人工降雨

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人工降雨(じんこうこうう、英語:cloud seeding、rainmaking[1])とは、人工的にを降らせる気象制御のひとつ。降った雨は人工雨(artificial rain)ともいう。を降らせる場合は人工降雪という。cloud seedingは「気象種まき」とも訳される[2]

種類と概要[編集]

  • 室内での作物の栽培実験や自然斜面の崩壊実験、または映画やテレビドラマで雨のシーンを撮影するなどのために、人工降雨発生装置などを使用して雨を降らせる場合があるが、これは散水に近い。
  • 実際の気象に働きかけて、自然な降雨を促す人工降雨があり[3]、降雨を促進する物質(シーディング物質)の散布や、降雨を促す衝撃波の照射といった作業が必要となる。

この記事では特に注記がない限り、後者について記述する。

原理[編集]

雨の生成[編集]

雨は、熱帯地方では例外もあるが、通常は氷点下15℃以下の低温のの中で発生した氷晶が昇華核となって周囲の水蒸気を吸収して雪片となり、雲中を落下して成長しながら、暖候期には途中で溶けて雨粒となって降る。寒候期でも、気温が高いと溶けて雨になる。いずれにしても、雨を降らせるには雲の中に氷の粒を作ってやる必要がある。その氷晶を作るのは空気中に浮かぶ微小な粒子で、主に海の波飛沫で吹き上げられた塩の核であり、他に陸上から生じた砂塵などの粒子もある。それらの周りに、雲の中の水蒸気が昇華と低温の影響で氷となって付き、初めに述べたように成長して雪片となるのである。

人工降雨の方法[編集]

「雲の種」を撒くための飛行機

雨ができるには以上のように、核になる粒子と低温の雲が必要であるが、ある程度発達した積雲層積雲の上部では温度は0℃以下になっているものの、氷点下15℃くらいになるまでは、過冷却と言ってまだ水滴のままであり、雪片の形成に至らず、雨は降らない。そこへ、強制的に雪片を作るような物質を散布してやれば雨を降らせる可能性ができるわけで、これが人工降雨の考えである。このような方法は、クラウドシーディング(cloud seeding、雲の種まき)、あるいは単にシーディングとも呼ばれる。

その材料として、ドライアイスヨウ化銀が用いられる。ドライアイスを飛行機から雲に散布する事で温度を下げ、またドライアイスの粒を核として氷晶を発生・成長させる。またヨウ化銀の場合は、その結晶格子が六方晶形と言って氷や雪の結晶によく似ているため、雪片を成長させやすい性質がある。また、ドライアイスの代わりに液体炭酸を用いる手法もある。

散布の方法としては、飛行機を用いる他、ロケットや大砲による打ち上げもある。ヨウ化銀の場合は、地上に設置した発煙炉から煙状にして雲に到達させる方法もある。

ただ、散布する物質が環境に与える影響を懸念する声もある。ヨウ化銀は弱い毒性があり大量に異常摂取すれば悪影響もありうるとされる。

目的[編集]

  • 水不足旱魃などの対策が最も一般的で、世界各地で実施されており、日本でも、1964年夏に東京を中心とする関東地方で記録的な水不足が起きた際、水源地付近で実施された事が知られている。現在も多摩川水系の小河内ダムでこの設備が稼働中である[4]
  • その他には大きなイベント当日の好天を狙って事前に雨を降らせたり、エアコンの電力消費を抑えるため、又は黄砂による大気中の砂塵除去のためというものもある。

歴史[編集]

古代から、水不足に人びとが悩まされた場合には、雨乞いなどの祈祷を通じて雨を「人工的」に降らせたという記録が各国にあるが、当時のデータが不十分のため、実証できていない。ただし、大規模な焚き火によって煙や塵が空中にのぼり、それがシーディング物質のような効果を持ったのではないかと推定する説もある。

近現代において、人工降雨が科学的に研究されるようになった。具体的な手法は伝わっていないが、20世紀初頭のアメリカ合衆国気象学者チャールズ・ハットフィールドは、職業的に人工降雨を行っていた。1946年バーナード・ヴォネガットヨウ化銀が雲の核を形成する薬品として使えることを発見。同年、同じ研究所に所属していたアーヴィング・ラングミュアによって、初の実験が行なわれた。

日本における研究[編集]

日本では、1950年代から70年代にかけて、渇水対策や水資源確保、水力発電用の水確保を目的に、各地で実験が行われた。しかし、発電量に占める水力発電の比率が低下するにつれて研究は下火になっていった。

近年、国連などが2025 年までに世界的な水不足に直面すると指摘したのを受けて、文部科学省は、平成18年度より「渇水対策のための人工降雨・降雪に関する総合的研究」を立ち上げている[5]

文部科学省「渇水対策のための人工降雨・降雪に関する総合的研究」[編集]

文部科学省「渇水対策のための人工降雨・降雪に関する総合的研究」では、人工降雨および人工降雪の二つが研究された[6]。責任機関は気象庁気象研究所、研究代表者は村上正隆

研究手法[編集]

文部科学省「渇水対策のための人工降雨・降雪に関する総合的研究」においては、以下のような手法を用いて研究が実施された。

  • 統計解析
  • 多波長ドップラー偏波レーダ・2波長ライダー・多波長マイクロ波放射計などの地上リモートセンシング
  • 衛星リモートセンシング
  • 研究用航空機による雲・降水の直接観測
  • 航空機および地上からのシーディング技術
  • 高精度・高分解能の数値気象モデル
  • 積雪融雪流出モデル
  • 雲生成チェンバー

などの種々の手法を用いて、これまでにない総合的人工降雨・降雪研究を実施し、あわせて渇水緩和対策としての水資源管理技術の高度化を図る。

研究内容[編集]

以下、人工降雨に関する研究についての内容を記す。

平成18年度から平成20年度にかけての第一期研究では、

  • 最も有効なシーディング物質(粒子)の物理化学的特性の同定
  • 吸湿性粒子も取り扱える高精度なシーディングモデル(ビン法NHM)の開発・改良
  • 各種リモセン技術を用いた微物理構造導出アルゴリズムの開発。およびそれを用いて、有効雲の出現頻度をシーズンを通して観測。
  • 航空機からのシーディング(ドライアイス・吸湿性粒子)による増雨効果の判定
  • 室内実験・数値実験・野外シーディング実験・モニタリング観測の結果の総合的評価

第II期(平成21年度~平成22年度)においては、

  • 最適シーディング法・効果判定法など、人工降雨技術の高度化を図る。
  • 改良型総合的水資源管理システム(ビン法NHM・積雪融雪流出モデル・水管理モデルを複合)の構築。およびそれを用いて、種々のシーディング方法による人工降雨の渇水対策技術としての有効性を実証的に総合評価。
  • 人工降雨による広域の環境影響評価

なお、研究の成果については、

  • 「渇水発生頻度(10年に2~3回)および自然現象の変動性を考慮すると、直接観測機会の確保、人工降雨・降雪に適した雲の観測、有効雲判別法・最適シーディング法・効果判定法の確立など航空機による人工降雪技術の高度化と人工降雨の可能性評価」に3年を要し、人工降雨・降雪実験からシーズンを通した総合的なシーディング効果の実証的研究評価までにさらに2年を要する。

とされた[7]

人工降雨の限界と問題点[編集]

人工降雨はある程度発達した雨雲がある場合に有効であり、かつ成功するもので、雲の無い所に雨雲を作って雨を降らせるのは不可能である。その雨量も、本来の雨量を1割程度増加させるくらいで、自由に降水量を制御できるまでには至っていない。ある程度発達した雲においても、スーパーセルなど非常に強い上昇気流や複雑な気流を伴う雲の場合、降水を制御するのは困難である。

中国における実験[編集]

  • 中国では進行する砂漠化に伴う水不足対策のため、気象局がヨウ化銀を搭載した小型移動式ロケットを打ち上げて、世界でも最大規模の人工降雨を行っている。
  • 北京五輪の数年前より、8月8日に予定されていた開会式で人工降雨が行われるのではないかと言う報道があった。開会式の日は日本の梅雨に相当する比較的雨の多い時期にあたるため、雨雲が北京に流れてくる前に人工的に雨を降らせ、雲を消散させて開会式会場付近の晴天を確保するというもので、中国政府が計画していた。実際に、開会式当日にヨウ化銀を含んだ小型ロケット1104発が市内21カ所から発射された。効果は不明であるが、開会式は晴れだったため、雲の消散に寄与した可能性は否定できない[8]

インドにおける実験[編集]

インドでも、2003年から2004年にかけて、アメリカのウェザーモディフィケーション社(Weather Modification Inc. [9])のとの提携によって人工降雨を行った[10]。2008年にはアーンドラ・プラデーシュ州においても実施された[11]

アメリカにおける研究と実践[編集]

アメリカ合衆国では、旱魃対策で人工降雨が実践されてきた。また雷雨時のを減少させたり、空港でのを低減させるのにも実践されてきた。スキーリゾート地でも人工降雪が行われている。

北米州間気象調整会議(North American Interstate Weather Modification Council。NAIWMC)では、北米11の州とカナダのアルバータ州において気象制御(気象調節)プログラムが進行している[12]

2006年にはワイオミング州において880万ドルの予算で人工降雨が実施された[13]

気象調整を行う民間会社[編集]

アメリカにおいては以下のような気象調整サービスを行う民間会社がある。

  • Aero Systems Incorporated [4]
  • Atmospherics Incorporated [5],
  • North American Weather Consultants [6],
  • Weather Modification Incorporated [7],
  • Weather Enhancement Technologies International [8],
  • Seeding Operations and Atmospheric Research (SOAR) [9]

1978年の気象制御を慈善目的での使用に限定する国際条約にアメリカ合衆国は調印したにもかかわらず、アメリカ空軍(USAF)は、1996年、戦場での人工降雨を提案した。

ヨーロッパにおける研究と実践[編集]

フランスでは1950年代に人工降雨が開始された。1951年に大気災害国立対策研究所(Association Nationale d’Etude et de Lutte contre les Fléaux Atmosphériques。略称:ANELFA)が設立された[14][15]。スペインでも同様の機関( Consorcio por la Lucha Antigranizo de Aragon)が設立された[15]

ロシアにおける研究と実践[編集]

1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故後、ロシア空軍によってベラルーシ上空で気象種まき(人工降雨のためのシーディング物質散布)が行われた[16]

2006年7月のG8サミットにおいて、プーチン首相はフィンランドの要請に応じて、ロシア空軍による人工降雨を実施したと発言した[17]。2008年6月17日にはモスクワ上空で同軍によるシーディング物質としてのセメント散布が実施されたが、一部のセメント袋が粉状にならずに民家に落下した[18]。2009 年にはユーリ・ルシコフモスクワ市長が、「雪のない冬」を提言し、空軍によるシーディング物質散布を実施した[19]

オーストラリアにおける実施[編集]

This Cessna 441 is used to conduct cloud-seeding flights on behalf of Hydro Tasmania

オーストラリアでは、1960年代に国立科学工学研究機関(The Commonwealth Scientific and Industrial Research Organisation。略称:CSIRO[20])によるタスマニア州のタスマニア水力発電所での実施が成功している[21]

2004年から2014年にかけてオーストラリア政府及び州政府とスノーウィ水力発電社[22]は、「タスマニア水力発電クラウドシ−ディング計画」を開始、人工降雪を実施している[23] 。ただし、ニューサウスウェールズ州の自然資源委員会は2006年の会議において降雪の増加は認められるものの、安定した供給は難しいとコメントした。

2006年12月にはクイーンズランド州政府は、760万豪ドルをかけて「温暖雲(warm cloud)」による人工降雪計画を、気象局とアメリカ大気研究センターとの提携によって開始した[24]

アフリカにおける実施[編集]

2006年からマリ共和国ニジェール共和国においてアメリカ大気研究センターとの提携で大規模な人工降雨の実験が行われている[25][26]

脚注[編集]

  1. ^ 英語版各項目を参照
  2. ^ JST科学技術用語日英対訳辞書より。[1]
  3. ^ 前者が雨が降っているように「見せかけている」のに対し、後者は実際に雨を「降らせている」といえる
  4. ^ http://mainichi.jp/select/news/20130808k0000e040230000c.html 人工降雨装置:12年ぶり出番か
  5. ^ 渇水対策のための人工降雨・降雪に関する総合的研究・プロジェクト概要
  6. ^ 同リンク
  7. ^ 同リンク
  8. ^ [2]China Lets it Snow to End Drought. BBC 19 February 2009.Branigan, Tania. (2 November 2009) "Nature gets a helping hand as snow blankets Beijing" Guardian.
  9. ^ Weather Modification Inc.
  10. ^ Sibal, Shri Kapil (4-8-2005). “Cloud Seeding”. Department of Science and Technology. 2009年11月26日閲覧。
  11. ^ http://deccan.com/City/Citynews.asp#State%20to%20seed%20clouds%20again[リンク切れ]
  12. ^ 北米州間気象制御会議.
  13. ^ National Center for Atmospheric Research (2006年1月26日). “Wyoming cloud seeding experiment begins this month”. Eureka Alert. 2009年11月27日閲覧。
  14. ^ Association Nationale d’Etude et de Lutte contre les Fléaux Atmosphériques
  15. ^ a b MITIGATION OF HAIL DAMAGES BY CLOUD SEEDING IN FRANCE AND SPAIN”. 5th European Conference on Severe Storms. 2010年11月21日閲覧。
  16. ^ Gray, Richard (2007年4月22日). “How we made the Chernobyl rain”. Telegraph (London). http://www.telegraph.co.uk/news/worldnews/1549366/How-we-made-the-Chernobyl-rain.html 2009年11月27日閲覧。 
  17. ^ “Bush's greeting for his pal Blair”. BBC News. (2006年7月17日). http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk_politics/5189048.stm 2010年4月30日閲覧。 
  18. ^ Baldwin, Chris; Janet Lawerence (2008年6月17日). “Sometimes it rains cement”. Reuters. http://www.reuters.com/article/oddlyEnoughNews/idUSHAR75844520080617?feedType=RSS&feedName=oddlyEnoughNews 2009年11月27日閲覧。 
  19. ^ Moscow Testing Cloud Seeding; Promises Winter Without Snow”. Meteorology News (2009年10月19日). 2009年11月26日閲覧。
  20. ^ The Commonwealth Scientific and Industrial Research Organisation
  21. ^ On the Analysis of a Cloud Seeding Dataset over Tasmania
  22. ^ Snowy Hydro Limited[3]。オーストラリア政府と州政府が出資している会社。
  23. ^ Cloud seeding”. Government of New South Wales, Australia (2010年). 2010年11月21日閲覧。
  24. ^ Griffith, Chris. “Cloud Seeding”. Courier mail. http://media01.couriermail.com.au/multimedia/2007/03/070300-water/story6-1.html 2009年11月27日閲覧。 
  25. ^ Mali and Niger using cloud seeding
  26. ^ Mali & Niger using cloud seeding

関連項目[編集]

外部リンク[編集]