外貨準備

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各国の外貨準備高 (単位:100万米ドル、CIA Factbookより(2006年4月アクセス))

外貨準備(がいかじゅんび、foreign reserve)とは、中央銀行あるいは中央政府等の金融当局が外貨を保持すること。保持している外貨の量を外貨準備高(がいかじゅんびだか)という。

概要[編集]

金融当局は、対外債務の返済、輸入代金の決済のほか、自国通貨為替レートの急変動を防ぎ貿易等の国際取引を円滑にするために、外貨準備を行なう。外貨準備は「国民経済の貯金」などとも呼ばれる。ただし、あくまで主目的は為替変動への準備であり、外貨準備高(外貨の蓄積)の大きさが対外資産高の大きさを表しているわけではないことには注意を要する。

外貨準備高の適正水準については統一的な見解はないが、実務的には、「外貨準備保有高/輸入額」は輸入の3ヶ月分以上、「外貨準備保有高/短期債務[1]残高」は1年分相当がベンチマークとして使用されている[2]

外貨準備は為替制度に大きく左右される。

変動相場制[編集]

完全な変動相場制の場合、基本的には中央銀行が為替市場へ介入しないため、国際収支は0となり外貨準備は変動しない。しかし、急激な為替変動などに際して為替介入する場合には外貨準備が変動する。例えば、急速に円高が進展する場合に、それを緩和しようとして円売りドル買い介入(円安介入)を行なうと、結果的にドルの保有額が増え外貨準備が増大することになる。

固定相場制[編集]

完全な固定相場制を採用している国は、為替要求に無限に応じなければならない。例えばもしも日本が為替相場を1ドル=100に固定しており、アメリカの輸出業者が対日輸出対価の10000円をドルに替えようとしており、日本の輸出業者が対米輸出対価の110ドルを円に替えようとしているとする。この固定相場市場では差し引いて10ドルが余り、1000円が足りない。中央銀行は、このときに10ドルを受け取り、1000円を支払うことで、円売りドル買い介入により固定相場を維持する。取引が終了した後には中央銀行の外貨準備高が10ドル増えることになる。このときに増大した円貨(国内通貨量)を中央銀行が公開市場操作などで吸収することを不胎化政策という。

また、日本が固定相場制を取っていると仮定するこの例では、日本の輸出が11000円、輸入が10000円となり日本の貿易収支経常収支)は1000円の黒字となる。他の取引がない(資本収支が0)場合、国際収支も1000円(10ドル)の黒字となる。つまり日本の国際収支の黒字は日本の外貨準備高増加を意味する。逆に、貿易赤字などで国際収支が赤字の場合、外貨準備高は減少する。さらに外貨準備が減少し不足する場合は、対外債務によって足りない外貨を補うか、固定相場レートを切り下げる(自国通貨安)、固定相場制を放棄し変動相場制へ移行するなどの対応がとられる。

歴史[編集]

金本位制による決済[編集]

近代において国民経済国際経済体制が形成され貿易が発達すると国際的な通貨体制が必要となった。

当時の国際通貨は金(正貨)であり、その通貨体制は金本位制と呼ばれていた。各国の国際収支の帳尻はロンドンにおける各国の金準備の増減によって決済された。金準備は各国が自国通貨を発行する際の価値の裏づけとなるものであり通貨発行量と深く関連していた。国際収支の赤字が続いて金準備が減少した場合、通貨発行量も減少する。結果的に国民経済が縮小し、国際収支が改善されることで各国の景況は自動調整されるものと期待された。

金本位制の崩壊と外貨準備[編集]

金本位制が崩壊し第二次世界大戦後にブレトン・ウッズ体制が構築されると、各国の通貨は金の裏づけを持ったドルを本位として発行されるようになり、各国の国際収支はドル準備の増減によって決済されるようになった。

日本では、第二次世界大戦終了後の輸入外貨割当制により、外貨の管理はすべて政府の統括におかれ、海外との自由貿易は事実上禁止された(傾斜生産方式)。1949年に外国為替法が制定され貿易が再開されたが、外貨はすべて政府管理であり、慢性的な輸入超過であった日本は、景気が少し良くなれば輸入が増え外貨が枯渇し、外貨流出を阻止するために経済引き締めによって景気が悪化するという国際収支の天井が問題となった。

1950年に発生した朝鮮戦争に関わる特需により外貨準備は増え、国際収支の天井は大きく引き上げられた。1954年には外国為替銀行法[3]にもとづく戦後初の外為銀行(東京銀行)が開業し、政府手持外貨の大蔵大臣勘定(MOF勘定)は東京銀行に開設された[4]。外貨の割当性は1960年代前半に逐次解除されてゆき、外貨使用届出や輸入届出などの貿易統制は1980年頃までにほぼ自由化された[5]

外貨準備の膨張と過剰流動性の歴史[編集]

日本の外貨準備高の変遷(1952〜2007年)

1960年代末ごろから日本や西ドイツの経済的躍進が続き、アメリカの国際収支は次第に赤字が続くようになった。これは翻って日本や西ドイツにおける外貨準備の増大と通貨発行量の増大を意味した(これ以降の日本の外貨準備高の変遷は右グラフを参照)。アメリカはドルの価値を保持することよりも経済政策の自由度を高めることを求め、ニクソン・ショックにより主要国は変動相場制へ移行した。以後、管理変動相場制を掲げてしばしば行なわれた為替介入により各国の外貨準備高は変動した。しかし、先進国の多くは自国の経済的パフォーマンスを裏づけとして通貨を発行するようになり、外貨準備の意味合いは相対的に失われた。

ユーロダラーが隆盛を極めるようになると、固定相場制かつ国際収支が赤字で通貨が過大に評価されていると思われる国々は次々に為替攻撃を受け、外貨準備を喪失して固定相場制を放棄せざるを得なくなった。こうした事例は1990年代に頻発し、ポンド危機アジア通貨危機を引き起こした。

21世紀に入ってからは、固定相場制かつ国際収支が黒字の国々が、記録的な外貨準備高を保持するようになった。そういった国々には中国産油国などが挙げられる。これらの国々はアメリカとの貿易が経済上重要であるため、安定性を確保する目的から事実上の固定相場制を採用している。結果的にアメリカの巨額の経常赤字を資本輸出によってファイナンスしていることになる。

日本の外貨準備高の変遷(1996年10月〜2007年12月)

これと同様のことが、近年の変動相場制の日本などでも起きている。2003年から2004年にかけて、主に国内輸出産業の振興政策として急激な円高を避けたいために[要出典]溝口善兵衛財務官主導の史上空前のドル買い為替介入(テイラー・溝口介入)が行われ、ドル建て外貨準備が激増した(右グラフ)。このとき不胎化政策がほとんど行なわれなかったためにベースマネーが増加し、国内では記録的な自国通貨の発行が行われたためリフレーション気味な状況となり[要出典]、不況の底を打って2006年まで続く好景気のきっかけとなった[要出典]

これに加え、本来の変動相場制であれば貿易黒字の膨張が為替レートで調整されるところだが、為替介入により実際の名目為替レートは円高にならず、実質実効為替レートの低下(円安)が進んで(こちらのグラフ参照)日本の資産が相対的に割安になったことと、同時期に行われていたゼロ金利政策が加わって、過剰流動性を背景にしたバブル経済が、日本だけでなく世界中に及ぶこととなった[要出典]

また、日本政府は外貨準備の運用方法を開示していないが、大部分が米国債で運用されていると指摘されている[6]。  

なお、平衡操作がおこなわれていない2004年度から2009年度にかけて日本の外貨準備高は増加傾向で推移しているが、これは外貨建て運用収入が外為特会の歳入に直接組み入れられず、外貨のまま運用された影響を受けている(『特別会計に関する法律』では運用収入を外為特会の歳入とする事が定められているが、実際には外貨建て運用収入の円換算相当額を為券で調達し、歳入に組み入れていた[7])。財務省が公表している「外貨準備等の状況」については、外貨準備のうち「証券」と「金」が時価評価されている影響も含む[8]

ちなみに、日本の外貨準備の運用収入(外貨証券や外貨預金等に係る利息収入等)は、平成19年度(2007年度)には過去最高の4兆3086億円にのぼったが、翌年度には3兆6303億円まで減少している。[9]

日本の外貨準備高は2006年度末現在で119兆8267億93百万円[10]であり、変動相場制を維持する上で必要とされる実務的な準備水準としては、過剰な水準である[11]

過剰な外貨準備の問題は、対象国(日本の場合は主に米国)の通貨政策や財政政策により、自国の財政基礎が大きく損なわれるリスクを抱える点にある。対象国が低金利政策を採用し自国通貨安を志向した場合、日本の外貨準備運用(ドル建て米国債券価格)が下落し外貨準備が目減りする可能性がある。また対象国が積極財政により国債増発に動く場合にも同様の問題を抱える。加えて、新興国は一般に自国通貨金利が高いことから、金利の低い先進国通貨での外貨準備はネガティブキャリーとなる(国内で高金利で政府短期証券などを発行して自国通貨を調達し、介入原資にあて低金利の米国債などで保有することになるため。日本の場合、円金利がドル金利やユーロ金利よりも一般に低いことから、キャリー収益はプラスとなる)。このため逆サヤ国では外貨準備の積極運用への動因がつよく、韓国ではABS(不動産担保証券)に外貨準備の10%を越える投資をおこなうなど国庫の安定性に問題を抱えることとなる。

過剰な準備高を減らすためには外貨(ドル)売りをする必要があるが、ドル売りや運用しているドル建て米国債を売却したりするとドル安円高を誘導してしまうので、この蓄積された準備高の取り扱いは難しく、いわゆる「霞が関埋蔵金」の一つとされている[要出典]

2008年11月のG20金融サミットで麻生太郎首相は、日本の保有外貨準備高からIMFに10兆円を支出し世界経済を支えると宣言した。IMF出資は外国為替資金特別会計の項目の一つであり、この支出に対しては返済等見返りがあるはずなので、死に金になってしまっている日本の外貨準備運用の多角化と活用、国際貢献の手段としては有効かもしれない[要出典]

日本と同様に巨額の外貨準備を米ドル建てで保有してきた中国では、米ドルの長期低落傾向に対し、外貨準備の運用先を多様化するなどでリスク分散を図る[12]とともに、米国住宅バブル問題(サブプライムローン#問題点を参照)などで疲弊した米国金融資本に資本参加する[13]など戦略的な運用がされているが、2008年の金融危機でこの出資は損失を出した。このことは外貨準備高運用の難しさを示している。しかし中国の場合は、日本と異なって、その豊富な米ドル準備高を米国に対する有効な政治・外交カードとしても使用できる[要出典]

脚注[編集]

  1. ^ 対外ファイナンスが困難になった場合の当該年に支払期限が来る債務。
  2. ^ 経済産業省 通商白書2005年度版 第1章 世界経済の成長メカニズムと不均衡問題 第5節 世界経済が抱える「不均衡」
  3. ^ 平成10年6月15日廃止
  4. ^ 金および外貨資産の一部は日銀が保有。なお1980年に外為法改正が行われ外貨取引は原則自由化(事前許可・届け出必要)され、MOF勘定は日銀に戻された。1998年の第2次改正により完全自由化。
  5. ^ 財務省 25.為替管理(主に自由化)の推移
  6. ^ 2000年度以降に大まかな内訳が開示されるようになった(財務省 外貨準備等の状況を参照)。またその運用は対象通貨国債(米国債など)、預貯金、金などに限定される方針が財務省から出されている(財務省 外国為替資金特別会計が保有する外貨資産に関する運用についてを参照)。
  7. ^ 会計検査院 平成18年度決算検査報告 第6章 歳入歳出決算その他検査対象の概要 第1節 国の財政等の概況 第4 個別の決算等 1 外国為替資金特別会計の状況
  8. ^ 財務省 外貨準備等の状況』の(注1)
  9. ^ 財務省 平成20年度_外国為替資金特別会計財務書類
  10. ^ 財務省 (平成18年度)外国為替資金特別会計
  11. ^ 経済産業省 通商白書2005年度版 第1章世界経済の成長メカニズムと不均衡問題 第5節世界経済が抱える「不均衡」
  12. ^ 再送:中国国家投資ファンドが業務開始、外貨準備2000億ドルを運用(Reuters, 2007年10月01日)
  13. ^ 米モルガン・スタンレー、中国政府系が5700億円出資(日本経済新聞、2007年12月19日)

文献情報[編集]

関連項目[編集]