練習機

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練習機(れんしゅうき)とは、操縦士の育成を目的とした訓練用航空機のことである。

1920年代頃から専用の練習機が開発されるようになり、航空機の高性能化が進むと訓練が必要な要素も増えたため多彩な機種が開発された。それに伴い訓練期間も伸びたため(戦闘機パイロットの場合、第一次世界大戦時は数ヶ月程度で済んだが、現代では飛行訓練だけでも3~4年は必要とする)、練習機を運用する飛行学校や訓練部隊は軍隊航空会社には欠かせない存在となっている。

構造

総じて未熟な訓練生でも操縦しやすい高い操縦性と安定性、教官がミスをカバーできる二重操縦装置、見やすくわかりやすい計器類、そして未熟さ故の手荒な操作にも耐える頑丈さなどが求められる。また、外部から飛行状況を把握しやすくするために視認性の高い塗装を施されることが多い。

コックピットの配置には、座席を前後に並べるタンデム配置と、左右に並べるサイド・バイ・サイド配置の2種に分けられる。前者のタンデム配置は機体中心線上での操縦感覚を学べ、学生に早い段階で自立心を植え付けられる長所がある。後者のサイド・バイ・サイド配置は学生と教官の意思疎通がしやすく、視界が良い長所がある。

練習機の種類

軍隊における飛行訓練では、パイロット候補生のレベルに合わせ、段階を追った飛行訓練ができるように、初等練習機基本練習機および中等練習機(旧日本軍にならい中間練習機と表現されることもある)、高等練習機といくつかの異なる練習機を用意する。一般に高度な練習機ほど操縦難易度が上がりコストもかさむため、順を追って高度な練習機を使うことになるが、練習機を多種にするのも煩雑でかえってコスト高になるため、訓練課程のカテゴリー分けはあっても実際に練習機を3~4種類とも保有する軍隊は限られている。

一般に初等練習機はレシプロプロペラ機を採用するか、もしくは低出力のエンジンを搭載したターボプロップ機をさらに減格して運用する。これで飛行の基礎を取得するが、この課程は民間機とも共通する部分があるため、民間のパイロットスクール等に委託する場合も多い。以前は初等練習の段階からジェット機(T-37、マジステール等)を使用した国もあったが、初等訓練では飛行適性を欠いた者をふるい分ける過程も存在するため、その目的でジェット機を用いるのはコスト高と墜落リスクおよびパイロット(候補生)への負担の増加の問題があり、現在はあまり行われていない。初等練習機には指導のしやすい、普通の自動車や旅客機のようなサイド・バイ・サイドの座席配置が用いられることが多い。ブルドッグTB30エプシロンといった専用の練習機の他、軽飛行機グライダーが用いられることもある。アメリカ空軍において、上記のT-37を用いたオールジェット構想が頓挫した後に導入されたT-41は、民間機としてベストセラーのセスナ 172を軍用化したものであった。イギリス空軍には、各種グライダーを使って最初等訓練を行うボランティア・グライダー学校(VGS)が存在する。

基本以上の練習機は通常、より実機の戦闘機に近く、また学生の自立心を要求されるタンデム配置である。練習任務に絞った機体が多い初等練習機に対し、基本練習機以降では武装したCOIN機や各種機器を搭載する観測機などとして実用に耐えうる機体も多い。一時期はジェット機が中心だったが、近年はジェット機に特性を似せた高速ターボプロップ機(PC-9EMB-312ツカノ等)で基本までの練習機を代替することが流行している。ジェット機を利用する場合は、小型でエンジン出力が低めの中等練習機(JL-8 カラコルムHJT-36 シターラ等)が用意されることもある。ターボプロップ機はジェット機よりも燃費が良いため運用コストが低く、なおかつ高速ターボプロップエンジンは現在主流のジェットエンジンであるターボファンエンジンとも特性が近いため、かなり有効な訓練経費削減となる。

航空自衛隊のT-2高等練習機

基本練習機、あるいは中等練習機においてジェット機の特性に慣れたあと、ジェット戦闘機のパイロットを目指す本格的な課程に進む場合は、高等練習機ないし戦闘機(第一線を引いた機種の場合もある)の複座型において基本的な戦闘訓練などを行う。戦闘訓練は高等練習機で行うべきか、あるいは戦闘機の複座型で行うかは、コスト比較においては微妙な問題である。かつては超音速飛行は音速以下の飛行とは隔絶した差があると考えられており、そのため戦闘機にかなり近い性能もしくは実機の戦闘機・攻撃機の派生形である超音速練習機(T-38T-2ジャギュア)を用いる国もあった。しかし現在ではそれほどの差はないと認識されており、実際に超音速機を用いた訓練でも超音速飛行を行うことがほとんど皆無だったことから、高等練習機といえども高亜音速の軽攻撃機相当(T-4アルファジェットホークL-39等)までにとどめて、それ以上のレベルでは実機の戦闘機の複座型での訓練を長くする例が多くなっている。また、近年は戦闘機のアビオニクスが高度化しているため、その操作に慣れて効率よく作戦機に移行できるよう、現代の戦闘機に近いアビオニクスや兵装搭載能力を持つLIFT(リフト機、Lead-in fighter trainer, 戦闘機前段階練習機の略)という上級高等練習機が登場している(M-346マスターT-50ゴールデンイーグル等)。さらに、PC-21EMB-314スーパーツカノのように、大出力エンジンを搭載し近代化・高速化・重武装化を追求したターボプロップ高等練習機も登場している。

対潜哨戒機輸送機のような大型機パイロットの訓練には、主に小型の双発プロペラ機(バロンセミノール等)やビジネス機(キングエア等)が用いられ、ヘリコプターパイロットの訓練には、主に小型の汎用ヘリコプター(OH-6エキュレイユ等)が用いられる。初等・基本練習機のどのタイミングで大型機・ヘリコプターの訓練へ振り分けられるのかは、国によって異なる。ヘリコプターの場合、従来の機体では計器飛行訓練が行えないため、まず固定翼機での訓練を経てからヘリコプターに移行するのが一般的であった。しかし現在ではEC 135のような計器飛行に対応した機種が登場したことで、最初からヘリコプターで訓練することも可能になっている。これらの訓練も民間機と共通しているため、民間に委託される場合がある。

また、航法や通信、偵察など、操縦以外の技能についても実地の訓練が必要であり、これらを訓練するための練習機を機上作業練習機という。アメリカ軍でいえばT-43自衛隊でいえば海上自衛隊YS-11T-Aがこれにあたる。しかし現在はグラスコックピットの発達で専門の航法士・通信士などが不要になったことなどもあって純粋な機上作業練習機は少なくなっており、早期に実用機で訓練を行うことが多い(前述した2機種は既に退役済)。

練習機の運用

例えば航空自衛隊の戦闘機パイロットの場合は、初等練習機にT-7、基本練習機にT-4を経て、高等訓練にF-15DJF-2Bを使用している。従来のT-2前期課程がおおむねT-4に、後期課程はF-15DJ・F-2Bといった実戦機の複座型に振り替えられている。大型機パイロットの場合はT-7からT-400へ移行し、大型機の副操縦士として経験を積む。ヘリコプターパイロットの場合はT-7、T-400を経てからUH-60Jへ移行する(航空自衛隊は練習専用のヘリコプターを保有していない)。

領空が狭く訓練空域が確保できない国や天候が不安定で訓練飛行に危険が伴う国は、練習機の保有はしないか小規模に留め、海外(アメリカなど)に飛行訓練を委託している。前者の1つであるシンガポールオーストラリアフランス、アメリカなどに練習機部隊を派遣して訓練を行っている。後者の1つであるドイツはかつては自前の練習部隊を保有していたが、近年はアメリカ空軍に候補生を派遣して練習を委託している(使用する練習機はアメリカ空軍と同じだがドイツ空軍に所属)。

関連項目