IBM JX
IBM JX(あいびーえむじぇいえっくす)は、IBMが日本、オーストラリア、ニュージーランドを含むアジア太平洋地区で販売した、家庭用を目指したパーソナルコンピュータである。日本では、1984年にJX1~JX4の販売が開始され、翌年1985年には改良型であるJX5が登場した。イメージキャラクターには森進一、CMソングは『夢・ステファニー(ロマンティック・トリップ)』を使った。
概要
一般家庭用のパソコンでは8ビット機が主流だった時代に、PC-8800シリーズと同等の価格帯で発売された16ビット機。
PCjrをベースとして独自の日本語化を追加した。IBMは日本ではIBM PC、PC/XT、PC/ATなどを発売しなかったため、日本IBMから発売された初めての IBM PC アーキテクチャ機でもあった。
普及には遠く及ばず、PC-8800シリーズ・PC-9800シリーズの影で人知れず消えていった。
特徴
日本市場において「16ビット機はオフィス向け、ホームユースは8ビット機」という風潮があった中、「プライベート16ビット」のコンセプトを掲げ、ホームユース向けの16ビット機として登場した。IBMが米国市場で発売したPCjrをベースとして開発され、英文モードを使用することでPCjrの互換機として動作する。また、IBM PC向けの一部のソフトウェアを動作させることもできる。
当初に搭載されたCPUはIntel 8088・4.77MHzで、速度の面で難があった。改良型のJX5では、Intel 8088のまま7.2MHzになった。
FDDは5.25インチが普及していた中、3.5インチドライブを搭載していた。使用可能なFDは2DD(720KB)である。
メディアとしてはFDの他に、ROMカートリッジも使用可能。一部のソフトウェアがROMカートリッジで供給された他、動作モード切替にも用いられた。2つ搭載されたスロットの奥にはリセットボタンがあり、カートリッジを挿抜すると自動的にPCが再起動する仕組みになっている。
標準的なオペレーティングシステムは、IBMによる「日本語DOS 2.0」と、英語版の「PC DOS 2.0」である。どちらもMS-DOSと互換性がある。
JX1~JX4はパーツの組み換えによってアップグレード可能である。但し、JX5へのアップグレードは行えない。
JX1~JX4には赤外線を用いたワイヤレスキーボードが用いられ、およそ5mの有効範囲から操作が可能だった。ただし、蛍光灯を点灯する際のノイズを拾う等の問題もあり、JX5のキーボードは有線接続になった。 英数字とひらがなの刻印はJIS配列で、記号についてはタイプライター配列(USキーボード相当)である。
動作モード
- 基本モード
- JXの標準的なモード。カートリッジを用いずに電源を投入すると起動する。PCjr等の他機種との互換性は無い。日本語DOSを使用可能。
- 英文モード
- 拡張表示モード
- JX3・JX4に拡張表示モードカートリッジを挿入すると起動する。JX5は同機能を内蔵しており、スイッチで切り替えるようになっている。日本語DOSを使用可能。
- マルチステーション5550のサブセット的な動作となり、画面解像度についてはマルチステーション5550相当となる。
スペック
\ | JX1 | JX2 | JX3 | JX4 | JX5 |
---|---|---|---|---|---|
型番 | IBM JX 5511 | IBM JX5 5510 | |||
CPU | Intel 8088 4.77MHz | Intel 8088 4.77MHz/7.2MHz | |||
RAM | 64KB | 128KB | 256KB | 384KB | |
ROM | 128KB(BIOS・BASIC・かな漢字変換用辞書) | ||||
漢字ROM | 128KB(JIS第一水準・16×15ドットフォント) | ||||
外字RAM | 2KB | ||||
ビデオRAM | 32KB | 64KB | |||
表示能力 | 横160×縦200×16色 横320×縦200×4色/16色 横640×縦200×4色 |
横160×縦200×16色 横320×縦200×4色/16色 横640×縦200×2色/4色/16色 横360×縦512×4色 横720×縦512×2色 | |||
FDD | なし | 3.5インチ 2DD(720KB)×1 | 3.5インチ 2DD(720KB)×2 | ||
サウンド | 8オクターブ3重和音 | ||||
対応モード | 基本/英文 | 基本/英文/拡張 | |||
キーボード | コンパクト | フル | |||
ディスプレイ | テレビ | RGB対応テレビ/ 専用14インチカラーディスプレイ |
専用14インチカラーディスプレイ | ||
本体重量 | 3.7Kg | 5.3Kg | 6.1Kg | 6.2Kg | 不明 |
本体価格 | 166,000円 | 270,000円 | 332,000円 | 373,000円 | 不明 |
拡張機器
- 拡張ユニット
- JXのシステムユニットの天板を外し、その上に重ねて使用する。ケーブルによりシステムユニットと接続される。電源はシステムユニットとは別である。
- RAMを512KBまで拡張するためのスロットが使用可能になり、また3.5インチ FDDもしくは5.25インチ FDDを1台搭載することができる。
- ハードディスク拡張ユニット
- 拡張ユニットと同様に、JXのシステムユニットの上に重ねて使用する。5.25インチ・10MBHDDを搭載。価格は30万~40万円だった。
影響
- 後のDOS/V時代のインタビューでは「黒船」「元寇」などの表現が見られる(世界を席巻した IBM PC が遂に日本上陸と大騒ぎしたが、あっさり全滅した)
- JXで使用された型番(5510、5511)は、1991年のPS/55z(5510-Z/S/T)で再開される事になる。
- 英文の需要があったため、日本IBMはJX5を発売した1985年の11月にPC/AT(モデル5170)とXT(モデル5160)の国内販売を開始した。
関連項目
- 一太郎 :前身のjX-WORDがJX用のワードプロセッサ
参考文献
- ANIMAL HOUSE 『IBM JXブック 使いこなすための総合ガイド』 アスキー出版局、1985年。
ISBN 4-87148-776-8
外部リンク