上部消化管内視鏡

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』
移動: 案内検索

上部消化管内視鏡(じょうぶしょうかかんないしきょう)とは、一般に消化器科にて用いられる内視鏡もしくは検査・治療手技のこと。食道十二指腸までの上部消化管を観察する。英語では機器は Esophagogastroduodenoscope、手技はEsophagogastroduodenoscopyと異なるが、日本語では同じ語句を用いることが一般的である。

胃カメラ(Gastoroscopy)とも呼ばれている。

日本での略称は現在はEGD(Esophagogastroduodenoscopy)である。かつてはGIF(Gastrointestinalfiberscopy)であった。

歴史[編集]

1967年: 光ファイバーを用いた軟性内視鏡が開発。
2000年: 粘膜面をズームアップできる拡大内視鏡の開発。
2002年: 画像強調内視鏡(旧称:分光内視鏡)の開発。

種類[編集]

ファイバー内視鏡
日本においては、以前は光ファイバースコープが主として用いられていたが、画質・機能・弯曲性能が電子スコープに劣るため、次第に市場から消えつつある。海外では依然用いられている。
電子スコープ内視鏡
CCDを先端にとりつけた内視鏡。現在、日本では主としてこれらが用いられている。

ファイバー内視鏡と電子スコープ内視鏡は、さらに経口内視鏡、経鼻内視鏡に分類される。

経口内視鏡
  • 直視鏡:一般の内視鏡。内視鏡の進行方向、長軸にそって見えるようにCCDが据え付けられている。
  • 斜視鏡:直視鏡先端の構造を斜めに据えつけたもの。直視と側視の中間。
  • 側視鏡:内視鏡の側面にCCDなどを据えつけたもの。主にERCPに用いられる。粘膜面が直視鏡では捉えられず、検査・処置が困難な際にも有用である。
経鼻内視鏡
鼻孔から挿入する内視鏡(後述)。電子スコープでかつ直視鏡のみが各社から製品化されている。
カプセル内視鏡(開発中)
欧州・米国など海外では小腸のみならず食道および大腸内視鏡が認可されている。(ギブン・イメージング社製大腸用PillCam COLON2、食道用PillCam ESO2)日本では小腸内視鏡が製品化されている。しかし、胃は食道や小腸と異なり、管腔を拡張させないと粘膜面が撮影できないため、まだ開発段階にある。
仮想内視鏡
正確には内視鏡検査ではないが、CTを用いて管腔を3次元再構成し、粘膜面の凹凸の評価を行う検査。胃透視(バリウムによる二重造影)と同様に病変の位置と大きさの正確な評価ができる。同時にリンパ節の病変や、腫瘍の大きさによっては粘膜下の病状も推測できる。仮想内視鏡は気管支副鼻腔大腸でも行われる。

前処置[編集]

検査前日の夕食後は絶食となる。

検査前の絶食 (ラテン語: NPO; nil per os)
食では10時間以上、パン食では6時間以上の絶食が求められる。米とパンの時間差は、消化の差である。一般に21時以降は飲水以外は不可となる。固形物以外は良いと誤解する患者もいるが、ヨーグルトコーヒージュースお茶なども不可であり、飲水のみが可能である。

胃内の気泡除去のため、バリトゲン消泡液やガスコン・ドロップ、バルギン消泡液などの医療用シリコーンを服用する。
また胃内粘液の影響を軽減するため、プロナーゼMSやガスチームなどの蛋白分解酵素を服用することもある。
有線式の内視鏡の挿入には苦痛が伴うため、欧米では、基本的に鎮静剤を使用する(多くはミダゾラム[要出典]。日本ではかつて、鎮静剤を使用すると回復に時間がかかるという理由もあり、鎮静剤を使用しない施設が多かったが、近年は、苦痛軽減のために鎮静剤を積極的に使用する施設が増えている。日本ではオピスタン、セルシンなどが主流であったが、ドルミカムを用いる施設も増えつつある(日本ではセルシン、ドルミカムのこの目的での使用は保険適用外)。ミダゾラムは0.07 mg/体重kg当り(最大 4mgまで)とする施設が多い。欧米ではより安全なプレセデックスが用いられることもある[1]
また消化管が蠕動すると、観察・記録・処置が困難であるため、禁忌がなければブスコパンやチアトンなどの抗コリン剤注射を投与する。緑内障排尿障害不整脈などのため抗コリン剤禁忌である場合は、グルカゴン注射を用いる。グルカゴンは高血糖を助長するが、糖尿病においても必ずしも禁忌ではない。

方法[編集]

有線式のものは、口もしくは鼻腔から挿入して、咽頭喉頭食道十二指腸を観察する。十二指腸上行脚/横行部・小腸へは直線的な先進が困難なため、ダブルバルーン内視鏡が開発された(販売:(現)富士フイルムメディカル、(旧)フジノン東芝ESシステム)。 口側から挿入することと、肛門側から挿入することにより全小腸の画像診断が可能とされている。

カプセル内視鏡は海外で先行して開発され、日本でも小腸カプセル内視鏡が保険適応である。食道カプセル内視鏡は海外で実用化されたが、胃についてはまだ開発段階にある。

内視鏡の把持
患者は一般的に口腔・鼻腔を医師に向け、左側臥位となる。医師は内視鏡をアングルを含む操作部を左手に把持し、CCD,チャンネルを含むスコープ先端を右手に把持する。左手はでアングルを縦に把持し、アーレンキーのようにスコープを回転できるようにする。(アングルを水平に把持するとアングルとスコープの連結部が曲がるばかりで、アーレンキーのようにスコープ先端側が回転しない。)内視鏡の滑りをよくするため、スコープ側面には潤滑材を塗布する。従来はキシロカインゼリーを用いることが多かったが、リドカイン過量投与やリドカインショックを回避するため、現在は薬物を含まなない潤滑材を用いることが増えている。(例:スループロゼリー、エンドルブリ、カインゼロなど)
詳細は下記リンク(ブログ)参照のこと。

観察時に特殊な色素や化合物を粘膜に散布することにより、より病変の視認性を良好にすることが可能である[2]インジゴカルミン液、ルゴール液酢酸、酢酸-インジゴカルミン混合液 (Acetic acid-Indigocarmine Mixture:AIM)[3]、コンゴーレッドなどはその代表である。(色素内視鏡、chromoendoscopy)

詳細にはルゴールやコンゴーレッドは染色法、酢酸は分泌能をみるものであり、インジゴカルミンはコントラスト法と分類される[4]

色素噴霧した時には、ヒダの集中・途絶・太まり・細まり、粘膜の台状挙上などは悪性病変を示唆することが多いので注意して記録、生検を行う。

高次医療機関や内視鏡専門施設では、拡大内視鏡や分光画像内視鏡を備えている施設もある。

  • 拡大内視鏡[5]: 血管の走行や形態、胃小窩の形態や密度から良性・悪性を判別する。
  • 画像強調内視鏡(旧称:分光画像内視鏡): 癌細胞や炎症細胞と正常細胞の反射光の違いを、分光技術などを用いてより明瞭にする。正常粘膜と病変部のコントラストの違いが判りやすくなる。また血管走行も明瞭になる。
    オリンパス: Narrow band imaging(NBI)= ヘモグロビンを強調するよう照射光を調整したもの。(狭帯域光観察)
    富士フイルムメディカル: Flexible spectrum imaging color enhance(FICE)= 白色光をあて、反射光のうちの任意波長を強調・処理した画像。RGBの各信号に対して、任意の波長を強調に割り当てることができる。
    ホヤーペンタックス: i-SCAN
日本では2010年4月より拡大内視鏡と分光画像内視鏡の併用により、より正確な診断が可能とされ、加算が算定可能となった。

内視鏡は観察のみにとどまらず、標本の採取(生検:組織学的診断のために重要である。またヘリコバクター・ピロリの培養にも用いられる)や治療・手術にも用いられる。例えばポリープ・悪性腫瘍などの粘膜病変に対し、内視鏡を用いて切除する処置(ポリペクトミー, 内視鏡的粘膜切除術;EMR, 内視鏡的粘膜下層剥離術;ESD)が行われる。上部消化管潰瘍・出血に対してはクリッピング・焼灼・エタノール注入・トロンビン散布・硬化療法などが施行される。内視鏡を用いた胆道膵臓の検査・治療も行われる(ERCP・ERBD・ESTなど)。また胃瘻造設術にも用いられる(PEG; percutaneous endoscopic gastristomy)。先進的医療としては内視鏡的消化管全層切除術(EFTR; endoscopic full-thickness resection), 自然開口部越経管腔的内視鏡手術(NOTES; Natural Orifice Translumenal Endoscopic Surgery)がある[6]

AIMの組成

1.5%酢酸 30mL, 蒸留水 30mL, インジゴカルミン原液 20mL を混和し総計 80mL として使用する[7]

経鼻内視鏡[編集]

日本で2000年に極細径(太さ6mm以下)の内視鏡が開発され、従来の経口内視鏡に代わる経鼻内視鏡が登場した。CCDの高解像度化により、経口内視鏡と同等の上部消化管検査が可能となっている。経口内視鏡に比べ嘔吐感や息苦しさなどの苦痛が少なく、検査中に会話することも可能なため、患者側には好評である。デメリットとしては、個人差による経鼻挿入困難、大きな生検採取やポリープ切除が不可、まれに鼻出血が発生することなどが挙げられる。

  • 絶対適応
    • 下顎脱臼を起こす(いわゆる顎が外れる)ため経口内視鏡ができない症例
    • 開口不能な症例(神経疾患患者など)
    • 通常径内視鏡では通過不能な狭窄病変のある患者
    • 通常径内視鏡では反転しての観察が困難な病変(経鼻内視鏡は反転に際しての屈曲半径が小さい)

通常の生検鉗子では、鉗子の硬さに内視鏡が負け、反転操作が難しくなることがあった。このため経鼻内視鏡を施行したのちに、再度通常径内視鏡での再検査が必要となることも指摘されてきた。現在では住友ベークライトの開発したSB生検鉗子では反転操作が十分に可能となっている。

検査対象となる症状[編集]

  • 食べ物が胸につかえる(食道通過障害の疑い)
  • 少しの食事で満腹になり、食事を受け付けない(胃の拡張障害の疑い、スキルスに多い)
  • 胃液が口や胸にあがってくる、胸焼けがする
  • みぞおちの痛み(=心窩部痛)
  • 吐き気・嘔吐
  • 吐血下血


内視鏡像[編集]

食道の内視鏡像[編集]

下咽頭

下咽頭後壁に沿って食道入口部があり、その左右は梨状陥凹が認められる。

気管分岐部

気管分岐部付近には大動脈弓、左主気管支が位置しており、生理的に狭窄している。

食道胃接合部(EGJ)

縦走する柵状血管の下橋が食道胃接合部である。逆流防止機構があり胃の内容物が逆流するのを防いでいる。

胃十二指腸の内視鏡像[編集]

胃底部

噴門部を観察すると、見上げた状態になるのでスコープが見える。

胃体部

胃体部は皺壁が特徴的である。

胃角部

胃角部も見上げた状態となりスコープが見える。

幽門部
十二指腸球部
十二指腸下行部

併用される検査[編集]

狭帯域光観察(Narrow Band Imaging;NBI), 青色レーザー

NBIでは白色光にフィルターを掛け、ヘモグロビンの反射光に当たる帯域に限局した波長の光をつくる。この波長の光による「狭帯域光観察」は粘膜表層の毛細血管や粘膜模様を強調するオリンパスの技術である。
青色レーザーは、同様な波長のレーザー光を用いた富士フィルムメディカルによる技術である。

インジゴカルミン

色素内視鏡検査の一つ。コントラストが明瞭になる。

ルゴール氏液

ルゴール氏液はグリコーゲンと反応し、褐色に食道粘膜表層を染色する。癌病変は染色されず、白色調に見える。

二重染色

食道癌の検査で行われる色素内視鏡検査。食道領域では癌はルゴール(ヨード)で茶褐色に染まらず、トルイジンブルーで青染する。

検査対象となる疾患[編集]

(近年、機器の進歩に伴い咽頭癌,喉頭癌も検査時に発見されることがある。)

合併症[編集]

上部消化管内視鏡にまつわる小説など[編集]

関連書籍[編集]

参考文献[編集]

[ヘルプ]
  1. ^ Can J Gastroenterol. 2007 January; 21(1): 25–29.
  2. ^ http://www.pariet.jp/alimentary/endoscope-19.html
  3. ^ 臨床消化器内科 Vol24 No10, 2009
  4. ^ Tajiri H et al: Proposal for a consensus terminology in encoscopy; Endoscopy 40; 775-778, 2008
  5. ^ http://www.pariet.jp/alimentary/endoscope-20.html
  6. ^ Medical ASAHI; (39)7: 18-19, 2010
  7. ^ 消化器外科 30:1435-44, 2007
  8. ^ http://www.pariet.jp/alimentary/vol54/no556/sp11-01.html

関連項目[編集]

ミダゾラム

外部リンク[編集]