Winny事件
最高裁判所判例 | |
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事件名 | 著作権法違反幇助被告事件 |
事件番号 | 平成21(あ)1900 |
2011年(平成23年)12月19日 | |
判例集 | 刑集 第65巻9号1380頁 |
裁判要旨 | |
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第三小法廷 | |
裁判長 | 岡部喜代子 |
意見 | |
多数意見 |
岡部喜代子 那須弘平 田原睦夫 寺田逸郎 |
意見 | あり |
反対意見 | 大谷剛彦 |
参照法条 | |
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Winny事件(ウィニーじけん)とは、ファイル共有ソフト「Winny」に絡む著作権法違反(公衆送信権の侵害)を問われたものの、無罪となった冤罪事件である。利用者だけではなく、アプリケーションソフトウェア開発者も、逮捕・起訴されたことで、情報産業従事者以外からも注目された裁判となった。
概要
Winnyの開発
Winnyは、元東京大学大学院情報理工学系研究科助手の金子勇によって、2002年に開発が始まった。金子は、電子掲示板2ちゃんねるのダウンロードソフト板に匿名で書き込みを行い、ユーザーとやりとりしながら開発を進めた。2002年5月6日にベータ版が公開。以後、金子が著作権侵害行為幇助の疑いで京都府警察に逮捕されるまで、Winnyの開発が続いた(ソフトウェアの詳細については、Winnyを参照のこと)。
Winny利用者の逮捕
2003年11月27日、著作権法違反(公衆送信権の侵害)容疑で、Winnyの利用者としては初めて、京都府警察ハイテク犯罪対策室によって、愛媛県松山市の無職少年Aと群馬県高崎市の自営業男性Bの2人を、著作権法違反(公衆送信権の侵害)の容疑で逮捕した。
松山市の無職少年は、2003年9月11日から翌日にかけて、ゲームボーイアドバンス用ソフトの「スーパーマリオアドバンス」など26本のデータを、インターネット上に公開して、不特定多数がダウンロードできる状態にした容疑、群馬県高崎市の自営業男性は、映画2本(「ビューティフル・マインド」「アンブレイカブル」)の映像をサーバに公開して、不特定多数がダウンロードできる状態にした容疑が、それぞれにかけられていた。
2004年3月5日に、松山市の無職少年Aに、懲役1年執行猶予3年の有罪判決、2004年11月30日に、高崎市の自営業男性Bに、懲役1年執行猶予3年の有罪判決が、それぞれ言い渡された。
ソフトウェア制作者の逮捕
2004年5月9日、ソフトウェア開発・配布者の金子勇も、この事件の著作権侵害行為を幇助した共犯の容疑を問われ、京都府警察に逮捕された。この時、自宅と東京大学の研究室が、警察の家宅捜索を受け、証拠品として、アプリ開発に使用されたノートパソコン・Winnyのソースコードが押収されている。
著作権侵害行為幇助の疑いに関わる裁判では、アプリケーションソフトウェアの公開・提供行為の方法が罪に問われており、アプリ技術開発の是非については、はっきり言及されていないが、これは「裁判所が判断を避けた」のではなく、どんな技術を開発しようとも、それを自分の頭に秘めておく限り、思想・良心の自由の範疇に含まれるので、技術開発の是非というものは、そもそも論じる必要がないからである[要出典]。
法律の解釈論
技術を何かに使用した時点で、使用法が問われるのであるから、法律論では、Winny開発・配布者が有罪になった件は、技術開発には全く影響を与えないという考え方がある一方、コンピュータ専門誌のITProは「このような判決が出されたら,今後P2Pソフトの開発はできなくなってしまう」という意見もあり[1]、社会的な影響は、単に情報技術の使用法のみならず、あらゆる技術の開発・使用そのものにも及んでいる。
法的な問題の議論では、
- 技術そのもの
- 技術を適用して配布・公開する行為
- どのような意図・方法で配布・公開するか
をはっきり区別しなければならない。
多くの法律家[誰?]は 3.を問題にしているが、金子の弁護団の事務局長である弁護士の壇俊光は「誰かが、不特定多数の人が悪いことをするかもしれないとを知っていて、技術を提供した者は幇助なんだということを、裁判所が真っ向から認めてしまった。これは絶対変えなければならない。高速道路でみんなが速度違反をしていることを知っていたら、国土交通省の大臣は捕まるのか」とのコメントを出しており[2]、法律家の間でもこの件で統一的な見解がなかった。
日本国外では、2001年にアメリカの裁判所がNapster, Inc.の活動を「著作権侵害に加担している」とした民事裁判があった[3]。一方で、ソフトウェア開発者やサービス提供企業の著作権侵害責任を問うことはできないとする判決も、2003年以降、欧米で多数出ていた[3]。
京都府警側は、逮捕の理由はソフトウェアの開発行為を理由としたものではなく、著作権違反を蔓延させようとした行為にあるとしているが、多くのメディアでは、アプリケーションソフトウェアを開発すること自体について、刑事事件として違法性が問われたものと認識され、日本では『非常にまれなケースである』と報じられた。
制作者逮捕の余波
Winny事件の立件にあたって、京都地方検察庁はファイル交換用P2Pソフトウェアの開発自体を、違法行為としているのか判断の明示を避けているが、この一件は、日本国内でのPeer to Peer(P2P)ソフトウェア開発・配布者の開発行為を萎縮させると懸念されると、2004年に開かれた初公判の中で金子は述べており、これに賛同するソフトウェア開発・配布者[誰?]も少なくない。
日本製とされるファイル交換用のP2Pソフトウェアで、主に同様の目的で使われる種類のものとしては、「LimeWire」「Share」「AsagumoWeb」「Ansem」「Speranza」「BitTorrent」「Cabos」、そして「Perfect Dark」などが存在している。
この中で、アプリケーションソフトウェアの開発・配布行為に責任を問われた事例は、Winny以外で存在しない。P2P技術と、違法なファイルの交換を容易にする技術は、全く別のものであり、P2P技術自体は、Skype や Bitcoin や ブロックチェーン のような利用も可能である。
金子が幇助に問われているのは、違法なファイルデータの交換を容易にする技術を実装したことと、そのコンピュータソフトウェアの配布の態様にある[4]。違法なファイルの交換を容易にできないように、中立的なソフトウェアの実装方式・配布方法であれば、現状では問題ないと解される。また日本の法律では、技術そのものが違法という考え方は成立しない。
さらに、開発・配布者の逮捕に伴って、Winny の使用法を解説したウェブサイト「WinnyTips」の制作者も、自宅を家宅捜索され、Winny解説ウェブサイトは閉鎖された。
この件については、間接的にではあるが、事件そのものとは関わり合いのない、個人のウェブサイトを閉鎖に追いやったことから「警察による表現の自由の侵害ではないか」という声も挙がった[5]。
金子の逮捕には国内外の多くの技術者やIT系経営者から疑問を投げかけられたほか、近未来のインターネット上での主流となりうるP2P技術やブロックチェーン技術が完全に日本主導から絶たれてしまったため、その莫大な損失を危惧する声もある[6]。現に2022年現在、仮想通貨やNFT、SNS等の新たなインターネットビジネスにおいて、日本は世界的なツールを全く生み出せないまま完全に蚊帳の外に置かれている状況である。
刑事裁判
裁判の経過
2004年5月31日、Winnyの開発・配布者である金子は、京都地方検察庁によって京都地方裁判所に起訴された。起訴するにあたっては、正犯である2人(愛媛県松山市の少年A・群馬県高崎市の男性B)の著作権侵害行為への幇助行為が、起訴事実として挙げられた。
また、京都府警察の事情聴取に対して、金子が「インターネットが普及した現在、デジタルコンテンツが違法にやり取りされるのは仕方ない。新たなビジネススタイルを模索せず、警察の取り締まりで、現体制を維持させているのはおかしい」などと供述していたことから、京都地検はコンピュータプログラム自体の違法性などの是非には言及せず、そのアプリケーションソフトウェアを作成・配布した金子の行為に幇助の故意を認め、雑誌などにより違法に使われている実態が既に明らかになった後も開発を続けていたことから、悪質であると断じた。これらの起訴事実について、金子は正犯A,B との面識がないことなどを挙げて全面否認し、以後、検察側と弁護側が全面的に争うこととなる。
2004年6月1日に保釈され、2006年7月3日に検察側は論告求刑において、金子に対して懲役1年を求刑した。第1審は、2006年9月の弁護側最終弁論で結審した。
控訴へ
2006年12月13日、京都地方裁判所(氷室眞裁判長)は、著作権法違反の幇助により、罰金150万円の有罪判決を言い渡した[7]。 京都地方検察庁の新倉明次席検事は「罰金刑は想定外で、非常に軽い」と不満を表し[8]、同日、検察・被告双方が、判決を不服として、大阪高等裁判所に控訴した。
2009年10月8日、大阪高等裁判所は、一審の京都地裁判決を破棄し、金子に無罪を言い渡した。小倉正三裁判長は「悪用される可能性を認識しているだけでは、幇助罪には足りず、専ら著作権侵害に使わせるよう提供したとは認められない」と、無罪の判決理由を述べた。
2009年10月21日、大阪高等検察庁は判決を不服として、最高裁判所に上告した。
無罪確定
2011年(平成23年)12月19日、最高裁判所第三小法廷(岡部喜代子裁判長)は、最高検察庁の請求を棄却し、無罪の確定判決[9]。最高裁は適法にも違法にも利用できるWinnyを中立価値のソフトだとし、「入手者のうち例外的といえない範囲の人が、著作権侵害に使う可能性を認容して、提供した場合に限って幇助に当たる」との判断を下した。判決は4対1の多数決で、大谷剛彦裁判官は「幇助犯が成立する」との反対意見を述べた。
裁判を巡る出来事
件のWinny刑事裁判において、金子側の弁護団事務局長である弁護士の壇俊光は、京都地方裁判所での裁判中、NHK京都放送局の記者が、金子勇に対して手紙を郵送した事に対して「あからさまな弁護妨害」を行ったと、自身のブログで表明した[10]。これに対して、日本放送協会から謝罪がなされた[11]。
裁判後
金子による最後のバージョンは逮捕前に公開された「Winny 2.0 Beta7.1」だが、第三者によるクラック版が開発・配布されている。金子は無罪が確定後も、Winnyの開発に戻ることはなく、2013年に急性心筋梗塞にて死去。Winnyの開発は、完全に終了した。
ユーザー数の減少
Winnyは2018年現在でも利用されているが、ユーザー数を示すノード数は減少し続けており、2006年には50万ノードあったノード数が、2015年の段階で約51000ノードとなっている。P2Pソフトとしてのシェアは、依然トップではあるものの、2位のPerfect Darkもほぼ約50000ノード、Shareは約35000ノードとなっている。
ファイル共有ソフト自体のユーザー数の減少と同時に、torrent系のファイルダウンロードソフトの利用や、漫画村などのウェブサイト上での視聴・ダウンロードなどに利用者が移っていることが伺える。後者については、パソコンを利用しないスマートフォン世代が、違法ダウンロードを行っている若い世代で多くなっていることも理由に挙げられる。
また、Kindleなどの「電子書籍サービス」や、NETFLIXなどの「動画の定額配信サービス」、Apple Musicなどの「音楽の定額配信サービス」の普及に伴い、正規に料金を支払ってサービスを受けるようになったユーザーも増加しており、ファイル共有ソフトのユーザー数減少の一因となっている。
関連作品
脚注
- ^ 神近 博三 (2007年5月22日). “Winny事件判決で考える内面の問題”. ITPro (日経BP) 2016年11月17日閲覧。
- ^ 三柳英樹 (2006年12月13日). “「Winny」開発者の金子勇氏が会見、本日中に控訴へ”. INTERNET Watch 2016年11月17日閲覧。
- ^ a b 『時事ニュースワード2005』時事通信出版社、2005年2月10日、182-183頁。ISBN 4788705508。
- ^ 判例タイムズ1229号(2007年3月15日号)
- ^ “Winnyは“有罪”か?”. ITmediaニュース. (2004年5月17日)
- ^ 『WHY BLOCKCHAIN なぜ、ブロックチェーンなのか?』翔泳社。
- ^ “「Winny」開発者の金子勇氏に罰金150万円の有罪判決”. INTERNET Watch. (2006年12月13日)
- ^ 「ウィニー開発者が控訴 著作権違反幇助事件 - 関西」asahi.com: 2006年12月13日
- ^ “ウィニー開発者無罪確定へ…最高裁が上告棄却”. YOMIURI ONLINE (読売新聞社). (2011年12月20日). オリジナルの2012年1月3日時点におけるアーカイブ。 2011年12月20日閲覧。
- ^ 壇俊光 (2009年10月6日). “ブログとメディアと”. 2014年6月23日閲覧。
- ^ “「無罪主張悪あがき」NHK記者、ウィニー開発者に”. YOMIURI ONLINE (読売新聞社). (2009年10月9日). オリジナルの2009年10月12日時点におけるアーカイブ。
外部リンク
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最高裁判例
製作者ら逮捕
- 金子勇氏を支援する会 - ウェイバックマシン(2009年2月2日アーカイブ分)
- ■winnyの開発者の47氏が逮捕されましたの巻■(私的2chメルマガ倉庫・2004年(2003/05/01~) - ウェイバックマシン(2004年6月19日アーカイブ分)
- INTERNET Watch
- 本誌記事にみる「Winny」開発者逮捕へ至る経緯
- 本誌記事に見る「Winny」開発者の有罪判決へ至る経緯
- 2004年
- 京都府警がWinnyに叩きつけた挑戦状 - 1月7日
- 本誌記事にみる「Winny」開発者逮捕へ至る経緯 - 5月18日
- 捜査書類「サルベージ」に執念を燃やす京都府警 - 7月7日
- Winny開発者の真意が見えない「世紀の裁判」 - 9月10日
- 2006年
- 2004年
- Topics:Winny事件の衝撃 ITmediaニュース
- Winny作者逮捕から日本のプログラマについて考える ITPro 2004年5月18日
- Japan police arrest two P2P users (ZDNet Asia)(2005年3月15日時点のアーカイブ)(英語)
- Prof held 'for developing P2P software' Sydney Morning Herald 2004年5月10日(英語)
- Japanese police arrests developers of file sharing software Heise online 2004年10月5日(ドイツ語)