ソーラーパネル
ソーラーパネル(solar panel)とは、太陽光で発電を行うためのパネルのこと。太陽電池パネル(photovoltaic panel)、太陽電池モジュール(photovoltaic module)とも。
概説
ソーラーパネルは一般に、ひとつひとつは小さな太陽電池を複数集めて、何らかの枠・構造体に入れてパネル状にしたものである。枠はアルミが用いられることが多い。
ひとつひとつの太陽電池の起電力は小さいが、それを複数直列に組むことで電圧を上げ、使いやすくしている。一般に、鉛蓄電池(12V)と組み合わせることも想定されたソーラーパネルは、蓄電池を充電するために、ソーラーパネル側の起電力は(蓄電池の12Vよりも高く)17~20V程度になるように設計されている。また電流量を増やすために、上述の直列のユニットが複数、並列に組んであることもある。
ソーラーパネルは、1枚単体でバッテリーなどと接続して使用することも可能である。
1枚のソーラーパネルが発電できる電力は、そのサイズや結晶のタイプによる発電効率などによってそれぞれ異なっていて一概には言いにくいが、おおむね、一辺が数十センチメートル程度ならば、10ワット~100ワット程度である。一辺が数センチ程度の小さなソーラーパネルの場合は、1W以下~せいぜい数ワット程度である。
住宅で用いられる太陽光発電システム(住宅の屋根の上などに設置するもの)では、複数のソーラーパネルが用いられていて、充電・放電をコントロールするコントローラーと組み合わされている。ソーラーパネルで発電された電力は家庭内で消費され、また売電という形で、間接的に電力網ともつながっている場合があり、その場合は電力網へと供給される。
太陽光発電所では、非常に多数ソーラーパネルが用いられており、大電力を供給する。
複数のソーラーパネルを組み合わせたものは、「ソーラーアレイ」「太陽電池アレイ」あるいは「ソーラーパネル群」などと呼ばれている。
ソーラーパネルは、人工衛星や宇宙ステーションでもよく使われている。
構造と仕組み
ソーラーパネルは太陽からの光エネルギー(光子)を使い、光起電力効果を応用して電気を発生させる。モジュールの構造を保持するのは上層の場合(表板構造)や下層の場合(基板構造)がある。よく使われるのはウェハーベースの結晶シリコンを使った太陽電池とテルル化カドミウムまたはシリコンを使った薄膜型の太陽電池である。結晶シリコンは半導体製造の原料でもある。
太陽電池を実用的なものとするには、まず複数の太陽電池を電気的に相互接続し、システムの他の部分と接続しなければならない。また、製造・輸送・設置・利用の各段階で壊れないよう保護する必要がある。特に、雹(ひょう)や雨、積雪の重みが問題となる。特にウェハーベースの太陽電池は脆いので注意が必要である。湿気が内部に入り込むと金属の配線や接続部分が腐食する危険性があり、薄膜型の太陽電池や透明導電性薄膜層も湿気に弱いため、注意しないと性能低下や寿命短縮に繋がる。
ソーラーパネルは硬いものがほとんどだが、薄膜型の太陽電池を使ったものは柔軟性のあるものもある。
必要な電圧を確保するため、直列に太陽電池を接続し、電流を確保するためにそれらをさらに並列に接続する。
一部または全部が影に入ったり、夜になると電流の逆流が起きることがある。それを防ぐため、別途ダイオードを使うこともある[1]。単結晶シリコンの太陽電池のpn接合は光が当たっていないときに逆電流を生じさせる特性があるが、これは不要である。逆電流は単に電力を無駄に消費するだけでなく、太陽電池が熱を持つという問題もある。太陽電池は高温になるほど効率が低下するため[2] 、ソーラーパネルはなるべく熱を持たないのが望ましい。冷却を考慮した設計のソーラーパネルはほとんどないが、設置する際に背面から放熱できるようにするなどの工夫をすることが望ましい。
最近のソーラーパネルには、レンズまたは鏡を使って太陽光をより小さな太陽電池に集める集光装置を採用したデザインのものもある。単位面積当たりの単価が高い太陽電池(ヒ化ガリウムを使ったものなど)を使って比較的安価なソーラーパネルを作ることができる[3]。
ソーラーパネルの構成によっては様々な波長の光で発電できるが、一般に太陽光のあらゆる波長をカバーすることはできない(特に紫外線、赤外線、間接光など)。つまり太陽光エネルギーの大部分を捨てていることになる。ソーラーパネルは適切な単色光を照射したとき最も効率がよい。そこで、太陽光を複数の波長に分け、それぞれのビームをその波長が得意な太陽電池に当てるという仕組みのソーラーパネルが提案されている[4]。また、赤外線を中心として発電できる太陽電池を使ったTPV(熱起電力)発電も提案されている[5]。
ソーラーパネルの効率を表す太陽光変換効率は、市販されているもので5%から18%となっており、一般にパネルを構成する太陽電池単独の効率より低い。
モジュール
結晶シリコンモジュール
結晶シリコンを使った太陽電池を採用したモジュールで、今のところ最もよく見られる。単結晶モジュールと多結晶モジュールに分けられる。
薄膜モジュール
薄膜型太陽電池を採用したモジュール。低コストで高効率である。
- ガラス基板薄膜モジュール
- 硬い薄膜モジュールで、太陽電池とモジュールが同じ生産ラインで製造される。太陽電池をガラスの基板または表板上に形成し、配線もその場で行う。基板や表板は多層構造になっている。太陽電池としては、CdTe、アモルファスシリコン (a-Si)、a-Siとuc-Si(単結晶シリコン)の多接合型、CIS系などがよく使われている。アモルファスシリコンの太陽光変換効率は6%から12%である。
- フレキシブル基板薄膜モジュール
- 柔らかい薄膜モジュールで、こちらも太陽電池とモジュールが同じ生産ラインで製造される。主にポリエチレンテレフタラート (PET) の基板上に太陽電池を形成する。他にも、ポリエステル、ポリイミドのフィルムが使われる。これらは絶縁体なので配線もガラスと同様容易である。基板に電気伝導体を使う場合は、別の技法を必要とする。主にアモルファスシリコンを使った薄膜型の太陽電池を無色透明のフッ素樹脂上に形成してそちらを表面とし、裏面を別の樹脂フィルムで補強する。
IntertechPiraによると、フレキシブル基板を含む薄膜型太陽電池市場は2019年まで年率35%で成長すると予測されている[6]。
電子回路組み込み型モジュール
太陽電池モジュールに電子回路を組み込んだものが製造され始めている。それによって個々のモジュールが最大電力点追従 (MPPT) を行ったり、稼働データを監視してモジュールレベルで障害発生を検出する。
性能と寿命
ソーラーパネルの性能(ワットピーク)の測定は「標準試験条件」(STC) で行われる。すなわち、放射照度1000W/m2、AM=1.5のソーラーシミュレーターを光源とし、モジュール温度25℃で試験する。
電気的特性としては、公称最大出力(ワット)、公称最大出力動作電圧(ボルト)、公称最大出力動作電流(アンペア)、公称開放電圧、公称短絡電流などがある。実際のソーラーパネルの出力は、光量、温度、負荷などによって常に変化する。公称開放電圧は、ソーラーパネルに何も回路を接続しない状態で発生できる最大電圧を意味する。公称最大出力はSTCの条件下での最大出力である。
ソーラーパネルは通常屋外に設置されるため、寒暖差や雨や雹に長期間さらされる。結晶シリコンモジュールの場合、10年経過で90%、25年経過で80%の出力を保証するメーカーが多い[7]。
規格
- IEC 61215(結晶シリコン型の性能)、61646(薄膜型の性能)、61730(全モジュールの安全性)
- ISO 9488 Solar energy—Vocabulary
- アメリカ保険業者安全試験所 UL 1703
- CEマーク
- Electrical Safety Tester (EST) Series (EST-460, EST-22V, EST-22H, EST-110)
生産
2009年時点で全世界で、発電能力にして7.5GWのソーラーパネルが設置済みである。IMS Research は、今後さらにソーラーパネルの出荷が増えると予測している[8]。2011年7月には、昭和シェル石油の子会社ソーラーフロンティアが宮崎県に年間生産能力は900メガワットの単一工場としては世界最大級のラインを稼動させる[9][10]。
上位10社
2009年に生産したソーラーパネルの発電量で比較した上位10社は次の通りである[8]。
- ファースト・ソーラー(アメリカ)
- サンテックパワー(中国)
- シャープ(日本)
- 英利(中国)
- トリナ・ソーラー(中国)
- サンパワー(アメリカ)
- 京セラ(日本)
- カナディアン・ソーラー(中国)
- ソーラーワールド AG(ドイツ)
- 三洋電機(日本)
価格
長期的に見れば、ソーラーパネルの価格は低下している。1998年には1ワット当たりのコストは約4.5ドルだったが、1970年には1ワットあたり150ドルで、33分の1になっている[11][12]。
販売価格においては、2014年9月時点の住宅用太陽光発電において、最安値価格(スレート一面足場無しの設置環境)250,000円~350,000円/キロワットで販売されている。[13]
設置システム
- トラッカー
- ソーラートラッカーは太陽を自働追尾して常にパネル面を太陽に向け、発電量を増やす。
- 固定ラック
- 固定ラックはソーラーパネルを単に固定する。緯度に合わせて角度をつけて設置するのが一般的である。
太陽電池モジュールを組み込んだ機器
- ソーラーカー
- ソーラープレーン
- ソーラーライト(ソーラーランプ)
- 太陽光励起レーザー
- 携帯電話: auは2009年、太陽電池を搭載した携帯電話を発表した[14]。
- ノートパソコン: スペインのIUNIKAが世界初の太陽電池を内蔵し発電するノートパソコン Gyy を開発した[15]。
- 腕時計
- 電卓
問題点
- ソーラーパネルの装置近くにハトが巣を作ることによるフン害
- ソーラーパネルの隙間からの雨漏り
- 暑い日にはソーラーパネルの発電効率が悪くなる
- ソーラーパネルからの反射光
- ソーラーパネルの設置と景観との調和
- 土砂崩れなど土砂災害の恐れがある「土砂災害警戒区域」内で、ソーラーパネル設置に当たって無許可で掘削が行われ、社会問題化している例がある[20]。
- 茨城県常総市内の鬼怒川では、2015年9月の台風18号の影響による豪雨災害で堤防が越水したが、該当する堤防の越水箇所が、ソーラーパネルの設置工事によって高さが約2mに亘り削られていたことが判明している[21]。
脚注・出典
- ^ “Diodes”. Kpsec.freeuk.com. 2010年10月18日閲覧。
- ^ 特許庁 技術分野別特許マップ「太陽電池」1.2.1 太陽電池が電気を発生する理由(半導体中での光変換:光起電力効果)
- ^ 高本達也、兼岩実「集光型化合物太陽電池」(PDF)『シャープ技報』第93号、シャープ、2005年12月。
- ^ Very High Efficiency Solar Cell (VHESC) DARPA STO
- ^ IMECが廃熱で発電する太陽電池を開発、製造プロセスを低コストに 日経エレクトロニクス 2010年6月10日
- ^ “Global flexible and thin-film PV market expected to reach US$58b in 2019,reports by IntertechPira study”. Globalsolartechnology (2009年9月11日). 2011年1月11日閲覧。
- ^ “CTI Solar sales brochure” (PDF). cti-solar.com. 2010年9月3日閲覧。
- ^ a b “IMS Market Research - Press”. Pvmarketresearch.com (2010年5月5日). 2010年10月18日閲覧。
- ^ “世界の太陽電池メーカー勢力図”. 東洋経済 online (2011年2月16日). 2011年6月4日閲覧。
- ^ “昭和シェル石油グループが太陽電池新工場の竣工式を開催、7月までに全ライン稼動で世界最大級の工場に”. 東洋経済 online (2011年4月25日). 2011年6月4日閲覧。
- ^ Harnessing Light. National Research Council. (1998). p. 162
- ^ Paula Mints (24 September 2009). “Module Pricing: Rational, Or Just Plain Nuts?”. Photovoltaics World Magazine .
- ^ 太陽光発電の価格相場太陽光発電価格相場表
- ^ “KDDIが太陽電池携帯を発売へ”. ITmedia news (2009年4月20日). 2011年1月11日閲覧。
- ^ “Meet Gyy, The First Solar Powered Netbook”. PCWorld (2009年5月15日). 2010年10月18日閲覧。
- ^ 太陽光パネル「反射光が苦痛」…地裁が撤去命令 読売新聞 2012年4月19日
- ^ 「太陽光パネルで室内50度、熱中症」 64歳会社役員が業者に300万円求め提訴 産経新聞 2015年9月9日
- ^ “太陽光発電装置等を設置される場合は景観規制の手続が必要です”. 京都市. 2013年5月27日閲覧。
- ^ “保全地区内で太陽光パネルを設置する場合”. 奈良県. 2013年5月27日閲覧。
- ^ 太陽光発電:業者、無許可で危険斜面掘削 和歌山の山林 毎日新聞 2015年9月6日
- ^ 関東・東北豪雨:太陽光装置設置工事で堤防削られる 常総 毎日新聞 2015年9月11日
関連項目