リベラル・アーツ・カレッジ
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リベラル・アーツ・カレッジ(英語: Liberal arts college, LAC)は、アメリカ合衆国において人文科学・自然科学・社会科学及び学際分野にわたる学術の基礎的な教育研究を行う四年制大学(主に学士課程)。全寮制少人数教育を特徴とする。ほとんどの場合、大学院がなく、教授は学部学生の教育に専念する。本稿では、アメリカ合衆国の事例を主として扱う。
目次
リベラル・アーツ・カレッジの特色[編集]
アメリカの大学ランキング[1]では、大学院を持つ大きな総合大学(University)とリベラル・アーツ・カレッジとに分けられている。総合大学に対して、リベラル・アーツ・カレッジでは、少人数体制による教育が行われる。自治体の予算上の制約があることの多い州立大学や、研究中心の総合大学では、学部学生に対する教育がやや軽視される傾向がある。州立大学では大学院生のティーチングアシスタント(日本ではTAと略されることも多い)などが授業をしたり、一度に大人数の学生を相手にするマスプロ的な講義が多くなったりるする傾向がある。それに対して、リベラル・アーツ・カレッジでは、教授が直接少人数の学部学生を教育する。教員と学生とのつながりが非常に強い。また少人数であるために学生同士の絆も強い。理工系を志す学生には学部学生のための研究プロジェクトに参加する機会も多い。一流のリベラル・アーツ・カレッジ卒業生は、その後、研究総合大学の大学院や専門職大学院、またはメディカル・スクールや、ロー・スクールへ進学することが多い。
リベラル・アーツ・カレッジは、その多くが学生数が1,000人から2,000人程度の小規模な私立大学である。(ハーバード大学の学部生数は6,500人程度)。学生1人当たりの教育経費が高いため、総じて学費は高いが、一流のリベラル・アーツ・カレッジでは、卒業生の寄付や各種財団やNIH、NSFからの資金があり、恵まれた研究教育環境を有する。学費や寮費に関しては、学生の親や本人の資産や収入を考慮した上で、奨学金が給付される。ほとんどのリベラル・アーツ・カレッジでは、学士課程教育のみを行い、大学院を設置しない。学生たちは、自然科学・社会科学・人文科学にわたる諸分野の中から様々な授業を履修し、通常、2年目の終わる前に学位を取得するための専攻を選択する。実験や実習を伴う授業も多く、美術や音楽の本格的な実技が開講される大学も少なくない。実験や実習を必要としない授業の場合は、多くの文献を短期間に読みこなし、それをもとに少人数でプレゼンテーションや議論やリサーチペーパーを書くといった流れが主となる。
リベラル・アーツ・カレッジの中には女子大学もあり、ヒラリー・クリントンが卒業したウェルズリー大学のほか、スミス大学やマウント・ホリヨーク大学などが挙げられる。
リベラル・アーツ・カレッジの学生の様子[編集]
リベラル・アーツ・カレッジは主に人口数千人から数万人の地方都市にあることが多い。また全寮制の場合も多い。毎日の学生生活のほとんど全てがキャンパス内で完結する。
リベラル・アーツ・カレッジには、少人数制ゆえに学生に対する面倒見がよい、都会的な刺激が少ないため勉強に集中できる、などのメリットがある。また、様々な専攻・副専攻を履修することが可能なため、学生自身が自らの進路を考える機会を提供するという機能も果たしている。
学生の親にとっても、都会より治安もよく、一日三食の食事が出され、看護師や警備員がいる寮に生活するリベラル・アーツ・カレッジは、安心して子どもを任せられるとの評判がある。特に上流階級、アッパーミドル階級(一般に世帯年収10万ドル以上)の親は、子どもが自らの将来をゆっくり考えるために大自然の中で勉学に励むことが、社会へ出るための大切な訓練であるとして高く評価している人々が多い。名門リベラル・アーツ・カレッジでは同窓生のネットワークが発達しており、大学院修了後の就職活動や社会人になってからのビジネス・ネットワークに好影響を与える。
このように、リベラル・アーツ・カレッジはアメリカにおける上流階級やアッパーミドル階級の価値観を大きく反映しており、実際に上流階級やアッパーミドルクラス出身の学生が多い。多くの大学は、広報活動や奨学金制度などを通じて、人種的マイノリティーを含む社会・経済的弱者層に属する学生の受け入れにも熱心である。奨学金を得ている学生が半数を超える学校も多い。
リベラル・アーツ・カレッジの歴史[編集]
もともと教会から発展したものが多く、エリート養成機関としての役割を担ってきた。
イギリス植民地時代(17世紀~)
- ピューリタンがプリマスに上陸した16年後の1636年にアメリカで最初の高等教育機関(後のハーバード大学)が創立、続いて1693年にはウィリアム・アンド・メアリー大学が創立され、その後、イギリスの植民地であった東部13州には後代のアイビー・リーグとなるリベラル・アーツ・カレッジが次々と設立されていった。
アメリカ独立後
- もともと独立前の植民地政府から税金を交付されていたが、州立大学の設立とともにその関係は薄れていく。
19世紀後半から20世紀前半
- アメリカの技術産業の高まりとともに農業試験場や師範学校、工業技術学校や職業学校などが次々に州立大学になったり、あたらしく設立された。
20世紀後半
- スプートニクショックによって大学院が増設され次第に大学院中心の研究型総合大学が増えていく。多くの大学院中心の大学が台頭する中で、リベラル・アーツ大学の女子大学は女性の社会進出と共学志向から競争力を失っていたが、人種による区別をなくし、学部中心の教育に励むことで多くの学生を大学院に進学させるなどの取り組みが功を奏し、再び競争力を取り戻している。しかし時代の流れにあわせて共学化を果たした女子大学も多い。
- 共学の大学でも、専攻の少なさや施設の未整備な部分を補うために周りの大学と協定を結んだり、単位互換などの取り組みやメディカルスクール進学課程や第二学士、副専攻などの取り組みを行っている。
- 現在ではお金持ちの子息のみでは無く、アッパーミドル階級の子息の進学先として定着している。
戦後の日本における一般教育および教養課程や、一部の大学に存在する教養学部、また近年相次いで設立されている類似の諸学部は、こうしたアメリカのリベラル・アーツ・カレッジの教育に範を取っているが、現状は一部を除くと非常に異なっている。
著名なリベラル・アーツ・カレッジ出身者[編集]
- 新島襄(同志社大学創立者) (アマースト大学)
- 内村鑑三(キリスト教思想家、文学者) (アマースト大学)
- 本間長世(東京大学名誉教授) (アマースト大学)
- 千葉眞(国際基督教大学教養学部教授) (アマースト大学)
- 津田梅子 (津田塾大学創立者) (ブリンマー大学)
- 宋美齢 (中華民国の指導者、蒋介石の妻) (ウェルズリー大学)
- 永井荷風 (小説家) (カラマズー大学)
- ジェームズ・ガーフィールド(第20代アメリカ合衆国大統領) (ウィリアムズ大学)
- カルビン・クーリッジ(第30代アメリカ合衆国大統領) (アマースト大学)
- ゴー・チョク・トン(シンガポール第2代首相) (ウィリアムズ大学)
- ハーバート・ケレハー (サウスウエスト航空創始者)(ウェズリアン大学)
- スティーヴン・ソンドハイム(作曲・作詞家) (ウィリアムズ大学)
- ワン・リーホン(歌手・俳優) (ウィリアムズ大学)
- ウェンデル・スタンリー(1946年のノーベル化学賞受賞者) (アーラム大学)
- ウイリアム・スミス・クラーク(札幌農学校初代教頭・"Boys be ambitious!") (アマースト大学)
- マイケル・ヘイデン・アマコスト(アメリカの元駐日大使) (カールトン・カレッジ)
- ジェフ・バーグランド (帝塚山学院大学教授) (カールトン・カレッジ)
- ウォルター・モンデール (アメリカの元駐日大使) (マカレスター大学)
- ロバート・ノイス (インテル創立者) (グリネル大学)
- ヒラリー・クリントン(元上院議員・国務長官) (ウェルズリー大学)
- マデレーン・オルブライト(アメリカ初の女性国務長官) (ウェルズリー大学)
- コフィ・アナン (元国際連合事務総長) (マカレスター大学)
- バラク・オバマ (第44代アメリカ合衆国大統領) (オクシデンタル大学に2年、その後コロンビア大学)
- スティーブ・ジョブズ (前アップルCEO) (リード・カレッジ(中退))
名門リベラルアーツ・カレッジ[編集]
リトル・スリー校 (アルファベット順)
- アマースト大学 Amherst College (マサチューセッツ州)
- ウェズリアン大学 Wesleyan University (コネチカット州)
- ウィリアムズ大学 Williams College (マサチューセッツ州)
リトル・アイビー校 (アルファベット順)
- アマースト大学 Amherst College (マサチューセッツ州)
- ベイツ大学 Bates College (メイン州)
- ボウディン大学 Bowdoin College (メイン州)
- コルビー大学 Colby College (メイン州)
- コルゲート大学 Colgate University (ニューヨーク州)
- ハミルトン・カレッジ Hamilton College (ニューヨーク州)
- ハヴァフォード大学 Haverford College (ペンシルベニア州)
- ラファイエット大学 Lafayette College (ペンシルベニア州)
- ミドルバリー大学 Middlebury College (バーモント州)
- スワースモア大学 Swarthmore College (ペンシルベニア州)
- トリニティ・カレッジ Trinity College (コネチカット州)
- ヴァッサー大学 Vassar College (ニューヨーク州)
- ウェズリアン大学 Wesleyan University (コネチカット州)
- ウィリアムズ大学 Williams College (マサチューセッツ州)
その他知名校
- ウェルズリー大学 Wellesley College (マサチューセッツ州)
- セントジョンズ大学 St. John's College(メリーランド州
- カールトン・カレッジ Carleton College (ミネソタ州) (カナダ、オタワのカールトン大学とは無関係)
- スミス大学 Smith College (マサチューセッツ州)
- マウントホリヨーク大学 Mount Holyoke College (マサチューセッツ州)
- クレアモント・マッケナ大学 Claremont McKenna College (カリフォルニア州)
- オクシデンタル大学 Occidental College (カリフォルニア州)
- ポモナ・カレッジ Pomona College (カリフォルニア州)
- ハーベイ・マッド大学 Harvey Mudd College (カリフォルニア州)(エンジニアリングと数学に特化したリベラル・アーツ・カレッジ。クレアモント・カレッジズの一つ。)
- デポー大学 DePauw University (インディアナ州)
- グリネル大学 Grinnell College (アイオワ州)
- マカレスター大学 Macalester College (ミネソタ州)
- デイビッドソン大学 Davidson College (ノースカロライナ州)
- ワシントンアンドリー大学 Washington and Lee University (バージニア州)
日本における事例[編集]
日本では、国際基督教大学などごく一部の大学でアメリカのようなリベラル・アーツ教育を行っている。また主に教養学部がこの事例を担おうとしているが、アメリカのような少人数教育ではなく、専任教員1人あたりの学生数が多いのが現状である。詳細は教養学部及びリベラル・アーツ教育を行う大学を参照されたい。
参考文献[編集]
- デイヴィッド・W. ブレネマン/宮田敏近『リベラルアーツ・カレッジ 繁栄か, 生き残りか, 危機か』玉川大学出版部1996年 ISBN 4-472-10771-6
- 宮田敏近『アメリカのリベラルアーツ・カレッジ 伝統の小規模教養大学事情』玉川大学出版部1991年 ISBN 4-472-09291-3
脚注[編集]
関連項目[編集]
外部リンク[編集]
- CollegeNews.org - The Annapolis Group (英語)
- Associated Colleges of the Midwest (英語)
- Associated Colleges of the South (英語)
- Consortium of Liberal Arts Colleges (英語)
- Consortium for a Strong Minority Presence at Liberal Arts Colleges (英語)
- Council of Public Liberal Arts Colleges (英語)
- Great Lakes Colleges Association (英語)
- Christian College Consortium (英語) - アメリカ合衆国内のキリスト教系リベラル・アーツ・カレッジの提携
- Selective Liberal Arts Consortium (英語)
- Council for Christian Colleges & Universities (英語)
- Consortium of Independent Colleges in Virginia (英語)
- Project Pericles (英語)