吊橋

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世界最大の吊り橋(明石海峡大橋)

吊り橋(つりばし、suspension bridge[1])は、の形式の一種で、綱などの張力で吊り下げ支える形式のもの。吊橋とも表記される。釣り橋・釣橋とも書くが、この表記は狭義には江戸期以前の古典的な形式に対して用いられる(後述)。

概説

吊り橋と斜張橋。両者の差異については、斜張橋#吊り橋との相違を参照。

一般的な用法としては、小さな谷や川に縄ばしごを渡しただけのような簡易なものから、海峡などに架けられる大規模なものまで吊り橋と称する。斜張橋も張力で支えているため、広義には吊り橋の一種とも言える。

しかし、吊り橋は狭義、すなわち現代の土木工学分野における分類においては、2本の主塔とそれに渡される2組のメインケーブルを持ち、そのケーブルから鉛直に垂らされたハンガーロープを支持するを指す。桁はその上に床板を置き、道路鉄道、人などが通る部分である。これに対し、ハンガーロープがなく、複数のケーブルを斜めに張って直接桁を支えるものは斜張橋と呼ばれ、区別される。

吊り橋はその構造上、ケーブルは垂れさがり放物線を描くことになるが、ハンガーロープとの2段構成 とすることで桁を水平に近い状態に保つ。なお、桁を取り付ける前のケーブルだけの状態では、懸垂線というカーブを描く。

いずれも現代のものは、ケーブル、ハンガーロープ、桁は製、主塔は鋼もしくは鉄筋コンクリート製である。 長大な橋に向いており、世界の長い橋の上位の多くを吊り橋が占める。一方風や加重によって揺れやすいという欠点ももつ。

古典的、簡易な吊り橋

かずら橋
谷瀬の吊り橋

古典的な吊り橋としては、徳島県西祖谷山村市町村合併により2006年3月から三好市)にある祖谷のかずら橋がある。植物のつるで両岸から本体を支える構造で原始的な斜張橋と言える。現在のかずら橋は安全のため鋼のワイヤーで補強されているものの本来はその名の通り植物のしらくちかずらサルナシ)のみが用いられる。桁部分もかずらで丸太、割木を繋いだだけのはしご状で人専用である。

簡易なものは登山道などで見られ、多くは人専用である。主塔が無く岩盤からケーブルを架設したりハンガーロープがなく直接本体を支えるものなどもあり、桁も板を繋いだだけの簡易なもののことがある。こういったものは吊床板橋と呼ばれる。揺れを抑えるため横、あるいは下方からもケーブルで補強している場合もある。

日本において、かつては釣橋の語が使われていたが[2]、1870年にトーマス・ウォートルスの設計とされる「山里の吊橋」が皇居内道灌堀に架設されて以降、西欧からの近代的な技術の影響を受けたものに対しては吊橋の表記が用いられている[3]

現代の吊り橋

ブルックリン橋(カリアー&アイビス印刷社、1877年)

現在の長大な吊り橋の起源は、アメリカのブルックリン橋とされる。1883年に完成したこの橋は、ケーブルの材料として鋼を使いかつ撚り合わせのない平行線ケーブルを用いた。また塔の海底部の工事にケーソンが用いられるなど、現代の工法の多くがこの時代に開発された。またブルックリン橋は塔から桁への斜めのケーブルも持ち斜張橋との複合構造でもある。

その後に造られたジョージ・ワシントン橋でスパン(後述)が1000mを超え、さらにゴールデンゲート橋ヴェラザノ・ナローズ・ブリッジなどの建設が続いた。1981年にイギリスのハンバー橋英語版が完成するまで、100年以上に渡り世界一の座をアメリカが独占した。現在の世界最長は日本の明石海峡大橋(1,991m)である。ケーブルに使用されるピアノ線は15000mで自重によって切断してしまうので、理論上は中央支間長の限界は4000mとされている[4]。 

地表から橋の路面までの高さで世界一なのは中国湖北省にある四渡河大橋英語版で、下を流れる四渡河から472m の高さがある。スパンは900m で2009年に供用開始された。

主塔の高さが343m で世界一のフランスのミヨー橋の最大スパンは342m である。

大規模橋の構造

塔、メインケーブル、ハンガーロープ(明石海峡大橋)
ケーブル実物大断面模型(明石海峡大橋)
アンカーレイジ(明石海峡大橋)

主塔

メインケーブルをささえる塔で、両岸もしくは岸から全長の1/4くらいまでの位置に設けられる。一組の塔は桁を挟むように建つ2本の柱をトラスまたはラーメン構造で繋いでいる。基礎が水中になる場合は、ケーソンと呼ばれる鉄の函を沈めコンクリートを流し込み構築する場合が多い。水流を妨げないため複数の柱で構成する場合もある。(大鳴門橋など)

橋の長さは、全長ではなく支点間の距離である支間(スパンと言う)のうち最長となる中央径間(センタースパンという)でもって序列されることが多い。吊り橋ではこの主塔間の距離が中央径間となる。塔とアンカレイジの間の距離は側径間という。

塔は通常2組であるが、3組の例もある。(小鳴門橋など)

メインケーブル

主塔に架けられ、ハンガーロープを通じて桁をつり下げる、吊り橋の最も重要な要素である。材質としては鋼製のワイヤーピアノ線)が用いられ、これを平行に束ねる。少し古いものでは鋼板を束ねたものも用いられたことがある。この材質の進歩にともないより長大な橋が架けられるようになった。明石海峡大橋のものでは1mm²あたり180kgの引張強度がある。それ以前の瀬戸大橋などでは160kg/mm²のものが使われている。

ケーブルは腐食()防止のためにゴムや塗装による表面処理が施してある。覆われたケーブル束の内部は湿度が上昇し、腐食が進行する事例が見られたことから、1998年に完成した明石海峡大橋では乾燥空気を送風するシステムが採用された。このシステムは、2002年に瀬戸大橋で追加的措置として講じられたほか、2011年にはイギリスのハンバー橋でも採用されている[5]

ケーブル架設の方法にはエアスピニング工法とプレハブストランド工法とがある。エアスピニング工法ではワイヤーを数本ずつ連続して架設してゆき、それを束ねてケーブルとする。プレハブストランド工法ではあらかじめ製作した(プレハブの)ストランドと呼ばれるワイヤーを正六角形に束ねたものを架設し、それを束ねてワイヤーとする。1本のストランドに用いられるワイヤーの本数は91本、127本、169本などとなる。

道路鉄道が設けられ実際に通行する部分であり、橋桁あるいは補剛桁ともいう。送電線水道管が併設される場合もある。

桁は箱型のものとトラス形式の物があるが、風の影響の少ないトラスのものが多い。扁平で剛性の小さな補剛桁を用いていた米国のタコマナローズ橋が風で落橋した影響もある。ただし最近、流体力学の研究の進歩により風の影響を受けにくい形状にした箱形も見直されつつあり、イギリスのハンバー橋や日本の来島海峡大橋にこの例を見ることができる。

アンカーレイジ(橋台)

アンカーレイジ(橋台)は橋の両端にありメインケーブルを繋ぎ止める文字通りの碇である。コンクリート製。地形的制約や強固な岩盤などがある場合は地山の支持力も利用するトンネルアンカレイジとする場合もある。(来島海峡大橋など)

ハンガーロープ

メインケーブルから鉛直に垂らされ、桁を支える。懸垂線を描くメインケーブルと桁を結ぶため場所により長さが異なる。通常、撚ったワイヤーロープが使われる。主塔が岸よりにあり側径間の桁を支える必要がない場合は、無い場合もある。この形式のものを単径間吊り橋という。(下津井瀬戸大橋など)

ちなみに一般的なものは3径間である。

ハンガーロープには風による振動防止用に螺旋状に線が巻かれている場合がある。

世界の長大橋

以下のリストの長さの数値はセンタースパンである。

順位 橋名 所在国 中央支間長 完成年 備考
1 明石海峡大橋 日本 1,991m 1998年
2 西候門大橋 中国 1,650m 2009年
3 大ベルト橋 デンマーク 1,624m 1998年
4 潤揚長江公路大橋 中国 1,490m 2005年
5 ハンバー橋英語版 イギリス 1,410m 1981年 1998年までは世界最長
6 江陰長江大橋 中国 1,385m 1997年
7 青馬大橋 香港 1,377m 1997年 道路鉄道併用の吊り橋としては世界最長
8 ヴェラザノ・ナローズ・ブリッジ アメリカ合衆国 1,298m 1964年 1981年までは世界最長
9 ゴールデンゲート橋 アメリカ合衆国 1,280m 1937年 1964年までは世界最長
9 陽邏長江大橋 中国 1,280m 2007年

中央径間世界最長の吊り橋の変遷

中央径間日本最長の吊り橋の変遷

類似構築物

吊り橋と同様の技術を用い競技場やホールなど中央に柱を建てられない大規模な建物の屋根を建造する例がある。例として1964年東京オリンピックの国立屋内総合競技場(現国立代々木競技場)がある。メインケーブルは吊り橋と同様な曲線を描きそこから周囲に広がるように垂らされたロープが屋根と一体となっている。

脚注

  1. ^ 文部省「土木工学編〈増訂版〉」『学術用語集』、土木学会、1991年。 
  2. ^ 「吊橋・釣橋」広辞苑昭和30年5月2版P1505、1983年(昭和58年)12月3版P1629
  3. ^ 山根巌「我が国における明治期の近代的木造吊橋の展開(その1)木曽川及び天竜川水系における吊橋の変遷」『土木史研究 講演集』第25巻、土木学会、287-296頁、2005年。 NAID 40007103622 
  4. ^ [データ]つり橋 理論的には支間長4キロまで可能 『読売新聞』 1988年04月05日 東京夕刊 11頁 (全1,019字)
  5. ^ 日経BP『日経コンストラクション』2012年3月26日号

関連項目

外部リンク