コンテンツにスキップ

「解離性障害」の版間の差分

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
削除された内容 追加された内容
編集の要約なし
編集の要約なし
(同じ利用者による、間の25版が非表示)
1行目: 1行目:
{{medical}}
{{medical}}
'''解離性障害'''(かいりせいしょうがい、英名はDissociative Disorde、略称は'''DD''')とは、[[アメリカ精神医学会]]・[[精神疾患の分類と診断の手引]] (DSM-IV-TR)における精神疾患の分類のひとつである。
自分が自分であるという感覚が失われている状態、まるでカプセルの中にいるような感覚で現実感がなかったり、ある時期の記憶が全く無かったり、いつの間にか自分の知らない場所にいるなどが日常的に起こり、生活面での様々な支障をきたしている状態をさす。
その中でもっとも重いものが[[解離性同一性障害]]である。
DSMと並ぶ国際的診断基準、[[世界保健機関]] (WHO) のICD-10において、解離性障害に該当するものは解離性(転換性)障害であるが、名称にも現れているように、その範囲は異なる。

== 概要 ==
「[[解離 (心理学)|解離]]」には誰にでもある正常な範囲から、治療が必要な障害とみなされる段階までがある。
不幸に見舞われた人が目眩を起こし気を失ったりするが<ref>[[#ジェフリー・スミス2005|ジェフリー・スミス2005]] p.310</ref>これは正常な範囲での「解離」である。
更に大きな精神的苦痛で、かつ子供のように心の耐性が低いとき、限界を超える苦痛や感情を体外離脱体験とか記憶喪失という形で切り離し、自分の心を守ろうとするが、それも人間の防衛本能であり日常的ではないが障害ではない。

障害となるのは次ぎのような段階である。
状況が慢性的であるが故にその状態が恒常化し、子供の内か、思春期か、あるいは成人してから、何かのきっかけでバーストしてコントロール(自己統制権)を失い、別の形の苦痛を生じたり、社会生活上の支障まできたす。これが'''解離性障害'''である。
[[解離性同一性障害]](以下DIDと略)はその中でもっとも重いものであり、切り離した自分の感情や記憶が裏で成長し、あたかもそれ自身がひとつの人格のようになって、一時的、あるいは長期間にわたって表に現れる状態である。

== 解離の要因 ==
生理学的障害ではなく心因性の障害である。
心因性の障害の因果関係は外科や内科のように明確に解明されている訳ではなく、時代により人によって見解は統一されていない。
治療の方向性はある程度は見えてきてはいるものの最終的には試行錯誤である<ref group="注" name="t001" />。
むしろ多因性と考え、あるいは一人一人違う<ref>[[#岡野憲一郎2009|岡野憲一郎2009]] pp.250-252</ref>と考えた方が実情に即しており、以下もあくまで一般的な理解のまとめに留まる。

=== ストレス要因 ===
解離性障害を発症する人のほとんどが幼児期から児童期に強い精神的[[ストレス (生体) |ストレス]]を受けているとされる。
そのストレス要因として一般にいわれるのは、(1)学校や兄弟間の[[いじめ]]など、(2)親などが精神的に子供を支配していて自由な自己表現が出来ないなどの人間関係のストレス、(3)[[ネグレクト]]、(4)家族や周囲からの[[心理的虐待|情緒的]]、[[身体的虐待]]、[[児童性的虐待|性的虐待]]、(5)殺傷事件や交通事故などを間近に見たショックや家族の死などである<ref group="注" name="t002" />。
その比率については、北米を始め、日本でも関心が[[解離性同一性障害]]に集中しているため、解離性障害全体は情報が少なく、日本で知られるものは以下の2つの報告だけである。

* 柴山雅俊、 2007年の報告<ref group="注" name="t003" />:<br/>調査人数42人。両親の不仲60%、性的外傷30%、近親姦9%、両親からの虐待30%、学校でのいじめ60%、交通事故20%。
* 白川美也子、2009年の報告<ref group="注" name="t004" />:
** 解離性障害全体では調査人数105人。身体的虐待57%、心理的虐待83%、ネグレクト49%、家庭内性的虐待31%、家庭外性的虐待43%、DV目撃64%
** 内解離性同一性障害、調査人数 23人。身体的虐待61%、心理的虐待74%、ネグレクト43%、家庭内性的虐待22%、家庭外性的虐待30%、DV目撃65%。
** DDNOS、調査人数 13名。身体的虐待54%、心理的虐待100%、ネグレクト46%、家庭内性的虐待54%、家庭外性的虐待38%、DV目撃77%。
** その他、調査人数69人。身体的虐待57%、心理的虐待83%、ネグレクト51%、家庭内性的虐待30%、家庭外性的虐待48%、DV目撃61%

解離性同一性障害と解離性障害の原因を比較できるものは[http://www.ncnp.go.jp/hospital/index.html 国立精神・神経センター病院]からの白川美也子の2009年報告だけであるが、それを見るかぎり両者の間に有意差はない<ref group="注" name="t005" />。
なお解離性同一性障害を対象とした集計報告は多数あり、解離性同一性障害の[[解離性同一性障害#付論2・統計報告の日米比較|付論2・統計報告の日米比較]]を参照されたい。

=== 愛着 (attachment) との関係 ===
幼児期の生育環境を[[愛着理論|愛着関係]] (attachment) と解離性障害の関係も指摘されている。

* 1986年にメイン (Main,M.) とソロモン (Solomon,J.) が、Dタイプ(無秩序・無方向型)を新たに発見した。それまでアタッチメントタイプには、Aタイプ(回避群)、Bタイプ(安定群)、Cタイプ(抵抗群)の3タイプがあるとされていたが、Dタイプはそれらとは異なる葛藤をはらむ行動パターンで、矛盾した意図と環境に対する指向性の欠如、そして、突然トランス状態に入るか、あるいは茫然とした表情で身動きしなくなる瞬間を時々挟むのが特徴である。虐待をうけた乳幼児(よちよち歩きまで )の80%までがこの愛着行動を示すという<ref>[[#パトナム1997|パトナム1997]] p.243</ref>。

* 1990年にはメイン (Main, M.) らはDタイプは養育者の生活史における未解決の外傷や喪失と関連があることを示し、更に外傷を負った親の養育態度に関係するのではないかとした<ref>[[#細澤仁2008|細澤仁2008]] pp.36-39 </ref>。

* 1991年にはバラック (Barach,P.M.M.) が愛着関係(attachment)と解離性同一性障害との関係を示唆する<ref>野間俊一「解離研究の歴史」[[#こころのりんしょう2009|『こころのりんしょう』 2009]] p.282</ref><ref>Barach, PMM. (1991). MPD as an attachment disorder. Dissociation, 4 (3), pp.117-123.</ref>。

* リオッタ (Liotti.G.) は1992年にもバラック (Barach,P) の説を拡張してDタイプが解離性障害発症の容易性を大きくすると述べた<ref>[[#パトナム1997|パトナム1997]] p.243</ref>。

* 1996年にはメイン (Main, M.) らは「トランス様状態とおそらく解離していると考えられる行動が非統合型(Dタイプ )の子供の一部に見られる」と報告している<ref>[[#細澤仁2008|細澤仁2008]] pp.36-39 </ref><ref>Main, M. (1996). Overview of the field of attachment. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 64 (2), 237-243.</ref> 。パトナム (Putnam,F.W.) もこの1996年の論文に注目している<ref>[[#パトナム1997|パトナム1997]] pp.219-220 </ref>。

* 2003年にライオンズ-ルース (Lyons-Ruth.K.) は、明確な[[心的外傷]] (trauma) が無くとも、Dアタッチメント・タイプにあった子供は解離性障害になる可能性が高いとした<ref>野間俊一「解離研究の歴史」[[#こころのりんしょう2009|『こころのりんしょう』 2009]] p.282</ref><ref>
Karlen Lyons-Ruth. [http://www.pep-web.org/document.php?id=apa.051.0883a Dissociation and the Parent-Infant Dialogue: A Longitudinal Perspective from Attachment Research] . Journal of the American Psychoanalytic Association, (2003) 51:pp.883-911
</ref>。

* 2006年にリオッタ (Liotti.G.) は、このDタイプを示すような養育状況が、解離性障害への脆弱性を増大させるというモデルを提唱している<ref>白川美也子 「子供の虐待と解離」[[#こころのりんしょう2009|『こころのりんしょう』 2009]] p.302</ref><ref>Liotti G. [http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/17182493 A model of dissociation based on attachment theory and research.] J Trauma Dissociation. 2006;7(4):55-73. </ref>。そして解離性障害の精神療法は第一にこのアタッチメントに焦点をあてるべきであるとする。

愛着理論の立場では、統合された自己はその子が成長する過程で獲得されるものであり、その過程が養育状況により頓挫するのが解離、あるいは解離性障害の前提となる脆弱性であるという理解である。
リオッタ (Liotti.G.) は、深い悲しみをもつ解離性障害の患者に対して、治療者が共感的理解を提供することで、その治療関係の中で患者の愛着システムが活性化され、安定型(Bタイプ)の愛着を経験しはじめる。
また患者は、脱価値化や自他への攻撃ということの背景には他者によって理解されたい、苦しみを癒してほしいという動機が存在していることを理解するようになる。
それらによって患者は統合へ向かうとしている<ref>[[#細澤仁2008|細澤仁2008]] p.36-40</ref>。

== 分類と症状 ==

=== 離人症性障害/現実感喪失 ===
「離人感」等と称されるものは誰しも日常的に感じるもので、解りやすい例は「映画や小説などに集中している時、周囲の呼びかけが聞こえない」等であるが、レベルが深く、かつ慢性的であり、日常生活に支障をきたすような場合に「障害」とされる。
解離性障害とも密接な関係にあるが、他の疾患においても「離人感」があらわれる。従って、離人症性障害と認められる条件には他の別の精神疾患、例えば[[統合失調症]]、[[パニック障害]]、[[急性ストレス障害]]、[[心的外傷後ストレス障害]]、[[うつ病|大うつ病性障害]]ではない場合である<ref group="注" name="t007" />。
後述する[[#ホームズの「離隔」と「区画化」|ホームズ (Holmes, E.A.)ら]]は解離性障害を「離隔」と「区画化」の 2つに分けているが、そこでの「離隔」が、この離人症と現実感喪失である。
DSM-IV-TR での離人症性障害の定義を要約すると次のようになる。
* 自分の精神過程または身体から遊離して、あたかも自分が外部の傍観者であるかのように(例えば夢の中であるかのように)感じることが持続的または反復的である<ref group="注" name="t008" />。
* 離人体験の間も、現実検討能力は正常に保たれている。
* それにより本人が著しい苦痛を感じ、または社会的・職業的な領域で支障をきたしている。
* 薬物とか前述の精神疾患その他の生理学的作用によるものではない。

=== 解離性健忘/解離性とん走 ===
単なる「物忘れ」では説明できないほど、過去の一時期の記憶、或いは全ての生活史の記憶を失っている状態が主な症状である。DSM-IV-TR では解離性健忘 (300.12) と解離性とん走 (300.13) は分かれているが、[http://www.dsm5.org/ProposedRevision/Pages/proposedrevision.aspx?rid=55 2010年公表のDSM-5 の改訂案]ではまとめて解離性健忘になっている。
一般に解離性健忘は過去の一時期の記憶を失っていることが多いが、全生活史についての記憶を失うこともある。また全生活史についての記憶を失ったままいわいる「蒸発」してしまい、全く別の場所で全く別の人間として生活を始めているところを発見されることもある。これが解離性とん走(フーグ)である。その違いは発見された場所の違いである。
DSMでの定義では上記の他に以下の2つの条件がある。
* それにより本人が著しい苦痛を感じ、または社会的・職業的な領域で支障をきたしている。
* 薬物とか別の精神疾患、例えば[[心的外傷後ストレス障害]]や[[急性ストレス障害]]で、または[[解離性同一性障害]]または身体化障害ではなく、その他の生理学的作用によるものではない。
なお[[解離性同一性障害]]では、この解離性健忘が大きな条件になっている。解離性健忘が確認され、かつはっきりと他と区別される別人格も確認されれば[[解離性同一性障害]]となり、別人格が治療者の目にはっきりと確認出来なければ、特定不能の解離性障害かこの解離性健忘になる。

=== [[解離性同一性障害]] ===
明確に区別できる複数の人格が同一人に存在し、それらの複数の人格が交代で本人の行動を支配する。解離性健忘を擁している場合が多く、重症になると人格が変わる度に本人の重要な個人情報を日常的に想起することができず、他人格の記憶を想起出来ないがゆえに患者は苦しむ。あるいは他人格は存在するが、それぞれの人格でいる間の記憶の互換性には殆ど支障がなく、他人格同士の変換や並立・対立、内面から他人格の声が聞こえる、他人格の行動の傍観を自覚する等、それらのぶれや制御に悩まされている場合もある。

記憶については過去の重要な情報の一部が抜け落ちている者もいる。その情報とは、本人にとっては忘れたい程の辛い過去や、人格が解離するに至った要因がある時期の記憶であるケースが殆どである。臨床例では日常的に記憶喪失が顕著な重症者よりも、後者の同一性の混乱を自覚する中軽症者が数的には多くを占める。中軽症者は日常的な記憶には問題がない為、おかしいとは思いながらも長い間、それが疾患であると気づかなかったという者も少なくはない。他人格には本人の渇望する、自由奔放さや強さ、甘えられる存在を代理する者が主である事が特徴で、その為に幼児や異性の他人格等もよくみうけられる。

しかしDSM-IV-TRでは「重要な個人的情報の想起不能」が要件であるので、それを厳密に適用すれば、上記中軽症者の多くは「特定不能の解離性障害」に分類されることになるが 、その治療には差は無い。詳細は[[解離性同一性障害|「解離性同一性障害」]]を参照。

=== 特定不能の解離性障害 ===
解離性障害ではあるが、解離性健忘、解離性遁走、離人症性障害、解離性同一性障害などの基準を満たさない症例のための分類である。その中には解離性同一性障害とほとんど変わらないものも含まれる。

==== 1項.解離性同一性障害に類似するもの ====
解離性同一性障害に酷似しているがその診断基準の一部を満たさないものも特定不能の解離性障害となる。
治療は解離性同一性障害と同じであり、どこまでを特定不能の解離性障害とし、どこからを解離性同一性障害とみなすかは、実際には治療者により異なる。

解離性同一性障害には含めず特定不能の解離性障害とする例として上げられているのは、a) 2つ又はそれ以上の、はっきりと他と区別される人格状態が存在していない。または b) 重要な個人的情報に関する健忘が生じていない。の2点である。
b)は、解離性同一性障害の定義の「C. 重要な個人的情報の想起が不能であり、普通の物忘れで説明できないほど強い」との部分を満たしていないというものである。
主人格と交代人格が記憶を共有している場合などは「重要な個人的情報の想起が不能」とはならず、よって解離性同一性障害ではないということになる。

==== 4項.解離性トランス障害 ====
特定の地域、または文化に固有のもので、同一性(人格)の感覚が消失する、身辺状況の認識の狭小化するなど、[[意識]]状態が一過性に変化する。離人症状で苦痛があり、社会機能に障害を起こす。[[イタコ]]なども解離性トランスの一種とはみなせるが、その国・社会の文化に組み込まれているのなら治療の対象、つまり障害とはならない。

==== 6項.ガンザー症候群 ====
曖昧な受け答えや前後の文脈と関係のない的外れな話をしたりする。留置所・刑務所のような閉鎖的環境の中で発症することが多く、「[[拘禁反応]]」の一種とみなされている。

==== その他の項 ====
上記の他、特定不能の解離性障害には現在次ぎのものも含まれているが2項は既に見たようにDSM-5 では離人症性障害に含まれる可能性が強い。
* 2項.離人症を伴わない現実感喪失
* 3項.洗脳を受けた者に起こる解離性障害
* 5項.身体疾患によらない意識の消失、混迷、昏睡など
 

=== 解離性障害内下位障害の比率 ===
特定不能の解離性障害とは、解離性障害下位分類の「その他」に相当するが、その「その他」が全体の半分以上を占めてしまい、かつその多くを解離性同一性障害に似ていながら基準を満たせないものがその中のかなりを占めている。
柴山は解離性障害のうち、解離性同一性障害は約20%、離人症性障害が約10%、解離性健忘が5%、解離性遁走は1%、残りの約60%が特定不能の解離性障害に分類されるとする<ref>[[#柴山雅俊2007|柴山雅俊2007]] p.34</ref>が集計範囲によってかなり変動する。北米での関心が解離性同一性障害に集中しているため、解離性障害内の各下位障害の比率に関するまとまった統計はなかなか見あたらないが以下の報告がある。なお、解離性同一性障害を「DID」、特定不能の解離性障害を「特定不能」、解離性健忘 「健忘」、離人症性障害は「離人」と記す。
# アメリカ1993年Saxeらの報告<ref>岡村毅、杉下和行、柴山雅俊「解離性障害の疫学と虐待の記憶」[[#こころのりんしょう2009|『こころのりんしょう』 2009]] p.342 表1</ref><br />15例の内、DID 27%(4例)、特定不能 60%(9例)、健忘 13%(2例)
# アメリカ2006年Footeらの報告<ref>岡村毅、杉下和行、柴山雅俊「解離性障害の疫学と虐待の記憶」[[#こころのりんしょう2009|『こころのりんしょう』 2009]] p.342 表1</ref><br />24例の内、DID 21%(5例)、特定不能 29%(7例)、健忘 33%(8例)、離人17%(4例)
# 日本では2006年柴山の報告<ref>岡村毅、杉下和行、柴山雅俊「解離性障害の疫学と虐待の記憶」[[#こころのりんしょう2009|『こころのりんしょう』 2009]] p.342</ref><br />53例の内、DID 17%(9例)、特定不能 68%(36例)、健忘 0%(0例)、離人11%(6例)
# ドイツからの2001年の報告<ref>Gast,Ursula et al [http://journals.lww.com/jonmd/Abstract/2001/04000/Prevalence_of_Dissociative_Disorders_among.7.aspx Prevalence of Dissociative Disorders among Psychiatric Inpatients in a German University Clinic] Journal of Nervous & Mental Disease:April 2001 - Volume 189 - Issue 4 - pp 249-257</ref><br />8例の内、DID 13%(1例)、特定不能 38%(3例)、健忘 38%(3例)、離人13%(1例)
# 2003年のトルコからの報告<ref>Ertan Tezcan. [http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0010440X03000877 Dissociative disorders in turkish inpatients with conversion disorder] Comprehensive Psychiatry Volume 44, Issue 4, July–August 2003, Pages 324–330</ref><br />18例の内、DID 50%(9例)、特定不能 44%(8例)、健忘 6%(1例)
# トルコからの2007年の報告<ref>Vedat Sar, M.D [http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0163834306002118 Dissociative disorders in the psychiatric emergency ward] General Hospital Psychiatry Volume 29, Issue 1, January–February 2007, Pages 45–50</ref><br />15例の内、DID 40%(6例)、特定不能 40%(6例)、健忘 20%(3例)
---------------
* 以上133例合計、DID 26%(34例)、特定不能 52%(69例)、健忘 13%(17例)、離人12%(16例)

サンプル数が少ないため、比率のばらつきは大きいが、これらと[[#解離を生むストレス要因|前述]]の白川美也子の報告、[[#各検出方法の信頼性とツール間の一致率|後述]]するロス(Ross,C.A.) らの論文を見ても、解離性障害のうち、解離性同一性障害と特定不能の解離性障害が大半を占めていることが見て取れる。なお白川美也子の報告では「その他解離性障害」にPTSDの中で解離障害症状を持つ患者も含めている。

== ICD10の解離性(転換性)障害 ==

{{Infobox Disease
{{Infobox Disease
| Name = {{PAGENAME}}
| Name = {{PAGENAME}}
14行目: 140行目:
| MeshID = D004213
| MeshID = D004213
}}
}}
'''解離性障害'''(かいりせいしょうがい, {{lang-en-short|Dissociative disorder}})とは、[[心的外傷]]への自己防衛として、自己同一性を失う[[神経症]]の一種。自分が誰か理解不能であったり、複数の自己を持ったりする。


ICD10での解離性(転換性)障害の定義、あるいは主題は「過去の記憶、同一性と直接的感覚、および身体運動のコントロールの間の正常な統合が部分的、あるいは完全に失われていること」としている<ref>[[#ICD-10新訂版2005|ICD-10新訂版2005]] p.162</ref>。
症状の発生と、[[ストレッサー]]の間に時期的関連があることが診断の必要条件である。


ICD10では「ヒステリー」という用語を使用していない。しかしかつてヒステリーと呼ばれた障害は解離性のタイプも転換性のタイプも「解離 (Dissociative) 」という概念でまとめている。DSM-IV-TR ではそれらは身体表現性障害に含め、ICD10にも身体表現性障害 (F45) という区分はある。しかしそちらに含めず「解離」に含めた理由として、ICD10では、解離性のタイプも転換性のタイプの患者も多くの特徴を共有していること、一人の患者がしばしば、同時に、あるいは別の時期にもう一方の症状もあらわすことがあるからとしている<ref>[[#ICD-10新訂版2005|ICD-10新訂版2005]] p.14</ref>。
==分類と症状==
なお、転換性のタイプで、DSM-IV-TR なら身体表現性障害の中の転換性障害に含まれるものは、解離性運動障害 (F44.4)、解離性けいれん (F44.5)、解離性知覚麻痺および感覚脱失 (F44.4) である。


その一方で離人症状と現実感喪失はICD10では含まれない。その理由としては、人格的同一性の限られた側面しか通常は障害されず、感覚、記憶、運動の遂行に関する損失はないからとする<ref>[[#ICD-10新訂版2005|ICD-10新訂版2005]] p.163</ref><ref group="注" name="t007" />。
===解離性[[健忘]]===
単なる「物忘れ」では説明できないほど、ストレスの強い自らの個人情報を広い範囲にわたって[[想起]]できない状態。本人にとっては、この状態が苦痛で、社会的機能に障害を起こしている。空間移動しているような気分になる。


解離性同一性障害は多重人格障害との名称で「F448 その他の解離性(転換性)障害」の下に位置づけられ、多少懐疑的なコメントが付されている<ref>[[解離性同一性障害#ICD-10での定義|解離性同一性障害/ICD-10での定義]]参照</ref>。以下にICD10の解離性(転換性)障害の範囲を記す。
===解離性遁走===
突然放浪し、過去の出来事に関する[[想起]]は不能になる。自分が自分であることに混乱する(自己同一性の混乱)、または新たな自己同一性を装う。本人にとってはこの状態が苦痛で、社会的機能に障害がある。


* F44.0 解離性健忘
本人は、遁走期間中の記憶が無いが、遁走期間中は、日頃、本人がするとは思えないような行動であろうとも、周囲からすれば、受け答えも正常な故、周囲が気付く事はほとんどない。
* F44.1 解離性遁走[フーグ]
稀に、数年単位での遁走をする場合がある。が、同じく記憶は無く、その人格として、生活をするケースもある。(遁走期間中は、その前の記憶が無い事もしばしば見受けられる。)
* F44.2 解離性昏迷
* F44.3 トランスおよび憑依障害
* F44.4 解離性運動障害
* F44.5 解離性けいれん
* F44.6 解離性知覚麻痺および感覚脱失
* F44.7 混合性解離性(転換性)障害
* F44.8 他の解離性(転換性)障害
** F44.80 ガンザー症候群
** F44.81 [[多重人格障害]]
** F44.82 小児期あるいは青年期にみられる一過性解離性(転換性)障害
** F44.83 他の特定の解離性(転換性)障害
* F44.9 解離性(転換性)障害、特定不能のもの
  


== 解離の様々な切り口 ==
遁走時の記憶が、場合によっては、思い出されることもあるが、それも稀なケースであり、
=== スタインバーグの 5つの中核症状 ===
たいていの場合は、「事実」としての記憶であり、感覚、実感は無く、それが苦痛になり、社会的機能に障害をきたす場合もある。
スタインバーグ (Steinberg.M ) は、解離性障害の診断と評価には、「'''健忘'''」、「'''離人''' (depersonalization)」、「'''疎隔'''(現実感喪失 derealization )」、「'''同一性混乱'''」、「'''同一性変容'''」の 5つの中核症状が重要であるとし、特に健忘を解離性障害の基本として重視している。
離人とは自己からの離隔の感覚である。
一方「疎隔」とは対象・世界に対する現実感が無くなり、曇ったガラスを通して見ているような感覚である<ref>柴山雅俊 「離人症」 [[#岡野憲一郎編2009|『精神科臨床リュミエール』 2009]] p.106</ref>。


「健忘」、「離人」、「疎隔(現実感喪失)」は、自分の記憶が一貫せず、自分の体が自分のものだと感じられなくて、自分が自分であるという感覚、つまり自己同一性が不確実になる。
===[[解離性同一性障害]]===
「同一性混乱」は「自我同一性や自己意識に関する不確実、困惑、葛藤などの感覚」。
明確に区別できる複数の人格が同一人に存在し、それらの複数の人格が本人の行動を支配する。解離性健忘を擁している場合が多く、重症になると人格が変わる度に本人の重要な個人情報を日常的に想起することができず、他人格の記憶を想起出来ないがゆえに患者は苦しむ。あるいは他人格は存在するが、それぞれの人格でいる間の記憶の互換性には殆ど支障がなく、他人格同士の変換や並立・対立、内面から他人格の声が聞こえる、他人格の行動の傍観を自覚する等、それらのぶれや制御に悩まされている場合もある。記憶については過去の重要な情報の一部が抜け落ちている者もいる。その情報とは、本人にとっては忘れたい程の辛い過去や、人格が解離するに至った要因がある時期の記憶であるケースが殆どである。臨床例では日常的に記憶喪失が顕著な重症者よりも、後者の同一性の混乱を自覚する中軽症者が数的には多くを占める。中軽症者は日常的な記憶には問題がない為、おかしいとは思いながらも長い間、それが疾患であると気づかなかったという者も少なくはない。他人格には本人の渇望する、自由奔放さや強さ、甘えられる存在を代理する者が主である事が特徴で、その為に幼児や異性の他人格等もよくみうけられる。詳細は該当項目を参照。
「同一性変容」を「他人から、行動パターンの変化によって気づかれるような患者の社会的役割の変化」としている。具体的には別の名前を名乗ったり、出来なかったはずの楽器を演奏したり、買った覚えの無いものを自分の部屋で見つけるなどである
<ref>大矢大 「解離性健忘と解離性遁走」 [[#岡野憲一郎編2009|『精神科臨床リュミエール』 2009]] pp.94-95</ref>。これは解離性同一性障害を疑う一番大きなエピソードである。


スタインバーグ (Steinberg.M ) はこの5軸から後述する構造化面接 SCID-D を作成してた<ref>[[#Steinberg1995|Steinberg1995]]</ref>。
===離人症性障害===
この評価を各解離性障害に当てはめると、解離性健忘障害は「健忘」が重傷で他は軽傷、「同一性混乱」はほとんど無し。 解離性遁走障害は「健忘」が重傷、「離人症」「現実感喪失」は軽傷で「同一性変容」「同一性混乱」は重傷より若干下がる程度。 解離性同一性障害は全体に重傷だが「健忘」「離人症」「現実感喪失」が若干低め。 特定不能の解離性障害は解離性同一性障害よりも若干下がるが中等症よりは上というようなプロフィールになる<ref>Steinberg.M [http://www.strangerinthemirror.com/articles/Steinberg-advances-in-dissoc.pdf Advances in the clinical assessment of dissociation: The SCID-DR] p.158</ref>。
自分の精神過程または身体から遊離して、あたかも自分が外部の傍観者であるかのように感じる持続的または反復的な体験をする。
離人体験の間も、[[現実検討能力]]は正常に保たれている。離人症状で苦痛があり、社会機能に障害がある。


=== ホームズの「離隔」と「区画化」 ===
「離人感」等と称されるものは、元来、人間が持っているものであり、その顕著な例は
ホームズ (Holmes, E.A.)らは、2005年に<ref>Holmes, E. A., Brown, R. J., Mansell, W., Fearon, R. P., Hunter, E. C. M., Frasquilho, F., et al. (2005). [http://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0272735804001199 Are there two qualitatively distinct forms of dissociation? A review and some clinical implications] Clinical Psychology Review, 25(1), 1-23.</ref>、解離の症候を大きく「離隔 (detachment)」と「区画化 (compartmentalization)」に整理し、「離隔」は意識変容であるとした<ref>岩井圭吾 「解離性障害の範囲と分類」 [[#岡野憲一郎編2009|『精神科臨床リュミエール』 2009]] pp.88-89</ref><ref>柴山雅俊 「離人症」 [[#岡野憲一郎編2009|『精神科臨床リュミエール』 2009]] p.105</ref>。
「映画など、集中してみている時、周囲の呼びかけが聞こえない」等、日常に付随した事であるが、
それが、慢性化し、日常生活に支障をきたすような場合、「障害」とされる節がある。
解離性障害とは、密接な関係である反面、他の人格障害などの一例として、「離人感」があることも報告されている。


'''離隔''' (detachment) は、感覚の麻痺、疎隔症状(現実感喪失)、離人症状、体外離脱体験、自己像視などを含む。
===解離性昏迷===
* 分離されるものが体である場合は「自分の体が自分のものではないような」という感じであり、もっとも顕著なのは体外離脱体験である。
随意運動、発語、光・音・接触への正常反応は、減弱または消失する。
* 分離されるものが自分である場合には「自分がしていることに、自分がしているという感じがしない」「自分を他人のように観察している」という離人症。
筋緊張は正常で、静止姿勢・呼吸機能は保持されている。
* 分離されるものが外界である場合は「ものを見ていてもそれがそこにあるという感じがしない」「周りが見えない膜で隔てられているようだ」という疎隔(現実感喪失)が生じる。
'''区画化''' (compartmentalization) は転換症状、睡眠現象、トランス状態、健忘、交代人格、偽幻覚である。
* 定義は、通常ならば参照可能な情報を意識の上らせることが出来なくなり、そのために随意的な行動を制御できなくなることとされる。


ホームズ (Holmes, E.A.) らは「離隔」と「区画化」に分類される症状が一人の患者に表れることは、[[急性ストレス障害|ASD]] 、[[PTSD]] の場合を除いてそれほど多くはなく、相互に関係は認められるものの独立した病態であるとするが、これには異論も出ている<ref>岩井圭吾 「解離性障害の範囲と分類」 [[#岡野憲一郎編2009|『精神科臨床リュミエール』 2009]] pp.88-90</ref>。
===トランス===
[[人格]]同一性の感覚が消失する、身辺状況の認識・関心が狭小化するなど、[[意識]]状態が一過性に変化する。離人症状で苦痛があり、社会機能に障害を起こす。


=== 柴山雅俊の空間的変容と時間的変容 ===
===憑依(ひょうい)障害===
柴山雅俊は2007年の著書<ref>[[#柴山雅俊2007|柴山雅俊2007]]</ref>および2010年の著書<ref>[[#柴山雅俊2010|柴山雅俊2010]]</ref>において、「空間的変容」と「時間的変容」という概念から解離を捉えようとしている。
[[霊]]・[[神]]などの他者に取りつかれていると確信する。ただしこれは[[宗教]]的な意味合いを持つこともあるため、一概に「障害」と言えるものであるのかという考えもある。
* '''空間的変容'''とは対象関係の変容であり「離人・疎隔」「気配過敏症状」「対人過敏症状」「体外過敏症状」「自己像視化」「転換症状」などであり、それを自と自、自と他といった空間的関係の変容である。ある面では「離隔」ともいえるが、一般的な「離隔」の概念からはみ出しているため、柴山はそれを空間的変容と呼んでいる。「気配過敏症状」「対人過敏症状」などはホームズ (Holmes, E.A.) らの「離隔」と「区画化」の 2分類では取り上げられていないが、柴山は解離の構造の近縁の症状として重視している。
* '''時間的変容'''とは「健忘」「遁走」「交代人格」「転換症状」など、主に意識状態を構成している記憶や同一性の変容であるとする。つまり、時間的流れにおける意識状態の突然の断絶や交代をさす。ただしホームズ (Holmes, E.A.) らとは異なり、この2つは多くの症例で複合的に現れるとしている。両者に共通するものとして「もうろう状態」をあげる<ref>[[#柴山雅俊2007|柴山雅俊2007]] pp.89-90</ref>。


柴山のもう一対のキーワードは「存在者としての私」と「眼差しとしての私(眼差す私)」である。乱暴に言えば、外からは解らない解離の始まりと考えると全体の関係が解りやすくなる。意識が「眼差しとしての私」にあるときは「離隔」ともいえるが、意識が「存在者としての私」にあるとき、「眼差しとしての私」を感じて「気配過敏症状」となる。先の「空間的変容」において、一般的な「離隔」の概念からはみ出しているというのはこの部分である。
===解離性運動障害===
* 「'''眼差しとしての私'''」にとっては現実は他人事、逃避、弛緩、空虚な感じを持つ。
通常は随意的統制下にある運動能力が失われる、または、[[運動失調]]を示し[[協調運動]]が障害されたり、介助なしで起立したりできない。
* 「'''存在者としての私'''」は当事者性、逃避不能、緊張、充満を特徴とする。
空間的変容とはこの2つの分離と交代の構造であるとする<ref>[[#柴山雅俊2007|柴山雅俊2007]] pp.91-92</ref>。
そして柴山は、正常な解離から解離性健忘、解離性遁走、特定不能の解離性障害、解離性同一性障害という連続体、スペクトラムとしてとらえるのではなしに、中核に特定不能の解離性障害をおき、解離性健忘、遁走、交代人格といったものはむしろ特殊な例としてその周辺にあらわれるととらえている<ref>[[#岡野憲一郎2007|岡野憲一郎2007]] 付章・鼎談「日本での解離の臨床について語り合う」 pp.195-196</ref>。


===解離性けいれん===
=== 構造的解離理論 ===
診断基準に含まれない解離理論としてバン・デア・ハート (Hart,V.D.) らの構造的解離理論<ref>Haunted Self: Structural Dissociation And the Treatment of Chronic Traumatization (Norton Series on Interpersonal Neurobiology) Onno Van Der Hart、Ellert R. S. Nijenhuis、 Kathy Steele (2006/11/10)</ref>があり、日本では2009年頃から専門誌や学会などで紹介されており<ref>奥田ちえ「構造的解離理論の基本概念と治療アプローチ」[[#こころのりんしょう2009|『こころのりんしょう』 2009]] pp.333-340</ref><ref>野間俊一 「構造的解離理論」 [[#岡野憲一郎編2009|『精神科臨床リュミエール』 2009]] pp.71-81</ref><ref>[[#柴山雅俊2010|柴山雅俊2010]] pp.137-138</ref>、2011年11月にその上巻が国内でも翻訳出版<ref>[[#ヴァンデアハート2006|ヴァンデアハート2006]]</ref>された。
てんかん発作に似る[[痙攣]]であるが、意識消失は見られない。咬舌・転倒による打撲・尿失禁もない。
==== 人格部分としてのANPとEP ====
構造的解離理論は、DSM-IV-TR のいう解離性障害より広い範囲、外傷性精神障害全体を解離を軸に捉えなおそうというものであり、[[心的外傷後ストレス障害|単純型PTSD]]や[[境界性パーソナリティ障害]]までも範囲に含めている。
構造的解離理論では「人格」「交代人格」を「ANP」と「EP」に分けている<ref>[[#ヴァンデアハート2006|ヴァンデアハート2006]] pp.3-8</ref>。
* '''ANP''' (あたかも正常に見える人格部分: apparently normal parts of personality) は日常生活をこなそうとする人格部分 (personality parts) である。
* '''EP''' (情動的人格部分: emotional parts of personality) は心的外傷を受けたときの過覚醒、逃避、闘争などに関わっている。


===解離性知覚麻痺・知覚脱失===
==== 構造的解離 ====
構造的解離 (structural dissociation) は ANP と EP の組み合わせにより3つに分類される<ref>[[#ヴァンデアハート2006|ヴァンデアハート2006]] pp.7-12</ref>。
ある皮膚感覚が部分的に麻痺したり完全脱失する。皮膚感覚ではなく、[[視覚]]・[[聴覚]]・[[嗅覚]]が障害されることもある。
そこでは解離の概念を外傷性精神障害全般に拡げてられている。
* 第1次構造的解離 (primary structural dissociation)<br />:[[心的外傷後ストレス障害|単純型PTSD]]や解離性障害の単純型(離人症性障害、解離性健忘/解離性とん走)。
* 第2次構造的解離(secondary structural dissociation)<br />:複雑型PTSD、特定不能の解離性障害、[[境界性パーソナリティ障害]]。
* 第3次構造的解離 (tertiary structural dissociation) <br />:[[解離性同一性障害]]


通常、人間は「今私が此処にいる」「私が感じる」「私の体験」という風に、「今」「私」という軸を持っている。しかし慢性的な外傷体験などによって心的エネルギー (mental energy) が損なわれると「今」「私」という軸が希薄になり、「誰の体験」「今がいつか」という「個人化 (personification)」と「現在化 (presentification)」が十分になされず、逆に「私」がそれぞれの「体験」に分割されたしまう。
===解離性転換性障害===
そして衝動性が増す。同時に条件づけられた恐怖症 (phobia) を持つ。
転換症状を示す解離性障害。
衝動性と恐怖症から不適応な代替行為・代償行動 (substitute action) を行い、これが情動の暴発やフラッシュバック、過食症や自傷行為などとなる。
突然昏睡状態に陥り、3~6時間ほど意識を失ってしまうことが多い。
身体症状としては、身体が思うように動かせなくなる、声が出なくなる、目が見えなくなるなど。
精神症状としては、体と心が分離したかのような状態になり、一定の時間の間に自分がとった言動に関する記憶が想起出来なくなる。これを解離反応と言う。


===ガンザー症候群===
==== 治療概念 ====
治療前のアセスメントは次の3段階からなる<ref>野間俊一 「構造的解離理論」 [[#岡野憲一郎編2009|『精神科臨床リュミエール』 2009]] pp.77-78</ref><ref>[[#ヴァンデアハート2006|ヴァンデアハート2006]] pp.24-26</ref>。<br />
曖昧な受け答えや前後の文脈と関係のない的外れな話をしたりする。留置所・刑務所のような閉鎖的環境の中で発症することが多く、「[[拘禁反応]]」の一種とみなされている。→[[ガンザー症候群]]
第1段階は標準的な臨床アセスメントで、一般的な精神医学的評価。
第2段階は心的外傷に関連した症状と障害のアセスメント。
第3段階は人格構造と人格機能、そして現病歴の系統的分析。


治療の3段階は次のように考える<ref>[[#ヴァンデアハート2006|ヴァンデアハート2006]] pp.26-29</ref>。
==関連項目==
* 第1期、「安定化とスキルの向上」<br />:日常生活において、より効率的に活動出来るようにするため、ANPと主なEPの心的エネルギーを高め、代替行為・代償行動を適応的な行動へと変え、薄まった現実化、自分自身の存在感を強めていくようにサポートする。
*[[神経症]]
* 第2期、「外傷記憶の治療」<br />:様々な人格部分に見られる外傷記憶に対する恐怖症の克服が中心で、それにより構造的解離を不必要にさせる。
*[[精神疾患]]
* 第3期、「人格の統合とリハビリテーション」<br />:通常生活に対する恐怖症の克服であり、最終的には親密さに対する恐怖症の克服が山場であり、患者の生活の質を高く保つために不可欠である。
*[[精神医学]]
*[[精神科医]]
*[[臨床心理士]]
*[[精神分析]]
*[[心理学]]
*[[ビリー・ミリガン]]
*[[ロバート・オクスナム]]
*[[北川和歌子]]


構造的解離理論はあくまで心的外傷を軸に組み立てられているが、心的外傷、あるいは心的内容そのものに対決するというより、心的エネルギー、つまり心の適応能力を高めてゆく、改善していくことの方を重視する<ref>野間俊一 「構造的解離理論」 [[#岡野憲一郎編2009|『精神科臨床リュミエール』 2009]] p.79</ref>。そしてこのアプローチは、外傷性精神障害に止まらず、不安定な家庭環境や、感覚過敏つまり外的刺激に対する脆弱性から慢性的に、かつ結果的に心的外傷と同じような傷を受けていると見られる一群に対しても有効性が期待されている<ref>野間俊一 「構造的解離理論」 [[#岡野憲一郎編2009|『精神科臨床リュミエール』 2009]] p.80</ref>。
==外部リンク==

* {{Mpedia|英語版記事名=Dissociative_Disorders|英語版タイトル=Dissociative Disorders}}
== スクリーニングテスト ==
臨床の現場で常時用いられている訳ではないが、解離には複数のスクリーニングテストがある。
DES-T、DDISやSCID-Dなどの構造化面接、診断面接の順に要する時間が長くなり信頼性も増す。なおここでスクリーニングするものは正常な範囲の解離ではなく、解離性障害のスクリーニングである。ただしスクリーニングテストで診断が行われる訳ではない。
診断はあくまで医師の診断であり、他の疾患に分類されることもある<ref>岡村毅、杉下和行、柴山雅俊「解離性障害の疫学と虐待の記憶」[[#こころのりんしょう2009|『こころのりんしょう』 2009]] p.341</ref>。
特にDDISやSCID-Dなどの構造化面接は、精神科入院患者、外来患者などへの解離性障害有症率調査で主に使用されるツールである<ref group="注" name="t009" />。

=== DES-Taxon (DES-T) ===
1996年にニルス・ウォーラー (Waller,N.G.) とDESの開発者パトナム (Putnam,F.W.) が前述の通りDESの28項目から、病的な解離性障害に関わる 3,5,7,8,12,13,22,27 の8項目に絞ったものである<ref>田辺肇 「病的解離性のDES-Taxon簡易判定法」[[#こころのりんしょう2009|『こころのりんしょう』 2009]] p.288</ref>。
その内容は岡野憲一郎の著書<ref>[[#岡野憲一郎2007|岡野憲一郎2007]] p.151</ref>、およびパトナム (Putnam,F.W.) の著書<ref>[[#パトナム1997|パトナム1997]] pp.82-85</ref>にある。
ウォーラーがTaxon(類型学的モデル )の方がよく当てはまると、[[解離 (心理学)#連続的か不連続か (DES) |連続体モデルのDES]]に疑念を表明したのは1995年であり、それがパトナム (Putnam,F.W.) の病理理解が発達論(離散的行動モデル )に傾いた契機となった。
「T」はTaxonの頭文字である。Taxonとは類計学的モデルのことでこれは単なるDESの簡易版ではない。
DESは正常範囲の解離現象から精神病的な解離現象まで連続しているという立場である<ref>[[解離 (心理学)|解離]]参照</ref>。
それに対しDES-Tは、正常な解離と病的解離は連続的ではなくその二つの類型が存在する、従って正常範囲の解離度と精神病的な解離度の平均をとってもあまり意味はないという立場である<ref>[[#細澤仁2008|細澤仁2008]] p.35</ref>。

初期のバージョンではDES同様に0%から100%までの11段階で答えてもらい平均を出すものだったが、ウォーラー (Waller,N.G.) とロス(Ross,C.A.)らの1997年の論文で発表された[http://www.isst-d.org/education/des-taxon-portal.htm バージョンアップ版]は、単純平均ではなく、ロス (Ross,C.A.) が集めたDESの得点パターンから、統計的にボトムアップして判定を求めるものである。
それぞれの項目に閾値を設定しておき、どの項目で閾値を超えたか、それは何項目か、などにより解離性障害の推定確率を統計ソフトのSASやExcelで計算する。
田辺肇「病的解離性のDES-Taxon簡易判定法」<ref>[[#こころのりんしょう2009|『こころのりんしょう』 2009]] p.285</ref>では、例えばDESの5番目の「買った覚えがない新しい持ち物がある」という質問の閾値60%を超える回答があって、他の項目では閾値を超えていなかったなら解離性障害の推定確率は約11%。
DESの5番目の他もう1項目で閾値を超えていれば推定確率85%以上。
どれであれ3項目以上で閾値を超えていれば推定確率99%以上というような求めかたをする。
従って初期のバージョンでの8項目単平均よりは統計的な信頼性は高い。

=== DDIS ===
'''DDIS([http://www.empty-memories.nl/dis_89/Ross_structuredinterview.pdf Dissociative Disorders Interview Schedule]:解離性障害インタビュースケジュール)'''

ロス(Ross,C.A.) が作成した132項目のインタビューフォームで、多くはDSM基準を言い換えた質問からなる。
頭痛などの身体的訴えの有無、薬物依存、精神科の治療歴、うつ症状、シュナイダーの1級症状、夢遊歩行やトランス体験、児童虐待体験、解離性同一性障害特有の症状、超自然体験等、解離性障害群、うつ病、身体化表現性障害、境界性パーソナリティ障害をカバーする。
これに「ある」「ない」「わからない」と答えてもらう綿密な構造化テストである。
一般に30分から45分ぐらい要する。

ロス(Ross,C.A.) が前述の1991年カナダでのテストの際、一般人1,055人のうち454人にこのインタビューフォームを用いると11%に解離性障害の疑いが見られたという。
1997年のロス(Ross,C.A.) のテストでは、一般人の中で何らかの解離性障害を有するものが12%。
解離性同一性障害は3%ということになってしまった。
精神科の患者ではないので比率として高すぎるが、しかしスクリーニングテストとしての信頼性は高い<ref>[[#和田秀樹1998|和田秀樹1998]] p.182</ref><ref>[[#パトナム1997|パトナム1997]] p.331</ref>。

=== SCID-D ===
SCID-D ([http://www.openisbn.com/isbn/1585623490/ Structured Clinical Intervier for DSM-IV Dissociative Disorders])

先に触れたスティンバーグ (Steinberg,M.) が1994年に発表した、DSM-IVの定義に基づく解離性障害のための構造化面接である。
解離性障害をひとつの連続体、スペクトラムと考え、解離現象を「健忘」「離人症」「現実感喪失」「同一性変容」「同一性混乱」という5つの中核的症状にわけて質問し評価する<ref>[[#西村良二2006|西村良二2006]] pp.36-37</ref>。
250以上の項目があり、2 - 3時間かかり、面接者にも正式な訓練が要求される<ref>[[#パトナム1997|パトナム1997]] pp.331-332</ref>。
北米での論文にはよく用いられる。
2000年のDSM-IV-TRに合わせて改訂したのが[http://www-bcf.usc.edu/~idjlaw/PDF/10-2/10-2%20Steinberg+Hall+Lareau+Cicchetti.pdf SCID-DR]である。

=== 各検出方法の信頼性とツール間の一致率 ===
ロス(Ross,C.A.) らの論文<ref>
[http://www.tandfonline.com/doi/abs/10.1300/J229v03n01_02 Colin A. Ross. Prevalence, Reliability and Validity of Dissociative Disorders in an Inpatient Setting.] Journal of Trauma & Dissociation. Volume 3, Issue 1, 2002</ref>
によれば、精神科病院の入院患者に対するDES-T、DDIS、SCID-D、精神科臨床医による診断の結果は以下のとおりである<!-- 訳が間違っていればご指摘ください。-->。
* 解離性障害の判定は、DDISで40.8%、SCID-Dで44.5%と、臨床医で28.0%。
* 解離性同一性障害の判定は、DDISで7.5%(DDの18%)、SCID-Dで9.1%(DDの16.6%)と、臨床医で10.0%(DDの35.7%)。

解離性障害のうち、解離性同一性障害と特定不能の解離性障害の判定法間の一致率(κ係数:kappa statistic )は次のとおりであり、完全には一致しないが十分に高い。
* DDIS/DES-T は 0.81。SCID-D/DES-T は 0.76。DDIS/SCID-D は 0.74。
* DES-T/臨床医は 0.74。DDIS/臨床医は 0.71。SCID-D/臨床医は 0.56。
解離性健忘および離人症性障害の判定には有効性を実証できなかった。なお精神科臨床医による診断数は他のテスト数より少ない。

== 注記 ==
<references group="注">

<ref group="注" name="t001">
パトナム (Putnam,F.W.) も「わずかなりともエキスパート性を持ち合わせるようになった人なら、自分がどれほどものを知らないかを痛いほど意識するものだ、・・・生の現実においては、単純主義的な治療モデルが大して役にたつことはない。
」と書いている([[#パトナム1997|パトナム1997]] p.340 )。
</ref>
<ref group="注" name="t002">
[[#こころのりんしょう2009|『こころのりんしょう』 2009]] Q&A集Q5 「解離性障害はどのような原因で起こると考えられていますか?」 (p.215) では(3)と(4)を合わせて虐待とまとめているが、ここでは説明の都合上2つを分ける。
</ref>
<ref group="注" name="t003">[[#柴山雅俊2007|柴山雅俊2007]] p.117。数字は何割との表記を%に改めた。
</ref>
<ref group="注" name="t004">白川報告(「子供の虐待と解離」[[#こころのりんしょう2009|『こころのりんしょう』 2009]] p.307 )はアリソン (Allison,R.B.) の定義に従い、7歳以前に重度のトラウマを受け、非常に多くの人格群が現れたケースをMPDとして分けているが、表には含まれていない。
それを含めると112人になるはずだが、表の編集ミスと思われる。
ここではデータのある105人で計算している。
「DDNOS」は特定不能な解離性障害。
「その他DD」とは「その他解離性障害」であるが、PTSDの中で解離障害症状を持つ患者も含めている。
白川の報告は本人の患者の2000年から2006年3月までの集計であり、警察や児童相談所、行政の困難例からのからの紹介が多く、白川自身がいうように他の報告者よりも、虐待症例の集まりやすい状況である。
</ref>
<ref group="注" name="t005">性的虐待は家庭内・家庭外とも、解離性障害全体の中で他よりも解離性同一性障害の方が少ないという結果になっているが、標本数の少なさから有意差は無いと見るべきである。
</ref>

<ref group="注" name="t007">
ICD-10では「他の神経症性障害」 (F48) の中に「離人・現実感喪失症候群」 (F48.1) として分類されているが、DSM-IV-TR での定義とはニュアンスが異なっており、DSM-IV-TR 解離性障害での離人症性障害には解離特有の離人症の構造がある(柴山雅俊 「離人症」 [[#岡野憲一郎編2009|『精神科臨床リュミエール』 2009]] p.104)。
</ref>

<ref group="注" name="t008">DSMの次期改訂案(DSM-5)ではA1 離人症と、A2 現実感喪失に分けている。A1 離人症は傍観者のように自分から切り離さ感じ、A2 現実感喪失は自分の回りが、夢のように、他人事のように感じ現実感が無くなる症状をさす。最終的にどう決着するのかは不明である。
</ref>
<ref group="注" name="t009">次期改訂版(DSM-5)では[[#Spiegel2011|これら]]の問題を[http://www.dsm5.org/ProposedRevision/Pages/proposedrevision.aspx?rid=57 ワーキンググループで検討中]ということだが、どう決着するのかは不明である。
</ref>
<ref group="注" name="t009">下記以外にも様々な解離性尺度があり、田辺 肇 (2007) 「解離性の尺度と質問紙による把握」[[#精神科治療学22-4|『精神科治療学』 22-4]] p.401 )に紹介されている。
</ref>




</references>

== 参考文献 ==
解離性障害の理解や治療方針は年代をおって更新されてゆくので、ここでは年代順(邦訳本は原書の)に並べる。

* {{Cite book|和書
|last = フランク・W・パトナム
|title = 解離―若年期における病理と治療
|origyear = 1897
|year = 2001
|publisher = みすず書房
|ref = パトナム1997
}}
* {{Cite book|和書
|last = 和田秀樹
|title = 多重人格
|year = 1998
|publisher = 講談社現代新書
|ref = 和田秀樹1998
}}
* {{Cite book
|last = Steinberg M
|year = 1995
|title = [http://books.google.co.jp/books?hl=ja&lr=&id=sqJfxOt11roC&oi=fnd&pg=PR9&dq=Steinberg.M+Handbook+for+the+Assessment+of+Dissociation+Washington+DC+:APA%3B1995&ots=N4rTcugKze&sig=86fTohj-GAVR6EKsTcZqjBMTxz4#v=onepage&q&f=false Handbook for the Assessment of Dissociation: A Clinical Guide.]
|publisher = American Psychiatric Press
|ref =Steinberg1995
}}
* {{Cite book|和書
|last = 高橋三郎・大野裕・染矢俊幸
|title = DSM-IV-TR精神疾患の分類と診断の手引・新訂版
|year = 2003
|publisher = 医学書院
|ref = DSM新訂版2003
}}
* {{Cite book|和書
|last = 監訳:融 道男・中根允文・小見山実・岡崎祐士・大久保善朗
|title = ICD-10 精神および行動の障害-臨床記述と診断ガイドライン (新訂版)
|year = 2005
|month =11
|publisher = 医学書院
|ref = ICD-10新訂版2005
}}
* {{Cite book|和書
|last = ジェフリー・スミス「DID(解離性同一性障害)治療の理解」
|title = 多重人格者の日記-克服の記録
|origyear = 2005
|year = 2006
|publisher = 青土社
|ref = ジェフリー・スミス2005
}}
* {{Cite book|和書
|last = 西村良二編・樋口輝彦監修
|title = 解離性障害
|year = 2006
|publisher = 新興医学出版社・新現代精神医学文庫
|ref = 西村良二2006
}}
* {{Cite book|和書
|last = オノ・ヴァンデアハート、エラート・R・S・ナイエンフュイス、キャシー・スティール
|title = 構造的解離-慢性外傷の理解と治療-上巻(基本概念編)
|origyear = 2006
|year = 2011
|publisher = 星和書店
|ref = ヴァンデアハート2006
}}
* {{Cite book|和書
|title = 精神科治療学-特集:いま「解離の臨床」を考える II
|volume = Vol.22 No.4
|year = 2007
|publisher = 星和書店
|ref = 精神科治療学22-4
}}
* {{Cite book|和書
|last = 柴山雅俊
|title = 解離性障害―「うしろに誰かいる」の精神病理
|year = 2007
|publisher = ちくま新書
|ref = 柴山雅俊2007
}}
* {{Cite book|和書
|last = 岡野憲一郎
|title = 解離性障害―多重人格の理解と治療
|year = 2007
|publisher = 岩崎学術出版社
|ref = 岡野憲一郎2007
}}
* {{Cite book|和書
|last = 細澤 仁
|title = 解離性障害の治療技法
|year = 2008
|publisher = みすず書房
|ref = 細澤仁2008
}}
* {{Cite book|和書
|last = 岡野憲一郎
|title = 新外傷性精神障害―トラウマ理論を越えて
|year = 2009
|publisher = 岩崎学術出版社
|ref = 岡野憲一郎2009
}}
* {{Cite book|和書
|last = 岡野憲一郎編
|title = 専門医のための精神科臨床リュミエール 20 解離性障害
|year = 2009
|publisher = 中山書房
|ref = 岡野憲一郎編2009
}}

* {{Cite book|和書
|title = 精神療法(特集:解離とその治療)
|volume = 第35巻 2号
|year = 2009
|publisher = 金剛出版
|ref = 精神療法35-2
}}
* {{Cite book|和書
|title = こころのりんしょう a・la・carte〈特集〉解離性障害
|volume = Vol.28 No.2
|year = 2009
|publisher = 星和書店
|ref = こころのりんしょう2009
}}

* {{Cite book|和書
|last = 岡野憲一郎編
|title = わかりやすい「解離性障害」入門
|year = 2010
|publisher = 星和書店
|ref = 岡野憲一郎編2010
}}
* {{Cite book|和書
|last = 柴山雅俊
|title = 解離の構造―私の変容と“むすび”の治療論
|year = 2010
|publisher = 岩崎学術出版社
|ref = 柴山雅俊2010
}}
* {{Cite book|和書
|last = 岡野憲一郎
|title = 続解離性障害―脳と身体から見たメカニズムと治療
|year = 2011
|publisher = 岩崎学術出版社
|ref = 岡野憲一郎2011
}}
* {{Cite book
|last = David Spiegel, M.D. et al
|year = 2011
|title = [http://www.dsm5.org/Documents/Anxiety,%20OC%20Spectrum,%20PTSD,%20and%20DD%20Group/PTSD%20and%20DD/Spiegel%20et%20al_Dissociative%20Disorders.pdf Research Article: Dissociative Disorders in DSM-5]
|series = Depression and Anxiet 28
|pages = 824–852
|publisher = Wiley-Liss, Inc
|ref =Spiegel2011
}}

== 出典 ==
{{Reflist|2}}

==関連項目==
* [[解離 (心理学)|解離]]
*[[解離性同一性障害]]


{{精神と行動の疾患}}
{{精神と行動の疾患}}

2012年3月31日 (土) 16:08時点における版

解離性障害(かいりせいしょうがい、英名はDissociative Disorde、略称はDD)とは、アメリカ精神医学会精神疾患の分類と診断の手引 (DSM-IV-TR)における精神疾患の分類のひとつである。 自分が自分であるという感覚が失われている状態、まるでカプセルの中にいるような感覚で現実感がなかったり、ある時期の記憶が全く無かったり、いつの間にか自分の知らない場所にいるなどが日常的に起こり、生活面での様々な支障をきたしている状態をさす。 その中でもっとも重いものが解離性同一性障害である。 DSMと並ぶ国際的診断基準、世界保健機関 (WHO) のICD-10において、解離性障害に該当するものは解離性(転換性)障害であるが、名称にも現れているように、その範囲は異なる。

概要

解離」には誰にでもある正常な範囲から、治療が必要な障害とみなされる段階までがある。 不幸に見舞われた人が目眩を起こし気を失ったりするが[1]これは正常な範囲での「解離」である。 更に大きな精神的苦痛で、かつ子供のように心の耐性が低いとき、限界を超える苦痛や感情を体外離脱体験とか記憶喪失という形で切り離し、自分の心を守ろうとするが、それも人間の防衛本能であり日常的ではないが障害ではない。

障害となるのは次ぎのような段階である。 状況が慢性的であるが故にその状態が恒常化し、子供の内か、思春期か、あるいは成人してから、何かのきっかけでバーストしてコントロール(自己統制権)を失い、別の形の苦痛を生じたり、社会生活上の支障まできたす。これが解離性障害である。 解離性同一性障害(以下DIDと略)はその中でもっとも重いものであり、切り離した自分の感情や記憶が裏で成長し、あたかもそれ自身がひとつの人格のようになって、一時的、あるいは長期間にわたって表に現れる状態である。

解離の要因

生理学的障害ではなく心因性の障害である。 心因性の障害の因果関係は外科や内科のように明確に解明されている訳ではなく、時代により人によって見解は統一されていない。 治療の方向性はある程度は見えてきてはいるものの最終的には試行錯誤である[注 1]。 むしろ多因性と考え、あるいは一人一人違う[2]と考えた方が実情に即しており、以下もあくまで一般的な理解のまとめに留まる。

ストレス要因

解離性障害を発症する人のほとんどが幼児期から児童期に強い精神的ストレスを受けているとされる。 そのストレス要因として一般にいわれるのは、(1)学校や兄弟間のいじめなど、(2)親などが精神的に子供を支配していて自由な自己表現が出来ないなどの人間関係のストレス、(3)ネグレクト、(4)家族や周囲からの情緒的身体的虐待性的虐待、(5)殺傷事件や交通事故などを間近に見たショックや家族の死などである[注 2]。 その比率については、北米を始め、日本でも関心が解離性同一性障害に集中しているため、解離性障害全体は情報が少なく、日本で知られるものは以下の2つの報告だけである。

  • 柴山雅俊、 2007年の報告[注 3]
    調査人数42人。両親の不仲60%、性的外傷30%、近親姦9%、両親からの虐待30%、学校でのいじめ60%、交通事故20%。
  • 白川美也子、2009年の報告[注 4]
    • 解離性障害全体では調査人数105人。身体的虐待57%、心理的虐待83%、ネグレクト49%、家庭内性的虐待31%、家庭外性的虐待43%、DV目撃64%
    • 内解離性同一性障害、調査人数 23人。身体的虐待61%、心理的虐待74%、ネグレクト43%、家庭内性的虐待22%、家庭外性的虐待30%、DV目撃65%。
    • DDNOS、調査人数 13名。身体的虐待54%、心理的虐待100%、ネグレクト46%、家庭内性的虐待54%、家庭外性的虐待38%、DV目撃77%。
    • その他、調査人数69人。身体的虐待57%、心理的虐待83%、ネグレクト51%、家庭内性的虐待30%、家庭外性的虐待48%、DV目撃61%

解離性同一性障害と解離性障害の原因を比較できるものは国立精神・神経センター病院からの白川美也子の2009年報告だけであるが、それを見るかぎり両者の間に有意差はない[注 5]。 なお解離性同一性障害を対象とした集計報告は多数あり、解離性同一性障害の付論2・統計報告の日米比較を参照されたい。

愛着 (attachment) との関係

幼児期の生育環境を愛着関係 (attachment) と解離性障害の関係も指摘されている。

  • 1986年にメイン (Main,M.) とソロモン (Solomon,J.) が、Dタイプ(無秩序・無方向型)を新たに発見した。それまでアタッチメントタイプには、Aタイプ(回避群)、Bタイプ(安定群)、Cタイプ(抵抗群)の3タイプがあるとされていたが、Dタイプはそれらとは異なる葛藤をはらむ行動パターンで、矛盾した意図と環境に対する指向性の欠如、そして、突然トランス状態に入るか、あるいは茫然とした表情で身動きしなくなる瞬間を時々挟むのが特徴である。虐待をうけた乳幼児(よちよち歩きまで )の80%までがこの愛着行動を示すという[3]
  • 1990年にはメイン (Main, M.) らはDタイプは養育者の生活史における未解決の外傷や喪失と関連があることを示し、更に外傷を負った親の養育態度に関係するのではないかとした[4]
  • 1991年にはバラック (Barach,P.M.M.) が愛着関係(attachment)と解離性同一性障害との関係を示唆する[5][6]
  • リオッタ (Liotti.G.) は1992年にもバラック (Barach,P) の説を拡張してDタイプが解離性障害発症の容易性を大きくすると述べた[7]
  • 1996年にはメイン (Main, M.) らは「トランス様状態とおそらく解離していると考えられる行動が非統合型(Dタイプ )の子供の一部に見られる」と報告している[8][9] 。パトナム (Putnam,F.W.) もこの1996年の論文に注目している[10]
  • 2003年にライオンズ-ルース (Lyons-Ruth.K.) は、明確な心的外傷 (trauma) が無くとも、Dアタッチメント・タイプにあった子供は解離性障害になる可能性が高いとした[11][12]
  • 2006年にリオッタ (Liotti.G.) は、このDタイプを示すような養育状況が、解離性障害への脆弱性を増大させるというモデルを提唱している[13][14]。そして解離性障害の精神療法は第一にこのアタッチメントに焦点をあてるべきであるとする。

愛着理論の立場では、統合された自己はその子が成長する過程で獲得されるものであり、その過程が養育状況により頓挫するのが解離、あるいは解離性障害の前提となる脆弱性であるという理解である。 リオッタ (Liotti.G.) は、深い悲しみをもつ解離性障害の患者に対して、治療者が共感的理解を提供することで、その治療関係の中で患者の愛着システムが活性化され、安定型(Bタイプ)の愛着を経験しはじめる。 また患者は、脱価値化や自他への攻撃ということの背景には他者によって理解されたい、苦しみを癒してほしいという動機が存在していることを理解するようになる。 それらによって患者は統合へ向かうとしている[15]

分類と症状

離人症性障害/現実感喪失

「離人感」等と称されるものは誰しも日常的に感じるもので、解りやすい例は「映画や小説などに集中している時、周囲の呼びかけが聞こえない」等であるが、レベルが深く、かつ慢性的であり、日常生活に支障をきたすような場合に「障害」とされる。 解離性障害とも密接な関係にあるが、他の疾患においても「離人感」があらわれる。従って、離人症性障害と認められる条件には他の別の精神疾患、例えば統合失調症パニック障害急性ストレス障害心的外傷後ストレス障害大うつ病性障害ではない場合である[注 6]。 後述するホームズ (Holmes, E.A.)らは解離性障害を「離隔」と「区画化」の 2つに分けているが、そこでの「離隔」が、この離人症と現実感喪失である。 DSM-IV-TR での離人症性障害の定義を要約すると次のようになる。

  • 自分の精神過程または身体から遊離して、あたかも自分が外部の傍観者であるかのように(例えば夢の中であるかのように)感じることが持続的または反復的である[注 7]
  • 離人体験の間も、現実検討能力は正常に保たれている。
  • それにより本人が著しい苦痛を感じ、または社会的・職業的な領域で支障をきたしている。
  • 薬物とか前述の精神疾患その他の生理学的作用によるものではない。

解離性健忘/解離性とん走

単なる「物忘れ」では説明できないほど、過去の一時期の記憶、或いは全ての生活史の記憶を失っている状態が主な症状である。DSM-IV-TR では解離性健忘 (300.12) と解離性とん走 (300.13) は分かれているが、2010年公表のDSM-5 の改訂案ではまとめて解離性健忘になっている。 一般に解離性健忘は過去の一時期の記憶を失っていることが多いが、全生活史についての記憶を失うこともある。また全生活史についての記憶を失ったままいわいる「蒸発」してしまい、全く別の場所で全く別の人間として生活を始めているところを発見されることもある。これが解離性とん走(フーグ)である。その違いは発見された場所の違いである。 DSMでの定義では上記の他に以下の2つの条件がある。

なお解離性同一性障害では、この解離性健忘が大きな条件になっている。解離性健忘が確認され、かつはっきりと他と区別される別人格も確認されれば解離性同一性障害となり、別人格が治療者の目にはっきりと確認出来なければ、特定不能の解離性障害かこの解離性健忘になる。

明確に区別できる複数の人格が同一人に存在し、それらの複数の人格が交代で本人の行動を支配する。解離性健忘を擁している場合が多く、重症になると人格が変わる度に本人の重要な個人情報を日常的に想起することができず、他人格の記憶を想起出来ないがゆえに患者は苦しむ。あるいは他人格は存在するが、それぞれの人格でいる間の記憶の互換性には殆ど支障がなく、他人格同士の変換や並立・対立、内面から他人格の声が聞こえる、他人格の行動の傍観を自覚する等、それらのぶれや制御に悩まされている場合もある。

記憶については過去の重要な情報の一部が抜け落ちている者もいる。その情報とは、本人にとっては忘れたい程の辛い過去や、人格が解離するに至った要因がある時期の記憶であるケースが殆どである。臨床例では日常的に記憶喪失が顕著な重症者よりも、後者の同一性の混乱を自覚する中軽症者が数的には多くを占める。中軽症者は日常的な記憶には問題がない為、おかしいとは思いながらも長い間、それが疾患であると気づかなかったという者も少なくはない。他人格には本人の渇望する、自由奔放さや強さ、甘えられる存在を代理する者が主である事が特徴で、その為に幼児や異性の他人格等もよくみうけられる。

しかしDSM-IV-TRでは「重要な個人的情報の想起不能」が要件であるので、それを厳密に適用すれば、上記中軽症者の多くは「特定不能の解離性障害」に分類されることになるが 、その治療には差は無い。詳細は「解離性同一性障害」を参照。

特定不能の解離性障害

解離性障害ではあるが、解離性健忘、解離性遁走、離人症性障害、解離性同一性障害などの基準を満たさない症例のための分類である。その中には解離性同一性障害とほとんど変わらないものも含まれる。

1項.解離性同一性障害に類似するもの

解離性同一性障害に酷似しているがその診断基準の一部を満たさないものも特定不能の解離性障害となる。 治療は解離性同一性障害と同じであり、どこまでを特定不能の解離性障害とし、どこからを解離性同一性障害とみなすかは、実際には治療者により異なる。

解離性同一性障害には含めず特定不能の解離性障害とする例として上げられているのは、a) 2つ又はそれ以上の、はっきりと他と区別される人格状態が存在していない。または b) 重要な個人的情報に関する健忘が生じていない。の2点である。 b)は、解離性同一性障害の定義の「C. 重要な個人的情報の想起が不能であり、普通の物忘れで説明できないほど強い」との部分を満たしていないというものである。 主人格と交代人格が記憶を共有している場合などは「重要な個人的情報の想起が不能」とはならず、よって解離性同一性障害ではないということになる。

4項.解離性トランス障害

特定の地域、または文化に固有のもので、同一性(人格)の感覚が消失する、身辺状況の認識の狭小化するなど、意識状態が一過性に変化する。離人症状で苦痛があり、社会機能に障害を起こす。イタコなども解離性トランスの一種とはみなせるが、その国・社会の文化に組み込まれているのなら治療の対象、つまり障害とはならない。

6項.ガンザー症候群

曖昧な受け答えや前後の文脈と関係のない的外れな話をしたりする。留置所・刑務所のような閉鎖的環境の中で発症することが多く、「拘禁反応」の一種とみなされている。

その他の項

上記の他、特定不能の解離性障害には現在次ぎのものも含まれているが2項は既に見たようにDSM-5 では離人症性障害に含まれる可能性が強い。

  • 2項.離人症を伴わない現実感喪失
  • 3項.洗脳を受けた者に起こる解離性障害
  • 5項.身体疾患によらない意識の消失、混迷、昏睡など

 

解離性障害内下位障害の比率

特定不能の解離性障害とは、解離性障害下位分類の「その他」に相当するが、その「その他」が全体の半分以上を占めてしまい、かつその多くを解離性同一性障害に似ていながら基準を満たせないものがその中のかなりを占めている。 柴山は解離性障害のうち、解離性同一性障害は約20%、離人症性障害が約10%、解離性健忘が5%、解離性遁走は1%、残りの約60%が特定不能の解離性障害に分類されるとする[16]が集計範囲によってかなり変動する。北米での関心が解離性同一性障害に集中しているため、解離性障害内の各下位障害の比率に関するまとまった統計はなかなか見あたらないが以下の報告がある。なお、解離性同一性障害を「DID」、特定不能の解離性障害を「特定不能」、解離性健忘 「健忘」、離人症性障害は「離人」と記す。

  1. アメリカ1993年Saxeらの報告[17]
    15例の内、DID 27%(4例)、特定不能 60%(9例)、健忘 13%(2例)
  2. アメリカ2006年Footeらの報告[18]
    24例の内、DID 21%(5例)、特定不能 29%(7例)、健忘 33%(8例)、離人17%(4例)
  3. 日本では2006年柴山の報告[19]
    53例の内、DID 17%(9例)、特定不能 68%(36例)、健忘 0%(0例)、離人11%(6例)
  4. ドイツからの2001年の報告[20]
    8例の内、DID 13%(1例)、特定不能 38%(3例)、健忘 38%(3例)、離人13%(1例)
  5. 2003年のトルコからの報告[21]
    18例の内、DID 50%(9例)、特定不能 44%(8例)、健忘 6%(1例)
  6. トルコからの2007年の報告[22]
    15例の内、DID 40%(6例)、特定不能 40%(6例)、健忘 20%(3例)

  • 以上133例合計、DID 26%(34例)、特定不能 52%(69例)、健忘 13%(17例)、離人12%(16例)

サンプル数が少ないため、比率のばらつきは大きいが、これらと前述の白川美也子の報告、後述するロス(Ross,C.A.) らの論文を見ても、解離性障害のうち、解離性同一性障害と特定不能の解離性障害が大半を占めていることが見て取れる。なお白川美也子の報告では「その他解離性障害」にPTSDの中で解離障害症状を持つ患者も含めている。

ICD10の解離性(転換性)障害

解離性障害
概要
診療科 精神医学, 臨床心理学
分類および外部参照情報
ICD-10 F44
ICD-9-CM 300.12-300.14
MeSH D004213

ICD10での解離性(転換性)障害の定義、あるいは主題は「過去の記憶、同一性と直接的感覚、および身体運動のコントロールの間の正常な統合が部分的、あるいは完全に失われていること」としている[23]

ICD10では「ヒステリー」という用語を使用していない。しかしかつてヒステリーと呼ばれた障害は解離性のタイプも転換性のタイプも「解離 (Dissociative) 」という概念でまとめている。DSM-IV-TR ではそれらは身体表現性障害に含め、ICD10にも身体表現性障害 (F45) という区分はある。しかしそちらに含めず「解離」に含めた理由として、ICD10では、解離性のタイプも転換性のタイプの患者も多くの特徴を共有していること、一人の患者がしばしば、同時に、あるいは別の時期にもう一方の症状もあらわすことがあるからとしている[24]。 なお、転換性のタイプで、DSM-IV-TR なら身体表現性障害の中の転換性障害に含まれるものは、解離性運動障害 (F44.4)、解離性けいれん (F44.5)、解離性知覚麻痺および感覚脱失 (F44.4) である。

その一方で離人症状と現実感喪失はICD10では含まれない。その理由としては、人格的同一性の限られた側面しか通常は障害されず、感覚、記憶、運動の遂行に関する損失はないからとする[25][注 6]

解離性同一性障害は多重人格障害との名称で「F448 その他の解離性(転換性)障害」の下に位置づけられ、多少懐疑的なコメントが付されている[26]。以下にICD10の解離性(転換性)障害の範囲を記す。

  • F44.0 解離性健忘
  • F44.1 解離性遁走[フーグ]
  • F44.2 解離性昏迷
  • F44.3 トランスおよび憑依障害
  • F44.4 解離性運動障害
  • F44.5 解離性けいれん
  • F44.6 解離性知覚麻痺および感覚脱失
  • F44.7 混合性解離性(転換性)障害
  • F44.8 他の解離性(転換性)障害
    • F44.80 ガンザー症候群
    • F44.81 多重人格障害
    • F44.82 小児期あるいは青年期にみられる一過性解離性(転換性)障害
    • F44.83 他の特定の解離性(転換性)障害
  • F44.9 解離性(転換性)障害、特定不能のもの

  

解離の様々な切り口

スタインバーグの 5つの中核症状

スタインバーグ (Steinberg.M ) は、解離性障害の診断と評価には、「健忘」、「離人 (depersonalization)」、「疎隔(現実感喪失 derealization )」、「同一性混乱」、「同一性変容」の 5つの中核症状が重要であるとし、特に健忘を解離性障害の基本として重視している。 離人とは自己からの離隔の感覚である。 一方「疎隔」とは対象・世界に対する現実感が無くなり、曇ったガラスを通して見ているような感覚である[27]

「健忘」、「離人」、「疎隔(現実感喪失)」は、自分の記憶が一貫せず、自分の体が自分のものだと感じられなくて、自分が自分であるという感覚、つまり自己同一性が不確実になる。 「同一性混乱」は「自我同一性や自己意識に関する不確実、困惑、葛藤などの感覚」。 「同一性変容」を「他人から、行動パターンの変化によって気づかれるような患者の社会的役割の変化」としている。具体的には別の名前を名乗ったり、出来なかったはずの楽器を演奏したり、買った覚えの無いものを自分の部屋で見つけるなどである [28]。これは解離性同一性障害を疑う一番大きなエピソードである。

スタインバーグ (Steinberg.M ) はこの5軸から後述する構造化面接 SCID-D を作成してた[29]。 この評価を各解離性障害に当てはめると、解離性健忘障害は「健忘」が重傷で他は軽傷、「同一性混乱」はほとんど無し。 解離性遁走障害は「健忘」が重傷、「離人症」「現実感喪失」は軽傷で「同一性変容」「同一性混乱」は重傷より若干下がる程度。 解離性同一性障害は全体に重傷だが「健忘」「離人症」「現実感喪失」が若干低め。 特定不能の解離性障害は解離性同一性障害よりも若干下がるが中等症よりは上というようなプロフィールになる[30]

ホームズの「離隔」と「区画化」

ホームズ (Holmes, E.A.)らは、2005年に[31]、解離の症候を大きく「離隔 (detachment)」と「区画化 (compartmentalization)」に整理し、「離隔」は意識変容であるとした[32][33]

離隔 (detachment) は、感覚の麻痺、疎隔症状(現実感喪失)、離人症状、体外離脱体験、自己像視などを含む。

  • 分離されるものが体である場合は「自分の体が自分のものではないような」という感じであり、もっとも顕著なのは体外離脱体験である。
  • 分離されるものが自分である場合には「自分がしていることに、自分がしているという感じがしない」「自分を他人のように観察している」という離人症。
  • 分離されるものが外界である場合は「ものを見ていてもそれがそこにあるという感じがしない」「周りが見えない膜で隔てられているようだ」という疎隔(現実感喪失)が生じる。

区画化 (compartmentalization) は転換症状、睡眠現象、トランス状態、健忘、交代人格、偽幻覚である。

  • 定義は、通常ならば参照可能な情報を意識の上らせることが出来なくなり、そのために随意的な行動を制御できなくなることとされる。

ホームズ (Holmes, E.A.) らは「離隔」と「区画化」に分類される症状が一人の患者に表れることは、ASDPTSD の場合を除いてそれほど多くはなく、相互に関係は認められるものの独立した病態であるとするが、これには異論も出ている[34]

柴山雅俊の空間的変容と時間的変容

柴山雅俊は2007年の著書[35]および2010年の著書[36]において、「空間的変容」と「時間的変容」という概念から解離を捉えようとしている。

  • 空間的変容とは対象関係の変容であり「離人・疎隔」「気配過敏症状」「対人過敏症状」「体外過敏症状」「自己像視化」「転換症状」などであり、それを自と自、自と他といった空間的関係の変容である。ある面では「離隔」ともいえるが、一般的な「離隔」の概念からはみ出しているため、柴山はそれを空間的変容と呼んでいる。「気配過敏症状」「対人過敏症状」などはホームズ (Holmes, E.A.) らの「離隔」と「区画化」の 2分類では取り上げられていないが、柴山は解離の構造の近縁の症状として重視している。
  • 時間的変容とは「健忘」「遁走」「交代人格」「転換症状」など、主に意識状態を構成している記憶や同一性の変容であるとする。つまり、時間的流れにおける意識状態の突然の断絶や交代をさす。ただしホームズ (Holmes, E.A.) らとは異なり、この2つは多くの症例で複合的に現れるとしている。両者に共通するものとして「もうろう状態」をあげる[37]

柴山のもう一対のキーワードは「存在者としての私」と「眼差しとしての私(眼差す私)」である。乱暴に言えば、外からは解らない解離の始まりと考えると全体の関係が解りやすくなる。意識が「眼差しとしての私」にあるときは「離隔」ともいえるが、意識が「存在者としての私」にあるとき、「眼差しとしての私」を感じて「気配過敏症状」となる。先の「空間的変容」において、一般的な「離隔」の概念からはみ出しているというのはこの部分である。

  • 眼差しとしての私」にとっては現実は他人事、逃避、弛緩、空虚な感じを持つ。
  • 存在者としての私」は当事者性、逃避不能、緊張、充満を特徴とする。

空間的変容とはこの2つの分離と交代の構造であるとする[38]。 そして柴山は、正常な解離から解離性健忘、解離性遁走、特定不能の解離性障害、解離性同一性障害という連続体、スペクトラムとしてとらえるのではなしに、中核に特定不能の解離性障害をおき、解離性健忘、遁走、交代人格といったものはむしろ特殊な例としてその周辺にあらわれるととらえている[39]

構造的解離理論

診断基準に含まれない解離理論としてバン・デア・ハート (Hart,V.D.) らの構造的解離理論[40]があり、日本では2009年頃から専門誌や学会などで紹介されており[41][42][43]、2011年11月にその上巻が国内でも翻訳出版[44]された。

人格部分としてのANPとEP

構造的解離理論は、DSM-IV-TR のいう解離性障害より広い範囲、外傷性精神障害全体を解離を軸に捉えなおそうというものであり、単純型PTSD境界性パーソナリティ障害までも範囲に含めている。 構造的解離理論では「人格」「交代人格」を「ANP」と「EP」に分けている[45]

  • ANP (あたかも正常に見える人格部分: apparently normal parts of personality) は日常生活をこなそうとする人格部分 (personality parts) である。
  • EP (情動的人格部分: emotional parts of personality) は心的外傷を受けたときの過覚醒、逃避、闘争などに関わっている。

構造的解離

構造的解離 (structural dissociation) は ANP と EP の組み合わせにより3つに分類される[46]。 そこでは解離の概念を外傷性精神障害全般に拡げてられている。

  • 第1次構造的解離 (primary structural dissociation)
    単純型PTSDや解離性障害の単純型(離人症性障害、解離性健忘/解離性とん走)。
  • 第2次構造的解離(secondary structural dissociation)
    :複雑型PTSD、特定不能の解離性障害、境界性パーソナリティ障害
  • 第3次構造的解離 (tertiary structural dissociation)
    解離性同一性障害

通常、人間は「今私が此処にいる」「私が感じる」「私の体験」という風に、「今」「私」という軸を持っている。しかし慢性的な外傷体験などによって心的エネルギー (mental energy) が損なわれると「今」「私」という軸が希薄になり、「誰の体験」「今がいつか」という「個人化 (personification)」と「現在化 (presentification)」が十分になされず、逆に「私」がそれぞれの「体験」に分割されたしまう。 そして衝動性が増す。同時に条件づけられた恐怖症 (phobia) を持つ。 衝動性と恐怖症から不適応な代替行為・代償行動 (substitute action) を行い、これが情動の暴発やフラッシュバック、過食症や自傷行為などとなる。

治療概念

治療前のアセスメントは次の3段階からなる[47][48]
第1段階は標準的な臨床アセスメントで、一般的な精神医学的評価。 第2段階は心的外傷に関連した症状と障害のアセスメント。 第3段階は人格構造と人格機能、そして現病歴の系統的分析。

治療の3段階は次のように考える[49]

  • 第1期、「安定化とスキルの向上」
    :日常生活において、より効率的に活動出来るようにするため、ANPと主なEPの心的エネルギーを高め、代替行為・代償行動を適応的な行動へと変え、薄まった現実化、自分自身の存在感を強めていくようにサポートする。
  • 第2期、「外傷記憶の治療」
    :様々な人格部分に見られる外傷記憶に対する恐怖症の克服が中心で、それにより構造的解離を不必要にさせる。
  • 第3期、「人格の統合とリハビリテーション」
    :通常生活に対する恐怖症の克服であり、最終的には親密さに対する恐怖症の克服が山場であり、患者の生活の質を高く保つために不可欠である。

構造的解離理論はあくまで心的外傷を軸に組み立てられているが、心的外傷、あるいは心的内容そのものに対決するというより、心的エネルギー、つまり心の適応能力を高めてゆく、改善していくことの方を重視する[50]。そしてこのアプローチは、外傷性精神障害に止まらず、不安定な家庭環境や、感覚過敏つまり外的刺激に対する脆弱性から慢性的に、かつ結果的に心的外傷と同じような傷を受けていると見られる一群に対しても有効性が期待されている[51]

スクリーニングテスト

臨床の現場で常時用いられている訳ではないが、解離には複数のスクリーニングテストがある。 DES-T、DDISやSCID-Dなどの構造化面接、診断面接の順に要する時間が長くなり信頼性も増す。なおここでスクリーニングするものは正常な範囲の解離ではなく、解離性障害のスクリーニングである。ただしスクリーニングテストで診断が行われる訳ではない。 診断はあくまで医師の診断であり、他の疾患に分類されることもある[52]。 特にDDISやSCID-Dなどの構造化面接は、精神科入院患者、外来患者などへの解離性障害有症率調査で主に使用されるツールである[注 8]

DES-Taxon (DES-T)

1996年にニルス・ウォーラー (Waller,N.G.) とDESの開発者パトナム (Putnam,F.W.) が前述の通りDESの28項目から、病的な解離性障害に関わる 3,5,7,8,12,13,22,27 の8項目に絞ったものである[53]。 その内容は岡野憲一郎の著書[54]、およびパトナム (Putnam,F.W.) の著書[55]にある。 ウォーラーがTaxon(類型学的モデル )の方がよく当てはまると、連続体モデルのDESに疑念を表明したのは1995年であり、それがパトナム (Putnam,F.W.) の病理理解が発達論(離散的行動モデル )に傾いた契機となった。 「T」はTaxonの頭文字である。Taxonとは類計学的モデルのことでこれは単なるDESの簡易版ではない。 DESは正常範囲の解離現象から精神病的な解離現象まで連続しているという立場である[56]。 それに対しDES-Tは、正常な解離と病的解離は連続的ではなくその二つの類型が存在する、従って正常範囲の解離度と精神病的な解離度の平均をとってもあまり意味はないという立場である[57]

初期のバージョンではDES同様に0%から100%までの11段階で答えてもらい平均を出すものだったが、ウォーラー (Waller,N.G.) とロス(Ross,C.A.)らの1997年の論文で発表されたバージョンアップ版は、単純平均ではなく、ロス (Ross,C.A.) が集めたDESの得点パターンから、統計的にボトムアップして判定を求めるものである。 それぞれの項目に閾値を設定しておき、どの項目で閾値を超えたか、それは何項目か、などにより解離性障害の推定確率を統計ソフトのSASやExcelで計算する。 田辺肇「病的解離性のDES-Taxon簡易判定法」[58]では、例えばDESの5番目の「買った覚えがない新しい持ち物がある」という質問の閾値60%を超える回答があって、他の項目では閾値を超えていなかったなら解離性障害の推定確率は約11%。 DESの5番目の他もう1項目で閾値を超えていれば推定確率85%以上。 どれであれ3項目以上で閾値を超えていれば推定確率99%以上というような求めかたをする。 従って初期のバージョンでの8項目単平均よりは統計的な信頼性は高い。

DDIS

DDIS(Dissociative Disorders Interview Schedule:解離性障害インタビュースケジュール)

ロス(Ross,C.A.) が作成した132項目のインタビューフォームで、多くはDSM基準を言い換えた質問からなる。 頭痛などの身体的訴えの有無、薬物依存、精神科の治療歴、うつ症状、シュナイダーの1級症状、夢遊歩行やトランス体験、児童虐待体験、解離性同一性障害特有の症状、超自然体験等、解離性障害群、うつ病、身体化表現性障害、境界性パーソナリティ障害をカバーする。 これに「ある」「ない」「わからない」と答えてもらう綿密な構造化テストである。 一般に30分から45分ぐらい要する。

ロス(Ross,C.A.) が前述の1991年カナダでのテストの際、一般人1,055人のうち454人にこのインタビューフォームを用いると11%に解離性障害の疑いが見られたという。 1997年のロス(Ross,C.A.) のテストでは、一般人の中で何らかの解離性障害を有するものが12%。 解離性同一性障害は3%ということになってしまった。 精神科の患者ではないので比率として高すぎるが、しかしスクリーニングテストとしての信頼性は高い[59][60]

SCID-D

SCID-D (Structured Clinical Intervier for DSM-IV Dissociative Disorders)

先に触れたスティンバーグ (Steinberg,M.) が1994年に発表した、DSM-IVの定義に基づく解離性障害のための構造化面接である。 解離性障害をひとつの連続体、スペクトラムと考え、解離現象を「健忘」「離人症」「現実感喪失」「同一性変容」「同一性混乱」という5つの中核的症状にわけて質問し評価する[61]。 250以上の項目があり、2 - 3時間かかり、面接者にも正式な訓練が要求される[62]。 北米での論文にはよく用いられる。 2000年のDSM-IV-TRに合わせて改訂したのがSCID-DRである。

各検出方法の信頼性とツール間の一致率

ロス(Ross,C.A.) らの論文[63] によれば、精神科病院の入院患者に対するDES-T、DDIS、SCID-D、精神科臨床医による診断の結果は以下のとおりである。

  • 解離性障害の判定は、DDISで40.8%、SCID-Dで44.5%と、臨床医で28.0%。
  • 解離性同一性障害の判定は、DDISで7.5%(DDの18%)、SCID-Dで9.1%(DDの16.6%)と、臨床医で10.0%(DDの35.7%)。

解離性障害のうち、解離性同一性障害と特定不能の解離性障害の判定法間の一致率(κ係数:kappa statistic )は次のとおりであり、完全には一致しないが十分に高い。

  • DDIS/DES-T は 0.81。SCID-D/DES-T は 0.76。DDIS/SCID-D は 0.74。
  • DES-T/臨床医は 0.74。DDIS/臨床医は 0.71。SCID-D/臨床医は 0.56。

解離性健忘および離人症性障害の判定には有効性を実証できなかった。なお精神科臨床医による診断数は他のテスト数より少ない。

注記

  1. ^ パトナム (Putnam,F.W.) も「わずかなりともエキスパート性を持ち合わせるようになった人なら、自分がどれほどものを知らないかを痛いほど意識するものだ、・・・生の現実においては、単純主義的な治療モデルが大して役にたつことはない。 」と書いている(パトナム1997 p.340 )。
  2. ^ 『こころのりんしょう』 2009 Q&A集Q5 「解離性障害はどのような原因で起こると考えられていますか?」 (p.215) では(3)と(4)を合わせて虐待とまとめているが、ここでは説明の都合上2つを分ける。
  3. ^ 柴山雅俊2007 p.117。数字は何割との表記を%に改めた。
  4. ^ 白川報告(「子供の虐待と解離」『こころのりんしょう』 2009 p.307 )はアリソン (Allison,R.B.) の定義に従い、7歳以前に重度のトラウマを受け、非常に多くの人格群が現れたケースをMPDとして分けているが、表には含まれていない。 それを含めると112人になるはずだが、表の編集ミスと思われる。 ここではデータのある105人で計算している。 「DDNOS」は特定不能な解離性障害。 「その他DD」とは「その他解離性障害」であるが、PTSDの中で解離障害症状を持つ患者も含めている。 白川の報告は本人の患者の2000年から2006年3月までの集計であり、警察や児童相談所、行政の困難例からのからの紹介が多く、白川自身がいうように他の報告者よりも、虐待症例の集まりやすい状況である。
  5. ^ 性的虐待は家庭内・家庭外とも、解離性障害全体の中で他よりも解離性同一性障害の方が少ないという結果になっているが、標本数の少なさから有意差は無いと見るべきである。
  6. ^ a b ICD-10では「他の神経症性障害」 (F48) の中に「離人・現実感喪失症候群」 (F48.1) として分類されているが、DSM-IV-TR での定義とはニュアンスが異なっており、DSM-IV-TR 解離性障害での離人症性障害には解離特有の離人症の構造がある(柴山雅俊 「離人症」 『精神科臨床リュミエール』 2009 p.104)。
  7. ^ DSMの次期改訂案(DSM-5)ではA1 離人症と、A2 現実感喪失に分けている。A1 離人症は傍観者のように自分から切り離さ感じ、A2 現実感喪失は自分の回りが、夢のように、他人事のように感じ現実感が無くなる症状をさす。最終的にどう決着するのかは不明である。
  8. ^ 次期改訂版(DSM-5)ではこれらの問題をワーキンググループで検討中ということだが、どう決着するのかは不明である。 引用エラー: 無効な <ref> タグ; name "t009"が異なる内容で複数回定義されています

参考文献

解離性障害の理解や治療方針は年代をおって更新されてゆくので、ここでは年代順(邦訳本は原書の)に並べる。

  • フランク・W・パトナム『解離―若年期における病理と治療』みすず書房、2001年(原著1897年)。 
  • 和田秀樹『多重人格』講談社現代新書、1998年。 
  • Steinberg M (1995). Handbook for the Assessment of Dissociation: A Clinical Guide.. American Psychiatric Press 
  • 高橋三郎・大野裕・染矢俊幸『DSM-IV-TR精神疾患の分類と診断の手引・新訂版』医学書院、2003年。 
  • 監訳:融 道男・中根允文・小見山実・岡崎祐士・大久保善朗『ICD-10 精神および行動の障害-臨床記述と診断ガイドライン (新訂版)』医学書院、2005年11月。 
  • ジェフリー・スミス「DID(解離性同一性障害)治療の理解」『多重人格者の日記-克服の記録』青土社、2006年(原著2005年)。 
  • 西村良二編・樋口輝彦監修『解離性障害』新興医学出版社・新現代精神医学文庫、2006年。 
  • オノ・ヴァンデアハート、エラート・R・S・ナイエンフュイス、キャシー・スティール『構造的解離-慢性外傷の理解と治療-上巻(基本概念編)』星和書店、2011年(原著2006年)。 
  • 『精神科治療学-特集:いま「解離の臨床」を考える II』 Vol.22 No.4、星和書店、2007年。 
  • 柴山雅俊『解離性障害―「うしろに誰かいる」の精神病理』ちくま新書、2007年。 
  • 岡野憲一郎『解離性障害―多重人格の理解と治療』岩崎学術出版社、2007年。 
  • 細澤 仁『解離性障害の治療技法』みすず書房、2008年。 
  • 岡野憲一郎『新外傷性精神障害―トラウマ理論を越えて』岩崎学術出版社、2009年。 
  • 岡野憲一郎編『専門医のための精神科臨床リュミエール 20 解離性障害』中山書房、2009年。 
  • 『精神療法(特集:解離とその治療)』 第35巻 2号、金剛出版、2009年。 
  • 『こころのりんしょう a・la・carte〈特集〉解離性障害』 Vol.28 No.2、星和書店、2009年。 
  • 岡野憲一郎編『わかりやすい「解離性障害」入門』星和書店、2010年。 
  • 柴山雅俊『解離の構造―私の変容と“むすび”の治療論』岩崎学術出版社、2010年。 
  • 岡野憲一郎『続解離性障害―脳と身体から見たメカニズムと治療』岩崎学術出版社、2011年。 
  • David Spiegel, M.D. et al (2011). Research Article: Dissociative Disorders in DSM-5. Depression and Anxiet 28. Wiley-Liss, Inc. pp. 824–852 

出典

  1. ^ ジェフリー・スミス2005 p.310
  2. ^ 岡野憲一郎2009 pp.250-252
  3. ^ パトナム1997 p.243
  4. ^ 細澤仁2008 pp.36-39
  5. ^ 野間俊一「解離研究の歴史」『こころのりんしょう』 2009 p.282
  6. ^ Barach, PMM. (1991). MPD as an attachment disorder. Dissociation, 4 (3), pp.117-123.
  7. ^ パトナム1997 p.243
  8. ^ 細澤仁2008 pp.36-39
  9. ^ Main, M. (1996). Overview of the field of attachment. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 64 (2), 237-243.
  10. ^ パトナム1997 pp.219-220
  11. ^ 野間俊一「解離研究の歴史」『こころのりんしょう』 2009 p.282
  12. ^ Karlen Lyons-Ruth. Dissociation and the Parent-Infant Dialogue: A Longitudinal Perspective from Attachment Research . Journal of the American Psychoanalytic Association, (2003) 51:pp.883-911
  13. ^ 白川美也子 「子供の虐待と解離」『こころのりんしょう』 2009 p.302
  14. ^ Liotti G. A model of dissociation based on attachment theory and research. J Trauma Dissociation. 2006;7(4):55-73.
  15. ^ 細澤仁2008 p.36-40
  16. ^ 柴山雅俊2007 p.34
  17. ^ 岡村毅、杉下和行、柴山雅俊「解離性障害の疫学と虐待の記憶」『こころのりんしょう』 2009 p.342 表1
  18. ^ 岡村毅、杉下和行、柴山雅俊「解離性障害の疫学と虐待の記憶」『こころのりんしょう』 2009 p.342 表1
  19. ^ 岡村毅、杉下和行、柴山雅俊「解離性障害の疫学と虐待の記憶」『こころのりんしょう』 2009 p.342
  20. ^ Gast,Ursula et al Prevalence of Dissociative Disorders among Psychiatric Inpatients in a German University Clinic Journal of Nervous & Mental Disease:April 2001 - Volume 189 - Issue 4 - pp 249-257
  21. ^ Ertan Tezcan. Dissociative disorders in turkish inpatients with conversion disorder Comprehensive Psychiatry Volume 44, Issue 4, July–August 2003, Pages 324–330
  22. ^ Vedat Sar, M.D Dissociative disorders in the psychiatric emergency ward General Hospital Psychiatry Volume 29, Issue 1, January–February 2007, Pages 45–50
  23. ^ ICD-10新訂版2005 p.162
  24. ^ ICD-10新訂版2005 p.14
  25. ^ ICD-10新訂版2005 p.163
  26. ^ 解離性同一性障害/ICD-10での定義参照
  27. ^ 柴山雅俊 「離人症」 『精神科臨床リュミエール』 2009 p.106
  28. ^ 大矢大 「解離性健忘と解離性遁走」 『精神科臨床リュミエール』 2009 pp.94-95
  29. ^ Steinberg1995
  30. ^ Steinberg.M Advances in the clinical assessment of dissociation: The SCID-DR p.158
  31. ^ Holmes, E. A., Brown, R. J., Mansell, W., Fearon, R. P., Hunter, E. C. M., Frasquilho, F., et al. (2005). Are there two qualitatively distinct forms of dissociation? A review and some clinical implications Clinical Psychology Review, 25(1), 1-23.
  32. ^ 岩井圭吾 「解離性障害の範囲と分類」 『精神科臨床リュミエール』 2009 pp.88-89
  33. ^ 柴山雅俊 「離人症」 『精神科臨床リュミエール』 2009 p.105
  34. ^ 岩井圭吾 「解離性障害の範囲と分類」 『精神科臨床リュミエール』 2009 pp.88-90
  35. ^ 柴山雅俊2007
  36. ^ 柴山雅俊2010
  37. ^ 柴山雅俊2007 pp.89-90
  38. ^ 柴山雅俊2007 pp.91-92
  39. ^ 岡野憲一郎2007 付章・鼎談「日本での解離の臨床について語り合う」 pp.195-196
  40. ^ Haunted Self: Structural Dissociation And the Treatment of Chronic Traumatization (Norton Series on Interpersonal Neurobiology) Onno Van Der Hart、Ellert R. S. Nijenhuis、 Kathy Steele (2006/11/10)
  41. ^ 奥田ちえ「構造的解離理論の基本概念と治療アプローチ」『こころのりんしょう』 2009 pp.333-340
  42. ^ 野間俊一 「構造的解離理論」 『精神科臨床リュミエール』 2009 pp.71-81
  43. ^ 柴山雅俊2010 pp.137-138
  44. ^ ヴァンデアハート2006
  45. ^ ヴァンデアハート2006 pp.3-8
  46. ^ ヴァンデアハート2006 pp.7-12
  47. ^ 野間俊一 「構造的解離理論」 『精神科臨床リュミエール』 2009 pp.77-78
  48. ^ ヴァンデアハート2006 pp.24-26
  49. ^ ヴァンデアハート2006 pp.26-29
  50. ^ 野間俊一 「構造的解離理論」 『精神科臨床リュミエール』 2009 p.79
  51. ^ 野間俊一 「構造的解離理論」 『精神科臨床リュミエール』 2009 p.80
  52. ^ 岡村毅、杉下和行、柴山雅俊「解離性障害の疫学と虐待の記憶」『こころのりんしょう』 2009 p.341
  53. ^ 田辺肇 「病的解離性のDES-Taxon簡易判定法」『こころのりんしょう』 2009 p.288
  54. ^ 岡野憲一郎2007 p.151
  55. ^ パトナム1997 pp.82-85
  56. ^ 解離参照
  57. ^ 細澤仁2008 p.35
  58. ^ 『こころのりんしょう』 2009 p.285
  59. ^ 和田秀樹1998 p.182
  60. ^ パトナム1997 p.331
  61. ^ 西村良二2006 pp.36-37
  62. ^ パトナム1997 pp.331-332
  63. ^ Colin A. Ross. Prevalence, Reliability and Validity of Dissociative Disorders in an Inpatient Setting. Journal of Trauma & Dissociation. Volume 3, Issue 1, 2002

関連項目