伝統中国医学
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伝統中国医学(でんとうちゅうごくいがく)とは、中国において、主に漢民族によって発展させられ、朝鮮半島や日本にも伝わってそれぞれ独自の発達を遂げた伝統医学の総称。英語の「Traditional Chinese Medicine(略:TCM )」の訳語。日本においては、東洋医学(とうよういがく)と呼称される。中華人民共和国から見て東洋医学という用語は日本の伝統医学を指すことがあるが、国際東洋医学会という国際学会があるように、日本・韓国・台湾では一般的な用語として用いられている。
特徴
- 全身を見て治療を行う。伝統中国医学は、(西洋医学とは異なり)複数ある症状をもって「証」という概念で治療方針を決める。[注 1][注 2][注 3]
- 人間の心身が持っている自然治癒力を高めることで治癒に導くことを特徴としている。そのために生薬などを用いる。[注 4][注 5][注 6]
- 診断も、四診によって行う。(西洋医学のように機械や採血を用いたりしない。)よって、体を侵襲することがなく、害が少ないとされる。[注 7]
中国医学系統の伝統的医学
中医学
中国においては、戦後、国民党政府の伝統医学廃止運動に反発する形で、共産党政権による伝統的医学復興が国策として行なわれ、現在、西洋医学を行なう通常の医師と、伝統学を行なう「中医師」の二つの医師資格が併設されている。 中華人民共和国成立に伴い、中国共産党は、大陸各地に点在していた伝統医療の担い手を「老中医」と呼んで召集し、伝統医学の教育に充てた。ただし、清末以来戦乱に明けた大陸では、体系立った伝統医学などは残っておらず、老中医にしても、ほとんどが家伝の生薬方なり鍼灸方なりを、各個伝えているだけというのが現状であった。このため、これら個々の伝統技術を統合する理論体系が必要とされ、毛沢東の強い意向を受けて、「中医学」理論が急遽設えられた。つまり、現在の中医学は、中国において統一教科書教育が必要になった1959年を皮切りとし、文化大革命の時期を中心として展開された新しい理論である。
1958年の南京中医学院が編纂した教科書『中医学概論』では、五臓六腑ごとに病証が展開されており、病証も『千金方』の五臓病証に類似している。この教科書では「肝虚寒証」のように現在の中医学では用いられない病証が含まれる。また『千金方』には「腎実熱」などまで含まれる。
鍼灸を例にすれば、現在の中医理論は経絡治療と似ていて五臓の母子関係や相剋関係を中心に理論構築を展開する。およそ1960年代より、雑病の一つだった「肝気郁逆」(「肝気鬱滯」)が肝の基本病証の一つとなった。また、「肝鬱気滞」が肝実証である、という認識は中国ではあるけれども、日本での認識は乏しく、「肝実証」という発想は、脈診を中心として診断をおこなう経絡治療家にも理解しやすいものである。日中の伝統医学が融合してしまうのではないかと思うが、実はそういった混交した理論はこれまでにも多数存在し、むしろその正統性を柔らかに薄めている[1] [2][3][4][5] 。
漢方医学
漢方医学(和漢方・和方):日本で発達した中国医学系の伝統医学の呼称である。中国を起源とする伝統医学は、奈良朝以来断続的に日本に伝来して来たが、日本では文物(古文献)の保存とともに技術体系の保存も高いレベルで維持されて来たため、大陸では使用されなくなり深化を止めた系統の技術も、発展維持されてきた経緯があり、現在では鍼灸・生薬ともに、中国原産のものとは趣を異にする物に発達している。
例えば、「証」決定のための「腹診」という腹壁筋緊張を類型分類する診察技法がある。これは古代中国で原型が形成され主たる古典にも記されているが、大陸において儒教的な社会が高度に成立した宋代以降は、中国人は他人に腹部を露出するのを好まなくなったこともあり、腹診は用いられなくなった。実際には鍼灸における配穴(ツボを選ぶこと)においても、生薬の匙加減を決定する上でも腹診は非常に有用である為、この技術は日本で保存され、江戸期には按摩の技術とも関連を持ち、独自の診察技術へと発展した。
また、「六部定位診」と呼ばれる橈骨動脈の拍動の様子を分類し、病態把握を行なう技法がある。これは「難経」と呼ばれる3世紀以後に成立した古典が源流の技術であるが、非常に繊細な脈状分類を標榜したものであったため、大陸では廃れてほとんど用いられては来なかった。しかし上記腹診同様、日本においてはこの技法が精錬され、幕末から戦前にかけて台頭した皇漢医学の潮流の中で、「経絡治療」として大成された。
これらの例は、伝来した技法を独自に深化発展させる、日本の伝統的な文化受容の形態が、医学領域においても発揮されたものと言える。
このように発展してきた日本の伝統医療は、明治時代以降導入したヨーロッパ医学と区別する必要性から、皇方・皇漢方・和方・和漢方・東洋医学などと多くの呼び名が試行されたが、江戸時代に蘭方に対して用いられた漢方という名が、幕末よりほぼ一貫して一般的であると言える。漢方には前述のように本来鍼灸も含むが、現在漢方薬による治療のみをさすことが多い。日本においては鍼灸は医師・鍼灸師がおこない、漢方薬は医師・薬剤師がおこなう分業になっている事もその一因と考えられる。
東医学・韓医学・高麗医学
- 東医学:朝鮮半島で発達した中国医学系伝統医学の呼称(北朝鮮では1992年までこのように称していた)。
- 高麗医学:北朝鮮での呼称。1993年に東医学から改称した。
- 韓医学:東医学と同じものの韓国における呼称。韓方医学とも呼ぶ。
脚注・出典
脚注
- ^ ただし、この「証」も古くは症状の「症」と同じ。例としては、中風証、腰痛証など。現代の鍼灸の流派によっては古体字の「證」を用いることも多い。例として、「肝虚證」「気虚證」など。
- ^ 比較対象の西洋医学のほうは、人間全体を見ていない、としばしば言われている。ここでいう人間全体とは、心身全体のシステムや、代謝と代謝の連関(ダイナミズム)や、人間と環境との関係などのこと。西洋医学は、人体の特定の部位一箇所に疾患の原因を求めようとする傾向があり、不必要なまでに外科的・侵襲的な手法で除去することを追求しがちとされる。[要出典]
- ^ 伝統中国医学とEBMの関係について。西洋医学も含めて医学全般に、効果についての実証的な研究はおざなりにされてきた。近年になってEBM(根拠に基づく医療)が普及してきて、西洋医学でもEBMによってよろしくない治療法がいくらか減ってきているが、東洋医学においてもEBMに基づいた研究が徐々に進んでいる。ただし、伝統中国医学では、人間の症状に応じて、多彩に治療法を変化させてゆくので、簡単に分類できず統計がとりづらいので、研究が進みづらい傾向はある。ただし、統計データを採ることを至上目的にしてしまい、そのために治療方法を固定化し劣化させてしまった状態にし、その状態で測定する、というのでは全く本末転倒である。ひとりひとりのその時々の状況に応じて、臨機応変に治療法を変化させたほうが、状況に適しているので良く効く、というのはひとつの道理なのである。もしそれが原因で統計データが採りづらい、というのならば、それはある意味仕方のないことなのである。[要出典]
- ^ 現代西洋医学のほうは、人間の自然治癒力に悪影響を及ぼしてしまうようなことをすることが多いといわれている。西洋医学はたとえば、対症療法を多用し、原因療法を行わない傾向があるとも。また、西洋医学は副作用の多い医薬品をやたらと多用し、かえって慢性疾患を作りだしてしまうことがあることなど、さまざまな医原病を引き起こしていると指摘されている。[要出典]
- ^ 尚、人間の代謝系全体に効果を及ぼすことを狙って、通常、生薬は複数を組み合わせて処方する。西洋医学的な手法よりも、副作用が少ないものが多い、そして西洋医学の医薬品よりも良く効くものもある。なにしろ西洋医学の医薬品の中には、薬効の大きさを追求したあまりに、薬効よりも副作用のほうが大きいもの、「薬」というよりも「化学物質」(あるいはひどいものになると「毒」)と形容したほうが良いような、非常に危険なものが多々ある。そして西洋医学の医師は、病院の経営を維持するために、院長などから薬をできるだけ多めに処方するようにと指示が与えられていることが多く(というのはそうしないと、保険点数=収益 が伸びないため)、純粋に目の前の患者の健康のためではなく、そちら(経営、金儲け)を優先し、不必要な処方を多めにしてしまうことが多々ある。(当然だが、患者から見れば、毒よりは「ゆるやかに効く薬」のほうが良い。また副作用の塊のような薬品を処方されるよりは、やさしい言葉だけかけてもらいそのまま帰してもらったほうがよほど健康には良い)。[要出典]
鍼灸は、(「良い施術師に巡りあえば」との条件付きではあるが)西洋医学の手法ではどうにも治療が困難な疾患も、見事に治癒することがある。[要出典] - ^ 西洋医学の医師を職業としている人で、自身で病気になり、西洋医学的な手法を行ってみたものの治せなかったり、かえって慢性疾患を引き起こしてしまった時など、(あまり大きな声では言わないが、実は)中国伝統医学の治療を受けに行く、という人が一定の割合で存在しているとの統計データも存在している。[要出典]
- ^ 伝統中国医学の診断は、機械のない環境でも行えるというのが特徴である。医院はともかくとして、鍼灸院のような小さな環境でも東洋医学は可能である。ただし、診断にも技術が必要であり、数年の勉強と訓練が求められる。鍼灸師も学校や国家試験だけでは満足な量の勉強ができないため、多くは鍼灸の勉強会や鍼灸院で修行を積む。また、漢方も同様で、学校主体の教育で満足な臨床能力が身につくかどうかは疑問とされており、中国での研修に行く例も少なくない。
出典
- ^ DENG Yu et al,Ration of Qi with Modern Essential on Traditional Chinese Medicine Qi: Qi Set, Qi Element, JOURNAL OF MATHEMATICAL MEDICINE (Chinese), 2003, 16(4)
- ^ DENG Yu, ZHU Shuanli, Deng Hai, Generalized Quanta Wave with Qi on Traditional Chinese Medecine, JOURNAL OF MATHEMATICAL MEDICINE, 2002, 15(4)
- ^ Deng Yu, Zhu Shuanli, Xu Peng et al邓宇,朱栓立,徐彭,New Translator with Characteristic of Wu xing Yin Yang五行阴阳的特征与新英译,Chinese Journal of Integrative Medicine中国中西医结合杂志,2000, 20 (12)
- ^ Deng Yu邓宇,等; Fresh Translator of Zang Xiang Fractal five System藏象分形五系统的新英译,Chinese Journal of Integrative Medicine中国中西医结合杂志; 1999
- ^ Deng Yu邓宇等,Nature with Math Physics Yin Yang数理阴阳与实质, Journal of Mathematical Medicine数理医药学杂志, 1999年。
関連項目
- 漢方医学 * 漢方医 * 漢方薬
- 鍼灸 * はり師 * きゅう師
- 按摩
- 陰陽
- 五行
- 陰陽五行思想
- 心身一元論
- 天地人三才思想
- 天人合一思想、天人相応思想
- 未病治
- 随証療法
- 気功
- アーユルヴェーダ - 中国医学より古く、その成立に大きく関わったインドの伝統医学
- チベット医学 - インド医学に強く影響を受けているが、中国医学を取り入れている部分もある
- アンドルー・ワイル