ミトコンドリア

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ミトコンドリアの電子顕微鏡写真。マトリックスや膜がみえる。

ミトコンドリア(mitochondrion pl. mitochondria)は真核生物細胞小器官である。二重の生体膜からなり、独自のDNAを持つ。酸素呼吸の場として知られている。ヤヌスグリーンによって青緑色に染色される。

9がミトコンドリア

目次

[編集] 起源

ミトコンドリアは好気性細菌でリケッチアに近いαプロテオ細菌が真核細胞共生することによって獲得されたと考えられている[1]リン・マーギュリス細胞内共生説)。ミトコンドリアは核ゲノムとは別に独自の環状DNAを持ち、分裂時に複製倍加する。このミトコンドリアDNAの変化を追うことにより、どのように種が分岐していったか、分岐はいつ頃起こったのかを調べることができる。

アメーバに似た原生生物であるペロミクサ微胞子虫など、いくつかの原生生物はミトコンドリアを持っていない。これを、ミトコンドリアが共生する以前の真核生物の生き残りと見る説がある。ただし、2次的に退化したとの見方もあり、広く受け入れられてはいない。

[編集] 構造

ミトコンドリアの構造
1.内膜 2.外膜 3.クリステ(平板状) 4.マトリックス

ミトコンドリアは、ほとんど全ての真核生物細胞に含まれる細胞小器官である。1つの細胞内の数は、1から多いものでは数千個にもなる。

形は球形から円筒形で、長さ10μm幅0.2μm程度。2重の膜からなる構造である。外側にある外膜は細胞膜由来で特別な構造は見られない。その内側にある内膜は細菌の細胞膜由来であり、クリステと呼ばれる内部に向かって陥入する部分が多数存在する。クリステは、ヒトなどの動物や高等植物は平板状でミトコンドリアの長い軸に垂直な方向を向いているが、他にうちわ状や管状がある。クリステの形状は従来、ヒトの特殊な平板状のものが描かれてきたが生物界においては管状のものが最も一般的である[1]。内膜の内側をマトリックスと呼ぶ。

マトリックスにはミトコンドリア独自のDNAが含まれており、これをミトコンドリアDNA(mtDNA)と呼ぶ。また、リボソームも独自のものがここに含まれる。その他、クレブス回路クエン酸回路)にかかわる酵素群などがここに含まれている。

内膜上には電子伝達系ATP合成にかかわる酵素群などが一定の配置で並んでいる。

マトリックスの中にミトコンドリア核があり、内部に環状DNAを保持している。

[編集] 機能

ミトコンドリアの主要な機能は脂肪酸のβ酸化や、電子伝達系による酸化的リン酸化によるエネルギー生産である。 酸素とは元来、原生生物にとって毒となるものであったが、ミトコンドリアの機能により、酸素から運動エネルギーを獲得できるようになった。 細胞のさまざまな活動に必要なエネルギーのほとんどは、直接、あるいは間接的にミトコンドリアから、ATPの形で供給される。

現在、他の機能としては、カルシウム貯蔵、アポトーシス責任器官としての役割が指摘されている。

[編集] ATP合成系

ミトコンドリアはピルビン酸脂肪酸、酸素、ADP、Pi(リン酸)を周囲の細胞質から取り込み、ピルビン酸と脂肪酸はマトリックス内でアセチルCoAに変えられ、クエン酸回路を経由することでNADHと二酸化炭素に分解される。二酸化炭素はミトコンドリア外に排出される。

NADHは内膜に移り、NADに変換される過程でNADH脱水素酵素複合体、チトクロム複合体、チトクロム酸化酵素複合体の3呼吸酵素複合体からなる電子伝達系へ電子を供給し、電子伝達系はプロトン(H+)をマトリックス側から内外包膜の膜間部分に放出する。

3呼吸酵素複合体と同じく内膜に付いたATP合成酵素は膜間部分のプロトンをマトリックス側に戻る時のエネルギーによって、ADPとPiから大量のATPを合成する。

嫌気性分解では1分子のグルコースから2分子のATPしか得られなかったのが、ミトコンドリアによる好気性分解によって、1分子のグルコースから38分子のATPが合成できるようになった[1]

[編集] 遺伝子

[編集] 遺伝子の欠落

ミトコンドリアは自身の環状DNAを持ち、多くのタンパク質合成を行なえるが、内部で働くタンパク質の一部などは、宿主である細胞のタンパク質生産に依存しているものがある。

ATP合成酵素
ATP合成酵素を作る為に必要な8つのタンパク質遺伝子の内、2つはミトコンドリアにあるが、6つは細胞核のゲノムによって生産されており、これらの細胞側で作られたサブユニット・タンパク質がミトコンドリアへ運ばれて他のミトコンドリア製のサブユニット・タンパク質と組合わさってATP合成酵素が完成し、内膜で機能を発揮する。
解糖系
好気性細菌時代には備えていたと考えられる解糖系は、宿主である細胞が備えているために失われている。解糖は細胞側で行なわれる。
tRNA
ミトコンドリア内でタンパク質合成時に必要なtRNAの内のいくつかはミトコンドリアで作れないために、宿主の細胞から完成したtRNAを持ってきて使用している[1]

[編集] 異数性

個々のミトコンドリアの環状DNAには必ず定まった遺伝子が含まれているという訳ではなく、多くの生物でミトコンドリアごとに複数の異質のDNA分子を含んでいることが確認されている。このことは1つのミトコンドリアに含まれる遺伝子より、ミトコンドリアのゲノムのほうが大きいということになる[1]

[編集] ヒト

1981年にヒトのミトコンドリアDNAの全ゲノムの塩基配列が解読された。16,569塩基対で伸ばせば5ミクロンの長さとなり、12Sと16SのリボソームRNA遺伝子、22種類のtRNA遺伝子、13種類の電子伝達系タンパク質遺伝子という37個の遺伝子を含んでいて、イントロンは無かった[1]

[編集] ミトコンドリア・イブ

ミトコンドリアのDNAは母親のミトコンドリアDNAを引き継ぐ。これは、同種交配の場合卵子に入った精子のミトコンドリアが選択的に排除されてしまうからである。そのため世界中の人間のミトコンドリアDNAを調べて追跡すると、どこの誰が今のミトコンドリアについての人類の母であったかがわかる。実際にこの調査は行われ、大昔のアフリカのある女性が今の人類の全てのミトコンドリアについての「母親」であったことが判明した。その他の遺伝情報についてすべてこの女性に由来するということではない。この女性は「ミトコンドリア・イブ」と呼ばれている。なお、実験的に異種交配させた受精卵では、精子由来のミトコンドリアを排除するプロセスが失敗する場合がある。

[編集] 生物の系統との関係

上記のようなミトコンドリアの特徴は、動物植物菌類にほぼ共通であるが、それ以外の原生動物では、若干異なった形のものがある。特にクリステの形についてははっきりと異なったものがある。一般のミトコンドリアでは内膜がひだのように折れ曲がり、クリステは平坦な板のような形をしている。しかし、粘菌類の場合、クリステは内膜から内部へと放射状に入り込む管の形で、管の表面にATP合成酵素の手段が並んでいる。また、内部の中央にDNAを含んだ塊があって、ミトコンドリア核と呼ばれる。このような、管状のクリステを持つミトコンドリアは、繊毛虫アピコンプレックス類アメーバ類、クロララクニオン藻類などの原生生物からも知られる。

また、ミドリムシ類とトリパノソーマでは、クリステは団扇型になっていることも知られている。これらのミトコンドリアは、細長くて枝分かれをして、細胞内に広がっている。トリパノソーマでは、鞭毛の基部にキネトプラストと呼ばれる袋状の構造が知られており、その中の顆粒にはDNAが含まれているが、これはミトコンドリアの一部である。

[編集] 出典

  1. ^ a b c d e f 黒岩常祥著 『ミトコンドリアはどこからきたか』 日本放送出版 2000年6月30日第1刷発行 ISBN 4140018879

[編集] 関連項目

[編集] フィクション

[編集] 小説

  • 1995年に第2回日本ホラー小説大賞を受賞した瀬名秀明の『パラサイト・イヴ』は、ミトコンドリアの共生起源説、および、人類進化におけるミトコンドリア・イブ説 (Wikipedia英語版Mitochondrial Eve参照) に基づき、現在のミトコンドリアは細胞の支配下にあるが、もしもそれが反乱を起こしたならば、という仮定の物語で話題を呼び、映画やゲーム化も行なわれた。