デイゴヒメコバチ

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デイゴヒメコバチ
デイゴヒメコバチ
分類
: 動物界 Animalia
: 節足動物門 Arthropoda
: 昆虫綱 Insecta
: ハチ目(膜翅目)Hymenoptera
亜目 : ハチ亜目(細腰亜目)Apocrita
上科 : コバチ上科 Chalcidoidea
: ヒメコバチ科 Eulophidae
亜科 : Tetrastichinae
: Quadrastichus
: デイゴヒメコバチ Q. erythrinae
学名
Quadrastichus erythrinae
Kim, 2004
和名
デイゴヒメコバチ
英名
Erythrina Gall Wasp

デイゴヒメコバチ (Quadrastichus erythrinae) はヒメコバチ科ハチの一種[1][2]

概要[編集]

デイゴの葉にできたデイゴヒメコバチの虫こぶ

2004年に、シンガポールで発見された[1]タイプ標本(ホロタイプ)はシンガポールでナガハデイゴ英語版上で発見されたメスである[1]。その他のタイプ標本(パラタイプ)は、モーリシャスレユニオンから採集されている[1]デイゴ属Erythrina植物に寄生する[1]

ヒメコバチ科の昆虫は世界中に約3900種分布しているが、そのほとんどは他の昆虫類に寄生する[2]。デイゴヒメコバチが属するQuadrastichus属も同様にタマバエ科、ハモグリバエ科、ミバエ科、タマバチ科、タマムシ科、ゾウムシ科など多種多様な昆虫類に寄生するが、デイゴヒメコバチは現在確認されている中ではこの属で唯一、自身で植物に寄生し虫こぶを形成するヒメコバチである[2]

分布[編集]

本来の分布地は何処であるかはまだ知られていないが、アフリカ南部のデイゴ類上で同様の虫こぶが確認されていることや、この種に特異的に寄生する寄生蜂がアフリカで採集されていることなどから、アフリカであると考えられている[1][3][4][5]

日本南西諸島)、シンガポールタイフィリピンベトナム台湾中国香港)、インドサモアモーリシャスフランスレユニオン)、アメリカ合衆国フロリダ州ハワイ州グアム)などの世界各国の熱帯亜熱帯地域に侵入し、デイゴ属(Erythrina)植物に被害を与えている[3][6]

形態[編集]

体長はオスで1.0-1.15ミリメートル、メスで1.45-1.6ミリメートル[1]。メスはほぼ全身が濃褐色で、目を除く頭部、胸部などが黄色[1]。オスはメスの濃褐色の部分がより淡く、特にメスの黄色の部分は白色から淡い黄色をしている[1]性比はオス対メスが7対1程度である[3]

生態[編集]

デイゴヒメコバチが羽化し、デイゴから脱出したあとに残る穴

デイゴヒメコバチのメスは、羽化1日目ですでに約60個の卵を保有しており、生涯では約320個の卵を保有し、デイゴ属の若い葉や茎に卵を産卵する[3][5]。孵化した幼虫は虫こぶを形成し、その中で成長し約20日で成虫となる[3]。多数のデイゴヒメコバチに寄生された寄主は葉や枝の成長が遅くなり、場合によっては枯死に至る[3]。成虫の寿命は3-10日である[3]

外来種問題[編集]

発見されて以降、世界中の熱帯、亜熱帯地域において移入が確認され、デイゴ属植物に深刻な被害を与えている。

日本[編集]

2004年に行われたデイゴ類に発生するメイガ類の調査時には、デイゴヒメコバチの被害は確認されなかった[6]。しかし、2005年5月に沖縄県石垣島デイゴに多数の虫こぶが確認された[2]。その後、沖縄本島などでも同様の症状が確認され、これらの虫こぶの解剖や飼育を行った結果、これらの虫こぶからデイゴヒメコバチが発生するのが確認された[2]。石垣島や沖縄本島以外でも、これに続いた調査で波照間島西表島宮古島久米島竹富島などでデイゴヒメコバチが確認され、2006年には前年には確認されなかった鹿児島県奄美大島徳之島で確認された[6][7]。徳之島では街路樹として使われているアメリカデイゴでもデイゴヒメコバチの寄生が確認され、同様に街路樹として使用している鹿児島県の本土や宮崎県などにおいても、移入による被害が懸念されている[6]

沖縄県那覇市や石垣市などで、樹木に注入することで害虫の発生を抑える農薬、アトラック液剤を使用した防除が試みられている[8][9]。デイゴ類にアトラック液剤を使用すると、デイゴヒメコバチの産卵は防ぐことはできないが孵化した幼虫を駆除し、予防的な効果を発し、デイゴ類への新しい虫こぶの発生が最小限に抑えられる[8]。しかし、このような樹木注入薬は、薬剤1本につき2000円前後かかるとされ、1本のデイゴ類の成木に対して10数本使用することから多大な費用が掛かり、各島内での全デイゴ類への対処には至っていない[7][9]。一方で薬剤の注入が完了したデイゴ類では、薬剤未注入のデイゴ類よりも高い開花率となっており、効果が表れている[7][9]

アメリカ[編集]

2005年4月にハワイ州オアフ島で、2006年10月にフロリダ州で侵入が確認された[3][5]

ハワイ州では2005年4月にオアフ島のデイゴで確認され、7月にはハワイ島カウアイ島マウイ島で、8月にはモロカイ島、10月にはカホオラウェ島で確認された[5]。ハワイには固有種であるハワイデイゴ英語版が分布しており、影響が懸念されている[6]。一方で、ハワイ州農務局やハワイ大学熱帯農業人的資源学が2005年から2007年にかけてアフリカで調査を行い、天敵となると思われるカタビロコバチ科の一種 Eurytoma erythrinae を採集した[5]。試験の結果、E. erythrinae は、デイゴヒメコバチに特異的に寄生し、他の昆虫種や植物には影響が見られなかったため、2008年11月に自然界に放たれ、生物的防除が試みられている[5]。2009年にはヒメコバチ科の一種 Aprostocetus nitens を用いた防除試験も開始されている[10]

北アメリカ大陸で確認されたのはフロリダ州が最初であり、2006年10月に州南部マイアミ・デイド郡にあるマイアミ動物園英語版のデイゴで確認された[3]。その後、アメリカデイゴ、ハワイデイゴ、デイゴ属の一種(E. stricta)に寄生しているのが確認され、さらに何種のデイゴ属に被害を与えているのか、明確になっていない[3]

脚注[編集]

  1. ^ a b c d e f g h i IL-KWON KIM et al.. “A New Species of Quadrastichus (Hymenoptera: Eulophidae):A Gall-inducing Pest on Erythrina (Fabaceae)”. 2011年5月8日閲覧。
  2. ^ a b c d e 上地 奈美. “デイゴにゴールを形成するデイゴヒメコバチ”. 2011年5月8日閲覧。
  3. ^ a b c d e f g h i j Florida Department of Agriculture and Consumer Services. “Erythrina Gall Wasp, Quadrastichus erythrinae Kim, in Florida”. 2011年5月8日閲覧。
  4. ^ Man-Miao Yang et al.. “Outbreak of erythrina gall wasp (Hymenoptera:Eulophidae) on Erythrina spp. (Fabaceae) in Taiwan”. 2011年5月10日閲覧。
  5. ^ a b c d e f PLANT PEST CONTROL BRANCH, Division of Plant Industry, Hawaii Department of Agricultur. “Erythrina Gall Wasp”. 2011年5月8日閲覧。
  6. ^ a b c d e 金井 賢一 et. al.. “奄美群島へのデイゴヒメコバチ(ハチ目:ヒメコバチ科)の侵入”. 2011年5月8日閲覧。
  7. ^ a b c 竹富島のデイゴを救おう実行委員会. “竹富島のデイゴを救おう!”. 2011年5月10日閲覧。
  8. ^ a b 道路新産業開発機構. “街路樹におけるデイゴヒメコバチ対策”. 2011年5月10日閲覧。
  9. ^ a b c NPO 花と緑の石垣島. “NPO 花と緑の石垣島”. 2011年5月10日閲覧。
  10. ^ REPORT TO THE TWENTY-FIFTH LEGISLATURE REGULAR SESSION OF 2010 REPORT ON THE FIGHT AGAINST INVASIVE SPECIES”. 2013年1月14日閲覧。