大陸間弾道ミサイル

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ヴァンデンバーグ空軍基地からテスト発射されたミニットマンIII型ICBM

大陸間弾道ミサイル(たいりくかんだんどうミサイル、: intercontinental ballistic missile、略称:ICBM)、または大陸間弾道弾(たいりくかんだんどうだん)とは、有効射程が超長距離で北アメリカ大陸ユーラシア大陸間など、大洋に隔てられた大陸間を飛翔できる弾道ミサイルアメリカ合衆国ソビエト連邦間では、戦略兵器制限交渉(SALT)により、有効射程が「アメリカ本土の北東国境と、ソ連本土の北西国境を結ぶ最短距離」である5,500km以上の弾道ミサイルと定義された。

原理・方式

地面に掘られたミサイルサイロもしくは海中の潜水艦などから発射され、数百kmの高度までロケット噴射によって飛行するが、その間に速度、飛行の角度等を調整して目標地点へのコースが決められる。その後ロケットは燃焼を終えて切り離され、弾頭だけが慣性により無誘導のまま飛行する。即ち、大砲の砲弾を撃つ場合に、目標を狙うために発射時の砲の仰角や発射薬量を調整して、砲弾そのものは自力で進路や速度を変えることがないのと基本的には同じで、ICBMもロケット式の超巨大な大砲と考えることもでき、「大陸間弾道弾」の名称も多く用いられる。中距離・準中距離など、他の弾道ミサイル(弾道弾)も同様である。

ICBM等は、目標への誘導は発射から燃焼終了までの、ロケットの制御が可能な短時間になされなければならない。当初の弾道ミサイルは無線誘導を行なっていたため、液体燃料の使用とあいまって(後述)即時多数発射が不可能であった。1960年代に入ってアメリカのミニットマンは慣性誘導方式を用いるようになったため、短時間に同時発射ができるようになった。

ICBMの軌道は、他の弾道ミサイル(弾道弾)と同じく、全体的に見ると地球中心を焦点の一つとする楕円軌道を描いており、超長距離を飛行するため弾道の頂点高度は1,000kmから1,500kmにもなる。[要出典]通常、その射程距離は8,000kmから1万kmに達するので、命中精度の関係から全て核弾頭を搭載している。初期のICBMは単弾頭であったが、弾頭のMIRV化により、一基のミサイルに複数弾頭を搭載し、個別目標を攻撃できるようになった。

核弾頭は、当初のICBMの命中精度が劣り、平均誤差半径が大きかった(3km前後)ため、メガトン級の大威力のものが採用された。大威力の核弾頭は重く、搭載するロケットも大型の液体燃料式にしなければならないなど問題が多かった。その後、アメリカを先頭に急速に改良が進み、平均誤差半径0.1km程度のものさえ開発され、それに伴って核弾頭も400キロトンから200キロトン程度に小型軽量化されている。MIRVの実現も、一つにはそうした小型軽量化の成果であると言える。

推進方法には液体燃料固体燃料の2種類がある。弾道ミサイルの先駆けとなったドイツV2ロケットが液体燃料を使用していたこともあり、初期のICBMも液体燃料であった。これは、出力の調整ができる上に大きな力が出せる長所があるため、現在でも宇宙ロケットはほとんどこの方式である。一方で、構造が複雑で高価になり、取り扱いも難しく、長時間かけて燃料を注入しなければならないので即時発射ができないなど、軍用ミサイルとしては難がある。しかし1960年にアメリカで固体燃料が実用化された。出力の調整ができず大きな力が出せない欠点はあるが、構造が簡単で小型かつ安価であり、安全性も高く、即時発射が可能であるので、アメリカでは固体燃料のICBMが主流を占めた。一方旧ソ連では液体燃料に固執し、ミサイル内に燃料を入れたままサイロ内で保持できる貯蔵式液体燃料のICBMを多数配備した。

歴史

爆撃機よりも迅速に敵本国を攻撃できる兵器として、アメリカでは早くも1940年代後半から開発が進められていたが、世界最初のICBMは初の人工衛星スプートニク1号の打ち上げに使用された旧ソ連のR-7である(1957年)。アメリカ合衆国で実用化されるようになったのは、アトラスであった。アトラスは1959年に実戦配備が開始された。1962年にはタイタン Iが実戦配備に付けられたが、R-7やアトラス・タイタンは、液体酸素をロケット燃料の酸化剤に用いているため、即時発射態勢で待機ができず、発射準備にも時間を要する欠点があった。しかし60年代に入って貯蔵式液体燃料方式が普及し、ソ連の大陸間弾道弾やアメリカのタイタン IIはこの方式を採用するなど、即時発射の問題は解決した。アメリカでは1962年からミニットマンの配備を始めたが、これは固体燃料を用いたために即時発射が可能であっただけでなく、小型で安価であったため量産され、1,000基に達した。

それまでの中距離弾道ミサイル(IRBM)が、ソ連攻撃のためにヨーロッパに配備する必要があったのに対し、アメリカ合衆国本土配備でもソ連攻撃が可能となった事は、政治的に有利であった。

1993年の第二次戦略兵器削減条約(START2)では米ロが使用するICBMでのMIRVの使用を禁止したが、結局ロシア側が批准せず、その後米ロ間で結ばれたモスクワ条約ではMIRVを禁止しなかったため、MIRVの搭載も可能となった。

現在ICBMを配備している国は、アメリカ合衆国ロシア中華人民共和国の3国で、この3国に並ぶ核大国であるイギリスはICBMを配備せず、核戦略を潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)に頼っている。またフランスは冷戦期間中にIRBMを固定配備していたが、冷戦終了後に廃棄し、また1970年代には大陸間弾道ミサイルの開発構想も持ったが断念し、現在はイギリスと同様にSLBMのみとなっている。

大陸間弾道ミサイルの一覧

米国のICBMLGM-118A ピースキーパーの発射実験によりクェゼリン環礁に落下する再突入体
アメリカ合衆国の旗 アメリカ合衆国

項目名(制式番号、名称)

ソビエト連邦の旗 ソビエト連邦/ロシアの旗 ロシア

項目名(ロシア制式番号、DOD識別番号、NATOコードネーム

中華人民共和国の旗 中国

項目名(制式番号、DOD番号)

朝鮮民主主義人民共和国の旗 北朝鮮
インドの旗 インド

関連項目