製薬
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
製薬(せいやく)とは、薬品、特に医薬品を製造することである。化学工業と関連性がある。
その企業は、製薬会社と呼ばれる。 製薬会社は研究開発の視点から従業員数が多く、新薬開発には莫大な費用が必要とされるため、製薬企業は大規模な企業であることが多い。近年はバイオテクノロジー(生物工学)の発展を背景に、その技術を応用した創薬に力を入れている企業も多い。
製薬は医療と密接に関わっており、世界的な高齢化と人口増加により医薬品の需要が高まっている。世界の医薬品市場規模は約80兆円(2006年)といわれており、そのうち日本の医薬品市場規模は7兆円(2004年)となっている。
製薬は日本の薬事法上は、医薬品製造業に分類され、医薬品の製造にあたっては医薬品製造業の許可が必要である。また、製造した医薬品を上市する際には医薬品製造販売業の許可が必要である。
目次 |
[編集] 歴史
日本の製薬および製薬産業の歴史は古く、鎌倉時代や安土桃山時代から家伝とされる和漢薬の販売が行われていたが、全国規模で製薬が行われるようになったのは江戸時代からとされる。 江戸時代は漢方薬を中心として、日本独自の漢方医学が普及し、薬学としての本草学も発展。紫雲膏や中黄膏、龍角散、奇応丸といった薬が作られている。
商業として製薬業が発展したのも江戸時代からであり、各地で独自に薬を作っていた薬種商が大阪の道修町に集まり、薬種中買仲間(株仲間の一つ)として組織され、輸入漢方薬の流通を一手に引き受け、日本の薬業の中心地として栄えた[1]。 また、富山の売薬に代表される配置販売業もこの頃から急速に全国に広まった[2]。
その後、江戸時代中期以降に蘭学が導入されると、「解体新書」に代表される多くの西洋医学書が翻訳・出版されたり、各地で私塾が開設されるなど、西洋医学の知識が入ってくるようになる。
明治維新後は、積極的に西洋医学の導入に努め、製薬学科の設立や日本薬局方の制定をはじめとして、医薬制度の整備も行われるようになった。しかし、それまでは薬の輸入販売が中心であったため、第一次世界大戦になり薬の輸入が途絶してしまうと、軍事的な側面から製薬の国産化が急務とされ、その結果、道修町にも新薬メーカーが次々と設立され、アスピリンなどの医薬品合成を行うようになり、日本の製薬業は合成化学を基礎に近代的な発展を始めた。
しかし、今日的な意味で製薬業が発展したのは第二次世界大戦以後のことであり、感染症に効く画期的な抗生物質であったペニシリンや、結核の特効薬であるストレプトマイシンの国産化がその端緒となっている[3]。
その後、1961年に導入された国民皆保険制度により、国民が医療機関で診療を受けやすくなり、医師の処方箋を必要とする医療用医薬品の需要が高まり、急成長する。 それまでは大衆薬(OTC医薬品)の販売が主流であったが、1960年代に製薬業、医療機関ともに技術革新や新技術の導入、販売促進強化などを行ったために医療用医薬品の生産金額が急速に伸び、1970年代初めには1兆円産業に成長し、現在までの製薬業の発展に寄与している。
[編集] 産業特色
製薬産業は、主に次の4つの特徴を持つ。
- 生命に密接に関連した産業であること。
- 多種品目・少量生産の産業であること。
- 研究開発指向の産業であること。
- 付加価値の高い知識集約型の産業であること。
産業の特徴は上記以外にも様々な意見があるが、製薬が病気を治し、生命を救う意義を持つことが第一義である。 20世紀において、人類を最も幸せにしたものは医薬品(特に抗生物質)であると言われており、今後ますますその重要性は高まっていくと思われる。
[編集] 社会への貢献
製薬産業は、病気治療、生命維持、QOLの向上といった面で大きな役割を果たして来ている。
具体的には、
- 治療方法のなかった病気や難病の治療法を確立したこと
- 病気の予防
- 重症患者の生命維持
- 生命維持装置、完全栄養補給など
- 症状のコントロールを可能にしたこと
といったことで社会的に貢献しており、今後も難病といわれる悪性腫瘍や中枢神経系の疾患、アレルギー症状などにおいて、治療法や予防法を確立することが期待されている。
また、それまでは治療費の掛かる病気であったものを、新薬の登場により治療費を激減させるなど、金銭面でも多大な貢献を果たしている。
[編集] 製薬企業の規模
製薬を担う日本の製薬企業の売上げ規模は、世界的な企業と比較して相対的に低い水準にとどまっている。 たとえば、国内最大の売上げを誇る武田薬品工業は、世界規模ではトップ10にも入れていないのが実情である。 これは日本の製薬企業数が2000社を超えており、裾野が広いために売上げの上位集中度が低くなっていることや、研究開発費用が相対的に低く、世界的な新薬が少ないことなどが原因とされているが、外資系メーカーの国内進出や買収が活発であることから、今後は内資系メーカーの国際競争力や資本強化が急務とされており、大型合併なども続いている。ただし、日本の製薬会社は数多くの新薬を発明している。ここ10年間で世界で最も売れている薬は日本人が発明したスタチンである。
[編集] 製薬の研究開発
製薬を行うには莫大な研究開発費用が必要とされる。
新薬を研究開発し、発売するために必要なコストは数百億円ともいわれるが[4]、新薬が発売されるまでに安全性や有効性、品質に対する検査が行われるため、製品化されないものも多い。 そのため、製薬業界の対売上高研究開発比率は全産業中最も高く、全産業の平均が3%なのに対して、製薬業界では8%を超える。 このことは製薬業界の研究開発指向を示唆するが、反面、充分な研究開発を行うためはそれに見合う利益率を確保する事が重要となっており、製薬業界の利益率は他産業と比較して総じて高い水準となっている。
このことに関しては、医薬品、後発医薬品の項目も参照されたい。
[編集] 製薬の現状
これまでの製薬の特徴は有機合成や発酵、動植物からの抽出などによって得られた物質を分析、研究して新薬の元となる成分を探して来ることであったが、この方法では新薬創出には限界があることは以前から指摘されていた。 そのため、現在ではゲノムプロジェクト等によって解析されたヒトの遺伝子情報を元に、バイオテクノロジーを応用して新薬を研究、開発することが主流となっている。
また、これらの遺伝子情報は、遺伝子治療や再生医療といった新たな分野の医療にも役立つと考えられており、現在は既に実用段階の治療方法も確立されつつある。
[編集] 大手製薬企業
いずれも売上高の多い順。
[編集] 世界6大メーカー
[編集] 国内5大メーカー
[編集] 世界売上高ランキング
データはユートブレーンLLC合同会社(UTOBRAIN公式)の発表に基づく。上位25社まで。
| 順位 | メーカー名 | 本社所属国 | 売上高(百万ドル) |
|---|---|---|---|
| 1 | ファイザー | 44,424 | |
| 2 | サノフィ・アベンティス | 41,318 | |
| 3 | グラクソ・スミスクライン | 38,414 | |
| 4 | ロシュ | 34,505 | |
| 5 | ノバルティス | 32,646 | |
| 6 | アストラゼネカ | 28,713 | |
| 7 | ジョンソンエンドジョンソン | 24,866 | |
| 8 | メルク&Co. | 24,198 | |
| 9 | ワイス | 18,622 | |
| 10 | イーライ・リリー | 17,638 | |
| 11 | ブリストル・マイヤーズ スクイブ | 15,622 | |
| 12 | バイエル・シェーリングファーマ | 15,122 | |
| 13 | アムジェン | 14,771 | |
| 14 | アボット・ラボラトリーズ | 14,632 | |
| 15 | ベーリンガー・インゲルハイム | 13,437 | |
| 16 | ジェネンテック | 11,724 | |
| 17 | 武田薬品工業 | 10,782 | |
| 18 | シェリング・プラウ | 10,173 | |
| 19 | テバ製薬工業 | 9,408 | |
| 20 | アステラス製薬 | 8,655 | |
| 21 | ノボ・ノルディスク | 8,262 | |
| 22 | 第一三共 | 6,917 | |
| 23 | メルク・セローノ | 6,566 | |
| 24 | エーザイ* | 6,341 | |
| 25 | バクスター・インターナショナル | 6,150 |
※シェリング・プラウはオルガノンを買収した11月19日以降の売上げのみ含まれる。オルガノンの医薬品売上げを通年で計上した場合は、シェリングプラウが16位となる。
※エーザイはOTC・検査薬売上げを含む。
[編集] 備考
- ^ 道修町は現在でも大手製薬メーカーの本社が軒を連ねるなど、「薬の町」として知られる。ここに本社を置く武田薬品工業や田辺三菱製薬、塩野義製薬といったメーカーはこの当時から続く老舗メーカーである。
- ^ 富山の売薬以外にも、大和売薬、近江売薬、田代売薬が有名であり、田代売薬をルーツとする久光製薬や、近江売薬をルーツとする大正薬品工業など配置販売業をルーツとするメーカーも多い。
- ^ ペニシリンやストレプトマイシンは化学合成ではなく、培養によって大量生産される薬であったため、発酵・醸造技術を持つ食品メーカーが主な役割を担い、そのことをキッカケとして、現在でも製薬を行っているメーカーも多い。明治製菓や協和発酵キリンなどがその代表例である。
- ^ 2001年のタフツ大学の発表によると、1990年代のアメリカでのデータを元に試算した結果、世界的な製薬企業が一つの新薬を発売するために必要な研究開発コストは、1000億円に達するとされる。この金額は発売されなかった新薬の研究開発費用も含めた金額である。
[編集] 参考
[編集] 関連項目
[編集] 関連リンク

