後発医薬品

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後発医薬品(こうはついやくひん、Generic drug)とは、特許が切れた医薬品を他の製薬会社が製造或は供給する医薬品である。ジェネリック医薬品とも言われる。特許の対象は、有効成分、製造方法、効能効果、用法用量など多岐にわたる。なお、後発医薬品に対して先発の新薬は先発医薬品と呼ばれる。

概要

以前は先発医薬品の特許権が消滅すると後発品がゾロゾロ出てくるので後発医薬品は「ゾロ」「ゾロ品」「ゾロ薬」と呼ばれた。昨今は後述のように厚生労働省主導で普及へむけての政策が進められており、世間一般の捉え方は変化してきている。

同じ有効成分の薬でも後発品は複数存在し、その商品名は会社によって異なる。医薬品の有効成分は一般名 (generic name) であらわす事が出来るので、欧米では後発品を処方するのに一般名を用いることが多い。そのため後発品に対して「ジェネリック医薬品」と云う言葉が使われるようになった。

他の先進国に比べ、日本では普及が進んでいない。普及を妨げる理由には安定供給がなかなか難しいという後発医薬品メーカーの問題と後発医薬品に対する医師・薬剤師の信頼不足がある[1]

後発品の普及はアメリカカナダイギリスドイツなど先進各国で進んでいる。その普及率はアメリカ71%、カナダ66%、イギリス65%、ドイツ62%といずれも60%を越えている(2009年・数量ベース)[2]。一方、日本の普及率は20%程度にとどまっている[3]

現在、日本でも医療費抑制のため厚生労働省主導で後発医薬品の普及が進められている[4]。この動きにあわせて各医薬品メーカーは後発医薬品(ジェネリック医薬品)の積極生産へシフトしつつある。

特許

新薬(先発医薬品)の開発には巨額の費用と膨大な時間を必要とするために、開発企業(先発企業)は新薬の構造やその製造方法、などについて特許権を取得し、自社が新規に開発した医薬品を製造販売することによって、資本の回収を図る。また、その新薬で得た利益を新たな新薬の開発費用として投資する。当然、特許の存続期間が満了すると、他の企業(後発企業)も自由に先発医薬品とほぼ同じ主成分を有する医薬品(=後発医薬品)を製造販売ができるようになる。

特許権の存続期間は、原則として特許出願日から20年の経過をもって終了する。しかし、新薬の製造販売の承認を得るには長期間を要するため、特許権を取得したにもかかわらず、対象となる医薬品の製造販売の承認が依然として得られないケースが多い。その場合、特許権の存続期間を最長で5年間延長できる。

先発企業は同一薬効成分に新たな効能・適用・結晶型などを発見することで特許権を追加取得したり、製剤・剤型を見直して効能以外の付加価値をつけるなどして、後発企業の進出に対抗する。

成分特許を認めていないインドなど特許制度が欧米と異なる国では特許が切れた薬ではなく、インドの国内法において特許が認められてない、特許の適用から外れている薬がジェネリック医薬品として大量に生産されており、アフリカなどの貧困国ではインド製のジェネリック医薬品が大量に使用されている。エイズ治療薬・ネビラピンなど欧米では特許が切れていないためにジェネリックが生産されていないのに、インドでは特許が無効なために大量のジェネリックが生産されエイズに悩むアフリカ諸国で大量に使用されている現状がある。この問題は欧米との間で争いになっており、欧米側が新しい法律を作って規制するなど対抗措置を行っているが、インド製の安いジェネリック医薬品が途絶えれば貧困国の医療が崩壊するという深刻な問題も孕んでいる。

承認申請

新薬(先発医薬品)の承認申請には、発見の経緯や外国での使用状況、物理的化学的性質や規格・試験方法、安全性、毒性・催奇性、薬理作用、吸収・分布・代謝・排泄、臨床試験など数多くの試験を行い、20を越える資料を提出する必要がある。

これに対して後発医薬品では、有効性・安全性については既に先発医薬品で確認されていることから、安定性試験・生物学的同等性試験等を実施して基準をクリアすれば製造承認がなされる。生物学的同等性試験とは先発品と後発品の生物学的利用能を比較評価することにより行われ、投与者の生物学的利用能に統計的に差がなければ効果も同じで生物学的に同等であるものと判断される。血中濃度の推移が同等であれば生物学的効果に差がないとする考え方は米国FDAを始め諸外国でも同様に認められた解釈である[5]。新薬と主成分が全く同じである後発医薬品に、新薬と同等のハードルを課すことは経済的でない点から考慮すると合理的な試験である。

一方、承認申請時に必要な書類は、規格および試験方法、加速試験、生物学的同等性試験のみであり(医薬品により長期保存試験も必要となる)、7つの毒性試験が全て免除されていることは問題、とする意見がある。

生物学的同等性試験

後発医薬品が、先発医薬品と同等の薬効・作用を持つことを証明するために、後発医薬品の承認申請には、生物学的同等性試験のデータが必要とされる。

生物学的同等性試験では、原則として、ヒト(健常人)に先発品、後発品を投与して両者の血中濃度推移に統計学的な差がないことを確認する。より具体的には、先発品、後発品を、各々10〜20名程度のヒト(健常人)に投与し、一定時間ごとに採血を行い、薬物血中濃度の推移を比較し、両群の間に統計学的な差がないことを証明する手法がとられる。ただし、倫理的な面や、製剤特性等の理由から、ヒト以外の動物での試験が認められることもある。

日本では現在、厚生労働省より通達されている「後発医薬品の生物学的同等性試験ガイドライン」に従って生物学的同等性試験は行われている。

品質再評価

1997年4月以降、新薬の承認時には溶出試験規格の認定が義務付けられ、 当該医薬品の後発品についても自動的に溶出試験規格が求められているが、それ以前の医薬品には溶出試験規格が無い。そこで溶出試験規格が無い医薬品のうち、後発医薬品があり、かつ先発医薬品との同等性を設定する必要がある約550成分(約7000品目)を対象として、1997年2月から国が品質の再評価を始めた。

オレンジブック

オレンジブックとは後発医薬品の使用促進のため米国で発刊されているもので、 FDAが先発医薬品と後発医薬品の生物学的同等性の判定を行い(生物学的同等性試験)、 その治療上の同等性についての評価を掲載したものである。

日本版オレンジブックとは「医療用医薬品品質情報集」のことで、上記の品質再評価の経過や結果を掲載したものである。

日本版オレンジブックは通知のごとに発行されるため一覧性が無く、通知に含まれない重要な品質再評価情報が掲載されないことがある為、日本ジェネリック製薬協会がこれらを補い更に広範囲の情報を掲載したものを「オレンジブック総合版」としてネット上で公開している[6]

日本での経緯

後発医薬品の普及率は、アメリカ、イギリス、ドイツなどの国では数量ベースで5割近くを占めるのに対し、日本では1割程度に留まっていた。これはブランド嗜好が強い国民性やパターナリズム(家父長主義)が浸透していた医療の現場において医師が、情報提供が少なく信頼性に不安を感じる後発医薬品よりも、長年の育薬に基づく豊富な情報が提供され、後発品に比べて薬効・供給量の安定している先発医薬品を処方した為と考えられる[7][8]

医療費に占める薬剤費比率は、上昇傾向の欧米諸国に対し、日本は薬価差(=保険請求価格-購入価格)削減により低下傾向を示し、既にフランスイタリアより低率となった。しかし依然、高めな理由は投薬の種類・量が多い為ではなく、先発医薬品の薬価が高すぎる為であり、経済産業省もこれを国際的に適正な額にまで引き下げれば、1兆5千億円程度削減できる、との試算を発表している[要出典]

近年、急に後発医薬品が注目されるようになったのは、バブル崩壊後の長引く不況の中、長年の放漫経営による[要出典]健康保険財政の破綻に直面し、政府が少子高齢化を迎えての医療費削減を唱え、その一環として薬価の低い後発医薬品に着目した為である。

しかしながら、低価格な錠剤では先発医薬品との価格差が顕著に表れない例もある。

処方箋様式

2006年4月より処方箋の様式が変更となり、医師が処方箋中の「後発医薬品への変更可」欄に署名(または記名押印)すれば後発医薬品に変更して調剤することが可能となった。しかし当該欄の利用頻度が伸びなかったため、2008年4月より、後発医薬品への変更が認められない場合「後発医薬品への変更不可」欄に署名する形式に再変更された[9]

日本にて後発医薬品が普及しない理由

生物学的同等性試験によって先発品・後発品の同等性は証明されているが、実際に使用した患者や医師からは、効果に違いがあるとの意見がある。その理由となる可能性として多く挙げられるのは、先発医薬品と製造工程が違ったり、添加物などの副成分が異なることである。このことにより、いずれも個人差はあるが、内服薬の飲み易さ、外用剤の剥がれ易さなどに違いが生じる場合がある。特に小児科においては、小児用内服薬の矯味(味付け)が商品により異なるため、商品を変更すると患児の嗜好によっては服用させること自体が困難になることがあり、切り替えには慎重を要する。

抗精神病薬向精神薬抗うつ薬抗不安薬睡眠導入剤でも後発医薬品が存在するが、精神医療では先発医薬品と全く同じ成分でも、患者によって効いたり効かなかったりする[要出典]。また精神医療の特殊性として、患者側の思い込みが激しいこともあり「この薬品名でなければ効かない」と思い込みが激しいと、たとえ同一成分で安価の後発医薬品でも、思う様な治療成績が上げられない。酷い時は薬効が全く効かない状態になってしまう[要出典]プラセボ効果)。また、従来の向精神薬は副作用が出やすいため、副作用止めなどの処方薬剤を処方箋に書くことが多くなり、「多剤併用処方」(例として、旧来の抗精神病薬に錐体外路症状を抑える抗パーキンソン剤や抗ヒスタミン薬を処方するのが従来の処方法)にて、予想外の副作用が出る[要出典]。しかも、海外のグローバル製薬メーカー(グラクソ・スミスクラインエフ・ホフマン・ラ・ロシュファイザーイーライリリー・アンド・カンパニーなど)がここ数年副作用を抑えた新型向精神薬抗うつ薬を創薬し、日本にて医療用医薬品として承認された薬が多く出回り始めた。後発医薬品は先発医薬品の技術や薬理学など、20数年前の技術をそのまま借用して製造した薬のため、海外の薬理学論文を読んだり、医薬情報担当者(MR)から説明を受け情報を知っており、旧来の向精神薬の問題点を熟知している精神科医側としても使いづらく、患者側も副作用や錠剤を多く服用する点や、インターネットの普及により新型の医薬品情報が容易に手に入り、旧来の向精神薬の副作用を知っているので嫌がる[要出典]。また、最近の向精神薬に於ける先発医薬品の場合は主作用を維持したまま、副作用を旧来医薬品より大幅に抑えた製剤のため、副作用止めなどの処方薬を処方しなくてすみ、多剤併用処方にならなくなる。そのメリットで副作用出現リスクが大幅に減り、薬剤の使用やレセプト診療報酬が大幅に減る。結果として医療費抑制につながり、さらに障害者自立支援法による自立支援医療制度(精神医療)では、患者側の薬剤負担が1割(若しくは定額の自己負担額分)ですむため、後発医薬品に変えるメリットが(薬価単位でも)ほとんどない。したがって、精神医療においては後発医薬品が発売していてもほとんど普及しない一因になっている[要出典]

後発企業の多くは準大手・中小企業であり、大手新薬メーカーに比べ、供給面での不安定さが指摘されている。 後発医薬品の企業の医薬情報担当者(MR)の数が少なく、医師薬剤師の情報収集の観点から不安の声もある。後発医薬品が発売される時期には、先発医薬品は発売後10年以上が経過していることが一般的であり、十分な副作用情報が蓄積されているが、後発薬特有の副作用が出現した場合には個別企業の対応に任されている。

後発企業は先発企業に対抗するために薬剤の販売に大幅な値引を行うことがある。その結果、2年に1回の薬価改定では大幅な薬価の値下げが行われる。そこで、後発企業はさらに値引き販売をすることになり薬剤価格の競争均衡が実現され、消費者は需要と供給に基づいた市場価格で薬剤を入手することができるようになる。一方、最終的に採算が合わなくなった一部の後発企業は採算の合わない薬剤を販売中止してしまうことがある。過去には、1ロットを製造した後、在庫が切れたら販売中止してしまうこともあった(通称:売り逃げ)。しかし、近年では、厚生労働省の指導により、売り逃げを行う企業には製造販売承認を与えないことになっており、新規申請においては状況は改善されつつある。しかし一部には、長期にわたり販売した製品を販売中止した例もみられる(辰巳化学のナシンドレン、など)。また新薬メーカーの持つ特許を侵害し開発・販売すると、訴訟問題となり、結果製造中止や回収となる場合もある(大洋薬品(現テバ製薬)のセフジニル、など)。

同じ成分の先発医薬品と後発医薬品で効能・効果(適応症)が異なることがある。これは先発医薬品が有する用途特許が残っており、それが原因で同じ成分の後発医薬品がその効能・効果を謳えないことに起因する。なお、同一成分ながら患者の疾病に対する効能・効果を有していない後発品を処方または調剤した場合、不適切な薬剤を投与したとして、医療機関の報酬点数が減点される場合がある。この減点を回避するため、後発品の使用や変更を敬遠する医師も存在する。

2008年に行われた小規模な調査(医師600人、薬剤師400人)[10]では、半数の医師が「後発品への変更不可」とした事があると答えた。医師が「変更不可」とした薬剤で最も多かったのは抗癌剤、次いで降圧薬、一方、薬剤師が「変更可」でも先発品を選ぶ薬剤で最も多かったのは、抗精神病薬向精神薬抗うつ薬、次いで抗癌剤となった。その一方で、「後発医薬品への変更不可」の指示はオーダリングシステムによって誘導されているとの指摘もあり[11]、日本ジェネリック医薬品学会ではこれを是正するための仕様書を公表した[12]

2008年に厚生労働省生活保護世帯に後発医薬品を事実上強制する通知を自治体に出した(生活保護世帯は医療費を自己負担せずに公費負担となっているため)。従わなければ生活費の支給を停止するというもので、後に撤回することとなった[13]

主な取扱会社


2007年5月現在、日本に後発医薬品企業は300社以上あると言われている。また田辺三菱製薬など「先発メーカー」と言われている製薬メーカーも後発医薬品を主要事業の1つとして位置付け、取り組みを始めている。第一三共はインドの製薬会社を買収して後発医薬品の新規参入を開始した。

脚注

  1. ^ ジェネリック医薬品はなぜ普及しないのか”. PJニュース (2006年10月26日). 2012年5月11日閲覧。(Internet Archive)
  2. ^ 日本ジェネリック製薬協会 2011年1月6日閲覧
  3. ^ 日本ジェネリック製薬協会 (2010年5月19日). “平成20年度ジェネリック医薬品シェアについて” (pdf). 2011年1月6日閲覧。
  4. ^ 厚生労働省. “後発医薬品(ジェネリック医薬品)の使用促進について”. 2011年1月6日閲覧。
  5. ^ 長崎県保険医協会 (2006年5月17日). “生物学的同等性”. 2011年1月6日閲覧。
  6. ^ 日本版オレンジブック研究会 (2010年12月12日). “オレンジブック総合版ホームページ”. 2011年1月6日閲覧。
  7. ^ YOMIURI ONLINE 処方せん様式変更、後発薬を優先使用(Internet Archive)
  8. ^ YOMIURI ONLINE 後発医薬品…安くて薬効同等 普及まで今一歩(Internet Archive)
  9. ^ 厚生労働省中央社会保険医療協議会 (2008年2月13日). “平成20年度診療報酬改定における主要改定項目について” (pdf). 2011年2月11日閲覧。
  10. ^ 日経メディカル オンライン
  11. ^ 瀬戸僚馬他「後発医薬品への変更調剤を推進するための処方オーダリングシステムの仕様に関する研究」『ジェネリック研究』3巻、2009年、36 - 42頁
  12. ^ 日本ジェネリック医薬品学会 (2010年3月1日). “ジェネリック医薬品の処方を推進するための処方オーダリングシステム追加仕様書(第2版)” (pdf). 2011年1月6日閲覧。
  13. ^ asahi.com:生活保護受給者への後発医薬品の使用通知、厚労省が撤回(Internet Archive)

関連項目

外部リンク