ビャンビャン麺

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ビャンビャン麺
ビャンビャン麺専門店の例

(ビャンビャンめん)は中国陝西省で一般的な幅広の中国語では biángbiangmiàn、ビアンビアンミエン、西安方言では biángbiǎngmiān、ビアンビアンミエンと発音する。

概要

原料は小麦粉で、水と食塩を加えてこねて生地を作り、ゆでる直前に両手で伸ばし、2〜3cmの幅に平たく伸して成形する。日本のうどんに似た食感を持つが、切って成形するものではない。長さは伸す台の長さによって決まり、1mになるものもある。「陝西十大怪」の1つにも挙げられるこの麵は、その長さと広い幅のために「麺条賽腰帯」とベルトに例えられている。

陝西省の咸陽市周辺では、「油溌麵」とも言われる、ゆでた麺の上に唐辛子や刻みをかけ、それに熱したピーナッツ油などの油をかけて香りを出し、あえて食べる方法が主流で、特に冬になると唐辛子を大量にかけて食する。醤油、唐辛子、花椒などの調味料やもやしコリアンダー、肉などの具材を加えてあえて食べることも、酸味と辛みのあるスープに入れることもある。具のないものは田舎に住む貧民の食事であったが、近年ではその風変わりな名前や表記から脚光を浴び、西安市などの都市でも提供されるようになった。

名称

ビャンビャン麵という名称とその表記に使われる漢字「」の起源は諸説あり、不明瞭である。

」は方言字のひとつと考えられる。標準的な中国語や、その発音の基礎となった北京語において、biangという音節は存在しない。よって、それを表す漢字も作る必要性はなく、また、正しく音を表せる漢字も北京周辺にはなかった。このため、類似音を記した「比昴比昴麺」、「棒棒麵」、「梆梆麵」などの表記も使用されている。biangという発音は、陝西省のほか、江西省贛語福建省閩語広東省客家語などにあり、いずれも「餅」、「丙」などの字を表す音である。陝西省では「氷」という字もbiangと読む。

『関中方言詞語考釈』[1]では「餅餅麺」に相当する簡体字で「饼饼面」と掲載し、biángbiǎngmiānとの読みを記している。名称の由来として、西安市雁塔区には「水餅子」というゆでた平たい麺類があり、「餅餅麺」も『斉書』に見える「水引餅」や、代の『釈名』にも見え、宋代に出産祝いの宴会に用いられた「湯餅」が変化したものとしている。「餅餅」と呼んでいた物に、後から接尾語の「麺」が付いたと考えられる。この場合のは、「麺餅」、すなわち、小麦粉を水でこねて伸した加工品全般を指す。西安方言で「餅」は一般的には bìng のような発音であるが、 biáng と発音するのは伝わった時代差による白文異読と呼ばれる現象と考えられる。

上記の「餅」説が歴史的、音韻的に有力であるが、「長餅 chángbǐng」を逆にした「餅長」が縮まって biáng となったとする説もある[2]

また、「梆梆麵」という類似音の表記から類推して、「梆子」(拍子木)を鳴らしながら、天秤棒で担いで売り歩いたからとする説を記す書物もある[3][4]

」という字は、一説によると宰相であった李斯によって発明された[要出典]というが、代の康熙字典に見当たらず、20世紀までに出版された陝西方言の研究書や漢字研究書にもみられないため、後に作成されたと考えられる。香港民放無綫電視 (TVB) で2007年に放映された番組『一網打盡』によると、番組のプロデューサー大学教授に協力を仰いで漢字の起源を探ろうとしたが、李斯の説や字の起源について確たる証拠を掴むことができなかった。このため、ビャンビャン麺の店による創作ではないかと結論付けている。

漢字

筆画

名称に用いられている漢字」は、57 画(中国ではしんにょうを 2 画として数える)で構成され、現代使用されている漢字の中ではきわめて複雑である。また、中国で常用されているポケットサイズの『新華字典』はもとより、『康熙字典』や『中華大字典』のような大型字書にも載っていない。また、現状では Unicode にも収録されておらず、一般的なコンピューターでは入力できない。なお、この文字よりも筆画が多く複雑な漢字として、「龍」を4つ並べた「𪚥」(、テツ、64 画)などがあり、和製漢字たいと (、84 画) も知られている。

覚え方

前述の通りという字は余りに複雑なため、陝西省居住者の間では字の書き方を思い出す手助けとなる短い詩がいくつか存在する。

そのうちの一つは、右に「」ではなく「丁」と書く異体字の説明であるが、「一点儿冲上天,黄河两道湾,八字大张口,言字往里走,东一“扭”西一“扭”,左一长右一长,中间坐个马大王,心字底月字旁,楔个钉子挂衣裳,坐个车车到咸阳。」といい、日本語訳[5]は「点が天辺に飛上り、黄河両端で曲がる、八の字が大きく口を広げ、言の字が中へ入る。東に一ひねり、西に一ひねり、左に長一つ、右に長一つ、中間に馬大王が座る。心の字が底に、月が傍らに、釘を打ってそこに服をかけ、車に乗って咸陽へ向かう。」。

他地域での普及

北京では梆梆麵北京連鎖店チェーンで取り扱っている。華南においても扱う店が出現しはじめている。

日本においても東京周辺の個別の店でビャンビャン麺と称して幅広の麺類を提供する例があるが、陝西省のものとは風味が異なる。

脚注

  1. ^ 任克、『関中方言詞語考釈』pp14-15、1995年、西安・西安地図出版社。
  2. ^ 伍永尚、『原生態的西安話』p70、2007年、西安・西安交通大学出版社
  3. ^ 坂本一敏、『中国麺食い紀行 ― 全省で食べ歩いた男の記録』p214、2001年、東京・一星企画
  4. ^ 周旺編、『中華風味小吃 傳説与烹飪』p90、2010年、北京・化学工業出版社。
  5. ^ ツイッター@Jun0412による。