ユキノシタ

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ユキノシタ
ユキノシタ 多賀町
分類APG III
ドメイン : 真核生物 Eukaryota
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 angiosperms
階級なし : 真正双子葉類 eudicots
階級なし : コア真正双子葉類 core eudicots
: ユキノシタ目 Saxifragales
: ユキノシタ科 Saxifragaceae
: ユキノシタ属 Saxifraga
: ユキノシタ S. stolonifera
学名
Saxifraga stolonifera
Curtis[1][2]
和名
ユキノシタ(雪の下)
英名
Strawberry Geranium

ユキノシタ(雪の下、虎耳草[3][注釈 1]、鴨脚草、鴨足草、金糸荷、学名:Saxifraga stolonifera: Strawberry Geranium)はユキノシタ科ユキノシタ属の植物[1][2]。別名、イドクサコジソウ。山地の湿った場所に生育する草本で、観賞用に庭にも植えられる。脈に沿って縞模様の斑が入った円い葉をつけ、初夏に下2枚の花びらだけが大きな白い5弁花を咲かせる。細い枝を伸ばした先に、新しい株を作って繁殖する。春の山菜として食されるほか、薬用にも使われる。

名称

和名ユキノシタの語源については諸説ある。一説には、が上につもっても、その下に枯れずに緑の葉があるからとする説や[4][5][6]、白い花を雪(雪虫)に見立て、その下に緑の葉があることからとする説がある[7][8][9]。このほか、葉の白い斑を雪に見立てたとする説[5]、垂れ下がった花弁を舌に見立てて「雪の舌」とする説[7]などがある。

学名のstoloniferaは、ほふく枝(stolon)で増えることからきている[10]。ドイツ名のユーデンバールト(ユダヤ人のひげの意)、英名のマザー・オブ・サウザンス(子宝草)は、同様に糸状に伸びる走出枝に由来する[11]。中国植物名にもなっている虎耳草(こじそう)[12]とは、葉の丸い形や模様がトラの耳を連想させるから名付けられたと言われている[11][13]

日本の地方により、イドグサミミダレグサという方言名もある[12]俳句では鴨足草と書いて「ゆきのした」と読ませることが多い。

夏の季語[10]花言葉は、「情愛」[6]「切実な愛情」[6]である。

分布・生育地

日本中国の原産[14]。日本の本州四国九州および[15]、国外では中国に分布する。谷川べりなど低地の湿った場所や、半日陰地の岩場や沢沿いの石垣などに自生する常緑の多年草である[2][12][13]。人家のの日陰や生垣に栽培されることも多い[2][6]

形態・生態

草丈は20 - 50センチメートル (cm) になる[6]は根元から長い葉柄を出してロゼット状に集まり、形は円形に近い腎臓形で、やや長めの毛が目立ち、表面は暗緑色で主脈に沿って灰白色の斑が入り、裏面は全体に暗い赤みを帯びる[2][16]葉縁は粗く、浅く切れ込みが入る[17]

本種は種子に因る種子繁殖のみならず、親株の根本から、地上茎である紅紫色の走出枝(runner/ランナー)を四方に出して、先端が根付いて子苗をつくり栄養繁殖する[2][13]

北半球での開花期は5 - 7月頃で、高さ20 - 50 cmの花茎を出し、円錐花序を形成して多数の白い花をつけて目立つ[2][13][17]。花は5弁で、このうち上の3枚が小さく濃紅色の斑点があり基部に濃黄色の斑点があり、下の2枚は大きくて白色で細長い[2][18]。花弁の上3枚は約3 - 4 mm、下2枚は約15 - 20 mmである[19]。本種の変種[20]または品種とされる[21]ホシザキユキノシタには、こうした特徴は現れず、下2枚の長さは上3枚と同じくらいとなる[22]。ユキノシタの雄しべの数は10本、雌しべの数が1本で、雌しべに花柱が2本あり基部は黄色い花盤に取り囲まれている[16]。雄しべは雌しべよりも先に熟して花粉を放出してしまう雌雄異熟のため、雌しべに自花の花粉がつくことを避けている[23]。花柄と萼片には、紅紫色の腺毛がある[16]

開花後、長さ約4 mmほどの卵形の蒴果(さくか)を実らせ、先端は2個のくちばし状[24][15]。種子は、極小さな0.5 mmに満たないサイズで、全体に焦げ茶色あるいは黒色であり、全体にほぼ楕円形の不定形をしていて、表面には縦筋がありコブ状突起が多数備えられている[15]

APG植物分類体系での分類

古い分類のクロンキスト体系では、バラ目となっていたが、APG植物分類体系第2版ではユキノシタ目となり、ユキノシタ科のユキノシタ属となる[25]

被子植物 angiosperms
真正双子葉類 eudicots
コア真正双子葉類 core eudicots
ユキノシタ目 Saxifragales
ユキノシタ科 Saxifragaceae

利用

観賞用で人家の庭に植えられるほか、薬草山菜などとしても利用される[12]。栽培では、湿った半日陰を好むので、池畔の岩の上などに植えると趣が出る[17]。斑入りの葉の品種が普及している[7]

生薬

漢方薬薬味として用いられることはなく、民間薬として用いられた。葉には硝酸カリウム塩化カリウムベルゲニンタンニン質などを含んでいる[13]。硝酸カリウム、塩化カリウムには利尿作用があり、ナトリウム(塩)と結びつきやすいため、摂り過ぎた塩分を体外に排出させる効果がある。ペルゲニンは、健胃、下痢止めに役立つとされている[13]

5 - 7月ころの開花期に、よく成育した葉を採集して日干ししたものが生薬になり、生薬名はないが虎耳草(こじそう)と呼んでいる[12][13][17]。民間療法として、からだのむくみ胃もたれ下痢のときに、虎耳草1日量5 - 10グラムを約600 ccの水で半量になるまでとろ火で煮つめた煎じ液を、食間3回に分けて服用する用法が知られている[12][13]。また民間では生葉を用いており、葉を火であぶって軟らかくしたものが、腫れものなどの消炎に用いられ[9]凍傷しもやけ火傷にも使われた[19]。生葉をすりおろしたしぼり汁は脱脂綿ガーゼに含ませて、耳だれ中耳炎によるかぶれ、虫刺され、湿疹の患部に付けると効くと言われている[26]。小児のひきつけ(痙攣)には、生葉を少量の食塩で塩もみして絞った小さじ5杯ほどのしぼり汁を飲ませると、応急措置として一時的に効くとされる[26][13][17]風邪にはユキノシタの葉20g氷砂糖ショウガ1片を加えて煎じて飲むと良い[26]

乾燥させた茎や葉は、煎じて解熱解毒に利用する[19]

食用

春(3 - 5月)の若い葉は山菜として、天ぷらなどにして賞味される[8][13][14]。葉の裏面だけにうすく衣を付け、揚げたものを「白雪揚げ」という[4]。このほか、茹でて水にさらしてお浸し[12][14]、ゴマあえや辛子あえとしても調理される[4]

その他

葉の裏側の表皮細胞(液胞)は赤い色素を含むので、原形質分離が観察しやすい。そのため、高校生物の浸透圧の実験などによく用いられる[8]

近縁種

山間の渓流に生える。下側2枚の花びらが長い花形を、の字の形に見立てた名である。北海道から屋久島まで分布があるが、各地で変異が多く、多くの変種が報告されている[28]
本種と異なり4~5月頃に咲くことからこの名がある。山間部に咲き、葉は黄緑色で模様がなく光沢があり、花びらの斑点が黄色い[29]

関連画像

脚注

出典

  1. ^ a b ユキノシタ 米倉浩司・梶田忠 (2003-) 「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList) 2020年4月18日閲覧。
  2. ^ a b c d e f g h 『日本の野生植物』 (1999)、pp.171-172
  3. ^ ゆきのした 言葉 漢字ペディア”. 2020年3月29日閲覧。
  4. ^ a b c 帯谷(1980):38ページ
  5. ^ a b 岩槻(2006):346ページ
  6. ^ a b c d e 主婦と生活社編 2007, p. 68.
  7. ^ a b c 大嶋敏昭監修 2002, p. 421.
  8. ^ a b c 『植物雑学事典』:ユキノシタ 2011年8月16日閲覧。
  9. ^ a b 『薬用植物学』 (1999)、p.132
  10. ^ a b 若林三千男「ユキノシタ」、『週刊朝日百科植物の世界』57(朝日新聞社、1995年5月21日発行)、5の259頁。
  11. ^ a b c d 飯泉優 2002, p. 212.
  12. ^ a b c d e f g 貝津好孝 1995, p. 200.
  13. ^ a b c d e f g h i j 田中孝治 1995, p. 114.
  14. ^ a b c 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 155.
  15. ^ a b c 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2012, p. 196.
  16. ^ a b c 菱山忠三郎 2014, p. 122.
  17. ^ a b c d e 馬場篤 1996, p. 113.
  18. ^ 『植物雑学事典』:ユキノシタ 花 2011年8月16日閲覧。
  19. ^ a b c 八坂書房 編(2005):159ページ
  20. ^ 小幡(2001):4ページ
  21. ^ 菅谷ほか 編(1998):116ページ
  22. ^ 鈴木(1970):295ページ
  23. ^ 田中修 2007, p. 52.
  24. ^ 御所見(2001):148ページ
  25. ^ 米倉 (2009)、pp.57-58
  26. ^ a b c 帯谷(1980):39ページ
  27. ^ ダイモンジソウ 米倉浩司・梶田忠 (2003-) 「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList) 2020年4月18日閲覧。
  28. ^ 『日本の野生植物』 (1999)、p.172
  29. ^ a b 『日本の野生植物』 (1999)、p.171
  30. ^ ハルユキノシタ 米倉浩司・梶田忠 (2003-) 「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList) 2020年4月18日閲覧。

注釈

  1. ^ 「コジソウ」とも読むが、慣例的に「ユキノシタ」と読むことがある。

参考文献

  • 飯泉優『草木帖 -植物たちとの交友録』山と溪谷社、2002年6月1日、212頁。ISBN 4-635-42017-5 
  • 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編『かしこく選ぶ・おいしく食べる 野菜まるごと事典』成美堂出版、2012年7月10日、155頁。ISBN 978-4-415-30997-2 
  • 岩槻秀明『街でよく見かける 雑草や野草がよーくわかる本』秀和システム、2006年11月5日、527頁。ISBN 4-7980-1485-0 
  • 大嶋敏昭監修『花色でひける山野草・高山植物』成美堂出版〈ポケット図鑑〉、2002年5月20日、421頁。ISBN 4-415-01906-4 
  • 小幡和男「天皇皇后両陛下もご覧になったホシザキユキノシタ」『自然博物館ニュース A・MUSEUM』第27巻、ミュージアムパーク茨城県自然博物館、2001年、4頁。 
  • 帯谷宗英『野草を摘む』筑波書林、1980年8月10日、112頁。 
  • 御所見直好『振りかえる ふるさと山河の花 第二巻』』日貿出版社、2001年6月10日、343頁。ISBN 4-8170-8052-3 
  • 貝津好孝『日本の薬草』小学館〈小学館のフィールド・ガイドシリーズ〉、1995年7月20日、200頁。ISBN 4-09-208016-6 
  • 佐竹義輔大井次三郎北村四郎 他『日本の野生植物 草本II離弁花』平凡社、1999年。ISBN 4-582-53502-X 
  • 主婦と生活社編『野山で見つける草花ガイド』主婦と生活社、2007年5月1日、68頁。ISBN 978-4-391-13425-4 
  • 菅谷政司・小幡和男・倉持眞寿美・久松正樹・高橋淳・池澤広美・小池渉 編『茨城県自然博物館第1次総合調査報告書―筑波山・霞ヶ浦を中心とする県南部地域の自然―』ミュージアムパーク茨城県自然博物館、1998年3月28日、349頁。 
  • 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文『草木の種子と果実』誠文堂新光社〈ネイチャーウォッチングガイドブック〉、2012年9月28日、196頁。ISBN 978-4-416-71219-1 
  • 鈴木昌友『茨城の植物』茨城新聞社、1970年7月1日、490頁。 
  • 田中修『雑草のはなし』中央公論新社〈中公新書〉、2007年3月25日。ISBN 978-4-12-101890-8 
  • 田中孝治『効きめと使い方がひと目でわかる 薬草健康法』講談社〈ベストライフ〉、1995年2月15日、114頁。ISBN 4-06-195372-9 
  • 野呂征男、水野瑞夫、木村孟淳『薬用植物学』(改訂第5版)南江堂、1999年。ISBN 4-524-40163-6 
  • 馬場篤『薬草500種-栽培から効用まで』大貫茂(写真)、誠文堂新光社、1996年9月27日、113頁。ISBN 4-416-49618-4 
  • 菱山忠三郎『「この花の名前、なんだっけ?」というときに役立つ本』主婦の友社、2014年10月31日、122頁。ISBN 978-4-07-298005-7 
  • 八坂書房 編『花ごよみ365』八坂書房、2005年1月25日、396頁。ISBN 4-89694-850-5 
  • 米倉浩司 著、邑田仁 編『高等植物分類表』北隆館、2009年。ISBN 978-4-8326-0838-2 

関連項目

外部リンク