医薬情報担当者
医薬情報担当者(いやくじょうほうたんとうしゃ、Medical Representative、MR)とは、医薬品の適正使用のため医療従事者を訪問すること等により、医薬品の品質、有効性、安全性などに関する情報の提供、収集、伝達を主な業務として行う者のことを指す。
目次 |
[編集] 概要
多くのMRは製薬会社に所属し、自社の医療用医薬品情報を医師をはじめとする医療従事者に提供し、副作用情報を収集することを主な業務としている。かつてはプロパー(宣伝者という意味のen:propagandistに由来)と呼ばれていた。MRは、医師・薬剤師に対して、薬の適正使用情報や副作用情報、海外での処方例や新薬の宣伝活動などを行う製薬業界での営業職にあたる。ただし、他業界の営業職とは異なり、営業活動の中心は製品の販売促進ではなく、薬の情報提供・情報収集活動にある。MRには、高い倫理観に基づき、患者さんの立場から「薬物治療のパートナー」として、医療従事者と共に医療の一端を担い、社会に貢献することにあることが求められている[1]。
現在の日本のMRの総数は約6万人にのぼる[2]。この人数は、医療用医薬品が著明な効果を示す反面、それに比例した強い副作用を持つ二面性があること、日本の医薬品(医療用品含む)の流通経路が複雑であることなどと関連している[3]。各種医薬品の副作用情報、適正使用の提示、あるいは効能効果といった情報は、たった1つの医療用医薬品においてすら膨大な情報となるため、現在数十万とも言われる医薬品の適正使用情報を提供するためには、上述のような数万人規模のMRが必要であるとされる。なお、大衆薬(一般用医薬品)および医薬部外品はMRの情報提供の対象外とされる。
MRの出身分野をみると、文科系出身のMRが最も多く約30,000人(構成比約50%)、次いで、理科系出身が16,000人(約30%)で、薬剤師MRの占める割合は平成12年以降、約8,000人(約13%)を前後している[2]。一方、女性MRは平成12年以降年々増加しており、現在7,500人(約12%)に達している[2]。
日本のMRの大部分は製薬企業に所属しているが、製薬企業のプロジェクトごとに期間を限定して派遣される、CMR(コントラクトMR、派遣MRとも呼ぶ)も存在する。
[編集] 歴史
昭和40年代から60年代にかけて、医薬品市場は過度の「添付販売」や「景品販売」、あるいは巨額の接待攻勢が行われ、熾烈なシェア争いが繰り返されていた。そのため、医薬品の本来の品質・有効性・安全性とは無関係に薬が処方される悪弊が時として起こり、それに伴う重篤な薬害なども発生していたため、他業種から見ても異質な業界として世間からの批判が繰り返されていた。この悪弊は、MRに価格決定権があった事に起因すると言われている。
これらは製薬企業があまりにも企業の論理に走りすぎた結果と批判され、1976年には「倫理コード」を、1984年には日本製薬団体連合会(日薬連)が「製薬企業倫理綱領」を定め歯止めを掛けようとしていたが、遵守率は低く、その思惑とは乖離した状況が続いていた。しかし、1991年に改正された独占禁止法の施行により、MRの価格決定権が禁止され、流通と医療機関との自主性によって価格が決定される仕組みへと業界のシステムが変更された。このことが業界の商慣行の大幅な修正へとつながり、日本製薬工業協会(製薬協)は自主規制のルール作成に取り組み、1993年医療用医薬品プロモーションコードを作成した[4]。その中の「医薬情報担当者の行動基準」は以下の通りである。
- 自社製品の添付文書に関する知識はもとより、その根拠となる医学的・薬学的知識の習得に努め、かつ、それを正しく提供できる能力を養う。
- 製薬企業は、直接であれ間接であれ、医薬品の適正使用に影響を与えるおそれのある金銭類を医療機関等に提供しない。
- 製薬企業は、医薬品の適正使用に影響を与えるおそれのある物品や、医薬品の品位を汚すような物品を医療担当者等に提供しない。
- 効能・効果、用法・用量等の情報は、医薬品としての承認を受けた範囲内のものを、有効性と安全性に偏りなく公平に提供する。
- 関係法規と自主規制を遵守し、医薬情報担当者として良識ある行動をする。
これにより、従来プロパーと呼ばれていた製薬企業の営業は再構成を余儀なくされ、MRとして再スタートを切ることになった。また、MR活動も薬の販売促進やPR中心の営業ではなく、薬の情報提供や情報収集を中心に営業を行う方向に変わった。
また、1996年には「製薬協企業行動憲章」が制定され、企業の社会的責任を中心に細かく倫理面での意識改革がもとめられた。さらに2001年には企業の法令遵守とリスクマネジメントを強化するために、「製薬協コンプライアンス・プログラム・ガイドライン」が制定された。これらの数度に渡る自主ルールの制定の結果、過度の「添付販売」や「景品販売」および巨額の接待攻勢は抑制され、公正競争規約も絡んで、現在ではこれらの行為を行うとMR個人だけではなく、所属する製薬企業も罰則等のペナルティを受けることとなっている。また、医療業界の再編の進む昨今、良質なMRが製薬企業の評価にもつながることから、製薬企業各社はMRの教育や質の向上にも注力し、情報提供やプレゼンテーションなどでの優劣を競っている。
[編集] MR認定試験
旧来プロパーと呼称されていた製薬企業の営業部隊は、1993年の製薬協の決定によって、「MR」と呼称されるようになった。さらに1997年には医療知識の向上と良質なMRの育成に資するため、「MR認定試験制度」が導入された。
MR認定試験は、業界の自主認定試験であり、国家検定や公的試験とは一線を画する[5]。その意味で医師免許や薬剤師免許とは異なり、MR認定がないと営業ができないわけではない。しかし、近年ではMR認定証のない営業の訪問を禁止する医療機関も出始めており、製薬企業の営業として活動する以上、取得は必須の試験となっている。試験の合格率は80%にも上る[6]。なお、MR資格の有効期間は5年間となっている[7]。
[編集] MRの今後
金融や保険と同様、製薬業界も世界のグローバル化の激流に晒されている。世界における日本の製薬メーカーの規模は小さく、国内最大の売上げを誇る武田薬品工業でも世界的にはトップ10にすら入れておらず、世界の製薬メーカーとの実力差は相当の開きがある。また、ファイザーやノバルティスを始めとする外資系製薬メーカーの国内進出も活発なことから、内資系メーカーの国際競争力や資本強化が急務とされており、厚生労働省も日本を代表するメガ・ファーマの出現を期待していると公言している[8]。
[編集] 注釈
- ^ 公益財団法人MR認定センター. “MRとは”. 2011年4月3日閲覧。
- ^ a b c 財団法人医薬情報担当者教育センター (平成22-10). “平成22年版MR白書-MRの実態および教育研修の本調査- (pdf)”. 2011年2月20日閲覧。
- ^ 医薬品市場のエンドユーザーは消費者(患者)である事は他業界と変わらないが、購買決定者は病院ではなく、処方権を持つ医師であり、その購買費用の大部分は各種健康保険組合から支払われるという特殊な流通形態を持っている。また流通販路の段階でも卸売業者が間に入ることは他業界と変わらないが、医薬品の価格が未決定の状態で納入、使用される事が大半であり(長期価格未妥結、総価山買いと呼ばれる)、対価のない状態で流通が行われるという商慣行が続いている。
- ^ 日本製薬工業協会 (平成20-03-19). “医療用医薬品プロモーションコード (PDF)”. 2011年3月9日閲覧。
- ^ MR資格が創設される際の議論の中には、MR資格を国家試験にし、かつMR資格を持ったものしか営業活動をしてはならない、という手厳しい議論もあった。しかし売上と利益を稼ぐ営業人員の確保の難しさに繋がると考えた製薬メーカーの猛烈な反発によりその議論は撤回され、現在の業界の自主認定試験という形態に落ち着いている。
- ^ 医薬情報担当者教育センター (2010年10月). “平成22年版MR白書-MRの実態および教育研修の本調査-;6 MR認定試験”. 2011年3月13日閲覧。
- ^ 更新には公益財団法人MR認定センターが定める所定の教育研修の履行が必要である。製薬企業に所属しているMRの場合は、企業が行うMR認定研修(導入・継続研修)に参加・受講し、5年間の認定研修修了報告があれば更新される。また、研修修了報告がない場合でも、センターが行っている補完通信教育講座の教育研修に参加・受講し、合格すればMR認定証は更新されるため、再度MR認定試験を受験する必要はない。詳しくは公益財団法人MR認定センターを参照。
- ^ 厚生労働省 (2007年8月30日). “新医薬品産業ビジョン-イノベーションを担う国際競争力の ある産業を目指して- (pdf)”. 2011年3月13日閲覧。
[編集] 関連
[編集] 外部リンク
- 公益財団法人MR認定センター(旧:財団法人医薬情報担当者教育センター)
- 日本製薬団体連合会
- 医療用医薬品製造販売業公正取引協議会