キャブオーバー

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キャブオーバー、またはキャブオーバー型とは、自動車の構造上の分類の一つ。エンジンの上にキャブ(運転席)があるものを意味し、主にトラックなど中・大型車で使われている。以降の記述も特筆しない限りトラックを前提とする。

概要

キャブオーバーのスカニアR620

英語では Cab over the Engine と呼ばれ、運転席(cabin:キャビン)がエンジンの上にある(over:オーバー)形式の車両の総称で、COEと略されることも多い。商標としては、ジープランドローバーの「フォワードコントロール」(略称 FC = エンジンやトランスミッションを前方から操作する)という表現もある。

対義語としてボンネット型あるいはボンネットトラックという用語(英語ではForward-mounted engine = 前置きエンジン等と呼ばれる)があり、運転台の前方に細長く伸びたボンネットの中にエンジンが収められている。

キャブオーバーはトラックの構造としては、世界中の殆どの国で主流の形式である。日本やヨーロッパなど世界各地のメーカーは、小型から大型までキャブオーバー型のトラックを生産している。ボンネットトラックはごく一部の特殊な車両に限られており、全てのモデルがキャブオーバー型という会社は多い。

これと全く逆の傾向があるのがアメリカカナダ。これらの国ではボンネット型が主流であり、北米のメーカーは小型トラックから大型トラックに至るまで、ほぼ全てのクラスでボンネット型を用意している。キャブオーバー車もあるが、用意されるのは中型以下のトラックやバス、消防車やごみ収集車といった特装車など、ごく一部に限られる。

長所と短所

ボルボFH。エンジンの上に人が乗るので、その分だけ貨物室を長く取れる
ボルボVN。ボンネットの分だけ長くなるが、快適性や安全性で有利な面もある。北米のみで販売

キャブオーバーの長所と短所は、ボンネット型のそれと全く正反対であると言える。

キャブオーバーの長所として挙げられるのは、全長方向に対するパッケージが優れていること。運転席とエンジンが二階建て構造になっているため、全長方向に対しこれらが要する空間を圧縮できるからだ。
トラックが効率よく荷物を運ぶためには貨物室を大きくしなければならず、逆にそれ以外の部分が大きく容積を取ることは好ましくない。また大抵の国では車体の大きさに制限がかけられており、全長もその一つで、設計においてはこの規制値を超えないようにしなければならない。つまり限られた全長の中で最大限に貨物室を大きくしなければならず、故にエンジンと運転席が占有する空間を圧縮できるキャブオーバーのメリットは非常に大きい。これが日本やヨーロッパなど多くの国でキャブオーバーが主流となった、つまりボンネット型が廃れた主因と言えるだろう。

一方でキャブオーバーをボンネット型と比べた場合、短所として以下の四つの不利があげられる。

  1. 衝突安全性で不利
  2. 空気抵抗で不利
  3. 乗員の快適性で不利
  4. 整備性で不利

衝突安全性は、運転席の前方にクラッシャブルゾーンが殆ど無い事が原因で、ワンボックス車など小型の商用車・乗用車も同じような不利を抱えている。空気抵抗で不利なのは、ボンネットが無いことで空気の流れを滑らかにしづらい傾向があることから。快適性の不利は、自動車の騒音及び振動の主たる発生源であるエンジンの真上に乗員が乗ることによるもの。そして運転席がエンジンの真上にあることから、キャブオーバーではキャブそのものをボンネットのように持ちあげたり、或いは運転席を跳ね上げて整備口を開かならければならない。これはボンネットを開けるだけでエンジンを広く見渡せるのと比べれば、整備面で不利である。北米で今でもボンネット型が主流なのは、こういった面でボンネット型の方が有利で、また国土が広大で全長方向の制限が緩い為。

キャブオーバーの短所は一般論であり、全てのキャブオーバー車がボンネット車に上記四点で必ず劣るとは限らない。各メーカーは車体細部の形状、エンジン、トランスミッション、キャブ構造などを改善し続けており、燃費や快適性、整備性を向上させている。

各地の傾向

北米

現代においては殆ど唯一の、ボンネット型が主流・キャブオーバーが亜流の地域である。理由は先述の通り、ボンネット型のデメリットを無視できる国土があることから。ケンワースフレイトライナーピータービルトマックパッカーなど、北米メーカーの主力は全てボンネット型であり、特に長距離輸送に用いるセミトラクタは全てがボンネット型。かつてはキャブオーバー型の長距離トラクタもあったのだが、現在ではどのメーカーも北米では販売していない。現在アメリカで売られているキャブオーバーの多くが、配送用の中型以下のトラックか、特装車のベース車両である。

別の言い方をすると、ボンネット型で無ければ北米での販売は極限られたものになるということ。実際、世界トップクラスの販売を誇るメルセデス・ベンツのトラックも北米では販売されておらず、ダイムラーはフレイトライナーやウェスタンスターを傘下におさめることで対応している。ボルボは北米向けにボルボブランドのボンネット型トラックを販売しているが、これは欧州メーカーとしては数少ない事例である。

ヨーロッパ

現代においては中型~大型トラックは、ほぼ全てがキャブオーバー車である。メルセデス・ベンツゼトロスといった一部の特殊なトラックがボンネット型を採用しているものの、軍用や特装車分野においても大方のメーカーはキャブオーバー車を製造している。一方でバンとコンポーネンツを共有する普通・小型トラックにおいては、メルセデス・ベンツ・スプリンタールノー・マスターといったボンネットトラックも多い。欧州で販売されているキャブオーバーの普通・小型トラックとしては、三菱ふそう・キャンターなどがそれにあたる。

スカニアはかつて「Tシリーズ」と呼ばれるボンネット型大型トラックをヨーロッパでも販売していた。これはヨーロッパで売られる数少ないボンネット型であったが2005年に生産を終了し[1]、現在の同社販売車種は全てキャブオーバーになっている。

オセアニア

キャブオーバーとボンネット型、両方のタイプのトラックが使用されている。低い人口密度と言う点は北米と似ているもののボンネット型に偏っているわけではなく、キャブオーバーも多用されている。 アメリカではボンネット型を販売しているボルボだが、オセアニアではキャブオーバーのみを販売[2]。またフレイトライナーはArgosyというキャブオーバー車を販売しているが、これは北米では販売終了になったモデルである。

ロシア・ウクライナ

ロシアウクライナなどの旧ソビエト連邦領の各国は、国土が大変広く人口密度が低いという点が北米と類似しており、また第二次世界大戦前の自動車産業の黎明期にアメリカ自動車メーカーからの技術導入があり、大戦中はレンドリースによりアメリカ製トラックの導入が盛んで、その車両設計が後の自国生産車両の参考にされてアメリカの影響を色濃く受けた歴史があり、伝統的にボンネット型が大多数であった。1970年代からはキャブオーバー型のみを生産するKAMAZなどのメーカーも出現し、現在ではウラル自動車工場AvtoKrAZなどのメーカーでボンネット型とキャブオーバー型が併売される、あるいは同一シャシー・性能機能のトラックにおいてボンネット型キャビンを搭載するかキャブオーバー型キャビンを搭載するか選択可能であったりする[3]。一方で、GAZGAZ-52(ロシア語)やGAZ-3307(英語)のように中型トラックでもボンネット型のみが販売されている例もある。

キャブオーバー型の例(日本の小型車)

トヨタ・ハイエースバン
ダイハツ・ハイゼットトラック

軽トラ・軽バン

4ナンバートラック、ライトバン、ミニバン

路線バスでの採用

バスにキャブオーバーレイアウトを採用した場合、同一全長のボンネットバスに比較して客室面積を大きく取れることから、日本では1950年代頃から採用例が増え、ボンネット型バスと並行して使用された。その後、日本のバスは、よりスペース利用効率に優れ、ワンマン化に対応した前扉配置をとりやすいリアエンジンレイアウトが主流となり、キャブオーバーレイアウトのバスは、小型車を除き特種用途車などに残るのみとなっている。

タイの首都バンコク路線バスを運行するバンコク大量輸送公社BMTA)では、ワンマン化が進んでいないこともあり、多数のキャブオーバー型バスを保有・運行している。一部には冷房つきの車両も存在する。

脚注

  1. ^ Scania's T-model says goodbye (extended version)
  2. ^ VOLVO TRUCKS Australia
  3. ^ ウラル自動車工場公式サイトAvtoKrAZ公式サイト

関連項目