情婦

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』

情婦(じょうふ、原題:Witness for the Prosecution)は1957年製作のアメリカ映画アガサ・クリスティ戯曲検察側の証人』を原作とする法廷ミステリー。脚本・監督ビリー・ワイルダー。ラストの二重のどんでん返しでも知られる、ミステリー映画史上屈指の偉大な傑作。


注意以降の記述で物語・作品に関する核心部分が明かされています。


目次

[編集] ストーリー

1952年イギリスロンドン。法曹界の重鎮としてその名を知られる老弁護士ウィルフリッド卿は、生死を彷徨う重病の床から、口うるさい付き添い看護婦ミス・プリムソル随行で退院を果たした。ウィルフリッドは事務所に落ち着く間もなく、事務弁護士メイヒューに連れられた未亡人殺しの容疑者レナード・ヴォールの弁護依頼を受ける。アリバイの証明者は夫人しかおらず、状況は極めて不利。まもなく彼らの元を警察が訪れ、レナードは殺人容疑で逮捕されてしまう。

善後策を協議するウィルフリッドらの前に、レナード夫人のクリスチーネが現れる。しかし彼女の態度は夫を信じていないかの如き不審なもので、しかも母国ドイツに正式な夫がおり、レナードとは正式な夫婦ではないと言う。クリスチーネが弁護側の証人として頼りにならないと判断したウィルフリッドは、体調を心配する周囲を振り切って弁護を引き受け、夫人の証言なしで公判に挑む決意をする。

裁判は開廷された。検事と弁護人との攻防は一進一退、検察側が繰り出す堅固に思える証言も、老獪なウィルフリッドに突き崩され決定打とはならなかった。評決を翌日に控えた日、クリスチーネが検察側の証人として出廷してきた。彼女は夫のアリバイを否定、偽証を依頼されたとする証言をし、レナードの有罪は確定的となる。クリスチーネの証言が嘘である事を確信するウィルフリッドだが、さすがも名弁護士も夫人の真意を計りかね、反駁の方法を見出せなかった。

事務所に戻って苦慮するウィルフリッドに謎の中年女性から1本の電話がかかってきた。彼女はクリスチーネの秘密を知っているという。ウィルフリッドとメイヒューは待ち合わせ場所に指定された駅の酒場でその女性と面会し、クリスチーネが恋人に宛てた手紙を入手する。彼女は夫レナードに殺人の罪を着せ、恋人と結婚しようとしていたのだ。この手紙が決め手となり公判は大逆転、レナードは無罪となり、クリスチーネは偽証の罪に問われる事となった。弁護士として見事勝利を手にしたウィルフリッドだが、あまりにでき過ぎた展開に合点がいかない。そのウィルフリッドに対してクリスチーネが驚くべき告白をはじめるのであった・・・

[編集] 概要

物語の内容にそぐわない『情婦』との生めかしい邦題が紛らわしいが、本作の原題は『検察側の証人(Witness for the Prosecution)』。ミステリーの女王アガサ・クリスティが自らの短編小説を戯曲化した同名作品を、巨匠ビリー・ワイルダーが映画化した法廷ミステリーである。

キャストにはハリウッドの大スターや名優達が名を連ねている。ハリウッド・キングと称された二枚目スター、タイロン・パワーが未亡人殺しの容疑者役、20世紀を代表する女優・エンターティナーであるマレーネ・ディートリッヒがその年上のドイツ人妻に配役された。2人のスターはそれまでにない役柄を好演した。

実質的な主人公である病み上がりの老弁護士には、個性派俳優チャールズ・ロートンが扮した。その口うるさい付き添い看護婦役に配されたのは、実生活のロートン夫人であるエルザ・ランチェスター。二人のコンビネーションは絶妙で、ロートンがアカデミー賞主演男優賞、ランチェスターが助演女優賞にそれぞれノミネートされた。ともにアカデミー賞は逃したが、ランチェスターはゴールデングローブ賞助演女優賞を受賞した。

精緻な脚本・演出とテンポ良い展開、俳優達の名演により、抜群の面白さを持つミステリー映画史上屈指の傑作として高い評価が定着している。ラストに二重のどんでん返しがあり、物語終了後に「この映画の結末を未見の人に話さないでください。」という旨のナレーションが流れる事でも知られている。

[編集] 備考

二枚目スター、タイロン・パワーは時に演技力不足を指摘される事もあったが、本作では演技派として新境地を開いたとの評価を受けた。しかし、次作の撮影中に心臓発作で急死。本作がまさかの遺作となってしまった。

マレーネ・ディートリッヒは女優のみならず大歌手としても高名であり、また100万ドルの保険をかけたとされる脚線美でも知られている。しかし法廷ミステリーである本作では、本来歌と脚線美の見せ場はなくて当然だが、レナードの回想シーンの中で、戦後間もない占領下のドイツの酒場を舞台に歌唱し、56歳にしての脚線美も披露している。

チャールズ・ロートンとエルザ・ランチェスター夫妻はイギリス時代から多くの共演作があるが、ロートンが1962年に死去するため、本作が最後の共演映画となった。酒と葉巻好きで不摂生、毒舌家だが、弁護に夢中になると脇目を振らず万進する使命感の強い老弁護士と、口うるさくプライドが高いが、こちらも使命感の強い付き添い看護婦との機知に富んだやりとりの面白さは抜群で、夫婦揃ってアカデミー賞にノミネート。集大成に相応しい共演となった。

[編集] キャスト