ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの12か月

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ブリジット・ジョーンズの日記
きれそうなわたしの12か月
著者ヘレン・フィールディング
原題: Bridget Jones: The Edge of Reason
翻訳者亀井よし子
イギリスの旗 イギリス
言語映画
ジャンルコメディ小説、チック・リット
出版社イギリスの旗 ピカドール[1]
日本の旗 ソニー・マガジンズヴィレッジブックス角川文庫
出版日イギリスの旗 1999年
日本の旗 2000年6月10日(ソニー、単行本)[2]
日本の旗 2007年12月20日(ヴィレッジブックス、文庫)[3]
日本の旗 2015年4月25日(角川文庫)[4]
出版形式イギリスの旗 プリント(ハードバックペーパーバック
日本の旗 単行本、文庫本
ISBN0-670-89296-3
OCLC43185907
823/.914 21
LC分類PR6056.I4588 B76 2000
前作ブリジット・ジョーンズの日記
次作ブリジット・ジョーンズの日記 恋に仕事に子育てにてんやわんやの12か月
"Bridget Jones: Mad About the Boy"
画像外部リンク
en:Bridget Jones - The Edge of Reason (book cover).jpg
英語版の表紙

ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの12か月』(ブリジット・ジョーンズのにっき きれそうなわたしの12かげつ、: Bridget Jones: The Edge of Reason)は、1999年ヘレン・フィールディングが発表した小説で、1996年に発表した人気小説『ブリジット・ジョーンズの日記』の続編である。現在販売されている角川文庫版では「キレそうなわたしの12か月」表記に改題されている[4]。1作目同様、主人公ブリジット・ジョーンズ英語版の日記形式を取り、またジェーン・オースティン最後の小説『説得』をベースにしている。

ブリジットはマーク・ダーシーと付き合い始めたばかりだが、彼がブリジットの知人である毒舌家レベッカと恋に落ちたのではないかと勘繰り、カップルは破局の危機を迎える。また、多くの誤解や災難を交えながら、自らをシングルトンと認める登場人物たちの浮き沈みも描かれるほか、ブリジットは東南アジア旅行で逮捕・拘留という大災難に巻き込まれる。

2004年には、1作目同様レネー・ゼルウィガー主演で、同名映画として映像化された。

あらすじ[編集]

ここでは日本初訳のソニー・マガジンズ版に沿ってあらすじを述べる。春夏篇には1月27日から4月30日分(第1章から第7章)[5]、秋冬篇には5月1日から12月19日分(第8章から第15章)が収録されている[6]

春夏篇[編集]

1997年を迎えたブリジットは[7]、マーク・ダーシーと付き合い始め、テレビ業界で働いている。友人のシャロンやジュードとは自己啓発本コリン・ファースの『高慢と偏見』の話題で盛り上がり、友人マグダが結婚を機に自分たち「シングルトン」には理解出来ない人間になってしまったことに驚く。体型や喫煙・飲酒量を気にしつつも、ダイエットや生活改善にはなかなか達しない。また、毒舌家の事務弁護士レベッカがカップルの仲を引き裂こうと策略し始め、ブリジットはマークとレベッカの関係を疑うようになる。

ブリジットはマークとすれ違いを続けるが、友人トムの取りなしで、映画売り出し中[注釈 1]のコリン・ファースにインタビューする機会を得る。ブリジットはローマまで意気揚々と向かったが、質問はファースの意に沿わないもので失敗に終わる。また、マグダの友人ゲイリーにフラットの改装を頼んだところ、壁に大穴を空けられ放置されてしまう。

秋冬篇[編集]

1997年イギリス総選挙労働党が勝利し、トニー・ブレア政権が誕生する(5月1日)。ジュードは腐れ縁だった恋人のリチャードとの結婚を宣言するが、結婚式計画にレベッカが噛んでいたことが分かり、シャロンは彼女に絶交を言い渡す。ブリジット・シャロンと仲直りしたいジュードの策略で、レベッカは渋々実家に彼女たちを招待する。レベッカはこの席で橋から飛び込んで足に怪我をし、客として来ていたマークの同僚のジャイルズが自殺未遂を起こすが、ブリジットが適切に処置をしたことでマークは彼女を見直す。

ブリジットはシャロンと共にタイへ休暇旅行に向かい、飛行機で出会ったジェッドとガンジャマジックマッシュルームを楽しむ。リゾート地でバックパックを盗まれたふたりは、ジェッドの計らいでイギリス行きの航空券を確保してもらうが、ブリジットの荷物には密輸用麻薬が仕込まれており、逮捕されてしまう。留置場では、出発直前に参加した詩読会でマークに渡された、キプリングの詩を読んで心の支えにする[注釈 2]。マークや外務省のおかげでジェッドは逮捕され、ブリジットは無罪放免で帰国するが、翌日起きたダイアナ妃自動車事故死に打ちのめされる(8月31日)。帰国したブリジットはジャイルズとレベッカが付き合い始めたことを知る。

ブリジットはフラットの大穴に対処するため、ゲイリーに督促書を送るが、激昂した彼は逆に銃弾を送り付けてくる[注釈 3]。彼女は危険な自宅を出てマークの家に身を寄せるようになるが、そこで詩読会でのメモは復縁を願った彼の手紙[注釈 4]と取り違えられていたことが分かる。2人は復縁し、シャロンと揃ってジュードとリチャードの結婚式に出席する。酔った勢いで散々なクリスマスカードを方々に送り付ける姿は相変わらずだが、マークから長期のアメリカ行きに誘われるなど、ブリジットは昨年までとは全く違う幸せな生活を送るのだった。

プロットの背景[編集]

シリーズ第1作『ブリジット・ジョーンズの日記』は、ジェイン・オースティンの小説『高慢と偏見』を下敷きにした作品である[13]。一方の第2作は、同じくオースティンの小説で、「本当の愛」がありながら周囲の説得で関係解消する筋書きがある『説得』と関連が見られる[13][14][15]。例えば第4章の章題は、『説得』の原題である "Persuation" である[16]。フィールディングは登場人物のひとりであるジャイルズ・ベンウィック(英: Giles Benwick)の名前を、この小説に登場するベンウィック大佐(英: Captain Benwick)から取っているほか[14]、元の小説から借りてきたシーンも散見される。

例えば、マークを巡ってブリジットと対立することになるレベッカは浅い川に飛び込んで足を痛めるが、このシーンは『説得』でアンのライバルであるルイーザが、ライム英語版で頭から転ぶシーンと鏡になっている[注釈 5]。またどちらでも、レベッカ・ルイーザの行動をマーク・ウェントワース大佐が止めようとするが失敗する[17][18]。フィールディングの小説では、この後ジャイルズとレベッカが「自己啓発本を通じて」恋愛関係に発展するが、『説得』でもライムで怪我をしたルイーザと、ここに逗留していたベンウィック大佐が詩を通じて恋仲になる[注釈 5][13]

「あのジャイルズよ、ほら、マークの同僚の、レベッカの実家で自殺を図ってあなたに救われた」
「彼、あなたにすごく気があったのよ」
「ところが、池に飛び込んで足首をくじいたレベッカと、自殺を図ったジャイルズが、養生のためにグロスタシャーにこもって自己啓発本を読んでいるうちに、なんとまあ——その気になっちゃったってわけ ([Giles and Rebecca] "fell in love over self-help books")」 — ヘレン・フィールディング、『秋冬篇』190頁[21]

どちらの話でも、主人公(ブリジットとアン)が、恋人(ダーシーとウェントワース大佐)がライバル(レベッカとルイーザ)を褒めるところを聞いてしまう[13]。ブリジットはマークと不仲になっている時期に、ダーシー提督から息子の結婚を聞かされ、勘違いして動揺するが、『説得』でもアンが、ウェントワース大佐の姉であるクロフト夫人から兄弟の結婚を聞かされて動揺する[注釈 6][13]。またブリジットは、名付け親となったコンスタンスの誕生日会に参加した時に、彼女の背中に登ろうとする男の子に迷惑させられ、マークに助けられるが、『説得』では、アンの元恋人であるウェントワース大佐がアンに対して全く同じ行動を取る[24][25]。また、ブリジットの母が参加するブック・クラブの詩読会では、ブリジットが女性は自分たちを忘れた男性たちを忘れられずにいるものだと話す様子をマークが立ち聞きして、ブリジットへまだ好意があるなら連絡してほしいという紙を回そうとする(但し混乱の末に、キプリングの詩『もしも』が書かれた間違ったメモ書きを渡してしまう)[注釈 4][12][26]。この時ブリジットが言う言葉は次の通りである。

[ダーシー提督]「なんでいかん!なんでいかんのだ!いいじゃないか!わしにゃ、わからん!あっちの女、こっちの女と、取っかえ引っかえ!うら若い娘さんたちが、ああいった若い男どもを真似て花から花へと飛び回るようなことをしないことを望むばかりだよ!」
「そんなこと、しません」と悲しい声でわたし。「それどころか、わたしたちはもし誰かを愛したら、たとえ相手が目の前から消えても、簡単に忘れることなんてできません」 — ヘレン・フィールディング、『秋冬篇』121頁[26]

『説得』第23章にも同様のシーンがあり、マークに相当するウェントワース大佐は、アンがハーヴィル大佐に「女性の貞節さ」("women's constancy") を説くのを聞いていて、その後アンに結婚を願う手紙をこっそり手渡す[27]。ここでのアンの言葉は次のようになっている。

「ええ、そうですわ。女性はそんなに簡単に男性を忘れることはできません。男性がすぐに女性を忘れるようにはね。それは女性の長所ではなくて、女性の運命なのだと思います。そうするよりほかないのです。女性はいつも家にいて、狭い世界で静かに暮らしていますから、どうしても感情の虜になってしまうのです」
[中略]「男性たちの熱烈で誠実な感情を過小評価するつもりなどまったくありません。真の愛情と貞節は女性の専売特許だなんて言うつもりはありません[注釈 7]」[後略] — ジェーン・オースティン、『説得』385頁、390頁[29]

ブリジットは1995年にBBCで放送された『高慢と偏見』に夢中であり、このドラマでダーシー役を演じたコリン・ファースへのインタビューを取り付ける[13][30][31][32]。ファースは『ブリジット・ジョーンズの日記』シリーズの映画でマーク・ダーシー役を演じているが、この内輪ネタに対し、第2作『きれそうなわたしの12か月』の撮影に合わせてファースが本人役で登場する映像が作られ、後に特典映像として収録された[14][33]

サンドラ・グレゴリー英語版は、作中タイ刑務所が登場するシーンについて、自分の両親がフィールディングの隣人だったので、自分の事件について両親が話し、それが元になったのではないかと話している[34]。グレゴリーはヘロイン密輸に関与したとして1993年にタイで死刑判決を受け、その後イギリスに帰国した人物である[35]

評価[編集]

セシリア・サルバーはこの作品について、「オースティンを『近代化』することで、フィールディングはモデル[にしたオースティン作品]を讃えるだけでなく、新しい世紀において、彼女の認識が正しいものだとも証明した」と述べた[30]。『ガーディアン』紙ではスティーヴン・モスが書評をまとめた記事を出したが、この中で彼は「ブリジット・ジョーンズは疑いなく一大現象になった」(Bridget Jones is undoubtedly a phenomenon.) と述べた[1]。一方で、『サンデー・テレグラフ英語版』のジェーン・シリングのように、ブリジットを描くフィールディングの筆致には疲れが見えると評した者もいた[1]。『カーカス・レビューズ英語版』では、「オリジナルのファンでさえ続編にはがっかりするだろう」とされた[36]

トレイシー・ベネット英語版が朗読を担当したオーディオブックは、2001年のアウディ賞ユーモア部門を獲得した(ベネットは第1作のオーディオブックも担当している)[37]。前年の2000年には、ソロ・ナレーション部門(女性)でバーバラ・ローゼンブラットが同賞を獲得している[38]

脚注[編集]

注釈[編集]

  1. ^ 言及されている映画『ぼくのプレミアライフ フィーバーピッチ英語版』は、ニック・ホーンビィの小説『ぼくのプレミアライフ』を原作としており、1997年に公開された[8]
  2. ^ この時彼女が読んでいるのは『もしも』"If—" である[9][10]
  3. ^ 当初犯人として疑われたのは、前作で彼女と交際していた出版社の上司、ダニエル・クリーヴァーだったことが後から判明する[11]
  4. ^ a b この手紙の中でマークは、自分はレベッカとは交際しておらず、まだブリジットを愛しているので、彼女も同じ気持ちなら連絡してほしい、と述べているが、後半分の内容は『説得』でウェントワース大佐がアンに送る愛の手紙と同じであると指摘されている[12]
  5. ^ a b オースティンの原作では12章でルイーザが怪我をし、その後ライムに残って療養するが[19]、その間にベンウィック大佐と恋仲になり、婚約したことが18章で明かされる[20]
  6. ^ ダーシー提督は、マークの兄弟であるピーターに言及していたことが分かるが[22]、『説得』でもクロフト夫人が言及していたのは、彼女のもう1人の弟で、かつて村に副牧師として赴任していたエドワードの方だと分かる[23]
  7. ^ この部分は原文では、"I should deserve utter contempt if I dared to suppose that true attachment and constancy were known only by woman." となっている[28]

出典[編集]

  1. ^ a b c Moss, Stephen (1999年11月22日). “Bridget Jones: The Edge of Reason by Helen Fielding”. ガーディアン. 2018年1月4日閲覧。 “Jane Shilling in the Sunday Telegraph was more restrained, and pointed to the dangers ahead. "Though the tone remains spirited, there is the tiniest suspicion of a sense that her creator is beginning to tire of Bridget and a pronounced hint in the final pages of Sir Arthur Conan Doyle's desperate attempts to rid himself of Sherlock Holmes."[後略]”
  2. ^ 『ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの12か月 春夏編』ソニー・マガジンズ。ISBN 4-7897-1556-6NCID BA47224129OCLC 910093570全国書誌番号:20071119 
  3. ^ ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの12か月 春夏編』ヴィレッジブックス。ISBN 978-4-86332-757-3http://webcatplus.nii.ac.jp/webcatplus/details/book/5015664.html 
  4. ^ a b ブリジット・ジョーンズの日記 キレそうなわたしの12か月 上”. カドカワストア. 2017年12月21日閲覧。
  5. ^ フィールディング 2000a, pp. 3, 8, 280.
  6. ^ フィールディング 2000b, pp. 1, 6, 308.
  7. ^ フィールディング 2000b, p. 313(訳者あとがき).
  8. ^ フィールディング 2000a, p. 214.
  9. ^ Bridget Jones's Diary: Locked up with no one but Madonna for company”. インデペンデント (1996年8月27日). 2018年1月4日閲覧。
  10. ^ Rudyard Kipling gets a girl power twist”. ロンドン・イヴニング・スタンダード英語版 (2012年10月31日). 2018年1月4日閲覧。
  11. ^ フィールディング 2000b, pp. 260–263.
  12. ^ a b GILLIS-FURUTAKA 2006, p. 163.
  13. ^ a b c d e f Mullan, John (2013年11月27日). “John Mullan on Bridget Jones – Guardian book club”. ガーディアン. 2017年12月21日閲覧。
  14. ^ a b c Pasley, Virginia (2013年1月). “Will Bridget Jones Remain the Modern Heiress to the Jane Austen Heroine?”. The Atlantic. 2018年1月1日閲覧。
  15. ^ Mackie, Drew (2016年2月2日). “Pride and Prejudice and Zombies and 10 Other Adaptations That Jane Austen Never Would Have Anticipated”. People. 2018年1月4日閲覧。
  16. ^ フィールディング 2000a, p. 155.
  17. ^ オースティン 2008, p. 182.
  18. ^ フィールディング 2000b, pp. 79–81.
  19. ^ オースティン 2008, pp. 181–187.
  20. ^ オースティン 2008, pp. 281–285.
  21. ^ フィールディング 2000b, p. 190.
  22. ^ フィールディング 2000a, pp. 203–204.
  23. ^ オースティン 2008, pp. 82–83.
  24. ^ オースティン 2008, pp. 134–135.
  25. ^ フィールディング 2000b, pp. 61–62.
  26. ^ a b フィールディング 2000b, pp. 121–123, 252–253.
  27. ^ オースティン 2008, pp. 392–394.
  28. ^ Austen, Jane. “Persuation”. プロジェクト・グーテンベルク. 2018年1月3日閲覧。
  29. ^ オースティン 2008, pp. 385, 390.
  30. ^ a b Salber, Cecilia (Winter 2001). “Bridget Jones and Mark Darcy: Art Imitating Art . . . Imitating Art”. PERSUASIONS ON-LINE (Jane Austen Society of North America) 22 (1). http://www.jasna.org/persuasions/on-line/vol22no1/salber.html 2018年1月1日閲覧. "By “modernizing” Austen, Fielding not only honors her model, but also validates her perceptions in a new century." 
  31. ^ GILLIS-FURUTAKA 2006, p. 164.
  32. ^ フィールディング 2000a, §5 (p.214〜).
  33. ^ レネー・ゼルウィガーコリン・ファース(英語)『ブリジット・ジョーンズ、コリン・ファースをインタビューする』(DVD)ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン、2004年。UNKD-38435。 (『ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの12か月』DVD特典映像)
  34. ^ Gregory, Sandra (2004年11月1日). “Bridget Jones stole my story”. The Daily Telegraph. 2016年7月4日閲覧。
  35. ^ Brown, Jonathan (2009年12月4日). “Drug-smuggler Gregory returns to Thailand and is deported”. インデペンデント. 2017年12月21日閲覧。
  36. ^ BRIDGET JONES: THE EDGE OF REASON - by Helen Fielding”. Kirkus (2010年5月20日). 2018年1月4日閲覧。 “Even fans of the original will find the sequel disappointing.”
  37. ^ 2001 Audie Awards® - APA”. 2017年12月21日閲覧。
  38. ^ 2000 Audie Awards® - APA”. 2017年12月21日閲覧。

参考文献[編集]

外部リンク[編集]