「高慢と偏見」の版間の差分
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タイトルの“''Pride and Prejudice''”は、[[ファニー・バーニー]]{{enlink|Frances Burney|Fanny Burney}}の長編小説『[[セシリア (小説)|セシリア]]』(1782年){{enlink|Cecilia (Burney novel)|Cecilia}}の最終章に登場するフレーズ“The whole of this unfortunate business,... has been the result of PRIDE and PREJUDICE.”によると言われている。 |
タイトルの“''Pride and Prejudice''”は、[[ファニー・バーニー]]{{enlink|Frances Burney|Fanny Burney}}の長編小説『[[セシリア (小説)|セシリア]]』(1782年){{enlink|Cecilia (Burney novel)|Cecilia}}の最終章に登場するフレーズ“The whole of this unfortunate business,... has been the result of PRIDE and PREJUDICE.”によると言われている。 |
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== 社会背景 == |
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本作品が執筆された[[1800年]]前後は、ヨーロッパでは[[ナポレオン戦争]]が起こっており、イギリスも大きな影響を受けていたはずであるが、本作品では政治的な言及はほとんどなく、十年一日の如き田舎の[[ジェントリ]]社会が描かれている。 |
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当時のイギリスの[[上流階級]]は |
当時のイギリスの[[上流階級]]は[[貴族院 (イギリス)|貴族院]]に議席を持ち、[[爵位]]のある貴族と、それ以外の大地主階級([[ジェントリ]])に大別されるが、ジェントリ階級においても歴史的血統、親族の質、財産などにより格の上下が意識されていた。通常の社交上の儀礼では同等とされていたが、結婚など現実問題においては、そのような格差が重要となってくる。 |
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本作品の登場人物はほとんどがジェントリ階級か、その出身であるが、爵位こそないものの古くからの名家で[[伯爵]]家と姻戚関係があり年収1万[[スターリング・ポンド|ポンド]]の財産が有るダーシー家、さほど名家ではないが富裕な親戚が多く年収5000ポンドの財産を持つビングリー家、普通のジェントリだが[[中流階級]]の親族を持ち年収2000ポンド程度のベネット家では総合的にかなりの格差が |
本作品の登場人物はほとんどがジェントリ階級か、その出身であるが、爵位こそないものの古くからの名家で[[伯爵]]家と姻戚関係があり年収1万[[スターリング・ポンド|ポンド]]の財産が有るダーシー家、さほど名家ではないが富裕な親戚が多く年収5000ポンドの財産を持つビングリー家、普通のジェントリだが[[中流階級]]の親族を持ち年収2000ポンド程度のベネット家では総合的にかなりの格差が生じている。 |
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当時は財産の大部分は長子が継ぎ、それ以外の男子、女子にはごく一部が相続財産や持参金として分け与えられた。富裕で子供の少ない家においては、その一部の財産でもかなりの額ではあるが、裕福でなく子沢山の家ではとても階級を維持できる額を与えることはできなかった。 |
当時は財産の大部分は長子が継ぎ、それ以外の男子、女子にはごく一部が相続財産や持参金として分け与えられた。富裕で子供の少ない家においては、その一部の財産でもかなりの額ではあるが、裕福でなく子沢山の家ではとても階級を維持できる額を与えることはできなかった。 |
2021年5月26日 (水) 23:00時点における版
高慢と偏見 Pride and Prejudice | ||
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著者 | ジェーン・オースティン | |
発行日 | 1813年1月28日 | |
発行元 | T. Egerton, Whitehall | |
ジャンル | 恋愛小説、風俗小説 (Novel of manners) | |
国 | イギリス | |
言語 | 英語 | |
形態 | 上製本(3冊) | |
コード | OCLC 38659585 | |
ウィキポータル 文学 | ||
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『高慢と偏見』(こうまんとへんけん、Pride and Prejudice)は、ジェイン・オースティンの長編小説。『自負と偏見』『自尊と偏見』という日本語訳題もある。
18世紀末から19世紀初頭のイギリスの片田舎を舞台として、女性の結婚事情と、誤解と偏見から起こる恋のすれ違いを描いた恋愛小説。精緻を極めた人物描写と軽妙なストーリー展開で、オースティン作品の傑作で多くの訳書がある。
概要
1813年に刊行された、ジェーン・オースティンの2冊目の長編小説である。1796年10月から1797年8月(ジェーン20-21歳)にかけて執筆された作品「第一印象」をもとに出版された。(→#作品の成立)
物語は田舎町ロンボーン (Longbourn) に、独身の資産家ビングリーがやって来た所から始まる。ベネット家の次女エリザベスとビングリーの友人ダーシーが誤解と偏見に邪魔され、葛藤しながらも惹かれあう様子を軸に、それぞれの結婚等を巡っててんやわんやの大騒動を繰り広げる人々の姿を皮肉をこめて描きだしている。(→#あらすじ)
18世紀のイギリスでは、女性が自立できる職業はほとんどなく、良い結婚相手を見付けることが女性の幸せとされた。相続財産や持参金が少ない女性が良い結婚相手を見付けることは難しく、結婚できなければ生涯、一族の居候の独身女性として過ごさなければならない。このため、結婚は現代よりずっと切実な問題だった。(→#社会背景)
本作は幾度も映画化・映像化がなされており、2016年現在で6本の映画が制作されている。パロディ・二次創作や翻案作品も少なくない。(→#関連作品)
あらすじ
舞台は田舎町ロンボーン。女ばかり五人姉妹のベネット家では、父親のベネット氏が亡くなれば家も土地も遠縁の従兄弟の手へと渡ってしまう。ベネット氏は書斎で好きな読書と思索にふけって自分が楽しんでいられればいいと我関せずの態度だが、母親のベネット夫人は娘たちに金持ちの婿を取って片付けてしまおうと躍起になっていた。
そんな折、町に独身の青年資産家ビングリーが別荘を借りて越してきた。ベネット夫人は早速娘を引き合わせようと舞踏会の約束を取り付ける。美しい長女ジェーンとビングリーが印象悪からぬ出会いをする一方、次女エリザベスはビングリーの友人で気難し屋のダーシーが自分の事を軽んじる発言をするのを聞いてしまい、その高慢さに反感を抱く。その裏でダーシーはエリザベスの瞳に宿る知性の魅力に知らず惹かれ始めていたが、プライドの高さが災いして、格下の家のエリザベスと打ち解けられない。
同じ頃、町には軍隊が駐留していた。色男の青年士官ウィカムに下の妹達はすっかり夢中で、聡明なエリザベスも惹かれる。ウィカムは自分はダーシーの亡父の被保護者だった過去があり、相続するはずだった遺産をダーシーに奪われたと話し、エリザベスはダーシーへの反感をますます強める。
その後、ベネット家の財産相続権を持つ遠縁のコリンズ牧師が現れた。中身の無いおべっか使いのコリンズに誰もが辟易するが、彼が結婚相手を求めていると聞いたベネット夫人は態度を一変させ、エリザベスを押し付けようとするものの、コリンズに我慢ならないエリザベスはきっぱり断ってしまう。結局コリンズはエリザベスの親友のシャーロットと結婚する。エリザベスは彼女の行動に失望しかけるが、器量が悪く20代後半まで独身だったシャーロットにはやむを得ない選択だった。
急速に親密になっていたビングリーとジェーンだが、突然ビングリー達がロンドンに帰ってしまう。ジェーンは何も教えて貰えなかったことにショックを受けつつも、周囲に押されてロンドンまで追いかけるが、結局会えず終い。すっかり彼を諦めてしまう。一方その頃、エリザベスはシャーロットに招かれて彼女とコリンズの住むロージンズの地を訪れていた。コリンズの後見人を務める資産家・キャサリン夫人の館を訪問すると、そこには嫌いなダーシーの姿が。彼はキャサリン夫人の甥で、夫人からは娘の許婚にと望まれていた。しかもジェーンの邪魔をしてビングリーを帰したのが彼だと知って、エリザベスは言いようのない怒りを覚える。しかし、そこへ彼女への想いを抑えきれなくなったダーシーから突然求婚される。エリザベスは突然のことに驚くものの、相手の言葉の端々に表れる格下の家柄への高慢な態度、何よりもジェーンとウィカムのことを思って激しく拒絶する。
翌日、ダーシーからエリザベスの元に手紙が届いた。ジェーンがビングリーに気が無いと早とちりして別れさせてしまったこと(内気なジェーンの本心に気付かなかった)への謝罪、ダーシーの見下した態度は、ベネット夫人や妹達のあからさまに下品な振舞に対するものだったこと、そしてダーシーへの恩を仇で返すウィカムの過去の所業の暴露。いずれも思い当たる事ばかりで、エリザベスは自分がダーシーに対して偏見を持っていたことに気づく。
コリンズ夫妻の元から戻って間もなく、エリザベスは善良な叔父叔母のガーディナー夫妻に誘われて再び旅行へ出かけた。その旅程にはダーシーの領地ペンバリーも含まれていた。罪の無い彼を侮辱した負い目から、主人不在という話を信じてお屋敷見学を承諾するエリザベスだったが、予定を変更して早く帰ってきたダーシーと鉢合わせしてしまう。ところがダーシーが身分の低い叔父夫婦にも紳士的に接するのを見て、エリザベスは彼が高慢だった態度を改めて自分に歩み寄ってくれていることを感じる。
そこへ郷里から信じられない報せがもたらされた。末の妹のリディアとウィカムが駆け落ちしたのだ。娘の家名を汚す行為に、ベネット夫人は寝込んでしまう。ウィカムは高額の持参金を要求しており、すぐにベネット氏とガーディナー氏が探しに出かけた。その後、ベネット氏が一時帰郷した所へガーディナー氏から連絡が届く。ウィカム達はロンドンで見つかったが、ガーディナー夫妻が持参金を肩代わりし、その場で結婚式を挙げさせたという。唖然とする一同だったが、ベネット夫人だけは、丸く収まった上に娘が一人片付いたと大喜び。やがてウィカムとリディアが戻ってきて、二人はウィカムの次の駐留先で一緒に暮らすこととなった。
その後、エリザベスはリディアがふと洩らした言葉から驚くべき事実を知る。今回の一件を収めたのはすべてダーシーで、持参金も彼が出したという事を。それでいて自身の名を伏せている。エリザベスは、それはダーシーが自分のためにしたことに違いないと感じ、改めてダーシーの深い愛を感じた。
やがてビングリーが戻ってきた。ジェーンとの仲を引き裂いたことに責任を感じたダーシーが促したのである。そこでビングリーはジェーンにプロポーズ、二人は婚約する。
ジェーンとビングリーの婚約から1週間経ったある日の朝、突如キャサリン夫人がベネット家を訪問する。どういうわけかエリザベスとダーシーが婚約したという噂が一部で広まっており、その真偽を問い質しに来たのだった。もちろんエリザベスは否定したが、キャサリン夫人がこれからもダーシーと深い仲にならないことを約束させようとすると、「未来のことはわからない」と突っぱねて追い返してしまう。
キャサリン夫人の干渉のせいで、かえってお互いが愛しあっていることに気づいた二人は、ベネット氏に婚約の意を告げに行った。賢い愛娘が嫌っていた男と一緒になることを訝しむベネット氏だったが、エリザベスからこれまでの経緯を聞き、誠実な人物だとわかると、娘の幸せを心から祝福する。現金なことに、ダーシーを忌み嫌っていたベネット夫人も、娘を貰ってくれると解ったとたん喜んで手放した。
登場人物
登場人物の家族関係 | ||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||||
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中心人物
- エリザベス・ベネット (Elizabeth Bennet)
- 主人公。五人姉妹の次女。容姿は平均的。知性と才気にあふれ、鋭い観察眼を持つ。勝気で喜怒哀楽がはっきりしている。愛称はリジー (Lizzy) 。
- フィッツウィリアム・ダーシー (Fitzwilliam Darcy)
- ビングリーの友人で、彼と共にネザフィールドに滞在。容姿・資産ともにビングリーより勝るが、気難しさと誇り高さから鼻持ちならない男と誤解されがち。本来は非常に誠実である。
ベネット家の人々
- ベネット氏 (Mr. Bennet)
- 五人姉妹の父。高い見識を持つが、独り書斎で楽しむ時間があればいいという「ことなかれ主義」的な人物で、娘の結婚には興味なし。妻に皮肉を言うのが日課。娘たちの中では賢いエリザベスを一番愛している。
- ベネット夫人 (Mrs. Bennet)
- 五人姉妹の母。自己中心的かつヒステリックな性格。おしゃべり好き。娘の玉の輿のために命を懸けていると言っても過言ではない(ただし、彼女なりに娘の幸せを願ってのことである)。無愛想で高慢なダーシーを嫌っている。
- ジェーン ・ベネット(Jane Bennet)
- 五人姉妹の長女。温和でお人好しな美女。およそ人を疑った事のない純粋さの持ち主。
- メアリー・ベネット (Mary Bennet)
- 五人姉妹の三女。器量が良くないのを補うかの如く勉強して、教養を詰め込んでいる。そのせいか何かにつけ教養をひけらかしたり分別めいたことを口にしたがるが、中身はあまり実のあるほうではない。
- キティ〔キャサリン〕・ベネット (Kitty〔Catherine〕 Bennet)
- 五人姉妹の四女。ジェーン程ではないが美人。性格は明らかに母親似である。リディアに引きずられて、分別のない行動に出ることもしばしば。リディアと一見仲が良いが、無意識下では敵愾心を燃やしており、リディアがチャンスをつかむと激しく嫉妬する。
- リディア・ベネット (Lydia Bennet)
- 五人姉妹の五女。16歳。長身の美人。母親似の俗っぽく、計算高い性格。普段は猫を被っている。悪い意味での行動力があり、後にとんでもない事件を起こす。
エリザベスとベネット家をめぐる人々
- コリンズ氏 (Mr. Collins)
- ベネット家の親類にあたる牧師で、ベネット家の遺産相続人。そのとめどない巧言令色には誰もがうんざりさせられる。杓子定規で堅苦しく、嫌味も通じない。後見人のキャサリン夫人に盲従し、夫人の勧めで嫁探しにロンボーンを訪れた。
- ガーディナー夫妻 (E. Gardiner and M. Gardiner)
- エリザベスたちの叔父と叔母(ベネット夫人の弟夫婦)。中流階級であるため身分は低いと見なされるが、いたって善良で分別がある人たち。
- シャーロット・ルーカス (Charlotte Lucas)
- エリザベスの友人。多くの兄弟をもつ。常識的な人物だが、不器量のため20代後半まで独身で過ごす。生活のためだけにコリンズと結婚。
- ウィカム氏 (Mr. Wickham)
- ブライトンに駐留する軍隊の青年士官。弁舌爽やかな色男で、ベネット家の下の娘たちはおろかエリザベスも一時は魅了される。ダーシーと浅からぬ因縁がある。
ダーシーをめぐる人々
- ビングリー氏 (Mr. Bingley)
- ネザフィールド・パーク館に引っ越してきた独身の資産家。誠実で優しい好青年。ハースト夫人 (Mrs. Hurst) という姉と妹数人がいる。
- ミス・ビングリー〔キャロライン・ビングリー〕 (Caroline Bingley)
- ビングリーの妹。共にネザフィールド・パーク館へと越してくる。兄とは違って高慢な性格で、ジェーンたちベネット家との交際を快く思っていないふしがある。ダーシーに好意を寄せている。
- キャサリン夫人 (Lady Catherine)
- ダーシーの叔母で、コリンズの後見人。ロージンズに住み、広大な土地と莫大な財産を所有する。いかなるときも自分が中心にいないと気が済まない性格。ダーシーを娘の許嫁と決めている。
- フィッツウィリアム大佐 (Colonel Fitzwilliam)
- ダーシーの従兄弟で、キャサリン夫人の甥に当たる人物。ダーシーと共にロージンズに滞在している時にエリザベスと会う。ビングリーがジェーンの元から去った理由を、偶然エリザベスに教える。
- ジョージアナ・ダーシー (Georgiana Darcy)
- ダーシーの妹。16歳だがエリザベスよりも長身。心優しい性格だが、人見知りではにかみ屋なため、誤解されやすい。
作品の成立
ジェーンの姉・カサンドラによれば、本作は1796年10月から1797年8月の間(ジェーン20-21歳)に「第一印象」(First Impressions)の題名で書かれた。同年11月、父は出版社に手紙を送り、「第一印象」の出版を打診するが、断られた。『分別と多感』出版(1811年)の後に「第一印象」の訂正、圧縮が行われ、1813年1月28日に現在の題で出版された[2]。
タイトルの“Pride and Prejudice”は、ファニー・バーニー (Fanny Burney) の長編小説『セシリア』(1782年) (Cecilia) の最終章に登場するフレーズ“The whole of this unfortunate business,... has been the result of PRIDE and PREJUDICE.”によると言われている。
社会的背景
本作品が執筆された1800年前後は、ヨーロッパではナポレオン戦争が起こっており、イギリスも大きな影響を受けていたはずであるが、本作品では政治的な言及はほとんどなく、十年一日の如き田舎のジェントリ社会が描かれている。
当時のイギリスの上流階級は貴族院に議席を持ち、爵位のある貴族と、それ以外の大地主階級(ジェントリ)に大別されるが、ジェントリ階級においても歴史的血統、親族の質、財産などにより格の上下が意識されていた。通常の社交上の儀礼では同等とされていたが、結婚など現実問題においては、そのような格差が重要となってくる。
本作品の登場人物はほとんどがジェントリ階級か、その出身であるが、爵位こそないものの古くからの名家で伯爵家と姻戚関係があり年収1万ポンドの財産が有るダーシー家、さほど名家ではないが富裕な親戚が多く年収5000ポンドの財産を持つビングリー家、普通のジェントリだが中流階級の親族を持ち年収2000ポンド程度のベネット家では総合的にかなりの格差が生じている。
当時は財産の大部分は長子が継ぎ、それ以外の男子、女子にはごく一部が相続財産や持参金として分け与えられた。富裕で子供の少ない家においては、その一部の財産でもかなりの額ではあるが、裕福でなく子沢山の家ではとても階級を維持できる額を与えることはできなかった。
ジェントリは生活のために労働をしないことを誇りとしており、職業を持つ中流階級は資産が多くても低く見られていた。このため、相続財産の少ない男子は軍人、牧師、役人などになったが、最もてっとり早いのは裕福な財産を相続した女性と結婚することであり、相続財産の少ない男子、女子はいずれも裕福な結婚相手を血眼になって探すことになる。
財産のうち土地、屋敷などの不動産は分散を避けるために相続条件を指定した限嗣相続になっていることが多い。ベネット家では不動産は男子限定の限嗣相続となっている上、それ以外の財産はほとんどないため、娘たちはわずかな持参金で結婚を目指さなければならなかった。
評価
作中の登場人物の女性らは、一見頼りないが、実は鋭い観察眼で男を見抜く能力に長けている。その点が、小説として多くの読者を惹きつけ支持される理由でもある。
作家モームは、『世界の十大小説』の中で、本作を2冊目に挙げ、「大した事件が起こるわけでもないのに、ページをめくる手が止まらなくなる」と評価(西川正身訳、新版岩波文庫)。日本でも夏目漱石が冒頭の書き出しを激賞している(また、「則天去私」の例の一つとして、本作を挙げたと言われる)。
日本語訳
- 高慢と偏見(平田禿木訳、國民文庫刊行会、1928年)
- 自尊と偏見(海老池俊治訳、弘文堂書房・世界文庫(上・下)、1940年)
- 高慢と偏見(富田彬訳、岩波文庫(上・下)、1950年、改版1994年)。ワイド版2002年
- 自負と偏見(中野好夫訳、新潮文庫、改版1997年)。文庫旧版(上・下)、1963年
- 高慢と偏見(阿部知二訳、河出文庫、新版2006年)。元版は河出版「世界文学全集」
- 高慢と偏見(伊吹知勢訳、文泉堂出版「オースティン著作集2」)。元版は講談社版「世界文学全集」
- 高慢と偏見(中野康司訳、ちくま文庫(上・下)、2003年)- ※現行版は以下
- 高慢と偏見(小尾芙佐訳、光文社古典新訳文庫(上・下)、2011年)
- 自負と偏見(小山太一訳、新潮文庫、2014年)。新訳版
- 高慢と偏見(大島一彦訳、中公文庫、2017年)
- 誇りと偏見(パーカー敬子訳、あさ出版パートナーズ、2020年)
関連作品
映像化作品
- 高慢と偏見 - ローレンス・オリヴィエ主演の映画(1940年、アメリカ)
- 長く親しまれている作品ゆえに幾度となく映像化されているが、古い時代のもので有名なのが、若き日のローレンス・オリヴィエがダーシーを演じたこの映画である。ストーリーは長い原作を所々省略してキャラクターの行動にも多く改変(ラスト近くのキャサリン夫人など)を加えており、当時ハリウッドで流行したスクリューボール・コメディの影響を思わせる。
- 高慢と偏見 - イギリスBBC制作のテレビドラマ(1995年)。
- 監督:サイモン・ラングストン、Mr.ダーシー:コリン・ファース、エリザベス:ジェニファー・イーリー。
- 上記映画版のヒット以降、長らく新しい決定版と呼べる作品が登場してこなかったが、このTVドラマは高い評価を受けプライムタイム・エミー賞 作品賞 (ミニシリーズ部門)にノミネートされた。
- Bride and Prejudice - アイシュワリヤー・ラーイ主演のボリウッド映画(2004年)
漫画化作品
舞台
パロディ、二次創作作品
- Emma Tennant "Pemberley or Pride and Prejudice Continued", 1993
(エマ・テナント『ペンバリー館 続高慢と偏見』 小野寺健訳 筑摩書房、1996年/『続高慢と偏見』 ちくま文庫 2006年) - Emma Tennant "An Unequal Marriage or Pride and Prejudice Twenty Years Later", 1991
(エマ・テナント『リジーの庭 「自負と偏見」それから』 向井和美訳 青山出版社 1999年) - 上掲書よりも後の設定になっている - Pamela Aidan "Fitzwilliam Darcy, Gentleman"シリーズ, 2004-2010
- Jane Austen & Seth Grahame-Smith "Pride and Prejudice and Zombies", 2009
(ジェイン・オースティン、セス・グレアム=スミス『高慢と偏見とゾンビ』 安原和見訳 二見文庫 2010年) - 全体の9割は原典をそのまま用いながら爆笑ホラー小説に仕立て上げた怪作。2016年に映画化作品が公開された[3] - P. D. James "Death Comes to Pemberley", 2011
(P・D・ジェイムズ『高慢と偏見、そして殺人』 羽田詩津子訳 早川書房、2012年)
翻案作品
ヘレン・フィールディングの『ブリジット・ジョーンズの日記』は、本作をベースにした作品である[4][5]。
脚注
- ^ チャールズ・エドモンド・ブロックによる挿絵(1895年)
- ^ 藤田清次『評伝ジェーン・オースティン』(1981年、北星堂書店)P78、P102。1811年7月から1812年12月の期間のジェーンの書簡は残されておらず、詳細は不明。
- ^ “映画版「高慢と偏見とゾンビ」の全米公開日が決定”. 映画.com (2015年4月8日). 2015年4月8日閲覧。
- ^ “Bridget Jones vs Pride and Prejudice”. BBC (2013年1月28日). 2016年4月13日閲覧。
- ^ John Mullan (2013年11月27日). “John Mullan on Bridget Jones – Guardian book club”. Guardian. 2016年4月13日閲覧。
関連項目
- チャッツワース・ハウス - 舞台のモデルとなったとされる。
- デヴォンシャー公 - 代々のデヴォンシャー公爵であるキャヴェンディッシュ家が爵位と共にチャッツワース・ハウスを相続している。
外部リンク
- ウィキメディア・コモンズには、高慢と偏見に関するカテゴリがあります。
- 英語版ウィキソースに本記事に関連した原文があります:Pride and Prejudice