アンガラ・ロケット

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MAKS 2009で展示されたアンガラの模型

アンガラ・ロケット (Angara rocket) は軌道上へ大重量の貨物を投入するために計画されたロシアの宇宙打ち上げロケット。現在モスクワにあるクルニチェフ国家宇宙科学製造センターのもとで開発が進められている。名称はロシアのアンガラ川に由来する。

このロケットはロシアのプレセツク宇宙基地で最初に打ち上げられる予定であり、これはロシアの歴代ロケットを打ち上げてきたカザフスタンバイコヌール宇宙基地に対する依存を減らすためである。ただし、重量級のアンガラA5ロケットはプレセツクとバイコヌールの両方で打ち上げられる予定である。なお、ボストチヌイ宇宙基地にも射点が建設される予定。

アンガラロケットの開発後はロシアはウクライナからゼニットロケットを購入する必要がなくなると考えられる。

アンガラロケットはソビエト連邦時代に活躍したプロトンロケットに並ぶ強力な打ち上げ能力を擁している。アメリカのEELVと同様に規格化された設計が為され、同シリーズにより必要に応じて2,000から40,500kgの貨物を低軌道に投入できる。これにより既存のいくつかの打ち上げロケットを置き換える事ができ、必要に応じて補助ブースターとして回収可能性が特徴であるバイカル・ブースターを用いる。これにより大幅なコスト削減が可能としている。バイカル・ブースターのバイカルはロシアのバイカル湖に由来する。

最初の打ち上げは、プレセツク宇宙基地からアンガラ1.2バージョンで行われるが、財政難の影響で射点の建設が遅れているため、打上げ予定は2014年以降に遅延した。ただ、打ち上げ実験自体は、1段目にアンガラロケットと同様のものが使われている韓国の羅老打ち上げと同時に始まっており 、2009年に初の打ち上げが行われた[1][2]

目的[編集]

アンガラロケットの開発の主な目的は安全保障上ロシアが他国に依存せずに独自の打ち上げシステムを持つ事である。アンガラはカザフスタン共和国内のバイコヌール宇宙基地からの打ち上げを減らし、ウクライナのロケット技術への依存を減らす事を目的としている。[3]従来使用されていた有毒な推進剤の使用に起因する環境問題も開発の要因の一つである。[3]

このロケットの開発により既存のいくつかのロケットを置き換える事を目的としている。軽量のアンガラ1.1と1.2はコスモス-3Mツィクロンロコット[3] アンガラ3はウクライナ製のゼニットを、アンガラ5はプロトンロケットの置き換えをそれぞれ目的としている。[4]主バージョンであるアンガラ5は最も期待されておりロシア国防省によって必要とされている。[3]

クルニチョフは同様にロシアの現行のロケットには存在しない45tから75tの打ち上げ能力を有する超重量級のアンガラ7も開発中である。しかしながら現在アンガラ7の開発は予算上保留されている。また、クルニチェフは有人用のアンガラ5Pも構想中である。[3]

設計[編集]

アンガラロケットのバージョン

アンガラロケットはEELVに似たモジュラー設計でユニバーサル・ロケット・モジュール(URM)を基にしている。規格に応じて1段目は1, 3, 5または7本のモジュールから構成される。EELVとは異なりアンガラは固体燃料ロケットブースター(SRB)は使用しない。

URMは単一の構造体で酸化剤タンクと燃料タンク(両方のタンクはスペーサーで結合される)と推進剤注入口を含む。それぞれのURMは液体酸素とケロシンを燃料とする燃焼室が一基のエンジンであるRD-191を備える。RD-191は燃焼室が4基あるエネルギアロケットでかつて使用されたRD-170の設計だけでなく、現在ゼニットロケットでも使用されているRD-171の設計も基にしている[4][5]

二段目のブロック I(URM-2とも呼ばれる)は液化酸素/RP-1を推進剤とし、KB Khimavtomatikaで開発されたRD-0124エンジンを使用する[6]。また、アンガラ1.1のみ二段目にブリーズ-KMを使用する。アンガラ5はブリーズ-M上段ロケットあるいはKVRBを使用する[5]。大半のバージョンは無人の打ち上げを対象とするが、アンガラA5PとアンガラA7Pは有人打ち上げ能力を有するように設計される。すべてのアンガラロケットは同一の射場設備を使用する[5]

打ち上げ施設[編集]

ロケットはロシアのプレセツク宇宙基地と現在建設中のボストチヌイ宇宙基地から打ち上げられる予定である。ロシアは現在使用中のカザフスタンのバイコヌール宇宙基地の使用を減らしたいと願っている[5]。カザフスタンとのBaiterek計画ではアンガラA5の打ち上げがバイコヌールから行われる可能性もある[3]。2009年プレセツク射場の建設予算が減額されアンガラの開発の主な障害であると報告された[7]

生産と販売[編集]

ユニバーサルロケットモジュールとブリーズ-M上段ロケットの生産はオムスクのクルニチェフの子会社であるPolyot生産会社で行われる。2009年にPolyotは771.4 RUB (約$25百万ドル)をアンガラの製造ラインに投資した[3]。RD-191エンジンの設計と試験はNPOエネゴマシュが行い生産はペルミプロトン-PMが行う[3] 。 すべてのアンガラシリーズは商業打ち上げに販売される予定で値段はアンガラ1.1が約$20百万ドルである[4]

アンガラ1.2は2042年にプレセツク宇宙基地から打ち上げられる予定である。

仕様[編集]

バージョン アンガラ 1.1 アンガラ 1.2 アンガラ A3 アンガラ A5P アンガラ A5 アンガラ A5/KVRB アンガラ A7P アンガラ A7V
一段目 1xURM, RD-191 1xURM, RD-191 3xURM, RD-191 5xURM, RD-191 5xURM, RD-191 5xURM, RD-191 7xURM, RD-191 7xURM, RD-191
二段目 ブリーズ-KM Block I, RD-0124A Block I, RD-0124A -- Block I, RD-0124A Block I, RD-0124A -- --
三段目 ( LEOには使用しない) -- –- ブリーズ-M/KVSK[8] -- ブリーズ-M/KVTK[8] KVRB KVTK-A7[8] KVTK-A7[8]
推力 (地上) 196 Mgf (1.92 MN) 196 Mgf (1.92 MN) 588 Mgf (5.77 MN) 980 Mgf (9.61 MN) 980 Mgf (9.61 MN) 980 Mgf (9.61 MN) 1,372 Mgf (13.44 MN) 1,372 Mgf (13.44 MN)
打ち上げ重量 149 t 171.5 t 478 t 713 t 759 t 776 t 1,125 t 1,184 t
全高 (最大) 34.9 m 41.5 m 45.8 m  ? 55.4 m 64 m  ?  ?
ペイロード (LEO 200 km) 2.0 t 3.7 t 14.6 t 18.0 t 24.5 t 28.5 t 36.0 t 40.5 t
ペイロード (GTO) -- -- 2.4/3.7 t -- 5.4/7.3 t  ?  ? --
ペイロード (GEO) –- –- 1.0/2.0 t -- 2.9/4.5 t 5.7 t 7.5 t 9 t

開発の歴史[編集]

1995年8月26日ロシア政府はアンガラロケットの開発を承認した[9]

2007年12月12日クルニチェフはNPOエネゴマシュの技術者が飛行状態に近い状態で第一段の油圧系と操舵アクチュエータの試験に成功したと発表した[9]

サリュート設計局とクルニチェフの協力でによりアンガラロケットの第一段の再使用可能なブースターロケットが設計された[10]

2008年4月14日Rian newsはクルニチェフのディレクターが月曜日に新世代のロシアのロケットの飛行試験が2010年に開始されると発表されたと報告。

2008年9月5日にNPOエネゴマシュのRD-191の開発者がエンジン完全燃焼試験が完了し、生産の準備が整ったと報告[11]

2009年1月10日最初に完成したURMが地上試験に運ばれる。低温試験と燃焼試験が2009年の前半に予定される[12]

2009年4月29日に最初の低温試験が行われURMに100t近い液体酸素が注入され油圧と空圧ポンプシステムの機能が調べられた。

2009年1月18日両方の推進剤の部材の試験が行われた。

2009年7月30日RD-191エンジンを搭載したURMの最初の燃焼試験が行われた[13]

2009年8月25日韓国の羅老ロケットは第一段にURM/RD-151が使用されており[14]、全高30 mで重量140 トンの羅老はアンガラ1.1と似ている。1回目となる打ち上げはURMの試験を兼ねており高度196 kmに達して第一段の打ち上げとしては成功したが韓国で製造された2段目のフェアリングの分離に失敗したために衛星(STSAT-A)の軌道投入はできなかった[15][16]。この一連の韓国での打ち上げでロシアは2億1000万ドルの資金を得た。

2009年12月5日、ロシア連邦宇宙局はエンジンの試験が完了したが資金不足のためにアンガラの最初の飛行試験は2011年から2012年に延期すると発表[17]。クルニチェフロケットの開発の完了までに次の3年間で10億ルーブル(約$290百万ドル)の追加の割り当てが必要だと政府に打診した。

2010年6月10日、韓国の羅老ロケット二号機は発射137秒後、通信が途絶し、爆発、墜落した。失敗の原因は韓国側が製造した二段目が予定時間前に点火した事による。

2013年1月30日、韓国の羅老ロケット3号機はロシアの全面的な技術支援の下で、衛星STSAT-2Cを軌道投入する事に成功した。RD-151エンジンを搭載した1段目はロシアが単独で開発・製造・運用し、韓国は1段目に全く関わっていない。

比較にあげられるロケット[編集]

脚注[編集]

  1. ^ 羅老号:1段目ロケット、ロシア側が負担へ 朝鮮日報. (2011年2月8日). 2011年2月14日閲覧。
  2. ^ 나로호 3차 발사 시동…러, 로켓 제작 시작 KBS. (2011年2月8日). 2011年2月14日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h Vorontsov, Dmitri; Igor Afanasyev (2009-11-10). Russia CIS Observer 3 (26). http://www.ato.ru/content/angara-getting-ready-launch 2010年1月3日閲覧。. 
  4. ^ a b c Harvey, Brian (2007). “Launchers and engines”. The Rebirth of the Russian Space Program (1st ed.). Germany: Springer. ISBN 9780387713540. 
  5. ^ a b c d Angara Launch Vehicles Family”. Khrunichev. 2009年7月25日閲覧。
  6. ^ Russia's Angara rocket family needs cash injection”. Flight International (2009年5月5日). 2009年7月25日閲覧。
  7. ^ Clark, Stephen (2009年12月4日). “Russia Delays Angara Rocket Debut as Testing Progresses”. Spaceflight Now. http://www.space.com/news/091204-angara-rocket.html 2010年1月3日閲覧。 
  8. ^ a b c d KVTK (in Russian)”. Khrunichev. 2010年1月3日閲覧。
  9. ^ a b Successful Tests of Angara Stage 1 Engine”. Khrunichev (2007年12月12日). 2010年1月3日閲覧。
  10. ^ Baikal booster stage. RussianSpaceWeb.
  11. ^ A new engine is ready for Angara (in Russian)” (2008年9月5日). 2010年1月3日閲覧。
  12. ^ URM-1 is being prepared for the burn tests (in Russian)” (2009年1月29日). 2010年1月3日閲覧。
  13. ^ Fire test of RD-191 engine in stage composition” (2009年8月3日). 2010年1月3日閲覧。
  14. ^ First launch of KSLV-1 is conducted” (2009年8月25日). 2010年1月3日閲覧。
  15. ^ Satellite fails to enter orbit, by Korea Times” (2009年8月25日). 2010年1月3日閲覧。
  16. ^ South Korea launch of KSLV-1 – Russians claim it failed” (2009年8月25日). 2010年1月3日閲覧。
  17. ^ http://www.space-travel.com/reports/Tests_Of_Angara_Rocket_Postponed_To_2012_Over_Lack_Of_Funds_999.html

外部リンク[編集]