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動物性脂肪

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動物の体内に主に含まれている脂肪動物性脂肪:Animal fat)という。

調理油食品として(獣肉類を使用する食品に含まれている場合が多い)、また回転部分の潤滑皮革の保護など、古代より広く使用されてきた。

概要

動物性脂肪は飽和脂肪酸を多く含むので植物性脂肪と比較して一般に融点が高い。脂肪はエネルギーとして代謝された場合、炭水化物タンパク質(ともに4kcal/g)よりも単位重量あたりの熱量が9kcal/gと大きく、脂肪は哺乳類をはじめとした動物の栄養の貯蔵庫として多く利用されている。動物性脂肪はトリアシルグリセロールが一般的であり、これは1分子のグリセロール(グリセリン)に3分子の脂肪酸エステル結合したアシルグリセロール(グリセリド)で、中性脂肪の1つである[1]。食物から摂取したり、体内で炭水化物から合成された脂肪は肝臓脂肪組織に貯蔵される。脂肪からエネルギーを得るときには、グリセリン脂肪酸に加水分解してから、脂肪酸をβ酸化代謝によりさらにアセチルCoAに分解する[2]

生合成

飽和脂肪酸

脂肪酸合成は細胞質で行われる。脂肪酸合成の材料は、アセチルCoAであり、ミトコンドリアから供給される[3]脂肪酸生合成アセチルCoA(炭素数2)を出発物質として、ここにマロニルCoA(炭素数3)が脱炭酸的に結合していく経路である。すなわち、炭素数2個ずつ反応サイクルごとに増加し、任意の炭素鎖を持った脂肪酸が作成されることとなる。最終的には16:0のパルミチン酸が生成する。

一価不飽和脂肪酸

16:0のパルミチン酸は、長鎖脂肪酸伸長酵素により、18:0のステアリン酸に伸張される。ステアリン酸は、体内でステアロイルCoA 9-デサチュラーゼ(Δ9-脂肪酸デサチュラーゼ)によりステアリン酸のw9位に二重結合が生成されてω-9脂肪酸の一価不飽和脂肪酸である18:1のオレイン酸が生成される[4]オレイン酸が生成されることで脂肪酸の融点が低下する。

多価不飽和脂肪酸

植物及び微生物中では、ω6位に二重結合を作るΔ12-脂肪酸デサチュラーゼ によりオレイン酸の二重結合を一個増やしてリノール酸を生成することができる。さらに植物及び微生物中では、ω3位に二重結合を作るΔ15-脂肪酸デサチュラーゼ によりリノール酸の二重結合を一個増やしてα-リノレン酸を生成することができる[5]。不飽和化が進行することで脂肪酸の融点が順次低下する。ヒトを含む動物は、ステアリン酸からオレイン酸を生成するΔ9-脂肪酸デサチュラーゼを有してはいるものの、Δ12-脂肪酸デサチュラーゼもΔ15-脂肪酸デサチュラーゼもどちらも有していないので、リノール酸もα-リノレン酸もどちらも自ら合成することができない[6]。このためω-3脂肪酸ω-6脂肪酸はとともに必須脂肪酸となっている[7]

必須脂肪酸の代謝経路とエイコサノイドの形成
動物性脂肪等における必須脂肪酸の割合(飼料等に影響を受けている)[8][9]

ω-6脂肪酸

代表的なω-6脂肪酸であるリノール酸から出発して動物の体内でリノレオイルCoAデサチュラーゼ(Δ6-脂肪酸デサチュラーゼ)によりγ-リノレン酸が生成され、γ-リノレン酸は体内で2炭素増炭されてジホモ-γ-リノレン酸を経て、さらにアラキドン酸へ変換される。さらに、このアラキドン酸(20:4(n-6))から変換されて生成される炎症・アレルギー反応と関連した強い生理活性物質であるω-6プロスタグランジン、n-6ロイコトリエン等のオータコイド類が生成される[10]。リノール酸より長いω-6脂肪酸は動物性脂肪中に微量程度しか存在していない。なお、リノール酸自体は必須脂肪酸で食餌から摂取しなければならない。

ω-3脂肪酸

ヒトを含めた動物の体内ではΔ6-脂肪酸デサチュラーゼにより18:3(n-3)のα-リノレン酸(ALA)のΔ6の位置に不飽和結合を作り炭素2個伸張して20:4(n-3)のエイコサテトラエン酸を生成し、Δ5-脂肪酸デサチュラーゼにより不飽和結合を増やして20:5(n-3)のエイコサペンタエン酸(EPA)を生成し、このエイコサペンタエン酸から22:5(n-3)のドコサペンタエン酸(DPA)を経るかSprecher's shuntと呼ばれる経路いずれかを経て22:6(n-3)のドコサヘキサエン酸(DHA)が生成される(詳細はデサチュラーゼを参照のこと。)[5]。このようにヒトを含めた多くの動物は体内でα-リノレン酸を原料としてEPAやDHAを生産することができるが、α-リノレン酸からEPAやDHAに変換される割合は10-15%程度である[11]。α-リノレン酸より長いω-3脂肪酸は動物性脂肪中に微量程度しか存在していない。なお、α-リノレン酸自体は必須脂肪酸で食餌から摂取しなければならない。

ω-9脂肪酸

必須脂肪酸の欠乏の過酷な条件下では、哺乳類ω-9脂肪酸であるオレイン酸を伸長・非飽和にし、ミード酸(20:3, n−9)を作る[12]。また、菜食主義者においても狭い範囲で起こる[13]

代表的な動物性脂肪

ラード(豚脂)及びヘット(牛脂)の構成脂肪酸は次の通りである。

ラード(100g中)の主な脂肪酸の種類[8]
項目 分量(g)
脂肪 100
飽和脂肪酸 39.2
14:0(ミリスチン酸 1.3
16:0(パルミチン酸 23.8
18:0(ステアリン酸 13.5
一価不飽和脂肪酸 45.1
16:1(パルミトレイン酸 2.7
18:1(オレイン酸 41.2
多価不飽和脂肪酸 11.2
18:2(リノール酸 10.2
18:3(α-リノレン酸 1
ヘット(100g中)の主な脂肪酸の種類[8]
項目 分量(g)
脂肪 100
飽和脂肪酸 49.8
12:0(ラウリン酸 0.9
14:0(ミリスチン酸 3.7
16:0(パルミチン酸 24.9
18:0(ステアリン酸 18.9
一価不飽和脂肪酸 41.8
16:1(パルミトレイン酸 4.2
18:1(オレイン酸 36
20:1 0.3
多価不飽和脂肪酸 4
18:2(リノール酸 3.1
18:3(α-リノレン酸 0.6

健康

栄養素の一つであるが、動物性脂肪を含む食品は体内のコレステロール値を上げる働きをするものが多く、高コレステロール血症に関係する。また、重量あたりのカロリーが高いため、多量摂取は肥満の原因となる。

飽和脂肪酸を取り過ぎると、カロリー不足でない限り血清総コレステロール濃度を上昇させ、虚血性心疾患を起こしやすくすると言われている[14]。 動物性脂肪は、飽和脂肪酸を多く含むためその健康影響については以下を参照のこと。

ファイル:Cancer and diet from NIH.PNG
各国民の肉の消費量と大腸癌の発生率には高い相関がある。

がんとの関連

米国国立がん研究所の公開資料によると、「食事の違いはがんの危険を決定づける役割を持っている。脂肪とカロリーの摂取を制限することは、ある種のがんの危険率を減少させる可能性があると明らかとなっている。(脂肪に富んだ)大量の肉と大量のカロリーを摂取する人々は、特に大腸がんにおいて、がんの危険が増大することが図より見て取れる。」と指摘している[15]

いわゆる「食生活の欧米化[16]」は、乳房前立腺大腸のがんとの関連が強いと考えられ[17]、実際に部位別の死亡率は増えている[18]。つまり、近年になって日本人に大腸癌乳癌が増えてきた原因のひとつには、食生活の欧米化による動物性脂肪の摂取の増加と食物繊維の摂取不足がある、と指摘されているのである。大腸での便の停滞時間が長くなって発癌物質が大腸粘膜と長時間接するため大腸癌が多くなったと考えられているのである[19]

リトコール酸(Lithocholic acid)は、脂質を可溶性にして吸収を高める界面活性剤の役割をする胆汁酸の一種である。体内で生成された一次胆汁酸であるケノデオキシコール酸から大腸内における微生物の活動により二次胆汁酸としてリトコール酸が発生する。リトコール酸は、人や実験動物に発がんをもたらすとされている[20]。食物繊維は、リトコール酸を吸着し、大便として排出することを促進するとしている[21]。しかし、食物繊維には大腸がんのリスクの減少の効果はほとんど認められないとしている報告もある。ハーバード大学公衆衛生学部は、「食物繊維の摂取は、健康効果のある健全な食事としてもてはやされ、心臓病、糖尿病、憩室疾患、便秘を含む様々な疾患のリスクを減少させていた。多くの人が信じていたにも関わらず、食物繊維には大腸がんのリスクの減少の効果はほとんど認められなかった。」と発表している[22]

脚注

  1. ^ トリアシルグリセロール
  2. ^ 脂肪
  3. ^ http://www.my-pharm.ac.jp/~khigashi/higashi/hide/lipid.html 脂質の消化・吸収
  4. ^ http://hobab.fc2web.com/sub4-Fatty_Acid_Synthesis.htm
  5. ^ a b http://www.kinjo-u.ac.jp/orc/document/topic1.pdf
  6. ^ デサチュラーゼ
  7. ^ 脂肪酸
  8. ^ a b c http://ndb.nal.usda.gov/
  9. ^ マトンラム (子羊) ヘット母乳栄養ラード鶏油α-リノレン酸
  10. ^ ω-6脂肪酸
  11. ^ http://sucra.saitama-u.ac.jp/modules/xoonips/download.php?file_id=15917 Omega-3 多価不飽和脂肪酸の摂取とうつを中心とした精神的健康との関連性について探索的検討
  12. ^ Lipomics. “Mead acid”. 2006年2月14日閲覧。
  13. ^ Phinney, SD, RS Odin, SB Johnson and RT Holman (1990年). “Reduced arachidonate in serum phospholipids and cholesteryl esters associated with vegetarian diets in humans”. 2006年2月11日閲覧。
  14. ^ http://www.lib.nakamura-u.ac.jp/syoku/12.htm
  15. ^ 米国国立がん研究所 (2006年9月1日). “Understanding Cancer Series: Cancer and the Environment” (英語). 2009年12月1日閲覧。
  16. ^ 本川裕 (2006年11月1日). “図録▽食生活の変化(1910年代以降の品目別純食料・たんぱく質供給量)”. 社会実情データ図録. 2009年12月1日閲覧。
  17. ^ 国立がんセンターがん対策情報センター (2006年10月4日). “食生活とがん”. がん情報サービス. 2009年12月1日閲覧。
  18. ^ 厚生労働省. “平成18年 人口動態統計月報年計(概数)の概況 死因”. 2009年12月1日閲覧。
  19. ^ 石田英雄『クレームに学ぶ 食の安全』海鳥社、2005年、p.29頁。ISBN 978-4874155172 
  20. ^ http://carcin.oxfordjournals.org/cgi/content/full/21/5/999
  21. ^ http://content.nejm.org/cgi/content/full/329/1/21/F2
  22. ^ Health Effects of Eating Fiber”. 2010年6月8日閲覧。

関連項目