ディープ・スロート (ウォーターゲート事件)

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ディープ・スロート(Deep Throat)とは、1972年アメリカで発覚したウォーターゲート事件で、『ワシントン・ポスト』の記者に指導する形で情報を示した人物の通称。長い間正体は不明であったが、後にFBI高官であったマーク・フェルトであったことが判明した。事件の同年1月に公開され、大ヒットしたポルノ映画ディープ・スロート』にちなんで、『ワシントン・ポスト』編集局次長によって名付けられた。

概要[編集]

ディープ・スロートは厳密には内部告発を行なったわけではない。世間に対して自ら何かを訴えたわけではなく、情報を自分で漏らしたわけでもない。情報を入手して世間に明かしたのは、『ワシントン・ポスト』の2人の記者、ボブ・ウッドワードカール・バーンスタインである。

具体的にディープ・スロートが行ったのは、情報を得る方法を記者達に示唆した事である。「ここに情報がある」という風に直接的に情報を示すかわりに、「こういう情報を探せ」という様な道筋をおおまかに示した。

つまり、具体的に道筋を見つけたのは、あくまでも記者たちの仕事だった。その後、彼らが取材し見つけたものに対して、ディープ・スロートは「それではまだ不足だ。もっと探せ」とか、「同じ種類の情報をもっと探せ。二重チェックせよ」などと指導した。あるいは、「それでいい」と合格点を与えることもあった。

つまり、ディープ・スロートは、どのような情報があるかを明らかに知っていた事になるが、自分で直接教えることはしていないため、秘密漏洩をしたわけではない。このことから、ディープ・スロートは、ウォーターゲート事件の真相を知っていたが、何らかの理由で自ら告発者となることが出来なかったと考えられた。

正体[編集]

ディープ・スロートが誰なのかは、長い間謎であった。フレッド・ラルー(ニクソン政権幹部で、事件の隠蔽工作を行ったとされる)や、ジョージ・H・W・ブッシュヘンリー・キッシンジャーらの名が噂された。

また、レン・コロドニーとロバート・ゲトリンの著書「静かなるクーデター」(新潮社刊)では、ペンタゴンからニクソン政権に送り込まれた軍事問題補佐官、アレクサンダー・ヘイグ准将以外ではありえないと論じられた[1]

2005年5月31日、当時の連邦捜査局副長官だったマーク・フェルトが自分がディープ・スロートであったことを公表した。ディープ・スロートからの指示で事件を取材したウッドワードも、フェルトがディープ・スロートであったことを認め、ウッドワードは内幕を明かした『ディープ・スロート 大統領を葬った男』(伏見威蕃訳、文藝春秋、2005年10月)を刊行している。

フェルトは2008年12月18日、カリフォルニア州サンタローザ市内の自宅で95歳で死去している。

公開済みのニクソンの大統領執務室での会話録音テープなどから、ホワイトハウス側は、事件当時からフェルトがディープ・スロートではないかと疑っていた節があったとされる。

行為に対する評価[編集]

ディープ・スロートの正体が明らかになるとともに、行為への様々な評価が噴出した。

元上院議員のマイク・グラベルは「彼は英雄であり、自由勲章を与えられるべきだ」と告発を称賛した。一方、ニクソンのスピーチライターでもあったパトリック・ブキャナンは「彼が30年以上隠し通してきたのは、自分の行為を恥じているからだ」と非難した。43代大統領ジョージ・W・ブッシュは、フェルトの評価について「判断するのは難しい」と述べた。

動機の一つに、フェルトのFBI長官昇進問題への個人的な不満があったとされる点も、評価が分かれる一因とみられる。

映画化・テレビ化[編集]

映画監督アンドリュー・フレミングは、「ディープ・スロートの正体はわずか15歳の2人の女子学生であった」とする大胆な設定のコメディー映画『キルスティン・ダンストの大統領に気をつけろ!』(1999年。キルスティン・ダンストミシェル・ウィリアムズ主演)を製作した。

コミック『ウォッチメン』においてアラン・ムーアは、ニクソンに送り込まれたヒーロー「コメディアン」によってウォーターゲート事件は隠匿され、結果ニクソンが大統領の座に座り続けたとする歴史改変を行っている。ゲーム版においてはこの一件が中心となっており、ディープ・スロートことフェルト、およびワシントン・ポストの記者ウッドワードとバーンスタインらが殺害されるに至った経緯が描かれる。

テレビドラマ『X-ファイル』に登場する情報提供者の名も同じディープ・スロートで、設定はウォーターゲート事件で『ワシントン・ポスト』に情報提供した人物とされている。

慣用[編集]

転じて、現在「ディープ・スロート」は、「政府の不正行為に関する情報を提供する高官」「内部告発者」「密告者」などを意味する慣用句として使われている(ただし、上記の通りディープ・スロートは自ら内部告発や不正の暴露を行ったわけではない)。

脚注[編集]

  1. ^ 「ぼくはこんな本を読んできた」立花隆文藝春秋社、233頁

外部リンク[編集]