和歌山電鐵貴志川線

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貴志川線
日前宮駅で並ぶ いちご電車(左)とおもちゃ電車(右)
基本情報
通称 わかやま電鉄貴志川線
日本の旗 日本
所在地 和歌山県
起点 和歌山駅
終点 貴志駅
駅数 14駅
開業 1916年2月15日
全通 1933年8月18日
所有者 和歌山電鐵
運営者 和歌山電鐵
車両基地 伊太祈曽車両基地
使用車両 2270系
路線諸元
路線距離 14.3 km
軌間 1,067 mm狭軌
線路数 単線
電化方式 直流1,500 V 架空電車線方式
閉塞方式 自動閉塞式
保安装置 南海式ATS
最高速度 60 km/h
路線図
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停車場・施設・接続路線
STR
JR西T 和歌山線
exSTR+l THSTxo xABZq+l
紀伊中ノ島駅
HSTq eABZqr KRZo ABZg+r
紀和駅 JR西:紀勢本線
exKBHFaq exSTR+r STR STR
0.0* 中ノ島駅 -1924
exSTRc2 exSTR3
STR
JR西:R 阪和線
exSTR+1 exSTRc4 STR STR
exBHF STR+c2 STR3
1.1* 畑屋敷駅 -1924
exBHF ABZg+1 STRc4
1.8* 大橋駅 -1924
exSTR
0.0 01 和歌山駅
exSTR STR STR
南海和歌山軌道線(新町線)
xKRZ STRq STRr STR
JR西:紀勢本線(W きのくに線)
exSTR BHF
0.6 02 田中口駅
exSTRl exSTRq exSTRq eABZg+r
BHF
1.4
3.2*
03 日前宮駅
BHF
2.9 04 神前駅
BHF
3.7 05 竈山駅
BHF
4.8 06 交通センター前駅
BHF
5.4 07 岡崎前駅
SKRZ-Au
阪和自動車道
BHF
6.4 08 吉礼駅
BUE
熊野古道紀伊路
BHF
8.0 09 伊太祈曽駅
KDSTaq ABZgr
伊太祈曽車両基地
eBHF
8.8 東山東駅 -1945
9.1 10 山東駅
WDOCKSrg
大池
WDOCKSm
WDOCKSlf
11.3 11 大池遊園駅
BHF
12.1 12 西山口駅
BHF
13.1 13 甘露寺前駅
KBHFaq STRr
14.3 14 貴志駅
WASSERq WASSERq
貴志川

貴志川線(きしがわせん)は、和歌山県和歌山市和歌山駅から和歌山県紀の川市貴志駅までを結ぶ和歌山電鐵鉄道路線である。通称は「わかやま電鉄貴志川線」。

和歌山市の東郊に延びる鉄道路線で、2006年4月1日に和歌山電鐵が南海電気鉄道から継承した(経緯は後述)。

路線データ[編集]

  • 路線距離(営業キロ):14.3km
  • 軌間:1067mm
  • 駅数:14駅(起終点駅含む。有人駅は和歌山駅・伊太祈曽駅)
  • 複線区間:なし(全線単線)
  • 電化区間:全線電化(直流1500V
  • 閉塞方式:自動閉塞式
  • 交換可能駅:3か所(日前宮駅、岡崎前駅、伊太祈曽駅)
    • かつては竈山駅、大池遊園駅、甘露寺前駅でも交換可能であった。
  • 最高速度:60km/h

運行形態[編集]

すべて普通列車で、全線直通がおおむね1時間あたり2本運行される。和歌山駅 - 伊太祈曽駅間の列車が平日に6往復、土・休日は4往復設定されているほか、伊太祈曽駅 - 貴志駅間の列車が毎日1往復設定されている(2021年3月13日改正時点)。全列車でワンマン運転を行っている。

南海電気鉄道から引き継いで使用されている2270系電車のリニューアルデザインが、和歌山電鐵の親会社である岡山電気軌道9200形電車 (MOMO) などをデザインした水戸岡鋭治によって行われており、2021年12月時点で「いちご電車」、「たま電車」、「うめ星電車」、「たま電車ミュージアム号」(「おもちゃ電車」を改装)が運行されている。

利用状況[編集]

輸送実績[編集]

貴志川線の輸送実績を下表に記す。輸送量は1997年(平成9年)以降減少していたが、和歌山電鐵に運営移管後は増加に転じている。 表中、最高値を赤色で、最高値を記録した年度以降の最低値を青色で、最高値を記録した年度以前の最低値を緑色で表記している。

年度別輸送実績
運 営
主 体
年 度 輸送実績(乗車人員):万人 輸送密度
人/日
特 記 事 項
通勤定期 通学定期 通勤通学
定 期 計
定 期 外 合 計
南海電気鉄道 1974年(昭和49年)         361.4   旅客輸送実績最高値を記録
1980年(昭和55年)     205.6 119.8 325.4    
1985年(昭和60年)     150.3 103.0 253.3    
1988年(昭和63年) 95.8 52.8 148.6 100.1 248.7 3,935  
1989年(平成元年) 94.3 53.6 147.9 101.2 249.1 3,892  
1990年(平成2年) 97.0 58.4 155.4 101.2 256.6 4,006  
1991年(平成3年) 99.3 63.3 162.6 103.3 265.9 4,081  
1992年(平成4年) 97.6 62.6 160.2 96.5 256.7 4,021  
1993年(平成5年) 92.2 67.5 159.7 95.1 254.8 3,993  
1994年(平成6年) 88.6 71.7 160.3 91.6 251.9 3,990 冷房電車への置き換え開始
1995年(平成7年) 91.1 79.8 170.9 101.7 272.6 4,200 冷房電車への置き換え終了・列車増発
1996年(平成8年) 92.6 81.1 173.7 100.2 273.9 4,207  
1997年(平成9年) 93.8 69.1 162.9 95.9 258.8 4,035  
1998年(平成10年) 80.1 64.0 144.1 89.7 233.8 3,673  
1999年(平成11年) 83.3 68.6 151.9 85.2 237.1 3,657 交通センター前駅開業
2000年(平成12年) 83.7 72.2 155.9 80.3 236.2 3,575  
2001年(平成13年) 80.5 69.8 150.3 77.1 227.4 3,451  
2002年(平成14年) 69.3 56.7 126.0 73.2 199.2 3,098  
2003年(平成15年) 67.4 61.8 129.2 69.3 198.5 3,104  
2004年(平成16年) 64.2 62.2 126.4 66.2 192.6 2,988  
2005年(平成17年) 63.1 65.5 128.6 63.6 192.2 2,971  
和歌山電鐵 2006年(平成18年) 72.1 67.7 139.8 71.6 211.4 3,183 和歌山電鐵による運営開始
2007年(平成19年) 67.3 68.0 135.3 76.5 211.8 3,169  
2008年(平成20年) 70.4 68.6 139.0 80.0 219.0 3,283  
2009年(平成21年) 68.6 71.6 140.2 76.9 217.1 3,269  
2010年(平成22年) 68.3 73.1 141.4 75.8 217.2 3,264  
2011年(平成23年) 69.0 77.1 146.1 72.1 218.2    
2012年(平成24年) 66.3 75.4 141.7 74.9 216.6 3,258  
2013年(平成25年) 69.5 82.7 152.2 77.6 229.8 3,460  
2014年(平成26年) 69.2 79.2 148.4 79.5 227.9 3,426  
2015年(平成27年) 67.4 80.8 148.2 83.8 232.0 3,471
2016年(平成28年) 64.1 77.7 141.8 78.3 220.1 3,241 運賃改定
2017年(平成29年) 65.5 75.7 141.2 75.7 216.9 3,195
2018年(平成30年) 63.3 73.1 136.4 72.2 208.6 3,074
2019年(令和元年) 60.8 69.7 130.5 68.3 198.8 2,930
2020年(令和2年) 54.5 48.8 103.3 38.9 142.2 2,107

営業成績[編集]

貴志川線の営業成績を下表に記す。旅客運賃収入は1997年(平成9年)以降減少していたが、和歌山電鐵に運営移管後は増加に転じている。運輸雑収については年度による変動が大きい。和歌山電鐵移管後は後述の県・市による支援に加え、大幅な経費削減により赤字額が激減している。ただし、黒字になったことはない。

表中、最高値を赤色で、最高値を記録した年度以降の最低値を青色で、最高値を記録した年度以前の最低値を緑色で表記している。

年度別営業成績
運 営
主 体
年 度 旅客運賃収入:千円 運輸雑収
千円
営業収益
千円
営業経費
千円
営業損益
千円
営業
係数
通勤定期 通学定期 通勤通学
定 期 計
定 期 外 合 計
南海電気鉄道 1988年(昭和63年) 96,674 32,093 128,767 199,692 328,459 54,033 382,492      
1989年(平成元年) 94,574 32,028 126,602 197,871 324,473 5,183 329,656      
1990年(平成2年) 97,930 34,545 132,475 198,549 331,024 6,158 337,182      
1991年(平成3年) 103,356 37,686 141,042 207,542 348,584 6,378 354,962      
1992年(平成4年) 115,510 41,952 157,462 215,449 372,911 41,297 414,208      
1993年(平成5年) 108,638 44,383 153,021 212,219 367,240 7,644 374,884 1,065,812 △ 690,928 284.3
1994年(平成6年) 105,300 49,327 154,627 208,296 362,923 6,695 369,618 1,066,223 △ 696,605 288.5
1995年(平成7年) 112,317 56,047 168,364 230,321 398,685 6,063 404,748 1,207,737 △ 802,989 298.4
1996年(平成8年) 120,969 60,942 181,911 233,874 415,785 7,751 423,536 1,112,002 △ 688,466 262.6
1997年(平成9年) 119,547 54,416 173,963 214,606 388,569 9,006 397,575 1,139,377 △ 741,802 286.6
1998年(平成10年) 103,623 51,507 155,130 209,087 364,217 7,123 371,340 1,100,277 △ 728,937 296.3
1999年(平成11年) 107,800 55,160 162,960 205,739 368,699 148,304 517,003 1,073,901 △ 556,898 207.7
2000年(平成12年) 108,009 55,810 163,819 193,833 357,652 8,186 365,838 982,410 △ 616,573 268.5
2001年(平成13年) 104,013 54,542 158,555 185,233 343,788 97,487 441,275 853,302 △ 412,027 193.4
2002年(平成14年) 90,032 46,525 136,557 176,836 313,393 9,961 323,354 788,584 △ 465,230 243.9
2003年(平成15年) 87,914 50,875 138,789 167,552 306,341 5,593 311,934 818,635 △ 506,701 262.4
2004年(平成16年) 82,093 51,114 133,207 160,264 293,471 10,065 303,536      
2005年(平成17年) 80,385 53,765 134,150 153,513 287,663 3,786 291,449      
和歌山電鐵 2006年(平成18年) 93,332 55,526 148,858 166,874 315,732 18,334 334,066 415,024 △ 80,958 124.2
2007年(平成19年) 87,170 55,897 143,067 180,445 323,512 5,803 329,315 382,141 △ 52,826 116.0
2008年(平成20年) 90,162 55,637 145,799 191,337 337,136 13,956 351,092 420,512 △69,420 119.8
2009年(平成21年) 87,445 58,781 146,226 184,948 331,174 15,834 347,008 444,700 △97,692 128.2
2010年(平成22年)     146,602 181,652 328,254 66,535 394,789 519,092 △124,303 131.5
2011年(平成23年)    
2012年(平成24年) 83,214 61,950 145,164 178,430 323,594 1,741 325,335 440,419 △115,084 135.4
2013年(平成25年) 87,047 68,304 155,351 184,045 339,396 6,619 346,015 464,081 △118,856 134.3
2014年(平成26年) 86,421 64,558 150,979 191,031 342,010 6,644 348,654 478,007 △129,353 137.1
2015年(平成27年) 84,623 64,925 149,548 200,528 350,076 12,011 362,087 514,973 △152,886 142.2
2016年(平成28年) 92,767 71,122 163,889 204,193 368,082 6,604 374,686 456,573 △81,886 121.9
2017年(平成29年) 97,226 72,735 169,961 194,208 364,168 3,585 367,753 465,143 △97,389 126.5
2018年(平成30年) 94,407 70,559 164,966 184,647 349,612 8,264 357,876 461,230 △103,354 128.9
2019年(令和元年) 91,354 67,280 158,634 173,398 332,032 18,500 350,533 460,537 △110,004 131.4

戦前の輸送収支実績[編集]

年度別実績
年度 輸送人員(人) 貨物量(トン) 営業収入(円) 営業費(円) 営業益金(円) その他損金(円) 支払利子(円) 政府補助金(円)
1916 121,032 1,746 17,319 12,474 4,845 設立費償却金1,100
1917 333,938 2,908 25,077 17,382 7,695 検査改算減額770 1,065 1,695
1918 330,921 4,048 29,446 24,466 4,980 1,954 5,788
1919 408,967 5,007 40,735 31,456 9,279 雑損金29 2,456 1,908
1920 436,515 5,324 53,906 38,248 15,658 3,898
1921 444,050 4,357 56,312 40,000 16,312
1922 460,167 3,764 60,105 43,981 16,124
1923 427,762 3,866 61,287 41,348 19,939 2,748
1924 383,902 3,012 53,476 44,818 8,658 7,389
1925 331,761 2,560 47,087 37,885 9,202 7,478
1926 242,473 3,090 78,374 38,078 40,296 2,078
1927 332,226 2,175 48,572 34,428 14,144
1928 331,797 2,381 48,644 33,337 15,307
1929 331,162 2,210 51,191 34,211 16,980 11
1930 467,172 1,603 56,577 36,121 20,456 1,091
1931 456,857 996 53,831 35,599 18,232 1,327
1932 430,555 1,227 50,207 34,610 15,597 1,346
1933 473,458 1,709 58,849 37,871 20,978 6,533
1934 588,585 2,545 84,667 57,253 27,414 雑損7,181 16,663 15,432
1935 631,902 3,690 83,022 64,749 18,273 雑損3,832 16,563 15,702
1936 626,361 4,545 84,333 69,292 15,041 償却金雑損8,065 15,007 15,847
1937 680,935 8,765 96,801 75,321 21,480 雑損償却金24,316 10,715 14,265
1939 697,452 12,497
1941 873,647 11,666
1943 2,477,929 19,142
1945 3,426,975 9,824
  • 鉄道院鉄道統計資料、鉄道省鉄道統計資料、鉄道統計資料、鉄道統計、国有鉄道陸運統計各年度版

施設[編集]

軌道[編集]

  • 軌間は1067mmである。
  • 使用軌条(レール)は、本線では50Nレール(81.7%)、50PSレール(18.3%)が使用されている。
  • 枕木は木製マクラギが多数を占めているものの、順次PCマクラギ化が進められている。

分岐器・転轍器[編集]

  • 分岐器は、14基あり、8番・10番のものが用いられている。
  • 転轍器は、本線においては、基本的に発条転轍機(列車の車輪で分岐器を転換させバネの力で復位させる)が使用されている(全線で6基)。
  • 回路制御器については12分岐器に設けられている。
  • 乗越分岐器および安全側線が設置されている駅は無く、列車行き違い時の上下列車の駅構内同時進入は不可能である。このため行き違い可能な駅の手前で、どちらか一方の列車が徐行または停止する光景がよく見られる。

橋梁[編集]

  • 30か所の橋梁がある

車庫[編集]

  • 伊太祈曽駅構内にあり、検査線2、検修線1、洗浄線1を有する。

変電所[編集]

  • 600V時代は日前宮変電所、伊太祈曽変電所、甘露寺変電所の3箇所の変電所があった。
  • 2009年度から3年計画で、架線電圧を600Vから1500Vに昇圧した上で、変電所を伊太祈曽変電所の1か所に統合する計画が立てられた[1]。この際、伊太祈曽変電所にはバックアップ設備も整え、架線電圧については2012年に昇圧が実施された。
  • 変電所遠隔制御監視装置が伊太祈曽に設けられている。これについては、和歌山電鐵に運営移管後新設されたものである。

電路設備[編集]

  • 架線は、シンプルカテナリー方式 16,192m
  • 饋電線 30,029m、送配電線 51,361m
  • 電柱の木柱からコンクリート柱へ置き換えが進められている。2008年現在で、鉄柱19本、コンクリート柱493本、木柱256本となっている。

信号・連動装置・CTC[編集]

ATS[編集]

  • 全線にATS装置を備え、照査数は74である。

踏切[編集]

  • 52か所の踏切道があり、このうち第一種甲踏切(警報器・遮断機付き)が51か所(うち踏切障害検知装置付きが8か所)、第三種踏切(警報器付き)が1か所である。

通信・保安装置[編集]

  • 列車無線(親局・伊太祈曽1、車載局6)
  • 指令電話(運転6、電力5)、沿線電話29
  • 自動電話交換機新設(伊太祈曽)(電話機28)
  • 防災設備(風速、落石、水位、雨量、地震)については下記のものが設置され、伊太祈曽駅運転指令室に設けられた総合防災盤で集中監視されている。
    • 雨量警報装置(伊太祈曽駅構内)
    • 地震警報装置(伊太祈曽駅構内)
    • 河川水位警報装置(吉礼駅 - 伊太祈曽駅間)
    • 冠水警報装置(竃山駅構内)
    • 落石警報装置(山東駅 - 大池遊園駅間)
    • 風速警報装置(伊太祈曽駅構内)

歴史[編集]

和歌山鉄道
種類 株式会社
本社所在地 日本の旗 日本
和歌山県和歌山市有家88[2]
設立 1914年(大正3年)6月27日[2]
業種 鉄軌道業
事業内容 旅客鉄道事業、バス事業、自動車道、不動産 他[2]
代表者 社長 前田頼一[2]
資本金 15,000,000円[2]
発行済株式総数 300,000株[2]
特記事項:上記データは1957年(昭和32年)8月1日現在[3][2]
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和歌山市野上町を結ぶべく計画されたが、同時期に計画された野上軽便鉄道の計画に敗れ認可が下りず、計画を変更。沿線にある日前宮竈山神社伊太祁󠄀曽神社などへの参詣(いわゆる三社参り)のための鉄道として、1916年に山東軽便鉄道により開業した。開業当初は当時の和歌山市街地に近い大橋駅(現在の和歌山駅の南西)が起点であったが、翌年に国鉄和歌山駅(現在の紀和駅)近くの中ノ島駅まで延伸。後に紀勢本線の建設に伴い、東和歌山駅(現在の和歌山駅)に起点を変更している。1931年には和歌山鉄道に社名を改め、1943年には全線の電化が完成した。その後、和歌山電気軌道を経て、1961年に南海電気鉄道貴志川線となった。

1971年に和歌山軌道線が廃止されると、他の南海の路線とは孤立した路線となった。1973年に他の南海の路線では架線電圧が1500Vに昇圧されたが、貴志川線は600Vのまま据え置かれた。

1990年代になってCTC化や車両の置き換え、一部駅の無人化、ワンマン運転の実施などの近代化、合理化が行われた。しかし、1999年に南海電気鉄道も参加したスルッとKANSAI対応カードは当時も貴志川線では使えなかった。

沿線は宅地開発が進んだが自家用車利用が多く、また少子化や自転車通学の浸透による高校生の通学利用の減少もあり、利用者は伸び悩んでいた。2003年11月に南海電気鉄道が貴志川線の廃止を検討していることを表明したことにより存続問題が浮上した。2004年8月には、南海電気鉄道が2005年9月末を以って同線から撤退することを発表し、2004年9月に国土交通省近畿運輸局に鉄道事業廃止届出書を提出した。これに対し2005年2月和歌山県和歌山市貴志川町(当時)は貴志川線存続で合意、事業の引き継ぎ先を公募した。同時に、県・市町は貴志川線を下記の内容で支援することを公表した。なお、この支援形態は貴志川線の運営移管の3年前に近畿日本鉄道より運営移管した三岐鉄道北勢線の事例に酷似しているが、貴志川線への支援総額は北勢線より低額であった。

  • 貴志川線の鉄道用地は、南海電気鉄道から和歌山市と貴志川町(当時)が約2億円で取得し、これを和歌山県が全額補助する。
  • 今後想定される貴志川線の施設整備(変電所の大規模改修等)に対して、和歌山県は2.4億円を上限にその経費を負担する。
  • 南海電気鉄道から運営移管後10年間の運営費補助(欠損補助)は、和歌山市65%・貴志川町(当時)35%の割合で8.2億円を上限に実施する。

2005年4月には、9つの企業・個人の中から両備グループ岡山電気軌道が選ばれた。そして2005年4月28日、岡山電気軌道が事業を引き継ぐことを発表した。

岡山電気軌道が和歌山市に設立する新会社のもとでの運行開始予定を2006年4月1日とし、事業許可譲渡のため、和歌山市などが南海電気鉄道に撤退期限の延長を求め、南海電気鉄道がこれに応じたことから、2005年6月に運営会社として和歌山電鐵が設立された(岡山電気軌道株式会社100%出資)。そして、2006年1月に国土交通大臣に鉄道事業譲渡譲受認可申請書が提出、同年2月認可され、同年4月1日から同社のもとで運行されることになった[4]

年表[編集]

  • 1913年(大正2年)4月1日:山東軽便鉄道に対し鉄道免許状下付(海草郡中ノ島村-同郡西山東村大字伊太祈曽間)[5]
  • 1914年(大正3年)6月27日:山東軽便鉄道株式会社設立[6][7]
  • 1916年(大正5年)2月15日:山東軽便鉄道により大橋駅 - 山東駅(現在の伊太祈曽駅)間が開業[8]
  • 1917年(大正6年)3月16日:中ノ島駅 - 大橋駅間開業[9]。中ノ島駅は国鉄和歌山駅(現在の紀和駅)近く。
  • 1923年(大正12年)5月10日:鉄道免許状下付(海草郡西山東村-那珂郡中貴市村間)[10]
  • 1924年(大正13年)
    • 2月28日:紀勢西線(現在の紀勢本線)東和歌山駅(現在の和歌山駅)開業に伴い、中ノ島駅 - 秋月駅(現在の日前宮駅)間を廃止し、東和歌山駅に起点変更[11]
    • 6月15日:田中口駅開業[12]
  • 1928年(昭和3年)5月10日:鉄道免許状下付(和歌山市太田-同市蔵間)[13]
  • 1929年(昭和4年)12月15日:瓦斯倫動力併用[6]
  • 1931年(昭和6年)
    • 4月23日:和歌山鉄道に社名変更[14]
    • 10月15日:鉄道免許失効(1928年5月10日免許 和歌山市太田-同市蔵間 指定ノ期限マテニ工事施工認可申請ヲ為ササルタメ)[15]
  • 1933年(昭和8年)
    • 月日不明:秋月駅を日前宮駅に改称[16]
    • 8月18日:伊太祁曽駅 - 貴志駅間が開業[17]。山東駅を伊太祁曽駅に改称。
  • 1941年(昭和16年)12月:東和歌山駅 - 伊太祁曽駅間電化。
  • 1942年(昭和17年)12月:伊太祁曽駅 - 大池駅間電化。
  • 1943年(昭和18年)12月:大池駅 - 貴志駅間電化。全線の電化が完成。
  • 1945年(昭和20年):伊太祁曽駅 - 山東永山駅間の東山東駅を廃止。山東永山駅を山東駅に改称。
  • 1957年(昭和32年)11月1日:和歌山電気軌道が和歌山鉄道を合併、同社の鉄道線となる。
  • 1961年(昭和36年)11月1日:南海電気鉄道が和歌山電気軌道を合併。鉄道線は貴志川線となる。
  • 1968年(昭和43年)3月1日:東和歌山駅を和歌山駅に改称。
  • 1993年(平成5年)4月1日:CTC化。
  • 1995年(平成7年)
    • 2月6日2270系電車運転開始。
    • 4月1日:ワンマン運転開始[18]。運行間隔が日中は40分から30分に、夕方は30分から15分間隔に増発され、全列車が冷房化[18]
  • 1999年(平成11年)5月7日:交通センター前駅開業。
  • 2003年(平成15年)11月:南海電気鉄道が貴志川線の廃止を検討していることを表明したことにより存続問題が浮上。
  • 2004年(平成16年)
    • 8月10日:南海電気鉄道が2005年9月末を以って同線から撤退することを発表。
    • 9月30日:南海電気鉄道が国土交通省近畿運輸局に鉄道事業廃止届出書を提出[19]
  • 2005年(平成17年)
    • 2月4日:和歌山県、和歌山市と旧貴志川町が貴志川線存続で合意、事業の引き継ぎ先を公募。
    • 4月28日:岡山電気軌道が事業引き継ぎを発表。
    • 6月27日:貴志川線の運営会社として和歌山電鐵が設立。
  • 2006年(平成18年)
    • 2月28日:1月20日申請の南海電気鉄道から和歌山電鐵への鉄道事業譲渡譲受が国土交通大臣から認可[4]
    • 4月1日:和歌山電鐵による貴志川線運行開始。伊太祁曽駅を伊太祈曽駅に改称。
    • 8月6日水戸岡鋭治がデザインした「いちご電車」の運行を開始。
    • 10月16日:第5回日本鉄道賞表彰選考委員会特別賞を受賞(受賞盾は「いちご電車」車内にあり)。
    • 10月21日:ダイヤ改正を実施(平日10本・土日祝12本の増便)。和歌山駅 - 伊太祈曽駅間:平日53往復・土休日43往復、伊太祈曽駅 - 貴志駅間:平日34往復・土休日34往復となる。
  • 2007年(平成19年)
    • 1月1日:「貴志川線1日乗車券」発売開始。
    • 1月5日:三毛猫の「たま」が貴志駅の駅長に就任。同時に、同居する猫「ミーコ」(たまの母親)と「ちび」が同駅助役に就任。
    • 7月29日:「おもちゃ電車」運行開始。
    • 11月23日:一部列車を減便する(ダイヤ上は運休扱い)。和歌山駅 - 伊太祈曽駅間:平日49往復・土休日42往復、伊太祈曽駅 - 貴志駅間:平日33往復・土休日34往復となる。
  • 2008年(平成20年)4月6日:一部列車を増便する(前回ダイヤ改正で運休扱いとしたものの一部復活)。和歌山駅 - 伊太祈曽駅間:平日49往復・土休日43往復、伊太祈曽駅 - 貴志駅間:平日34往復・土休日34往復となる。
  • 2009年(平成21年)3月21日:「たま電車」運行開始。
  • 2009年(平成21年)7月20日:貴志駅助役「ミーコ」(たまの母親)が死ぬ。貴志駅永久助役に任命。
  • 2010年(平成22年)8月4日:貴志駅新駅舎竣工、使用開始。
  • 2012年(平成24年)
    • 1月5日:貴志駅のスーパー駅長「たま」の就任5周年記念式典が行われ、三毛猫の「ニタマ」に伊太祈曽駅駅長兼貴志駅駅長代行の辞令が交付される。
    • 2月1日:架線電圧を直流600Vから直流1500Vへ昇圧。
  • 2015年(平成27年)
    • 6月22日:貴志駅のウルトラ駅長となっていた「たま」が死ぬ。名誉永久駅長に任命。
    • 8月10日:「たま」の50日祭が行われ、たま神社建立と「ニタマ」のたまII世駅長の襲名が発表される[20]

駅一覧[編集]

駅番号 駅名 駅間キロ 営業キロ 接続路線 線路 所在地
01 和歌山駅 - 0.0 西日本旅客鉄道:R 阪和線 (JR-R54)・W 紀勢本線(きのくに線)T 和歌山線 和歌山市
02 田中口駅 0.6 0.6  
03 日前宮駅 0.8 1.4  
04 神前駅 1.5 2.9  
05 竈山駅 0.8 3.7  
06 交通センター前駅 1.1 4.8  
07 岡崎前駅 0.6 5.4  
08 吉礼駅 1.0 6.4  
09 伊太祈曽駅 1.6 8.0  
10 山東駅 1.1 9.1  
11 大池遊園駅 2.2 11.3   紀の川市
12 西山口駅 0.8 12.1  
13 甘露寺前駅 1.0 13.1  
14 貴志駅 1.2 14.3  
  • 和歌山駅、伊太祈曽駅が有人駅、他は無人駅である。

過去の接続路線[編集]

廃止区間[編集]

中ノ島駅 - 畑屋敷駅 - 大橋駅 - 秋月駅(現・日前宮駅

未成線[編集]

和歌山鉄道時代に和歌山駅から和歌山市駅までの延長計画があり、1928年5月10日に免許を取得したが、1931年10月15日に失効している[21]

また、貴志駅から粉河町まで延伸する計画があり、和歌山鉄道時代の1950年12月23日に免許を取得したが、南海電鉄時代の1967年4月18日に失効している[22]

その他[編集]

  • 南海からの継承後、車内チャイムが導入された。各曲をアレンジした短いもので、以下の3駅の到着直前・発車直後の案内前に鳴らされる。
駅名 曲名 由来
和歌山駅 紀州ぶんだら節 和歌山市に因む
伊太祈曽駅 鞠と殿様 和歌山市に因む
貴志駅 ストロベリー・フィールズ・フォーエバー 駅周辺の名産物、イチゴに因む
  • 架線電圧の直流1500Vへの昇圧工事が行われ[1]紀勢本線和歌山市駅経由で南海加太線との直通運転が検討されている[23]
  • たまニタマという「の駅長」が存在し、和歌山電鐵の話題作り・乗客数増加へ大いに貢献した。たまは貴志駅、ニタマは伊太祈曽駅に「勤務」していた(ニタマはたま不在時の貴志駅「駅長代行」も兼任)。2015年のたまの死後、ニタマが「たまII世駅長」を襲名し、貴志駅での勤務となった。

脚注および参考文献[編集]

  1. ^ a b 「和歌山電鉄:貴志川線、電圧上げ1500ボルトに JR・南海と統一」毎日新聞 和歌山版、2009年3月11日
  2. ^ a b c d e f g 「私鉄要覧(3) 運輸省鉄道監督局監修 昭和32年度」『鉄道史料』第95巻、鉄道史資料保存会、1999年8月、68頁。 
  3. ^ 「私鉄要覧(1) 運輸省鉄道監督局監修 昭和32年度」『鉄道史料』第93巻、鉄道史資料保存会、1999年2月、59頁。 
  4. ^ a b 貴志川線の鉄道事業譲渡譲受が認可されました』(PDF)(プレスリリース)南海電気鉄道、2006年2月28日https://www.nankai.co.jp/library/company/news/pdf/060228.pdf2023年11月12日閲覧 
  5. ^ 「軽便鉄道免許状下付」『官報』1913年4月5日(国立国会図書館デジタルコレクション)
  6. ^ a b 『地方鉄道及軌道一覧 : 附・専用鉄道. 昭和10年4月1日現在』(国立国会図書館デジタルコレクション)
  7. ^ 『日本全国諸会社役員録. 第23回』(国立国会図書館デジタルコレクション)
  8. ^ 「軽便鉄道運輸開始」『官報』1916年2月18日(国立国会図書館デジタルコレクション)
  9. ^ 「軽便鉄道運輸開始」『官報』1917年3月24日(国立国会図書館デジタルコレクション)
  10. ^ 「鉄道免許状下付」『官報』1923年5月12日(国立国会図書館デジタルコレクション)
  11. ^ 「地方鉄道運輸営業一部廃止並営業哩程変更」『官報』1924年3月19日(国立国会図書館デジタルコレクション)
  12. ^ 「地方鉄道駅設置」『官報』1924年6月25日(国立国会図書館デジタルコレクション)
  13. ^ 「鉄道免許状下付」『官報』1928年5月12日(国立国会図書館デジタルコレクション)
  14. ^ 『鉄道統計資料. 昭和6年度』(国立国会図書館デジタルコレクション)
  15. ^ 「鉄道免許失効」『官報』1931年10月15日(国立国会図書館デジタルコレクション)
  16. ^ 今尾 (2008)
  17. ^ 「地方鉄道運輸開始」『官報』1933年8月29日(国立国会図書館デジタルコレクション)
  18. ^ a b “南海貴志川線 全車冷房化に置換 4月から ワンマン運転、増発も”. 交通新聞 (交通新聞社): p. 3. (1995年3月15日) 
  19. ^ 「鉄道記録帳」『RAIL FAN』第51巻第12号、鉄道友の会、2004年12月号、28頁。 
  20. ^ たま神社建立と「たまⅡ世駅長」誕生! - ニタマ駅長が襲名 - Archived 2015年8月11日, at the Wayback Machine. - 和歌山電鐵、2015年8月10日
  21. ^ 森口誠之『鉄道未成線を歩く〈私鉄編〉』JTB、2001年、p.178
  22. ^ 森口誠之『鉄道未成線を歩く〈私鉄編〉』JTB、2001年、p.179
  23. ^ 貴志川線と南海加太線を1本化構想」わかやま新報、2009年3月5日

関連項目[編集]

外部リンク[編集]