイナンス: 豪ドル 加ドル スイスフラン ユーロ 英ポンド 米ドル