アメリカ選挙人団
アメリカ選挙人団(アメリカせんきょにんだん、英語:United States electoral college)は、アメリカ合衆国大統領選挙の選挙人集会で大統領及び副大統領を選出する選挙人(英語:elector)の集合である。
概要
選挙人の数は州ごとに、連邦上下両院の合計議席と同数が割り当てられる。ただしどの州にも属さないコロンビア特別区(DC)には選挙人数3が割り当てられる。これらの選挙人割り当て総数は538となる。選挙人の選出方法は基本的には州に任されており、歴史上は州議会によって選出される州が多数であった時代もあったが、現在では全ての州とDCで、全国一律の一般投票の日(11月第1月曜日の翌日の火曜日)における州民による投票で選出される。
一般投票では、あらかじめ有権者登録を済ませた州民が、大統領・副大統領候補の名前ペアが記されている選択肢にチェックを入れて投票するが、これらの票はその大統領・副大統領候補のペアへの投票を誓約する選挙人候補団への投票となる。大多数の州・DCでは最大得票の選挙人候補団に全議席が配分される(勝者総取り方式)。メイン州とネブラスカ州では、上院議員議席分の2名の枠を州全体での最多得票の陣営に与え、残りの下院議員議席分の枠を、下院選挙区ごとに最多得票の陣営に1名ずつ与える。
当選した選挙人団は、「12月の第2水曜日の後の最初の月曜日」に州ごとに選挙人集会を開いて大統領候補と副大統領候補への投票をそれぞれ行う。公開投票の州もあれば秘密投票の州もあるが、その投票結果を記した証書に選挙人全員が署名して認証し、知事の署名のある選挙人認定証書と共に副大統領に送付する。副大統領は、新議員が就任した直後の1月6日頃に連邦議会両院合同会議を開いてその場で選挙人票を集計させ、最終的に当選者を認証する。選挙人団による選挙によって大統領・副大統領に当選するには過半数(270票以上)を獲得する必要があり、いずれの候補も過半数に達しなかった場合は、上位候補の中から連邦議会議員の投票で選出が行われる。選挙人団が再度投票したり、選挙人票が議員票に加算されることはない。
選挙人団による選挙は間接選挙であるため、一般投票での得票率一位候補が当選できるとは限らない。
なお、本選挙に先立つ予備選挙では、州ごとに代議員を選出し、党大会の代議員による投票によって各党の大統領・副大統領の指名候補を選出するが、この過程は選挙人団方式との共通点も多い。
誓約について
誓約違反
選挙人が誓約を違えて別の候補に投票することは、連邦法上は自由であるが、2012年大統領選挙までに、そのような誓約違反投票が選挙結果に影響を及ぼした事例はない。右図に示す州の州法では誓約どおりの投票を義務としており、誓約違反投票に対しては罰金が科される場合もあるが、そのうち大半の州では投票自体は有効とされる。ミシガン州・ノースカロライナ州・ユタ州の州法では、誓約に反して投じられた票は無効とされ、その票を投じた選挙人は別の者と交代させられる[1]。
非誓約選挙人
近年立候補している選挙人候補団は、いずれかの候補ペアへの投票をあらかじめ誓約している。既に、19世紀の選挙人団は誓約選挙人がほとんどを占めていた。
しかし、選挙人候補に誓約を義務付けるかどうかは州の裁量とされている。1952年のレイ対ブレア事件の最高裁判決がその法的根拠とされる。そのため州の制度次第で、誓約選挙人候補団しか立候補できないケースもあれば、自由判断で投票することをあらかじめ言明する非誓約選挙人候補団が立候補することが可能なケースもある。このような非誓約選挙人による自由判断に基づく投票は、前節の誓約違反とは区別される。
かつては、党内対立が激しい場合に地方組織の造反として非誓約選挙人候補が擁立されることもあった。
1944年大統領選では、南部の民主党の一派が、指名候補フランクリン・ルーズベルトのニューディール政策と反人種差別政策に反対して、分派政党を立ち上げて「(大統領)候補者を特定せず」とする選挙人候補団を擁立している。
公民権運動時代には、南部の民主党が、党指名候補を拒否して非誓約選挙人候補団を擁立している。1960年大統領選においては、ミシシッピ州で民主党指名候補ジョン・F・ケネディへの投票を誓約する民主党選挙人候補団と、ケネディを拒否する非誓約の民主党選挙人候補団がそれぞれ立候補し、共和党選挙人候補団を交えての三つ巴の選挙戦となったが、非誓約民主党選挙人団が比較多数を得て当選した。選挙人団は人種差別制度の維持を主張するハリー・バードに投票している。またアラバマ州で当選した民主党の選挙人候補名簿には、ケネディへの投票を誓約する5名と非誓約の6名が記載され、非誓約の選挙人はバードに投票した。1964年大統領選においてもアラバマ州では非誓約の民主党選挙人候補団が、共和党誓約選挙人候補団との一騎打ちとなり、同州では民主党指名候補リンドン・ジョンソンへの投票を誓約する選挙人候補団は立候補できなかった。この時は同州では共和党が勝利している。
1968年大統領選では保守派が民主党から分裂してアメリカ独立党を結成して独自候補を立ち上げ、非誓約選挙人候補擁立戦術が使われなくなった。以後は非誓約選挙人候補団の立候補事例は稀である。1980年大統領選ではミネソタ州でアメリカ独立党の分流であるアメリカ党の地元組織が全国党大会指名候補を受け入れず、「(大統領)候補者を特定せず」として選挙人候補団を立候補させ、州内で0.3%の得票であった[2]。
各州の選挙人割当数
州名 | 選挙人数 | 州名 | 選挙人数 | 州名 | 選挙人数 | 州名 | 選挙人数 |
---|---|---|---|---|---|---|---|
アラバマ州 | 9 | インディアナ州 | 11 | ネブラスカ州 | 5** | サウスカロライナ州 | 9 (+1) |
アラスカ州 | 3 | アイオワ州 | 6 (-1) | ネバダ州 | 6 (+1) | サウスダコタ州 | 3 |
アリゾナ州 | 11 (+1) | カンザス州 | 6 | ニューハンプシャー州 | 4 | テネシー州 | 11 |
アーカンソー州 | 6 | ケンタッキー州 | 8 | ニュージャージー州 | 14 (-1) | テキサス州 | 38 (+4) |
カリフォルニア州 | 55 | ルイジアナ州 | 8 (-1) | ニューメキシコ州 | 5 | ユタ州 | 6 (+1) |
コロラド州 | 9 | メイン州 | 4** | ニューヨーク州 | 29 (-2) | バーモント州 | 3 |
コネティカット州 | 7 | メリーランド州 | 10 | ノースカロライナ州 | 15 | バージニア州 | 13 |
デラウェア州 | 3 | マサチューセッツ州 | 11 (-1) | ノースダコタ州 | 3 | ワシントン州 | 12 (+1) |
フロリダ州 | 29 (+2) | ミシガン州 | 16 (-1) | オハイオ州 | 18 (-2) | ウェストバージニア州 | 5 |
ジョージア州 | 16 (+1) | ミネソタ州 | 10 | オクラホマ州 | 7 | ウィスコンシン州 | 10 |
ハワイ州 | 4 | ミシシッピ州 | 6 | オレゴン州 | 7 | ワイオミング州 | 3 |
アイダホ州 | 4 | ミズーリ州 | 10 (-1) | ペンシルベニア州 | 20 (-1) | コロンビア特別区* | 3 |
イリノイ州 | 20 (-1) | モンタナ州 | 3 | ロードアイランド州 | 4 | 合計 | 538 |
- * コロンビア特別区は州ではないが、選挙人数3人を割り当てられる。
- ** メイン州とネブラスカ州では、勝者が選挙人2人を出し、残りは得票率に応じて振り分けられる。
- (+) または (-) 2004年及び2008年選挙人団に比べての、選挙人数の増減を示す。